Another02「クルスとクエリア:彼女たちの願い」
それはフレイたちがアルヴに滞在していた間の物語――
ある日アルヴを散策していた私は、この空の世界では珍しい笹の木をフリードが運んでいるのを見かけた。
気になって訊いてみると、今夜行われる祭りのために必要なものらしい。
気になって訊いてみると、今夜行われる祭りのために必要なものらしい。
「七夕と言ってな。笹の枝に願い事を書いた短冊を吊るして、七夕の夜に天に祈りを捧げるんだ。そして雨が降ることなく無事に翌朝を迎えられればその願いは天に届く。その願いが神様に認められればいつかそれが叶うっていうやつさ」
「ほう、人間たちの信仰のひとつか? 面白そうじゃな。どれ、せっかくだから私もその祭りに参加してみるとしようかの」
「歓迎するぜ。ほら、おまえの短冊だ」
「ほう、人間たちの信仰のひとつか? 面白そうじゃな。どれ、せっかくだから私もその祭りに参加してみるとしようかの」
「歓迎するぜ。ほら、おまえの短冊だ」
そう言って、フリードは色とりどりの紙切れを差し出した。私はそこから紫色の短冊を一枚抜き取る。
「何の変哲もない紙切れじゃな。特に魔力のようなものも感じられんし、祭具にしてはずいぶん質素なようじゃが……」
「見た目じゃねぇのさ。大切なのは信じる心ってね。ハートだよ、ハート!」
「見た目じゃねぇのさ。大切なのは信じる心ってね。ハートだよ、ハート!」
そう言ってフリードは拳で胸を叩いてみせた。
その後、彼を手伝って笹を所定の位置まで運んだ私は、腰を下ろして準備を続けるフリードの様子を眺めることにした。
しばらく見ているとアルヴの住民たちが次第に顔を見せ始め、次々に短冊を笹の枝に吊るしては祈りを捧げて帰って行く。どうやら人間たちの信仰はアルヴの竜人族にも引き継がれているらしい。そんな彼らの様子が珍しかったので、私はそのまましばらく観察を続けた。
しばらく見ているとアルヴの住民たちが次第に顔を見せ始め、次々に短冊を笹の枝に吊るしては祈りを捧げて帰って行く。どうやら人間たちの信仰はアルヴの竜人族にも引き継がれているらしい。そんな彼らの様子が珍しかったので、私はそのまましばらく観察を続けた。
「さて、俺もでーきたっと。んじゃ、お先に失礼するぜ」
すでに祭りの準備を終えて隣に座っていたフリードが笹に向かって歩き出した。 静かにしていると思ったら、なるほど。どうやらこの男はせっせと自分の短冊をこしらえていたらしい。
どれ、では私も短冊を完成させるとしよう。
そう思って筆を手にまっさらな短冊を眺めたが、いまいちどういうことを書けばいいのかよくわからない。
そこで笹に自分の短冊をくくりつけているフリードをつかまえて聞いてみることにした。
どれ、では私も短冊を完成させるとしよう。
そう思って筆を手にまっさらな短冊を眺めたが、いまいちどういうことを書けばいいのかよくわからない。
そこで笹に自分の短冊をくくりつけているフリードをつかまえて聞いてみることにした。
「のう、フリード。もう少し私にその祭りについて教えてほしい」
「うん? これ以上は何も特別なことはしなくていいぜ。短冊を吊るしたら、あとは雨が降らないように祈るだけ。それでおしまいさ」
「いや、その……手順はおかげで把握できておるのだが……私はこの短冊に何を書けばいいのかと思ってな」
「うん? これ以上は何も特別なことはしなくていいぜ。短冊を吊るしたら、あとは雨が降らないように祈るだけ。それでおしまいさ」
「いや、その……手順はおかげで把握できておるのだが……私はこの短冊に何を書けばいいのかと思ってな」
するとどういうことか、フリードはぷっと吹き出したではないか。
「な!? 何も笑うことはなかろう! 私はこのタナヴァタとやらは初めてなんじゃぞ。仕方ないではないか」
