Chapter08「竜くずれ」
蝋燭の小さな火だけが周囲を照らす薄暗い空間の中、一人の男が座って机の上の球体に向かって話しかけている。そこからは男とは別の者の声が聞こえ、その声が発せられるごとに球体は青白く光った。
「よろしい。ならばドローミよ。今しばらくはその方向で研究を進めなさい。では失礼」
その言葉を最後に球は光を放つのをやめて、声が聞こえることもなくなった。
「承知いたしました、トロウ様ぁ」
ドローミと呼ばれた男は球に向かってそう返答すると、会話が終わるや否や球を持ち上げ、もう興味を失ってしまったといわんばかりに放り投げてしまった。投げられた球は放物線を描きながら、すぐにこの部屋に散乱しているがらくたの山に埋もれていった。
周囲には魔術に関係するのであろう、道具や素材が散らばっていて足の踏み場もない。必要なものなのか、壊れた部品なのか、よくわからないものが乱雑にぶちまけられたこのごみ溜めのような場所をドローミは研究所と呼んでいた。
椅子から立ち上がると、ドローミは足の踏み場のないこのがらくたの中を、慣れた様子でわずかな隙間に足を運んでひょいひょいと部屋の奥へと戻っていく。トロウからの連絡で中断させられた実験を再開するためだ。
ドローミの歩いていく途中には天井まで届く大きな檻がいくつも並んでいる。その檻の中からは異形の生物が恨めしそうに、目の前を悠々と通り過ぎていく男を睨みつけている。
その身体は肉が腐り落ちて崩れかけており、ところどころ骨が見えたり膿が湧いたりして、とても正視に耐えるものではない。背中から生えている大きな翼はぼろぼろになっており、太く逞しい尻尾はほとんど骨だけになっていて、もとの竜の姿は面影のひとつもない。それでもその生物はこの研究所の主の手によって、死ぬことさえも許されずに生き地獄を味わい続けているのだ。
その身体は肉が腐り落ちて崩れかけており、ところどころ骨が見えたり膿が湧いたりして、とても正視に耐えるものではない。背中から生えている大きな翼はぼろぼろになっており、太く逞しい尻尾はほとんど骨だけになっていて、もとの竜の姿は面影のひとつもない。それでもその生物はこの研究所の主の手によって、死ぬことさえも許されずに生き地獄を味わい続けているのだ。
異形の生物のうちの一体は血走った眼で檻の中から恨みがましくドローミを凝視した。その表情はとても何か言いたげな様子だったが、その生物は何も話すことができなかった。なぜならその口を乱暴に縫い付けられていたからだ。
そんなドローミの血も涙もない非情な実験の『失敗作』たちが、並んだ檻の中に何体も閉じ込められていた。
「さぁてさてぇ。お待たせしたねぇ、お譲ちゃぁん。腹の底まで真っ黒な魔法使いがうるさいからさぁ。ま、ワタシは研究さえさせてもらえるなら、なんでもいいんだけどねぇ。でもこれでもう邪魔は入らない。続きを始めようねぇ」
ドローミが向かったのは部屋の奥で台に拘束された青い髪の少女のところだ。意識を失っているようで、話しかけても目を覚ます様子はまったくない。少女の額からは小さな角が生えており、また背中には同じく小さな翼があるため、この少女が竜だということがわかる。ジオクルスと同様、魔法によって人に姿を変えているのだろう。
眠ったままの少女はドローミの言葉に何も反応しない。もっともドローミにとってもそのほうが都合がよかった。竜を実験台にして数多くの失敗作を生み出すようなマッドサイエンティストの彼であっても、披検体の恐怖や痛みに苦しみわめき叫ぶような反応に悦びを感じるようなタイプの研究者ではない。
