第六章「Freier Verstand」
(執筆:日替わりゼリー)
ヴェルスタンドはフィーティンの北部に位置する精神を研究している国だ。機械都市マキナや大国フィーティンとはあまり関係が良くないようで、ヴェルスタンドもまたそれらの国に対抗するため数多くの研究施設を有していた。それらはドームと呼ばれていたが、ゲンダーたちが迷い込んだのはそのうちのひとつだった。
ゲンダーたちは動いていないコンベアロードを当てもなく歩いていた。
「それにしても静かダ。本当に誰もいないのか?」
『生体センサー反応ありません』
メイヴは頭の上でパラボラのようなものを回していた。
「とにかくなんでもいい。情報が欲しい」
風ひとつ吹かない灰色のビルの谷間を歩いていくと、高架橋が伸びているのが見えてきた。ドーム内部になぜこんなものがあるのだろう。もしかすると何か乗り物でも走るのかもしれない。その高架橋はそれぞれのビルの上部へと続いているようだった。
「そうダ、高いところから見渡せば何かわかるかもしれない。あの道の上に行けないか?」
『滞空機能で行けなくもありませんが、ゲンダーも一緒にとなると重量の問題で難しくなります』
「だめなのか。だったらメイヴだけでも上にいって、遠隔モニタで景色を送ってほしい」
『いいえ、ゲンダー。他の方法があります』
メイヴは頭から一本のアームを高架橋に向かって伸ばし始めた。アームは高架の端を掴むと今度は縮み始め、いかにも重量がありそうなメイヴ本体を引き上げ始めた。なんて強度のアームだ。
『さぁ、ゲンダー。掴まってください』
慌ててメイヴにしがみつくゲンダー。メイヴに備え付けられたレバー(left)に掴まったため、メイヴの一部が開いて中からヘイヴの研究所で見た紫色の茄子のような物体が次々と飛び出しては下へ落ちていった。
ゲンダーたちは動いていないコンベアロードを当てもなく歩いていた。
「それにしても静かダ。本当に誰もいないのか?」
『生体センサー反応ありません』
メイヴは頭の上でパラボラのようなものを回していた。
「とにかくなんでもいい。情報が欲しい」
風ひとつ吹かない灰色のビルの谷間を歩いていくと、高架橋が伸びているのが見えてきた。ドーム内部になぜこんなものがあるのだろう。もしかすると何か乗り物でも走るのかもしれない。その高架橋はそれぞれのビルの上部へと続いているようだった。
「そうダ、高いところから見渡せば何かわかるかもしれない。あの道の上に行けないか?」
『滞空機能で行けなくもありませんが、ゲンダーも一緒にとなると重量の問題で難しくなります』
「だめなのか。だったらメイヴだけでも上にいって、遠隔モニタで景色を送ってほしい」
『いいえ、ゲンダー。他の方法があります』
メイヴは頭から一本のアームを高架橋に向かって伸ばし始めた。アームは高架の端を掴むと今度は縮み始め、いかにも重量がありそうなメイヴ本体を引き上げ始めた。なんて強度のアームだ。
『さぁ、ゲンダー。掴まってください』
慌ててメイヴにしがみつくゲンダー。メイヴに備え付けられたレバー(left)に掴まったため、メイヴの一部が開いて中からヘイヴの研究所で見た紫色の茄子のような物体が次々と飛び出しては下へ落ちていった。

「ぼくリミットくんですぼくリミ゛ッ…!!」
「ヴァナーナヴァナーナヴァ…ッ」
それらは落ちては壊れ、ゲンダーが高架の上に着いたときには再び静かになった。下方には例の物体の残骸が山のように積み重なっている。しかし一体メイヴの中には何体あれが入っているのだろう。
高架橋は高速道路のようだった。ここにはやはり何か乗り物があるに違いない。
「ガイスト6番ハイウェイ…。メイヴの予想通りここはガイストクッペルみたいダな」
ゲンダーは架かっている看板を読み上げる。
「ガイスト6番ラボ、1Km …か。研究所が近くにあるようダ」
『行ってみましょう。そこから中枢のデータベースにアクセスできるかもしれません』
ゲンダーもその提案に賛成し、一行はガイスト6番ラボに向かうことにした。
ガイストクッペルは少し変わった形態の街だった。ほとんどのビルがこのハイウェイで繋がれており、しかも下へ降りる道は存在していない。逆にどのビルにもハイウェイと同じ高さに入口が備え付けられていた。ともすれば、このハイウェイはそれぞれのビル間の移動用の道なのだろうか。繋がっているビルはすべて関連する建物なのかもしれない。もしそうならば、これはかなりの規模の企業か何かに違いない。
「ヴァナーナヴァナーナヴァ…ッ」
それらは落ちては壊れ、ゲンダーが高架の上に着いたときには再び静かになった。下方には例の物体の残骸が山のように積み重なっている。しかし一体メイヴの中には何体あれが入っているのだろう。
