墜ちる

墜ちる ◆TDCMnlpzcc




「死ね、天狗ごときが」

何度目になるか分からない突撃。
ギリギリのところで身をかわす射命丸文は、相手の動きが鈍り始めたのを感じた。
それはようやく事態が自分にとって良い方向に流れてきたことを意味する。
文の上から、鷹のようにこちらを狙うレミリア・スカーレットの眼が妖しく光る。

「紅魔館のお嬢様はお疲れのようですね。しばらくティータイムといかがでしょう」
「お前をしとめたら、咲夜に、あの妖精たちの血肉で紅茶を入れさせてやるよ」

台詞を吐き、双方息をつく。
レミリアが挑発代わりに打ちこんできた魔力弾を、文は避ける。
しかし、それは最初の頃とは比べ物にならない、鈍い回避運動。
レミリアが疲れてきたのと同様に、文もまた体力を使い果たしつつあった。



普段ならこんな運動、朝飯前なのに。これが制限ですか、つらいですね。
まったく、戦わせたいのならもっと制限を緩めてくださいよ。主催者さん。
心の中で愚痴りながら、文は態勢を立て直す。
時間は随分と経っている。下のみんなが心配だ。
無事でいるだろうか。

十六夜咲夜、時間操作の力を持つ異能者。
制限がどれだけかかっているかは分からないが、強い能力で間違いない。
桜の異変を解決したことさえある。
普段、正面からぶつかれば、下の三人では相手になるとは思えない。

文の脳裏に、ナイフで絶命した3人の姿がまじまじと映る。
それは、凄惨な犬走椛の死体とかぶり、さらに今まで見てきた様々な死体と混じり合い、
まだ見ぬさまざまな幻想郷の住人の死体を浮かばせた。

私が早く助けにいかないと。

早くけりをつけるべく、文は動くこと決意した。

眼の前の吸血鬼は、黙り込んだこちらを面白そうに見つめている。
ゆっくりと、スキマ袋に手を突っ込み、目当ての物を握りしめる。

「そっちがこないならこっちから行きますよ、と」
「・・・!!」

両手いっぱいの小銭を投げつける。
小さな礫が小さき吸血鬼に襲いかかる。
ダメージはたいしたことはない。
この礫は文にとって、攻撃としての意味を持ってはいない。

「どこに行った?天狗」

必要なのは目くらましとしての効果。
天狗を見失った吸血鬼は辺りに眼を走らせる。
下にはいない。右にもいない。左にも・・・

「烏は蝙蝠を狩るのです」

呟き、上空から、一つの塊が、吸血鬼に襲いかかる。
武器を構えた射命丸文、彼女は一気に降下し、レミリアに肉薄する。
相手の意識がはっきりしない間に、上に回り込んでの奇襲。
幻想郷最速としての能力を生かした、瞬間的移動と突進。

「ふざけた真似を!!」

体力を失ったレミリア・スカーレットにかわす余裕などなく・・・


短刀が突き刺さった。


「外れ、ですか?」

短刀が揺れ、抜ける。

初めて吸血鬼の上空をせしめた天狗は、短刀の先に着いた紅を眺める。
レミリア本人には被害はないように見える。
穴が空いたスキマ袋が、彼女の背中で何かを流す。
くすんだ、血のような体液。

「死体?悪趣味な」
「うるさい!!」

レミリアの袋からは、参加者だったであろうと思われる、死体の手が投げ出されている。
硬直したその手は、レミリアの羽の間から生えているようにも見える。
それを眺め、文に少し隙が生じた。

「雑魚によそ見している暇などない」

レミリアの一撃が、頬をかすめ、文はまた冷や汗をかく。
そして、顔を上げ、目標を見失ったことに気付き、辺りを見渡す。
急いで辺りを見渡すも相手の姿はない。
微妙なデジャヴ、これはまさか。

「早く飛べるのが貴様だけだと思うな!!」

上を仰ぎみるとそこには槍を振り上げた吸血鬼。
さっきの文の作戦は、ものの見事にコピーされて返ってきた。
一瞬、眼があった。
紅いまなざし。

かわすのは無理ですね。
文は確信した。
しかし、抵抗をやめるわけにはいかない。
死ぬわけにはいかない。
無駄なあがきを、必死の延命を試みる。
だが、スローモーションで進む世界の中、必死に行う回避運動も間に合わず。
槍が、脳天に向かって・・・

