Chapter3「その名はメーディ」
空を行く小さな影がひとつ。
癒へと向かうステイのものだ。その背にはコテツの姿もある。
そんな二人を追い越すようにメーの群れが飛び去っていく。
その先に視線を移すと、大陸というほどではないが大きな島が水平線の向こうに見えてきた。
「あれが癒だぜぃ」
コテツがその島国の名を告げる。
「なるほど、さすが湯の国。山ばっかりだね」
「だからその湯じゃねぇよ。癒だ」
島の大部分は山地で、中央には紫の霞がかった山脈が見える。
その山々の中でも一際目立って高い山には雲のリングがかかっている。
「あの紫の山はなんなの? 輪っかのやつ」
「あれは紫柴(シシバ)ってンだ。なンでも聖なる山だとかで、霊峰って呼ばれてるぜぃ」
「レイホー?」
「紫柴の麓に広がるのは不如帰(ホトトギス)の樹海だ。帰らずの森って言われてるから、面白半分に入ったりすンなよ」
「ジュカイ?」
ステイの頭上には疑問符が浮かんでいる。
「癒って難しいコトバが多いんだね」
「おめぇが無知なだけだろ」
「おいら鞭より槍がいい」
「……もういいや」
紫柴の近くには桃色の森があった。
コテツが言うにはあれは桜舞(サクラマ)と呼ばれる森で、年中桜が咲き乱れているのだという。
近くには四方を城壁に囲まれた都市が見える。都の中には堀があり、その中央には城がそびえ立つ。
それは癒の國東の都『平牙(ヒラガ)』
折れてしまった刀を直すために癒へとやってきた二人だったが、コテツが言うには平牙に当てがあるらしい。
コテツに言われて、ステイは桜舞の平原に降り立った。
「空から直接ヒラガに入っちゃだめなの?」
「あの城壁を見ただろ? 平牙はよく妖怪の襲撃を受けるから警戒が強いンだ。不用意に近づくと砲撃されるぜぃ?」
「なにそれこわい。ヨーカイ出るの! ……で、それってヨウカンか何かの仲間?」
「逆に獲って喰われるかもな」
平牙を外敵の襲撃から守るために、空から侵入するものは全て撃ち落とされる。コテツ曰く、よく鳥やメーも撃ち落とされているらしい。
平牙へ入るには東西南北それぞれにひとつずつある門を通過する必要があった。桜舞平原からは平牙の東門が近い。
徒歩で平原を行き、平牙へと近づくとさっそく砲撃の音が聞こえてきた。城壁の四方の角にはやぐらが設置され、そこに何門もの大砲が据え置かれ、鉛の弾を次々と撃ち出している。
「さっそく何か攻撃されてるよ」
「平牙じゃよくあることさ。平時は空砲が刻を知らせるのにも使われてるしなァ」
見上げると平牙上空で何かが集中砲火を受けている。
しかし不思議なことに、撃ち出された弾は爆発したり落ちてきたりすることはなくどこかへと消えていた。
「弾はどうなるの?」
「普通は落ちてくるはずなンだが今日は静かだなァ?」
「落ちてくるのか。あんな感じで?」
「そうそう……って、流れ弾!? こっちに落ちて来てンじゃねぇか!」
上空からはこちらに向かって何かが突っ込んでくるのが見えた。それは物凄い速度で迫る。
慌てて避難しようと試みるがまるで間に合わず、それはコテツに命中した。
「こ、コテツが流れ弾に! ……ナガレダマ? 何かお願いとか叶えてくれるのかな」
「流れ星じゃねぇだろ! まず心配を先にしやがれィ!」
どうやら無事のようだ。ゆっくりとコテツが身を起こす。
すると飛んできた砲弾もおもむろに起き上がり始めた。
よく見るとこの砲弾は桃色だ。さらに言葉まで発した。
「大量大量っと。ちょうど欲しかったんだ」
どうやら生き物のようだ。
ステイの頭程度の大きさで、鰭のような四肢を持つ。頭には王冠状に角が生えていて、丸っこい身体の大部分は口が占めている。
さっきは空中に浮かんでいたようだが、その特徴と色からするとこれもメタディアの一種なのだろうか。
おくびをしてみせると、その生き物は口から黒い煙を洩らした。少し火薬の臭いがする。
「なンだこいつ? まさか砲弾を食ってやがったのか!」
「これがヨーカイ?」
そのヘンないきものは訊かれて名を名乗った。
「妖怪? そんなものと一緒にしないでもらいたいね。ボクはメーディ様だよ」
