第一回放送 ◆Ok1sMSayUQ
痩せた男が、『箱庭』を見下ろしていた。
どこか幻想郷によく似た『箱庭』は男自身が設計したものである。
その中にはミニチュアの、てのひらに収まりそうなサイズの有象無象があちこちを動き回っている。
それは殺し合いの参加者達の動きを表したものだが、無論本物というわけではない。
あくまでも会場での動きを再現し、映しているだけである。
この仕組みも男が作り上げたものであった。
「流石は永琳か。簡単には倒れてはくれなさそうだ」
主催者の嫌疑をかけられ、参加者連中から目の敵にされている哀れな月人。
どうにか窮地を抜け出せたようだが、果たしてどこまで持つのか、と男は苦笑する。
状況としてはほぼこちらの想定通りだった。目下半数以上の参加者が永琳に対して恨みを抱いている。
これからは更に恨みは広がっていくだろう。そうなれば、いかに賢者たる彼女でも苦戦は免れまい。
ハンデとしては申し分なかった。
――そう、八意永琳は強すぎる。『設定上』でも強くし過ぎてしまった。
八雲紫はまだいい。胡散臭いというキャラ付けをしてある以上信頼は得られにくいし、力は極限まで落とした。
そうでなくとも男の力と紫の力は極端に相性が悪い。勿論、不利なのは紫の方だ。だからこそ力を落とすだけで済んだ。
他にいる不死の連中……そう、蓬莱山輝夜と藤原妹紅は不死の『属性』を取り払った。
それだけで十分。元々実力の上ではそれで他の連中と大差なくなる。
ややこしいことをしているものだ、と男は思う。しかしこうでもしなければ『目的』と『物語』の両方が成り立たない。
それは男の美徳に反するものだった。
であるからこそ、わざわざ八意永琳に扮し、彼女に敵意を向けられるように仕組んだ。
そうしなければ永琳は持ち前の頭脳を生かし、瞬く間に徒党を組んで殺し合いを成り立たなくさせてしまう可能性があった。
そうさせるだけの知能が彼女にはある。これは面白くないし、構図としてもつまらない。
一種の介入のようで美しくなかったが、仕方のないことだった。
偽物だとバレるリスクは極限まで消し去ったつもりだ。現時点で、殆どの参加者が永琳を主催者だと思い込んでいる。
一応難点はあるにはある。それは永琳の声で放送をすることだ。
もしもの話だが永琳とずっと行動を共にしていた場合、彼女が放送しているのではないことが分かってしまう。
とはいえ必要以上に気をつけることでもない。永琳といることはそれだけで敵視されるリスクが伴う。
霧雨魔理沙は異端だったが、それは殺し合いが始まったばかりだからに過ぎない。
時間が過ぎれば永琳への恨みは募り、ますます彼女といることを難しくさせる。
永琳にしたって殺されるかもしれないという疑念がある以上誰かと一緒にい続けるわけにもいかない。
既に彼女は孤独によって包囲されているのだ。
問題はない。必要以上に遊びすぎさえしなければ。
しかし愉しみ、遊ぶこともまた男の美徳に入ることだった。
『物語』は愉しく、美しく、面白おかしく。
このまま優雅に殺しあって欲しいものだ。
そうだろう、と男は一人の人物に目を向けた。
博麗霊夢。
男が愛する幻想郷の、素敵な巫女。
彼女はよく理解している。言葉を加えずとも、殺し合いの意を実によく解してくれている。
ああ、やはり、このままにしておくのは惜しい。
思いながらも、決して手は出すまいと堅く誓っている。それも美徳のひとつだった。
どんなに苦難の道を歩もうとも。はたまたあっけない結末を迎えたのだとしても。
男は全てを受け入れる。
そう、幻想郷は全てを受け入れる。――それはそれは残酷なことなのだ。
男……ZUNは優雅に笑って、『箱庭』へと語りかけた。勿論、八意永琳の声で。
「皆様、ご機嫌いかがでしょうか? 殺し合いの遊戯は楽しんでいらっしゃるでしょうか。
私はとても愉快ですわ。こうして、掌の上で実によく踊ってくださるのですもの。
目の前で見れば、尚更美しい。ええ、残酷で、面白いわ。
文句がおありなら、まずは殺し合いを続けてくださるかしら。
全てが終わった後には遠慮なく受け付けますので。
それでは死んでしまった残念な方々のお名前を発表させてもらいますわ。
以上、14人になります。残りは40名。まだまだ遊戯はこれから。是非楽しんでくださいませ。
禁止エリアですが、9時にD-1、12時にC-6が対象となります。
改めて説明させてもらいますとこの時刻を過ぎた後にエリア……つまり、今言った場所に入ると貴方は死ぬのです。
嘘だと思いますか? でしたら、存分に禁止エリアに侵入してください。すぐにお分かりになると思いますので。
――それでは、御機嫌よう」
【E-2・一日目 午前6時】
【残り40人】
最終更新:2009年09月20日 07:37