「墜ちろ、天狗」


天狗の体が、下へと吹き飛ばされてゆく。
はるか下で、家一軒が土煙を上げた。
奴は死んだのだろうか?
レミリア・スカーレットはゆったりと、優雅に後を追い、着地した。

少なくとも槍の一撃で死んだということはないだろう。
レミリアは確信していた。
まず、彼女自身殺そうと思って放った一撃ではない。

さっきの一撃は、仕返し、プライドを保つための攻撃。
奇襲によって大切な、キスメが傷つけられたことは、彼女を怒らせた。
さらに、上から隙を突かれたことは彼女のプライドをも傷つけた。
だからこその意趣返し。
だが、これで終わってしまってはあっけない。
まだ、彼女の怒りは収まっていない。

「グ・・ゲェ」

家の中から、何かを吐くような音がした。
吸血鬼の顔に笑みが浮かぶ。

歪んだ戸を蹴破り、中へと押し入る。
案の定、傷だらけの天狗が血を吐き倒れていた。

「馬鹿な奴だな、逃げ足の速い天狗のこと、逃げれば命だけは助かっただろうに」

返事はない。

「こうして貴様はここで死ぬ。あいつらも死ぬ。無駄な戦いだったな」

無言。
見つめる瞳はまだ闘志を失っていないことを示している。
面白い。
実に面白い。

「なあ、天狗」
「ギ・・・アァァ・・」

手を、踏む。
次に短刀を拾い上げる。

拾い上げて、とどめを刺そうとし、気が変わった。
短刀を二つに折り、部屋の隅に投げ捨てる。

「貴様には、すべてを見せてやる」

傷を一瞥する。
幾らか折れている骨はありそうだが、命に支障はないと見える。
まだ、しばらくはここから独力で逃げ出すこともできそうにない。

「あの三人、妖精と河童と雪女、雑魚三体の死体をお前にくれてやる」

妖怪やら妖精やらの血はまずいからな。
呟きながら再び眼を合わす。
そこには先ほどはなかった恐怖が映っていた。
決して自分のための恐怖ではなく、他者を想う恐怖。

気持ち悪い。
レミリアはその一言で、その想いを、振り棄てる。

「守るものがあると弱くなる、長生きしたところで所詮は甘ちゃんだな」
「グァ・・ヴェ・・・逆に強くなることもある」

地に落ちてからの初めての発言。
血を口から流しながら、訴える。

「あなただって分かっているでしょうに」
「かもな、だが貴様は負けた」
「殺しておかなかったことを後悔すると思うけど・・ゲッ」

言い終わり、文は辺りを見渡す。
レミリアは消えていた。
      • キィ。
扉が静かに、風に揺れている。

【D-3 人里 民家 一日目 夜】

【射命丸文】
[状態]瀕死(骨折複数、内臓損傷) 、疲労大
[装備]胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない
1.にとり達が無事にいてほしい
2.私死なないかな?
3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る

※折れた短刀が部屋の片隅に転がっています。部屋の屋根には穴が開いています。



流石に疲れている。
認めたくはないが、レミリア・スカーレットは疲れていた。

だが、月の光のもとで力はみなぎってゆく。

スキマ袋にキスメを押し返す。
傷口からの出血はもう終わっている。
傷口を軽くなでてやり、後ろを振り返る。

「私が帰ってくるまで死ぬなよ、天狗」

そう言い残し、飛び立った。


【C-3 人里付近 一日目 夜】

【レミリア・スカーレット】
[状態]腕に深い切り傷(治療済)、背中に銃創あり(治療済)、軽い疲労
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具
[道具]支給品一式、キスメの遺体 (損傷あり)
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす
1.にとり達の死体を文に見せつけてから、文を殺す
2.キスメの桶を探す
3.映姫・リリカの両名を最終的に、踏み躙って殺害する
4.咲夜は、道具だ

※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。




156:ウサギは寂しくなると死んじゃうの 時系列順 153:アルティメットトゥルース ~Fruhlingstraum(前編)
156:ウサギは寂しくなると死んじゃうの 投下順 158:DECOY
155:それは決して、無様ではなく。 射命丸文 160:行き止まりの絶望(前編)
155:それは決して、無様ではなく。 レミリア・スカーレット 160:行き止まりの絶望(前編)



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年09月14日 22:04
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。