「メーディだと!?」
メタディア『メーディ』
それはエルナトの族長がとくに注意するように警告していたメタディアの名だ。
強大な力を持ち、エルナトの住民総出でかかっても歯が立たない程の相手だという。
だが目の前にいるこの生き物はまるでそんな凶悪そうな存在には見えない。
どちらかというと、小さな目に大きな口、そして丸い身体とまるでどこかのマスコットか何かのような姿をしている。
「だが見た目で判断するのはよくねぇからな。よし、力を試してやる。メーディとやら、オイラと勝負しろ!」
吠えかかり抜刀するコテツだったが、その刀の鍔の先には刃がなかった。
「そんなものでボクに何をするつもりだい? どうせここらの侍なんでしょ。冗談はやめてほしいもんだね」
「くそっ… 刀さえありゃおめぇなンて!」
「侍風情が何を寝惚けたことを言ってるんだかね。あ、その刀ボクが直してあげようか?」
「なンだとォ! 馬鹿にしやがって! 誰がてめぇの施しなンか受けるかってンだァ!!」
刃のない刀を振り回して怒り叫ぶコテツ。
しかし、ふと気がつくといつの間にか刀が消えている。
見るとステイが刀をメーディに渡している。
「な、何してやがる!!」
「だって今なら半額でいいって言うんだもん」
刀を受け取ったメーディはそれをまじまじと眺めている。
「折れた先がないんじゃ新しく打ち直すしかないよね。でも今日は大量で気分がいいからサービスしちゃおう」
「大量って?」
「砲弾がたくさん手に入ったからね。わけあって金属を集めてたんだよ」
言うとメーディはその刀をぺろりと食べてしまった。
突然のことに言葉を失った。はっと我に還るとコテツはさらに怒り狂う。
「て、てめぇ! オイラの大事な刀を食って……な、何てことしてやがンだァ!!?」
「やれやれ、しつけのなってないわんこだね。黙って見てなよ」
カーン、カーンとどこからともなく鉄を打つ音が聞こえてくる。続けて鉄を冷やす音が。
その音が何度となく繰り返される。そしてメーディの口からは煙が昇り始めた。
なんとメーディの体内で鍛治が行われているようだ。
驚くコテツにメーディは注文を訊いた。
「切れ味が欲しい? それとも丈夫にしとく?」
「え…… そ、そりゃァもちろん切れ味に決まってンだろ」
「切れ味だって。よろしくねー」
体内に呼び掛ける。すると中から「うぃーっす」と返事が返って来た。
「中に誰かいるの!?」
「それは企業秘密です」
刀が打ち上がるまでにはしばらくかかるらしく、完成した後に気が向けば届けてくれるとメーディは約束した。
気が向けばという点には不安が残るが、すでに刀を渡してしまっているので今さらどうしようもない。
「じゃあこれで平牙にはもう用はないの?」
「いや、寄ってくぜぃ。仲間にも会っていきたいからなァ」
今後の予定を話し合っていると頭上を何かが通り過ぎたような気がした。
気のせいではない。気がつくといつの間にかメーディの背後には黒紫鱗の竜人族が立っている。
ステイのような翼は持たず、尾さえない。背は高く、ゆうに二メートルは超えている。
「ようやく見つけたぞ、メーディ!」
黒竜人は低い声で言った。
呆れた様子でメーディはそれに答える。
「ウェイヴ、また君か。君もしつこいね。ボクは今忙しいんだけど」
「俺の相手が務まるのはもはやおまえだけだ。今日こそ俺が勝つ。手合わせ願おうか」
「やれやれ、今日は挑戦者の多い日だ。仕方ないね、少しだけだよ。この粋がってるサムライわんこにいかに世界が広いかってことを教えてあげるついでだ」
メーディの言い草にむっとして眉間にしわを寄せるコテツだったが、生憎今は戦う手段がないのでどうしようもない。
ウェイヴが承認して身構えると、メーディは体内からおもむろに大鎌を取り出してみせる。
それはメーディやコテツの身体よりもさらに大きい巨大な鎌だ。その鋭い刃は竜の首であろうと刈り取ってしまうだろう。
「武器を使うつもりか。俺を見くびるな、本気で来い。手加減など無用だ」
「今日はお客さんがいるって言ったでしょ。本当の武器の使い方を見せてやるんだ。相手してあげるだけでもありがたく思いなよ」