彼にとってそんなものはどうでもよかった。つまりは興味がなかった。だがそれはすなわち、被検体がどれだけ苦痛を感じようが、この男はそれをまったく気にしないという意味でもある。
それゆえにドローミは非情だった。嬉々として非道でえげつない実験を簡単に施してしまうような、そういう意味でマッドな科学者であった。
彼にとってそんなものはどうでもよかった。つまりは興味がなかった。だがそれはすなわち、被検体がどれだけ苦痛を感じようが、この男はそれをまったく気にしないという意味でもある。
それゆえにドローミは非情だった。嬉々として非道でえげつない実験を簡単に施してしまうような、そういう意味でマッドな科学者であった。
「トロウ様は殺すなっていうから、君にはこういう実験しかしてあげられないんだよぉ。ごめんねぇ」
そういいながら、ドローミは竜の少女の手足に装着されているリングに触れた。リングは緋色の光を放ち、少女は少し苦しそうな表情に変わる。すると少女の額の角や、背中の翼が消えてしまった。
「竜の力を抑える装置。んん~、順調順調。魔具の開発なんて、ワタシからしたら遊びのようなものだねぇ。ふわぁ……あくびが出てしまう。こんなつまらない実験よりも、もっと被検体を切り刻んであれこれ詰め込んで、究極の生物を作りたい。人間よりも竜よりも、神よりも強いワタシだけのもの。あぁ……待ち遠しぃぃぃ。早く新しいサンプルが欲しいぃぃぃ」
この対象の力を抑える魔具『グレイプニル』の実地試験をトロウは近いうちに行うと言っていた。その試験をどこで行うかまではドローミは聞かされていなかったが、その試験でグレイプニルによって捕らえた竜のうち何体かをサンプルに回しくれるという約束になっている。トロウから預けられた竜の少女とは違って、そっちのサンプルは自由にしていいという話だ。それを思えば、つまらない魔具の開発にも少しは身が入る。
「少しでも多くのサンプルがほしい。いくつあっても足りないからねぇ。そのためにはぁ……ひひひ。こいつをもっと改良して強力にしてやらないと。実地試験でたくさん竜が獲れたら、サンプルもたぁくさん。くひひひ」
気味の悪い笑い声をあげながら、ドローミは少女のほうに向かって俯いて何か作業を始めた。一度集中すると一切周囲が見えなくなる性質なのか、それからは一言も声を発せず沈黙がしばらく続いた。
しかし、そのとき背後で何か金属が倒れる大きな音がした。さすがにこれには気がついたドローミが振り返ると、檻のひとつが破られて、失敗作の一体が外に出ているのが目に入った。
沈黙が続いたとはいったが、部屋の中が静寂に包まれていたとはいっていない。あまりに集中していたのでドローミは気がつかなかったが、作業中ずっとこの失敗作は檻を壊そうと柵に体当たりを続けていたのだ。
沈黙が続いたとはいったが、部屋の中が静寂に包まれていたとはいっていない。あまりに集中していたのでドローミは気がつかなかったが、作業中ずっとこの失敗作は檻を壊そうと柵に体当たりを続けていたのだ。
檻から出た失敗作は、折れた柵の先端で拘束されていた両手の鎖を叩き切ると、自由になった手で縫い付けられていた口の糸を力任せに引きちぎる。やっと開いた口からは、これまでずっと溜め込んできた鬱憤が一気にあふれ出した。
「もウ許さナい! 貴様ハ悪魔だ。ニンゲンの皮を被ッタ悪魔め。よクもオれたちをこんナ目に! こレ以上、犠牲者を増やさナいためニも、今ここで貴様の息の根を止めテやる。殺しテやる殺しテやる殺しテやる…」
呪いの言葉を吐きながら失敗作がふらふらとドローミに迫る。言葉では酷く罵って怒りをあらわにしているが、肉が腐り骨が半分溶けて露出しているような脚ではまともに歩くこともできない。そんな状態の失敗作のことをドローミはまるで脅威ともなんとも思わなかった。
