カタ、カタ…と画面に向かってコンピュータのキーを打つ音が響いてくる。
その部屋には窓がなく、無機質な機械音以外には賑やかな音もない。
どこかで水の流れる音や、空調の唸り声、そしてこの男が機械を操作する音以外にこの研究所で聞こえる音はない。とても静かだった。
なぜならここは地下深くの部屋。一部の関係者を除いてほとんどの者はこの場所のことを知らない。そう、このドームの責任者ガイスト・Z・ドゥーフでさえも。
ここはヴェルスタンドの研究所帯ヒュフテの西部、フィーティンとの国境沿いに位置するドーム、ガイストクッペル0番ラボ地下室。その薄暗い部屋の中で、一人の男がただ黙々と画面に向かってキーを打ち続けていた。
これはまだヘイヴがコールドスリープに入り、ゲンダーがメイヴの謎を巡って大樹大陸へやってくるよりも前の物語である。
その部屋には窓がなく、無機質な機械音以外には賑やかな音もない。
どこかで水の流れる音や、空調の唸り声、そしてこの男が機械を操作する音以外にこの研究所で聞こえる音はない。とても静かだった。
なぜならここは地下深くの部屋。一部の関係者を除いてほとんどの者はこの場所のことを知らない。そう、このドームの責任者ガイスト・Z・ドゥーフでさえも。
ここはヴェルスタンドの研究所帯ヒュフテの西部、フィーティンとの国境沿いに位置するドーム、ガイストクッペル0番ラボ地下室。その薄暗い部屋の中で、一人の男がただ黙々と画面に向かってキーを打ち続けていた。
これはまだヘイヴがコールドスリープに入り、ゲンダーがメイヴの謎を巡って大樹大陸へやってくるよりも前の物語である。
メイヴの謎 外伝「Mindarium」
後に精神体理論の権威と呼ばれることになる男、ガイスト。だがもちろん彼一人でその理論すべてを構築したわけではない。彼の優秀な部下であるヴェルスタンドの研究員たちの協力があったからこそ、ガイストは精神体の第一人者となれたのである。
多くの者はガイストを良きリーダーとして、そしてドームの責任者として信頼していた。だからこそ、彼らは『精神体』という未知の概念を発見し、その技術を扱うことができるようになったのだ。
しかし、すべての研究者がガイストの味方というわけではなかった。
後にガイストが、そしてゲンダーやメイヴ、ひいてはマキナ国さえが巻き込まれるマキナ-フィーティン戦争。その引き金となったヴェルスタンド大統領の企み。表では大統領として精神体研究を支援する一方で、裏では腹心を使って研究の成果を己の野望のために使っていた。その企みの芽がすでにここには根付いていた。
そしてこの男もまた、そんな大統領の腹心の一人だった…
男の操作の手が止まる。そして顔を上げてモニタ画面をじっと見つめた。画面には何かの設計図のようなものが表示されている。さっきまでこの男が熱心に作成していたものだ。男は設計図を確認し終えると「よし」と一言呟いて、近くの端末であの男に連絡を取り始めた。
画面にはあの男の顔が表示される。端末を手に、男は画面の彼に向かって報告した。
「大統領、ようやくできました。新しい設計図です」
「ああ、おまえか。よろしい、ではさっそくこちらに転送してもらおう」
男は機械を操作して、まとめ上げたばかりの設計図とその詳細資料を転送した。画面の向こうで側近がデータが届いたことを知らせる。大統領の指示で側近はそのまま資料を読み上げ始めた。
難解な用語が飛び交うが、これでもあの研究大国ヴェルスタンドの大統領である。専門的に深いことまでは理解が追いつかずとも、基本的な科学知識は当然のように持ち合わせている。大統領は送られてきた設定図を眺めながら、ときどき頷きつつ、黙って資料を読み上げる側近の声に耳を傾けていた。
側近がすべてを読み終えると、咳払いをひとつして大統領がおもむろに話し始める。
「なるほど……G-mehsysか、面白い。これは期待できそうだな」
「はい、もちろんです大統領。これは以前のレティスとブロウティス両方の利点を備えたものになる予定です」
「ふむ。というと?」
「G-mehsysはレティス同様、物理的な干渉を一切受け付けません。さらにブロウティスのように高い攻撃性能を持ちます」
「資料には触れたものを消滅させるとあるが、これはどういった仕組みだ」
「はい。G-mehsysはレティスやブロウティスと同様、ガイスト博士の発見した精神体のエネルギーで構成されます。ですが、G-mehsysは以前の精神兵器とは異なり、より純度の高い精神エネルギーを用いることで触れた対象の精神に干渉し、敵の精神を吸収したり破壊することができるようになります」
「ほう…。それは強そうだ」
「もちろんG-mehsysはレティスと同様の性質を持っていますから、壁をすり抜けることも可能です。たとえ敵がどんな武装をしていようと、どこに隠れようと関係ありません。背後より音もなく忍びより、確実にその息の根を止めるでしょう」
「うむ、完成が待ち遠しいものだ。それが実現できればフィーティンの戦車隊だろうと、マキナの飛行艇が攻めてこようと、もはや我が国に敵なしというものだ。高純度エネルギーの獲得はやはりガイストの功績か?」
