Chapter19「消えた魔竜」
「火竜王様、お願いします! 僕が責任をもってティルを見張ると約束します! だからどうかティルを封印するのだけはやめてください!!」
ムスペ城にナープの懇願する声が響く。
新ケツァル王へと挨拶を済ませたナープたちはムスペへと戻ってきていた。
「何度も言うがそれはできぬ。初代ケツァル殿との約束なのでな」
「それはわかっています! でも、その約束は『魔竜を監視する』というもので、『魔竜を封印する』ものじゃない。そうですよね!?」
「それはそうだが…。監視するというのは危険がないか見張るということだ。封印されていた魔竜が蘇るというのは危険なこと。いくら監視することが約束だとは言え、ただ見てるだけでそれでいいというものではない」
「それでも封印する以外に方法はいくらでも…」
「あったならばすでに実行している。これは仕方がないことなのだ」
ティルを救いたい。その一心でナープは決心したのだ。
自分は自分のできることをするのだと。できるかできないかではなく、やるのだと。
なんとしても火竜王を説得して見せると意気込んで見せたまではよかった。
しかし実際はそれほど甘くはなかった。事は火竜王だけの問題ではないのだ。
初代ケツァルとの約束。そして魔竜の封印を守ることそれ自体が目的の天竜。
説得すべき相手はセルシウスだけではなかった。火竜王の一存でどうにかなる問題ではなかったのだ。
それならば全員説得すればいいだけの話。困難ではあるが天竜ゼロは説得することができるかもしれない。
だが初代ケツァルはもうこの世にはいない。いない者を説得することなんてできないのだ。
「もう諦めるんだ、ナープ。セルだって困っている」
「リムリプスは記憶を取り戻したんだろう。だったらそれはもうおまえの知ってるティルとは違う存在なんだ。ナープ、おまえが知っているのは記憶を失っていた頃のティルだろう?」
フロウもガルフも口を揃えて仕方ないのだと言った。
それでもナープはどうしても諦められなかった。
たしかに記憶を失っていた頃のティルを知っているのであって、リムリプスのことは何も知らない。
でも記憶が戻ったからといって、記憶が失っていた頃に経験したことがなかったことになるわけではない。
ティルと過ごしたあの頃の記憶が、ティルから失われてしまったわけではない。
それにナープには忘れられなかった。バルハラの牢に囚われていたティルの悲しそうな目が。
本当に魔竜が危険な存在なのだとしたら、凶暴な存在なのだとしたら、果たしてあんな目をしたりするだろうか。
ナープはティルを信じていた。
「どうして父さんも兄さんもわかってくれないんだ! もういい、頼まないよ!」
悔しさを表情に浮かべながらナープは玉座の間を後にした。
「すまん、セル。気難しい年頃なんだ」
「構わぬよ。私とてナープの気持ちがわからぬわけではないからな」
「俺は……どうすればよかったんだろうか。ナープ…」
ガルフは複雑な思いで去っていくナープの背中を見つめていた。
ムスペ城にナープの懇願する声が響く。
新ケツァル王へと挨拶を済ませたナープたちはムスペへと戻ってきていた。
「何度も言うがそれはできぬ。初代ケツァル殿との約束なのでな」
「それはわかっています! でも、その約束は『魔竜を監視する』というもので、『魔竜を封印する』ものじゃない。そうですよね!?」
「それはそうだが…。監視するというのは危険がないか見張るということだ。封印されていた魔竜が蘇るというのは危険なこと。いくら監視することが約束だとは言え、ただ見てるだけでそれでいいというものではない」
「それでも封印する以外に方法はいくらでも…」
「あったならばすでに実行している。これは仕方がないことなのだ」
ティルを救いたい。その一心でナープは決心したのだ。
自分は自分のできることをするのだと。できるかできないかではなく、やるのだと。
なんとしても火竜王を説得して見せると意気込んで見せたまではよかった。
しかし実際はそれほど甘くはなかった。事は火竜王だけの問題ではないのだ。
初代ケツァルとの約束。そして魔竜の封印を守ることそれ自体が目的の天竜。
説得すべき相手はセルシウスだけではなかった。火竜王の一存でどうにかなる問題ではなかったのだ。
それならば全員説得すればいいだけの話。困難ではあるが天竜ゼロは説得することができるかもしれない。
だが初代ケツァルはもうこの世にはいない。いない者を説得することなんてできないのだ。
「もう諦めるんだ、ナープ。セルだって困っている」
「リムリプスは記憶を取り戻したんだろう。だったらそれはもうおまえの知ってるティルとは違う存在なんだ。ナープ、おまえが知っているのは記憶を失っていた頃のティルだろう?」
フロウもガルフも口を揃えて仕方ないのだと言った。
