光り輝く探知機のトラウマ

光り輝く探知機のトラウマ ◆30RBj585Is




「ハッ・・・ハッ・・・!」
徐々に空が明るくなっていく。つまり、朝が来て太陽が昇り始める時間といえるだろう。
その空の下を、白狼天狗の犬走椛は走っていた。
彼女は深夜に起こった惨劇と長時間にわたって走ったことから、肉体的にも精神的にも疲労している。
しかし、そんなことはお構い無しに時は過ぎていき・・・
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか?殺し合いの遊戯は楽しんで・・・』
1回目の放送が流れ始めた。



『―――それでは、御機嫌よう』

1回目の放送が流れた。それはとても短く単純なものだったが、それでも椛にとっては重く感じ取れた。
この6時間だけで14人も死者がいることに。そして、あの惨劇で犠牲になったであろう、ミスティアの名前も挙げられていたことに。

「・・・行こう。こんなところで立ち止まってはいけない」
とりあえず、放送で呼ばれた者と禁止エリアについてはメモで記録しておいた。
だが、それ以上は考えたくなかった。
まるで、フラッシュバックのようにあのときの惨劇を思い出してしまうから・・・
椛は再び走り出した。



「もう少し、もう少しで、あそこまで・・・」
なお、椛はただ他者との接触を避けるためだけにひたすら走っているわけではない。とある場所へと向かっていたのだ。
その場所とは・・・

「見える・・・妖怪の山がはっきりと見える。もうすぐで着くんだ・・・!」
椛の目にははっきりと妖怪の山が見える。
すなわち、自分と妖怪の山までの距離が縮まってきたということと、そして何より明るくなったことによって視界の範囲が広まってきたということだ。
…そう、彼女の向かう先は妖怪の山だった。

妖怪の山は長年過ごしてきた、巨大な庭園のようなものである。
だから何処に何があるのか、隠れるのに最適な場所はどこか、侵入者を見つける絶好の場所はどこかといったことがよく分かる。
そのため、他者との接触を断ち引き篭もるには絶好の場所と言えるだろう。
更に超広範囲の視界を誇る千里眼もある。視界にさえ入れば遠くからでも参加者を断定できる。
最後に、今、自分が持っている首輪探知機。これにより自分の近くに来る者の動きは全て感知できる。


何もかも、完璧だ。これなら誰であろうと自分を見つけることは出来ない。
少なくとも、椛はそう思っていた。

―――そのときだった。

ガッ!
「うわっ!?」
…ポチャン

湖の付近を走っている途中、椛の足は突然バランスを崩してしまい派手に転んでしまった。
「痛・・・っ!」
椛は痛みをこらえ、よろよろと立ち上がる。こんな時に何をやっているんだと思った。

「・・・?」
だが、何かおかしい。
転ぶ前に足で感じた、何かにつまづいたような衝撃。
少なくとも岩や小石ではない。不自然に軟らかかったような気がしたからだ。
まるで、人を蹴っ飛ばしたような感覚。
「まさか・・・!」
おそるおそる、転んだ場所を見ると・・・
「・・・っ!」
そこには妖怪の死体があった。

死体があるということは、以前にここで殺人があったということである。
いつ起こったのかは分からないが、少なくともここにいるのは精神的によくない。
そのため、すぐにこの場から離れようと思った。
だが・・・

「あ、あれ・・・?無い・・・?首輪探知機が・・・無い!?」
ここで、椛は手元の首輪探知機が無くなっていることに気付いた。
転ぶ前は確かに手で握っていた。ということは、転んだ弾みで落としてしまったということか?
まずい、すぐに捜さないと。
そう思い、きょろきょろと周囲を見渡してみるが、どこにも見当たらなかった。

ふと、湖の水面を見る。
すると、何故か波紋が広がっている部分があるのが分かる。
そういえば・・・転んだ時にポチャンという音も聞いた。何かが湖に落ちた音だと考えると・・・
まさか・・・!
「落としてしまった・・・?」
全てを悟った椛の顔が、真っ青になっていった。




最悪の事態だ。
命綱の一部である首輪探知機を、よりによって湖に落としてしまうなんて。
「ま、まずい・・・。すぐに見つけないと・・・!」
時は一刻を争う。こうしている間に誰かが来るかもしれないのだ。
そう思った椛は、躊躇無く湖に飛び込んだ。

「あ・・・ぐ!」
バシャーンという音と同時に、全身が水に濡れていく感覚がする。なんだか嫌な感じだ。
そして何より、めちゃくちゃ寒い。体温が一気に奪われていくのが分かる。
それもそうだろう。今は冬が終わったばかりの時期で、雪もまだ残っているのだ。だから、湖の水温は冷たいに決まっている。
ただ、それでも諦めるわけにはいかない。今の苦痛よりも、探知機が無い方が辛いと思うからだ。

幸いなことに、この湖はそれほど深くなく、肩辺りまで水に浸かる程度だ。立っている限り溺れることは無い。
それでも潜って手探りで捜すわけにはいかないので、足で水底をかき回し踏んづけていきながら捜していく。
すると、何やら硬いものを踏む感覚がした。
「やった・・・!」
寒さに耐えながら見つけたそれは、とても嬉しいものだった。
体がガチガチに震えながらもそれはもう終わるんだ、と思いながら椛は湖に潜り、踏んづけたモノを掴む。
…が