「ええ、彼には感謝しなければなりませんね。もちろん私の努力のかいもあってのことですがね」
「ふははは、すまぬ。おまえにも感謝せねばな。だがまだ喜ぶのは早いぞ。まずはそのG-mehsysを実現し、完成させるのが先だ」
「もちろんです、大統領。この私にお任せください!」
「おまえには期待している。是非ともやり遂げてくれ、シュラーゲンよ」
シュラーゲンと呼ばれた男は画面の向こうの大統領に向かって敬礼してみせた。大統領は大きく頷くと、その通信を終えて画面から姿を消した。
地下室は再び静寂に包まれる。
シュラーゲンはもう一度念入りに設計図を確認すると、モニタに背を向けて部屋を出ていった。
多くの者はガイストを良きリーダーとして、そしてドームの責任者として信頼していた。だからこそ、彼らは『精神体』という未知の概念を発見し、その技術を扱うことができるようになったのだ。
しかし、すべての研究者がガイストの味方というわけではなかった。
後にガイストが、そしてゲンダーやメイヴ、ひいてはマキナ国さえが巻き込まれるマキナ-フィーティン戦争。その引き金となったヴェルスタンド大統領の企み。表では大統領として精神体研究を支援する一方で、裏では腹心を使って研究の成果を己の野望のために使っていた。その企みの芽がすでにここには根付いていた。
そしてこの男もまた、そんな大統領の腹心の一人だった…
男の操作の手が止まる。そして顔を上げてモニタ画面をじっと見つめた。画面には何かの設計図のようなものが表示されている。さっきまでこの男が熱心に作成していたものだ。男は設計図を確認し終えると「よし」と一言呟いて、近くの端末であの男に連絡を取り始めた。
画面にはあの男の顔が表示される。端末を手に、男は画面の彼に向かって報告した。
「大統領、ようやくできました。新しい設計図です」
「ああ、おまえか。よろしい、ではさっそくこちらに転送してもらおう」
男は機械を操作して、まとめ上げたばかりの設計図とその詳細資料を転送した。画面の向こうで側近がデータが届いたことを知らせる。大統領の指示で側近はそのまま資料を読み上げ始めた。
難解な用語が飛び交うが、これでもあの研究大国ヴェルスタンドの大統領である。専門的に深いことまでは理解が追いつかずとも、基本的な科学知識は当然のように持ち合わせている。大統領は送られてきた設定図を眺めながら、ときどき頷きつつ、黙って資料を読み上げる側近の声に耳を傾けていた。
側近がすべてを読み終えると、咳払いをひとつして大統領がおもむろに話し始める。
「なるほど……G-mehsysか、面白い。これは期待できそうだな」
「はい、もちろんです大統領。これは以前のレティスとブロウティス両方の利点を備えたものになる予定です」
「ふむ。というと?」
「G-mehsysはレティス同様、物理的な干渉を一切受け付けません。さらにブロウティスのように高い攻撃性能を持ちます」
「資料には触れたものを消滅させるとあるが、これはどういった仕組みだ」
「はい。G-mehsysはレティスやブロウティスと同様、ガイスト博士の発見した精神体のエネルギーで構成されます。ですが、G-mehsysは以前の精神兵器とは異なり、より純度の高い精神エネルギーを用いることで触れた対象の精神に干渉し、敵の精神を吸収したり破壊することができるようになります」
「ほう…。それは強そうだ」
「もちろんG-mehsysはレティスと同様の性質を持っていますから、壁をすり抜けることも可能です。たとえ敵がどんな武装をしていようと、どこに隠れようと関係ありません。背後より音もなく忍びより、確実にその息の根を止めるでしょう」
「うむ、完成が待ち遠しいものだ。それが実現できればフィーティンの戦車隊だろうと、マキナの飛行艇が攻めてこようと、もはや我が国に敵なしというものだ。高純度エネルギーの獲得はやはりガイストの功績か?」
「ええ、彼には感謝しなければなりませんね。もちろん私の努力のかいもあってのことですがね」
「ふははは、すまぬ。おまえにも感謝せねばな。だがまだ喜ぶのは早いぞ。まずはそのG-mehsysを実現し、完成させるのが先だ」
「もちろんです、大統領。この私にお任せください!」
「おまえには期待している。是非ともやり遂げてくれ、シュラーゲンよ」
シュラーゲンと呼ばれた男は画面の向こうの大統領に向かって敬礼してみせた。大統領は大きく頷くと、その通信を終えて画面から姿を消した。
地下室は再び静寂に包まれる。
シュラーゲンはもう一度念入りに設計図を確認すると、モニタに背を向けて部屋を出ていった。
ガイストの精神体理論の基本は、あらゆる生命体を活動させているその精神エネルギーを取り出して扱うといったものだ。ヴェルスタンドの精神エネルギーは本国を含めた大樹大陸のあらゆる国に対して極秘事項とされていたが、この研究の関係者は誰もが精神エネルギーは電気に取って代わる新たなエネルギーになると考えていた。そしてこの精神エネルギーさえ実用化されれば、ヴェルスタンドはもうフィーティンにもマキナにも負けない、この大陸をリードする国になると確信していた。