「いやぁ、すまんすまん。あまりに深刻そうな顔をするもんだから、ついな」
「いやぁ、すまんすまん。あまりに深刻そうな顔をするもんだから、ついな」
ひとしきり笑われたが、その後でフリードはちゃんと説明をしてくれた。
「そこにクルスの願い事を書けばいいんだ」
「願い事とは? 世界平和とかそういうものを願っておけばよいのか」
「まぁそれでもいいが、おまえの好きなことを書けばいい。強い剣士になりたいとか、魔法使いになりたいとか」
「お主はすでに剣士じゃろうが。それに私は竜だぞ。願うまでもなく魔法の扱いには精通しておるつもりじゃぞ」
「例えだよ。だったら世界一強くなれますようにとか、何か欲しいものが手に入るように願うとか、そんなんでいい。素直な願いを書けばいいんだぜ」
「ふむ……なるほどな。では、やはりお主のような戦士はより一層の強さを手に入れるためにこの祭りに参加するのか」
「やれやれ、まだあまり理解できてないみたいだな。しょうがないお嬢ちゃんだ」
「願い事とは? 世界平和とかそういうものを願っておけばよいのか」
「まぁそれでもいいが、おまえの好きなことを書けばいい。強い剣士になりたいとか、魔法使いになりたいとか」
「お主はすでに剣士じゃろうが。それに私は竜だぞ。願うまでもなく魔法の扱いには精通しておるつもりじゃぞ」
「例えだよ。だったら世界一強くなれますようにとか、何か欲しいものが手に入るように願うとか、そんなんでいい。素直な願いを書けばいいんだぜ」
「ふむ……なるほどな。では、やはりお主のような戦士はより一層の強さを手に入れるためにこの祭りに参加するのか」
「やれやれ、まだあまり理解できてないみたいだな。しょうがないお嬢ちゃんだ」
困ったような表情で再びフリードが笑った。
そこで私は以前にセッテにそれを言われたときと同じように返してやった。
そこで私は以前にセッテにそれを言われたときと同じように返してやった。
「お嬢ちゃんとは失礼じゃのう! これでも私はお主よりは遥かに長く生きておるのじゃぞ!」
「ははは、すまんすまん。まぁ、じっくり考えててくれ。俺はこれからひと仕事あるから失礼するぜ。それじゃあな、お婆ちゃん!」
「だっ、誰がお婆ちゃんだ!! そこまでは長く生きておらんわ!」
「ははは、すまんすまん。まぁ、じっくり考えててくれ。俺はこれからひと仕事あるから失礼するぜ。それじゃあな、お婆ちゃん!」
「だっ、誰がお婆ちゃんだ!! そこまでは長く生きておらんわ!」
からからと笑い声をあげながらフリードは去っていった。
小さくため息を吐くと、私は手元の短冊に視線を落とした。
さて、一体どんな願い事をしたものか。
小さくため息を吐くと、私は手元の短冊に視線を落とした。
さて、一体どんな願い事をしたものか。
短冊を片手に小一時間頭を悩ませる。
いつしか日が暮れて来て、もう水平線の向こうに太陽が沈みかけている。
いつしか日が暮れて来て、もう水平線の向こうに太陽が沈みかけている。
「いかんな。早くしないとタナヴァタの夜に間に合わん。フリードは素直に書けと言っておったが……ふむ。そうじゃ、だったらこうして……」
やっと頭に浮かんだその願い事を私はさっそく短冊に書き始めた。
そして悩みに悩み抜いたその願いを書き終えて一息ついたその瞬間、ふと背後に誰かの視線を感じた。
そして悩みに悩み抜いたその願いを書き終えて一息ついたその瞬間、ふと背後に誰かの視線を感じた。
「なっ……何奴じゃ!?」
振り返り身構えるとそこにはクエリアが一人、地面にうつ伏せになって両手で頬づえをつきながら私のほうをじっと見つめている。
視線の正体が見知った顔だと安心したところで、ここで何をしておる、とクエリアに声をかけた。
視線の正体が見知った顔だと安心したところで、ここで何をしておる、とクエリアに声をかけた。
「別にわたしがどこで何をしていようとわたしの勝手だろ」
