二択

二択 ◆1gAmKH/ggU




『人生は常にニ択の繰り返しである』
『一つを選択して、もう一つを選択していた場合について知る事が出来る事などそうそう存在しない』


森を歩きながら少女は感じていた。かすかな、しかしはっきりとした無数の温度の変化を。
進行方向から発せられる嫌な温度変化に彼女の自転車のハンドルを握る力も思わず強くなる。
彼女の顕族が蛙であるからか、彼女は他人よりも少し温度の変化に敏感であった。
肌が弾きだす温度の変化は、確かに人間よりも高温で無数に存在するそれの存在を示している。
続いて漂ってくる異臭。
知識のある人や嗅いだ事のある人ならすぐにそれと分かるその臭い。
「火薬……何かが爆ぜた臭いかな?」
少女、は帽子を持ち上げ、進行方向を見つめる。
「この嫌な感じ、仲良く話し合い!って感じじゃなさそうね」
それははっきりとわかる。
感じられた熱源の移動は一方からのみ。蛇のようにうねりながら何かに近づいていくのは判断できた。
次に風に吹かれ漂ってきた火薬の、硝煙の臭い。
どちらかが危険物を使ったであろうことはわかる、が。
「さて、と……どうしたもんかな?」
彼女は決めあぐねていた。
選択肢は二つ。
このまま博麗神社で待っているだろう早苗を迎えに行くか。
殺し合いに乗っている参加者を止めに行くか。
彼女としては早苗を迎えに行き、早めに合流しておきたい。
しかし、乗った人物を野放しにしておくのは危険だ。
もし放置しておいて被害者が出れば後味の悪い事この上ない。
「と、なると、やっぱり選べる道は一つ、か」
見た所、早苗は自分のように能力を制限されているわけではないようだ。
という事は、他人から襲われて殺される心配はほとんど無いと言えるはずだ。
優しすぎる性格から寝首を掻かれる可能性はあるかもしれないが、こんな状況なら彼女も他人を疑う位はするだろう。
対してもう一つはそうはいかない。
放置しておいて良い事なんて起こらないし、大丈夫だなんて言えるはずがない。
自分が放置した乗った人間が(あり得ない事だが)神奈子が殺される可能性もある。
それに(もっとあり得ない事だが)乗った人間が神奈子の可能性だって無いわけではない。
「早苗には悪いけど、向こうの方が心配だし」
諏訪子は自転車の向きを変え、温度変化の元へと急ぐ。

幸か不幸か、彼女はこのゲーム中2人にしか出会わなかった。
だから諏訪子は知らなかった。彼女の懸念していた人物、東風谷早苗が今ピンチに陥っている事を。
だから諏訪子は知らなかった。彼女とともに二柱として崇められていた八坂神奈子が今、殺し合いに乗っている事を。

諏訪子は歩き続ける。
自分のために、皆のために。

水橋パルスィが蓬莱山輝夜に殺されんとする瞬間。
洩矢諏訪子は二人から少し離れた森の中に居た。
森の中といっても諏訪子から輝夜たちの位置はきちんと見えているし輝夜の恐慌もきちんと見えている。
しかし彼女は動かない。

