第12章「Trust in Me(『私を信じてください』)」
ゲンダーは悩んでいた。
これから自分は何をすればいいのだろうか、と。
目的は果たした。メイヴをスヴェンに届けるのがヘイヴの頼みだった。
そのメイヴは現在スヴェンとガイストによって修理中だ。
目的は果たした……はずなのだが、なぜか釈然としない。
実際にここへ来てその置かれた状況を知った。
マキナとヴェルスタンドの戦争。ガイストの背負う深い業。そして精神体の兵器『鯰』の存在。
(このまま終わりにするわけにはいかない。何かオレにできることはないダろうか?)
これから自分は何をすればいいのだろうか、と。
目的は果たした。メイヴをスヴェンに届けるのがヘイヴの頼みだった。
そのメイヴは現在スヴェンとガイストによって修理中だ。
目的は果たした……はずなのだが、なぜか釈然としない。
実際にここへ来てその置かれた状況を知った。
マキナとヴェルスタンドの戦争。ガイストの背負う深い業。そして精神体の兵器『鯰』の存在。
(このまま終わりにするわけにはいかない。何かオレにできることはないダろうか?)
――いつの日ダったろうか。
あれはそう、オレが初めてヘイヴに会った日。オレが生まれた日だ。
(ここは、どこダ?)
眩しさを感じてオレは目を覚ました。
いや、目を覚ましたというより、そこで初めて自我を持った。
自分が生まれた直後の事なんて誰もはっきりと覚えていない。
強いて言えばこれは物心がついた頃というやつか。
「……おかしいな。バグもすべて潰したし、エラーも修正した。動作は問題ないはずだ。やはり無理やり実装したのがまずかったか。だがそれならシステム面でなくハード面に影響が出るとは考えにくいし……いや、感度の問題か」
目の前に知らない誰かがいた。
まあ今までに他の誰かに会ったことがなかったから、誰もが知らない誰かと言えるわけダが。
どうやらオレの顔を覗きこんでいるようダったが、視界がぼんやりしていてよくわからなかった。
「これでどうだ」
その知らない誰かが何かを操作しながら言った。
すると目の前が真っ白になったり真っ黒になったりするのを何度か繰り返して、次第にうまく周囲を把握できるようになってきた。
どうやらオレは何か台のようなものに乗せられていて、体のあちこちに線や機械が取り付けられているらしい。
線の繋がっている先を目で追っていくと別の台の上に四角い箱がいくつかあり、そのうちのひとつにオレが見ているものと全く同じ光景が映し出されていた。
その箱を見て何かを確認すると、そいつはオレに声をかけてきた。
「おはよう、キョクゲンダー。私の声が聴こえるかね? 私はヘイヴ。おまえの生みの親だ」
「キョク……ゲンダー……?」
「キョクゲンダー。それがおまえの名前だ。よし、うまく聞こえているようだな。改めて名乗ろう。私の名はヘイヴ、おまえを作った科学者だ」
「ヘイヴ…? カガクシャ…?」
「科学者だ。まだわからないか。まぁ登録言語がまだ不完全だから仕方がないな。言葉は少しずつ教えていってやろう。さっそくだが、おまえにはこれから私の助手として、私の研究を手伝ってもらいたい」
それがオレとヘイヴの出会いダった。
研究所にいるのはオレを除いて、いつもヘイヴ一人だった。
ここにヘイヴ以外の者が入ってきたことは一度もないし、研究所の外の世界というものをオレは知らなかった。
ヘイヴはよくオレが何かを言うたびに、オレが自分の意見を持っているということで驚いていた。実在の人物の精神パターンをもとにオレの頭脳は作られたらしいが、それでも自分の意見を持つ機械というのは例を見ないのダとか。どうやらオレは普通ではないらしい。
オレには『感情』というものが存在するらしい。本来機械には感情というものはないそうダ。しかしオレにはなぜかそれがあった。
これはオレが勝手にそう思っているダけかもしれないが、もしかしたらヘイヴは一人で寂しかったんじゃないダろうか。つまりヘイヴが心のどこかで誰か話し相手を求めていて、それがオレを作る過程で無意識のうちに反映されてこうなったのではないか、と。
あれはそう、オレが初めてヘイヴに会った日。オレが生まれた日だ。
(ここは、どこダ?)
