黒猫の行方

黒猫の行方 ◆BmrsvDTOHo



 ――それでは、御機嫌よう」





比那名居天子の心は喜びで満ち溢れていた。


一つ、早朝自らと同じ不老不死の境遇である少女、藤原妹紅とまみえた事。
自ら死を望み永遠の生を疎ましく思う。
“与えられた”天人には到底理解出来ぬであろうその望みに天子は非常に感興をそそられた。

やろうと思えばいつでも射殺せたであろう、隙など幾らでもあった。
しかし天子は賭けて見ることにしたのだ、その未成熟な人の子の可能性に。

不死である以上、生死に関わる勝負も多く、また修羅場を潜って来た数もそれなりだろう。
恐らく何らかの能力制限は掛かっているだろうが、それでも容易に死なないであろうことは明らかだ。
先刻、激昂に滾る妹紅の気も感じた、案外直ぐにこの願いは叶うかもしれない、と思うと天子は顔を綻ばさずにはいられなかった。



一つ、先程の主催者…八意永琳の読み上げる死亡者リストに八雲紫とその式の名前がなかった事。
あの胡散臭いチャランポランが易々死ぬとは思ってはいなかったがこの状況、万一ということもある。

自分の能力を過信しすぎたあまり……などという事なら話にもならないが。
天人に対し膝を地につかせ、博麗神社の式年遷宮の際の介入、更に起工記念祭、もとい私を虐める祭に自らは来ない……。
天子は完全に紫に対し復讐する機会を逃していた、日々あの汚辱を思い出しては鬱憤が溜まる日々。

だからこそ、この殺し合いが宣言された時内心随喜していた。
手強い相手と戦い楽しむのも確かにこの“お遊戯”の目的だ。
しかしまずは八雲紫を自らの手で倒し心を凪ぐ、それでなければ優勝しても永遠にこの鬱憤が晴らされる機会は失われる。

定時放送で知り得た情報は天子に対し良い影響ばかりを与える物ばかりである。


死亡者の中に見知った竜宮の使い、永江衣玖の名前が読み上げられた時、他者に対し一切の遠慮がない天子の心が揺れ動いた。
が、それもそこまで。哀悼の意や弔辞を述べようとすら考えない。
呆れるほどまでの唯我独尊、厚顔無恥、それが天子の原動力であり、又大きな強みでもあった。

中には花の妖怪や鬼の名前まであった、あれ程の実力者までも殺られているとは。
また楽しみが一つ減ってしまいましたわ、とクスクスと笑う。

この異常な空間に漂う死と血の匂いは天子の日々の欲望と鬱憤を限りなく0に近いレベルまで解消していた。
森も、川も、里も、花も、大地も、全てに潜む悪意が増幅され牙を剥き。
気を抜けば一瞬で食い殺されるような緊張感。
天界でも、先に起こした異変でも決して味わえなかった感触、本物の殺し合い。
死神相手とは質も量も格段に違う、あんなものは児戯に等しくさえ感じさせてくれる。

今の私は手加減する必要がない、なぜなら殺してしまっても非はないから。
自らに枷を科す事なく、全身全霊をかけて戦える快感。
これも又、久しく味わっていないモノだった。
先の異変でも、全力を出していては勢い余って何人も殺してしまっていた事だろう。
そうなれば幻想郷中の敵意がこちらに向けられることは必至。
まあそれもよかったかもしれませんけどね。
だが一瞬でお楽しみが終わってしまうのもつまらない、私はデザートは後に取っておくのです。

次の放送までにいったい私は何人の猛者と会えるだろうか。
先程の式の式など話にならない、反撃さえ仕掛けて来ない者など狩猟対象の動物と同じ、動く的だ。
最もあの式は動いてさえいなかったが、と天子は思い出し含み笑いする。

まあ八雲の式を激情に駆り立てるくらいには使えるだろう、この首は。
目の前に投げてやりでもすれば恐らく憤怒の形相でこちらに飛び掛ってくる事だろう。
息をつく間もない殺し合い、式の式とは違いこちらは私を落胆させる戦いにはならないだろう。

そして八雲紫と遭遇した時に、二人分の式の首を同じように投げてやる。
いつもいつも澄ました顔をして賢者を気取っているあいつも、これには何かしらの反応を見せるでしょう。
それでこそ私の本懐は達成される、天人への数々の無礼、数多の汚辱をたっぷりとお返ししてあげましょう。

朝は更けていく。
太陽の光だけは変わらない様で、夜が必死に隠し通してきた血生臭い戦場を明瞭に曝し出す。
凄惨な殺戮の会場となっている此の地には朝日眩しい朝が来ようと安息の時は訪れない。


止まってばかりもいられない、可能な限り早く八雲紫に会い倒してしまいたい。
鬱憤を晴らしてからの方が他の猛者達との戦いも死力を尽くせるいうものだ。
かと言ってあいつの居る場所に当てがあるわけではない。
何処に居るかは神のみぞが知るといった所だろうか。