初めは実験用の動物などの小さな生き物から精神エネルギーを抽出する技術の確立から始まった。
精神エネルギーの大きさは電気エネルギーとはまるで桁違いだった。それも当然なこと、精神エネルギーは動物が生まれてから死ぬまで、その動物を活動させ続ける強大なエネルギー源だ。数時間や数日程度しか持たない乾電池なんかに比べれば、その差は天と地の差である。
例えばネズミから抽出した精神エネルギーは大型電球をいつまでも点灯させ続けた。精神体研究のかなり初期の頃に電球実験は行われたが、数年経った今でもその電球の明かりは全く衰えることがない。計算結果によると、少なくとも500年以上は光を放ち続ける(もっとも、その前に電球自体が劣化して壊れてしまうだろう)ということがわかっている。
長くとも3年程度の寿命のネズミの精神でさえ、大型電球500年分以上ものエネルギーを生み出すのだ。より寿命の長い精神を使えばさらに強力なエネルギーが得られることは間違いない。精神エネルギーはそれほどまでに莫大な力を秘めているのだ。
これは近年問題化しつつあるエネルギー問題の打開策になるだろう、と研究者たちは確信してより一層研究に励んでいたが、それでも研究者たちは決して手を出すべきではない、と暗黙の了解にしていることがあった。
それはすなわち、人間の精神を抽出することだ。
ネズミが数年、小動物で十数年、大型動物が数十年程度か。寿命が長くなるに比例して、その精神が持つエネルギー量は増加する。またその個体が若ければ若いほどエネルギーが消費されていないので、得られるエネルギーも多い。
百年近く生きる人間、それも若い人間の精神を使えば究極のエネルギーが得られるはずだと、誰もが一度は考えた。
だがその一線は決して超えてはいけない。他人の命を奪いそれを消費して得るエネルギーなど、それは絶対に人が踏み込んではならない領域なのだ。
過去に何か辛いことでもあったのか、事情は知らないがガイストはよく精神を解放すれば幸せになれる、自分もいつかは精神を解放されたいというようなことを口走っていた。もちろん倫理的な問題で研究者たちはそれだけはいけないと口をそろえた。
ガイストには強大な力を得るためという欲望ではなく、何か彼独自の宗教観のようなものを根拠にそんなことを言っている節があり、また曲がりなりにも責任者である彼にいなくなってもらうと困るため、部下たちはそんなガイストを非難したり咎めたりはしなかった。「まぁ、天才というのは変人が多いものだし…」それが研究員たちの共通見解である。
……だが。この男は違った。
目の前に恰好の研究材料があるのに、それが莫大なエネルギーを持っているとわかっているのに、どうしてそれに手を出さない。神の怒りに触れる? 科学に携わる者が神なんてものを信じると? すべての現象は原因と結果、それだけだ。神などというものは心の弱い人々が生み出した虚像に過ぎない。シュラーゲンはそう考えていた。
だからこそ、この男はとうとうそれに手を出してしまった――!
「これが完成すれば、すぐにでも我が国は大陸一になれる。今にヴェルスタンドこそ世界最強になるのだ。馬鹿どもはどうしてそれがわからないのか」
シュラーゲンは薄暗い廊下をつきあたりまで歩くと、その正面にある扉を開ける。扉は何重にも厳重に施錠されていた。
「だがさすがは大統領、あのお方は違う。彼はそんな俺に目をかけて取り立ててくれた。俺は今まさに大統領直々の任務をこなしている。馬鹿どもとは違う、ガイストでもない。この俺こそが我が国の科学史を塗り変えてやるんだ!」
最後の鍵がようやく外された。重い音を立てながら、電子制御されたその扉が開く。
扉の奥の部屋はこれまでの部屋とは一変、屋内だというのにそこには半径1m程度の池と苔むした岩が並んでいる。
そして部屋の奥には鎖で繋がれた一人の女性の姿があった。
初めは実験用の動物などの小さな生き物から精神エネルギーを抽出する技術の確立から始まった。
精神エネルギーの大きさは電気エネルギーとはまるで桁違いだった。それも当然なこと、精神エネルギーは動物が生まれてから死ぬまで、その動物を活動させ続ける強大なエネルギー源だ。数時間や数日程度しか持たない乾電池なんかに比べれば、その差は天と地の差である。
例えばネズミから抽出した精神エネルギーは大型電球をいつまでも点灯させ続けた。精神体研究のかなり初期の頃に電球実験は行われたが、数年経った今でもその電球の明かりは全く衰えることがない。計算結果によると、少なくとも500年以上は光を放ち続ける(もっとも、その前に電球自体が劣化して壊れてしまうだろう)ということがわかっている。
長くとも3年程度の寿命のネズミの精神でさえ、大型電球500年分以上ものエネルギーを生み出すのだ。より寿命の長い精神を使えばさらに強力なエネルギーが得られることは間違いない。精神エネルギーはそれほどまでに莫大な力を秘めているのだ。