眩しさを感じてオレは目を覚ました。
いや、目を覚ましたというより、そこで初めて自我を持った。
自分が生まれた直後の事なんて誰もはっきりと覚えていない。
強いて言えばこれは物心がついた頃というやつか。
「……おかしいな。バグもすべて潰したし、エラーも修正した。動作は問題ないはずだ。やはり無理やり実装したのがまずかったか。だがそれならシステム面でなくハード面に影響が出るとは考えにくいし……いや、感度の問題か」
目の前に知らない誰かがいた。
まあ今までに他の誰かに会ったことがなかったから、誰もが知らない誰かと言えるわけダが。
どうやらオレの顔を覗きこんでいるようダったが、視界がぼんやりしていてよくわからなかった。
「これでどうだ」
その知らない誰かが何かを操作しながら言った。
すると目の前が真っ白になったり真っ黒になったりするのを何度か繰り返して、次第にうまく周囲を把握できるようになってきた。
どうやらオレは何か台のようなものに乗せられていて、体のあちこちに線や機械が取り付けられているらしい。
線の繋がっている先を目で追っていくと別の台の上に四角い箱がいくつかあり、そのうちのひとつにオレが見ているものと全く同じ光景が映し出されていた。
その箱を見て何かを確認すると、そいつはオレに声をかけてきた。
「おはよう、キョクゲンダー。私の声が聴こえるかね? 私はヘイヴ。おまえの生みの親だ」
「キョク……ゲンダー……?」
「キョクゲンダー。それがおまえの名前だ。よし、うまく聞こえているようだな。改めて名乗ろう。私の名はヘイヴ、おまえを作った科学者だ」
「ヘイヴ…? カガクシャ…?」
「科学者だ。まだわからないか。まぁ登録言語がまだ不完全だから仕方がないな。言葉は少しずつ教えていってやろう。さっそくだが、おまえにはこれから私の助手として、私の研究を手伝ってもらいたい」
それがオレとヘイヴの出会いダった。
研究所にいるのはオレを除いて、いつもヘイヴ一人だった。
ここにヘイヴ以外の者が入ってきたことは一度もないし、研究所の外の世界というものをオレは知らなかった。
ヘイヴはよくオレが何かを言うたびに、オレが自分の意見を持っているということで驚いていた。実在の人物の精神パターンをもとにオレの頭脳は作られたらしいが、それでも自分の意見を持つ機械というのは例を見ないのダとか。どうやらオレは普通ではないらしい。
オレには『感情』というものが存在するらしい。本来機械には感情というものはないそうダ。しかしオレにはなぜかそれがあった。
これはオレが勝手にそう思っているダけかもしれないが、もしかしたらヘイヴは一人で寂しかったんじゃないダろうか。つまりヘイヴが心のどこかで誰か話し相手を求めていて、それがオレを作る過程で無意識のうちに反映されてこうなったのではないか、と。
――そして現在。
ヘイヴから託された任務は終わった。オレはやり遂げたんダ。これは喜ぶべきはずのことダ。
ときにこの感情というやつはオレの行動を阻害する。例えば頭ではやるべきことはわかっているはずなのに。今回の場合なら、やり遂げたということを素直に喜べばいいはずなのに。
しかし一体なんダろう、この煮え切らないような感じは。
感情とは一体何なのか。この感情というやつが今はオレを不快にさせている。
ダったら感情なんて本当に必要なものなのダろうか。
オレに感情があることをヘイヴは「奇跡だ」と言ったが、オレにはこれが欠陥であるように思えてならない。こんな辛い思いをするぐらいなら、感情なんてなければいいのに。
こんなどうでもいいことで悩むなんてどうかしてる。ダからそんな自分をオレは駄作ダと思っている。
ヘイヴの頼みは達成されたんダ。きっとヘイヴは喜んでいる。
ならばオレも嬉しいはずダ。しかしオレはこうして悩んでいる。
どうしてオレは悩んでいるんダろう。
これがメイヴならきっと『任務完了ですね。お疲れ様でした』とか言って、あっさり受け入れるんダろう。
しかしオレにはその事実がなぜか寂しかった……ん、寂しい? どうして寂しいなんて想いが急に出てくるんダ。
ああ、オレはオレがよくわからない。
ヘイヴから託された任務は終わった。オレはやり遂げたんダ。これは喜ぶべきはずのことダ。
ときにこの感情というやつはオレの行動を阻害する。例えば頭ではやるべきことはわかっているはずなのに。今回の場合なら、やり遂げたということを素直に喜べばいいはずなのに。
しかし一体なんダろう、この煮え切らないような感じは。
感情とは一体何なのか。この感情というやつが今はオレを不快にさせている。
ダったら感情なんて本当に必要なものなのダろうか。
オレに感情があることをヘイヴは「奇跡だ」と言ったが、オレにはこれが欠陥であるように思えてならない。こんな辛い思いをするぐらいなら、感情なんてなければいいのに。
こんなどうでもいいことで悩むなんてどうかしてる。ダからそんな自分をオレは駄作ダと思っている。
ヘイヴの頼みは達成されたんダ。きっとヘイヴは喜んでいる。
ならばオレも嬉しいはずダ。しかしオレはこうして悩んでいる。
どうしてオレは悩んでいるんダろう。
これがメイヴならきっと『任務完了ですね。お疲れ様でした』とか言って、あっさり受け入れるんダろう。
しかしオレにはその事実がなぜか寂しかった……ん、寂しい? どうして寂しいなんて想いが急に出てくるんダ。
ああ、オレはオレがよくわからない。
『ゲンダー、ただいま。これで完全復活です』
博士両名の協力あって私の修復は無事完了しました。
お二方に礼を言った後、ゲンダーの退屈そうな姿が見えたのでまずは声をかけました。
「おかえり、メイヴ。スヴェンたちに任せて正解ダったな。知ってるか? ここがマキナなんダ。ついに目的地に着いたんダ。長いような短いような不思議な感じダったけど、これでオレたちの旅は終わったんダな……」
何があったのでしょう、ゲンダーは元気がないように見えました。