それでもナープはどうしても諦められなかった。
たしかに記憶を失っていた頃のティルを知っているのであって、リムリプスのことは何も知らない。
でも記憶が戻ったからといって、記憶が失っていた頃に経験したことがなかったことになるわけではない。
ティルと過ごしたあの頃の記憶が、ティルから失われてしまったわけではない。
それにナープには忘れられなかった。バルハラの牢に囚われていたティルの悲しそうな目が。
本当に魔竜が危険な存在なのだとしたら、凶暴な存在なのだとしたら、果たしてあんな目をしたりするだろうか。
ナープはティルを信じていた。
「どうして父さんも兄さんもわかってくれないんだ! もういい、頼まないよ!」
悔しさを表情に浮かべながらナープは玉座の間を後にした。
「すまん、セル。気難しい年頃なんだ」
「構わぬよ。私とてナープの気持ちがわからぬわけではないからな」
「俺は……どうすればよかったんだろうか。ナープ…」
ガルフは複雑な思いで去っていくナープの背中を見つめていた。
ナープはガルフを除く兄弟たちを集めて協力を呼び掛けていた。
ムスペ城にはようやくナープの兄弟たちが顔を揃えていた。
マリンはガルフに無理やり連れられて。リヴァーはマリンの説得のために遅くなったが、マリンがガルフに連れられてムスペへ向かったので、ようやくムスペに来ることができたのだった。
そんなマリンは機嫌が悪く、まるでナープの話に取り合ってくれない様子だ。
「そもそもティルって誰? なんで私が手伝わなくちゃならないわけ? わけわかんない」
「なんだよ、そんな言い方ってないじゃないか!」
「いい、ナープ? 私はあんたの友情物語なんてキョーミないの。持ってくるなら恋愛物語を持ってきなさいよ。そしたら、私がイッパツでくっつけてあげるから」
「姉さん、そういうけどいつもぶっ壊してばかりじゃないか…」
リヴァーがこっそりとぼやくが、マリンがひと睨みするとリヴァーは首をすくめて黙り込んでしまった。
「じゃあリヴァーは?」
「ぼくはナープを手伝ってあげたいとは思うけど…。でも火竜王様に逆らうようなことなんて…。やめたほうがいいよ。父さんにだって迷惑をかけることになる」
「それはそうだけど……! ああ。それじゃ一応聞くけど、サーフは?」
「え、ボク? よくわかんないけど、めんどくさそうだからやめとくね」
「あー、どうせそうだろうと思ったよ」
半ば予想はしていたことだったが、兄弟たちは誰も協力してくれないようだった。
それも仕方がないといえばそうだ。誰もティルと面識がなかったのだから。
「しょうがない、僕だけでなんとかするしか…」
助力を得ることは諦めて独力でなんとかしようとするナープだったが、そんなナープを引きとめる声があった。
「前から気になってたんだけど、ティルって誰のことなの?」
意外にも喰い付いてきたのはクリアだった。
「ああ、ティルっていうのは…」
ナープはティルのことを説明した。
ある日、道端に倒れていた記憶喪失の仔竜ティルのことを。
ティルを狙ってきた蒼竜ラルガのことを。
そして、ウィルオンに聞かされた魔竜ティルの真実を。
「魔竜!? ティルってあの魔竜だったの、伝説の!?」
「伝説になってるのかどうかは知らないけど、魔竜なのは確かだ。ティル自身もそう言ってた。火竜王や父さんが今封印しようとしてるリムリプスが、そのティルなんだ」
「なんということなの…。伝説のケツァル王国が突然蘇ったと思ったら、こんどは魔竜まで現れるなんて! これは奇跡ね。そう、これは奇跡に違いない」
「……えーっと、クリア?」
「あ、ごめん。ねぇナープ。わたしもそのティルに会うことはできないかな。いや、会わせてください! こんなチャンスもう一生無い気がする」
「それは僕を手伝ってくれるって意味?」
「本物の魔竜に会えるならわたし何だって手伝っちゃうよ。伝説が目の前にあるんだもの。それを見逃さない手はないね。しかもその伝説と直接関わりあえるなら、どんなことだってやっちゃうよ」
「わかった。それなら僕に力を貸してほしい。ティルを救う方法を一緒に考えよう」
クリアの動機にやや不安が残るところはあったが、今は少しでも多くの力が欲しい。
それにサーフと同じように自由すぎるやつだと思いきや、意外としっかりとした面をクリアは持ち合わせていることをナープは知っている。
少なくとも、サーフやマリンなんかよりはずっと力になるだろう。
気がつくとマリンとリヴァーはいつの間にか口論を始めていた。
他に協力が得られないとわかった以上、もうここにいても仕方がない。
ナープはクリアを伴って部屋を後にすることにした。
「あれ、クリアどこか行くの? じゃあボクもついてく」
協力者には洩れなくサーフのおまけつきだった。おまえはヒモか。
