空の彼方に(後編)

空の彼方に(後編) ◆Ok1sMSayUQ



 それは、遠い昔に見た覚えのある光だった。
 人目を忍ぶようにして産み落とされ、薄暗い部屋の窓から眺めるしかなかった光。
 不死になってからは隠れるようにしか生きられなくなり、竹やぶや薄暗い森の中から眺めることしかできなかった光。
 幻想郷に来ていつでも見られるようになりながらも、生来の習い性で目視することを拒んでさえきた光。
 あれは、妹紅には眩しすぎるものだった。輝いているがゆえに、日陰者の自分は否定されてしまうのではないかというわけもない恐怖、
 わけもない怖れでいつも一歩が踏み出せなかった。
 けれども、いざ触れてしまえば何ということはないもので、それは忘れていた様々な記憶を妹紅に思い出させてくれた。
 肌をそよぐ気持ちのいい風と、どこまでも透き通った色を覗かせる空の青。
 様々な形を成す雪のように白い雲と、暖かく自分を覆ってくれる太陽の光……
 すっかり忘れていた。自分にもこんな時間があり、とても満たされていたということ。
 拙い手毬歌に合わせて、手拍子をしてくれた『父』という存在があったということを――
 だから、言える。藤原妹紅の人生は、全てが無為な闇に包まれていたのではないと本気で言うことができる。
 誰にだって、光はあるものだから、もう「こんな私でも生きてていいのか」なんて無様な問いはしない。
 どこまでも歩いてゆく。光の紡ぐ先、青の向こう側にある空の彼方にだって……!

「永琳ッ!」

 『アマテラス』の直撃を受け、『使い魔』を失い文字通りの丸裸となった永琳へと向けて家から飛び出した妹紅が疾駆する。
 既に握りこんでいたフランベルジェに、生成した炎が走り、刀身が熱を帯びて赤く染まる。
 波打った刀身がゆらと揺れ、陽炎が起こっているようにさえ感じられる。
 ただの剣ではない。前へ前へ進む思惟を受け取った、妹紅の意志を体現した剣と化していた。
 振り返り、妹紅の突進に気付いた永琳が始めて焦りの感情を滲ませる。
 咄嗟に鉄砲で牽制しようとしたが、距離はもはや数歩分しか開いていない。
 間に合わないと判断したのか、しかし永琳は回避行動を取ることもなく、手のひらから剣を生成していた。
 驚いたのは妹紅の方で、手から突如として現れた三日月刀の形状をした黒色の剣にこいつは手品師かと慄然とする気分を味わった。
 何か仕込まれているかもしれない。退くか? と一瞬考え、それこそ永琳の思う壺だと判じてそのままフランベルジェを振りかぶる。
 呼応するように永琳も黒色剣を横に引き打ち合う構えを見せた。
 ほんの僅かな、刹那にも満たない交錯。互いの獲物が交差し、紅と黒の燐光を暗夜の花火と散らし、妹紅と永琳がすれ違う。
 確認する。お互いに傷はない。すぐさまターンし、再度妹紅は地面を駆ける。
 反転して向かってくる妹紅に応じて永琳も近接戦の続行を選ぶ。完全にインファイトとなり、互いが真っ向から勝負するブルファイトの様相を呈していた。
 ぴたりとそれぞれの目を見据え、激突。一歩も引き合わず、刀が擦れ合う度に紅の、黒の破片が散りあう。

「その黒い剣……弾幕か……! 考えたものね!」

 押し込もうとして果たせず、力を逃がされて元の鞘に収まる。
 少しずつ。少しずつ回転しながら、言葉の鍔迫り合いも始まる。

「でも、実体のない弾幕じゃ私が押し勝つ!」

 弾幕を生成する際に使う妖力を塗り固めて刃物の形状にしたものが永琳の武器。
 エネルギーを固定化させ、自在に操ってみせるのは永琳ならではの芸当だったが、
 本来拡散するだけの弾幕を無理矢理押し留めているために強度は不安定だ。だからこそ、永琳は遠距離での戦いに拘った。

「それにあんたは怯えてるだけ……! 世界で自分が一番不幸だって思ってて、だからどんな酷いことをしてもいいって、そう考えてる臆病者だ!」
「何が悪い。ずっと前から、私は一人なのよ? 自分は自分でしか救えないと分かってるから。だから、私は全部、全部、自分のためだけに使う」
「輝夜もそうだって、言いたいの!?」