『どうしたのですか、ゲンダー。たしかにあのお二方は信頼に値する技術者だと言えるでしょう。しかし我々の旅の目的はスヴェンにヘイヴの残した研究成果を届けること。きっとそこに何か意図があってスヴェンに会えとヘイヴは遺したのでしょう。ですからそれが終わるまでは、旅は終わりとはいえません』
「たしかにな。でもそこから先はスヴェンの仕事ダ。もうオレにできることは何もない」
『ああ、なるほど。つまり任務完了というわけですね。ゲンダー、お疲れ様でした。ありがとうございます』
私はこれまでのゲンダーの努力を労ったつもりでした。
しかし、なぜかゲンダーはさらに元気をなくしてしまったようです。
何か言い方がまずかったのでしょうか。先の発言の全単語の意味を検索し、可能な限りあらゆる解釈を検討しましたが、悪い点は何ひとつ見つかりませんでした。予期せぬエラーです。
「なあメイヴ、任務が完了した場合って喜ぶべきかな」
ゲンダーからの問題提起を確認しました。
データベースから【任務完了】のワードを検索します。
博士両名の協力あって私の修復は無事完了しました。
お二方に礼を言った後、ゲンダーの退屈そうな姿が見えたのでまずは声をかけました。
「おかえり、メイヴ。スヴェンたちに任せて正解ダったな。知ってるか? ここがマキナなんダ。ついに目的地に着いたんダ。長いような短いような不思議な感じダったけど、これでオレたちの旅は終わったんダな……」
何があったのでしょう、ゲンダーは元気がないように見えました。
『どうしたのですか、ゲンダー。たしかにあのお二方は信頼に値する技術者だと言えるでしょう。しかし我々の旅の目的はスヴェンにヘイヴの残した研究成果を届けること。きっとそこに何か意図があってスヴェンに会えとヘイヴは遺したのでしょう。ですからそれが終わるまでは、旅は終わりとはいえません』
「たしかにな。でもそこから先はスヴェンの仕事ダ。もうオレにできることは何もない」
『ああ、なるほど。つまり任務完了というわけですね。ゲンダー、お疲れ様でした。ありがとうございます』
私はこれまでのゲンダーの努力を労ったつもりでした。
しかし、なぜかゲンダーはさらに元気をなくしてしまったようです。
何か言い方がまずかったのでしょうか。先の発言の全単語の意味を検索し、可能な限りあらゆる解釈を検討しましたが、悪い点は何ひとつ見つかりませんでした。予期せぬエラーです。
「なあメイヴ、任務が完了した場合って喜ぶべきかな」
ゲンダーからの問題提起を確認しました。
データベースから【任務完了】のワードを検索します。
検索中...
検索中...
検索完了。結果、それが満足を生み出す割合は70%を超えていたため、私はそれをゲンダーに伝えました。
「そうか…。じゃあ、やっぱりオレがおかしいのか。オレは満足できていない。なぜか嬉しくないんダ」
『100%ではないので、それも十分にあり得る結果です。なのに、なぜそんなことを心配するのですか?』
「よくわからない。けど、もしかしたらオレは怖いのかもしれない」
ゲンダーは小さな音量で、そう呟きました。
『怖い……ですか。私にはどこからそういう感想がでてきたのかが理解できません。その理由を是非とも教えてほしいです』
するとゲンダーはしばらく何かを考えていたようですが、やがて理由を説明し始めました。これは私のデータベースにない貴重な事例です。記録しておくべきだと判断しました。
データベース保存領域確認......保存可能領域を確保。録音と並行して変換開始。文字情報でも保存します。
これより記録を開始します。
「オレは誕生してからずっと、ヘイヴの指示に従ってきたんダ。ダから今回のことも迷うことなく承諾した。それがオレにとっての当り前ダったからな。でも今回はヘイヴがコールドスリープに入ってしまった。ヘイヴがいないから次の指示はもう出ない。オレはこれから何をすればいいのかわからなくなった」
『ははあ。なんだ、そんなことでしたか。それならガイストやスヴェンに指示を仰げばいいです。なんでしたら、私から提案させてもらいましょうか?』
「いや、そういう意味じゃないんダ。なんというか……よくわからないんダが、急に独りになってしまったような気がして、たぶんそれで怖いんダ。なんダかヘイヴの声が聞きたい…」
『私がいますよ。グメーシスもいますし、ガイストにスヴェンもいます。それでもあなたは独りだと感じますか? ヘイヴの声でしたら、ゲンダーのホログローブを使ってヘイヴの遺したメッセージを再生できますが?』
「いや……やめとく。聞いたら聞いたで余計に辛くなりそうな気がするんダ…」
『聞きたいのに、聞きたくないと。はて、これは矛盾していますね。私には理解できません』
「オレにもよくわかんねえよ…」
こんな調子でゲンダーの解説は続きました。
データベース内を捜索していると、この問題に該当する解決案は意外なところから見つかりました。
精神に関する領域です。まさかゲンダーと精神に関連性があるとは思えませんが、症例は「愛するものとの別離」によるものに酷似していました。ゲンダーに関するデータを大幅に修正する必要がありそうです。
まずはゲンダーの症例について分析したことを彼に伝えることにしました。
『ゲンダーはヘイヴがいなくなってしまったことで怖さを感じているのだと思います。ヘイヴからの指示が途切れたことで、彼がいなくなったことをはっきりと認識したのでしょう。これは信頼するものを失ったことに起因している問題だと推測されます』
ゲンダーは何も言いませんが、「やっぱり」と言いたそうな顔をしていました。
分析を続けると、どうやらゲンダーの言動から見えてくるのは『心』というものとの関連性が深いということでした。これはデータベースの一部の情報と大きく矛盾しますが、一方でかなり正確に一致している部分もあります。もしこれが不具合でないのであれば、これは常識を覆す新しい発見です!