「……ふん。勝手にしろ」
ウェイヴの視線がコテツに向けられる。
その視線が鋭く突き刺さる。
「うっ…… な、なンだよあいつ」
「ねぇ、武器を使うのに手加減なんだって。どういうこと?」
「オイラが知るかよ」
癒へと向かうステイのものだ。その背にはコテツの姿もある。
そんな二人を追い越すようにメーの群れが飛び去っていく。
その先に視線を移すと、大陸というほどではないが大きな島が水平線の向こうに見えてきた。
「あれが癒だぜぃ」
コテツがその島国の名を告げる。
「なるほど、さすが湯の国。山ばっかりだね」
「だからその湯じゃねぇよ。癒だ」
島の大部分は山地で、中央には紫の霞がかった山脈が見える。
その山々の中でも一際目立って高い山には雲のリングがかかっている。
「あの紫の山はなんなの? 輪っかのやつ」
「あれは紫柴(シシバ)ってンだ。なンでも聖なる山だとかで、霊峰って呼ばれてるぜぃ」
「レイホー?」
「紫柴の麓に広がるのは不如帰(ホトトギス)の樹海だ。帰らずの森って言われてるから、面白半分に入ったりすンなよ」
「ジュカイ?」
ステイの頭上には疑問符が浮かんでいる。
「癒って難しいコトバが多いんだね」
「おめぇが無知なだけだろ」
「おいら鞭より槍がいい」
「……もういいや」
紫柴の近くには桃色の森があった。
コテツが言うにはあれは桜舞(サクラマ)と呼ばれる森で、年中桜が咲き乱れているのだという。
近くには四方を城壁に囲まれた都市が見える。都の中には堀があり、その中央には城がそびえ立つ。
それは癒の國東の都『平牙(ヒラガ)』
折れてしまった刀を直すために癒へとやってきた二人だったが、コテツが言うには平牙に当てがあるらしい。
コテツに言われて、ステイは桜舞の平原に降り立った。
「空から直接ヒラガに入っちゃだめなの?」
「あの城壁を見ただろ? 平牙はよく妖怪の襲撃を受けるから警戒が強いンだ。不用意に近づくと砲撃されるぜぃ?」
「なにそれこわい。ヨーカイ出るの! ……で、それってヨウカンか何かの仲間?」
「逆に獲って喰われるかもな」
平牙を外敵の襲撃から守るために、空から侵入するものは全て撃ち落とされる。コテツ曰く、よく鳥やメーも撃ち落とされているらしい。
平牙へ入るには東西南北それぞれにひとつずつある門を通過する必要があった。桜舞平原からは平牙の東門が近い。
徒歩で平原を行き、平牙へと近づくとさっそく砲撃の音が聞こえてきた。城壁の四方の角にはやぐらが設置され、そこに何門もの大砲が据え置かれ、鉛の弾を次々と撃ち出している。
「さっそく何か攻撃されてるよ」
「平牙じゃよくあることさ。平時は空砲が刻を知らせるのにも使われてるしなァ」
見上げると平牙上空で何かが集中砲火を受けている。
しかし不思議なことに、撃ち出された弾は爆発したり落ちてきたりすることはなくどこかへと消えていた。
「弾はどうなるの?」
「普通は落ちてくるはずなンだが今日は静かだなァ?」
「落ちてくるのか。あんな感じで?」
「そうそう……って、流れ弾!? こっちに落ちて来てンじゃねぇか!」
上空からはこちらに向かって何かが突っ込んでくるのが見えた。それは物凄い速度で迫る。
慌てて避難しようと試みるがまるで間に合わず、それはコテツに命中した。
「こ、コテツが流れ弾に! ……ナガレダマ? 何かお願いとか叶えてくれるのかな」
「流れ星じゃねぇだろ! まず心配を先にしやがれィ!」
どうやら無事のようだ。ゆっくりとコテツが身を起こす。
すると飛んできた砲弾もおもむろに起き上がり始めた。
よく見るとこの砲弾は桃色だ。さらに言葉まで発した。
「大量大量っと。ちょうど欲しかったんだ」
どうやら生き物のようだ。
ステイの頭程度の大きさで、鰭のような四肢を持つ。頭には王冠状に角が生えていて、丸っこい身体の大部分は口が占めている。
さっきは空中に浮かんでいたようだが、その特徴と色からするとこれもメタディアの一種なのだろうか。
おくびをしてみせると、その生き物は口から黒い煙を洩らした。少し火薬の臭いがする。
「なンだこいつ? まさか砲弾を食ってやがったのか!」