見ず知らずの少女たちが殺し合うのを、彼女は見ているしかできなかった。
今から助けに行ってもこの距離では到底助けられない。
援護射撃をしようとも考えたが、もう遅い。
金髪の子は右腕を撃ち抜かれ、銃も失い。その上黒髪の少女はもう銃が構えている。
つまり二人の勝負はもう、将棋やチェスで言う「詰み(チェック・メイト)」の形にはまってしまっているのだ。
それどころか射撃しようものなら、こちらの場所を知られてしまう。
それだけは何としても避けておきたい。
黒髪の少女はは先ほど、文字通り『音も無く』金髪の少女に近づいた。
それが少女の能力なのかは知らないが、とりあえず彼女は音を消せると考えて間違いないはず。
では、無駄な射撃でこちらの場所が割れてしまえば?
黒髪は間違いなく音を消してこちらに矛先を向けてくるだろう。
「さて、どうしましょうか」
襲撃か、撤退か。
この問いかけも答えはすぐに出る。
音の無い襲撃者。このゲームにおいてそれはどれくらいの脅威になるだろうか。
それを考えればここで彼女を野放しにしておいてはいけない。
「追跡、あわよくば始末ってところか」
この殺し合いには反対だ。
だからと言って乗っている人間を見逃すわけにはいかない。
これ以上の殺人を止めるため、その芽を摘んでおくのも重要だ。
危険因子は排除しておかなければならない、これ以上の力を得る前に。
そこまで考えて、少女はその皮肉に軽く嘲笑を零した。
自分は今、人殺しをやめさせるために自らの手を血で汚そうとしている。
そんな自分に早苗はいつものように微笑みかけてくれるだろうか。
でも、やるしかないのだ。
それが金髪の少女を助ける事の出来なかった自分ができる唯一の償い。
それが殺し合いを終わらせる唯一の方法。
「お、どうやら動き出したみたいだね」
見晴らしの良い場所から金髪の少女の物だった武器を手に、黒髪の少女は歩き出す。
さて、彼女を殺すとして。
どうする?尾行か、不意打ちか。
不意打ちか。敵は気付いていないが、距離が気になる。
平地だから支給品である自転車に乗れば速く移動できるが、残念なことに今、自転車は折りたたんでスキマ袋の中だ。
組み立てて乗るか?時間がかかりすぎて見失ってしまう。
成功するか失敗するかは五分五分、いや、消音を計算に入れれば六分四分くらいだろう。
その上失敗した時のリスクは大きい。
殺し合いの場であそこまで消音の能力を利用しているのだ。相当頭のいい者なのだろう。
それこそ、一度失敗すれば二度と同じ手は食わないほどに。
「じゃあ、やっぱり追跡か」
ばれずに追っていればいつか隙を見せるだろう。
今はできるだけ距離を詰め、襲撃するならその時。
諏訪子は極力音を立てないようにその場を後にした。

なんだろう。
蓬莱山輝夜は心の中で首を傾げた。
誰かが自分を追って来ている気がするのだ。
完璧に消音ができているのでそんなはずはないのに。
どうも視線を感じる気がする。何度か振り返ってもみたが誰もいない。
最初は鈴仙辺りが居るのかとも思ったが、彼女なら私に話しかけてくるだろう。
ならば『生き物が近くに居る事を理解できる能力を持った参加者』か。
何かの拍子で私の事を見つけたなら『姿を消す』だけでも良い。
そういえば。
「ねぇ、ルナ……でよかったかしら?」
輝夜は手元のルナチャイルドに話しかける。
返事は無い。
当たり前だ。猿轡を噛まされているのだから。
「ああ、大丈夫よ。すごく簡単な質問をするだけだから。貴女は首を振ってくれるだけでいいわ」
こくりと頷くルナチャイルドを見て、輝夜は嬉しそうに頭を撫で、言葉を続ける。
「貴女、生き物を探す能力とか姿を消せる能力とかを使える人、知らない?」

ルナチャイルドは絶句した。
彼女を縛りつけているこの人物のいった条件に自分の知り合いが当てはまるからだ。
サニーミルクにスターサファイア。何を隠そう、ルナチャイルドの親友なのだ、その能力の使い手たちは。
もう一人、兎のお姉さんも同じ能力を使えていたが、彼女については何も知らない。
どうする、喋るか、喋らないか。
でも……
ルナチャイルドは理解していた。
これは殺し合いであり、自分と一緒に居るこのスターそっくりなお姉さんは殺し合いに乗っている人なのだ。
そんな状況で、何故お姉さんはサニーの事を聞きたがる?
彼女たちを一緒に保護してくれるため……じゃあないだろう流石に。
たぶん、二人の能力がこのゲームで有利に事を運べるようになるから。
または有利な参加者を出さないようにその手で始末しておきたいから。
ルナチャイルドは当然首を横に振り、否定の意を表した。
仲間たちまでこんな狂った女の片棒を担ぐ必要はない。
自分だけでいいのだ、こんな事になるのは。
幸い目の前のお姉さんに、嘘を見破る能力は無い。
見破る能力があれば、自分の表情を探ったりはしないはずだ。