つまりゲンダーの症例は……いえ、『ゲンダーという存在』それ自体が極めて稀なケースであると言えます。
「オレは……これから誰を信じればいいんダろう。誰のためにあればいいのだろう。メイヴ、オレはもう必要ないのかな」
私は確信しました。
ゲンダーは非常に貴重な存在です。ガイストやスヴェンが驚いていた理由をついに理解しました。
そしてこの稀なケースはこの先数百年にわたって、もう一度あるかどうかもわからない現象だという計算結果が出ました。それによって導き出される結論は以下の通り。
<ゲンダーを失うことは将来的に見て非常に大きなリスクとなる>
「そうか…。じゃあ、やっぱりオレがおかしいのか。オレは満足できていない。なぜか嬉しくないんダ」
『100%ではないので、それも十分にあり得る結果です。なのに、なぜそんなことを心配するのですか?』
「よくわからない。けど、もしかしたらオレは怖いのかもしれない」
ゲンダーは小さな音量で、そう呟きました。
『怖い……ですか。私にはどこからそういう感想がでてきたのかが理解できません。その理由を是非とも教えてほしいです』
するとゲンダーはしばらく何かを考えていたようですが、やがて理由を説明し始めました。これは私のデータベースにない貴重な事例です。記録しておくべきだと判断しました。
データベース保存領域確認......保存可能領域を確保。録音と並行して変換開始。文字情報でも保存します。
これより記録を開始します。
「オレは誕生してからずっと、ヘイヴの指示に従ってきたんダ。ダから今回のことも迷うことなく承諾した。それがオレにとっての当り前ダったからな。でも今回はヘイヴがコールドスリープに入ってしまった。ヘイヴがいないから次の指示はもう出ない。オレはこれから何をすればいいのかわからなくなった」
『ははあ。なんだ、そんなことでしたか。それならガイストやスヴェンに指示を仰げばいいです。なんでしたら、私から提案させてもらいましょうか?』
「いや、そういう意味じゃないんダ。なんというか……よくわからないんダが、急に独りになってしまったような気がして、たぶんそれで怖いんダ。なんダかヘイヴの声が聞きたい…」
『私がいますよ。グメーシスもいますし、ガイストにスヴェンもいます。それでもあなたは独りだと感じますか? ヘイヴの声でしたら、ゲンダーのホログローブを使ってヘイヴの遺したメッセージを再生できますが?』
「いや……やめとく。聞いたら聞いたで余計に辛くなりそうな気がするんダ…」
『聞きたいのに、聞きたくないと。はて、これは矛盾していますね。私には理解できません』
「オレにもよくわかんねえよ…」
こんな調子でゲンダーの解説は続きました。
データベース内を捜索していると、この問題に該当する解決案は意外なところから見つかりました。
精神に関する領域です。まさかゲンダーと精神に関連性があるとは思えませんが、症例は「愛するものとの別離」によるものに酷似していました。ゲンダーに関するデータを大幅に修正する必要がありそうです。
まずはゲンダーの症例について分析したことを彼に伝えることにしました。
『ゲンダーはヘイヴがいなくなってしまったことで怖さを感じているのだと思います。ヘイヴからの指示が途切れたことで、彼がいなくなったことをはっきりと認識したのでしょう。これは信頼するものを失ったことに起因している問題だと推測されます』
ゲンダーは何も言いませんが、「やっぱり」と言いたそうな顔をしていました。
分析を続けると、どうやらゲンダーの言動から見えてくるのは『心』というものとの関連性が深いということでした。これはデータベースの一部の情報と大きく矛盾しますが、一方でかなり正確に一致している部分もあります。もしこれが不具合でないのであれば、これは常識を覆す新しい発見です!
つまりゲンダーの症例は……いえ、『ゲンダーという存在』それ自体が極めて稀なケースであると言えます。
「オレは……これから誰を信じればいいんダろう。誰のためにあればいいのだろう。メイヴ、オレはもう必要ないのかな」
私は確信しました。
ゲンダーは非常に貴重な存在です。ガイストやスヴェンが驚いていた理由をついに理解しました。
そしてこの稀なケースはこの先数百年にわたって、もう一度あるかどうかもわからない現象だという計算結果が出ました。それによって導き出される結論は以下の通り。
<ゲンダーを失うことは将来的に見て非常に大きなリスクとなる>
――よって私はゲンダーを守らなければならない!