「これがヨーカイ?」
そのヘンないきものは訊かれて名を名乗った。
「妖怪? そんなものと一緒にしないでもらいたいね。ボクはメーディ様だよ」
「メーディだと!?」
メタディア『メーディ』
それはエルナトの族長がとくに注意するように警告していたメタディアの名だ。
強大な力を持ち、エルナトの住民総出でかかっても歯が立たない程の相手だという。
だが目の前にいるこの生き物はまるでそんな凶悪そうな存在には見えない。
どちらかというと、小さな目に大きな口、そして丸い身体とまるでどこかのマスコットか何かのような姿をしている。
「だが見た目で判断するのはよくねぇからな。よし、力を試してやる。メーディとやら、オイラと勝負しろ!」
吠えかかり抜刀するコテツだったが、その刀の鍔の先には刃がなかった。
「そんなものでボクに何をするつもりだい? どうせここらの侍なんでしょ。冗談はやめてほしいもんだね」
「くそっ… 刀さえありゃおめぇなンて!」
「侍風情が何を寝惚けたことを言ってるんだかね。あ、その刀ボクが直してあげようか?」
「なンだとォ! 馬鹿にしやがって! 誰がてめぇの施しなンか受けるかってンだァ!!」
刃のない刀を振り回して怒り叫ぶコテツ。
しかし、ふと気がつくといつの間にか刀が消えている。
見るとステイが刀をメーディに渡している。
「な、何してやがる!!」
「だって今なら半額でいいって言うんだもん」
刀を受け取ったメーディはそれをまじまじと眺めている。
「折れた先がないんじゃ新しく打ち直すしかないよね。でも今日は大量で気分がいいからサービスしちゃおう」
「大量って?」
「砲弾がたくさん手に入ったからね。わけあって金属を集めてたんだよ」
言うとメーディはその刀をぺろりと食べてしまった。
突然のことに言葉を失った。はっと我に還るとコテツはさらに怒り狂う。
「て、てめぇ! オイラの大事な刀を食って……な、何てことしてやがンだァ!!?」
「やれやれ、しつけのなってないわんこだね。黙って見てなよ」
カーン、カーンとどこからともなく鉄を打つ音が聞こえてくる。続けて鉄を冷やす音が。
その音が何度となく繰り返される。そしてメーディの口からは煙が昇り始めた。
なんとメーディの体内で鍛治が行われているようだ。
驚くコテツにメーディは注文を訊いた。
「切れ味が欲しい? それとも丈夫にしとく?」
「え…… そ、そりゃァもちろん切れ味に決まってンだろ」
「切れ味だって。よろしくねー」
体内に呼び掛ける。すると中から「うぃーっす」と返事が返って来た。
「中に誰かいるの!?」
「それは企業秘密です」
刀が打ち上がるまでにはしばらくかかるらしく、完成した後に気が向けば届けてくれるとメーディは約束した。
気が向けばという点には不安が残るが、すでに刀を渡してしまっているので今さらどうしようもない。
「じゃあこれで平牙にはもう用はないの?」
「いや、寄ってくぜぃ。仲間にも会っていきたいからなァ」
今後の予定を話し合っていると頭上を何かが通り過ぎたような気がした。
気のせいではない。気がつくといつの間にかメーディの背後には黒紫鱗の竜人族が立っている。
ステイのような翼は持たず、尾さえない。背は高く、ゆうに二メートルは超えている。
「ようやく見つけたぞ、メーディ!」
黒竜人は低い声で言った。
呆れた様子でメーディはそれに答える。
「ウェイヴ、また君か。君もしつこいね。ボクは今忙しいんだけど」
「俺の相手が務まるのはもはやおまえだけだ。今日こそ俺が勝つ。手合わせ願おうか」
「やれやれ、今日は挑戦者の多い日だ。仕方ないね、少しだけだよ。この粋がってるサムライわんこにいかに世界が広いかってことを教えてあげるついでだ」
メーディの言い草にむっとして眉間にしわを寄せるコテツだったが、生憎今は戦う手段がないのでどうしようもない。
ウェイヴが承認して身構えると、メーディは体内からおもむろに大鎌を取り出してみせる。
それはメーディやコテツの身体よりもさらに大きい巨大な鎌だ。その鋭い刃は竜の首であろうと刈り取ってしまうだろう。
「武器を使うつもりか。俺を見くびるな、本気で来い。手加減など無用だ」