「ほほーぉ。こうして歩かせてみると、まるでゾンビそのものだねぇ。ま、いいんじゃなぁい、ドラゴンゾンビ。最強の生物にはほど遠いけど、これはこれで味があるというか、きっと好きな人は好きそうだねぇ。ま、ワタシは嫌いだけどな!」
「貴様ァ……勝手ナことを…」
「黙れ、竜くずれめ! 所詮おまえは失敗作なんだよぉ。不要。無駄。ごみ。おまえなんか本当はもういらないんだ。でもトロウ様が何かに使えるかもしれないから取っておけ、と言うから仕方なぁく生かしておいてやってるんだ。むしろ感謝してもらいたいものだねぇ。ワタシの研究を邪魔しないでくれたまえよぉ?」
「貴様がこんナふうにしておいテ、失敗ダとか邪魔ダとか、ましテ感謝ダと? ふざけルなッ!!」
「貴様ァ……勝手ナことを…」
「黙れ、竜くずれめ! 所詮おまえは失敗作なんだよぉ。不要。無駄。ごみ。おまえなんか本当はもういらないんだ。でもトロウ様が何かに使えるかもしれないから取っておけ、と言うから仕方なぁく生かしておいてやってるんだ。むしろ感謝してもらいたいものだねぇ。ワタシの研究を邪魔しないでくれたまえよぉ?」
「貴様がこんナふうにしておいテ、失敗ダとか邪魔ダとか、ましテ感謝ダと? ふざけルなッ!!」
竜くずれは怒りに任せて炎を息を吐いた。
――はずだった。しかし、出てきたのは黒く濁ったヘドロのようなものだけで、ただ無意味に足元を吐瀉物で塗れさせるだけの結果となった。
――はずだった。しかし、出てきたのは黒く濁ったヘドロのようなものだけで、ただ無意味に足元を吐瀉物で塗れさせるだけの結果となった。
「うわぁ、汚ぁい。ワタシの研究所をあまり汚さないでくれ。ま、たいして掃除はしてないけどねぇ。大事な実験道具に染みがついたら困る。わかったろぉ? おまえには何もできないんだ。だからほぉら、大人しく檻に帰れ」
「ギギギ…」
「ギギギ…」
怒りに歯をかみ締める。歯が折れて何本かが下に落ちた。
こんなに怒りに満ちているのに。こんなに恨んでいるのに。こんなにあいつを殺したいのに。
しかし竜くずれには、それができなかった。満足に歩けないし、実は目もかすんであまりよく見えていない。ぼろぼろになった翼でも魔力で補えば少しは飛べそうだが、こんな狭い部屋の中ではそれも難しい。
あまりの悔しさに涙があふれ出したが、その涙も血の混じった赤黒いドロっとした不快な粘液と化していた。
許さない許さない許さない。自分を、そして同胞たちをこんな姿に変えてしまったあの男が憎い。それなのに自分の力では奴に触れることすらできない。
その思いは、言葉で説明できないほど悔しく、死にたくても死ねないこと以上にそっちのほうが生き地獄だった。
こんなに怒りに満ちているのに。こんなに恨んでいるのに。こんなにあいつを殺したいのに。
しかし竜くずれには、それができなかった。満足に歩けないし、実は目もかすんであまりよく見えていない。ぼろぼろになった翼でも魔力で補えば少しは飛べそうだが、こんな狭い部屋の中ではそれも難しい。
あまりの悔しさに涙があふれ出したが、その涙も血の混じった赤黒いドロっとした不快な粘液と化していた。
許さない許さない許さない。自分を、そして同胞たちをこんな姿に変えてしまったあの男が憎い。それなのに自分の力では奴に触れることすらできない。
その思いは、言葉で説明できないほど悔しく、死にたくても死ねないこと以上にそっちのほうが生き地獄だった。
(オれに力さえあれば、あんなニンゲンすぐに殺してやルのに。畜生……!)