ともあれ、クリアとサーフを引き連れて部屋を後にした。
三人寄れば文殊の知恵ともいうじゃないか。
サーフにはあまり期待していないが、何かティルを助けるいい案が浮かぶことを期待して。
ムスペ城にはようやくナープの兄弟たちが顔を揃えていた。
マリンはガルフに無理やり連れられて。リヴァーはマリンの説得のために遅くなったが、マリンがガルフに連れられてムスペへ向かったので、ようやくムスペに来ることができたのだった。
そんなマリンは機嫌が悪く、まるでナープの話に取り合ってくれない様子だ。
「そもそもティルって誰? なんで私が手伝わなくちゃならないわけ? わけわかんない」
「なんだよ、そんな言い方ってないじゃないか!」
「いい、ナープ? 私はあんたの友情物語なんてキョーミないの。持ってくるなら恋愛物語を持ってきなさいよ。そしたら、私がイッパツでくっつけてあげるから」
「姉さん、そういうけどいつもぶっ壊してばかりじゃないか…」
リヴァーがこっそりとぼやくが、マリンがひと睨みするとリヴァーは首をすくめて黙り込んでしまった。
「じゃあリヴァーは?」
「ぼくはナープを手伝ってあげたいとは思うけど…。でも火竜王様に逆らうようなことなんて…。やめたほうがいいよ。父さんにだって迷惑をかけることになる」
「それはそうだけど……! ああ。それじゃ一応聞くけど、サーフは?」
「え、ボク? よくわかんないけど、めんどくさそうだからやめとくね」
「あー、どうせそうだろうと思ったよ」
半ば予想はしていたことだったが、兄弟たちは誰も協力してくれないようだった。
それも仕方がないといえばそうだ。誰もティルと面識がなかったのだから。
「しょうがない、僕だけでなんとかするしか…」
助力を得ることは諦めて独力でなんとかしようとするナープだったが、そんなナープを引きとめる声があった。
「前から気になってたんだけど、ティルって誰のことなの?」
意外にも喰い付いてきたのはクリアだった。
「ああ、ティルっていうのは…」
ナープはティルのことを説明した。
ある日、道端に倒れていた記憶喪失の仔竜ティルのことを。
ティルを狙ってきた蒼竜ラルガのことを。
そして、ウィルオンに聞かされた魔竜ティルの真実を。
「魔竜!? ティルってあの魔竜だったの、伝説の!?」
「伝説になってるのかどうかは知らないけど、魔竜なのは確かだ。ティル自身もそう言ってた。火竜王や父さんが今封印しようとしてるリムリプスが、そのティルなんだ」
「なんということなの…。伝説のケツァル王国が突然蘇ったと思ったら、こんどは魔竜まで現れるなんて! これは奇跡ね。そう、これは奇跡に違いない」
「……えーっと、クリア?」
「あ、ごめん。ねぇナープ。わたしもそのティルに会うことはできないかな。いや、会わせてください! こんなチャンスもう一生無い気がする」
「それは僕を手伝ってくれるって意味?」
「本物の魔竜に会えるならわたし何だって手伝っちゃうよ。伝説が目の前にあるんだもの。それを見逃さない手はないね。しかもその伝説と直接関わりあえるなら、どんなことだってやっちゃうよ」
「わかった。それなら僕に力を貸してほしい。ティルを救う方法を一緒に考えよう」
クリアの動機にやや不安が残るところはあったが、今は少しでも多くの力が欲しい。
それにサーフと同じように自由すぎるやつだと思いきや、意外としっかりとした面をクリアは持ち合わせていることをナープは知っている。
少なくとも、サーフやマリンなんかよりはずっと力になるだろう。
気がつくとマリンとリヴァーはいつの間にか口論を始めていた。
他に協力が得られないとわかった以上、もうここにいても仕方がない。
ナープはクリアを伴って部屋を後にすることにした。
「あれ、クリアどこか行くの? じゃあボクもついてく」
協力者には洩れなくサーフのおまけつきだった。おまえはヒモか。
ともあれ、クリアとサーフを引き連れて部屋を後にした。
三人寄れば文殊の知恵ともいうじゃないか。
サーフにはあまり期待していないが、何かティルを助けるいい案が浮かぶことを期待して。
一方リクたちは蔦を登り切ってバルハラの王宮に到着していた。
さぁ、ウィルオンに会ってティルのことを相談しよう。絶対にティルを助け出そう。
そう意気込んでいたところに、バルハラ兵たちの慌てた声が聞こえてくる。
「リムリプスが消えただと!? ど、どういうことだ!」
「わ、わかりません! 我々が見たときにはもう牢はもぬけのカラで…」
「おのれ、魔竜め。妙に大人しいと思ったら……やられた! くそっ、ゼロ様になんて報告すれば…。と、とにかく急いで部隊を送るのだ! できればこのことがゼロ様の耳に入る前に魔竜を見つけだせ!」
バルハラの王宮は大騒ぎになっていた。
物陰に隠れてその様子をこっそり窺っていたリクとリシェ。