輝夜の手の中で、ルナチャイルドは必死に首を振る。
さて、信じるか、信じないか。
結論を言えば輝夜はその答えをほとんど信用していなかった。
この妖精について鈴仙から昔聞いた事がある。確か三匹で悪戯やウサギ狩りをしているとかなんとか。
悪戯をするのに音を消すだけでできるか?出来るわけがない。
たぶん他にも能力を持っている妖精が居るはず。
輝夜はゆっくりとルナチャイルドの髪に手を通す。
「本当かしら?」
ルナチャイルドは黙ってこくこくと頷く。
ルナの目に涙が浮かぶ。当然だ。ちょっとやそっとでは抜けるはずの無い毛髪を引っこ抜いたのだから。
「本当に?」
ルナは依然こくこくと頷いている。
嘘をついていないのか、それとも嘘を貫こうとしているのか。
輝夜にそれは分からない。

そう、自分は嘘をついていない。
サニーミルクの能力はあくまで『光の波長を操る能力』だ。
姿を隠す能力じゃない、だから嘘はついていない。
スターサファイアの能力は生き物の場所は分かるが探す事は出来ない。
屁理屈であるがこれは真実。嘘なんて付いていない。
ルナチャイルドはそう思い続けた。聞かれなおそうが、髪を抜かれようが。ずっと。
「そう、ならいいわ」
輝夜は諦めたのか、ルナの髪を弄るのをやめてふたたび歩き始めた。
(大丈夫、大丈夫)
ルナも涙をこらえ前を向く。
自分が気を強く持たなければ、サニーやスターまで危険が及ぶかもしれない。


人生は常にニ択、選んだあとにifは存在しない。

もし諏訪子が早苗の元に向かっていたら。
もし諏訪子が輝夜を襲撃していたら。
もし輝夜がルナの事を信じていたら。
もし輝夜が拷問をもっと長く続けていたら。
もしルナが正直に話していたら。
もしルナが拷問に屈していたら。

そんな考察はするだけ無駄だ。



月の名を持つ妖精と月から来た姫の夜は明けた。
後ろに隠れたカエルとともに。


【F‐4 一日目 早朝】
【洩矢諏訪子】
[状態]健康
[装備]折りたたみ自転車
[道具]支給品一式、不明アイテム0~2(武器になりそうな物はない)
[思考・状況]対主催 早苗を守る
[行動方針]1,輝夜を殺す
      2,星型弾幕の発生源へと向かう(早苗と合流)
      3,2終了後人里へ向かい、ルナサ・阿求と合流
      4,神奈子が気になる

【F‐4 一日目 早朝】
【蓬莱山輝夜】
[状態]やや疲労
[装備]ウェルロッド(2/5)、アサルトライフルFN SCAR(19/20)
[道具]支給品一式×2、ルナチャイルド、予備の弾あり
[思考・状況]優勝して永琳を助ける。鈴仙たちには出来れば会いたくない。
[行動方針]1,人の集まりそうなところへ行き、参加者を殺す
      2,なんだか後ろが気になる
      3,ルナは本当の事を言ってるのかしら?別にどうでもいいけど

【ルナチャイルド】
[立場]装備品
[状態]身動きが出来ない 喋れない 中度の疲労
[思考・状況]1,輝夜への恐怖 しかし屈しない
       2,仲間を守るために輝夜に真実を伝えない
       3,状況次第で仲間(三月精)と再会したい

※ルナチャイルドはサニーミルクと違い、月の光で充電できます。他は三月精と同じ機能です。
※今のルナチャイルドは動きと口を封じられ、能力を強制発動させられています。


50:黒と白の境界 時系列順 53:死より得るもの/Necrologia
51:十年物の光マグロ 投下順 53:死より得るもの/Necrologia
17:ケロちゃん殺し合いに負けず 洩矢諏訪子 60:ロールプレイングゲーム
25:月のいはかさの呪い(難題式) 蓬莱山輝夜 60:ロールプレイングゲーム


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年06月13日 22:22
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。