自己修復機能を起動します。
>目的情報を参照:1.ブラックボックスの絶対維持 2.マキナへの到達 3.スヴェン博士に会う
>目的情報を初期化します。
>目的情報を参照:1.ブラックボックスの絶対維持 2.マキナへの到達 3.スヴェン博士に会う
>目的情報を初期化します。
フォーマット開始……20%……40%……60%……80%……100%
フォーマット完了
フォーマット完了
新たな目的を設定します。
>目的情報を参照:1.ゲンダーの尊守
>大目的達成のための手段を検索、検討開始します。
>目的情報を参照:1.ゲンダーの尊守
>大目的達成のための手段を検索、検討開始します。
問題点の解析を開始します。
音声再生 > 22021116.sud
「ヘイヴがいないから次の指示はもう出ない。オレはこれから何をすればいいのかわからなくなった」
遠隔モニタ表示履歴参照 > 306M1428.rmh
『これは信頼するものを失ったことに起因している問題だと推測されます』
音声再生 > 22021116.sud
「ヘイヴがいないから次の指示はもう出ない。オレはこれから何をすればいいのかわからなくなった」
遠隔モニタ表示履歴参照 > 306M1428.rmh
『これは信頼するものを失ったことに起因している問題だと推測されます』
処理中....................................完了
解析結果:新たな「信頼するもの」の設定が必要
目的情報を更新します。
>目的情報を参照:1.ゲンダーの尊守 2.ゲンダーの信頼を獲得する
>目的情報を参照:1.ゲンダーの尊守 2.ゲンダーの信頼を獲得する
設定完了。自己修復機能を終了します。
『ところでひとつ聞きますがゲンダー、あなたはヘイヴを信頼していますか』
「いきなり何を聞くのかと思えば……そんなの当然ダ」
『では、私はどうですか』
「え……?」
ゲンダーは予想しなかった質問に困惑しているようでした。
『いつだったか、私は言いました。ヘイヴを信じてください、そして私を信じてくださいと』
「ああ…」
『あのときは私を信じてくれましたね。ヘイヴを信じているから、ヘイヴが作った私を信じることができた……そうですね?』
ゲンダーは何も答えませんでしたが、否定はしていないと判断して続けます。
『では、私単体としてはどうですか。ゲンダー、あなたは私を信頼してくれますか?』
「それは…」
私は言い切りました。そして、ゲンダーの返事を待ちます。
『ゲンダー、私を信じてください…!』
いつまでも待っています。ゲンダーがその返事をくれるまで……
「いきなり何を聞くのかと思えば……そんなの当然ダ」
『では、私はどうですか』
「え……?」
ゲンダーは予想しなかった質問に困惑しているようでした。
『いつだったか、私は言いました。ヘイヴを信じてください、そして私を信じてくださいと』
「ああ…」
『あのときは私を信じてくれましたね。ヘイヴを信じているから、ヘイヴが作った私を信じることができた……そうですね?』
ゲンダーは何も答えませんでしたが、否定はしていないと判断して続けます。
『では、私単体としてはどうですか。ゲンダー、あなたは私を信頼してくれますか?』
「それは…」
私は言い切りました。そして、ゲンダーの返事を待ちます。
『ゲンダー、私を信じてください…!』
いつまでも待っています。ゲンダーがその返事をくれるまで……
ゲンダーは珍しく積極的に干渉してくるメイヴに驚いていた。
メイヴなりに自分を心配してくれているのだろうか。そう考えると少し気持ちが楽になったような気がした。
(そうダ、メイヴはヘイヴが最後に遺してくれたもの。オレにとってヘイヴの形見のようなものダ。ならば、直接ヘイヴから頼まれたわけじゃないけど、メイヴをずっと守っていくこともオレの役目ダ。そう、ヘイヴがコールドスリープから目覚めるその日まで……)
しかし一方で不安もあった。思い出されるのはヴェルスタンドでのメイヴの暴走。
ゲンダーはあまりにもメイヴのことを知らなさすぎた。これではメイヴのすべてを信じ切ることはできない。
ずっと返事を待ち続けているメイヴにゲンダーはこう返した。
「悪いが、今はまだそれには答えられない」
『そうですか…』
メイヴはどこかがっかりしているようにも見えた。
「……でも」
長いようで短かった数日間の旅。メイヴとはまだ知り合ったばかり。
これからずっとメイヴを守っていくと心に決めたのだ。これからメイヴのことをもっと知っていけばいい。
心配ない。時間はたっぷりある。
「でもいつか必ず、胸を張ってそれに答えてやれるようになってみせる! ……ダから、今は少しだけオレに時間をくれないか」
どんな反応をされるかゲンダーは心配に思ったが、メイヴは二つ返事でそれを受け入れた。
『わかりました。一番良い返事を期待しています』
「ありがとう」
ゲンダーが感じていた寂しさはいつの間にか決意に変わっていた。
メイヴについては実はまだよく知らない。メイヴには謎がある。その謎が解き明かされた時……それは役目の終わりなんかではない。メイヴへの信頼の始まりとなるのだ。
(これが次の目的ダ。誰かに与えられた目的じゃない。オレが決めた、オレの役目ダ!)