むう。相変わらず可愛げのないやつめ。
クエリアはそのまま同じ質問を私に返してきた。そこで私はフリードから教わったばかりのタナヴァタという祭りの知識をこの小娘に披露してやった。
するとクエリアは「わたしもやりたい」と言い出したので、フリードが予備にと置いて行ってくれた余りの短冊を差し出した。
クエリアはそのまま同じ質問を私に返してきた。そこで私はフリードから教わったばかりのタナヴァタという祭りの知識をこの小娘に披露してやった。
するとクエリアは「わたしもやりたい」と言い出したので、フリードが予備にと置いて行ってくれた余りの短冊を差し出した。
水色の短冊を抜き取ると、クエリアは無邪気な笑顔で喜んだ。
ふむ。こういうところは純粋で子どもらしい。悪態さえつかねば可愛いものを。
これで王女だというのだから困ったものだ。同じく王族であるフレイとはまるで違う。いつかあやつの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。
ふむ。こういうところは純粋で子どもらしい。悪態さえつかねば可愛いものを。
これで王女だというのだから困ったものだ。同じく王族であるフレイとはまるで違う。いつかあやつの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。
短冊を手に入れたクエリアは「むーん」と唸ってしばらく短冊をにらみつけていたが、すぐに頭を抱えて気の抜けたような声を出した。そして何かを訴えるかのような目でこっちを見つめてくる。どうやら私と同じで何を書いていいかわからないらしい。
そこで私はフリードから教わった通りそのままの説明をしてやった。
そこで私はフリードから教わった通りそのままの説明をしてやった。
「なるほど! じゃあわたしの願いはひとつしかないな。お母様よりもお姉さまよりも大嫌いな火竜よりもニンゲンどもよりも頑固な緑のやつよりもアメちゃんくれた赤いやつよりもフレイ王子よりも、それからついでにクルスよりもずっとずっとずーっと強いバリバリさいっきょーナンバーワンの竜になれますように……っと。あっ、書くスペースが全然足りないぞ! どうしたらいいんだ!?」
実に子どもらしい願いだ。私はついでなのか。
「お主の願い事は長すぎる。もう少しシンプルにまとめるんじゃな」
「まとめる? どうやってだ。お母様やお姉さまよりは強くなりたいし、火竜どもやニンゲンどもはいつかけっちょんけちょんのぐっちゃぐちゃにしてやりたいからこれも外せないし、仲間たちの中で一番じゃないと納得できないし……。あっ、フリードを忘れてた。むうううう! 逆に増えたじゃないかーっ! どうしてくれるんだ。クルスのせいだからな」
「まとめる? どうやってだ。お母様やお姉さまよりは強くなりたいし、火竜どもやニンゲンどもはいつかけっちょんけちょんのぐっちゃぐちゃにしてやりたいからこれも外せないし、仲間たちの中で一番じゃないと納得できないし……。あっ、フリードを忘れてた。むうううう! 逆に増えたじゃないかーっ! どうしてくれるんだ。クルスのせいだからな」
クエリアは頭を抱えてうんうん唸っている。
もう知らん。このままこの小娘につき合っていては本当に日が暮れてしまう。そうなる前にと私は書き上げた短冊を手に笹の木へと歩き出す。
するとクエリアが飛び出してきて私の足にしがみついてきた。そして顔を見上げるなり、潤んだ目で見つめてくる。
もう知らん。このままこの小娘につき合っていては本当に日が暮れてしまう。そうなる前にと私は書き上げた短冊を手に笹の木へと歩き出す。
するとクエリアが飛び出してきて私の足にしがみついてきた。そして顔を見上げるなり、潤んだ目で見つめてくる。
「クルス~。どんな願いを書いたのか、その短冊私にみせてちょうだ~い」
