第六章「力、知恵、そして勇気じゃなくて機械」
ガイストが次に目を覚ましたのは留置所の中だった。
荒野で行き倒れていたガイストたちを拾ったのは、偶然そこを通りかかったフィーティン軍の装甲車だった。
フィーティンの首都フェルトへと戻った装甲車は行き倒れの旅人たちに水と治療を与えたが、入国記録に彼らの顔がなかったので不法入国者の疑いがあるとしてこうして留置所に閉じ込めたのだった。
守衛が二人に向かって声をかける。
「来い。面会の時間だ」
「面会だって? 一体誰が…」
フィーティンに知り合いなどいないはずだ。
不思議に思いながらも面会室へと連れられる。そしてそこで出逢ったのは意外な顔だった。
「やっぱりガイスト! あのまま軍隊に連れられていったけど、よかった。無事だったんダな!」
ガラス窓の向こうにサボテンが座って話している。
「オレ面会って初めてで戸惑っちまったよ。ここに来る途中に検査室があって手荷物を調べられるんダ。でもオレ自身が金属だからすごく反応してなぁ。それからやたら長い通路を通るんダが、誰もいなくてほんとに進んでいいのか不安になっちまったよ」
いや、これはサボテンのような姿をした機械だ。彼こそが先の戦争でともに闘った仲間、ゲンダーだ。
「ゲンダー! まさかこんなところで再会するとは思わなかった。どうしてここに?」
「実はダな…」
メイヴを復活させる方法を求めて旅に出ていたゲンダー。
ガイストたちがヴェルスタンドを駆けまわっていたその頃、ゲンダーはヴェルスタンドの荒野を進んでいた。
すると突然の砂嵐。視界が悪く思わず立ち止ったところに、ちょうどそこを行軍していたフィーティンの装甲車が激突する。
何事かと降りてきた兵士が発見したのは倒れているサボテン型の機械だった。
奇妙な機械を見つけたと兵士が報告する。機械と言えばマキナだ。偵察機か何かかもしれないと判断した上官はそれを持ちかえって調査するように命じ、ゲンダーは装甲車へと載せられた。
このときの衝撃で一時的に意識を失っていたゲンダーだったが、搭載されている自己修復機能で回復し意識を取り戻すと、最初に視界に飛び込んできたのは行き倒れるガイストたちの姿だったというわけだ。
「こんな再会のしかたをするなんて、運命って不思議なもんダな。ガイストはどうしてここに?」
「僕たちはヴェルスタンドから来たんだが…」
ガイストが事情を説明した。
それを聞いてゲンダーは難しそうな顔をして言った。
「また精神体か…。しょうがないな、またオレがやっつけてやる。射影機はまだあるのか?」
「スヴェン博士の研究所にある。僕たちはマキナに向かうところだったんだけど、ちょっと事故に巻き込まれてしまってね。気が付いたらこうして捕まっていたというわけだよ」
精神体と戦うためには射影機が必要だ。それを取りに行くためにマキナへ向かいたいが、そのためにはなんとかここを出なくてはならない。
「ゲンダー、僕たちをここから出すことはできないのか?」
「まぁこの壁を破壊すればできなくもないが、それだと大騒ぎになっちまう。それを避けたいなら今すぐってわけにはいかないぞ」
「そ、それは困るな。だったら僕の代わりにマキナへ行って射影機を取ってきてくれないか? それからスヴェン博士に事情を説明してもらえると助かる」
「それならお安いご用ダ! 他に何か伝言とかはあるか?」
「そうだな……それじゃあこの機械をスヴェン博士に修理してもらいたいんだけど、頼めるかい?」
左腕にはめた小型端末を指して言う。
「あとで守衛に頼んでおくから受け取ってくれ。ただの壊れた機械だ。問題なく渡してもらえるはずだ」
「おう。合点承知ダー」
ちょうどそこで守衛がそろそろ時間だと伝えてきた。
オレに任せろと胸を叩いてゲンダーは去って行った。
「さっきの機械は?」とヘルツ。
「あれが前に話したゲンダーだ」