これは近年問題化しつつあるエネルギー問題の打開策になるだろう、と研究者たちは確信してより一層研究に励んでいたが、それでも研究者たちは決して手を出すべきではない、と暗黙の了解にしていることがあった。
それはすなわち、人間の精神を抽出することだ。
ネズミが数年、小動物で十数年、大型動物が数十年程度か。寿命が長くなるに比例して、その精神が持つエネルギー量は増加する。またその個体が若ければ若いほどエネルギーが消費されていないので、得られるエネルギーも多い。
百年近く生きる人間、それも若い人間の精神を使えば究極のエネルギーが得られるはずだと、誰もが一度は考えた。
だがその一線は決して超えてはいけない。他人の命を奪いそれを消費して得るエネルギーなど、それは絶対に人が踏み込んではならない領域なのだ。
過去に何か辛いことでもあったのか、事情は知らないがガイストはよく精神を解放すれば幸せになれる、自分もいつかは精神を解放されたいというようなことを口走っていた。もちろん倫理的な問題で研究者たちはそれだけはいけないと口をそろえた。
ガイストには強大な力を得るためという欲望ではなく、何か彼独自の宗教観のようなものを根拠にそんなことを言っている節があり、また曲がりなりにも責任者である彼にいなくなってもらうと困るため、部下たちはそんなガイストを非難したり咎めたりはしなかった。「まぁ、天才というのは変人が多いものだし…」それが研究員たちの共通見解である。
……だが。この男は違った。
目の前に恰好の研究材料があるのに、それが莫大なエネルギーを持っているとわかっているのに、どうしてそれに手を出さない。神の怒りに触れる? 科学に携わる者が神なんてものを信じると? すべての現象は原因と結果、それだけだ。神などというものは心の弱い人々が生み出した虚像に過ぎない。シュラーゲンはそう考えていた。
だからこそ、この男はとうとうそれに手を出してしまった――!
「これが完成すれば、すぐにでも我が国は大陸一になれる。今にヴェルスタンドこそ世界最強になるのだ。馬鹿どもはどうしてそれがわからないのか」
シュラーゲンは薄暗い廊下をつきあたりまで歩くと、その正面にある扉を開ける。扉は何重にも厳重に施錠されていた。
「だがさすがは大統領、あのお方は違う。彼はそんな俺に目をかけて取り立ててくれた。俺は今まさに大統領直々の任務をこなしている。馬鹿どもとは違う、ガイストでもない。この俺こそが我が国の科学史を塗り変えてやるんだ!」
最後の鍵がようやく外された。重い音を立てながら、電子制御されたその扉が開く。
扉の奥の部屋はこれまでの部屋とは一変、屋内だというのにそこには半径1m程度の池と苔むした岩が並んでいる。
そして部屋の奥には鎖で繋がれた一人の女性の姿があった。
意識が朦朧とする。頭がくらくらする。
もうどれくらいの時間が経ったのだろう。一日? 一週間? それとももう一年は経ったのかもしれない。
部屋には一切の照明がなく何も見えない。自分以外には人の気配がなく、水の流れる音だけが聞こえてくる。
しばらく何も食べていない。最初の頃はひどい空腹感に苛まれたが、いつしかそれすらもわからなくなり、もう今では何も感じなくなってしまった。
両腕と首は鎖によって壁に繋がれてしまっている。ずっと同じ体勢を強いられたためか、肩から先は痺れて何の感覚もない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう…
私はヴェルスタンドの兵士にさらわれてきてここに閉じ込められた。一体私が何をしたというのだろうか。私はただマキナの貧民街で貧しくもささやかな生活を送っていただけなのに。
最初の頃は助けを求めて叫び続けていた。しかしいくら叫んでも誰かが助けに現れることはなく、とうとう喉が潰れて声も出なくなってしまった。このまま私はどうなってしまうのだろうか。
そういう状態が長く続いた。周りには闇しかない。もう自分自身が生きているのかどうかさえわからなかった。
そんなあるとき、地響きとともに前方の壁に一筋の光が差した。長らく閉ざされていたこの部屋の扉がようやく開かれたらしい。だが私には希望も絶望も、恐怖心でさえも湧いてこなかった。
光の向こうに一人の人影が見える。
「さて、ようやくおまえを使うときが来たようだ。喜べ、おまえはG-mehsysの記念すべき被検体第一号なんだぞ」
どうやら助けではないらしい。怪しげな機械を持った白衣の薄汚い男。被検体? 私は実験台にされてしまうのか。
だがもはや私は何も感じなかった。怒りも、恐怖も、悲しみも。長らく暗闇の中に閉じ込められて、感情も闇に呑み込まれてしまったのかもしれない。
白衣の男が鎖を解いた。相手は一人だけ、逃げるなら今しかない。
それなのに、私にはそんな気力はまるで湧いてこない。身体に全然力が入らない。私はそのまま地面に倒れ込んだ。
「よしよし、従順だな。しばらく寝かしたかいがあったというものだ」
男が私の顔を覗きこんでいる。一体今の私はどんな表情をしていることだろう。死んだような目をしているのか、それとも人形のように無表情なのか。もはや何の気力も湧いてこない。あるのはただ、早く楽にしてほしいという思いだけだ。
