たりないふたり ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
いったい、俺はなにをしているんだろう。
そう思わざるを得ない。思い続けざるを得ない。ことあるごとに思ってしまうのを止められない。
夜中に徒歩で砂漠横断なんぞやっているのがよりにもよって上杉風太郎であると、俺自身でさえなかなか受け入れ難い。もしかして別の誰かなんじゃないのか。
運動能力は切り捨てた。勉強以外に取り柄がない。体力勝負なんてもってのほか。賄いが出ないのならば、肉体労働なんて誰がやるものか。身体なんか動かさないほうがエネルギー消費が抑えられて、差し引きプラス。
それが俺のはずだ。
そう思わざるを得ない。思い続けざるを得ない。ことあるごとに思ってしまうのを止められない。
夜中に徒歩で砂漠横断なんぞやっているのがよりにもよって上杉風太郎であると、俺自身でさえなかなか受け入れ難い。もしかして別の誰かなんじゃないのか。
運動能力は切り捨てた。勉強以外に取り柄がない。体力勝負なんてもってのほか。賄いが出ないのならば、肉体労働なんて誰がやるものか。身体なんか動かさないほうがエネルギー消費が抑えられて、差し引きプラス。
それが俺のはずだ。
言わずと知れたことだが、やはり砂漠などいきなり歩くものではない。
正しい身体の動かし方を理解した上で、前もって念入りに準備をして、それから初めて挑戦するべきだ。
支給されていたバイクさえ、いまとなっては恨めしい。
かつて必要に駆られて二輪免許を取ったものの、砂漠の上など走れる自信はない。
とはいえ砂漠を抜けさえすればバイクで移動できるというのは、たしかな希望になっている。
正しい身体の動かし方を理解した上で、前もって念入りに準備をして、それから初めて挑戦するべきだ。
支給されていたバイクさえ、いまとなっては恨めしい。
かつて必要に駆られて二輪免許を取ったものの、砂漠の上など走れる自信はない。
とはいえ砂漠を抜けさえすればバイクで移動できるというのは、たしかな希望になっている。
そんなことより、なによりも最悪なのは靴だ。
学校指定のローファーはただでさえ運動用に作られていないし、砂上を歩くためにも作られていない。
どうしようもない。
本当にどうしようもない。
一歩進もうとするだけで足が沈み、砂を前に役割を果たせない厚くて硬い靴底(いやだいぶすり減っているが)が無様に安定性を失う。
はっきり言って、毎歩毎歩(こんな熟語存在するのか?)転びそうになっている始末だ。体力は余計に消耗するし、その割に進行ペースはあまりに悪い。
挙句、靴の隙間どころか履き口からもろに砂が入ってくる。
気持ちが悪い。気味が悪い。
生理的な嫌悪とは、まさしくこれを指すのだろう。
不快感が湧き上がってくるものの、いちいち靴から砂を出してやる気にもならない。
それこそ無駄だ。どんなに念入りに行ったところで、次の一歩でたちまち砂まみれになるのは目に見えている。
…………というか砂はあとで出すとして、靴自体のダメージは大丈夫なのか?
おいおいカンベンしてくれよ。どういう理屈なのか、学校指定のローファーはやたら高いんだぜ……。
だいたい、修学旅行中に靴をなくしたヤツなんて聞いたことがない。
学校から上限を定められた微かな所持金でわざわざ靴を買うなんて、そんな伝説は残したくない。
そんな伝説は残したくないし――それどころではない。
学校指定のローファーはただでさえ運動用に作られていないし、砂上を歩くためにも作られていない。
どうしようもない。
本当にどうしようもない。
一歩進もうとするだけで足が沈み、砂を前に役割を果たせない厚くて硬い靴底(いやだいぶすり減っているが)が無様に安定性を失う。
はっきり言って、毎歩毎歩(こんな熟語存在するのか?)転びそうになっている始末だ。体力は余計に消耗するし、その割に進行ペースはあまりに悪い。
挙句、靴の隙間どころか履き口からもろに砂が入ってくる。
気持ちが悪い。気味が悪い。
生理的な嫌悪とは、まさしくこれを指すのだろう。
不快感が湧き上がってくるものの、いちいち靴から砂を出してやる気にもならない。
それこそ無駄だ。どんなに念入りに行ったところで、次の一歩でたちまち砂まみれになるのは目に見えている。
…………というか砂はあとで出すとして、靴自体のダメージは大丈夫なのか?