「ずいぶんよくできてるんだな。まるで人間と会話しているのとほとんど変わらなかったぞ」
「ヘイヴという科学者が発明したんだ。僕の憧れの存在だ。現在のマキナのどの機械よりも優れている。……さすがヘイヴだよ」
もうこの部屋に用はない。そこで守衛に小型端末を預けてガイストたちも去ろうとすると、別の守衛が現れて呼び止めた。
曰く、どうやらまだ他に面会相手がいるらしい。
「面会は一日一回だと思ったけど、フィーティンじゃ違うのかい?」
「基本的にはそうだ。だが重要な人物が面会を求めているので、今回だけは特別措置とさせてもらう」
「重要な人物だって?」
こんどこそ心当たりがない。メイヴはいないし、グメーシスはしゃべれない。
まさかスヴェン博士がここにいるということはないだろうし、重要な人物というほどの存在なのだからもっと格上のはずだ。
「一体誰が…?」
面会室の椅子に座りなおして、不安と緊張の面持ちでしばらく待たされる。
するとおもむろに、こんな場所とはまるで不釣り合いの大層立派な身なりの男が現れて、ガラス窓を挟んだ向かいに座った。
「おまえ……いや、あなたは……!!」
驚いてヘルツが椅子から転げ落ちた。
「ヴェルスタンド……大統領!? どうしてあなたが!!」
それは現ヴェルスタンド国家代表その男だった。
「ガイスト博士。ご無沙汰だな」
それは前大統領の政権時代にヴェルスタンド精神科学省大臣を務めていた男で、新たに現政権の代表となったヴェルスタンドの新大統領だ。精神科学に携わる者として、ガイストも彼には多少なり面識があった。
新大統領はヴェルスタンドで起こる異常な現象を解決するため、このフィーティンに拠点を移しフィーティン国王の協力のもとで対策を講じているとのことだった。
そういえばそんなことがニュースで言われていたな、とガイストは思い出す。
「で、ですが大統領! フィーティンはかつての戦争相手、憎き国です! そんなやつらに協力を求めるだなんて…」
ヘルツが困惑した様子で訊く。
「たしかに戦時は敵国だった。だが、そんなことばかり言っていては政治はできんよ。今はヴェルスタンドの国民を護ることが大切だからな」
この男は敵だった前大統領とは違う。しっかりと国民のためを思って政治を行おうとしている。ガイストはそう感じた。
大統領はそんなガイストのほうを見つめて言った。
「そして時にガイスト博士。たしか君は精神体研究の権威だったな。我々の調査の結果、今回の騒動の原因は精神体が関与していることがわかっている。しばらく行方を眩ませていたので途方に暮れていたのだが、こうして出逢えたことは喜ばしい偶然だ。是非ともあなたの協力をお願いしたい」
「まさか…大統領直々のお願いだなんて……!」
「もちろんタダとは言わん。すでに話はつけてある」
大統領が合図すると、部屋の奥で監視していた守衛が畏まって答えた。
「お二人を解放するようにとの指示を受けています。面会が終了した後、すぐに出ていただくことができます」
ご丁寧に守衛の命令口調が敬語にまでなっている。
「どうだろうか。協力してもらえるかね?」
もちろん、これに異を唱える理由はない。ヴェルスタンドで起こっている異変を止めたいという目的は同じなのだ。
「精神体を研究していたのは間違いなく私です。この一件の責任は私にあると言っても過言ではありません。是非とも協力させていただきます」
ガイストはこの要請を受けた。
では後ほど会おうと告げて大統領は面会室を後にした。
まだ興奮治まらない様子でヘルツが訊いた。
「ガイスト! いや、ガイスト先生! 大統領に名前を知られてるなんて、そんなにすごいお方だったんですか!?」
「ま、まぁ……一応ね」
苦笑するしかないガイストだった。
荒野で行き倒れていたガイストたちを拾ったのは、偶然そこを通りかかったフィーティン軍の装甲車だった。