高架橋は高速道路のようだった。ここにはやはり何か乗り物があるに違いない。
「ガイスト6番ハイウェイ…。メイヴの予想通りここはガイストクッペルみたいダな」
ゲンダーは架かっている看板を読み上げる。
「ガイスト6番ラボ、1Km …か。研究所が近くにあるようダ」
『行ってみましょう。そこから中枢のデータベースにアクセスできるかもしれません』
ゲンダーもその提案に賛成し、一行はガイスト6番ラボに向かうことにした。
ガイストクッペルは少し変わった形態の街だった。ほとんどのビルがこのハイウェイで繋がれており、しかも下へ降りる道は存在していない。逆にどのビルにもハイウェイと同じ高さに入口が備え付けられていた。ともすれば、このハイウェイはそれぞれのビル間の移動用の道なのだろうか。繋がっているビルはすべて関連する建物なのかもしれない。もしそうならば、これはかなりの規模の企業か何かに違いない。
ハイウェイから横に逸れる形で6番ラボの入口はあった。例えるならば、高速道路のパーキングエリアのような形で入口は存在している。ゲンダーたちはそこからラボ内部へ入った。
ラボ内部は非常灯のみが点いており薄暗い様子だった。停電しているのだろうか。そしてここにも誰の気配もない。
「本当にどうなっているんダ、ここは?」
入って正面の部屋でひとつの端末を見つけた。ここは会議室のようなシンプルな部屋だった。
『ここから中枢へのアクセスを試みてみましょう………。やはりロックがかかっていますね。少し時間をください、ゲンダー。その間に少しこの建物を調べてきてはいかがでしょう』
明かりは消えているが端末は正常に動作するようだった。メイヴはさっそく中枢へのアクセスを試みる。
他にすることもなかったのでゲンダーもその提案を断る理由はなかった。
とりあえず通路に沿って進む。階段があったが、それは気にせず近くの部屋に入ってみた。ここも会議室だろうか。さっきの部屋と違うのは端末の代わりにホワイトボードがあるぐらいだった。
ボードにはこう書かれていた。
ラボ内部は非常灯のみが点いており薄暗い様子だった。停電しているのだろうか。そしてここにも誰の気配もない。
「本当にどうなっているんダ、ここは?」
入って正面の部屋でひとつの端末を見つけた。ここは会議室のようなシンプルな部屋だった。
『ここから中枢へのアクセスを試みてみましょう………。やはりロックがかかっていますね。少し時間をください、ゲンダー。その間に少しこの建物を調べてきてはいかがでしょう』
明かりは消えているが端末は正常に動作するようだった。メイヴはさっそく中枢へのアクセスを試みる。
他にすることもなかったのでゲンダーもその提案を断る理由はなかった。
とりあえず通路に沿って進む。階段があったが、それは気にせず近くの部屋に入ってみた。ここも会議室だろうか。さっきの部屋と違うのは端末の代わりにホワイトボードがあるぐらいだった。
ボードにはこう書かれていた。
プロジェクトガイストβ
*実験報告#196 被検体A~V 経過良好 備考:この結果をもって本プロジェクトはプロジェクトガイストΩ へと移行するものとする。
*実験報告#195 被検体A~V 経過良好 ※ただし被検体Jのみ不完全な分離により精神の崩壊が見られた 備考:研究は、ほぼ完成段階にある。精度向上に努め べし。
*実 報告#194 被 体A~ 経 考: 回の失敗 想 外の事故に って生
*実験報告#196 被検体A~V 経過良好 備考:この結果をもって本プロジェクトはプロジェクトガイストΩ へと移行するものとする。
*実験報告#195 被検体A~V 経過良好 ※ただし被検体Jのみ不完全な分離により精神の崩壊が見られた 備考:研究は、ほぼ完成段階にある。精度向上に努め べし。
*実 報告#194 被 体A~ 経 考: 回の失敗 想 外の事故に って生
そこからあとは、かすれていて読めなかった。
「なんダこれは…」
ボードの内容を不審に思ったが、いま必要なのは乗り物であって、ここで何が研究されていたかはゲンダーたちには関係ない。ゲンダーは部屋を後にして通路沿いにさらに進んでみた。
左手にある部屋入口のプレートを見ると資料室とある。ゲンダーが探しているものとはあまり関係なさそうな部屋だったが、なぜかゲンダーは部屋の前で足を止めた。やはりさっきのボードの内容が気になる…。
ゲンダーは資料室に入ると棚から適当にファイルをいくつか抜き取り、中の資料をパラパラと確認する。資料には何かのグラフや数値、何かの図解、ゲンダーの知らない言語で書かれた文書などがあった。ゲンダーの期待していたようなものはなかった。いや、一体何を期待していたのかはゲンダー自身にもわからなかったが。
