心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE
恋をした。
誰よりも幸せな恋をした。
けれど私は灰かぶり姫なんかじゃなくて───
誰よりも幸せな恋をした。
けれど私は灰かぶり姫なんかじゃなくて───
ハッピーエンドは失われた。
▼ ▼ ▼
人の悪意には慣れている。
生まれが生まれだ。嫉妬や羨望の的にされるのなんて日常茶飯事だし、謂れなき誹謗中傷を受けた数だって数えきれない。
生まれが生まれだ。嫉妬や羨望の的にされるのなんて日常茶飯事だし、謂れなき誹謗中傷を受けた数だって数えきれない。
人との別離には慣れている。
というよりも、最初から何も感じない。この世に良い人なんて誰もいなくて、誰もが打算だけで動いていて、だったらそんな他人なんかに感情を動かすほうがどうかしているのだ。
少なくとも、ほんの少し前までの自分はそう考えていた。
というよりも、最初から何も感じない。この世に良い人なんて誰もいなくて、誰もが打算だけで動いていて、だったらそんな他人なんかに感情を動かすほうがどうかしているのだ。
少なくとも、ほんの少し前までの自分はそう考えていた。
だから、本当なら、あんなものを見せられてもどうってことはないのだ。
氷に閉ざされていた私の心は、そんなものでは動かなかった。
そのはずなのに。
氷に閉ざされていた私の心は、そんなものでは動かなかった。
そのはずなのに。
「藤原さん……」
ふとした瞬間にリフレインする。その情景が脳裏にこびり付いて離れない。
乾いた空疎な爆発音、いっそ冗談めいて噴き出る鮮血、くるくると回る首。
綺麗に整えられた桃色の髪はざんばらに飛び散って、もう生前の可愛らしさなんてどこにもなく。
乾いた空疎な爆発音、いっそ冗談めいて噴き出る鮮血、くるくると回る首。
綺麗に整えられた桃色の髪はざんばらに飛び散って、もう生前の可愛らしさなんてどこにもなく。
───信じない。
ぽとりと落ちた首が転がる。光を失った虚ろな目が、こちらを見る。
───それでも信じない。
この子に驚かされるのは、いつものことだから。
きっと今回だってそうだ。自分が声をかけたら藤原さんは何でもないことのように起き上がって、「なーに本気にしてるんですかー」なんて間の抜けた顔で笑うに決まっている。それで私が安心して少し泣きそうになると、「あれあれ泣いてるんですかー?」なんてからかうに決まっている。
人の姿をした家畜……プライドがなく他人を貶めるしか能のない地球の癌。ああ、考えるだにおぞましい。
だなんて私が怒り、石上くんが困り、会長が静かに嗜める。そして皆で笑うのだ。これまでずっと繰り返されてきた日常が、明日からもきっと続く。
そうなんでしょう? これもきっと、あなたの悪戯なんでしょう?
TG部で色々遊んでいるあなたのことだもの、私の知らない最新鋭のゲームだとか、VRだとか、とにかくそういうものを用意してドッキリでも仕掛けているのでしょう?
ねえ、藤原さん。
藤原さん───
きっと今回だってそうだ。自分が声をかけたら藤原さんは何でもないことのように起き上がって、「なーに本気にしてるんですかー」なんて間の抜けた顔で笑うに決まっている。それで私が安心して少し泣きそうになると、「あれあれ泣いてるんですかー?」なんてからかうに決まっている。
人の姿をした家畜……プライドがなく他人を貶めるしか能のない地球の癌。ああ、考えるだにおぞましい。
だなんて私が怒り、石上くんが困り、会長が静かに嗜める。そして皆で笑うのだ。これまでずっと繰り返されてきた日常が、明日からもきっと続く。
そうなんでしょう? これもきっと、あなたの悪戯なんでしょう?
TG部で色々遊んでいるあなたのことだもの、私の知らない最新鋭のゲームだとか、VRだとか、とにかくそういうものを用意してドッキリでも仕掛けているのでしょう?