竜くずれは絶望してがくりと膝をつく。そして悔しさを拳にこめて思い切り床を殴りつけた。その衝撃でさっき足元に撒き散らされた吐瀉物が飛び散り、ドローミの頬についた。ドローミはそれを反射的に手で拭うと、それによって汚れた自分の手をみて非情に厭そうな顔をした。
「ひぃッ! やめろォ!! 竜くずれの分際で、よくもこんな……。ええい、おまえだけは絶対に許さん。トロウ様はああいうが、おまえだけは廃棄処分してやる! なぁに、失敗作が一匹ぐらい消えたところで気付きやしないさぁ。それに気にしなくても失敗作なんて、これからもどんどん増えるんだからなぁ!」
片手を竜くずれのほうにかざすと、ドローミは呪文を唱え始めた。
何か来る。すぐにそう理解したが、竜くずれの崩れた身体では満足に移動することもできない。なんとか身体を引きずって物陰に隠れようとするが、指がいくつか欠損しているので床やものをうまくつかむことができない。ようやくつかんだ手近ながらくたも、身体を引っ張ろうと力をこめると虚しく崩れてしまい、床の吐瀉物の上に倒れこんでしまった。
何か来る。すぐにそう理解したが、竜くずれの崩れた身体では満足に移動することもできない。なんとか身体を引きずって物陰に隠れようとするが、指がいくつか欠損しているので床やものをうまくつかむことができない。ようやくつかんだ手近ながらくたも、身体を引っ張ろうと力をこめると虚しく崩れてしまい、床の吐瀉物の上に倒れこんでしまった。
なんて惨めなんだ。こんなことなら、いっそ奴の魔法で消滅させられたほうがマシなのか。諦めて永遠の泣き寝入りに就くしかないのか。
竜くずれの心が絶望の一色に塗り潰されそうになった。
しかしそのとき、ドローミがまた悲鳴を上げた。
竜くずれの心が絶望の一色に塗り潰されそうになった。
しかしそのとき、ドローミがまた悲鳴を上げた。
「ひゃぁッ! き、汚い……だからやめろと言ってるじゃないかぁッ!」
竜くずれが倒れたときに飛び散った吐瀉物が、またしてもドローミの顔に降りかかったのだ。
慌てて手元を狂わせたドローミの魔法があらぬ方向へと飛んでいき、研究所の壁を爆破して穴を開けた。薄暗い研究所の中に、外からの光が差し込んでみえた。
慌てて手元を狂わせたドローミの魔法があらぬ方向へと飛んでいき、研究所の壁を爆破して穴を開けた。薄暗い研究所の中に、外からの光が差し込んでみえた。
光だ。あれは光だ。竜くずれは思った。
そうだ、外からの光だ。あそこからなら、この地獄から脱出できる。悔しいがオれの力では奴に復讐することができない。だから外からの協力を得るしかない。こんな見た目の自分に協力してくれる者がいるかどうかはわからないが、ずっとこんなところに閉じ込められているよりはまだマシだ。だからここから逃げ出そう。今は逃げて逃げて生き延びろ。しかしいつの日かあいつに復讐してやるのだ。あれは希望の光なのだ……と。
そうだ、外からの光だ。あそこからなら、この地獄から脱出できる。悔しいがオれの力では奴に復讐することができない。だから外からの協力を得るしかない。こんな見た目の自分に協力してくれる者がいるかどうかはわからないが、ずっとこんなところに閉じ込められているよりはまだマシだ。だからここから逃げ出そう。今は逃げて逃げて生き延びろ。しかしいつの日かあいつに復讐してやるのだ。あれは希望の光なのだ……と。
「くそっ。うう……ワタシの大事な研究所がぁ。よくもやってくれたな、竜くずれぇぇぇ」
爆発によって研究所は埃が舞い真っ白になる。長年掃除していなかったのが仇となったようだ。咳き込みながら粉塵を手で払い、ようやく視界がはっきりしてくる頃には、すでに竜くずれは姿を消したあとだった。
「…………逃げた。まずいな、どうする? このことがトロウ様にばれたら…」