ファイルを棚に戻そうとしたとき誤ってファイルのひとつを落としてしまい、資料が床にばらまかれた。ああ、やってしまった。とゲンダーは思ったが、散らばった資料の中に気になる一枚の写真を見つけた。
「これは…、死んでいる…のか?」
写真にはいくつかの生物が写っていた。しかし、どれも全く生気が感じられない。目に光がない。そしてゲンダーは気づいてしまった。その写真には本来写るべきではないものが写っていることに。
「……!!?」
驚いて写真を落としてしまうゲンダー。背筋が凍りつく。
いや、まさか…そんなはずはない、気のせいだ。自分の見間違いだと信じて恐る恐る写真を拾い上げる。
「うっ……」
見間違いなどではなかった。その写真の上部、隅のほうに映っているそれはまさしく…。
「ゆ、幽霊…?ばかな、そんなもの本当にいるわけ…」
ゲンダーはあの紫の霧のことを思い出していた。一切の攻撃が通用しなかった赤い光…あれは、まさか…?
ゲンダーは急に不安になってきた。誰もいないドーム内。謎の怪しい研究。そして心霊写真…。何が起こったのかはわからないが、ここには関わってはいけない何かがある気がする。
そうだ、こんなところは早く出よう。乗り物がなければマキナに行けないわけじゃない。それに単独でいるのは危ない気がする。とにかくメイヴと合流しよう。
そう考えていると突然、ラボ内に警報が鳴り響いたのでゲンダーは驚いて飛びあがった。ゲンダーはヘイヴによって作られた存在なので心臓はなかったが、もし心臓があったなら口から心臓が飛び出していたかもしれない。
「警報!警報!不正アクセスが確認されました。繰り返します不正アクセスが確認されました。レベル3警戒態勢に移行します」
ゲンダーの目前にメイヴの遠隔モニタが現れた。
『すみません、ゲンダー。あともう少しだったのですが、トラップが仕掛けられていたようです。次は大丈夫です。警戒態勢が収まるまで待たなければならないので、もう少し時間をください』
メイヴが連絡をくれたのでゲンダーは少し安心した。
「メイヴ、それよりここはヤバイ気がする。早く出たほうがいいと思うんダが…!」
しかしメイヴからの返答はない。壁を隔てているからか、こちらの声が届いていないのかもしれない。ゲンダーはメイヴのいる部屋に戻ろうとした。しかし通路に壁が降りていてメイヴのいる部屋に向かえなくなっていた。
「さっきの警報のせいか?よりによってこんなときに…。別の道を探さなくちゃならないな」
資料室から右へ向かっても左へ向かっても、どちらも防壁で道を阻まれている。しかたなくゲンダーは正面の通路を進むしかなかった。
停電のせいで自動で開かなかった自動ドアを破壊して奥へ進むと少し開けた場所に出た。円形の部屋で、中央にはガラス張りの円柱が部屋を貫いている。どうやら吹き抜けになっているらしい。その円柱に2か所エレベータが設置されていたが電気が来ていないので動かなかった。
部屋には四方にそれぞれ別の部屋があるようだったが、カードキーがなければ入れないようだ。当然ながらゲンダーはそんなものは持っていない。
奥にあったまたもや開かない自動だったドアを破壊して進むと、その先も防壁が降りていたが、防壁に穴が開いていたのでゲンダーはそこから先に進むことができた。
「…しかし、こんな分厚い防壁に穴だなんて。ここはやっぱり何か変ダ」
壁の向こう側には8つの部屋があった。そしてどの部屋もひどい有様だった。扉は破壊され尽くしており、部屋の中も荒れ放題だ。そして夥しい血の跡…。
少なくともここに誰かがいたことはわかったが、ゲンダーは安心するどころかますます不安になった。
「こ、ここには化け物でもいるのか…」
荒らされた部屋のひとつに日記が残されていた。ここで何が起こったのかを想像するとページを開くのが恐ろしかったが、何もわからないほうがもっと恐ろしいと考えて、勇気を出して日記を開いてみることにした。
「なんダこれは…」
ボードの内容を不審に思ったが、いま必要なのは乗り物であって、ここで何が研究されていたかはゲンダーたちには関係ない。ゲンダーは部屋を後にして通路沿いにさらに進んでみた。
左手にある部屋入口のプレートを見ると資料室とある。ゲンダーが探しているものとはあまり関係なさそうな部屋だったが、なぜかゲンダーは部屋の前で足を止めた。やはりさっきのボードの内容が気になる…。