 フランベルジェに送る熱をさらに増やし、刀身に押さえきれなくなった炎が拡大して火の粉を撒き始める。
 黒色剣にひびが入り、舌打ちした永琳は一旦弾いて剣を再構成するが、組み直したところでどうにかなるものではない。
 炎剣と化したフランベルジェを袈裟に振り下ろす。脳天に直撃するかと思われたそれは、永琳がすんでのところで黒色剣で受け止める。

「輝夜は死んだ。もう何もできることはない。死んでしまったから、もう私の罪は償えない……!」
「罪……!?」

 硬く重たい言葉の響きに、僅かながらに永琳の本心、感情が乗せられていたような気がした。
 救われたいという彼女の言葉。自分しか愛せないという彼女の言葉。他者の良心を認めようとしない彼女の言葉。
 折り重なってゆく言動のひとつひとつが、妹紅に予感を抱かせる。
 彼女もまた同類。一歩を踏み出すことのできない、同類なのだと。

「私は、罪を清算して、救われたかったのよ。輝夜に付き従ったのもそのため。忠誠心もなにもなかった。
 輝夜もそれは分かっていた。分かっていたから……死んだのよ。私を嗤うために」
「っ……そんなの、理屈でしょう!」

 納得しかけた自分を振り払って妹紅は叫んだ。
 どこまでも立ちはだかる理屈という名の壁。
 知を持ち、考えられるからこそ辿り着いてしまうひとつの終着点。
 永琳は、真実救われたかったのだろう。自分のために輝夜に付き従い、自分のために輝夜に時間を費やした。
 ゆえに輝夜の死を了解することができなかった。己を救う希望が消えてしまったことが認められず、やがて達した結論は……

「だから……輝夜も自分を見捨てたって思うの!? 最初から救ってくれる存在じゃなかったって言いたいの!?」
「輝夜は私を嫌っていた。嫌いな私を見下すために死んだのよ」
「違う! 理不尽を人のせいにするな!」
「……あなたは、輝夜の味方がしたいの? 殺しあってたくせに?」

 乾いた哄笑が浮かぶ。それは妹紅を嘲笑い、自分が可哀想な存在だと肯定するような笑いだった。
 どこまでも悲劇のヒロイン面をして恥じない永琳に、カッと頭が熱を帯びるのが分かった。
 こいつは、主催者なんかじゃない。巻き込まれただけの……だがとびきり我が侭を言い散らす愚か者だ。

「さっきから言ってんでしょ……自分が世界で一番不幸だとか思ってんじゃないわよ! この、大馬鹿女ッ!」

 決着をつける。他者を拒絶してやまない永琳を分からせるために、妹紅は半ば防御を捨てた突きの構えを取る。
 ただ事ではないと判断したのか、永琳は黒色剣を投擲し動きを止めようとしたが、さながら猛り狂う炎となった妹紅を止められるものではなかった。
 左太腿に突き刺さり、鉄杭で打たれたような衝撃が走ったが、突きは止められない。
 剣の切っ先は正確に胸の窪みを向いている。刺さる、と確信を抱いた瞬間、永琳のスカートの影から小型の『使い魔』が現れた。
 まだいたのか!? 呆れるほど用意周到な永琳の隠し玉に、嵌ってしまったのだと妹紅は自覚した。
 フランベルジェの切っ先が『使い魔』に触れた瞬間、消滅した『使い魔』から行き場を失ったエネルギーが拡散し白い靄となって視界を覆う。
 永琳の姿がかき消える。反撃がくるかと身構えたが、違う、これは目くらましだと自分か、誰のものかも判然としない声が耳打ちした。
 そうだ。永琳は最初からさとりを狙い撃ちした。剣戟を交わしている間も空虚な言葉しか交わさず、端から問題外にしている風すらあった。

 じゃあどうするんだい、とまたもや響いてきた声が問いかける。
 ……決まっている。理屈を超えるには、理屈を超えた力が必要だ。
 やってみるかい、人間? 私の萃める力、想いを伝える力、貸すよ。

