第三回放送 ◆TDCMnlpzcc
E-2の城。
一人の男が静かに酒を飲む。
外はもう夕暮れ。
男の周りにはオレンジ色に染まった酒の抜け殻達が鎮座していた。
「そろそろだな」
男は時計に目を向ける。
針は長針短針ともに下を向いている。
「あと五分・・・」
男は手元の箱庭に視線を投げかける。
精巧なミニチュア。生きて動いているのは23個の人形。
随分と減ったものだ。最初の頃のにぎやかさを知る男には少々寂しくみえた。
男は人形のうちの一体の頭を小突く。
八意永琳。月の頭脳。
五時間程前には、その身のハンデをもろともせず絶好調につき進んでいた。
今はどうだろうか・・・・。
「今回の放送は難しいねえ。輝夜にはもう少し頑張ってほしかったけど、
まあうまくいかないことだってある」
八意永琳の主人の死亡。なんらかのアクションを見せなければならないだろう。
さて、どうするか。
手立てはいくつかある。
一番良い手は輝夜の死を認めず退場したことにすることだろう。
はなから、参加していたのは精巧なロボットだったことにしてもよい。
または、輝夜の死を不慮の事故とするという手もある。
しかし、その場合、八意永琳を良く知る者には違和感を覚えられるのは必須だ。
彼女は万が一でも事故の可能性があることに主人を巻きこんだりしない。
そういえばこの問題はメモに対策を書いておいたはずだが・・・
時計が五時半を示すと同時に、男はアラームを止め、意識を次の放送へと切り替えた。
E-2の城。
闇に沈んだ城の中、一人の男が静かに原稿へ目を走らせる。
問題は見当たらない。
「さてさて、どうしますかね」
普段の自分ならリプレイを見て放送までの時間を潰すのだが、失敗は一度で十分だ。
第二回放送でのミスは痛かった。
洩矢諏訪子が早々とリタイアしてくれたからよかったものの、
あのまま無事に東風谷早苗らの危険分子と合流していたらと思うと背筋が寒くなる。
目の前のパソコンは現在の八意永琳を映し続けている。
一人で人里をさまよう彼女は、主の死を知らない。
「さて、そろそろだな」
「さて、それでは3回目の放送を始めますわ。
まずは退場者の発表から、一度しか言わないからよく聞くのね。
いくわよ。
洩矢諏訪子
紅美鈴
蓬莱山輝夜
八雲藍
森近霖之助
火焔猫燐
上白沢慧音
メディスン・メランコリー
比那名居天子
秋静葉
古明地こいし
以上11人
残りは23人
人数的にはまずまずですわ。
良い出来よ」
ここで言葉を区切る。
目の前にはあまりの悲しみに、声も出ずに立ち止まる人影。
それを注視しながら、原稿を読みあげる。
「あら、うどんげ、そんなに動揺しないでいいわよ。
姫様の名前が呼ばれたって。私が姫様をあんな危険な場所に送り込むと?
そんなことはしないわ。
ただ、操り人形は壊されちゃったみたいだからね。
しばらく、ここでまっていてもらいますわ。」
一呼吸置き、
「では、禁止エリアの発表をいたします。
21時からF-7、0時からF-2。
中に立ち入れば命を失うので、地図には注意を払うことをお勧めしますわ。
そういえば、たびたびこちらの城にちょっかいを出す参加者がいらっしゃるけど、
あまりにひどいと首輪を爆発させるから気をつけてね。
城の結界は堅いから、核爆発でも破れたりしませんわよ。
他の参加者も
‘無駄なこと’に力を注いで無駄死になさらぬよう。お気をつけなさい。
それでは、次の放送でお会いしましょう」
闇に沈んだ城の中、男は大きく伸びをして、
酒を口に含んだ。
「そろそろ、ですかね」
小さな呟きを聴く者は、男を除いて誰もいない。
【E-2 1日目18時】
【残り23人】
最終更新:2014年11月07日 18:42