そしてとびっきり甘えた声を出しながら、手を伸ばして私の短冊を奪い取ろうとしている。
ふん、こんなときだけ可愛いふりをしたって無駄だ。やれお譲ちゃんだとこやつのことを可愛がってるフリードならまだしも、私にはそんな手は効かん。
ふん、こんなときだけ可愛いふりをしたって無駄だ。やれお譲ちゃんだとこやつのことを可愛がってるフリードならまだしも、私にはそんな手は効かん。
「これはだめじゃ! そもそも私の願いとお主の願いは違うのだから、これを見たところで意味はないじゃろうが」
「いいじゃないか、へるもんじゃないし。ほらお姉ちゃん、先っちょだけでいいから」
「ええい、一体どこでそんな言葉を覚えてきた! あいつか? フリードの影響なのか?」
「いいじゃないか、へるもんじゃないし。ほらお姉ちゃん、先っちょだけでいいから」
「ええい、一体どこでそんな言葉を覚えてきた! あいつか? フリードの影響なのか?」
しばらくクエリアは私の足下で手を伸ばしながらぴょんぴょん跳ねていたが、どうしても手が届かないとわかるとようやく諦めて、「ケチ」などと言いながらふてくされてその場に座り込んでしまった。
ケチで結構。だが残念じゃったのう。人の姿を取ってるときは、クエリアよりも私のほうが背が高い。セッテが使いそうな表現をするなら、こやつのほうがちびっこなのだ。クエリアの水竜の姿を私はまだ見たことがないが、どうもこやつは竜の姿に戻る方法をいまいちちゃんと理解できていないようなので、身体の細長い水竜相手でも負ける心配はない。
ケチで結構。だが残念じゃったのう。人の姿を取ってるときは、クエリアよりも私のほうが背が高い。セッテが使いそうな表現をするなら、こやつのほうがちびっこなのだ。クエリアの水竜の姿を私はまだ見たことがないが、どうもこやつは竜の姿に戻る方法をいまいちちゃんと理解できていないようなので、身体の細長い水竜相手でも負ける心配はない。
いや、それよりもさっさと自分の短冊を吊るしてしまおう。取られる前に吊るしてしまえば私の勝ちだ。
するとそのとき、それまでふくれていたクエリアが何かを見つけたように一点を見つめる。そして満面の笑みを浮かべた。
するとそのとき、それまでふくれていたクエリアが何かを見つけたように一点を見つめる。そして満面の笑みを浮かべた。
「あっ、クルス! フレイ王子も短冊を吊るしに来たみたいだぞ」
「ほう。フレイ、お主は何を願ったんじゃ?」
「ほう。フレイ、お主は何を願ったんじゃ?」
そう言ってクエリアの見つめたほうに向くと……なっ、誰もいないじゃと!?
「隙ありーっ!!」
待ってましたと言わんばかりにクエリアが飛び出して、私の手から短冊を奪っていった。お、おのれ小娘! 私をたばかったな。
「待て! それをどうするつもりじゃ。すぐに返さんか!」
「へへーん。返して欲しかったらつかまえてみろー」
「へへーん。返して欲しかったらつかまえてみろー」
すばしっこく走り回り、あとを追う私の手をすり抜けて逃げると、クエリアは身軽にも笹の木に跳びついてそのてっぺんまでするすると登ってしまった。こういうときは小柄で軽いほうが有利らしい。猿かおのれは。
そして敵の追跡をまいた(つもりになっている)ところで、クエリアは私の短冊を掲げると大声でそれを読み上げた。
「えぇーなになに? クルスの願いはーっと…………『若くなれますように』?」
「や、やめんか! わざわざ読み上げるんじゃない!」
「や、やめんか! わざわざ読み上げるんじゃない!」
いいか。念のため言っておくが、決して私はその、老けているとか、ましてやお婆ちゃんなどということは絶対にない。ただこれは、たまたまフリードに気になることを言われてたのでたまたま書いてしまっただけであって、決してそのようなことは断じてない。断じてだぞ!