「・・・ナイフ?何でこんなものがここに・・・」
ハズレだった。
ふざけるな!私が捜しているのはこんなんじゃない!
そう言わんばかりにポイっと力任せに投げつけた。まるでブーメランのように遠くに飛んでいったが、どうでもいい。
それよりも潜ったことでよりいっそう寒くなった。もう、我慢の限界だ。

しかし、幸運の女神は追い詰められたときに輝くものなのか。今度こそ、硬い手ごたえを感じ取った。
最後の力を振り絞り、足元の物を拾い上げる。
「やった・・・。やっと、見つけた・・・」
今度はアタリだった。
チラッと探知機を見る。どうやら、いつもどおりに動いているようだ。
水に浸かっていたはずなのに、壊れていないということである。
(さすが、河童の技術・・・。防水機能は完璧だ)
椛は外の世界のことを知らないためか、機械はすべて河童が作っていると思っているようだ。
この探知機の製作元はどこのものなのか・・・今は分からない。
それはさておき、目的のものは見つかった。もうこんな極寒地獄に用は無い。
目的を果たしたからか、探知機を見つけてから地上に這い上がるまでの間、寒さは吹き飛んだかのように感じなかった。

湖から這い上がり、一息つく椛。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
探し物が見つかって安心したからか、再び寒気が襲ってくる。それに、とても疲れた。
しばらく休んだほうがいいかもしれない。参加者に会わなければそれでいいのだから。
そう思い、改めて探知機を見る。
この探知機には依然、中心に点が一つだけの画面が映るであろう。

…そのはずが

「・・・あっ!て、点が二つ・・・。しかも、近い!?」
自分が探知機を捜している間にこんなことになっているとは・・・
画面に点が二つあるということはどんな状況か。
一つは中心に表示される自分自身だ。そして、もう一つは・・・何者かが一人、近くにいること。
(まさか・・・)
嫌な予感を感じつつ、おそるおそる後ろを振り向くと・・・

「何をしているのかな~、天狗のお姉さん?」

「うわああああああああああ!!?」
背後にいた者と目が合ったと同時に声をかけられた椛は、驚きのあまりに足を崩してしりもちを着いてしまう。
「く、来るな・・・来るなぁ!!」
ずしんとのしかかるような恐怖に見舞われた椛は立つことも出来ず、ずりずりと後ずさりするだけだった。
しかも、目の前にいる猫妖怪は頭部や右目の損傷が酷いにも関わらず、まるで何事も無いかのような顔をしている。誰がどう見ても普通じゃない。
まるでゾンビのようなたたずまいを前に、更に恐怖心が積み重なっていくのが嫌と言うほどに分かる。

「いいなぁ、その恐怖に怯える表情。あたい、こういうのも悪くないと思うんだ」
猫妖怪、火焔猫燐の表情がニヤッとなる。傷ついた今の顔では不気味なものだ。
「い、嫌だ・・・嫌だ・・・!」
椛は泣き顔になりながら必死で命乞いをしようとする。
だが、燐はお構い無しに椛をじーっと見つめる。
椛と燐との距離は10mを軽く越えている。椛は逃げようと思えば逃げられる距離にある。
それでもまだ足が動いてくれない。重すぎる恐怖が足枷のようになっているのだ。
もう、椛の頭には絶体絶命の文字しか思い浮かばない。

そして、燐は口を開いた。手榴弾を手にしながら・・・彼女は言う。

「ねぇ、お姉さんも死体になってみる?」





カランカランと音を鳴らしながら平地を歩く燐。
彼女はリヤカーを押しながら歩いていた。そのリヤカーは夜明けの時に人里で見つけたものである。

リヤカーは荷物を運ぶのに便利なもの。そのため、椛が持っていたスキマ袋2つはそれに乗せていた。
更に、リヤカーには死体も乗せられている。
1人目は、喉の損傷が酷く半開きの目をしている状態で絶命した永江衣玖の死体。
そして2人目は・・・破片が全身に刺さり体の所々が爆風で吹き飛んだ犬走椛の死体。


燐はふと2人の死体を見る。
うん、いつ見ても素晴らしいものだ。
こんなものがこれからも増え続けていく。そう思うと、楽しみで仕方がなかった。
「あ~。死体集めって、楽しいなぁ~」



【C-3 霧の湖周辺 朝・一日目】
【火焔猫燐】
[状態]右目消失、アドレナリン大量分泌による痛覚の麻痺?頭部に小さな切り傷(血液流出) 頬にあざ
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、首輪探知機、リヤカー(死体が3~4人ほど収まる大きさ)、不明支給品(0~5)
[思考・状況]基本方針;死体集め
1.したいあつめはたのしいな~
2.もう誰も信用しない

※椛はM67破片手榴弾の爆発で死亡しました
※リヤカーにはスキマ袋×2と、衣玖と椛の死体が乗せられています
※銀のナイフ1本が霧の湖周辺に落ちています
※首輪探知機は防水機能があります


【犬走椛 死亡】
【残り38人】

57:巧詐不如拙誠 時系列順 59:覚めない魔女の夢
57:巧詐不如拙誠 投下順 59:覚めない魔女の夢
45:運命のダークサイド 火焔猫燐 78:黒猫の行方
31:灰汁の垂れ滓も空目遣い 犬走椛 死亡


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最終更新:2009年07月11日 02:21
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