フィーティンの首都フェルトへと戻った装甲車は行き倒れの旅人たちに水と治療を与えたが、入国記録に彼らの顔がなかったので不法入国者の疑いがあるとしてこうして留置所に閉じ込めたのだった。
守衛が二人に向かって声をかける。
「来い。面会の時間だ」
「面会だって? 一体誰が…」
フィーティンに知り合いなどいないはずだ。
不思議に思いながらも面会室へと連れられる。そしてそこで出逢ったのは意外な顔だった。
「やっぱりガイスト! あのまま軍隊に連れられていったけど、よかった。無事だったんダな!」
ガラス窓の向こうにサボテンが座って話している。
「オレ面会って初めてで戸惑っちまったよ。ここに来る途中に検査室があって手荷物を調べられるんダ。でもオレ自身が金属だからすごく反応してなぁ。それからやたら長い通路を通るんダが、誰もいなくてほんとに進んでいいのか不安になっちまったよ」
いや、これはサボテンのような姿をした機械だ。彼こそが先の戦争でともに闘った仲間、ゲンダーだ。
「ゲンダー! まさかこんなところで再会するとは思わなかった。どうしてここに?」
「実はダな…」
メイヴを復活させる方法を求めて旅に出ていたゲンダー。
ガイストたちがヴェルスタンドを駆けまわっていたその頃、ゲンダーはヴェルスタンドの荒野を進んでいた。
すると突然の砂嵐。視界が悪く思わず立ち止ったところに、ちょうどそこを行軍していたフィーティンの装甲車が激突する。
何事かと降りてきた兵士が発見したのは倒れているサボテン型の機械だった。
奇妙な機械を見つけたと兵士が報告する。機械と言えばマキナだ。偵察機か何かかもしれないと判断した上官はそれを持ちかえって調査するように命じ、ゲンダーは装甲車へと載せられた。
このときの衝撃で一時的に意識を失っていたゲンダーだったが、搭載されている自己修復機能で回復し意識を取り戻すと、最初に視界に飛び込んできたのは行き倒れるガイストたちの姿だったというわけだ。
「こんな再会のしかたをするなんて、運命って不思議なもんダな。ガイストはどうしてここに?」
「僕たちはヴェルスタンドから来たんだが…」
ガイストが事情を説明した。
それを聞いてゲンダーは難しそうな顔をして言った。
「また精神体か…。しょうがないな、またオレがやっつけてやる。射影機はまだあるのか?」
「スヴェン博士の研究所にある。僕たちはマキナに向かうところだったんだけど、ちょっと事故に巻き込まれてしまってね。気が付いたらこうして捕まっていたというわけだよ」
精神体と戦うためには射影機が必要だ。それを取りに行くためにマキナへ向かいたいが、そのためにはなんとかここを出なくてはならない。
「ゲンダー、僕たちをここから出すことはできないのか?」
「まぁこの壁を破壊すればできなくもないが、それだと大騒ぎになっちまう。それを避けたいなら今すぐってわけにはいかないぞ」
「そ、それは困るな。だったら僕の代わりにマキナへ行って射影機を取ってきてくれないか? それからスヴェン博士に事情を説明してもらえると助かる」
「それならお安いご用ダ! 他に何か伝言とかはあるか?」
「そうだな……それじゃあこの機械をスヴェン博士に修理してもらいたいんだけど、頼めるかい?」
左腕にはめた小型端末を指して言う。
「あとで守衛に頼んでおくから受け取ってくれ。ただの壊れた機械だ。問題なく渡してもらえるはずだ」
「おう。合点承知ダー」
ちょうどそこで守衛がそろそろ時間だと伝えてきた。
オレに任せろと胸を叩いてゲンダーは去って行った。
「さっきの機械は?」とヘルツ。
「あれが前に話したゲンダーだ」
「ずいぶんよくできてるんだな。まるで人間と会話しているのとほとんど変わらなかったぞ」
「ヘイヴという科学者が発明したんだ。僕の憧れの存在だ。現在のマキナのどの機械よりも優れている。……さすがヘイヴだよ」