 声の主の正体を、妹紅はようやく理解していた。
 伊吹萃香。いや正確には、萃香の力の残留思念とも呼ぶべきものだろうか。
 永琳との戦いで散らばりに散らばった、萃香の力の残滓が再び萃まり妹紅に語りかけている。
 気持ちすら萃める力。気持ちすら伝える力。誰もが望み、誰もが得ることのなかった、思惟を紡ぎあうための力。
 夢から醒めた面持ちで周囲を見つめる。未だに白い靄で覆われてはいるものの、妹紅には全てが見える。
 頑なに他者を拒み続ける永琳の思惟も、生硬い意志を含ませ、死を半ば覚悟して不明の状況に望むさとりの思惟も。

「死なせない……! 私の友達を、死なせるもんか!」

 絶叫して妹紅が身体を走らせたのと、永琳が銃を持ち上げたのは、同時だった。

     *     *     *

 真っ直ぐな思惟がさとりを貫いたと同時、人影が躍り出てくる。
 腰のあたりまで綺麗に伸びた長髪が目の前を舞い、華奢ながらも凛として立つ背中が眼前を埋めた。
 こんな背中を、前にも見た覚えがある。不実を自覚しながらも、なお誠実に生きようとしていた一生懸命な人を。
 済まなかったな――死の間際になってようやく語られた本音が思い出され、さとりは無意識にその背中に手を伸ばしていた。

「死なせない……! 友達だからって、そんなことはしなくていいんです!」

 服の裾を力の限りに引っ張ったその刹那、永琳の銃が火を吹き、妹紅とさとりの間を擦過した。
 二人の、心臓にも、肺にも、どの急所にも、当たることはなく。
 偶然という力学が働き、死なせまいとさせているかのようだった。
 無論無傷だったわけではない。妹紅は足を撃ち抜かれ、さとりも差し出した右手の甲を撃ち抜かれた。
 ぐっという呻きが漏れる。それが自分のものなのか妹紅のものなのか判然としなかったが、まだ自分達が生きていることは確かだった。
 ほんの一瞬目を閉じ、次に開いたときには「在り得ない……!」と二人ともを殺しきれなかった永琳が憤怒に狂った声を絞り出す。
 なぜ、と問うてさえいるような見開かれた瞳に、さとりは「それは貴女の心根がさせたことだ……!」と裂帛の叫び声を放ち、能力を全開にする。

「恥を知りなさい! 八意永琳!」

 さとりの『第三の目』が睨み、永琳の目と合い、哀れとさえ思えるほどの怯えの色に染まる。

「……やめろ」

 心を本気で読んだわけではないし、読めるはずがない。しかしそれでも、己を知られる恥辱に、恐怖に耐えられない永琳の心が拒否しようとする。

「私の中に、入ってくるなぁっ!」

 再び銃を向け、引き金を引こうとする。
 だがさとりは永琳がそうすることを読んでいた。

「想起」

 血走った目を静かに見据え、血が流れ続ける手のひらを天に掲げる。

「『金閣寺の一枚天井』ッ!」

 彼女の中に潜むトラウマを呼び覚ます弾幕。
 彼女が、本来は心の奥底では思慕しているはずの、蓬莱山輝夜の弾幕だった。
 気付いたときにはもはや遅い。崩れることさえ自覚させず落ちてくる『金閣寺の一枚天井』が脳天に直撃し、身体をゆらめかせる。
 そのまま数歩ほどあらぬ方向へとふらつき、倒れるかと思われた永琳は、しかし獣染みた咆哮を上げてさとりの方向へと突進してくる。
 良心があるはずがない。そうでなければ――
 流れ込んできた心を見つめながら、さとりはもうひとつのトラウマを呼び覚ます。

「想起『永夜返し』」

 攻撃意志に反応し、刻んできた時間に比例する弾幕を放つ『永夜返し』は、無警戒に突っ込んできただけの永琳に一発も余さずに全弾を叩き込んでいた。
 百や千という単位ではない。万、億という単位の弾幕を受け、ほぼ満身創痍の状態に陥りながらも永琳は倒れなかった。
 しかし……その視線は、あらぬ方向へ向いていた。
 いや違う。彼女の視線の先、茫洋とした視線の先に在るものは、月だった。