結局、目標と成るものは行方知れず。
当ても無く、日照りの強くなり始めた道を唯歩き続けるしかなかった。




――――――――――――


幼い吸血鬼の住む館、紅魔館の正面に位置する湖。
何時もは太陽の眩い日差しを受け照り輝き、深く透き通った湖水は無慈悲に冷たさを印象付ける碧瑠璃色をしており。
沈むモノ全てをその巨大な口で飲み込み、どんな者にでも二度とは戻ってこないと一瞬で理解させるだけの威圧感を備えている。

湖水は二人分の血を吸い、死の匂いを色濃く帯びている。
繚乱と咲き乱れる花々は気味の悪い程の笑顔を訪れる者全てに投げかけ。
騒ぎ立つ湖面は次の犠牲者を今か今かと急かし立てるように波紋を立てる。
花々の香りや湖水のさざめく音は魅力的な香水の様に周囲に散布され続ける。
その内部に無念と血生臭い鉄の匂いを孕んでいるとも知らずに。

そこに自身も亡者の様に亡骸を求め彷徨う燐が吸い寄せられるのは至極当然の事であった。
燐は里を抜け引き寄せられるように湖に向かっていた。
奇妙な話だが方向性の一致とでも言うのだろうか。

視界の確保が多少困難になる朝霧の中、燐はリヤカーを引き、当てもなく歩いていた。

片目は欠損しており濃霧の中を歩く姿は傍から見ればまさに歩く亡者だろう。


「やっぱりなんだかいごこちが良いんだよねぇ~、ここは」


リヤカーには既に燐のコレクションの一部と化した二人分の死体が載っている。
片方は燐が仕留めたモノ。確か白狼天狗という種族であったと記憶している。
残念ながら手持ちに良い獲物がなかったため全身に破片手榴弾の鉄片が深々と刺さり
大小数多くの刺傷を皮膚を切り裂き作り出し溢れ出る血で血達磨となってしまっており。
更に爆発の衝撃であちこちが抉れる様に吹き飛んでしまい、あまり良い状態とはならなかった。

もう一方の死体は湖よりサルベージしたモノ、何者かにより喉を一突きにされており失血死であろう。
体には目立った外傷がなく水中にあったが発見も早かったため至って保存状態は良好。
種族はあたいには解らないが身形は整っており、顔立ちは流麗、スタイルも抜群と来ている。
この世への悔恨も深い、中々お目にかかれない逸品となりそうな死体だ。

そういえば一つ気にかかることといえば。

「あたいのねこぐるまは一体どこにあるのかねぇ……。」

やはり急場調達のリヤカーよりも使い慣れた猫車の方が移動も積載も楽だ。
しかしこの雄大な会場内から探し出すとなると……。そもそも支給品に入っているのかさえ怪しいもの。
リヤカーは及第点であろう、と自身を納得させる。

そういえば破片手榴弾は全て使い切ってしまった、今手元にあるのは天狗のお姉さんが持っていた首輪探知機。
死体候補を探し出してくれるみたいだけど、あたいの手で仕留めるのが一番手っ取り早い。

お二方の持っていたスキマ袋をゴソゴソと探ってみると、使えそうなモノが数点出てきた。

竹を薄く裂き表面を赤漆塗りで仕上げた三つのつづら。
正面には不釣合いな鉄製の錠前が付けられているが、鍵穴に当たるものは見当たらない。
円形に青白く光る灯が妖しく輝いている。
上部には和紙が貼り付けられており力強い筆遣いで逃、闘、東の三文字が書かれている。
逃のつづらは既に開けられている、中を覗くが緩衝材の他に物が入っていた形跡が見られる。
成るほど、ここに首輪探知機が入っていたわけだね、窪みの大きさもだいたいあってるし。

と、つづらの下敷きになる形で紙が挟まっているのを見つけた。
一度読んだのだろう、すでに封は開けられておりしわが出来ている。


  それらつづらが宿す子は、帯に短し襷に長し。
  一つは直に産まれます、あなたの道を選びなさい。
  二つ欲しけりゃ殺しなさい、魂が乳となるでしょう。
  三つ欲しけりゃ待ちなさい、時が母となるでしょう。
               血が父となるでしょう。
  それでも産子は未成熟。


……いったい何のことやら。
さて、残っているつづらは闘と東、あたいに今直ぐ必要なのは闘う力だ。
迷わずに闘のつづらに手をかける、サイズ的には腕が一回りさせれば抱きかかえられるくらいだろうか。
重さを確かめようと持ち上げようとする、がそれなりの力を入れなければならなかった。
足に落としでもすれば骨折、そうでなくとも歩行は困難を極めるだろう。
そうなればこの戦いでは死んだも同然、生きる屍。

カチッという錠前が外れる音と共に蓋はすんなりと開く。

中には武器と言うよりも儀礼用の道具、といった感じの刃物が入っていた。
黒曜石のような鋭さに、白く輝く刀身。
手に持ち幾度か振るってみる、間合いのみを考えると優か不で言えば不に入るだろう。
重量は見た目に反する形でさほど重くはなく、投擲にも使えそうだ。
刃は厚く弧を描いており、まるで夜空に輝く弦月の様な光を発している。
同封されていた収納用であろう皮製のケースを両足につける形にして
その二枚の刃を自分の身と一体化させる。