ねえ、藤原さん。
藤原さん───
◆
泣き叫ぶ少女の声が、夜の森に響いた。
エリアC-7、街の外れにある小さな森の中。木漏れ日となって降り注ぐ月の光に照らされて、四宮かぐやは常の気高さとはかけ離れた姿を見せていた。
すすり泣くような声とは違う。声を殺して泣くのとも違う。子供がするようにあらん限りの声を張り上げた絶叫。世の悪意に立ち向かえる強さを持たない幼児のような泣き叫ぶ声は、森の闇に溶け消えて、残響となって木々の葉を揺らすのみ。
エリアC-7、街の外れにある小さな森の中。木漏れ日となって降り注ぐ月の光に照らされて、四宮かぐやは常の気高さとはかけ離れた姿を見せていた。
すすり泣くような声とは違う。声を殺して泣くのとも違う。子供がするようにあらん限りの声を張り上げた絶叫。世の悪意に立ち向かえる強さを持たない幼児のような泣き叫ぶ声は、森の闇に溶け消えて、残響となって木々の葉を揺らすのみ。
殺し合いを宣言された場で無防備に大声を出す危険性を理解できないほど、四宮かぐやは愚かではない。
しかし、これは賢明とは愚かしいとかそういう問題ではないのだ。
しかし、これは賢明とは愚かしいとかそういう問題ではないのだ。
今でも気を抜けば脳裏に浮かぶ。一面に鮮血が飛び散り、そこで起こった惨劇を生々しく想起させる。泣き別れの首と胴体、あらぬ方向に投げ出される手足。吹き飛んだ頭部はおかしな形に陥没し、下顎の無くなった光のない目がこちらをじっと睨めつけている。
それでも理解できない。
何故、藤原千花が死ななければならなかったのか。
それでも理解できない。
何故、藤原千花が死ななければならなかったのか。
そう、藤原千花は死んだ。それは変えようのない事実だ。
遠隔で網膜に投射するVR映像? あるいは都合の良い夢を見せる催眠療法の発展系?
あり得ない、そんなものが現実に存在するものか。仮にそんな技術があったとして、それを一学生に過ぎない千花が用意できるか? できたとして、それで見せるのが彼女らしくもない血生臭い悪趣味なスプラッタであるのか?
遠隔で網膜に投射するVR映像? あるいは都合の良い夢を見せる催眠療法の発展系?
あり得ない、そんなものが現実に存在するものか。仮にそんな技術があったとして、それを一学生に過ぎない千花が用意できるか? できたとして、それで見せるのが彼女らしくもない血生臭い悪趣味なスプラッタであるのか?
ひぅ、と捩じれた息を呑みこむ。過呼吸気味に酷使された肺が悲鳴を上げ、生理現象としての咳がこみ上げて激しく咽込む。
信じられなかった。藤原千花が殺されたことも、自分や生徒会の面々が殺し合いなんてものに巻き込まれたことも。
そして───
信じられなかった。藤原千花が殺されたことも、自分や生徒会の面々が殺し合いなんてものに巻き込まれたことも。
そして───
「私、なんで、こんな……」
藤原千花の死に、四宮かぐやがこれほどまでの悲しみを抱いてしまっていることも。
「あなたは、勝手なんですよ……いつも騒動事を巻き起こして、いつも私のことをからかって、私を怒らせてばかりで、素直に礼も言わせてくれなかった……本当はいつもあなたに感謝してた。あなたのことを頼りに思っていた……私の傍にいてくれてありがとうって、これからもずっと一緒にいてねって……いつかそれを伝えようって、会長ほどじゃないですけど、そう思っていたんですよ……?」
言葉が途切れる。
思考が霞む。
血濡れた情景しか映さなかった脳髄が、唐突に過去の情景を描いていく。
生徒会の記憶、そこで過ごした日々。くだらなく低レベルで、四宮の人間としてこんなことでいいんだろうかと自問自答することもあったけど、でも確かに楽しかった日常の記憶。
笑顔。
藤原千花は、四宮かぐやの記憶の中で、ずっと笑顔を浮かべていた。
それを見て、かぐやもまた、ずっと笑顔でいられた。
思考が霞む。
血濡れた情景しか映さなかった脳髄が、唐突に過去の情景を描いていく。
生徒会の記憶、そこで過ごした日々。くだらなく低レベルで、四宮の人間としてこんなことでいいんだろうかと自問自答することもあったけど、でも確かに楽しかった日常の記憶。
笑顔。
藤原千花は、四宮かぐやの記憶の中で、ずっと笑顔を浮かべていた。
それを見て、かぐやもまた、ずっと笑顔でいられた。
そのことを自覚して、かぐやは泣き濡れた顔のまま笑い、
「……ああ、そっか」
何もない虚空を掻き抱き、自らの腕に顔を埋めて。
「私は、あなたを、親友だと思っていたんですね」
響き渡る慟哭の声。
見守る者はなく、見咎める者もなく、その声はただ夜半の風を揺らすばかりで、ただ虚空へと消えていくのみだった。
見守る者はなく、見咎める者もなく、その声はただ夜半の風を揺らすばかりで、ただ虚空へと消えていくのみだった。
◆
結局のところ、かぐやにできることとは、一体何なのだろうか。
少し考えて、答えは出なくて、もう考えること自体に嫌気がさしてしまう。