ゲンダーは資料室に入ると棚から適当にファイルをいくつか抜き取り、中の資料をパラパラと確認する。資料には何かのグラフや数値、何かの図解、ゲンダーの知らない言語で書かれた文書などがあった。ゲンダーの期待していたようなものはなかった。いや、一体何を期待していたのかはゲンダー自身にもわからなかったが。
ファイルを棚に戻そうとしたとき誤ってファイルのひとつを落としてしまい、資料が床にばらまかれた。ああ、やってしまった。とゲンダーは思ったが、散らばった資料の中に気になる一枚の写真を見つけた。
「これは…、死んでいる…のか?」
写真にはいくつかの生物が写っていた。しかし、どれも全く生気が感じられない。目に光がない。そしてゲンダーは気づいてしまった。その写真には本来写るべきではないものが写っていることに。
「……!!?」
驚いて写真を落としてしまうゲンダー。背筋が凍りつく。
いや、まさか…そんなはずはない、気のせいだ。自分の見間違いだと信じて恐る恐る写真を拾い上げる。
「うっ……」
見間違いなどではなかった。その写真の上部、隅のほうに映っているそれはまさしく…。
「ゆ、幽霊…?ばかな、そんなもの本当にいるわけ…」
ゲンダーはあの紫の霧のことを思い出していた。一切の攻撃が通用しなかった赤い光…あれは、まさか…?
ゲンダーは急に不安になってきた。誰もいないドーム内。謎の怪しい研究。そして心霊写真…。何が起こったのかはわからないが、ここには関わってはいけない何かがある気がする。
そうだ、こんなところは早く出よう。乗り物がなければマキナに行けないわけじゃない。それに単独でいるのは危ない気がする。とにかくメイヴと合流しよう。
そう考えていると突然、ラボ内に警報が鳴り響いたのでゲンダーは驚いて飛びあがった。ゲンダーはヘイヴによって作られた存在なので心臓はなかったが、もし心臓があったなら口から心臓が飛び出していたかもしれない。
「警報!警報!不正アクセスが確認されました。繰り返します不正アクセスが確認されました。レベル3警戒態勢に移行します」
ゲンダーの目前にメイヴの遠隔モニタが現れた。
『すみません、ゲンダー。あともう少しだったのですが、トラップが仕掛けられていたようです。次は大丈夫です。警戒態勢が収まるまで待たなければならないので、もう少し時間をください』
メイヴが連絡をくれたのでゲンダーは少し安心した。
「メイヴ、それよりここはヤバイ気がする。早く出たほうがいいと思うんダが…!」
しかしメイヴからの返答はない。壁を隔てているからか、こちらの声が届いていないのかもしれない。ゲンダーはメイヴのいる部屋に戻ろうとした。しかし通路に壁が降りていてメイヴのいる部屋に向かえなくなっていた。
「さっきの警報のせいか?よりによってこんなときに…。別の道を探さなくちゃならないな」
資料室から右へ向かっても左へ向かっても、どちらも防壁で道を阻まれている。しかたなくゲンダーは正面の通路を進むしかなかった。
停電のせいで自動で開かなかった自動ドアを破壊して奥へ進むと少し開けた場所に出た。円形の部屋で、中央にはガラス張りの円柱が部屋を貫いている。どうやら吹き抜けになっているらしい。その円柱に2か所エレベータが設置されていたが電気が来ていないので動かなかった。
部屋には四方にそれぞれ別の部屋があるようだったが、カードキーがなければ入れないようだ。当然ながらゲンダーはそんなものは持っていない。
奥にあったまたもや開かない自動だったドアを破壊して進むと、その先も防壁が降りていたが、防壁に穴が開いていたのでゲンダーはそこから先に進むことができた。
「…しかし、こんな分厚い防壁に穴だなんて。ここはやっぱり何か変ダ」
壁の向こう側には8つの部屋があった。そしてどの部屋もひどい有様だった。扉は破壊され尽くしており、部屋の中も荒れ放題だ。そして夥しい血の跡…。
少なくともここに誰かがいたことはわかったが、ゲンダーは安心するどころかますます不安になった。
「こ、ここには化け物でもいるのか…」
荒らされた部屋のひとつに日記が残されていた。ここで何が起こったのかを想像するとページを開くのが恐ろしかったが、何もわからないほうがもっと恐ろしいと考えて、勇気を出して日記を開いてみることにした。
12月31日
今日は大晦日だ。世間ではきっと年越しそばをすすりながら家族で歌番組でも見ながら新年を今か今かと待っているんだろう。だが俺はなんだ?どうして俺はこんな日にまで仕事に追われているんだ。たしかに給料は悪くないが、上のやつらは俺たちをこき使いすぎだ。先日も同僚が病気になったとかで、地下の治療施設へ運ばれて行った。ついにこのフロアの研究員は俺を含めて3人になってしまった。…もう限界だ。年明けと同時にこんな仕事やめてやる!