もうこの部屋に用はない。そこで守衛に小型端末を預けてガイストたちも去ろうとすると、別の守衛が現れて呼び止めた。
曰く、どうやらまだ他に面会相手がいるらしい。
「面会は一日一回だと思ったけど、フィーティンじゃ違うのかい?」
「基本的にはそうだ。だが重要な人物が面会を求めているので、今回だけは特別措置とさせてもらう」
「重要な人物だって?」
こんどこそ心当たりがない。メイヴはいないし、グメーシスはしゃべれない。
まさかスヴェン博士がここにいるということはないだろうし、重要な人物というほどの存在なのだからもっと格上のはずだ。
「一体誰が…?」
面会室の椅子に座りなおして、不安と緊張の面持ちでしばらく待たされる。
するとおもむろに、こんな場所とはまるで不釣り合いの大層立派な身なりの男が現れて、ガラス窓を挟んだ向かいに座った。
「おまえ……いや、あなたは……!!」
驚いてヘルツが椅子から転げ落ちた。
「ヴェルスタンド……大統領!? どうしてあなたが!!」
それは現ヴェルスタンド国家代表その男だった。
「ガイスト博士。ご無沙汰だな」
それは前大統領の政権時代にヴェルスタンド精神科学省大臣を務めていた男で、新たに現政権の代表となったヴェルスタンドの新大統領だ。精神科学に携わる者として、ガイストも彼には多少なり面識があった。
新大統領はヴェルスタンドで起こる異常な現象を解決するため、このフィーティンに拠点を移しフィーティン国王の協力のもとで対策を講じているとのことだった。
そういえばそんなことがニュースで言われていたな、とガイストは思い出す。
「で、ですが大統領! フィーティンはかつての戦争相手、憎き国です! そんなやつらに協力を求めるだなんて…」
ヘルツが困惑した様子で訊く。
「たしかに戦時は敵国だった。だが、そんなことばかり言っていては政治はできんよ。今はヴェルスタンドの国民を護ることが大切だからな」
この男は敵だった前大統領とは違う。しっかりと国民のためを思って政治を行おうとしている。ガイストはそう感じた。
大統領はそんなガイストのほうを見つめて言った。
「そして時にガイスト博士。たしか君は精神体研究の権威だったな。我々の調査の結果、今回の騒動の原因は精神体が関与していることがわかっている。しばらく行方を眩ませていたので途方に暮れていたのだが、こうして出逢えたことは喜ばしい偶然だ。是非ともあなたの協力をお願いしたい」
「まさか…大統領直々のお願いだなんて……!」
「もちろんタダとは言わん。すでに話はつけてある」
大統領が合図すると、部屋の奥で監視していた守衛が畏まって答えた。
「お二人を解放するようにとの指示を受けています。面会が終了した後、すぐに出ていただくことができます」
ご丁寧に守衛の命令口調が敬語にまでなっている。
「どうだろうか。協力してもらえるかね?」
もちろん、これに異を唱える理由はない。ヴェルスタンドで起こっている異変を止めたいという目的は同じなのだ。
「精神体を研究していたのは間違いなく私です。この一件の責任は私にあると言っても過言ではありません。是非とも協力させていただきます」
ガイストはこの要請を受けた。
では後ほど会おうと告げて大統領は面会室を後にした。
まだ興奮治まらない様子でヘルツが訊いた。
「ガイスト! いや、ガイスト先生! 大統領に名前を知られてるなんて、そんなにすごいお方だったんですか!?」
「ま、まぁ……一応ね」
苦笑するしかないガイストだった。
留置所から出されたガイストたちは大統領に連れられて、フィーティン王城へと向かった。
王城にはヴェルスタンドの大統領、大臣たち、フィーティンの王に大臣たちと錚々たる顔ぶれだ。
緊張して固まるヘルツをよそに、ガイストは精神体の特徴を説明する。
「ほう、そんなものが…」
「なるほど、そのパルス波とかいうものに弱いのか」
腕を組みながら大臣たちが頷く。