二段構造となっており上部は取り外せるようになっていた。
何だろうかこれは、巨大な黄銅色の鉄球とでもいえばいいだろうか。
持ち手としては鎖が付けられている、酷い作りだ……。
こちらは持つとずっしりとした重さを感じる。
使い道としては……振り回して的の頭にでも当てればいいだろう。
十分な勢いさえあれば例え体に当たろうと骨の数本は持っていける。
決定打と成り得る武器だが非常に使いどころが難しい事は確かだ。


ふと東のつづらに目をやると、先程まで青白かった光が紅く色を変えている。
手をかけ数度力を入れてみるが、うんともすんとも言わない。
どうやら今開封する事は不可能のようだ、それまでこれはお預け、という事だろう。
三つ目の文章が何を指すのかは今のところ分からないが……。



これで全部かね、と燐が探索を終えようとすると奥の方に大きな何かを見つけた。

瓢箪だろうか、紺の色に持ち手と思しき鎖、中には液体が入っているのか軽く振るたびにチャポチャポと音が立つ。
栓を抜いて匂いを嗅いで見る、酒だろう。
あたいは特に飲むつもりもないが必需品な者もいるだろう。
とりあえず大した大きさでもないので腰にぶら下げておく。


それともう一つ、ちょうど手の平くらいの小さな小箱にスイッチが一つ、とりあえず押してみる、迷ったら即行動。
……特に変化はない、一体なんだってこんなものが……。
再びスキマ袋にしまいその口を閉じる。




結果武器になりそうな物は大きく分けて二つ。
うん、これだけ良質の物があればある程度の人妖はあたい好みの死体になってもらう事が出来るだろう。
更にどうやら今、参加者各々固有の能力をある程度落とされているらしい。
どんなに相手が強かろうと関係ない、こんなチャンスはもう二度と来ないだろう。
もう手を出さずにはいられない。



そう、あたいはくるっているんだ。


あの兎が言っていたじゃないか、私のあかいめはみたものをくるわせるって。


あんなにながい時かんいっしょにかいわして目をあわせていたんだ

ならばわたしはもうとっくにくるっているくるっているんだろう狂っていてもしかたない苦るっているはずだくるっているべきだ。

今日というヒに脅や恐に怯して享するよりも



饗に恭し凶なる叫を享し狂に興するほうがいいんだ。



なんてかんたんな事だったんだろう、こんなかんたんなことにきづかなかったなんて。



凶という悲はなんてすばらしいひなんでしょう、おいわいをしなくちゃ


狂はわたしのたんじょうび。愁しいうれしいたんじょうび。

ろうそくいっぽんしたいにたててひとりっきりのたんじょうかい。

あらたなじぶんの嘆じょうび。あかいおめめのじごくねこ。

すてきなおめめのじごくねこ。うさぎとおそろいあかおめめ。

おれいをあげましょうさぎさん。とびきりごくじょうぷれぜんと。

おめめとおなじでまっかっか。あかいどれすをあげましょう。

あかいぼうしにあかいくつ。おめめとおそろいうれしいね。

よろこびなさいなうさぎさん。うれしいはずでしょうさぎさん。

うさぎはなんにもこたえない。ねこさんおこってまっかっか。

おにげなさいなうさぎさん。 わきめもふらずににげなさい。

はこのなかのねこさんは。どくをもくらいはこくらい

しまいにゃあるじもくらうのだ。



「さてと、死たいこうほをさがすとしますか~したいあつめしたい」

うわ言の様に呟き続ける言葉。
燐の頭ではこの時、既に地霊殿の主や親友の事は頭の片隅に追いやられていた。
否、無意識に追いやっていたと言うべきだろう。
だれも信じない、と心の表層では意思を固めてある。
しかし主であるさとりや空、こいし達との永い付き合いは、彼女の心の深層にしっかりと封されていた。
深く暗い海の底の堅牢な扉に何重もの鍵をかけて、ひっそりとカケラ達は封されていた。



――――――――――――



霧のかかる森。
放たれる生者特有の活力や気配は森や湖に獲物の到来を知らせるには充分すぎた。
喜々とした様子を連想させる木々の囁き。

天候が急変した、と言う事もあるが多くの大木の枝が密に絡まり合い
分厚い葉をなんとか通過した太陽の光が細々と降り注ぐ森。
母から離れ地に身を寄せる落ち葉や木の枝は歩を進めるたび悪意のある音を立て。
まるで発信機の様に周囲に自分の位置を知らせる。
神経を尖らせ細心の注意を払っているが、人影らしきものはみつからない。
不気味にざわつく湖の波の音や風に揺れる木々の音が遠方から聞こえる程度だ。


「やけに薄気味悪い場所ね」



天子の感想は率直な感想であり至って平均的な感想だ。
森というのはに粗雑に二通りに分類出来る。。
神秘・幻想的であるか、おどろおどろしく不気味かの二通り。
どうやらこの森は後者であるようだ。
厚くかかる霧は森の裏の顔さえも綺麗に覆い隠していた。