今日は大晦日だ。世間ではきっと年越しそばをすすりながら家族で歌番組でも見ながら新年を今か今かと待っているんだろう。だが俺はなんだ?どうして俺はこんな日にまで仕事に追われているんだ。たしかに給料は悪くないが、上のやつらは俺たちをこき使いすぎだ。先日も同僚が病気になったとかで、地下の治療施設へ運ばれて行った。ついにこのフロアの研究員は俺を含めて3人になってしまった。…もう限界だ。年明けと同時にこんな仕事やめてやる!
1月1日
新年明けましておめでとうございます。…いや、日記に書いても仕方ないよな。もう何年、年賀状を出していないだろうか。それもこれもここの体制のせいだ。もう10年はドームの外に出ていない。今日、辞表を上司に叩きつけてやったら奴め、俺の目の前で破り捨てやがった。多めの給料をくれてやっているのだから、その分きっちり働いてもらうまでは辞めることは許さん、だとよ。俺たちは会社の奴隷じゃないんだぞ!
新年明けましておめでとうございます。…いや、日記に書いても仕方ないよな。もう何年、年賀状を出していないだろうか。それもこれもここの体制のせいだ。もう10年はドームの外に出ていない。今日、辞表を上司に叩きつけてやったら奴め、俺の目の前で破り捨てやがった。多めの給料をくれてやっているのだから、その分きっちり働いてもらうまでは辞めることは許さん、だとよ。俺たちは会社の奴隷じゃないんだぞ!
1月2日
ついに隣の部屋の同僚まで連れて行かれた。いやな同僚ばかりだったが、あいつだけはいいやつだった。あいつが励ましてくれたからこそ、今日まで頑張ってこれたようなもんだ。なのにあいつまでいなくなってしまった。俺ももうだめかもしれない…。
ついに隣の部屋の同僚まで連れて行かれた。いやな同僚ばかりだったが、あいつだけはいいやつだった。あいつが励ましてくれたからこそ、今日まで頑張ってこれたようなもんだ。なのにあいつまでいなくなってしまった。俺ももうだめかもしれない…。
1月3日
1月4日
鬱だ。
鬱だ。
1月5日
1月6日
1月7日
今日、地下の治療施設のスタッフが俺の部屋に来た。どうやら俺も病気らしい。数日後、俺も地下へ行くことになった。でもこき使われなくて済むなら…。たまには休んだっていいだろう。俺だって疲れるんだ。
今日、地下の治療施設のスタッフが俺の部屋に来た。どうやら俺も病気らしい。数日後、俺も地下へ行くことになった。でもこき使われなくて済むなら…。たまには休んだっていいだろう。俺だって疲れるんだ。
1月8日
いやな噂を聞いた。昼休み、気分転換に以前同じ部署にいた後輩に会いに行ったが、どうも最近はGβの被検体が不足しているらしいのだと聞いた。しかし正確な結果を出すために被検体の数を変えるわけにはいかない。なんでも足りない被検体はどこかから拉致してくるって噂だ。まさか、そんなこと…。社長が変わってからずいぶん雰囲気が変わったとは思っていたが、まさかそこまで…。
いやな噂を聞いた。昼休み、気分転換に以前同じ部署にいた後輩に会いに行ったが、どうも最近はGβの被検体が不足しているらしいのだと聞いた。しかし正確な結果を出すために被検体の数を変えるわけにはいかない。なんでも足りない被検体はどこかから拉致してくるって噂だ。まさか、そんなこと…。社長が変わってからずいぶん雰囲気が変わったとは思っていたが、まさかそこまで…。
1月9日
いよいよ明日は地下行きだ。ちょっと気になって、こっそり仕事を抜けだして地下を見てきた。あそこは幹部クラスじゃないと入れないが、実はこの前の仕事で上司のIDを知ってしまった。いけないとは思いつつも好奇心に負けて、上司のIDで地下を覗いてみた。少し見て満足したら帰るつもりだった。そしたら、なんだよこれ…。これのどこが治療施設なんだ…!?こんなことって……うそだろ。
いよいよ明日は地下行きだ。ちょっと気になって、こっそり仕事を抜けだして地下を見てきた。あそこは幹部クラスじゃないと入れないが、実はこの前の仕事で上司のIDを知ってしまった。いけないとは思いつつも好奇心に負けて、上司のIDで地下を覗いてみた。少し見て満足したら帰るつもりだった。そしたら、なんだよこれ…。これのどこが治療施設なんだ…!?こんなことって……うそだろ。