「大統領、よろしかったのですか…。我が国の技術がフィーティンに知られてしまいます」
一人のヴェルスタンドの大臣が耳打ちした。
「そんなものはかまわん。それならばさらにその上を行く技術を開発すればいい。今は国を立て直すことが先決だろう」
ガイストの説明を聞いていた大臣の一人が質問した。
「しかし、その精神体がなぜ人々を襲うのだね。君の説明によると精神体は意思を持たないのだろう?」
「ええ、そうです。おそらく何者かが精神兵器を利用して今回の事件を引き起こしていると私は考えています」
「では黒幕がいると?」
大統領が訊いた。
「そう考えるのが自然でしょう。……ですが、それが誰なのか見当がつかないのはもちろん、その動機もわかりません。大統領、何か心当たりは?」
「我が国に恨みがある者の仕業だろうか。よもやフィーティンの仕業ではあるまいな」
フィーティン王をちらと睨む。大臣たちが口々に反論したが、それを鎮めさせるとフィーティン王は改めて否定した。
「フィーティンの自慢は軍事力だ。フィーティンは力を以ってよしとする。我が国はそんな精神体を使うような卑劣な真似はしない」
こんどはヴェルスタンドの大臣たち叫ぶ。大統領がそれを鎮めて確認する。
「貴国ではないと信じていいんだな。となるとやはり先の戦争の仕返しにマキナの何者かが…」
そんなはずはない。ガイストはそう反論したかった。
だがそうだと言い切れる根拠はどこにもない。
「とにかくまずは精神体をどうにかすることが先決です。精神体の弱点は音。それで精神体を倒せるわけではありませんが、動きを止めることができます」
「倒せない? では、どうするというのかね」
「私の仲間が精神体を封じることのできる機械を取りに向かっていますが、それだけでは足りません」
敢えてマキナに向かったとは言わないでおく。
「そこで、その機械の構造を応用して精神体に対抗するための道具を取り急いで製作します。フィーティンに技術者はいませんか」
「兵器の整備士たちなら揃っているが?」
「それで充分です。是非人員を割いていただきたい」
「いいだろう。精神体は音が弱点だと言ったな。では音響兵器を装備させた軍隊も出動させよう」
フィーティンはどうやら兵を出してヴェルスタンドに協力してくれるようだった。
現時点では精神体を裏で操っている黒幕はわからない。だがヴェルスタンドを襲っているのは間違いなく精神兵器だ。
ヴェルスタンドの調べで判明しているのはこうだ。
紫の霧とともに現れて人々を襲う光、レティスとブロウティス。
これはガイストも把握していたようにヴェルスタンドで開発された精神兵器だ。一方は物理的に破壊可能。一方はフィーティンの音響兵器で対処可能だという。
人々が倒れる原因は精神体の干渉によるものだ。どういうわけかはまだ不明だが、精神体が他の精神を引き込んでいるらしく、精神体に身体を通過された者はその精神を引っぺがされて意識を失ってしまう。
精神には魂と魄の二種類があり、それらは二つ揃って初めて完全なものとなる。魂とは精神を司るたましい、魄とは身体を司るたましいだ。
この一方が抜け出して彷徨ってしまったものをドッペルゲンガーと呼ぶ。このどちらが欠けても人は生きることができない。それゆえに自分のドッペルゲンガーを見かけた者は近いうちに死ぬと言われているのだ。
精神体はこの魂魄を同時に奪い去ってしまう。魂魄を奪われた人々はその瞬間に糸が切れたように倒れ、そして死ぬ。
ヘルツは精神は脳によって生み出されるもので魂魄など存在しないと反論したが、心身の一元論と二元論の対立についての議論はここでは割愛する。少なくとも精神体というものが存在し、それが原因で人々が倒れている。それがすべてだ。
精神体は音響兵器では倒せない。これはゲンダーが取りに向かった射影機の活躍に期待したいところだ。
そして機械の暴走。これも精神体が原因であるとヴェルスタンドは判断した。