おいおいカンベンしてくれよ。どういう理屈なのか、学校指定のローファーはやたら高いんだぜ……。
だいたい、修学旅行中に靴をなくしたヤツなんて聞いたことがない。
学校から上限を定められた微かな所持金でわざわざ靴を買うなんて、そんな伝説は残したくない。
そんな伝説は残したくないし――それどころではない。
なのに、なぜ、その上にこんな目に遭っているんだ。
どうして、こんな状況でわざわざ砂漠から急いで出ようとしているんだ。
どうして、こんな状況でわざわざ砂漠から急いで出ようとしているんだ。
「…………はっ」
思わず笑ってしまったせいで、ただでさえ乱れていた呼吸が完全に乱れた。
ちょうど大きな岩が転がっている地点だったのは、まだ都合がよかった。
岩に背中を預けて目を閉じ、呼吸を整えることに専念する。
ちょうど大きな岩が転がっている地点だったのは、まだ都合がよかった。
岩に背中を預けて目を閉じ、呼吸を整えることに専念する。
みっともない。
絶対に人に見せられない。
ましてや、アイツらには到底。
分かり切った問題を前に延々唸っている姿なんて、あの厄介な生徒たちにはとてもじゃないが。
絶対に人に見せられない。
ましてや、アイツらには到底。
分かり切った問題を前に延々唸っている姿なんて、あの厄介な生徒たちにはとてもじゃないが。
ああ、それにしても――
夜の砂漠はむしろ寒いと話では聞いていたし、実際に少し肌寒かったが、身体を動かしていたせいか少し汗ばんできている。
そりゃそうだよな。
動いていれば、身体は温まるだろう。当然、汗もかくだろうよ。
考えるまでもないことだ。
だから、考えたことがなかった。
なので、いまのいままで知らなかった。
夜の砂漠はむしろ寒いと話では聞いていたし、実際に少し肌寒かったが、身体を動かしていたせいか少し汗ばんできている。
そりゃそうだよな。
動いていれば、身体は温まるだろう。当然、汗もかくだろうよ。
考えるまでもないことだ。
だから、考えたことがなかった。
なので、いまのいままで知らなかった。
『あれ?』『上杉くん、久しぶり!』
ローファーのなかの砂が一気に増えたような、そんな錯覚を覚えた。
『おいおい、そんなにびっくりするなよ』『こっちこそびっくりしてるんだぜ? あの流れで一人で行くんだから』『まさかなんにも言わずお別れなんて』
声をかけられた。それはいい。
聞き覚えのある声だ。それもいい。
ただ、あまりにも気配がない。なさすぎる。
聞き覚えのある声だ。それもいい。
ただ、あまりにも気配がない。なさすぎる。
『おかしいなあ。さっきまでの笑顔はどこに行ったんだい?』『……なんだよ、見られたって顔すんなよ』
『見せたのは君のほうで』『こっちは見させられた側なんだぜ?』『喩えるなら君がBBで、僕が七十人だろ』
『見せたのは君のほうで』『こっちは見させられた側なんだぜ?』『喩えるなら君がBBで、僕が七十人だろ』
足音がしなかったのはいい。
アスファルトやタイルの上と比べて、砂上は足音があまり響かないことくらいさすがに理解している。
情けないことに、そこまで注意深く聞き耳を立てていた自信もない。余計なことを考えていたのは間違いない。
それはいい。
そんなことはいい。
問題なのは、その距離だ。
アスファルトやタイルの上と比べて、砂上は足音があまり響かないことくらいさすがに理解している。
情けないことに、そこまで注意深く聞き耳を立てていた自信もない。余計なことを考えていたのは間違いない。
それはいい。
そんなことはいい。
問題なのは、その距離だ。
『だから僕は悪くない』
おそるおそる目を開けてみると、声の通りにほんの目と鼻の先にいた。
先ほど別れたときと変わらない学ランと縁起の悪さを纏って――球磨川禊はこちらに悟られることなく、すぐそこまで来ていたのだ。
先ほど別れたときと変わらない学ランと縁起の悪さを纏って――球磨川禊はこちらに悟られることなく、すぐそこまで来ていたのだ。