考えてみよう。今からかぐやたちは凄まじい豪運を発揮して、なんと誰も死ぬことなく殺し合いから脱出することができました。
自分も、会長も、あと石上くんも、特に大きな怪我もなくPTSDとかの後遺症とかもなく、なんか平穏に、嘘のように、元の日常に帰ることができました。
めでたしめでたし───なんてことになるわけがない。
だって、藤原千花は死んでいるのだ。
もうどうしようもなく、救いようがないほどに、死んでいるのだ。
どうやったって元の日常は戻ってこない。
5人揃ったあの生徒会は、二度と元には戻らない。
完全無欠のハッピーエンドは既に失われている。今からどう足掻こうとも、かぐやたちは不可逆のマイナスを常に背負っていかなければならない。
少し考えて、答えは出なくて、もう考えること自体に嫌気がさしてしまう。
考えてみよう。今からかぐやたちは凄まじい豪運を発揮して、なんと誰も死ぬことなく殺し合いから脱出することができました。
自分も、会長も、あと石上くんも、特に大きな怪我もなくPTSDとかの後遺症とかもなく、なんか平穏に、嘘のように、元の日常に帰ることができました。
めでたしめでたし───なんてことになるわけがない。
だって、藤原千花は死んでいるのだ。
もうどうしようもなく、救いようがないほどに、死んでいるのだ。
どうやったって元の日常は戻ってこない。
5人揃ったあの生徒会は、二度と元には戻らない。
完全無欠のハッピーエンドは既に失われている。今からどう足掻こうとも、かぐやたちは不可逆のマイナスを常に背負っていかなければならない。
ならば優勝を目指すべきか?
優勝して、元の日常を返してくださいと、そう願えばいいのか?
───本当に?
会長を、白銀御行を一度殺害した上で、そう言えと言うのか。
優勝して、元の日常を返してくださいと、そう願えばいいのか?
───本当に?
会長を、白銀御行を一度殺害した上で、そう言えと言うのか。
……結局のところ、答えなんか出るはずもなかった。
闘えばいいのか、逃げればいいのか、それとも仁愛とか正義とかを掲げて仲良しこよしで群れたらいいのか。どれが正解なのか分からない。
けれど、それでも湧き上がってくる感情はある。
闘えばいいのか、逃げればいいのか、それとも仁愛とか正義とかを掲げて仲良しこよしで群れたらいいのか。どれが正解なのか分からない。
けれど、それでも湧き上がってくる感情はある。
「会長……」
会いたいです、今すぐに。
情けない姿を見られても構わない。本当はそんなところあなたに見せたくはないのだけど、でもこんな時くらいはいいでしょう、だなんて。
ねえ、会長。
こんな汚い私とは違うあなたなら。
私の見る景色を変えてくれたあなたなら。
きっと強く立ち上がってくれてるだなんて、強く正しく私たちを導いてくれるだなんて。
そんなことを期待している私は、やっぱりあの頃と変わらない、打算と利己しかない氷のままなんでしょうか。
ねえ、会長。
私は卑しい、人間、ですか?
情けない姿を見られても構わない。本当はそんなところあなたに見せたくはないのだけど、でもこんな時くらいはいいでしょう、だなんて。
ねえ、会長。
こんな汚い私とは違うあなたなら。
私の見る景色を変えてくれたあなたなら。
きっと強く立ち上がってくれてるだなんて、強く正しく私たちを導いてくれるだなんて。
そんなことを期待している私は、やっぱりあの頃と変わらない、打算と利己しかない氷のままなんでしょうか。
ねえ、会長。
私は卑しい、人間、ですか?
四宮かぐやは、白く輝く月を見上げ、歩みを進める。
静寂が支配する世界にあって、ただ見上げる。そうすることしかできない。今だけは顔を上げておきたかった。
俯けば───
きっと、涙が落ちてしまうから。
静寂が支配する世界にあって、ただ見上げる。そうすることしかできない。今だけは顔を上げておきたかった。
俯けば───
きっと、涙が落ちてしまうから。
【C-7・森/1日目・深夜】
【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
[状態]:憔悴、混乱、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:決めかねている。
1:会長たちと合流したい。
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます
[状態]:憔悴、混乱、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:決めかねている。
1:会長たちと合流したい。
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます
| 前話 | お名前 | 次話 |
| Debut | 四宮かぐや | 素直じゃない私を |