「クルスっていくつなんだ?」
無垢な表情で純粋に問う。
子どもは純粋だ。ゆえに残酷でもある。
子どもは純粋だ。ゆえに残酷でもある。
「わ、私はその……お主! 女性に年齢を尋ねるのはマナー違反じゃぞ! たとえそれが同性であったとしてもじゃ!」
「ふーん。クルスって昔を懐かしんじゃうような年齢だったんだなー。てっきりわたしは自分と同い年ぐらいだと思ってたのになー。これでもわたしはもう二百年ぐらい生きているのだぞ。じゅーぶん立派なれでぃーだと思うんだけどな」
「ふん、何を言うか。お主のような小娘と一緒にするな。私からすればお主などまだまだひよっこじゃ。それをたった二百年程度でレディーとは笑わせる。偉そうなクチを叩くなら、せめて千年は生きてから……」
「ふーん。クルスって昔を懐かしんじゃうような年齢だったんだなー。てっきりわたしは自分と同い年ぐらいだと思ってたのになー。これでもわたしはもう二百年ぐらい生きているのだぞ。じゅーぶん立派なれでぃーだと思うんだけどな」
「ふん、何を言うか。お主のような小娘と一緒にするな。私からすればお主などまだまだひよっこじゃ。それをたった二百年程度でレディーとは笑わせる。偉そうなクチを叩くなら、せめて千年は生きてから……」
言ってからしまったと思った。だが時すでに遅し。
「おおー。じゃあクルスは少なくとも千歳以上かぁ。すごいなー、オトナだなー。オトナだったら結婚はしてるのか? ふぃあんせはいるのか? もしかして最近流行りのイキオクレとかいう……」
「や、やめろと言うのに!!」
「や、やめろと言うのに!!」
必死で短冊を取り戻そうとするが、クエリアはするりと腕の間を抜けてはきゃっきゃと笑いながら逃げ回る。
ああだめだ。先に私のほうが疲れ始めてきた。おのれ小娘……その若さが憎い。
ああだめだ。先に私のほうが疲れ始めてきた。おのれ小娘……その若さが憎い。
日が落ちて夜が始まる。短冊を天に捧げた者たちは空に向かって祈る。
雨が降りませんように。どうか私の願いを叶えてくださいますようにと。
もっとも、この雲の上の世界では雨が降ることなど滅多にないのだが。
雨が降りませんように。どうか私の願いを叶えてくださいますようにと。
もっとも、この雲の上の世界では雨が降ることなど滅多にないのだが。
太陽が沈む前に短冊を吊るすのが慣習ではあるが、ここに一人、遅れて笹の下へ短冊を届けに来た者がいる。
「間に合わなかったか。魔導船の整備と清掃、物資の整理、その他雑務に時間を取られ過ぎてしまった。まぁ、仕方ない。個人的な理由で王子に迷惑をかけるわけにもいかないからな」
そのクエリア曰く頑固な緑は最後の一人として笹に短冊を吊るし祈りを捧げた。
オットーの短冊にはこうあった。
オットーの短冊にはこうあった。
『フレイ王子が無事トロウの手から祖国を解放できますように』
ふと見ると、その隣には別の短冊が並んでいる。
『願わくば、父上が無事元気で以前のようなお姿に戻られますよう』
これはフレイの願いであろうか。オットーはその願いを目にして胸が痛む思いをした。
「王子……。やはり辛いのですね。私には代わってあげられませんが、せめて少しでもあなたの負担が減らせられますよう」
オットーは短冊とは別に願いを祈った。
自分が少しでも王子のために働くことで少しでも彼の苦しさを減らせるのなら、それは従者としてこの上ない願いだ。
そして心に誓う。私はこれまで以上に王子の為に力になろう、と。
自分が少しでも王子のために働くことで少しでも彼の苦しさを減らせるのなら、それは従者としてこの上ない願いだ。
そして心に誓う。私はこれまで以上に王子の為に力になろう、と。
そのとき、また別の短冊がふと目に入った。蒼い短冊だ。
『もうこの際誰でもいいから、やらないか♂』
……誰のものかはすぐに見当がついたが、あえて見なかったことにしよう。
オットーは慌てて視線をそらした。
オットーは慌てて視線をそらした。
そらした視線の先には、クルスとクエリアが身を寄せ合って二人仲良く夜空を見上げて眠っている姿があった。
オットーは静かに優しい笑みを浮かべると、二人の傍に落ちていた彼女たちのものであろう短冊を拾い上げて、それを笹に吊るして去って行った。
クエリアの短冊にはきたない字でこうあった。
オットーは静かに優しい笑みを浮かべると、二人の傍に落ちていた彼女たちのものであろう短冊を拾い上げて、それを笹に吊るして去って行った。
クエリアの短冊にはきたない字でこうあった。
『私の大好きなみんながずっとずっとずーっと幸せでいますように』
この平和な日々が続きますように。