『あは! この喩えなら、上杉くんの笑顔に当てはまるのはスプラッタ映像になっちゃうけどね!』
へらりと笑う球磨川に、俺は笑えなかった。
◇ ◇ ◇
『なんだ、そんなことか』『簡単なことだよ』『僕はむかし【僕の気配】を【なかったことにした】ことがあるんだ』
とりあえず尋ねてみると、球磨川はあっさりと違和感の正体を教えてくれた。
やはり、わからない問題に当たったときは素直に訊くに限る。
やはり、わからない問題に当たったときは素直に訊くに限る。
「なるほど。ということは、お前の……あの、例のアレは、一度『なかったことにした』ものは戻せないのか」
『まさしくそうだね』『いやぁ、上杉くんは呑み込みが早い』『スキルなんて知らない世界の住人なんて思えないよ』
「…………よせよ。そんなことない。お前が気づいてないだけで、こっちは相当混乱して」
『言われるまでもないや。だから来たんだからね』
『まさしくそうだね』『いやぁ、上杉くんは呑み込みが早い』『スキルなんて知らない世界の住人なんて思えないよ』
「…………よせよ。そんなことない。お前が気づいてないだけで、こっちは相当混乱して」
『言われるまでもないや。だから来たんだからね』
こちらが言い終えるのを待たず、球磨川はポケットから巨大な螺子を取り出す。
一度見たことがあるとはいえ、五百ミリのペットボトルほどのサイズの螺子を目の当たりにすると、どうしてもぎょっとしてしまう。
いったいなにを固定するための代物で、はたしてなんのために取り出したのだろうか。
一度見たことがあるとはいえ、五百ミリのペットボトルほどのサイズの螺子を目の当たりにすると、どうしてもぎょっとしてしまう。
いったいなにを固定するための代物で、はたしてなんのために取り出したのだろうか。
『こうするためだよ』
こちらの疑問に答えるように、球磨川は軽く手首のスナップだけで螺子を投げてみせた。
そうか、こうやって使う武器だったのか。初めて見た。
なんて暢気なことを思うよりもずっと早く、俺の右足の甲を突き刺さった螺子は、そのまま足裏まで貫通した。
そうか、こうやって使う武器だったのか。初めて見た。
なんて暢気なことを思うよりもずっと早く、俺の右足の甲を突き刺さった螺子は、そのまま足裏まで貫通した。
「いッて――――」
『はいはい、大嘘憑き』『悲鳴をなかったことにした』『おっと、あと足の怪我も』
「やたら高いローファーが!!」
『はいはい、じゃあそれもじゃあそれも』
「なかったことにする順番、完全に逆だろ!!」
『上杉くんこそ完全に逆だった気がするけどね』
『はいはい、大嘘憑き』『悲鳴をなかったことにした』『おっと、あと足の怪我も』
「やたら高いローファーが!!」
『はいはい、じゃあそれもじゃあそれも』
「なかったことにする順番、完全に逆だろ!!」
『上杉くんこそ完全に逆だった気がするけどね』
勝手に人の足を貫いておいて、球磨川は決して笑顔を絶やさない。
腹立たしかったがそれどころではないと、慌てて足元に視線を向けると、傷一つ、血痕一つ残っていない。
腹立たしかったがそれどころではないと、慌てて足元に視線を向けると、傷一つ、血痕一つ残っていない。
「よかった……。冷や汗かいたぜ。まだどれだけ歩かなきゃいけないと――」
いや待て。
なに、上から見ただけで満足しているんだ。
本当は靴を脱いだ上できちんと確認したいくらいだ。
そんな風に自分自身に指摘しようとしたところで、球磨川の呆れ声が浴びせられる。
なに、上から見ただけで満足しているんだ。
本当は靴を脱いだ上できちんと確認したいくらいだ。
そんな風に自分自身に指摘しようとしたところで、球磨川の呆れ声が浴びせられる。
『それくらいにしようぜ、上杉くん』『君、自分で思っている以上に混乱してるぜ』
『最初の、慌てて病院につれていこうとするところまではよかったけど』『ここまで来たら興覚めだ』
『言っちゃあ悪いけど』『空条承太郎にならともかく、球磨川禊に呆れられているようじゃもう終わりだぜ』