信じて待つ、ヘイヴが帰ってくるその日まで。そして、その日までメイヴを守り続けていく。
「そうと決まれば、オレにはやらなくてはならないことがあるぞ!」
スヴェンの地下研究室にゲンダーの声が響き渡る。
『なんですか、突然』
「ヘイヴに頼まれたわけでも、別にガイストたちに同情したからでもない。オレは決めたんダ!」
「なんだ、どうしたんだ。ゲンダー君」
今後どうするかを話し合っていたスヴェンとガイストも近寄ってきた。
「この戦争を終わらせる! これはオレの意志ダ!!」
ヘイヴが帰ってくるその日までメイヴを守り続けると心に誓った。そのためにはあらゆる危険要素を取り除かなくてはならない。メイヴを守るためにも、この戦争は終わらせなければならないとゲンダーは考えていた。
「ゲンダー君。気持ちはありがたいが、相手は国家なのだ。わしらだけでどうにかなるような問題じゃないんだ」
「そうだ。相手は大陸を吹き飛ばしてしまうほどの兵器を持っているんだ。あっという間にやられてしまうぞ!」
二人の科学者は反対したが、
『私はゲンダーに賛成します』
意外なことに、それに反論したのはメイヴだった。
「メイヴ!? どうして君まで……君ならわかるはずだろう! とても勝算があるとは思えない!!」
『たとえ万にひとつでも、億にひとつだろうと、可能性があるなら勝算はあります。0%でないのであれば、たとえどんなに可能性が低くても、信じる価値があります。私が言うのもナンですがね』
これにはゲンダーも驚いていた。まさかメイヴが賛成してくれるとは夢にも思っていないことだった。
いつもならメイヴもガイストたちといっしょになって、いかにそれが無謀なことであるかを、丁寧にデータの裏付けまで提示してこれでもかと言わんばかりに突き付けてくれたことだろう。
だがメイヴもまた、ゲンダーを守らなければならないという認識を持ち始めていた。その結果、よりゲンダーが安全なのは何かを検討し、そして出した答えがこれだった。
『どんな兵器だろうが、私がシステムを乗っ取って逆に利用してやりますよ』
「その意気だ、メイヴ!」
ゲンダーは頼もしそうにメイヴに応える。
「そうは言うがね、二人とも…」
あくまでスヴェンは二人を説得しようとしていた。
「そりゃあ、わしだって故郷がメチャクチャにされるのは見ていて辛い。だがいくらなんでも、我々だけでというのはあまりにも……無茶が過ぎる。たとえ可能性があったとしても、大切なのはそれが実際にできるかどうかなんじゃないかね?」
「じゃあスヴェンとガイストはここで隠れててもらってかまわない。これはオレたちがやると決めたことダ。二人をわざわざ巻き込む理由もない」
『できるかどうかじゃない、私たちは”やる”んですよ』
すると二人の決意に呼応するかのようにグメーシスが力強く鳴いた。
「グメェェェーッ!」
「そうか、おまえも手伝ってくれるか!」
「グメっ!」
グメーシスは短い手でがんばって敬礼をしてみせた。
「……そうか。そこまで言うのならわしは止めんよ」
「せ、先生!?」
「それで君たちが後悔しないというのならば、思うようにやりなさい。……ふっ、私は科学者だというのに、機械相手に何を言っているんだろうな。本当に君たちは不思議だな、会えてよかったよ」
意外にもあっさりと認めたスヴェンを、ガイストは腑に落ちない様子でただ眺めていた。
そして翌朝、スヴェンはいくつか使えそうな道具を提供して、ゲンダーたちの出発を見送ることにした。
「それではくれぐれも気を付けてな。もしうまくいかなくてこの国が滅んだとしても、わしは君たちを責めんよ。だが、この国のために力を貸してくれることを感謝する。それと……ヘイヴによろしくな」
「こちらこそ、感謝感激ダ。ありがとう。できるダけのことはやってみるさ」
『私からも感謝します。修復を手伝っていただき、ありがとうございました』
「グメーメ、グメーメ!」
そうしてゲンダーたちは出発していった。ヴェルスタンドの兵器『鯰』を止めるために。
ガイストはこれに立ち会わなかった。
メイヴなりに自分を心配してくれているのだろうか。そう考えると少し気持ちが楽になったような気がした。
(そうダ、メイヴはヘイヴが最後に遺してくれたもの。オレにとってヘイヴの形見のようなものダ。ならば、直接ヘイヴから頼まれたわけじゃないけど、メイヴをずっと守っていくこともオレの役目ダ。そう、ヘイヴがコールドスリープから目覚めるその日まで……)
しかし一方で不安もあった。思い出されるのはヴェルスタンドでのメイヴの暴走。
ゲンダーはあまりにもメイヴのことを知らなさすぎた。これではメイヴのすべてを信じ切ることはできない。
ずっと返事を待ち続けているメイヴにゲンダーはこう返した。
「悪いが、今はまだそれには答えられない」
『そうですか…』
メイヴはどこかがっかりしているようにも見えた。
「……でも」
長いようで短かった数日間の旅。メイヴとはまだ知り合ったばかり。
これからずっとメイヴを守っていくと心に決めたのだ。これからメイヴのことをもっと知っていけばいい。
心配ない。時間はたっぷりある。
「でもいつか必ず、胸を張ってそれに答えてやれるようになってみせる! ……ダから、今は少しだけオレに時間をくれないか」
どんな反応をされるかゲンダーは心配に思ったが、メイヴは二つ返事でそれを受け入れた。
『わかりました。一番良い返事を期待しています』
「ありがとう」
ゲンダーが感じていた寂しさはいつの間にか決意に変わっていた。
メイヴについては実はまだよく知らない。メイヴには謎がある。その謎が解き明かされた時……それは役目の終わりなんかではない。メイヴへの信頼の始まりとなるのだ。
(これが次の目的ダ。誰かに与えられた目的じゃない。オレが決めた、オレの役目ダ!)