不意に空気が凍りついた様な冷たさに豹変した気がした。
第六感的とでもいうのだろうか、本当に何気なくだ。
この濃霧の森、という緊張下であまりにも警戒心を鋭敏にしすぎているためだろうか。
周囲をキョロキョロと見渡す、が以前影は見えない。
先程よりも淡々と濃くなり続ける霧の中、殺気が紛れ込んでいる様子はない。

(まあどんな猛者が来ようと負ける気はないし、死ぬ気もないけどね……。)
恐らく気のせいだったのだろう、と自らに結論付け歩を進める。


刹那、天子の視界の端に黄銅色の分銅が空を裂きながら飛来する。
一瞬の判断、それは懸命な選択だった。
回避は不可能、と判断を下した脳は自らの能力、及び体力を消費した防御行動を優先した。
地中から隆起する岩は普段の数分の一程度の厚み、大きさにしかならなかった。
想像していたよりも遥かに強い制限がかけられている様だった、結果はマイナス修正となるだろう。
咄嗟に背中のスキマ袋を岩と腕との間に入れる。
飛来する金属の塊は岩程度を易々と砕き、スキマ袋が間に入ることで其の勢いを落としたが
天子の左腕に強大な爪あとを残していった。


意識がある以上死んではいない、当たり前の事だが。
しかし腕が燃えるような痛みを発しているので視線を向ける。
ズキズキと紅潮する患部からは打撲性のため出血は見て取れない、ひびなどは入っていないと思いたいが……。
問題は傷の大小ではない、私、天人が傷を負ったという事だ。
普段ならばこの程度、気にかける必要もない。
予想はしていた事だが参加者固有の能力だけでなくやはり身体能力も低下させられているらしい。
勿論参加者毎に制限の大小はあるだろうが。

木の陰から細心の注意を払いゆっくりと前方を確認する、本当にうっすらとだが姿は確認できる。
これだけ霧深い森のはずだ、しかし相手はこちらの位置を正確に掴んでいる。

可能性があるとすれば。

「白狼天狗……?」

確か千里先まで見通せる眼を持っていたはずだ。
能力制限下であろうとも所詮1ブロック内、この程度の距離、わけなく見渡せるはず。

何にせよ状況は最悪。

こちらからは相手が視認出来ないが、相手は正確な位置まで掴んでいる。

こちらの武器となる物は発射に時間のかかる和弓、武器としては上々のモノである事は確かだが……。
残念な事に私の腕前は拙いと来ている、当たるかどうかは半々といったことだろうか。
それに朱塗りの杖を模した仕込み刀、不意打ち用に取っておきたいところだが……。
どうやらそうも言ってられないだろう。
先程の攻撃で左腕は重傷、とまではいかないが上げれば痛みを伴う。
弓を構えるにしたって片手では無理な話だ。
恐らく照準にはブレが生じるだろう。

相手の武器としては鉄球だろう、あれは。
スピードだけで言えば大して気に留める必要がある程ではない。
初撃の様に不意打ちかこちらが余程の隙を見せていなければ当たる事はないだろう。
しかしあの破壊力は捨て置けない
万が一直撃する様な事があれば重傷は免れない。
治療も難しいこの会場で手負いになる事は即ち直接死への手解きとなる。
この先のこちらの状況は極めて不利な局面に追い込まれることだろう。
条件としては対等、であると思いたいがまだ相手が全てを見せきったと確定したわけではない。
他の武装を考慮すると楽観は出来ない。

「さてどうしたものか…」
動けずに天子が思惟を練っていると、あろう事か声が聞こえてきた、それもとても大きな呼びかけが。

「おねぇさーん、もうしたいになってくれたのかな~?」

体を捻るようにして此方の姿を極力見せずに確認する。
霧の中に先程より濃く相手方の姿が浮かぶ、影絵のような状態だが獣の耳、いや猫の耳が確認出来る。
また猫の妖怪か……。

「私は小森じゃないわよ……。」
天子の独り言など聞こえていないように、猫は続ける


「おねぇさんはいったいどんなしたいになってくれるのかなぁ」
猫はまるで幽霊のように音すら残さずまた霧の中にフッと消えていった。
周囲には再び甦る静寂。
溢れる間際の水のように張り詰めた緊張感の中、天子は打開策に頭を巡らす。
捻り出せなければその先には限られた未来しかない。
天人である私がそのような未来に到達してはならない、いやするわけがないのだ。

「あー、もう何で私ばっかりこんな変な敵とばかり!」

―――――――――――――



燐は喜々として考えていた。
素晴らしい、その一言だった。
今まで見てきたどんな死体候補よりも良い反応。
あの博麗の巫女に匹敵するのではないか、と言う程の危機察知能力
最善の方法を考察し即座に実行出来る身体能力。
一撃で仕留められると思ったが、それは間違いだった。
全力を賭さなければこちらが殺されるだろう。
ああよだれがたれそうだ、こんなにもていこうしてくるなんて。
ぜひしとめたい。



