調和は残酷である。世界樹は全ての調和を司る。
世界樹は審判者である。調和を脅かすと審判したのなら、
その可能性を摘み取るだろう。例え自分を救った英雄であっても…

世界樹は審判を務める役をこの世に呼び戻すでしょう





王都を治めるファタジニア王ディアスは今日も眼下に広がる街を静かに眺めていた。若くして民衆の王となった彼は知性に優れ、かつ優れた政治手腕を持っていた。

王は庭の大半を農耕用の畑や果樹園にし、ここに貧民街に住む者を雇用し、かつ忠義の意思がある者は兵として徴用した。
こうして給料を得ることが出来た貧者達は次第に生活の質も改善し、貧民街は徐々に治安と景観が改善してきたのである。
そして季節がめぐれば、庭は豊富な農作物で溢れたのだ。

代々受け継いできた庭を提供する大胆さ、そして王の懐の広さはこの政策で一気に広まり、絶大な支持を得た。
王が真剣に国の事を想っていることは確かであり、人情味にも溢れていた
今日も日課である街の見回りをし、民と雑談に耽ることもあれば、改善すべき箇所を見つけて解決策を考えるのであった。
そして、肩の凝る政務が一段落したので、一休みにベランダに出た。

「美しいな…」
季節によって街の移り変わる様はまるで生命の循環のようであった。

生きているこの街を、せめて私の目が黒い内は保っていきたい。そして後に続く者が私の意思を受け継いでくれれば、この世界は永遠に生き続けるだろう…

「いいえ・・・王よ、世界に危機が迫っています」
突然、頭に直接語りかけるような声が響いた

「!?何者だ!」
王はすぐに剣を抜き王室の方へ振り向くが、誰もいない

「あなたの中に直接語りかけています…賢王ディアス。私は世界樹……今、この世界に黄金の竜を目覚めさせようとする者がいます」
「黄金の竜…?」
「黄金の竜は通称に過ぎません、強大な意思の力を捧げるに相応しい形が「竜」なのですから、本来の姿は次元に漂う無形のものです。しかし、捧げる意思の力によっては弱くも強くもあるでしょう」

「!まさかバンノールに現れた竜というのは…」
「その通りです」
「だが、その時は機械木偶人形が退治したという知らせがあったな」
「人間が呼び出す竜はまがい物でしょう。しかし、自らの正体に気づいた彼と、獣の心をもつ男が合わされば、かつてカーディスが呼び出した以上に、強大な黄金の竜があらわれます。あの竜人は…二人が次元に近づく事で黄金の意思が発動することを知りません」

「カーディス…お伽話にある消えた国の王か…彼は竜神を呼んで影の大国を打ち倒したとあるが」
「彼もまたあなたと同じように素晴らしい王でした。彼の国の守りたいという意思は本物であり、その意志の強さは竜を呼び出すに相応しいものでした。が、かの竜から発せられる力は影の大国だけでなく、カーディスの国ですらも消滅させたのです」

「な…に…」
「世界樹は、全ての調和を守らなければなりません。今、生物が生物らしく、人が人らしい生活を送れているのは、太陽と夜の争いがあってこそなのです。あの戦いで昼と夜が生まれ、生物にとって理想的な環境となったのです。あれから長い長い時を経て、勢力の増減は夏至と冬至をもたらし、四季を生み出しました。それが当たり前になった彼らにとって、太陽も夜も生きるために欠かせないものになりました」

「私達が眠りにつき体を休められるのは、忌まわしき帝王の存在あってのものなのか…」
「もし、太陽が殺されれば人は明けない夜に狂い、夜の帝王が謳歌し、もし彼が朽ちれば、灼熱が生物の命を焦がし、天界が支配するでしょう。
そして、黄金の竜は全てを破壊する存在です。何としても阻止しなければなりません!しかし、私の身はバンノールで木偶人形のエネルギーに吸い取られ、残された力もあと僅かしか残っていません…」

「私が民の統治に顔を向けている間に…そのような大いなる大事が…なんて見識が狭かったのだろう。しかし、私は情けない事に、竜を呼び出す者の心当たりも、手段も思い浮かばぬ…」

「王よ、本当にあなたが民を護りたいのであれば、その意思をこの4枚の葉に捧げるのです!」

そうして、風に吹かれて4枚の若々しい葉が舞い降りてきた。強い生命の力を王は感じ取ることが出来た。
「これは…世界樹の葉か?」

「ここに世界を守る、選ばれし4人の騎士を召喚します。貫きの騎士、双剣の騎士、湖の騎士、次元の騎士…
古に神を殺す剣を使った今、私に残された4つの剣です。彼らが、世界を守るために竜を目覚めさせん者と竜人を打ち払い、次元に迷い込んだ者を元の世界へ返すでしょう…」

王は、段々世界樹の声が弱くなっていくのが分かっていた。果たさねばならぬ使命を実行しなければ…

「私は、生きているこの街を、そして命に溢れたこの世界を護りたい。そして、世界樹、あなたも救ってみせる」
力強い返答に、世界樹が安堵したかのように
「もう残された時間はそう多くはありません…この世界を…頼みます…」

頭に響いていた声が止み、王の前には4枚の葉が残された。

王は静かに詠唱を始めた。何を唱えればいいか、頭に既に流し込まれていた。

青銀の鎧に身を纏いし、すべてを貫く騎士、スフェンエル!
双剣に舞う黒き鎧の騎士、ビヨール!
深淵を歩き狼を従えし騎士、アルトリウス!
次元を旅し魔法の衣を持つ騎士、エスネ!