信じて待つ、ヘイヴが帰ってくるその日まで。そして、その日までメイヴを守り続けていく。
「そうと決まれば、オレにはやらなくてはならないことがあるぞ!」
スヴェンの地下研究室にゲンダーの声が響き渡る。
『なんですか、突然』
「ヘイヴに頼まれたわけでも、別にガイストたちに同情したからでもない。オレは決めたんダ!」
「なんだ、どうしたんだ。ゲンダー君」
今後どうするかを話し合っていたスヴェンとガイストも近寄ってきた。
「この戦争を終わらせる! これはオレの意志ダ!!」
ヘイヴが帰ってくるその日までメイヴを守り続けると心に誓った。そのためにはあらゆる危険要素を取り除かなくてはならない。メイヴを守るためにも、この戦争は終わらせなければならないとゲンダーは考えていた。
「ゲンダー君。気持ちはありがたいが、相手は国家なのだ。わしらだけでどうにかなるような問題じゃないんだ」
「そうだ。相手は大陸を吹き飛ばしてしまうほどの兵器を持っているんだ。あっという間にやられてしまうぞ!」
二人の科学者は反対したが、
『私はゲンダーに賛成します』
意外なことに、それに反論したのはメイヴだった。
「メイヴ!? どうして君まで……君ならわかるはずだろう! とても勝算があるとは思えない!!」
『たとえ万にひとつでも、億にひとつだろうと、可能性があるなら勝算はあります。0%でないのであれば、たとえどんなに可能性が低くても、信じる価値があります。私が言うのもナンですがね』
これにはゲンダーも驚いていた。まさかメイヴが賛成してくれるとは夢にも思っていないことだった。
いつもならメイヴもガイストたちといっしょになって、いかにそれが無謀なことであるかを、丁寧にデータの裏付けまで提示してこれでもかと言わんばかりに突き付けてくれたことだろう。
だがメイヴもまた、ゲンダーを守らなければならないという認識を持ち始めていた。その結果、よりゲンダーが安全なのは何かを検討し、そして出した答えがこれだった。
『どんな兵器だろうが、私がシステムを乗っ取って逆に利用してやりますよ』
「その意気だ、メイヴ!」
ゲンダーは頼もしそうにメイヴに応える。
「そうは言うがね、二人とも…」
あくまでスヴェンは二人を説得しようとしていた。
「そりゃあ、わしだって故郷がメチャクチャにされるのは見ていて辛い。だがいくらなんでも、我々だけでというのはあまりにも……無茶が過ぎる。たとえ可能性があったとしても、大切なのはそれが実際にできるかどうかなんじゃないかね?」
「じゃあスヴェンとガイストはここで隠れててもらってかまわない。これはオレたちがやると決めたことダ。二人をわざわざ巻き込む理由もない」
『できるかどうかじゃない、私たちは”やる”んですよ』
すると二人の決意に呼応するかのようにグメーシスが力強く鳴いた。
「グメェェェーッ!」
「そうか、おまえも手伝ってくれるか!」
「グメっ!」
グメーシスは短い手でがんばって敬礼をしてみせた。
「……そうか。そこまで言うのならわしは止めんよ」
「せ、先生!?」
「それで君たちが後悔しないというのならば、思うようにやりなさい。……ふっ、私は科学者だというのに、機械相手に何を言っているんだろうな。本当に君たちは不思議だな、会えてよかったよ」
意外にもあっさりと認めたスヴェンを、ガイストは腑に落ちない様子でただ眺めていた。
そして翌朝、スヴェンはいくつか使えそうな道具を提供して、ゲンダーたちの出発を見送ることにした。
「それではくれぐれも気を付けてな。もしうまくいかなくてこの国が滅んだとしても、わしは君たちを責めんよ。だが、この国のために力を貸してくれることを感謝する。それと……ヘイヴによろしくな」
「こちらこそ、感謝感激ダ。ありがとう。できるダけのことはやってみるさ」
『私からも感謝します。修復を手伝っていただき、ありがとうございました』
「グメーメ、グメーメ!」
そうしてゲンダーたちは出発していった。ヴェルスタンドの兵器『鯰』を止めるために。
ガイストはこれに立ち会わなかった。
地下研究所に沈黙が広がる。
機器の無機質な動作音だけが静かに響く。
ガイストはうつむいたまま、黙って椅子に腰掛けている。
見送りを終えて階段を降りてきたスヴェンが、そんな様子のガイストを見て言った。
「よかったのかね、彼らと一緒に行かなくて」
「私には……この国のために戦う資格なんてありません。精神体を発見したのは私です。つまり『鯰』は私が生み出してしまったようなものです。それに私はヴェルスタンドで生まれた。マキナにとって敵の人間なんですよ…」
ガイストはスヴェンに目を合わせようとしなかった。心なしか肩が震えているようにも見える。
「皮肉なものですね。私はこのマキナで多くを学んだ。故郷のリュッケンはかつては鉱山で栄えていたとはいえ、今じゃ寂れてとても貧しい街です。それでも私は生まれ育った故郷が好きだった。だからなんとか故郷を栄えさせたかった。マキナで学んだことが故郷を豊かにすると信じていた。そのために必死で勉強して必死で研究を続けてきた! それがどうです!? その結果、私はこの国の半分を吹き飛ばす原因を生んでしまった! 第二の故郷とも言える、先生から学んだあの思い出の地を海の底に沈めてしまった!! …………私はこの国の人たちに会わせる顔がありません」