「…………は?」
『最初の、慌てて病院につれていこうとするところまではよかったけど』『ここまで来たら興覚めだ』
『言っちゃあ悪いけど』『空条承太郎にならともかく、球磨川禊に呆れられているようじゃもう終わりだぜ』
「…………は?」
なんてそんな間の抜けた声を上げながらだが、俺はようやく理解した。
間違っていた。なにもかも。
いきなり襲われたのだから、足の回復を確認するよりも先に逃げるべきだった。
いやそもそも――
超常的な能力の持ち主が殺し合いに乗り気でないのならば、同行を頼むべきだった。
目的地が違うのなら仕方がない、ではない。目的地が違うとしても頭を下げるべきだった。
そんな簡単なことさえもわからなかった。
自然にならば仕方ないと納得し、極めて普通に別れてしまった。
なにも自然ではなく、なにも普通ではない判断だ。
間違っていた。なにもかも。
いきなり襲われたのだから、足の回復を確認するよりも先に逃げるべきだった。
いやそもそも――
超常的な能力の持ち主が殺し合いに乗り気でないのならば、同行を頼むべきだった。
目的地が違うのなら仕方がない、ではない。目的地が違うとしても頭を下げるべきだった。
そんな簡単なことさえもわからなかった。
自然にならば仕方ないと納得し、極めて普通に別れてしまった。
なにも自然ではなく、なにも普通ではない判断だ。
俺がしっかりしないといけないと、そう誓ったはずの俺がしっかりしていなかった。
混乱していた。
混乱、していた。自覚していた以上に。
これが試験であれば、とても取り返しがつかないほどに。
いや、そもそもこんな喩えが出てくる時点で、未だに混乱している。
試験ではない。そんなものではない。そんなものでありえるはずがない。
最悪死に繋がる殺し合いなんて、試験などで喩えられるような事態ではない。
混乱、していた。自覚していた以上に。
これが試験であれば、とても取り返しがつかないほどに。
いや、そもそもこんな喩えが出てくる時点で、未だに混乱している。
試験ではない。そんなものではない。そんなものでありえるはずがない。
最悪死に繋がる殺し合いなんて、試験などで喩えられるような事態ではない。
それでもまだ遅いということはないはずだ。
砂漠からの脱出さえままならない俺をわざわざ追いかけて、せっかく忠告しに来てくれたのだ。
正直に言えば印象はよくない。
だが、あの日からあのバイトを始める日まで、家族以外の人間関係をすべて断ち切ってきた俺だ。
初対面なのに馴れ馴れしいヤツに意図せず悪印象を抱いてしまう程度のこと、とっくに自分の悪癖として理解している。
まずは、球磨川に頭を下げて、感謝を示そう。
そうしてから同行を依頼しよう。
球磨川の目的地をわかった上で、それでもこちらについてきてほしいと。
砂漠からの脱出さえままならない俺をわざわざ追いかけて、せっかく忠告しに来てくれたのだ。
正直に言えば印象はよくない。
だが、あの日からあのバイトを始める日まで、家族以外の人間関係をすべて断ち切ってきた俺だ。
初対面なのに馴れ馴れしいヤツに意図せず悪印象を抱いてしまう程度のこと、とっくに自分の悪癖として理解している。
まずは、球磨川に頭を下げて、感謝を示そう。
そうしてから同行を依頼しよう。
球磨川の目的地をわかった上で、それでもこちらについてきてほしいと。
「……悪かった、球磨川。ありがとう」
『…………?』
『…………?』
歩み寄って右手を差し出すと、球磨川はきょとんと眼を丸くする。
予期せぬリアクションに混乱し、こちらが読み取った意図を口に出して確認してみる。
予期せぬリアクションに混乱し、こちらが読み取った意図を口に出して確認してみる。
『えっ? 全然違うけど? 心配? 同行? ないない』
返ってきたのは、赤点宣告だった。
ここに来て、まさか試験の喩えを再開するハメになるとは思ってもみない。