燐の頭は嘗て無いほど冴え渡っていた。
脳内麻薬による痛覚の麻痺は思考を鈍らせている。
だが本能は増長されていた。
燐の反応力は今研ぎ澄まされている、まるで片目のハンデを補うかのように
視界内に動く物があれば瞬時に反応し行動出来る瞬発力。
彼女が妖怪だからとは言えそれはあまりにも素早すぎた。
時に過剰な力はその者自身を首を絞めることになる。

ぬーっと影が現れる、燐は虚ろな眼でシャラシャラと鎖に着いた鉄球を引きずりつつ影の方向に歩を進める。
動かない影に対し腕を後方に回し捻るように鉄球に勢いを付け力任せに影を薙ぎ払う。
それが霧の匙加減による木々の揺らぎだという事に気づくのは
木の幹に甚く純粋な暴力で凶悪な窪みが刻み込まれてからの事だった。

「あれ?おっかしーなー?」
其の時、燐の体が180度捻られた。
もし側で見ている者が居ればまるで首が半回転したかの様に見えたことだろう。
それ程素早い動きだった。

燐の欠けた眼が捉えたのはまた影。
正常な思考の者が見れば一目でヒトではない、と分かる事だろう。
いや、燐も分かっているはずなのだ。
ここでも歯止めの利かない無邪気な力は邪魔な物だった。
思考の時間を削ってまで反応力は極限にまで高められている。

「ぜんぶつぶしていけばいいはなしなんだけどね。」

次々と揺らぎ現れる影を。
まるで悪夢から逃れるように振りほどき。
唯ひたすら周囲の万物を破壊し続ける。
無駄の多い動きの様で実に確実性の高い方法でもあった。
燐は狂っているのだろうか。


――――――――――――



天子の結論は出ていた。
やはり弓矢を使うしかないだろう。
いくら隙が多いからとは言えあの速度で振り回される鉄球に
自らみすみす近づいて行くというのは愚の骨頂だ。
全て避けきれる、又は防ぎきれる技量と体力があれば別だが。
今の制限下の私では、生成出来たあの薄い岩を見る限り厳しいだろう。
幸いな事に矢は未だ潤沢に揃っている。
やはり有効なのは死角からの攻撃。
だが中々動きの止まる事のない猫の背後を突くのは困難を極める事も確か。
何か決定的な動きを止める策が必要だった。


これだけ濃い霧の中だ、普段では使えないような何かがある筈。
一度弓矢を構え、猫に攻撃を仕掛けて見ようかと思った。
が、影が見える程度では当てるのも困難。
仮に当たったとしても致命傷となる部位に当たっている、となると更に公算は小さい。
虎視眈々と機会を伺いつつ猫の動きを観察し続ける。
移動さえしなければ音は立たない、こちらの位置を気取られる事はないだろう。

それにしても何だ?一向に止まる気配はない。
あの猫の体力は無尽蔵なのかあれだけの物を振り回し続けていても
息の上がっている様子さえ見て取れない。
殺し合いで無駄に体力を消費する事がどれだけ愚かしい事か分かっているのだろうか。
睡眠、食事、如何なる時でも敵の眼を気にかけていなければならない。
休憩さえも満足に取れない、気が休まる時など僅かにしか存在しない。
気を休めればそれは後々自らを窮地へと追い詰めていく敵となる。

しかし私はそんな物を求めていたのだ、一体これは何日間続ける事が出来るだろう。
あの猫との戦いにしたってそうだ、普段では絶対に存在し得ない状況下で
私はこうやって潜み、反撃の機会を待っている。
なんと素晴らしい事だろうか、死神との戦いではこの様な経験は得られない。
一方的に待ちに甘んずる事など初めてだ。
この先良い経験となって生きる事は間違いないだろう。

未だ猫の勢いが止まる気配はない。
全く呆れる。
気でも違っているんじゃないか、あの猫は。
本当にスタミナ切れが存在しないんじゃないか。



ふと気づく。


(……この手があったわね)

なんだ簡単な事ではないか。
あの猫の今の状態と私の能力を考慮すれば隙を作り出すなんて。
あの猫は私の姿も一度はっきりと確認している。
私の左腕もなんとか保っている。

再び茂みの葉をゆっくりと千切り様子を伺う。
猫は私を見失ったらしく周囲に主な武装である鉄球をブンブンと振り回している。
今のアレには恐らく揺らぐ木々までもが私に見えている、という事なのだろう。
この殺し合いの重圧に耐え切れず発狂したのだろうか、それとも踏ん切りがついているのだろうか。
どちらにせよ私があの様な獣に負けるわけがない。
正常な思考を成せない者に勝利は決して訪れない
例え理論が崩れていようとそれに気づけないからだ。
破綻した理論はまるで坂から転がした雪球の様に周囲をも巻き込みつつ肥大し続ける。

(さて、とお遊びはここまでにしましょうか、猫さん?)