「俺の仮説は正しかったな。こうして何も考えられないようにしてやれば抵抗もしてこないし、無駄に精神エネルギーを消費させることもない。人間もナマモノだ。冷暗所に保管するのが一番いい」
そう言ってこの男は手に持っていたヘルメット状の機械を私の頭に被せた。機械からは何本かのコードが伸びていて、それはこの部屋を出て外に続いている。
「さぁ、疲れたろう。すぐに楽にしてやる。じっとしていろよ、お嬢さん」
男はそのまま部屋を出て行った。扉が閉じられ、再び部屋は闇と静寂に包まれる。
しばらくすると頭の上の機械が起動し、蒼い光と呻り声を上げ始めた。次の瞬間には私の意識はふっと消えた。
もうどれくらいの時間が経ったのだろう。一日? 一週間? それとももう一年は経ったのかもしれない。
部屋には一切の照明がなく何も見えない。自分以外には人の気配がなく、水の流れる音だけが聞こえてくる。
しばらく何も食べていない。最初の頃はひどい空腹感に苛まれたが、いつしかそれすらもわからなくなり、もう今では何も感じなくなってしまった。
両腕と首は鎖によって壁に繋がれてしまっている。ずっと同じ体勢を強いられたためか、肩から先は痺れて何の感覚もない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう…
私はヴェルスタンドの兵士にさらわれてきてここに閉じ込められた。一体私が何をしたというのだろうか。私はただマキナの貧民街で貧しくもささやかな生活を送っていただけなのに。
最初の頃は助けを求めて叫び続けていた。しかしいくら叫んでも誰かが助けに現れることはなく、とうとう喉が潰れて声も出なくなってしまった。このまま私はどうなってしまうのだろうか。
そういう状態が長く続いた。周りには闇しかない。もう自分自身が生きているのかどうかさえわからなかった。
そんなあるとき、地響きとともに前方の壁に一筋の光が差した。長らく閉ざされていたこの部屋の扉がようやく開かれたらしい。だが私には希望も絶望も、恐怖心でさえも湧いてこなかった。
光の向こうに一人の人影が見える。
「さて、ようやくおまえを使うときが来たようだ。喜べ、おまえはG-mehsysの記念すべき被検体第一号なんだぞ」
どうやら助けではないらしい。怪しげな機械を持った白衣の薄汚い男。被検体? 私は実験台にされてしまうのか。
だがもはや私は何も感じなかった。怒りも、恐怖も、悲しみも。長らく暗闇の中に閉じ込められて、感情も闇に呑み込まれてしまったのかもしれない。
白衣の男が鎖を解いた。相手は一人だけ、逃げるなら今しかない。
それなのに、私にはそんな気力はまるで湧いてこない。身体に全然力が入らない。私はそのまま地面に倒れ込んだ。
「よしよし、従順だな。しばらく寝かしたかいがあったというものだ」
男が私の顔を覗きこんでいる。一体今の私はどんな表情をしていることだろう。死んだような目をしているのか、それとも人形のように無表情なのか。もはや何の気力も湧いてこない。あるのはただ、早く楽にしてほしいという思いだけだ。
「俺の仮説は正しかったな。こうして何も考えられないようにしてやれば抵抗もしてこないし、無駄に精神エネルギーを消費させることもない。人間もナマモノだ。冷暗所に保管するのが一番いい」
そう言ってこの男は手に持っていたヘルメット状の機械を私の頭に被せた。機械からは何本かのコードが伸びていて、それはこの部屋を出て外に続いている。
「さぁ、疲れたろう。すぐに楽にしてやる。じっとしていろよ、お嬢さん」
男はそのまま部屋を出て行った。扉が閉じられ、再び部屋は闇と静寂に包まれる。
しばらくすると頭の上の機械が起動し、蒼い光と呻り声を上げ始めた。次の瞬間には私の意識はふっと消えた。
別の部屋で監視カメラを通して実験室の様子を見ていたシュラーケンは、被検体が動かなくなったのを確認するとすぐに実験室へと戻った。精神体は目には視えないため、もちろんこの監視カメラにも映らない。だから実験が成功したかどうかを実際に確かめに行く必要があった。
精神体を視るための技術はまだ完成していない、というのが表面的な研究の実状だ。だがシュラーケンは知っている。物理的な物質を核にして精神体を巻き付けるように固定してやれば、その核を通して精神体を目視することが可能になるということを。
これは精神兵器レティスやブロウティスを研究していたときに偶然発見したことだ。これはガイストも上の研究者たちも知らない。シュラーケンだけが知っていることなのだ。そしてさっき被検体に被せた機械は、その精神兵器を発明するため試行錯誤の末に完成させたもの。対象から精神を抽出すると同時にそれを逃がすことなく核に固定させるための装置。これを持っているのは世界中捜してもシュラーケン一人だけだ。
「レティスやブロウティスとは違うぞ。もっと強力なエネルギー、それも若くて活きのいい娘の精神を使ったんだ。きっと最強の精神兵器が誕生したに違いない! その名はG-メイシス!」