「魔竜がいなくなったって!」
「ティルのやつ、ここに捕まってたんだな。でもうまく逃げ出したみたいだ」
「でもどこに行ったんだ?」
「そうだな。親父たちより先に見つけて合流しないと…」
そんなリクたちのもとに一枚の羽根が舞い降りてきた。
見覚えのあるオレンジの羽……それはウィザからのメッセージだった。
羽根を手に取ると、それは手紙に変わった。
手紙を読み終えるとリクの顔色も変わった。
「何が書いてあったんだ」
「ちょうど知りたかったことだ。すぐにステイブルへ向かわないと!」
手紙を読み終えると、それはひとりでに大きく床に広がった。
広がった紙には魔法陣のような紋様が描かれている。
「これは……! 気がきくじゃないか、ウィザ」
リクたちが魔法陣に乗ると、手紙ごとリクたちの姿は消えた。
さっきまでリクたちが隠れていた場所を兵士が通りかかったが、そこに誰かがいたことにはまったく気がつかなかった。
さぁ、ウィルオンに会ってティルのことを相談しよう。絶対にティルを助け出そう。
そう意気込んでいたところに、バルハラ兵たちの慌てた声が聞こえてくる。
「リムリプスが消えただと!? ど、どういうことだ!」
「わ、わかりません! 我々が見たときにはもう牢はもぬけのカラで…」
「おのれ、魔竜め。妙に大人しいと思ったら……やられた! くそっ、ゼロ様になんて報告すれば…。と、とにかく急いで部隊を送るのだ! できればこのことがゼロ様の耳に入る前に魔竜を見つけだせ!」
バルハラの王宮は大騒ぎになっていた。
物陰に隠れてその様子をこっそり窺っていたリクとリシェ。
「魔竜がいなくなったって!」
「ティルのやつ、ここに捕まってたんだな。でもうまく逃げ出したみたいだ」
「でもどこに行ったんだ?」
「そうだな。親父たちより先に見つけて合流しないと…」
そんなリクたちのもとに一枚の羽根が舞い降りてきた。
見覚えのあるオレンジの羽……それはウィザからのメッセージだった。
羽根を手に取ると、それは手紙に変わった。
手紙を読み終えるとリクの顔色も変わった。
「何が書いてあったんだ」
「ちょうど知りたかったことだ。すぐにステイブルへ向かわないと!」
手紙を読み終えると、それはひとりでに大きく床に広がった。
広がった紙には魔法陣のような紋様が描かれている。
「これは……! 気がきくじゃないか、ウィザ」
リクたちが魔法陣に乗ると、手紙ごとリクたちの姿は消えた。
さっきまでリクたちが隠れていた場所を兵士が通りかかったが、そこに誰かがいたことにはまったく気がつかなかった。
ステイブルに光に包まれた姿が現れる。
光は徐々にもとの姿を取り戻していき、それはナープ、サーフ、そしてクリアの姿になった。
「またここに来ることになるなんてね」
「あ、あれ! ボクたちムスペにいたはずじゃ!?」
「ここは……地上?」
「あのオレンジの羽、ウィザのものだ。きっとこれもウィザの魔法なんだろう」
見回すと、予想通りそこにはウィザが待っていた。
続けてナープたちと同様にリクとリシェが光に包まれて現れる。
呼び出した面々が顔を揃えたのを確認するとウィザはおもむろに言った。
「見せたいものがあるんだ」
ステイブルから北へ。
リクはかつて一度通ったことのある道だった。
ホワイトプラトウの山、スノゥグランド村へと向かう道中。
そこには見覚えのない洞窟があった。木々に隠されるようにして口を開けているので、おそらく以前は気付かなかったのだろう。そして、その中にいたのは……
「「ティル……!!!」」
洞窟の奥にぽつんとティルが座り込んでいた。
「無事だったんだな!」
魔竜は無言でもって応えた。
「でもどうやって?」
「へへへ、ボクが助け出したんだ。魔法でね」
「お手柄じゃないか、ウィザ!」
「修行したかいがあったというもんだね」
ウィザの働きをリクたちは喜んだが、ティルはそれを心配していた。
「よかったのかな、こんなことして…。きっと大変なことになるよ」
「もう大変なことになってるさ。バルハラは大騒ぎだった」
リクは実際に見てきた様子を伝えた。
「ああ…」
それを聞いてティルは悲しそうな表情を浮かべるのだった。
「バルハラと言えばウィルオンはどうしてた?」
「ああ、いや。まだ会ってなかった」
「オレたちバルハラに着いて、そこですぐにウィザの手紙が来たからな」
「僕は会った。ウィルオンもティルのことで悩んでたよ」
ナープは火竜王と共にバルハラへ向かったときのことを伝えた。
リクが見てきたこと。ナープが見てきたこと。そしてウィザが見てきたこと。
一同は互いに情報を共有し合った。
「ニンゲンって本当にいたんだ! オレ、伝説上の存在だと思ってたぞ」
「人間は実在するよ。魔法戦争の伝説にも出てくるし、今でも地上にいくつか住んでるみたい。わたしは会ったことないけどね」