つまり精神体が機械に憑依してそれを操っているというのだ。精神体は目には見えないため、我々には機械が一人でに動き出して暴走しているように見えたというわけだ。
そもそも精神が機械に憑依できるのか、そして意思を持たない精神体がなぜ機械に憑依してそれを自在に操ることができるのかという議論についてもここでは省略する。かつての戦争ではヴェルスタンドの強大な兵器『鯰』を操っていたのは精神体だった。つまり、それと同じことが起こっているというわけだ。
目に見えない精神体が機械を操っていたから、機械が暴走しているように見えた。それがすべてだ。
つまり敵は精神兵器と精神体の二つ。前者はフィーティンのマキナから輸入された兵器で対処できる。後者はマキナの射影機の出番だ。
簡単に言えば、ヴェルスタンド内に潜むこれらを一掃してしまえば今回の一件は解決可能ということだ。
そこでフィーティン軍の力と、ヴェルスタンドの技術やガイストの知識と取り入れた兵器で精神体に戦いを挑む。
「ガイスト博士。君は精神体について最も詳しいんだ。是非とも司令官とともに軍の指揮を取ってもらいたい」
「わかりました。任せてください」
大統領の要請を受け入れるガイスト。
「俺はどうすればいいんだ?」とヘルツ。
「是非とも僕をサポートしてほしい。君の精神科医ならではの意見も聞きたいからね」
「わかった。気になることがあれば何でも聞いてくれ」
フィーティンの軍事力、ヴェルスタンドの知恵、そしてマキナの機械兵器。それぞれの力を合わせて精神体に立ち向かう。
今ここにフィーティン、ヴェルスタンド、マキナの技術が集結する。
敵は精神兵器と精神体。立ち向かうは大樹大陸三国の技術。
精神と三国同盟の闘いが今始まる。
王城にはヴェルスタンドの大統領、大臣たち、フィーティンの王に大臣たちと錚々たる顔ぶれだ。
緊張して固まるヘルツをよそに、ガイストは精神体の特徴を説明する。
「ほう、そんなものが…」
「なるほど、そのパルス波とかいうものに弱いのか」
腕を組みながら大臣たちが頷く。
「大統領、よろしかったのですか…。我が国の技術がフィーティンに知られてしまいます」
一人のヴェルスタンドの大臣が耳打ちした。
「そんなものはかまわん。それならばさらにその上を行く技術を開発すればいい。今は国を立て直すことが先決だろう」
ガイストの説明を聞いていた大臣の一人が質問した。
「しかし、その精神体がなぜ人々を襲うのだね。君の説明によると精神体は意思を持たないのだろう?」
「ええ、そうです。おそらく何者かが精神兵器を利用して今回の事件を引き起こしていると私は考えています」
「では黒幕がいると?」
大統領が訊いた。
「そう考えるのが自然でしょう。……ですが、それが誰なのか見当がつかないのはもちろん、その動機もわかりません。大統領、何か心当たりは?」
「我が国に恨みがある者の仕業だろうか。よもやフィーティンの仕業ではあるまいな」
フィーティン王をちらと睨む。大臣たちが口々に反論したが、それを鎮めさせるとフィーティン王は改めて否定した。
「フィーティンの自慢は軍事力だ。フィーティンは力を以ってよしとする。我が国はそんな精神体を使うような卑劣な真似はしない」
こんどはヴェルスタンドの大臣たち叫ぶ。大統領がそれを鎮めて確認する。
「貴国ではないと信じていいんだな。となるとやはり先の戦争の仕返しにマキナの何者かが…」
そんなはずはない。ガイストはそう反論したかった。
だがそうだと言い切れる根拠はどこにもない。
「とにかくまずは精神体をどうにかすることが先決です。精神体の弱点は音。それで精神体を倒せるわけではありませんが、動きを止めることができます」
「倒せない? では、どうするというのかね」
「私の仲間が精神体を封じることのできる機械を取りに向かっていますが、それだけでは足りません」