レティスのときは赤、ブロウティスのときは青い光の球として精神体は目に見える形になった。さぁ、今度は何色の光を見せてくれるのか。そして新しい精神兵器はどんな力を見せてくれるのか。
期待に胸を躍らせながらシュラーケンは実験室の扉を開けた。
精神体を視るための技術はまだ完成していない、というのが表面的な研究の実状だ。だがシュラーケンは知っている。物理的な物質を核にして精神体を巻き付けるように固定してやれば、その核を通して精神体を目視することが可能になるということを。
これは精神兵器レティスやブロウティスを研究していたときに偶然発見したことだ。これはガイストも上の研究者たちも知らない。シュラーケンだけが知っていることなのだ。そしてさっき被検体に被せた機械は、その精神兵器を発明するため試行錯誤の末に完成させたもの。対象から精神を抽出すると同時にそれを逃がすことなく核に固定させるための装置。これを持っているのは世界中捜してもシュラーケン一人だけだ。
「レティスやブロウティスとは違うぞ。もっと強力なエネルギー、それも若くて活きのいい娘の精神を使ったんだ。きっと最強の精神兵器が誕生したに違いない! その名はG-メイシス!」
レティスのときは赤、ブロウティスのときは青い光の球として精神体は目に見える形になった。さぁ、今度は何色の光を見せてくれるのか。そして新しい精神兵器はどんな力を見せてくれるのか。
期待に胸を躍らせながらシュラーケンは実験室の扉を開けた。
意識が朦朧とする。頭がくらくらする。
ここはどこだろう。私は何者だろう。何もわからない、何も思い出せない。
ただわかるのは、私がこの真っ暗闇の部屋の中に浮かんでいるということだけだった。
部屋は全体的に冷えて冷たいが、その一角にとりわけ温度の低い波打った場所がある。きっと水が溜まっているのだろう。
私はなんとなくその水溜まりに近寄ってみることにした。とくに難しいことは何もなく、ただ行きたい方向を向いて泳ぐように尾を動かすだけで行きたい場所へ行くことができた。
おそらく水のはずだが、今の私にはそれは「温度が低くて波打ったもの」にしか視えない。私はその正体を確かめるために、手を伸ばしてそれに触れてみることにした。鰭状の手がそれに触れると、今まで液体だったはずのそれはなぜか粉状に変化して、さらさらと風に流されていった。
不思議な性質だ。もしかしたらただの水じゃないんだろうか。驚いた私の口からは「グメ?」という声が出た。
そのとき急に部屋の扉が開かれて、誰かがこの部屋の中に入って来た。
相手の顔を見てもよくわからなかったが、その何者かの体温は周囲に比べるととても温かいので、暗闇の中にあってもすぐにその居場所を知ることができた。
「さーて、新しい精神兵器は……っと。あれ、おかしいな。俺の予想ではまた光の球が浮かんでいるもんだと思ったんだが。第一号だし、さすがに失敗したか?」
どうやら向こうは暗闇の中にいる私を見つけられないらしい。そのまま部屋の奥に入っていき、床に転がっている機械を被った冷たい肉の塊を触っている。他には部屋の中をあちこちうろうろしたりもした。
その様子を見ているうちに、何か私の心の中にこみ上げてくるものがあった。それは”声”として私の心に響いてくる。
『アイツヲ殺スノダ』
『今コソ復讐ノトキヨ』
『我々ノ魂ヲ弄ンダ報イヲ!』
すると突然、心の内に強い怒りや憎しみが湧き起こって来た。そうだ、あいつが……あいつが悪いんだ。なぜかはわからない。わからないけど、あいつが悪いやつだということはなぜかよくわかった。”皆”の声がそう言っているからだ。
あいつはまだこちらに気付いていない。不意を襲うなら今だ。
私はあいつに気付かれないようにそっとその背後に回ると、頃合いを見計らってその左腕に噛みついてやった。すると先程と同様、なぜか噛みついた腕は粉のようになって崩れ落ちてしまった。
目の前のそいつは残った腕で、失われたほうの腕があった肩を押さえて、苦痛と悲鳴の混ざりあった複雑な色の叫びを上げている。
「う、うわぁぁああぁあッ! お、俺の腕が!?」
そのとき理解した。どうやら私が触れたものはすべてが粉になってしまうらしい。この能力があれば、あいつを消してしまうことなんて簡単だ。それを悟ったとき、心の中の声が再び私に語りかける。
『ヤツヲ殺セ』
『アイツハ我々ヲ実験材料ニ使ッテ、空ニナッタ身体ヲ無慈悲ニモ捨テタノデス』
『自由ニ動ケルオマエニスベテヲ託ス。ドウカ我々ノ無念ヲ晴ラシテホシイ』
どうやらこの”声”は以前に私と同じようにこの部屋で実験台にされた者たちの残留思念のようだ。複数の様々な年齢の男女の声、他には様々な動物の声もあった。生者であれば異なる種族の言語を理解することは難しいが、精神に言葉は不要。その意思がそのまま言葉としてその心に伝わってくる。言葉のような表面上のものではなく、強い感情を交えた遺志として魂に響いてくる。
そして彼ら彼女らの意志が今、私の中に流れ込みひとつとなった。
今こそ皆の無念を晴らす時!