     +     +     +

 月を初めて見た夜だった。
 見下ろすばかりだった地上から眺めるかつての故郷は小さく、ちっぽけで、滑稽にすら映っていた。
 自分を救うため、罪を購うため、全てを捨てたのだから、もう何も感じなくなっているのかもしれない。
 欲のために蓬莱の薬を作り、何の罪もなかった輝夜を巻き込み、まだ浅ましく己のためだけに逃げ出して……
 きっと恨んでいる。穢れきった身体にした自分を憎み続けているはず。
 ただ、死ぬこともできないから全てを諦めているだけなのだ。諦めているから、自分を側に置いている。
 それでもいい。それでも……

「月って、小さいのよ? 知ってた?」
「は……」

 月にいるときとは変わった、穏やかで覇気を失った声。
 ぼんやりと空を眺めていた自分に、輝夜が声をかけてきたのだった。

「私はここに来たとき、初めてそれを知った。穢れだらけとか聞いてたけど、案外そうでもなかった。
 みんな精一杯で、つまらないことに血道を上げて、じたばたしてる。とっても面白くてね」
「……」
「私は、そんなこともできなくなった。でも仕方がない。なるべくしてなったことなんだもの。
 もうどうしようもないなら、諦めて受け入れるまでよ」
「……」
「でも、そこで終わりじゃない。こうなったら、せいぜいのんびり暮らしてやるわ。
 わがままに暮らし抜いて、あいつらを見返してやるのよ。こんな私でも生きてる、ってね。
 共感してくれる馬鹿な従者もいてくれるしね」

 無言で、見返す。
 相変わらずののんびりとした、凛々しさの欠片もない笑い。
 世界に絶望した、有限を失った人間の皮肉。
 当時は、そう思っていた。

 ――でも、そうではなかったとしたら?

 絶望したのではなく、一からやり直そうと決めたが故の諦めだとしたら。
 月の生活も、立場も、本人の中できれいさっぱり清算した上で、仕方がないと言ったのだとしたら。

 ――違う! そんなわけがない!

 そんな風に考えられるのだとしたら、輝夜は自分を恨んでいないということで……
 恨んでいないはずがない。こんなに、酷いことをしたのに……仕方がないの一語で、済ませるはずがないのに!

「和の心っていうのがあるそうよ、地上には」

 出し抜けに紡がれた輝夜の言葉は、妄想ではなかった。
 確かに一度、この言葉を聞いていた。
 聞いていたのに、忘れていた。言葉の中身が信じられずに忘れていたのだ。
 輝夜は自分を嫌っていなければならず、自分は自分のことしか考えていない人間でなければならなかったから。

「地上の人間は調和を尊ぶんだって。嫌なことも、いいことも受け入れて自分の中で新しくこね直す」

 手のひらの中で、なにかをこねる仕草をする。
 唐突に、永琳は生まれ変わりという言葉を思い出していた。

「素敵だわ、って思った。最初に聞いたときは信じられなかったけど、今なら信じていいって思ってるの。
 なんやかんやってあったけど……幻想郷は、いいえ、地上は、私達ですら飲み込んだから」

 別人と化してしまったかのように感じていた輝夜は、生まれ変わっていただけだった。
 絶望から生まれた諦めではなく、そうなってもいいかという諦めによって。
 だったら、私は、とんでもないことを履き違えていた……?

「だから、私は全部赦すわ。永琳も……自分を赦してあげて、ね?」

 そのとき、私は拒絶していた。
 理屈しか信じられなかった私は、無言で輝夜の手を振り払った。
 振り払われて、とても寂しそうな表情の輝夜しか、後には残らなかった。
 あれが本当の救いであったはずなのに、そんなことを言うはずがないという恐怖に負けて、

 ――でも、それでも、これが幻でしかなくとも。

 輝夜が、愛してくれているのだと思えるのなら。
 振り払った手で、やり直しを求めるように、永琳は、ゆっくりと、
 輝夜の手を包んだ。

     +     +     +

「申し訳ありません、姫様」

 淡々と最後にそう呟いたかと思うと、ゆらりと動いた永琳の銃が、己の頭に突きつけられた。

「っ! 待っ――!」

 薄く笑った永琳の意図に気付き、さとりが静止をかけようとしたが、遅かった。
 寸分の躊躇もなく引かれた引き金が銃弾を撃ち出し、永琳の頭に血の華を咲かせた。
 意外なほど綺麗に貫通した銃弾は頭部を砕くことなく、血飛沫を少しだけ撒き散らして彼女の生に幕を下ろした。
 何を思って永琳が自殺という選択肢を取ったのかは分からない。
 心を読まれた屈辱か、死を身を委ねたくなったのか、それとも、救われたのか……知る術はなかった。

