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「貴様等、努々許されるなどと思うな…………」

地の底から沸き上がるような怨恨の声。周囲の雪を蒸発させるのではないかと思われる程の、凄まじい殺気と闘気を放ち立ち尽くす姿は仁王像を彷彿とさせる。

「この阿鼻にも似た災厄の根源、我が正義の前に滅してくれる!!」

雪山に咆哮が木霊する。その怒髪天を突くような怒りはそう、この殺戮ゲームを仕組んだ者達への怒りだ。
闇夜の豪雪が鎧を纏った美しい体躯を打とうとも、それを苦にする様子は一切無い。
熱い正義を胸に秘め、侍は禍(まがと)を辿る。禍とは読んで字のごとく災いに繋がる一点に集まる線の事。
何本かは背後の洞窟に入って行くようだ。遠くまで見渡すことはここからでは出来ないが、1本、確実に処理できる位置にそれは繋がっていた。

「施しなど元より承けるつもりは毛頭無い。一思いに破り捨てるとしよう」

出て来たのは2枚の紙。内1枚から禍が、もう1枚は特に何もないので捨て置き、邪悪な気配の紙を破り捨てる。
中から出てきたのは宮田医院輸血用パックと輸血用セット。そこから線が延びていた。

「魔素流動体…………いや、別物か。何故斯様なものが配給されている?」

しげしげと眺める侍。最初のやり取りを聞いてはいたが、滅すべき悪への憤怒により
不要な情報は押し流されてしまったのだ。

「救済を仄めかし良人を欺き、憐れなる犠牲者を増産しよう等ととは…………悪辣の極みよ………………!!」
「あんた…………もうちょっと人にわかる言葉を使いなさいって、よく言われない?」

誰もいないはずの背後からベルのような音が鳴り響き咄嗟に当て身の構えを繰り出す。
『斬神』名前とは裏腹に、構えに触れた相手を空中、地上問わず投げ飛ばす技。
しかし、攻撃は来なかった。そこに居たのは闇夜に映える光を放つ妖精。侍から一瞬殺気が漏れ出たのを感じて、とりあえず妖精は
「あぁ脅かしちゃったみたいね、私の名前はチャット。貴方は?」
と自己紹介してみた。数々の試練を乗り越えてきた彼女にとって殺気を向けられた程度ではちょっとしか怯まない。
それに一瞬しか殺気が無いということはきっと『戦闘の心得はあるがいいやつ』なのだ。
リンクはそんなことなかったが。

「貴様、何者だ。気配は無かったが、術式の一種か?」
「そうそう、それくらい分かりやすい言葉で会話しなさいよ!あ、私が何者かって?妖精よ、よ・う・せ・い。わかる?
 アンタ旅なれてそうだし見た事あるんじゃない?草むらとか壺の中に隠れて暮らしてる仲間みたいに体力を回復する魔法は掛けられないわ。
 というかレディをこんな雪まみれの所に放り出してアンタこそ何者なのよ!」
「どうであれ、禍を辿らねばならんな」

歩き出すハクメン、特に行く宛もないため追うチャット。

「HEY!LISSEN!自分から話題を振ったら最後まで聞く!!常識でしょ!? 
 まったく、なんだっけ?何時出てきたのかっていう事ね。私にもよくわからないんだけど、なんかミョーな男に会ったのよ。
 暗がりからいきなり出てきたからビックリしたわ。それで確か『もしかして君、リンクという男に会いたいんじゃあないか?』
 って声をかけられて、気が付いたらここにいたって感じかしら」

侍は黙して語らず反応がないので、こいつ
(後のやたら口上で『ハクメン』という名前だとわかったのだが)
について深く考えるのは止めることにした。
侍は黙って説明を聞きつつ洞窟の中へと足を進め、腰の高さほどの小さな穴に身を屈めて入ると、小部屋にたどり着いた。
がらんどうの小部屋には左に鍵のかかった扉、正面に凍りついた扉右に押し出すと開く仕組みの石製ドアがある。
辺りに生物の気配は無い。冷凍ガスを吐き出す音も、狂暴な狼の吠え声も生き物の出す生活音すら掻き消えてしまっている。

「なんなの、ここ………………スノーヘッドの神殿…………?どこか知らない雪山にいるのかと思ってたけど、違うの?
 何でまた雪が降ってるのよ………………。ムジュラは倒したはずなのに。
 ここの部屋はホワイトウルフォスの住み処のはずなのに…………。シロボーは何処に行ったの?フリザドは?
 もしかしてみんな消しちゃえるほどスゴい奴が現れたっていうの………………?」

ただ何もないというだけで、この間だって弟と駆け回っていた故郷は知らない場所へ様変わりしたように感じる。
何よりもリンクと共に『月』を止めるため奔走し、世界を守り抜いた思い出が、チャットに
ゾンビの群れよりも、幽霊からの見えない殺気よりも恐ろしい光景を観せている。
恐怖に震える妖精に、励ましの言葉でも掛けてくれるのか侍は重い口を開く。

「妖精に化生の類。ククク、これもまたコンテュニアムシフト《確率事象》か。この浮き世は最早何が起ころうと不思議ではないというわけか。
 しかし小さき者よ、恐れる事はない。我が正義を以て颶風のごとき影は消し去るのみ」

何が大丈夫なのか全くわからない。まずコンテュニアムシフト(直訳すると連続移動)颶風(グフー)とか何を言ってるのかわからない。
しかしどうやら自分を守ってくれるらしいことは伝わって来たので、すこしは安心と言ったところだ。
しかし、小部屋の進路に3つの選択肢がある中でそのまま直進を選んだ事には不安しかなかったが…………