ここに来て、まさか試験の喩えを再開するハメになるとは思ってもみない。
『上杉くん、僕はね』『この【ゲーム】が気に食わないだけなんだよ』『だってそうじゃない』『こんなルール――』
球磨川がずっと浮かべていた軽薄な笑みが消え、暗い瞳がさらに光度を落としたように感じた。
『――――強いヤツが勝つに決まってる』
同年代の男子どころか女子よりも体力的に弱い俺からすると、まったくその通りとしか言いようがない。
もとより殺し合えという言葉に従うつもりはないが、にしたって俺のような無力な人間は強者に打つ手などない。
もとより殺し合えという言葉に従うつもりはないが、にしたって俺のような無力な人間は強者に打つ手などない。
「それは……そうだ。俺も同意見だ」
『だよね、やってらんないよね』『だから考えてたんだよ』『この、強者が弱者を踏み台にして勝つゲームを台無しにする方法を』
『いまの落ち着いた上杉くんならわかるんじゃないかな』『このゲーム、誰も来ないようなところで縮こまって微動だにしないのが一番だって』
『だよね、やってらんないよね』『だから考えてたんだよ』『この、強者が弱者を踏み台にして勝つゲームを台無しにする方法を』
『いまの落ち着いた上杉くんならわかるんじゃないかな』『このゲーム、誰も来ないようなところで縮こまって微動だにしないのが一番だって』
球磨川は話す合間によそ見をしながら螺子を飛ばし、それでも当然俺には避けられない。気づいたときには刺さっていた。
螺子はリュックサックや制服のたわんだ部分だけを的確に貫き、俺は背中を預けていた岩にそのまま縫い付けられる形となった。
螺子はリュックサックや制服のたわんだ部分だけを的確に貫き、俺は背中を預けていた岩にそのまま縫い付けられる形となった。
『だからこうするのさ』『これで動ける強いヤツから死ぬ』
まずい。
動けない。
完全に固定されている。
服やリュックを破る勢いで力を籠めればと考えたものの、足場が砂で靴はローファーだ。
少し踏み込もうとしただけで足が砂に沈んでしまい、とてもじゃないが力の籠めようがない。
動けない。
完全に固定されている。
服やリュックを破る勢いで力を籠めればと考えたものの、足場が砂で靴はローファーだ。
少し踏み込もうとしただけで足が砂に沈んでしまい、とてもじゃないが力の籠めようがない。
『じゃあね、上杉くん』『砂漠の岩陰なんか、わざわざ誰も探しに来ないだろーぜ』
「まっ、待て! おい! 球磨川! 外せ! なに考えてんだ!」
『おかしなこと言うなよ。全部話してあげたのに』
「冗談じゃない……! こんなところで動けなくなってる場合じゃないぞ……!」
『冗談じゃないからね』
「まっ、待て! おい! 球磨川! 外せ! なに考えてんだ!」
『おかしなこと言うなよ。全部話してあげたのに』
「冗談じゃない……! こんなところで動けなくなってる場合じゃないぞ……!」
『冗談じゃないからね』
いつの間にやら蘇っていた軽薄な笑みを見せつけてから、球磨川はこちらに背を向けた。
バイバイと自由をひけらかすように右手を大きく振りながらも、一切振り返ることなく歩みを進めている。
砂上ではさして響かないはずの足音をわざとらしく鳴らして、同じくわざとらしく妙にゆっくり歩いているが、たしかにその背は少しずつ小さくなっていく。
バイバイと自由をひけらかすように右手を大きく振りながらも、一切振り返ることなく歩みを進めている。
砂上ではさして響かないはずの足音をわざとらしく鳴らして、同じくわざとらしく妙にゆっくり歩いているが、たしかにその背は少しずつ小さくなっていく。
「いい加減にしてくれ! お前がなにをしたいかなんて関係ない! 俺には行きたいところがあるって言っただろう!」
『それだぜ、上杉くん』
「…………なに?」
『なにがおかしいって、それがおかしいんだよ』
『それだぜ、上杉くん』
「…………なに?」
『なにがおかしいって、それがおかしいんだよ』
おかしい。
おかしい?