「……なんでもいいさ。とにかく、私達が生きた……」

 そんな自分の呟きを受け取って、さとりが地面に座り込む己の姿を見下ろしてくる。
 怪我はそこまでないようにも見えるが、疲れた表情をしている。
 『金閣寺の一枚天井』と『永夜返し』を連続で撃ったのだから当然なのかもしれなかったが。

「馬鹿ですよ、妹紅は」
「何よいきなり」
「大馬鹿です。ほら、立ちなさい」
「……そっちだって……」

 命賭けてたくせに。言い出そうとして気恥ずかしくなり、心を読んでくれることを期待してみたのだが、
 さとりは仏頂面で怪我をしていない方の手を差し出してくるばかりで、読んだのかそうでないのか判然としない。
 ふと妹紅は思った。どうして手を差し出してくるのだろう、と。

「足。そんなのじゃ歩けないでしょう。肩を貸します」
「あー。そんなのすぐに治……らないか」

 赤いもんぺを履いているため怪我がどうなっているのか分からないが、ズキズキと痛むため治ってないのだろう。たぶん。

「治ってても肩を貸してもらいます。こっちも無事ではないので」
「なんか、物言いがズケズケしてきてない?」
「……いけません、か?」

 そこで済まなさそうに身を縮ませるものだから、憎まれ口を叩く気力が抜けてゆく。
 遠慮しているのか図々しいのか全く分からず、どう口を利いたものかと迷いに迷った挙句、
 「あーもう! ほら!」と手を差し出して有耶無耶にすることにした。
 距離感を測ることを怠っていた者同士、随分と不器用なものだと思ったが、悪い気はしないのも事実だった。
 これも一つの可能性の地平、不揃いな林檎同士でつるみ合うということだってある。今、それを証明することができた。

「ほら、行くよ! それ、わっしょいわっしょい」
「え、え? わ、わっしょいわっしょい……って、どこに?」
「寺子屋だよ。ほらほら、掛け声」

 バシバシと肩を叩き、調子っぱずれな声を響かせながら、肩を組んだ人間と妖怪が進む。
 一歩ごとに脈動する痛みが走ってはいたが、苦になるどころか気にもならない開放感があった。

「……あ」
「何、どしたの」
「……回収するべきなんでしょうか、荷物」

 死体と化した永琳の側に落ちている銃。恐らくは、幻想郷でも最強格の武器。
 持っておいて損はない代物ではある。顔を見合わせて、身体をUターンさせる。
 不器用な馬鹿ふたりの門出はこんなものかと思うと可笑しく、何をやっても面白くなりそうだという根拠もない確信が湧いてくるのを感じていた。




【D-4 人里のはずれ 一日目・真夜中】


藤原 妹紅
[状態]腕に切り傷、左足に銃創(弾は貫通)
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、光学迷彩
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない。
2.萃香と紅魔館に向かい、にとり達と合流する。
3.てゐを探し出して目を覚まさせたい。

※以前のてゐとの会話から、永琳が主催者である可能性を疑い始めています。


【古明地さとり】
[状態]:肩、右手甲に銃創(弾は貫通)、妖力の酷使による能力の低下(読心範囲が狭くなっている)
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.こいしと燐の死体の探索
2.西行寺幽々子の探索
3.こいしと燐を殺した者を見つけても……それでも、良心を信じてみたい
4.ルーミアを……どうするのが最善だった?
5.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※閻魔を警戒
※明け方までに博麗神社へ向かう
※小町の心を読みました
※アサルトライフルFN SCAR(0/20)、永琳の支給品一式、ダーツ(24本)、FN SCARの予備マガジン×2は回収されました。どのように分配するかは不確定です。


【八意永琳 死亡】

残り13人




166:空の彼方に(前編) 時系列順 167:chain
166:空の彼方に(前編) 投下順 167:chain
166:空の彼方に(前編) 藤原妹紅 174:正直者の死(前編)
166:空の彼方に(前編) 古明地さとり 174:正直者の死(前編)
166:空の彼方に(前編) 八意永琳 死亡


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最終更新:2013年03月10日 00:33
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