世界を護りし4人の騎士よ、世界樹の意思に応え顕現せすべし!

世界樹の葉が強く光り、それと同時に王から何かが吸い取られていくのを感じた
「ぐっ・・・!」
命に王の豊かな人間性が吹き込まれ、4人の騎士が姿を表した

「おお・・・!ここが現世か!呼び出されるのは久しぶりかな!」
はっはっはと澄んだ笑いをするのは、全身を青銀の鎧で包まれ、いかにも中世の騎士のイメージがしっかり当てはまる貫きの騎士スフェンエル。甲冑でしっかり包まれているので顔がどういうものかは分からない。
彼は竜を倒した初の人であり、英雄として崇められている。

「ぐぉー・・・Zzz・・・」
豪快に眠っているのは、がっしりとした黒い鎧に身を包んだ双剣の騎士ビヨール。髭がぼっさぼさであるが、不思議と頼れる印象を放っている。
かつて大国ボーレタリアが影の勢力に侵攻された時、唯一死地を生き残り母国の滅亡を知らしめた人物である。

「問おう、あなたが私のマスターか?」
二人に比べやや背丈は低いが、輝く髪色を持ち、凛とした佇まいをしているのは湖の騎士アルトリウス。どこかで聞いたような言葉だと王は思ふ。確か彼女は深淵の契約をして4人の僭王を封印した、狼を従える騎士だったはずだ。


「アルトリウス、ペットの大狼はいないの?」
4人の中で最も最年少で、鎧らしい鎧も無く白いローブに身を包んだ彼は、次元を操れる騎士エスネ
剣もなく、鎧も無い彼に騎士という言葉はふさわしくないように思えた。歴史の通りならば彼は偉大な魔法使いの一人であり、短命で儚い最後だったと聞くが…おそらく世界樹にとって騎士はもっと広義的な意味らしい。


「シフを呼び出す事が叶わないほど、大樹が弱っているのでしょう」
「おい起きろビヨール」
ガコッと鎧の足でビヨールの頭を小突いたスフェンエル。

「Zzz…ん?おお、そうかそうか、呼び出されたか!我を呼び出した王よ!我こそは双剣のビヨール!
まぁワシらにかかれば世界の危機どころか黄金の竜ですら倒してしまうがな!ガッハッハ!」

「スフェンエル…ビヨール…アルトリウス…エスネ…どれも聞いたことのある歴史の英雄だ…特にスフェンエルは私の王国の学院の一つの名前だからな…」

王は過去の英雄が今再び生を受けてこの世に顕現したことに我ながら感動を感じていた。

スフェンエルは静かに王に申し上げる。
「王よ、世界樹の命により、少しの間ながら再びこの世に生を受けることを許されました」
「だがワシらを従えるのは王だからな、ワシらを動かすためには」
「あなたの命令が必要です。」
「僕達が任務を果たした時、再び輪廻の輪に還ることになるけど、世界を守るためにこの身を捧げましょう」

4騎士が王の元に跪く。王は世界の命運は彼らにかかっていることは十分に理解していた。
「…世界樹に選ばれし4つの剣に命令する。世界を脅かさんとする黄金の竜の復活を阻止しろ。これは王直々の勅令である!」
今ここに、王の命令が発せられた。4騎士は深々と頭を下げた…
王室のドアが勢いよく開き、衛兵が飛び出してきた

「た、たいへんです!王都に謎の魔女の襲撃を受けました!」
衛兵は見慣れない4騎士に目をぎょっとさせたものの、興味より現在の危険を伝える任の方が勝っていた

「何!?…すぐに魔導兵を向かわせろ!街の住人は城の庭まで避難誘導するのだ!」
「はっ!」
衛兵はこの騎士は何ですかと質問しようと思ったものの、すぐに的確な指示を出されたので急いで王室を出ていった。

「なるほど、これはちょうどいい機会です。我らの力を、一部だけでも王に証明しましょう」
「おおそれはいいのう!久しぶりの召喚で身体が鈍ってたところだからな!」
スフェンエルの提案にビヨールが同意する。しかしアルトリウスは少し不服そうに
「お二方、こうしている間にも彼らが竜を目覚めさせようとしているのですよ?全員で行く余裕があるとはとても思えない」
「いや、どうやら4人がかりでないとなかなかキツそうだよ・・・どうやら相手はただの魔女ではないみたい」
エスネの少年らしい顔つきが険しくなる。


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  • 9話の前半部分です -- さいたま (2012-07-14 02:02:32)
  • ヒメアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! -- 大兎 (2012-07-14 02:34:14)
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最終更新:2012年07月14日 02:34