「グメェェエエエェェェッ!!」
私はこの敵を闇に葬り去るため、その頭目掛けて勢いよく飛びかかった。
「こ、これは! これが新しい精神兵器なのか! す、素晴らしい…。素晴らしい力だ! ふははは、これぞ最強の……ぐぁあぁぁッ」
シュラーケンはそのまま粉と化して消えてしまった。
やった。私はやったのだ。この怪しげな研究に終止符を打った。そしてこの哀れな男の罪に罰を与えた。これでもう、私のような犠牲者が出ることもないはず。
しかし、安心したのも束の間のこと。すぐに勢い良く扉が閉じられ、扉の向こうからはけたたましい警報音が鳴り響いているのが聞こえてくる。
『おい、どうしたシュラーケン! 応答しろ、シュラーケン!』
『だめだ、生体反応が消えた。どうやらあいつの新しい精神兵器にやられたようだ』
今度はスピーカーを通して声が聞こえてくる。どうやらあの研究員にはまだ仲間がいるらしい。敵はまだ残っている。すぐにここを飛び出して殲滅しなければ。触れたものを粉に変える力のある今の私なら、この部屋の壁を粉に変えて脱出することも容易だろう。
そう考えて部屋を飛び出そうとしたが、不思議なことに身体が痺れて動かなかった。
「グ、グメェ?」
スピーカーからは再びあいつの仲間の声が聞こえてくる。
『仕方ない、シュラーケンのことは諦めよう。それよりもあいつのG-mehsysはどうなっている? せっかくの研究成果に逃げられるわけにはいかないぞ。あれは今後、重要な資料になるはずだ』
『そうだった。おい、フランツ。捕獲網を準備しろ』
この部屋のどこにスピーカーがあるのはわからないが、なぜかそこから音が発せられるたびに私の身体は何か衝撃波を受けたかのように痙攣し痺れが広がった。
「グ……グメぇ…」
力が抜けて浮かんでいられなくなった。そのまま私の身体はふらふらと床へ落ちていく。
するとそのとき、近くの岩だと思っていたものから何か蜘蛛の糸のようなものが飛び出して身体に絡みついた。糸に纏わりつかれた途端に全身には再び激しい衝撃が走り、私はどうやらそのまま意識を失ってしまったらしい。
それ以降のことは、後にゲンダーたちに助け出されるまで全く覚えていない。
ここはどこだろう。私は何者だろう。何もわからない、何も思い出せない。
ただわかるのは、私がこの真っ暗闇の部屋の中に浮かんでいるということだけだった。
部屋は全体的に冷えて冷たいが、その一角にとりわけ温度の低い波打った場所がある。きっと水が溜まっているのだろう。
私はなんとなくその水溜まりに近寄ってみることにした。とくに難しいことは何もなく、ただ行きたい方向を向いて泳ぐように尾を動かすだけで行きたい場所へ行くことができた。
おそらく水のはずだが、今の私にはそれは「温度が低くて波打ったもの」にしか視えない。私はその正体を確かめるために、手を伸ばしてそれに触れてみることにした。鰭状の手がそれに触れると、今まで液体だったはずのそれはなぜか粉状に変化して、さらさらと風に流されていった。
不思議な性質だ。もしかしたらただの水じゃないんだろうか。驚いた私の口からは「グメ?」という声が出た。
そのとき急に部屋の扉が開かれて、誰かがこの部屋の中に入って来た。
相手の顔を見てもよくわからなかったが、その何者かの体温は周囲に比べるととても温かいので、暗闇の中にあってもすぐにその居場所を知ることができた。
「さーて、新しい精神兵器は……っと。あれ、おかしいな。俺の予想ではまた光の球が浮かんでいるもんだと思ったんだが。第一号だし、さすがに失敗したか?」
どうやら向こうは暗闇の中にいる私を見つけられないらしい。そのまま部屋の奥に入っていき、床に転がっている機械を被った冷たい肉の塊を触っている。他には部屋の中をあちこちうろうろしたりもした。
その様子を見ているうちに、何か私の心の中にこみ上げてくるものがあった。それは”声”として私の心に響いてくる。
『アイツヲ殺スノダ』
『今コソ復讐ノトキヨ』
『我々ノ魂ヲ弄ンダ報イヲ!』
すると突然、心の内に強い怒りや憎しみが湧き起こって来た。そうだ、あいつが……あいつが悪いんだ。なぜかはわからない。わからないけど、あいつが悪いやつだということはなぜかよくわかった。”皆”の声がそう言っているからだ。
あいつはまだこちらに気付いていない。不意を襲うなら今だ。
私はあいつに気付かれないようにそっとその背後に回ると、頃合いを見計らってその左腕に噛みついてやった。すると先程と同様、なぜか噛みついた腕は粉のようになって崩れ落ちてしまった。
目の前のそいつは残った腕で、失われたほうの腕があった肩を押さえて、苦痛と悲鳴の混ざりあった複雑な色の叫びを上げている。
「う、うわぁぁああぁあッ! お、俺の腕が!?」
そのとき理解した。どうやら私が触れたものはすべてが粉になってしまうらしい。この能力があれば、あいつを消してしまうことなんて簡単だ。それを悟ったとき、心の中の声が再び私に語りかける。
『ヤツヲ殺セ』
『アイツハ我々ヲ実験材料ニ使ッテ、空ニナッタ身体ヲ無慈悲ニモ捨テタノデス』
『自由ニ動ケルオマエニスベテヲ託ス。ドウカ我々ノ無念ヲ晴ラシテホシイ』
どうやらこの”声”は以前に私と同じようにこの部屋で実験台にされた者たちの残留思念のようだ。複数の様々な年齢の男女の声、他には様々な動物の声もあった。生者であれば異なる種族の言語を理解することは難しいが、精神に言葉は不要。その意思がそのまま言葉としてその心に伝わってくる。言葉のような表面上のものではなく、強い感情を交えた遺志として魂に響いてくる。
そして彼ら彼女らの意志が今、私の中に流れ込みひとつとなった。
今こそ皆の無念を晴らす時!