1月10日
今日、あいつらが俺を地下へ連れに来る…。治療施設じゃないあそこへ俺を連れて行って…一体何をするつもりなんだ!?俺は会社に殺されちまう…。いやだ…、そんなのはいやだ。なんのために俺は今まで会社のために…。こんなところで死にたくない。やられる前にやるしかないんだ…。俺は生きてここを出る。犠牲になった同僚たちのためにも、俺は生きなければならない!そしていつか復讐を…
今日、あいつらが俺を地下へ連れに来る…。治療施設じゃないあそこへ俺を連れて行って…一体何をするつもりなんだ!?俺は会社に殺されちまう…。いやだ…、そんなのはいやだ。なんのために俺は今まで会社のために…。こんなところで死にたくない。やられる前にやるしかないんだ…。俺は生きてここを出る。犠牲になった同僚たちのためにも、俺は生きなければならない!そしていつか復讐を…
1月11日(ページが破り取られている)
月 日(あとは白紙だった)

「……これなんてかゆうま?」
日記を机に戻そうとすると、日記から一枚の紙切れが落ちた。そこには意味のない文字の羅列があった。これが日記に出てきた幹部のIDというやつだろうか。
一体地下に何があったというのか。Gβってさっきのプロジェクトガイストβのことだろうか。一体ここはなんなんだ…。
そのときラボ内の電気が復旧した。メイヴが中枢にアクセスしてやってくれたのだろうか。それとも他に誰かラボ内にいる…?
ゲンダーはメイヴと合流しようと部屋を飛び出したが防壁は降りたままだった。おそらく向こうの壁もそのままだろう。そうなると相変わらずメイヴとは合流できないままだ。
ゲンダーは電気が復旧して動くようになったエレベータを利用することにした。メイヴがいる部屋の近くには階段があった。どこかの階を経由してくれば、うまくメイヴと合流できるかもしれない。
最初にゲンダーは屋上に向かい階段を下れば確実だと考えたが、エレベータは屋上へは繋がっていなかった。今いるフロアの近隣の階に降りてみたが、フロアの構造はほぼ同じで、やはり壁が邪魔で階段へは向かえない。ゲンダーは根気よく上から順番に各フロアに降りてみたが、どこも壁が邪魔をしている。
どれだけ時間をかけてしまっただろうか。メイヴも心配しているかもしれない。あれ以来、メイヴから遠隔モニタを通しての連絡もない。距離が遠すぎるのだろうか。
残すフロアは地下フロアだけになった。地下はB5まで存在する。
「地下か…。怖いけど…他に道がない以上、行くしかないよな」
意を決して、B1のスイッチを押した。
エレベータは地の底へと引き寄せられてゆく。
ガクン…!
「!?」
突然エレベータが動作を停止した。表示を見ると1FとB1のちょうど間のようだ。
「カカワルナ…」
「な、なんだ?」
「コウカイスルゾ…。ヒキカエセ…」
「だ、誰だ!?」
どこかから声が聞こえた…ような気がしたが、エレベータ内にはゲンダーしかいない……はずだ。
声が聞こえなくなったと思うと、エレベータは何事もなかったかのように動き出した。今のは幻聴…だったのだろうか。
エレベータが地下フロア1に到着した。
ゲンダーは恐る恐る地下フロアを進んで行く。地下は赤いランプで薄明るく照らされているのみだった。しばらく行くと、厳重そうな扉が見えてきた。扉の横にはいかついパネルが備え付けられており、パネルには数字といくつかの文字が並んでいた。ゲンダーが日記から落ちた紙切れに書かれている文字列を入力すると、扉はあっけなく開いた。
扉の向こうは一本道だった。壁にいくつも紙が貼ってある。それは何かのグラフだったり、また知らない言語の文章だったりした。その中にゲンダーでも読めるものを見つけた。ゲンダーはそれをはがし取って読んでみる。
「プロジェクトGΩ…。地下でやってたのか…」
紙にはこう書かれていた。
日記を机に戻そうとすると、日記から一枚の紙切れが落ちた。そこには意味のない文字の羅列があった。これが日記に出てきた幹部のIDというやつだろうか。
一体地下に何があったというのか。Gβってさっきのプロジェクトガイストβのことだろうか。一体ここはなんなんだ…。
そのときラボ内の電気が復旧した。メイヴが中枢にアクセスしてやってくれたのだろうか。それとも他に誰かラボ内にいる…?