自らの勝利を確信した天子は着々と準備を進める。
しかし計画が確実に自らの考えと同じに動く事は有り得ない。
それはこの状況下でも言える事だった。


――――――――――――

はらっても。
はらっても。
どれだけはらっても。
まるでげんかくみたいにあらわれつづける、おねーさんの影。
ほんとうに生きているのかどうかふしぎになってきた。
やっぱり影に当てているだけじゃどうもわかりにくい。

………
……

つぎにでてきたら
もうおしまいにしちゃおう。
ちかづいてぶちあてるかのどをかっきればそれでおしまい。

辺りに逼迫した空気が流れる。
天子も燐も決定打を狙っているため両者とも音を立てる事はない。
風に漂う霧が澱んだ気の様をありありと明示する。
そんな燐の前に再び影が現れる。
茂みから飛び出る形で人の形と帽子が見て取れる。

「もう……これでおねーさんはしたいけってい。」

霧の中の人影に向かい全力を込め分銅を振るう。
本体の重さと加速により空気を裂き天子の横腹へと直撃する。
肋骨は折れその欠片は肺へと突き刺さる、他の内臓も破裂は免れない。
口に血の泡を吐いてるおねーさんのしたいのできあがり、となるのが燐の頭の中での構想であり確定事項。



のはずだった。

だが更に同じ影は現れる。
その隣にもまた更に現れる。
気づけば茂みの向こうは同じ影がずらりと並んでいた。

「え?」
一瞬、僅か一瞬だが燐の思考に空白が生まれる。
視覚に入った奇妙な光景は体の動きをも同じく一瞬止めた。
この戦いの中においてそれは命取りとも成りかねないもの。
燐が分銅を振り回し目標と始点との間程に分銅が舞う。
瞬間背後の茂みの更に後方、地に伏せていた影が音も立てずに起き上がった。
黒塗りの弓を構えた天子の姿がそこに現れた。



――――――――――――




帽子を模った岩を燐を支点に自らの潜む茂みと正反対、対極側に設置。
大地を操り隆起させた帽子の岩を乗せた岩石によって
あたかも私が姿を現したように見せる。
造形するのは一部でよかった、茂みにより全体像は掴めない。
一度に大量に出現した私の偶像は狂っている猫とは言え一瞬でも隙を生むだろう。
それに反応し気を取られる事が大切だったのだ。

案の定、猫は静止したまま動かない。
こちらに無防備な背中を向けている。
これならば当てられる公算は大きい、式の式の時と似たような距離だ。
私ならばやれるはず。
矢を限界一杯まで弦にかけ、弓を持つ手にも自然に力が入っていた。

(この一撃だけなんとか保って頂戴ね……)

天子の心は屋島のそれであった。
周囲の地形、天候は違えど困難な射である事は同じ。
風神の悪戯により荒れ狂う海、吹き荒れる北風。
沖の小船も波を受けその体をゆらりゆらりと揺らす。
距離も普通では考えられない、常人には成せないモノ。
それでも敵の挑発に自ら乗り。
それを見事遣って退けたあの武神に肖ろう。
私も同じ様にあの“扇”を撃ち落し。
この戦いに幕を引く事にしよう。

発射の時を今か今か、と待ち構えていた矢を開放する。
極限まで充填されていたその勢いは。
風切り音を発しながらその扇へ向かい飛んで行った。
扇は貫かれその役目を終える筈だった。

だが天子のそれは武神とは比べ物にならない。
幾多の死線を掻い潜った事は同じでも弓矢の技量に関しては言うまでもない。
目標から大きく逸れた矢は悔恨の念を持ちながら地にその身を預けることになった。
しかしこうなる事も想定の範囲内ではあった。
自らの弓矢の技量は自身が一番知っている。

直ちに抜き身の刀を手に取り猫との距離を詰める。
もう一度あの様な“猫だまし”は効かない。
いや、正確には出来ないだろう。
体力が底を尽くのは目に見えている。
幸い未だ猫はこちらに気づいていない様子だ。
鉄球を振りかぶり、岩へ向け勢いをつけている。
まるで燕の様な速さで猫に迫る。
茂みを掻き分ける、猫の姿がはっきりと見て取れる。

5m
地を踏み締める音一つさえも遅く感じる。

4m
木々が風に揺れながらこちらを嘲笑っている、何が可笑しいのだろう。

3m
木々の囁き声が断片的に聴こえてくる。

2m
猫に近づくにつれ自然の万象の嗤う声は大きくなる。

1m
「あの娘、死ぬね」


一瞬天子は動かなかった。
否、動けなかった。
既に刀は突き刺さっている。
尤も胸部ではなく左肩にだが。
しかしこちらが圧倒的に有利な状況なのは確か。
だが本能が警鐘を鳴らしていた。
幾度も繰り返される死神との戦いの中。
繰り出される鎌の動き、精神の根幹に訴えかけてくる精神攻撃。
風を切り裂きながら飛来する剣圧、操られ忍び寄る死霊。
それらを永い年月の間、一瞬の間をお互いに探り合う戦いを続けてきた。
天子の危殆を予期する能力は極限にまで高められていた。
それら幾多の死線を潜り抜けた脳が告げる、このままでは死ぬと。