おかしい……?
いや、なにも――おかしくはない。
球磨川がなにを言っているのか、よりいっそうわからなくなった。
おかしい?
おかしい……?
いや、なにも――おかしくはない。
球磨川がなにを言っているのか、よりいっそうわからなくなった。
『君は見当違いなことを言っていたけれどね』
『逃げずに貫かれた足の確認をしたのも』『目的地が違うなら仕方ないと納得したのも』『不思議な力を持ってる僕を仲間にしなかったのも』
『そんなの全然普通だよ』『予期せぬ事態に巻き込まれた人が陥る範疇から、なにもはみ出していない』『なんにも』『なんにも』『なんにもさ』
『特に普通なのが、僕を仲間にしなかったってヤツだね!』『それこそ普通』『普通も、異常も、特別も、みんな揃って僕なんか仲間にしない。するはずがない』
『そんな物好き、まあ一人くらいしか知らない』『おっと、まあそれはいいとして』『閑話休題』『…………って、わざわざ口に出して言うヤツくらい珍しいってことさ』
『逃げずに貫かれた足の確認をしたのも』『目的地が違うなら仕方ないと納得したのも』『不思議な力を持ってる僕を仲間にしなかったのも』
『そんなの全然普通だよ』『予期せぬ事態に巻き込まれた人が陥る範疇から、なにもはみ出していない』『なんにも』『なんにも』『なんにもさ』
『特に普通なのが、僕を仲間にしなかったってヤツだね!』『それこそ普通』『普通も、異常も、特別も、みんな揃って僕なんか仲間にしない。するはずがない』
『そんな物好き、まあ一人くらいしか知らない』『おっと、まあそれはいいとして』『閑話休題』『…………って、わざわざ口に出して言うヤツくらい珍しいってことさ』
話が見えない。
あまりにも激しく、話が脱線している気がする。
あまりにも激しく、話が脱線している気がする。
「そんなことより――」
『そんなことじゃないぜ』
『そんなことじゃないぜ』
ようやく振り返って、球磨川はおどけるように手を広げてみせた。
顔面に張り付いているのはへらへらとした軽薄な笑顔ではなく、こちらを射抜くような酷薄な笑顔。
顔面に張り付いているのはへらへらとした軽薄な笑顔ではなく、こちらを射抜くような酷薄な笑顔。
『そんなことじゃあない』『そんなこと、じゃあないんだぜ』
『僕がずっとおかしいって言ってるのは、他のことを【そんなこと】に追いやるくらい、君がどうしてもある場所に行きたがっていることのほうさ』
『だいたいなんだい、PENTAGONって?』『四次元殺法コンビになら会いたいけど』『地図を見たけどただのマンションじゃない』『無理して行くほどのところじゃあない』
『僕がずっとおかしいって言ってるのは、他のことを【そんなこと】に追いやるくらい、君がどうしてもある場所に行きたがっていることのほうさ』
『だいたいなんだい、PENTAGONって?』『四次元殺法コンビになら会いたいけど』『地図を見たけどただのマンションじゃない』『無理して行くほどのところじゃあない』
『ましてや君にとって――弱みであり弱点なんだったら、なおいっそうこだわる理由がわからない』
『僕が箱庭総合病院を目指すのは、強い子が来るかもしれないからだけど』『君のほうはわからない』
『あれ? 言ってなかったっけ?』『僕はとても弱い人間だからね』『弱さを知り尽くした人間だからね』
『人の弱みくらい』『人の弱点くらい』『突かれたくない箇所くらい』『ちょっと話していれば、自然にわかるのさ』
『あれ? 言ってなかったっけ?』『僕はとても弱い人間だからね』『弱さを知り尽くした人間だからね』
『人の弱みくらい』『人の弱点くらい』『突かれたくない箇所くらい』『ちょっと話していれば、自然にわかるのさ』
寒い。
背筋を冷たいものが走り抜ける。
歯の根が揺れて、奇妙な音を奏でる。