「今日はお客さんがいるって言ったでしょ。本当の武器の使い方を見せてやるんだ。相手してあげるだけでもありがたく思いなよ」
「……ふん。勝手にしろ」
ウェイヴの視線がコテツに向けられる。
その視線が鋭く突き刺さる。
「うっ…… な、なンだよあいつ」
「ねぇ、武器を使うのに手加減なんだって。どういうこと?」
「オイラが知るかよ」
こうしてコテツとステイの二人を観客に、メーディとウェイヴの手合わせが始まった。
桜舞平原に一匹のメタディアと一人の竜人族が対峙する。
どちらも睨み合ったまま、まるでぴくりとも動かない。
ゆるやかな風が平原の草木を揺らし、メーディから洩れている煙が風になびいて流れていく。
「全然動かないね」
「相手の出方を窺ってるンだろ」
そこに一匹のどんこが迷い込んだ。
両者の間の張りつめた空気などまるで気にせず、その間をどんこが駆け抜ける。
立ち止まりメーディを見て問う。
「メフィア?」
メーディはまるで気にもとめていない。
続けてウェイヴを見上げて訊く。
「メフィア?」
ウェイヴにはまるでどんこが眼中にない。
不満そうに走り去るどんこ。そして転ぶ。
その拍子に桜の花びらが舞い両者の視界を遮る。
次の瞬間、メーディもウェイヴもすでに姿を消していた。
「もぎゃぁぁあああ!」
突如、どんこの胴体が真っ二つに斬れた。
続けて発火、閃光を発し爆発した。
見守るコテツたちの前を突風が駆け抜ける。と思えば遅れて金属が激しくぶつかり合う音がやってくる。
突然近くの木が倒れ、地面に抉られたような穴が開き、岩が木端微塵に砕け散った。
大地に大鎌が深々と突き刺さる。その柄の上に疾風とともにメーディが姿を現した。
メーディは悪魔のような形相で不気味に笑っている。
大きく見開かれ血走った目はまさに死神。血のように赤い口から洩れる煙がさらに恐ろしさを増す。
まるでさっきの姿とは別ものだ。
同時に、向かい合う形でウェイヴが姿を現した。
ウェイヴの片腕には漆黒の闇のような禍々しいオーラが纏われ、時折激しい火花を散らしている。
一体何が起こったのか、コテツにもステイにも全く理解できなかった。
「な、なんだったの!?」
「速すぎて見えねぇってのか!!」
続いてメーディが動く。
大鎌を振り回すと、その斬撃が勢い良く飛んでウェイヴに迫る。
それはまるで無数の風の刃。メーディが鎌を振れば振るうほどに、まるで雨あられのように斬撃が飛び出してゆく。
斬撃の通り道にあった木々はまるで薪を割るかのように真っ二つにされていく。
そんな斬撃はメーディが合図すると意思を持ったかのように自在に舞い、ウェイヴの立つの一点目掛けて集中する。
大地が振動し、激しい風圧と土埃が押し寄せ、誰も目を開けていられない。
土埃が治まると地面には大穴が口を開けていた。だがそこにウェイヴの姿はない。
「!」
ウェイヴの姿はメーディの背後にあった。
左手で逃がすまいとメーディを地面に押さえ付けている。そしてオーラを纏う右拳を鋭く突き出した。
その場に黒い雷柱が立つ。
しかしメーディは奇声を上げて笑いながら、まるで液体にでもなったかのようにぬるりと逃げ出すと距離を取って大鎌を振るう。
鎌は蛇のように伸びてウェイヴの首をかき斬ろうとする。
咄嗟にそれを右手で受け止めると、鎌と手の間に激しい火花が散る。
そしてその激しい衝撃に耐えかねたそれが影を落としながら宙を舞い、ステイの足下にどさりと落ちた。
「ひっ…!?」
落ちたのはウェイヴの腕ではなく鎌の刃だった。
刃は深々と地面に突き立っていた。
桜舞平原に一匹のメタディアと一人の竜人族が対峙する。
どちらも睨み合ったまま、まるでぴくりとも動かない。
ゆるやかな風が平原の草木を揺らし、メーディから洩れている煙が風になびいて流れていく。
「全然動かないね」
「相手の出方を窺ってるンだろ」
そこに一匹のどんこが迷い込んだ。
両者の間の張りつめた空気などまるで気にせず、その間をどんこが駆け抜ける。
立ち止まりメーディを見て問う。
「メフィア?」
メーディはまるで気にもとめていない。
続けてウェイヴを見上げて訊く。