その時。
背を向けている猫はこちらを振り返りもせず
可笑しな事でも聞いたかのように言葉を発した。
痛みさえも感じていないのだろうか。
「どうしたのさ、おねーさん。」
「そのかたなをしんぞうにつきさせばおわりだよ?」
「もっとも……」

天子はその先を聞こうとしなかった。
即座に刀を抜き薄く頼りない岩を隆起させ。
起こり得る“何か”に対する防御行動を取る。

コマ送りの様に感じた。
呼吸の一音から風に靡く葉の音までもが遅く聴こえる。
岩が隆起してくるのが、遥か未来の出来事の様な速度だ。
鉄球が飛来するのだろうか。
それはなかった。
猫の前方を確認すると鉄球は既に地に落ちていた。
ならば何だ、あの殺気は?。
岩は中腹辺りまで出現している。
私の思い過ごしだったのだろうか、それならばもう攻撃の機会は失われた。
既に天子は逃走の算段を立てていた。
チャンスがない以上無駄死にするわけにはいかない。

その時、猫の腋の下辺りから白く煌く刃が此方に向け飛んでくるのが見て取れた。
天子目掛けて一直線に飛んでくる其れは
この世界の中でも、一段上の速度を持っていた。

不味い、岩での防御は間に合わない。
天子は即座に屈む。
が、この速度の中屈むという行動さえも非常に鈍いものだった。
徐々に迫り来る白刃、最悪の結果が頭を過ぎる。
しかし、それは左肩を浅く切り裂いただけで、天子の後方の木へと刺さった。
猫の声が聞こえる、何と言っているのかはもう聞こえない。
既に遥か後方、霧の奥となっていたからだ。

一時の隙を作り勝負を仕掛けたまでは良かった。
なぜ?
こちらの手の内が読まれていた。
刀を突き刺したときのあの言葉。

いや違う、こちらの策がこうなるように仕向けられていたのか?
全ては猫が狂った認識を基に動いている、という前提により成立していた策。
それがもし。
もし猫が狂ったように“見せかけて”いただけならば……。
あの行動に対する解はこの事しか考えられない。


「予想以上に攻撃を貰い過ぎちゃったわね……。」
本来ならば八雲紫と戦うまでは無傷に近い状態でいたかったのだが。
あの猫はとんだ伏兵だった、天人である私相手にここまでやるとは。
左腕は砕ける、とまではいかないが重度の打撲を負い。
左肩は円形の刃物により浅く切り裂かれている。
その上自らは敗走。
相手にも深い傷を負わせたとは言え戦略的撤退、とは言い難い、完全な敗北だった。

………
……



「あれは……?」
遠くの茂みの中にこの風景とは不釣合いな木製の荷車が見える
あれもあの猫の持ち物だろうか、それにしては大きな支給品だ。
荷台から何かがはみ出している。
一方は人の手、だろうか。
袖は乾いた血で赤黒くに染まりロウでもたらしたように凝固している。
あの猫は殺した相手の死体を集めるのだろう、犠牲者の成れの果てといった所か。

(……悪い趣味を持っていらっしゃる事で。)

もう一方は……。
見覚えのある衣だった。
長い布切れ、端が燃える様な緋色の布によってアクセントが加えられている。
そうであったはずなのに。
今は絹のような光沢を持ち雪の様に白かった部分も
美しさの欠片も無い悪趣味な深紅の色に染まっている。
ああ、間違いない。あれは竜宮の使いだろう。
一応それなりの実力者だ、それを仕留めたとあればやはりあの猫は猛者であったか。


スキマ袋の端が見える、今後のためにも武装が豊富であって困る事はない。
僅かな期待しか持てないが幾つか使える物も残されているかもしれない。
天子はそう判断しリヤカーを漁って見る事にした。
中を開き内部を除き込むがすでに中身はどちらもめぼしい物は見あたらない。
どうやら徒労となりそうだった。

(やっぱり何も残っていないか……。)

肩を落とし落胆した様子を見せる。
もう何もないだろう、と考え木々の間を潜り抜けようとした途端。
不意に足に力が入らなくなった。
足元を見ると、そこには落とし穴。
片足のみしか嵌っておらず、豪く浅い物だった。
普段ならば全く影響を為さない物だろう。

その後ろに鉄の輪を構え、顔が血に塗れた猫の姿がなければ。


既に猫はこちらへ接近してきており。
後数秒何も行動を取らなければ
あの美麗な三日月に私の首は刎ねられ。
行き場を失った血液達が大地に吸い込まれていくことだろう。

この策で天子は全ての体力を使い切ってしまうだろう。
しかしコレでなければ、恐らくあの鉄球により通常の体力の注ぎ込み方の物では一瞬で砕かれる。
全身全霊を賭け能力を使う。
自らの四方向を覆い込む様に岩を幾重にも隆起させ。
某隙間妖怪の結界を彷彿とさせる囲い込みの防御。
隙間に刀を差し込もうとも折り重なるように連なる岩により阻まれ。
その厚い岩盤を砕くことは容易ではない。