抗うことができずに、ぶるりと身体が震えた。
岩に縫い付けられてしまっているせいで確認できないが、おそらく鳥肌が立っていることだろう。
背筋を冷たいものが走り抜ける。
歯の根が揺れて、奇妙な音を奏でる。
抗うことができずに、ぶるりと身体が震えた。
岩に縫い付けられてしまっているせいで確認できないが、おそらく鳥肌が立っていることだろう。
球磨川の率直な意見があまりにも真っ当に正解で、俺の心を先ほどの螺子のように貫いてしまったから――――ではない。
断じて違う。
そうではない。
完全なる不正解だ。
あまりに間違えている。
だったらどうすればいい?
なにもわかっていないヤツに。
完全に間違ってしまっているヤツに。
俺が知っていることをまだ知らないヤツに、俺はどうしたらいい?
そうではない。
完全なる不正解だ。
あまりに間違えている。
だったらどうすればいい?
なにもわかっていないヤツに。
完全に間違ってしまっているヤツに。
俺が知っていることをまだ知らないヤツに、俺はどうしたらいい?
「教えてやるよ、球磨川」
俺は知っている。
俺は――教わっている。
俺は――教わっている。
「夜の砂漠はむしろ寒いって、そんな話はよく聞くけどな。
身体を動かすと当然温まって汗ばんでくるし、その状態で止まってしばらく動かないと今度は汗をかいた分だけ冷えるんだぜ。震えるくらいにな」
『…………?』『上杉くん、そんなことじゃなくて――』
「そんなことじゃない。俺があそこを目指すのはこれが理由だ。これをアイツらに教えてやるんだ」
身体を動かすと当然温まって汗ばんでくるし、その状態で止まってしばらく動かないと今度は汗をかいた分だけ冷えるんだぜ。震えるくらいにな」
『…………?』『上杉くん、そんなことじゃなくて――』
「そんなことじゃない。俺があそこを目指すのはこれが理由だ。これをアイツらに教えてやるんだ」
球磨川が大げさに首を傾げる。
しかしその演技がかった所作の寸前、僅かに目を見開いたのを見逃していない。
しかしその演技がかった所作の寸前、僅かに目を見開いたのを見逃していない。
「知った気になってたことってあるよな。なんにも知らないクセに、情報だけ仕入れてよ。
アイツらに勉強を教える一方で、俺は知った気になっていたんだってことを教わっていたんだよ」
アイツらに勉強を教える一方で、俺は知った気になっていたんだってことを教わっていたんだよ」
実際のところ、なにも考えていなかった。
アイツらに会ってどうするのかなんて、なにひとつ考えていなかった。
アイツらに会ってどうするのかなんて、なにひとつ考えていなかった。
「だから俺はあそこに行く。早く拘束を外せ。
アイツらは弱みでも弱点でもないし、百歩譲ってこの殺し合いにおいてだけはそうなんだとしても、でも行くんだよ」
アイツらは弱みでも弱点でもないし、百歩譲ってこの殺し合いにおいてだけはそうなんだとしても、でも行くんだよ」
混乱していたのは事実だ。
死にたくはないし、誰も死んでほしくない。
殺し合いはしたくないし、誰にも殺されたくはない。
あのBBとかいう女を止めようにも、どうしたらいいのか皆目見当がつかない。
運動はできないし、頭がいいと言っても学生レベルに過ぎないし、球磨川のような奇妙な能力も持っていない。
だとしても――弱いからといって、磔にされる謂れはない。
死にたくはないし、誰も死んでほしくない。
殺し合いはしたくないし、誰にも殺されたくはない。
あのBBとかいう女を止めようにも、どうしたらいいのか皆目見当がつかない。
運動はできないし、頭がいいと言っても学生レベルに過ぎないし、球磨川のような奇妙な能力も持っていない。
だとしても――弱いからといって、磔にされる謂れはない。