最悪の事態を想定してドローミの顔が真っ青になる。だが、それもほんの僅かな間だけ。すぐに気を取り直すと、壊れた壁を魔法で修復し始めた。作業に集中していれば心は落ち着いてくるものだ。
「うん。まあいいかぁ。ここは人の寄り付かない孤島だし。船もなくて、あの身体じゃ遠くまでは飛んでいけないだろうし。あれはそのうち勝手に朽ち果てるな。あるいは空の底に落ちるか。ま、問題ない問題なぁい」
壁の修復を終えて、散らばった研究道具を雑に片付けると、ドローミは竜くずれのことはもう忘れてグレイプニルの研究を再開するのだった。
そして、しばらくしてからトロウが直接この研究所を訪れた。例の実地試験のため、グレイプニルの試作品を受け取りに来たのだ。適当な会話をしてから試作品を受け渡して、早く研究を再開したいので(早く帰れ早く帰れ)とドローミが心の中で念じていると、トロウは並んだ失敗作たちの檻に目を留めた。
(しまった。壊された檻を直しておくのを忘れていた)
その事実に気がついて、何か言われるのではとドローミは内心慌てたが、トロウは壊れた檻のことには大して気にすることはなく、他の檻の中身に興味を示しているようだった。
檻の前を二度三度行ったり来たりしてからトロウはこう言った。
檻の前を二度三度行ったり来たりしてからトロウはこう言った。
「そうか……こいつらが使えるかもしれない。ドローミ、この失敗作たちを全部もらっていってもかまいませんね」
「その竜くずれ共をですかぁ?」
「竜くずれというのか。まあ、呼称は何だってよろしい。どうせ持て余しているのでしょう? だったら私が役立ててやろうというのです。だからこれらは私が全部引き取ります。そのほうが彼らも喜ぶでしょう。こんなところにいるよりはね」
「ま、別にかまいませんけどねぇ。で、トロウ様。全部お譲りするのですから、報酬のほうは……」
「報酬? 何を言っているのです。これは失敗作なのでしょう。ごみを無料で引き取ってやろうと、こちらは言っているのです。なんなら、こちらから手数料を要求してもかまわないのですが?」
「はぁ。わかりましたよぉ。全部もってっちゃってください。どうせワタシには不要なものだ」
「ふふふ。ありがたく頂戴します」
「その竜くずれ共をですかぁ?」
「竜くずれというのか。まあ、呼称は何だってよろしい。どうせ持て余しているのでしょう? だったら私が役立ててやろうというのです。だからこれらは私が全部引き取ります。そのほうが彼らも喜ぶでしょう。こんなところにいるよりはね」
「ま、別にかまいませんけどねぇ。で、トロウ様。全部お譲りするのですから、報酬のほうは……」
「報酬? 何を言っているのです。これは失敗作なのでしょう。ごみを無料で引き取ってやろうと、こちらは言っているのです。なんなら、こちらから手数料を要求してもかまわないのですが?」
「はぁ。わかりましたよぉ。全部もってっちゃってください。どうせワタシには不要なものだ」
「ふふふ。ありがたく頂戴します」
トロウが指を鳴らすと、檻の中の竜くずれたちは順々にどこかへと転送されていった。そして最後にトロウ自身も、来たときと同様に転移魔法を使って消えた。
しんと静まり返った研究所には、ドローミと眠ったまま目を覚まさない竜の少女だけが残された。
しんと静まり返った研究所には、ドローミと眠ったまま目を覚まさない竜の少女だけが残された。
「ちっ。トロウ様もケチなお人だなぁ。まあいい。今度こそ静かに研究ができる」
物で散らかった机の上をものを手で一気に払い落としてスペースを作ると、がらくたの山の中からいくつか道具を拾い上げて机の上に広げる。そしてようやく椅子に腰を落とすと、再びドローミは深い集中へと入っていくのだった。その頭の中はもう研究のことだけでいっぱいで、逃げ出した竜くずれの一体のことなど、すでに覚えてもいなかった。