ガイストは悔しさと自身への怒りに満ちていた。
それと同時にひどく悲しかった。いつの間にか目からは涙が溢れていた。
そんな彼を見て、スヴェンはそっと歩み寄ると優しく肩を抱きそして、
「ガイスト君……ッ!」
「!?」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
ガイストは床に尻餅をついていた。じわじわと頬に鈍い痛みを感じた。
平手打ちを受けたことに気がつくまでしばらくかかった。
「君はそれで満足かね、ガイスト君」
スヴェンは厳しい表情だった。
「このままでは君は、マキナを滅ぼした大悪人だな。戦争の片棒を担いだ男として歴史に名前が残るだろう。しかし本当にそれでいいのかね」
「そ、それは…」
「もう一度言おう。君はそれで満足かね。……後悔はないか?」
ガイストは嗚咽混じりに、しかし力強く答えた。
「後悔など……ないわけがない…ッ!!」
「ならばどうする! どうすればいいのかは、君自身が一番よくわかっているはずだ。そうだろう?」
「!!」
はっとして何かに気づいた様子のガイストを見ると、スヴェンは優しく声をかけた。
「行ってきなさい。彼らは君の助けをきっと必要としている」
「先生……っ! ありがとうございます!」
ガイストは急いで荷物をまとめると、ゲンダーたちを追いかけて地下研究所を飛び出して行った。
残されたスヴェンは誰に聞かせるでもなく、一人呟いた。
「君はまだ若い。まだ今ならやり直せる。いつまでも後悔に取り憑かれるのはわしらだけでいい……なぁ、そうだろうヘイヴ?」
そう言って虚空を見上げるが、答える者は誰もいない。
「さてと。わしはわしで、自分にできる形で彼らのサポートをさせてもらうとしようか」
スヴェンもまた彼なりの方法でヴェルスタンドに立ち向かうことを決意していた。杖をつき不自由な右脚を引きずりながら研究所の外に出ると、桟橋に停泊させていた飛行艇に乗り込んで調整を始めるのだった。
機器の無機質な動作音だけが静かに響く。
ガイストはうつむいたまま、黙って椅子に腰掛けている。
見送りを終えて階段を降りてきたスヴェンが、そんな様子のガイストを見て言った。
「よかったのかね、彼らと一緒に行かなくて」
「私には……この国のために戦う資格なんてありません。精神体を発見したのは私です。つまり『鯰』は私が生み出してしまったようなものです。それに私はヴェルスタンドで生まれた。マキナにとって敵の人間なんですよ…」
ガイストはスヴェンに目を合わせようとしなかった。心なしか肩が震えているようにも見える。
「皮肉なものですね。私はこのマキナで多くを学んだ。故郷のリュッケンはかつては鉱山で栄えていたとはいえ、今じゃ寂れてとても貧しい街です。それでも私は生まれ育った故郷が好きだった。だからなんとか故郷を栄えさせたかった。マキナで学んだことが故郷を豊かにすると信じていた。そのために必死で勉強して必死で研究を続けてきた! それがどうです!? その結果、私はこの国の半分を吹き飛ばす原因を生んでしまった! 第二の故郷とも言える、先生から学んだあの思い出の地を海の底に沈めてしまった!! …………私はこの国の人たちに会わせる顔がありません」
ガイストは悔しさと自身への怒りに満ちていた。
それと同時にひどく悲しかった。いつの間にか目からは涙が溢れていた。
そんな彼を見て、スヴェンはそっと歩み寄ると優しく肩を抱きそして、
「ガイスト君……ッ!」
「!?」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
ガイストは床に尻餅をついていた。じわじわと頬に鈍い痛みを感じた。
平手打ちを受けたことに気がつくまでしばらくかかった。
「君はそれで満足かね、ガイスト君」
スヴェンは厳しい表情だった。
「このままでは君は、マキナを滅ぼした大悪人だな。戦争の片棒を担いだ男として歴史に名前が残るだろう。しかし本当にそれでいいのかね」
「そ、それは…」
「もう一度言おう。君はそれで満足かね。……後悔はないか?」
ガイストは嗚咽混じりに、しかし力強く答えた。
「後悔など……ないわけがない…ッ!!」
「ならばどうする! どうすればいいのかは、君自身が一番よくわかっているはずだ。そうだろう?」
「!!」
はっとして何かに気づいた様子のガイストを見ると、スヴェンは優しく声をかけた。
「行ってきなさい。彼らは君の助けをきっと必要としている」
「先生……っ! ありがとうございます!」
ガイストは急いで荷物をまとめると、ゲンダーたちを追いかけて地下研究所を飛び出して行った。
残されたスヴェンは誰に聞かせるでもなく、一人呟いた。
「君はまだ若い。まだ今ならやり直せる。いつまでも後悔に取り憑かれるのはわしらだけでいい……なぁ、そうだろうヘイヴ?」
そう言って虚空を見上げるが、答える者は誰もいない。
「さてと。わしはわしで、自分にできる形で彼らのサポートをさせてもらうとしようか」
スヴェンもまた彼なりの方法でヴェルスタンドに立ち向かうことを決意していた。杖をつき不自由な右脚を引きずりながら研究所の外に出ると、桟橋に停泊させていた飛行艇に乗り込んで調整を始めるのだった。