「まぁ、それはともかくだ。まとめると、親父が勝手にやってることなんだな?」
「それとムスペの王様もね。初代ケツァルはもういないし、ウィルオンはもちろんティルの封印なんて望んでない」
天竜の役目として魔竜を封印しようとするゼロ。
初代ケツァルとの約束を守るために魔竜を封印しようとする火竜王セルシウス。
ティルを救うためには、その両方を止める必要があった。
「父親を敵に回すことになるけど……いいの?」
「構わない。それに親父とは一度、決着をつけなくちゃならないと思ってたんだ。スロヴェストでは負けたけど、今度は俺が勝つ」
リクは力強く拳を握りしめる。
「ムスペの王様は? こっちは簡単にはいかないよ。だって王様なんだもん。倒しちゃったらえらいことになるよ。それにムスペまんじゅうがなくなっちゃうのはボクはいやだな」
「火竜王には父さん……フロウやガルフも協力的な様子だった。……けど、僕も覚悟はできてる」
ナープの目にもう迷いはない。
「なんとか戦わずにすむ方法はないのかな」
「説得できればそれが一番いいんだけど……あの様子じゃ難しいだろうね。ケツァル王国の現国王であるウィルオンが何を言ってもまるでだめだったぐらいだからな」
「親父のほうは俺がなんとかするよ。息子責任だ。ムスペの王様のほうをどうするか考えよう」
「セルシウスにも子どもはいないのかな。なんとか説得してもらえるといいんだけど」
「一度、ムスペについて詳しく調べてみたほうがよさそうだね」
「ムスペ!? じゃあボクが行くよ!」
「サーフはムスペまんじゅうが食べたいだけだろ」
「ムスペまんじゅうはいいんだよ! 甘いのも辛いのもどっちも楽しめるんだから! ああ、あれはいいものだ」
「聞いてない」
一方でティルは複雑な心境だった。
自分という存在があるから争いが起こってしまう。これは避けられない運命だ。
そこに仲間たちを巻き込みたくないから、ティルは自ら封印されることを望むのだ。
自分さえ封印されれば争いは起こらない。争いがなければ仲間に危険が及ぶこともない。
しかし、そんな自分の思いとは関係なしに周囲が勝手に運命を決めてしまう。
巻き込みたくないのに。
巻き込みたくなかったのに。
それでも、運命は争いへと向かってしまう。
リクは父親であるゼロと敵対する。ナープは父親であるフロウと敵対する。
さらにムスペという大国を敵に回してしまう。
それなのに、それでもなおリクたちは歩みを止めようとしない。戦いを避けようとしない。
「僕なんかのために、どうしてそこまで…」
巻き込みたくなかった。
でも巻き込んでしまった。
ティルがいなくなったことに気がついた天竜はすぐにでも兵を送ってくるだろう。
そして兵たちが自分を連れ戻しに来てもリクたちは諦めずに反抗することだろう。
もう争いの運命は避けられない。国を相手にしては、リクたちは手も足も出ない。
「どうしてこんなことに…。やっぱり僕がいたから…。封印さえ解けなればこんなことには…」
リクたちがティル助ける方法を必死に考える一方で、ティルはどうすればリクたちを巻き込まずに済むかを必死に考えていた。
「そういえば」
ふとリクが言った。
「ムスペの王様は初代ケツァルとの約束があるからなんだよな。まぁそれはわかる。けど、なんで親父はそんなにティルにこだわるんだ?」
「天竜ってケツァルの部下なんでしょ。だったらこっちも初代ケツァルの命令だからってことなんじゃない?」
「それはそうだけど、だったら今のケツァル王ウィルオンの命令に従わないのはおかしいだろ」
たしかに天竜とはケツァル王国に仕える者だ。
ケツァル王国には兵士隊とは別に天竜隊があった。
先代天竜であるオーシャンは初代ケツァルに仕えて魔竜の封印を護り続けてきた。本来、天竜の役目は封印を護ることであって、魔竜を封印することではない。
しかし、ゼロは明らかに魔竜を封印することにこだわっている。
その命令を下した初代ケツァルがもういないにも関わらず、魔竜に固執し続けている。
それは一体なぜなのか。
「たぶん……昔のことが関係しているんだと思うよ」
魔竜と天竜の因縁を知るティルは、それを静かに語り始めるのだった。
光は徐々にもとの姿を取り戻していき、それはナープ、サーフ、そしてクリアの姿になった。
「またここに来ることになるなんてね」
「あ、あれ! ボクたちムスペにいたはずじゃ!?」
「ここは……地上?」
「あのオレンジの羽、ウィザのものだ。きっとこれもウィザの魔法なんだろう」
見回すと、予想通りそこにはウィザが待っていた。
続けてナープたちと同様にリクとリシェが光に包まれて現れる。
呼び出した面々が顔を揃えたのを確認するとウィザはおもむろに言った。
「見せたいものがあるんだ」
ステイブルから北へ。