「グメェェエエエェェェッ!!」
私はこの敵を闇に葬り去るため、その頭目掛けて勢いよく飛びかかった。
「こ、これは! これが新しい精神兵器なのか! す、素晴らしい…。素晴らしい力だ! ふははは、これぞ最強の……ぐぁあぁぁッ」
シュラーケンはそのまま粉と化して消えてしまった。
やった。私はやったのだ。この怪しげな研究に終止符を打った。そしてこの哀れな男の罪に罰を与えた。これでもう、私のような犠牲者が出ることもないはず。
しかし、安心したのも束の間のこと。すぐに勢い良く扉が閉じられ、扉の向こうからはけたたましい警報音が鳴り響いているのが聞こえてくる。
『おい、どうしたシュラーケン! 応答しろ、シュラーケン!』
『だめだ、生体反応が消えた。どうやらあいつの新しい精神兵器にやられたようだ』
今度はスピーカーを通して声が聞こえてくる。どうやらあの研究員にはまだ仲間がいるらしい。敵はまだ残っている。すぐにここを飛び出して殲滅しなければ。触れたものを粉に変える力のある今の私なら、この部屋の壁を粉に変えて脱出することも容易だろう。
そう考えて部屋を飛び出そうとしたが、不思議なことに身体が痺れて動かなかった。
「グ、グメェ?」
スピーカーからは再びあいつの仲間の声が聞こえてくる。
『仕方ない、シュラーケンのことは諦めよう。それよりもあいつのG-mehsysはどうなっている? せっかくの研究成果に逃げられるわけにはいかないぞ。あれは今後、重要な資料になるはずだ』
『そうだった。おい、フランツ。捕獲網を準備しろ』
この部屋のどこにスピーカーがあるのはわからないが、なぜかそこから音が発せられるたびに私の身体は何か衝撃波を受けたかのように痙攣し痺れが広がった。
「グ……グメぇ…」
力が抜けて浮かんでいられなくなった。そのまま私の身体はふらふらと床へ落ちていく。
するとそのとき、近くの岩だと思っていたものから何か蜘蛛の糸のようなものが飛び出して身体に絡みついた。糸に纏わりつかれた途端に全身には再び激しい衝撃が走り、私はどうやらそのまま意識を失ってしまったらしい。
それ以降のことは、後にゲンダーたちに助け出されるまで全く覚えていない。
「G-mehsysの捕獲を確認。精神兵器制御装置に封印されました」
「よし。シュラーケンのことは残念だったが、新しい精神兵器の力はみんなよくわかったはずだ。まだうまくコントロールできないようだが、そのあたりが今後の課題となってくるだろうな」
「でもまぁ、あいつはちょっとハナにつくところもありましたし…」
「チームを無視して一人でこっそり手柄を立てようとするからだ。ふん、自業自得だよ」
「とにかくだ。次の課題がわかった以上、やるべきことはまだたくさんあるぞ。シュラーケンの後任はフランツ、君に任せる。さぁ、各自自分の担当作業に戻ってくれ。大統領を失望させるわけにはいかないからな」
警報を聞き付けて集まって来た精神兵器開発チームは、事態の収拾を確認するとすぐに自分の持ち場へと戻って行った。
こうして最初のグメーシスはこの世界に姿を現した。
グメーシスの誕生がこの大陸をさらなる戦乱の渦へと誘うことになるのだが、それはまた別のお話である。
「よし。シュラーケンのことは残念だったが、新しい精神兵器の力はみんなよくわかったはずだ。まだうまくコントロールできないようだが、そのあたりが今後の課題となってくるだろうな」
「でもまぁ、あいつはちょっとハナにつくところもありましたし…」
「チームを無視して一人でこっそり手柄を立てようとするからだ。ふん、自業自得だよ」
「とにかくだ。次の課題がわかった以上、やるべきことはまだたくさんあるぞ。シュラーケンの後任はフランツ、君に任せる。さぁ、各自自分の担当作業に戻ってくれ。大統領を失望させるわけにはいかないからな」
警報を聞き付けて集まって来た精神兵器開発チームは、事態の収拾を確認するとすぐに自分の持ち場へと戻って行った。
こうして最初のグメーシスはこの世界に姿を現した。
グメーシスの誕生がこの大陸をさらなる戦乱の渦へと誘うことになるのだが、それはまた別のお話である。