「メフィア?」
ウェイヴにはまるでどんこが眼中にない。
不満そうに走り去るどんこ。そして転ぶ。
その拍子に桜の花びらが舞い両者の視界を遮る。
次の瞬間、メーディもウェイヴもすでに姿を消していた。
「もぎゃぁぁあああ!」
突如、どんこの胴体が真っ二つに斬れた。
続けて発火、閃光を発し爆発した。
見守るコテツたちの前を突風が駆け抜ける。と思えば遅れて金属が激しくぶつかり合う音がやってくる。
突然近くの木が倒れ、地面に抉られたような穴が開き、岩が木端微塵に砕け散った。
大地に大鎌が深々と突き刺さる。その柄の上に疾風とともにメーディが姿を現した。
メーディは悪魔のような形相で不気味に笑っている。
大きく見開かれ血走った目はまさに死神。血のように赤い口から洩れる煙がさらに恐ろしさを増す。
まるでさっきの姿とは別ものだ。
同時に、向かい合う形でウェイヴが姿を現した。
ウェイヴの片腕には漆黒の闇のような禍々しいオーラが纏われ、時折激しい火花を散らしている。
一体何が起こったのか、コテツにもステイにも全く理解できなかった。
「な、なんだったの!?」
「速すぎて見えねぇってのか!!」
続いてメーディが動く。
大鎌を振り回すと、その斬撃が勢い良く飛んでウェイヴに迫る。
それはまるで無数の風の刃。メーディが鎌を振れば振るうほどに、まるで雨あられのように斬撃が飛び出してゆく。
斬撃の通り道にあった木々はまるで薪を割るかのように真っ二つにされていく。
そんな斬撃はメーディが合図すると意思を持ったかのように自在に舞い、ウェイヴの立つの一点目掛けて集中する。
大地が振動し、激しい風圧と土埃が押し寄せ、誰も目を開けていられない。
土埃が治まると地面には大穴が口を開けていた。だがそこにウェイヴの姿はない。
「!」
ウェイヴの姿はメーディの背後にあった。
左手で逃がすまいとメーディを地面に押さえ付けている。そしてオーラを纏う右拳を鋭く突き出した。
その場に黒い雷柱が立つ。
しかしメーディは奇声を上げて笑いながら、まるで液体にでもなったかのようにぬるりと逃げ出すと距離を取って大鎌を振るう。
鎌は蛇のように伸びてウェイヴの首をかき斬ろうとする。
咄嗟にそれを右手で受け止めると、鎌と手の間に激しい火花が散る。
そしてその激しい衝撃に耐えかねたそれが影を落としながら宙を舞い、ステイの足下にどさりと落ちた。
「ひっ…!?」
落ちたのはウェイヴの腕ではなく鎌の刃だった。
刃は深々と地面に突き立っていた。
ぽかんとした表情で柄だけになった鎌を見つめるメーディにウェイヴが言う。
「遊びは終わりだ。これで本気が出せるだろう? 来い」
ウェイヴは余裕綽々の様子で手招きをして挑発するが、
「少しだけって言ったでしょ。今日はここまでだよ」
同じくまるで疲れを見せない様子でメーディが断る。すでに最初の表情に戻っている。
それを聞くとウェイヴは「つまらん」と、その場に横になってしまった。
コテツは動揺していた。
あれほどの戦いを繰り広げておきながらどちらもまだ全力を出し切ってはいないと見える。
目の前で自分の理解を超えたことが起こった。
これが戦いだというのか。これが危険なメタディアだというのか。
今ならエルナト族長が言っていたことも納得できる。こいつら化け物か。
そしてそのメーディと対等に戦って見せるこのウェイヴという男は一体。
「おめぇら一体何者なンだ…」
「何ってボクはメーディ様よ!」
ウェイヴは全く興味がなさそうで、あれっきり何も言わない。
興味深そうにステイが棒でつついているが、まるで反応しない。
「メーディ、あいつは何者なンだ」
「よく知らない。本人に聞けば?」
それもそうだと振り返る。
コテツはウェイヴに訊きたいことが山ほどあった。
どうすればそんなに強くなれるのか。さっきの技は何なのか。そもそもなぜメーディと戦うのか。
しかしすでにウェイヴはいなくなっていた。
「消えちゃった」
「消えたァ!?」
全くわけがわからない。
エルナトでステイに出逢う以前も色々と旅して廻ってきたコテツだったが、まだまだ世界には知らないものが多いようだ。