リクはかつて一度通ったことのある道だった。
ホワイトプラトウの山、スノゥグランド村へと向かう道中。
そこには見覚えのない洞窟があった。木々に隠されるようにして口を開けているので、おそらく以前は気付かなかったのだろう。そして、その中にいたのは……
「「ティル……!!!」」
洞窟の奥にぽつんとティルが座り込んでいた。
「無事だったんだな!」
魔竜は無言でもって応えた。
「でもどうやって?」
「へへへ、ボクが助け出したんだ。魔法でね」
「お手柄じゃないか、ウィザ!」
「修行したかいがあったというもんだね」
ウィザの働きをリクたちは喜んだが、ティルはそれを心配していた。
「よかったのかな、こんなことして…。きっと大変なことになるよ」
「もう大変なことになってるさ。バルハラは大騒ぎだった」
リクは実際に見てきた様子を伝えた。
「ああ…」
それを聞いてティルは悲しそうな表情を浮かべるのだった。
「バルハラと言えばウィルオンはどうしてた?」
「ああ、いや。まだ会ってなかった」
「オレたちバルハラに着いて、そこですぐにウィザの手紙が来たからな」
「僕は会った。ウィルオンもティルのことで悩んでたよ」
ナープは火竜王と共にバルハラへ向かったときのことを伝えた。
リクが見てきたこと。ナープが見てきたこと。そしてウィザが見てきたこと。
一同は互いに情報を共有し合った。
「ニンゲンって本当にいたんだ! オレ、伝説上の存在だと思ってたぞ」
「人間は実在するよ。魔法戦争の伝説にも出てくるし、今でも地上にいくつか住んでるみたい。わたしは会ったことないけどね」
「まぁ、それはともかくだ。まとめると、親父が勝手にやってることなんだな?」
「それとムスペの王様もね。初代ケツァルはもういないし、ウィルオンはもちろんティルの封印なんて望んでない」
天竜の役目として魔竜を封印しようとするゼロ。
初代ケツァルとの約束を守るために魔竜を封印しようとする火竜王セルシウス。
ティルを救うためには、その両方を止める必要があった。
「父親を敵に回すことになるけど……いいの?」
「構わない。それに親父とは一度、決着をつけなくちゃならないと思ってたんだ。スロヴェストでは負けたけど、今度は俺が勝つ」
リクは力強く拳を握りしめる。
「ムスペの王様は? こっちは簡単にはいかないよ。だって王様なんだもん。倒しちゃったらえらいことになるよ。それにムスペまんじゅうがなくなっちゃうのはボクはいやだな」
「火竜王には父さん……フロウやガルフも協力的な様子だった。……けど、僕も覚悟はできてる」
ナープの目にもう迷いはない。
「なんとか戦わずにすむ方法はないのかな」
「説得できればそれが一番いいんだけど……あの様子じゃ難しいだろうね。ケツァル王国の現国王であるウィルオンが何を言ってもまるでだめだったぐらいだからな」
「親父のほうは俺がなんとかするよ。息子責任だ。ムスペの王様のほうをどうするか考えよう」
「セルシウスにも子どもはいないのかな。なんとか説得してもらえるといいんだけど」
「一度、ムスペについて詳しく調べてみたほうがよさそうだね」
「ムスペ!? じゃあボクが行くよ!」
「サーフはムスペまんじゅうが食べたいだけだろ」
「ムスペまんじゅうはいいんだよ! 甘いのも辛いのもどっちも楽しめるんだから! ああ、あれはいいものだ」
「聞いてない」
一方でティルは複雑な心境だった。
自分という存在があるから争いが起こってしまう。これは避けられない運命だ。
そこに仲間たちを巻き込みたくないから、ティルは自ら封印されることを望むのだ。
自分さえ封印されれば争いは起こらない。争いがなければ仲間に危険が及ぶこともない。
しかし、そんな自分の思いとは関係なしに周囲が勝手に運命を決めてしまう。
巻き込みたくないのに。
巻き込みたくなかったのに。
それでも、運命は争いへと向かってしまう。
リクは父親であるゼロと敵対する。ナープは父親であるフロウと敵対する。
さらにムスペという大国を敵に回してしまう。
それなのに、それでもなおリクたちは歩みを止めようとしない。戦いを避けようとしない。
「僕なんかのために、どうしてそこまで…」
巻き込みたくなかった。
でも巻き込んでしまった。
ティルがいなくなったことに気がついた天竜はすぐにでも兵を送ってくるだろう。
そして兵たちが自分を連れ戻しに来てもリクたちは諦めずに反抗することだろう。
もう争いの運命は避けられない。国を相手にしては、リクたちは手も足も出ない。
「どうしてこんなことに…。やっぱり僕がいたから…。封印さえ解けなればこんなことには…」
リクたちがティル助ける方法を必死に考える一方で、ティルはどうすればリクたちを巻き込まずに済むかを必死に考えていた。
「そういえば」
ふとリクが言った。