敢えてマキナに向かったとは言わないでおく。
「そこで、その機械の構造を応用して精神体に対抗するための道具を取り急いで製作します。フィーティンに技術者はいませんか」
「兵器の整備士たちなら揃っているが?」
「それで充分です。是非人員を割いていただきたい」
「いいだろう。精神体は音が弱点だと言ったな。では音響兵器を装備させた軍隊も出動させよう」
フィーティンはどうやら兵を出してヴェルスタンドに協力してくれるようだった。
現時点では精神体を裏で操っている黒幕はわからない。だがヴェルスタンドを襲っているのは間違いなく精神兵器だ。
ヴェルスタンドの調べで判明しているのはこうだ。
紫の霧とともに現れて人々を襲う光、レティスとブロウティス。
これはガイストも把握していたようにヴェルスタンドで開発された精神兵器だ。一方は物理的に破壊可能。一方はフィーティンの音響兵器で対処可能だという。
人々が倒れる原因は精神体の干渉によるものだ。どういうわけかはまだ不明だが、精神体が他の精神を引き込んでいるらしく、精神体に身体を通過された者はその精神を引っぺがされて意識を失ってしまう。
精神には魂と魄の二種類があり、それらは二つ揃って初めて完全なものとなる。魂とは精神を司るたましい、魄とは身体を司るたましいだ。
この一方が抜け出して彷徨ってしまったものをドッペルゲンガーと呼ぶ。このどちらが欠けても人は生きることができない。それゆえに自分のドッペルゲンガーを見かけた者は近いうちに死ぬと言われているのだ。
精神体はこの魂魄を同時に奪い去ってしまう。魂魄を奪われた人々はその瞬間に糸が切れたように倒れ、そして死ぬ。
ヘルツは精神は脳によって生み出されるもので魂魄など存在しないと反論したが、心身の一元論と二元論の対立についての議論はここでは割愛する。少なくとも精神体というものが存在し、それが原因で人々が倒れている。それがすべてだ。
精神体は音響兵器では倒せない。これはゲンダーが取りに向かった射影機の活躍に期待したいところだ。
そして機械の暴走。これも精神体が原因であるとヴェルスタンドは判断した。
つまり精神体が機械に憑依してそれを操っているというのだ。精神体は目には見えないため、我々には機械が一人でに動き出して暴走しているように見えたというわけだ。
そもそも精神が機械に憑依できるのか、そして意思を持たない精神体がなぜ機械に憑依してそれを自在に操ることができるのかという議論についてもここでは省略する。かつての戦争ではヴェルスタンドの強大な兵器『鯰』を操っていたのは精神体だった。つまり、それと同じことが起こっているというわけだ。
目に見えない精神体が機械を操っていたから、機械が暴走しているように見えた。それがすべてだ。
つまり敵は精神兵器と精神体の二つ。前者はフィーティンのマキナから輸入された兵器で対処できる。後者はマキナの射影機の出番だ。
簡単に言えば、ヴェルスタンド内に潜むこれらを一掃してしまえば今回の一件は解決可能ということだ。
そこでフィーティン軍の力と、ヴェルスタンドの技術やガイストの知識と取り入れた兵器で精神体に戦いを挑む。
「ガイスト博士。君は精神体について最も詳しいんだ。是非とも司令官とともに軍の指揮を取ってもらいたい」
「わかりました。任せてください」
大統領の要請を受け入れるガイスト。
「俺はどうすればいいんだ?」とヘルツ。
「是非とも僕をサポートしてほしい。君の精神科医ならではの意見も聞きたいからね」
「わかった。気になることがあれば何でも聞いてくれ」
フィーティンの軍事力、ヴェルスタンドの知恵、そしてマキナの機械兵器。それぞれの力を合わせて精神体に立ち向かう。
今ここにフィーティン、ヴェルスタンド、マキナの技術が集結する。
敵は精神兵器と精神体。立ち向かうは大樹大陸三国の技術。
精神と三国同盟の闘いが今始まる。