『…………まいったね』『こうなってくると、計画が変わってくる』
『強い子が来るかもしれない病院よりも』『君みたいなヤツが、全部承知でそれでも動こうとするほうが気になってくるぜ』
『どうしても、ね』『まったく嫌な性分だよ』『……となると、結局こういうことになるのかな』『こう言うことになるのかな』
『強い子が来るかもしれない病院よりも』『君みたいなヤツが、全部承知でそれでも動こうとするほうが気になってくるぜ』
『どうしても、ね』『まったく嫌な性分だよ』『……となると、結局こういうことになるのかな』『こう言うことになるのかな』
球磨川が頷くと同時に、身体を固定していた螺子が消える。
『――――また、勝てなかった』
へらりと笑う球磨川に、俺は笑い返してやった。
【C-8・砂漠/1日目・黎明】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。
【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。砂漠から出てバイクによる移動計画中。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。砂漠から出てバイクによる移動計画中。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。
【支給品紹介】
【CBR400R@現実】
上杉風太郎に支給された。
バイク。自動二輪。世界のホンダ。
400ccなので普通二輪免許で乗れる。
たかが400cc、そう思ってないですか?
上杉風太郎に支給された。
バイク。自動二輪。世界のホンダ。
400ccなので普通二輪免許で乗れる。
たかが400cc、そう思ってないですか?
◇ ◇ ◇
「というか、だ。
お前の弱いヤツを誰も来ないところで動けなくする計画だけどな、アレ、根本的な欠陥があるだろ。
俺みたいな人間を砂漠に放置して、そのまま朝が来て、それでも誰も来ないまま昼になってみろ。それこそ死んでたぞ。
誰も来ないところで微動だにしないほうが生き残るなんて、そんな話じゃない。誰も来ないところで微動だにしないまま死ぬとこだったぜ」
お前の弱いヤツを誰も来ないところで動けなくする計画だけどな、アレ、根本的な欠陥があるだろ。
俺みたいな人間を砂漠に放置して、そのまま朝が来て、それでも誰も来ないまま昼になってみろ。それこそ死んでたぞ。
誰も来ないところで微動だにしないほうが生き残るなんて、そんな話じゃない。誰も来ないところで微動だにしないまま死ぬとこだったぜ」
『――ほんとだね!』『こいつはびっくりだ!』
「お前なりに思うところはあったんだろうが、やっぱりアレはどう考えても無理がある計画だろうよ」
『そうだね、上杉くん!』『いや、本当に!』『僕は、いま心から驚いているんだ!』『まさかそんな指摘を受けるとは!』
「…………んん? いや、そこまで言うほどのことか?」
『おいおい謙遜するんじゃあねーぜ、上杉くん!』『君くらいしかいないぜ、この僕にこのセリフを言わせるヤツなんて!』『胸を張ってくれよな!』
『いや、本当に!』『言われるのならまだしも言う機会なんて、これまでの僕の人生で一度としてなかったんだ!』『すごいなあ、上杉くんは』『すごい!』『すごいよ!』
『いや、本当に!』『言われるのならまだしも言う機会なんて、これまでの僕の人生で一度としてなかったんだ!』『すごいなあ、上杉くんは』『すごい!』『すごいよ!』
「言うってなにをだよ」
『それはね、このセリフだよ』『上杉くん、デリカシーなーーーい』
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| 上杉風太郎 |