「ムスペの王様は初代ケツァルとの約束があるからなんだよな。まぁそれはわかる。けど、なんで親父はそんなにティルにこだわるんだ?」
「天竜ってケツァルの部下なんでしょ。だったらこっちも初代ケツァルの命令だからってことなんじゃない?」
「それはそうだけど、だったら今のケツァル王ウィルオンの命令に従わないのはおかしいだろ」
たしかに天竜とはケツァル王国に仕える者だ。
ケツァル王国には兵士隊とは別に天竜隊があった。
先代天竜であるオーシャンは初代ケツァルに仕えて魔竜の封印を護り続けてきた。本来、天竜の役目は封印を護ることであって、魔竜を封印することではない。
しかし、ゼロは明らかに魔竜を封印することにこだわっている。
その命令を下した初代ケツァルがもういないにも関わらず、魔竜に固執し続けている。
それは一体なぜなのか。
「たぶん……昔のことが関係しているんだと思うよ」
魔竜と天竜の因縁を知るティルは、それを静かに語り始めるのだった。
一方その頃。
「この馬鹿者がッ! 何をやっていたんだ! せっかく捕らえた魔竜に逃げられただと!?」
バルハラにはゼロの怒声が鳴り響いていた。
「ゼ、ゼロ様。ですが、そ、その。我々が見たときにはもう姿が消えていて…」
「魔法壁は完璧だったはず。壁を壊して逃げ出した様子もなく、逃げた痕跡が全く見当たらないんです。ですのでその、逃げたと言うより本当に消えてしまったというか…」
「やかましい! どちらでも同じことだ! それにリムリプスは空間を操る魔法に長けているのだぞ!! なぜ魔封じを牢の中に施しておかなかったのだ!!」
「わ、我々はそのような指示は…」
「黙れ! とにかく魔竜の見つけ出すのだ! 今すぐに!!」
「は、はいッ」
バルハラ兵たちは慌てて駆けて行った。
「くそっ…! 魔竜め、ナメた真似をやってくれるじゃねぇか」
そんな騒がしい王宮内とは対照的に、バルハラ屋上には静かな風が流れていた。
屋上ではウィルオンがナープと別れてからそのまま思案に暮れていた。
「おお、ウィルオン様。こちらでしたか。まったく城内は騒がしくていけませんね」
「相変わらず兵たちには落ち着きというものが足りん。如何なる時にも心を平静に保ち、どっしりと構えて事に臨むべきだ」
城内の喧騒から逃れるかのように、屋上へはラルガとヴァイルが姿を現す。
「おや、いかがなさいました? 顔色が優れないようですが」
ラルガが訊いた。
「あぁ…。ティルのことなんだが、あれは本当にどうにもならないのか」
「それは……我々には如何ともし難いですね」
「初代様の命令だかなんだか知らないが、俺はその初代様には会ったこともなければ、どんなやつだったかも知らない。俺のじいさんはそんなに凄かったのか?」
「ええ、それはもう。初代様の右に出る者はいないという程でしたよ」
ラルガは初代ケツァルの武勇伝をいくつも語ってみせた。
「じゃあヴァイル。おまえはどう思う?」
「俺にはわからん。俺が忠誠を誓うのは火竜王様だ。火竜王様の命だから俺はこうしてバルハラの兵をまとめている」
「あのゼロってやつは?」
「よくは知らん。かつて初代様には天竜という部下がいた。だが、当時の天竜はあいつではなかった。あの頃はゼロはたしか天竜の部下の一人だったはずだ。どういうわけで今あいつが天竜を名乗っているのかはわからんがな」
「そうか…」
ゼロがリクの父親だということはウィルオンも知っていた。
今リクがどうしているのかは知らなかったが、ティルを助けようとしていることだけはウィルオンにもわかった。
そうすると、このままではリクとゼロが親子でありながら敵同士になってしまう。
「それは避けたいよな…」
火竜王はムスペの王だ。
王に対抗できるのは同じく王のみ。セルシウスは自分がなんとかするしかない。
しかし、ゼロがリクと戦うようなことも避けたい。
天竜はケツァル王の部下にあたるのだ。それならばケツァル王として何かできることがあるはずだ。
「ラルガ、ヴァイル。おまえたちにやってもらいたいことがある」
「ふむ。それはケツァル王としてのご命令ですか?」
それが仲間のためになるのだというなら、俺は受け入れよう。
ケツァル王としての運命を。
「ああ……その通りだ。おまえたちにはゼロの過去を探ってもらいたい。できるだけ早くだ。頼めるか?」
ラルガは少し嬉しそうに頷いた。
「王の命令でしたら従わなければなりませんね。ヴァイル?」
「無論。御意だ」
「よろしい。ではウィルオン様、我々は速やかにゼロを調査してまいりましょう」
「ああ、頼む。あと前にも言ったけどウィルオン様はやめろ。なんか気持ち悪いぞ」
「努力します。それからウィルオン様、少しは王らしくなってきたではありませんか。私は嬉しいですよ」
「ああもう、うるさいな。いいから早く行けよ」