だからこそ、もっと世界を廻らなければならない。強くなるために旅を続けなければならない。
なぜならコテツには強くならなければならない理由があったからだ。
「そのためにはまず刀がないとな。で、刀は?」
メーディに訊く。が、そんなにすぐにできるわけがないと返されてしまった。
「刀がないと何もできないなんて不便なんだね、サムライわんこって」
「うるせぇな」
「じゃあさ。これとか刀の代わりにどう?」
ステイが棒きれを差し出す。視線を下に向けるとどんこがメフィアの触角を薦めている。
「馬鹿にしてンのか」
「やれやれ。武器がないと何もできないなんて本当に甘いね」
その様子を見ていたメーディがため息をついた。
メーディはエルナト族長と同じようなことを言った。
だったらどうしろというのかと問うと、なければ作るのが常識だと返ってきた。
「作る?」
「何事も臨機応変だよ。ただの棒と石だけでも斧が作れるでしょ」
「何言ってンだ。原始時代じゃあるめぇし」
「じゃあ、そのまま何もできずに死ねばいいよ」
「うっ……さりげなくキツイこと言うぞこいつ」
そのままメーディはだから侍は弱いだのなんだのと、言いたいことを言いたいだけ言って、笑いながら煙のように消えてしまった。
「勝手なやつだな」
しかし作れと言われてもコテツには何をどうすればいいかわからない。
「じゃあおいらが作ろうか?」
そこで名乗りを上げたのはステイだった。
エルナトで育ち、さらに槍を作るのが趣味だというステイならなんとかできるかもしれない。
「できるのか」
「まぁ見ててよ」
言ってステイは早速材料を探し始めた。
目に付けたのは地面に突き刺さったまま残されたメーディの鎌の刃。それから先ほどの戦いで斬り倒された木だ。
それらを拾い上げると、慣れた手つきで作業を始める。
鎌の刃で木を削り形を整えると、柄の部分が次第に形を現した。
次に族長からもらった槍についていた魔除けの帯を少し千切ると、それを使って刃と柄を括り付ける。
ステイの匠の技によって新たな武器が出来上がる。
なんということでしょう。出来上がったのは見事なナギナタだった。
「ちょっと待てィ! それ刀じゃねぇ!」
「ナギナタって長刀とか薙刀って書くんだから似たようなもんでしょ」
「全然違う!」
「でもおいら長柄武器のほうが好みなんだよね。中距離攻撃ってなんか渋くてかっこいいじゃん」
「おめぇの好みなんか聞いてねぇよ!」
体格の都合でコテツは通常の刀は扱えない。通常の刀では長すぎてうまく振り回せないのだ。重さの問題もある。
それゆえにコテツが下げていた刀は脇差だった。
当然、槍やナギナタを使うことはできない。それがサムライわんこの限界だ。
「せっかく作ったのに。じゃあ、これはおいらがもらっちゃうね」
あっさり自分のものにされてしまった。
突如現れ、凄まじい戦いを見せつけられ、ついでにステイに期待した武器は見当違いのものだった。
すっかり自信を失ってしまったコテツは気を落としながらも、
「もうオイラはやっていけない。次回からはステイに主役の座を譲るよ……と静かに呟くのだった。と」
「呟かねぇよ!」
「次回、第4話『新主役ステイ、覚醒する!』お楽しみに」
「そンわけねぇよ!」
二人は当初の”当て”を頼って平牙へと向かうのだった。
平原を行き、先に見える平牙の東門へと足を進める。
「遊びは終わりだ。これで本気が出せるだろう? 来い」
ウェイヴは余裕綽々の様子で手招きをして挑発するが、
「少しだけって言ったでしょ。今日はここまでだよ」
同じくまるで疲れを見せない様子でメーディが断る。すでに最初の表情に戻っている。
それを聞くとウェイヴは「つまらん」と、その場に横になってしまった。
コテツは動揺していた。
あれほどの戦いを繰り広げておきながらどちらもまだ全力を出し切ってはいないと見える。
目の前で自分の理解を超えたことが起こった。
これが戦いだというのか。これが危険なメタディアだというのか。
今ならエルナト族長が言っていたことも納得できる。こいつら化け物か。
そしてそのメーディと対等に戦って見せるこのウェイヴという男は一体。