「ちょ、ちょっとアンタ危ないわよ!触ったら氷の柱に早変わり…………!」
「久しいな。まさか見知らぬ土地に召喚され、早々に貴様を引き当てられるとは…………
 貴様の扱いならば『手慣れたもの』よ」


侍は知っている、難度の高い業など要らぬ、拳を握り締め一直線に振り抜くのみ───────



「ZEEAAAAAAAAAAA!!!!」



氷塊は地鳴りのような悲鳴を上げながら扉ごと倒れ伏した。強大な相手や目を疑うトラップに遭遇することが多かったとはいえ
直後の「やはり衰えは否めんな」発言には流石のチャットも苦笑い。あまりの事に
(今度からコレ、アバカム《解錠呪文》とでも呼んでやろうかしら?)
という本人にすら謎の思考をするはめになった。
とりあえずコレと一緒にいて我が身の不安は持つだけ無駄だという事は理解できた。

その後二段ジャンプでの階層越え、空中ダッシュで穴の飛び越え、氷の扉と柱は拳で粉砕という反則業でもってボス部屋まではたどり着いた。
が、流石にボス部屋の扉を破壊する事は出来なかったため鍵を取り現在に至る。
部屋の中には巨大な氷塊が1つと、それに刺さった刀が一本。
ハクメンにとって予想通り、適切な武器が無い現状ではむしろ期待していたといって差し支えない物がそこにあった。
ます。

「アークエネミー『ユキアネサ』、やはり禍の主は貴様だったか」
「刀に知り合いがいるなんて、やっぱりアンタ変よ」
「心底礼を言うぞ。この奈落の地に黒き者と同等以上の者が存在するというのなら、それ相応の覚悟は持たねばなるまい」
「HEY!いい加減にしてよね!私が人間だったら、もうアンタの事5回は殴ってても許されると思うわ!」

侍は一思いに刀を抜き取り、まるで会話しているかのようにしげしげとその刀身を眺める。例え機械でできた獣が解き放たれ、走り回っていようと…………
チャットは思った、
(いつもだったら「早く 追っかけて!逃げるわよ!自分の体を張って体当たりしてでもヤツの暴走を 止めるのよ!」って言うんだけど、でもきっとそんなの要らないんでしょうね)と

「さて、久々の開演だユキアネサ。存分にその力、見せつけるがいい」

仮面機械獣、名を『ゴート』。その突進を止めるには、爆弾かもしくはゴロン族の強大なパワーでの体当たりが必要である。
かの剛剣使いハクメンにとってもそれは同様。真っ向から切り付けただけではその巨体はビクともしない。
しかし彼にはあるのだ、防御を切り崩す術が用意できている。
侍は何時もそうするように、刀を構え、力を込めて、力強く正義を叫ぶ。

「我は刃、我は空、我は綱。我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り『悪』を滅する!!我が名はハクメン、推してまいる!」

一言一言に大地が震える。凍り付く程刃が吼える!!
向き直り水平に刀を下ろす。ー(ああ迫る強大な塊に飛びかかり一太刀浴びせ
それでは効果が薄いとみるや即座に上へ逃れる。


「往くぞッ!!人に仇なす獣面よ!『椿』ィッ!!」

跳躍からすれ違い様放たれた斬撃は、相手の推進力で威力を飛躍させ、無防備な背を二分していく。
ガードを崩された巨体は滑り落ち、床へ体を擦り付けるように倒れた。

「やはりそれなりに抑え筋を捉えねば砕き折れるか、防寒具も必要とは、難儀な旅となるかもしれん」

霜焼けのついた掌を見ながらそうぼやく姿はどこか寂しげでもあった。まるで昔の友を想うように刀を見ている。

「ああやっぱり…………」

チャットの小さな頭の中は嫌な予感でいっぱいになっていく。
正直空中を飛んだとしか言いようが無いほど滞空して剣を振り抜き一度横転させて、そこからあの巨体を宙に浮かせるほど攻撃を叩き込みKOした時は流石に言葉を失った。
パワーバランスの崩壊とかそういう問題じゃない。『次元が違う』としか思えなかった。
そう、例えばリンクのように、例えばお面屋のように、スタルキッドのように…………

『世界を越えてきたのではないのか』

妖精もモンスターも居ない世界。タルミナとハイラルのように隣同士ではなく、もっと遠い場所にある世界から来ていなければ
こんな差はつかないはず。そう思った。
実際にその推測は間違ってはいない。ハクメンが例外的に強いのもあるが、次元は広い。
時という概念を吹き飛ばす者、一度見た技術を我が物とする女性
自分に向かってくる『未来に横たわる死の運命』を可視化し、螺曲げ、操作するもの。
彼女のいた世界ではいずれ劣らぬズバ抜けた能力。自分は軽口が叩けるほど安全圏にいるのに
いつ知り合いが倒れてもおかしくない状況に落ち着かない気持ちが込み上げてくる。
彼女はやはりまだ恐れていた。風の臭いすら違うこの場所も、余りに現実離れした同行者も
そして自分の身の安全よりも仲間の命の安全を祈った。




【スノーヘッド/1日目/深夜】
 【ハクメン@BRAVBRUE】
 [状態]: 健康
 [装備]: 氷剣・ユキアネサ@BRAVBRUE
 [道具]:チャット@ゼルダの伝説ムジュラの仮面、基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(不明・不明、不明) 
 [思考・状況]基本行動方針:悪を滅する。
1:全ての「罪」を刈り取り「悪」を滅する.
2:『禍』を辿る


※刀集めイベント:ユキアネサ@BRAVBRUEはG-3・スノーヘッドにありました。
※チャット@ゼルダの伝説ムジュラの仮面はハクメンに支給された意思持ち支給品です。
※バラバラの輸血用パックがスノーヘッド入り口に落ちています。
※モンスターは島内にいないようです。



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最終更新:2013年07月13日 02:41