「はいはい、承知しました。くっくっく…」
「笑うな!」
ラルガとヴァイルは命令を遂行しに向かった。
新たなケツァル王の新たな側近たち。彼らはウィルオンの言葉をしっかりと聞いてくれた。
側近とは王の右手、そして左手。王にとって最も信頼できるべき存在だ。
それが王の力だというなら、それもいいだろう。
「俺は俺にできる方法で仲間を助ける。王の手段で仲間を救う」
「この馬鹿者がッ! 何をやっていたんだ! せっかく捕らえた魔竜に逃げられただと!?」
バルハラにはゼロの怒声が鳴り響いていた。
「ゼ、ゼロ様。ですが、そ、その。我々が見たときにはもう姿が消えていて…」
「魔法壁は完璧だったはず。壁を壊して逃げ出した様子もなく、逃げた痕跡が全く見当たらないんです。ですのでその、逃げたと言うより本当に消えてしまったというか…」
「やかましい! どちらでも同じことだ! それにリムリプスは空間を操る魔法に長けているのだぞ!! なぜ魔封じを牢の中に施しておかなかったのだ!!」
「わ、我々はそのような指示は…」
「黙れ! とにかく魔竜の見つけ出すのだ! 今すぐに!!」
「は、はいッ」
バルハラ兵たちは慌てて駆けて行った。
「くそっ…! 魔竜め、ナメた真似をやってくれるじゃねぇか」
そんな騒がしい王宮内とは対照的に、バルハラ屋上には静かな風が流れていた。
屋上ではウィルオンがナープと別れてからそのまま思案に暮れていた。
「おお、ウィルオン様。こちらでしたか。まったく城内は騒がしくていけませんね」
「相変わらず兵たちには落ち着きというものが足りん。如何なる時にも心を平静に保ち、どっしりと構えて事に臨むべきだ」
城内の喧騒から逃れるかのように、屋上へはラルガとヴァイルが姿を現す。
「おや、いかがなさいました? 顔色が優れないようですが」
ラルガが訊いた。
「あぁ…。ティルのことなんだが、あれは本当にどうにもならないのか」
「それは……我々には如何ともし難いですね」
「初代様の命令だかなんだか知らないが、俺はその初代様には会ったこともなければ、どんなやつだったかも知らない。俺のじいさんはそんなに凄かったのか?」
「ええ、それはもう。初代様の右に出る者はいないという程でしたよ」
ラルガは初代ケツァルの武勇伝をいくつも語ってみせた。
「じゃあヴァイル。おまえはどう思う?」
「俺にはわからん。俺が忠誠を誓うのは火竜王様だ。火竜王様の命だから俺はこうしてバルハラの兵をまとめている」
「あのゼロってやつは?」
「よくは知らん。かつて初代様には天竜という部下がいた。だが、当時の天竜はあいつではなかった。あの頃はゼロはたしか天竜の部下の一人だったはずだ。どういうわけで今あいつが天竜を名乗っているのかはわからんがな」
「そうか…」
ゼロがリクの父親だということはウィルオンも知っていた。
今リクがどうしているのかは知らなかったが、ティルを助けようとしていることだけはウィルオンにもわかった。
そうすると、このままではリクとゼロが親子でありながら敵同士になってしまう。
「それは避けたいよな…」
火竜王はムスペの王だ。
王に対抗できるのは同じく王のみ。セルシウスは自分がなんとかするしかない。
しかし、ゼロがリクと戦うようなことも避けたい。
天竜はケツァル王の部下にあたるのだ。それならばケツァル王として何かできることがあるはずだ。
「ラルガ、ヴァイル。おまえたちにやってもらいたいことがある」
「ふむ。それはケツァル王としてのご命令ですか?」
それが仲間のためになるのだというなら、俺は受け入れよう。
ケツァル王としての運命を。
「ああ……その通りだ。おまえたちにはゼロの過去を探ってもらいたい。できるだけ早くだ。頼めるか?」
ラルガは少し嬉しそうに頷いた。
「王の命令でしたら従わなければなりませんね。ヴァイル?」
「無論。御意だ」
「よろしい。ではウィルオン様、我々は速やかにゼロを調査してまいりましょう」
「ああ、頼む。あと前にも言ったけどウィルオン様はやめろ。なんか気持ち悪いぞ」
「努力します。それからウィルオン様、少しは王らしくなってきたではありませんか。私は嬉しいですよ」
「ああもう、うるさいな。いいから早く行けよ」
「はいはい、承知しました。くっくっく…」
「笑うな!」
ラルガとヴァイルは命令を遂行しに向かった。
新たなケツァル王の新たな側近たち。彼らはウィルオンの言葉をしっかりと聞いてくれた。
側近とは王の右手、そして左手。王にとって最も信頼できるべき存在だ。
それが王の力だというなら、それもいいだろう。
「俺は俺にできる方法で仲間を助ける。王の手段で仲間を救う」
蒼竜と紅竜はゼロの過去を探り、魔竜はゼロの過去を語り出す。
今、天竜ゼロの過去が明らかになる――
今、天竜ゼロの過去が明らかになる――