「おめぇら一体何者なンだ…」
「何ってボクはメーディ様よ!」
ウェイヴは全く興味がなさそうで、あれっきり何も言わない。
興味深そうにステイが棒でつついているが、まるで反応しない。
「メーディ、あいつは何者なンだ」
「よく知らない。本人に聞けば?」
それもそうだと振り返る。
コテツはウェイヴに訊きたいことが山ほどあった。
どうすればそんなに強くなれるのか。さっきの技は何なのか。そもそもなぜメーディと戦うのか。
しかしすでにウェイヴはいなくなっていた。
「消えちゃった」
「消えたァ!?」
全くわけがわからない。
エルナトでステイに出逢う以前も色々と旅して廻ってきたコテツだったが、まだまだ世界には知らないものが多いようだ。
だからこそ、もっと世界を廻らなければならない。強くなるために旅を続けなければならない。
なぜならコテツには強くならなければならない理由があったからだ。
「そのためにはまず刀がないとな。で、刀は?」
メーディに訊く。が、そんなにすぐにできるわけがないと返されてしまった。
「刀がないと何もできないなんて不便なんだね、サムライわんこって」
「うるせぇな」
「じゃあさ。これとか刀の代わりにどう?」
ステイが棒きれを差し出す。視線を下に向けるとどんこがメフィアの触角を薦めている。
「馬鹿にしてンのか」
「やれやれ。武器がないと何もできないなんて本当に甘いね」
その様子を見ていたメーディがため息をついた。
メーディはエルナト族長と同じようなことを言った。
だったらどうしろというのかと問うと、なければ作るのが常識だと返ってきた。
「作る?」
「何事も臨機応変だよ。ただの棒と石だけでも斧が作れるでしょ」
「何言ってンだ。原始時代じゃあるめぇし」
「じゃあ、そのまま何もできずに死ねばいいよ」
「うっ……さりげなくキツイこと言うぞこいつ」
そのままメーディはだから侍は弱いだのなんだのと、言いたいことを言いたいだけ言って、笑いながら煙のように消えてしまった。
「勝手なやつだな」
しかし作れと言われてもコテツには何をどうすればいいかわからない。
「じゃあおいらが作ろうか?」
そこで名乗りを上げたのはステイだった。
エルナトで育ち、さらに槍を作るのが趣味だというステイならなんとかできるかもしれない。
「できるのか」
「まぁ見ててよ」
言ってステイは早速材料を探し始めた。
目に付けたのは地面に突き刺さったまま残されたメーディの鎌の刃。それから先ほどの戦いで斬り倒された木だ。
それらを拾い上げると、慣れた手つきで作業を始める。
鎌の刃で木を削り形を整えると、柄の部分が次第に形を現した。
次に族長からもらった槍についていた魔除けの帯を少し千切ると、それを使って刃と柄を括り付ける。
ステイの匠の技によって新たな武器が出来上がる。
なんということでしょう。出来上がったのは見事なナギナタだった。
「ちょっと待てィ! それ刀じゃねぇ!」
「ナギナタって長刀とか薙刀って書くんだから似たようなもんでしょ」
「全然違う!」
「でもおいら長柄武器のほうが好みなんだよね。中距離攻撃ってなんか渋くてかっこいいじゃん」
「おめぇの好みなんか聞いてねぇよ!」
体格の都合でコテツは通常の刀は扱えない。通常の刀では長すぎてうまく振り回せないのだ。重さの問題もある。
それゆえにコテツが下げていた刀は脇差だった。
当然、槍やナギナタを使うことはできない。それがサムライわんこの限界だ。
「せっかく作ったのに。じゃあ、これはおいらがもらっちゃうね」
あっさり自分のものにされてしまった。
突如現れ、凄まじい戦いを見せつけられ、ついでにステイに期待した武器は見当違いのものだった。
すっかり自信を失ってしまったコテツは気を落としながらも、
「もうオイラはやっていけない。次回からはステイに主役の座を譲るよ……と静かに呟くのだった。と」
「呟かねぇよ!」
「次回、第4話『新主役ステイ、覚醒する!』お楽しみに」
「そンわけねぇよ!」
二人は当初の”当て”を頼って平牙へと向かうのだった。
平原を行き、先に見える平牙の東門へと足を進める。