外の音が聞こえてくる。
数回鉄球で岩を殴りつけたらしい。
岩を通した振動がこちらまで伝わってくる。
しかし想定以上に体力を使いすぎた……。

外の音は静かになっていく。
頭は鈍器で殴りつけられたような重い痛みを発し
左腕部は相変わらずズキズキと熱を発し続ける。
比較的新しい肩筋の傷からは生暖かい血が流れ出している。

徐々に瞼が重く垂れ下がってくる。
抵抗しようとするも力が入らない。
薄れゆく意識の中で天子が感じたモノは
安らかな休息の幸だった。




【C-3・霧の湖南西部周辺の森・一日目・午前】
【比那名居天子】
[状態]気絶 能力発動による疲労(極大)左肩に中度裂傷、左腕部に重度打撲 頭痛
[装備]永琳の弓、 朱塗りの杖(仕込み刀) 矢*12本
[道具]支給品一式×2、悪趣味な傘、橙の首(首輪付き)、河童の五色甲羅、矢5本
[思考・状況]
 1.八雲紫の式、または八雲紫に会い自らの手で倒す。
 2.残る幻想郷中の強者との戦いを楽しむ。

 ※橙のランダムアイテムは河童の五色甲羅でした。
 ※燐の鉄球を防御した後、スキマ袋は開けていません、中の道具が破損している可能性があります。
 ※C-3森の中に横幅約2mの岩が出現しました。




――――――――――――


燐はボーっと空を見上げていた。
燦々と照りつける太陽は地底にはないもの
最近は地上に出てきているので特段珍しい物でもないが
やはり何時見ても揺り籠に揺られるような安心感を生む熱と日差しは良い物だった。
“お空”の太陽も確かに暖かいものであったが。
この様な安堵感は伴わず、膨大な光と熱を生み出すだけの物だった。


天子の岩の要塞の攻略は諦めざるを得なかった。
幾たび叩こうと決して破れる気配はない。
あまり一死体候補に執着しすぎるのも良い事ではないという判断の結果だった。


燐は地獄猫の姿となり自らのスキマ袋を咥え、次なる獲物を探していた。
左肩の傷と同じ部位の左前足を引きずる様にしながら。
歩を進めながらも死体に募る思いは大きなものだった。

あのふつうの人間のまほうつかいの死体なんていいなぁ
はく麗の巫女と一緒にかざったらとってもすてきだろうなぁ。

燐は仕留めてもいない生者達に思いを馳せうっとり悦に入る。
と、その時右足が折れるようにして姿勢をガクっと崩す。

(あれ、おかしいなぁ)

力を入れ立ち上がるも這いずる程度が精一杯だった。、
痛覚は感じずとも血は流れを止める事は無い。
体中傷を負っていない場所はほとんどない、本来なら今すぐ医者に見せるべき状態だ。
頭では動こうとしても身体が言う事を聞かないのだ、狂気に陥った頭に警鐘を鳴らすように。
これ以上動き続けては死んでしまう、と
本能の警告に反するほど燐は愚かではなかった、素直に従わなかった未来には死が待っている。

「すこし……やすまないといけないみたい」

ああ時間が惜しい。

だがたとえあたいが休んでいても他のこうほ同士が互いに死体になってくれるだろう。
ならばあたいはしたい集めのためにせいりょくをつけないと。

霧の中色とりどりの花が妖しく咲き誇る湖畔、一匹の猫が木の下で丸くなり休憩を取っていた。
辺りでは花が笑い僅かな日光が葉の隙間を縫うようにして湖面に差し込みダイヤモンドの様に輝く。
絵画の一部を切り取ったような美しさ。
傍から見れば和ましい光景に見えるだろう。
其の猫が内に危険な狂気を抱いていることを除けば。







【C-3・C-2寄り霧の湖北部の森・午前・一日目】
【火焔猫燐】
[状態]休憩・右目消失、アドレナリン大量分泌による痛覚の麻痺? 頭部に小さな切り傷(ほぼ塞)
   頬にあざ、左肩に中度の刺傷(出血)・発狂?
[装備]洩矢の鉄の輪×2 
[道具]支給品一式×2、首輪探知機、萃香の瓢箪、気質発現装置、東のつづら 萃香の分銅●
[思考・状況]基本方針;死体集め
1.したいあつめはたのしいな~
2.もう誰も信用しない
3. うさぎさんに“お礼”をする。

※C-3の南西部は気質発現装置により濃霧に包まれました、正午には解除されます。
※【気質発現装置】は現在居る1ブロックの一部の天候をランダムに変化、4時間で解除されます。12時間使用制限。
※リヤカー{死体が3~4人ほど収まる大きさ、スキマ袋*1積載(中身は空です。)}はC-3南西部の森湖畔沿いに安置されています。


76:GSK 最高経営責任者 (2009) 時系列順 79:殉教者の理由/Martyr's Cause
77:ふたりはいっしょ 投下順 79:殉教者の理由/Martyr's Cause
53:死より得るもの/Necrologia 比那名居天子 88:文々。事件簿‐残酷な天子のテーゼ‐
58:光り輝く探知機のトラウマ 火焔猫燐 99:夢よりも儚い砕月

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最終更新:2009年09月16日 20:44
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