ゲンダーはメイヴと合流しようと部屋を飛び出したが防壁は降りたままだった。おそらく向こうの壁もそのままだろう。そうなると相変わらずメイヴとは合流できないままだ。
ゲンダーは電気が復旧して動くようになったエレベータを利用することにした。メイヴがいる部屋の近くには階段があった。どこかの階を経由してくれば、うまくメイヴと合流できるかもしれない。
最初にゲンダーは屋上に向かい階段を下れば確実だと考えたが、エレベータは屋上へは繋がっていなかった。今いるフロアの近隣の階に降りてみたが、フロアの構造はほぼ同じで、やはり壁が邪魔で階段へは向かえない。ゲンダーは根気よく上から順番に各フロアに降りてみたが、どこも壁が邪魔をしている。
どれだけ時間をかけてしまっただろうか。メイヴも心配しているかもしれない。あれ以来、メイヴから遠隔モニタを通しての連絡もない。距離が遠すぎるのだろうか。
残すフロアは地下フロアだけになった。地下はB5まで存在する。
「地下か…。怖いけど…他に道がない以上、行くしかないよな」
意を決して、B1のスイッチを押した。
エレベータは地の底へと引き寄せられてゆく。
ガクン…!
「!?」
突然エレベータが動作を停止した。表示を見ると1FとB1のちょうど間のようだ。
「カカワルナ…」
「な、なんだ?」
「コウカイスルゾ…。ヒキカエセ…」
「だ、誰だ!?」
どこかから声が聞こえた…ような気がしたが、エレベータ内にはゲンダーしかいない……はずだ。
声が聞こえなくなったと思うと、エレベータは何事もなかったかのように動き出した。今のは幻聴…だったのだろうか。
エレベータが地下フロア1に到着した。
ゲンダーは恐る恐る地下フロアを進んで行く。地下は赤いランプで薄明るく照らされているのみだった。しばらく行くと、厳重そうな扉が見えてきた。扉の横にはいかついパネルが備え付けられており、パネルには数字といくつかの文字が並んでいた。ゲンダーが日記から落ちた紙切れに書かれている文字列を入力すると、扉はあっけなく開いた。
扉の向こうは一本道だった。壁にいくつも紙が貼ってある。それは何かのグラフだったり、また知らない言語の文章だったりした。その中にゲンダーでも読めるものを見つけた。ゲンダーはそれをはがし取って読んでみる。
「プロジェクトGΩ…。地下でやってたのか…」
紙にはこう書かれていた。
【プロジェクトGΩへの移行に関して】
諸君、この度はご苦労だった。諸君らの健闘の甲斐あって、ついに我らのプロジェクトはガイストオメガ、すなわち最終段階を迎えることができた。諸君には本当に感謝している。今後も諸君のより一層の努力と、それに伴う素晴らしい成果を期待している。 代表取締役 G・ズロイ・ドゥーフ
記
本プロジェクトはプロトガイスト、ガイストβに引き続き、精神の肉体からの離脱を目指すものとする。肉体は精神の檻であり、精神の可能性を制限する枷である。我々の目的は精神を解放し、より大きな力を引き出し、古い武力や環境を害する機械よりも精神の力のほうが正しいことを証明するためであることを今一度、再確認されたい。精神の解放のために機械を利用するのは不本意だが、これもすべての精神を解放するまでの辛抱である。本プロジェクトが完成次第、政府要請のもとにマキナ、フィーティン及びその他の国々の住民の精神の解放を行う。最後に我々もやっと精神が解放されることになっている。すべての精神が解放されれば、世界には史上最大の幸福が訪れるだろう。その日が来るまで、気を引きしめてプロジェクトを邁進させるように務めてもらいたい。
「精神の…解放?なんなのダそれは…。そんなことができるのか。いや、精神が解放されるとどうなってしまうのダ?しかしあの写真は…」
ゲンダーは資料室で見つけた写真を思い出していた。あれが精神を解放された状態なのだろうか。そして写真に写りこんだ幽霊…。
「まさか、精神の解放とは幽霊を生み出すことなのか!?」
果たしてそれは本当に幸せなことなのだろうか。とてもそうは思えない。そして、その精神の解放がこの先で行われている、いやもう行われたあとなのだろうか。どちらにしても、もはや知ってしまった以上、このまま見逃しておくこともできなかった。
エレベータで聞こえてきた幻聴(だと思いたい)声も気になる。
ゲンダーは紙を投げ捨てると、地下フロアの奥へと駆け込んでいった。
床に落ちたその紙の裏には走り書きでこう記されていた。
ゲンダーは資料室で見つけた写真を思い出していた。あれが精神を解放された状態なのだろうか。そして写真に写りこんだ幽霊…。
「まさか、精神の解放とは幽霊を生み出すことなのか!?」
果たしてそれは本当に幸せなことなのだろうか。とてもそうは思えない。そして、その精神の解放がこの先で行われている、いやもう行われたあとなのだろうか。どちらにしても、もはや知ってしまった以上、このまま見逃しておくこともできなかった。
エレベータで聞こえてきた幻聴(だと思いたい)声も気になる。
ゲンダーは紙を投げ捨てると、地下フロアの奥へと駆け込んでいった。
床に落ちたその紙の裏には走り書きでこう記されていた。
みんな騙されるな
政府は抽出した精神を材料に兵器を作っている
ドゥーフは政府のイヌだ
政府は抽出した精神を材料に兵器を作っている
ドゥーフは政府のイヌだ
少し行ったところに階段があった。これでメイヴと合流できるだろう。しかしメイヴがいるのはたしか18階だ。そこまで登るのか…。これから発生するであろう苦行の辛さに不安を覚えていると、久しくメイヴからの連絡が来た。
『ゲンダー!よかった、やっと通じましたね。警戒態勢が原因でジャミングされていましたが、警戒態勢が解除されたようなので、この距離でも遠隔モニタを送ることができるようになりました』
「メイヴ!実は大変なことがわかった。この施設ではどうやら生物から精神を抜き取ってどうにかする怪しい研究しているみたいなんダ!」
『ええ、把握しています。中枢データベースにアクセス、データ複製完了しました。これまでのゲンダーの行動は監視カメラの情報からだいたい把握しました。とりあえずはまず合流しましょう。そちらへ向かいます』
しばらくして、爆発音のあとにメイヴがゲンダーのもとへやってきた。
『扉がありましたが邪魔なので破壊して来ました♪』
「嗚呼、IDの意味は…」
『細かいことは気にしてはいけません。では、先へ進みましょうか。こちらでもいくつかわかったことがあります。道中説明いたしましょう』
そしてゲンダーとメイヴは地下フロアの奥へと進んでいった。
『ゲンダー!よかった、やっと通じましたね。警戒態勢が原因でジャミングされていましたが、警戒態勢が解除されたようなので、この距離でも遠隔モニタを送ることができるようになりました』
「メイヴ!実は大変なことがわかった。この施設ではどうやら生物から精神を抜き取ってどうにかする怪しい研究しているみたいなんダ!」
『ええ、把握しています。中枢データベースにアクセス、データ複製完了しました。これまでのゲンダーの行動は監視カメラの情報からだいたい把握しました。とりあえずはまず合流しましょう。そちらへ向かいます』
しばらくして、爆発音のあとにメイヴがゲンダーのもとへやってきた。
『扉がありましたが邪魔なので破壊して来ました♪』
「嗚呼、IDの意味は…」
『細かいことは気にしてはいけません。では、先へ進みましょうか。こちらでもいくつかわかったことがあります。道中説明いたしましょう』
そしてゲンダーとメイヴは地下フロアの奥へと進んでいった。
ゲンダーたちには聞こえなかったが、地下フロアに漂うある思念が静かに呟いた。
「ああ、久しく動く者のなかったこのラボに二人もやってくるなんて。この機会を逃すわけにはいきませんね。さぁ、今こそ行くのです、メイシス。もうここにあなたを縛り付ける者はいないのですから…」
「ああ、久しく動く者のなかったこのラボに二人もやってくるなんて。この機会を逃すわけにはいきませんね。さぁ、今こそ行くのです、メイシス。もうここにあなたを縛り付ける者はいないのですから…」