そして役者はそれぞれの舞台へ
「鍵となる、世界樹の苗をとってきて欲しいんだ」
「へぇ…大役っぽくていいじゃん」
「世界樹にも“苗”があるの!?すごぉおおおおおい!」
すっかり浮かれ気分のシアが両手をばたばたさせながら言う。ノアも、まんざらではなさそうだ。
“始まりの”世界樹とは、その名の通り今この世界にある全ての世界樹の大本だと言われているものだ。
世界の中心にあるとか、世界樹と認識するのも困難な程に巨大だとか様々な伝承が存在するが、実際にそれを発見したという報告は無い。遙か昔に失われただとか、次元の狭間に隠れているだとか、初めからそんなものは無かっただの言われている。
「ああそうさ。世界樹だって、初めからそこにある訳じゃない……勿論、ボク達も初めは何も知らなかったんだけどね。」
「だが待ってくれ。世界樹と言っても、それは常に“樹”の形をしている訳じゃない。中には金属質の塔だってある。なのに“苗”とは一体……」
「その辺の説明も必要ですね。だけど、今は時間がない。その話は道中、この子から聞いて下さい」
そう言うと
イリヤは中空に指を踊らせ、周囲のマナを集めていく。色とりどりのマナが一所に集まっていく様子は、つい先程見たばかりでも見取れてしまう。
やがてマナのかたまりがバスケットボール大になると、
「エル エルエルト トレス エルミレ」
何やら呪文を唱え、マナのかたまりに口付けをするイリヤ。
すると、そこに体長20cm程のイリヤにそっくりな何かが生まれる。
外見はまさに小さくしたイリヤそのものだったが、何故か服を着ていない。
いや、正確には着ているのだが…、より正確に言えば、「履いている」だろう。
小さなイリヤは、淡い水色に煌めくふんどしと黒のニーハイソックスだけという際どい服装だった。
「この子を案内役に付けます。さぁ、行って下さい」
色んな意味でぽかんとするはかせ。
ノアとシアは、すげぇええええ!と言って喜んでいる。もはやすっかり遠足気分だ。
「い、いったいどういう原理で…そもそも、その格好は……」
息を荒げながら小さいイリヤを見つめるばかりで中々行こうとしないはかせに、イリヤはため息をつき、
「時間が無いので簡単な説明だけ。この子は見ての通り、ボクの分身。この子が見ているものはボクにも見えるし、この子に話し掛ければボクに声が届く。間に合わせなので戦闘能力ははないけれど、その分長く持続するようにしてあるから安心して」
と、一気にまくし立てた。
「つまり手を出したらバレるよ」
びくっ、とはかせの体が跳ねる。
「と、言う訳です!ささっ、行きますよー!」
そんなやりとりを無視し、イリヤの言葉を継ぐように。小さなイリヤがくるくると飛び回りながら言う。どうやら、本体より少し明るい性格のようだ。ふんどしがひらひらと舞うのが可愛らしい。
上半身裸だが、男の娘なので問題ない。
「じゃあ、行って」
「はいはーい!」
イリヤの指示を受け、小さなイリヤが彼方へと飛んでゆく。
「「待てぇえええええ!」」
ノアとシアが夢中でそれを追う。
「あ!こ、こら!待ちなさい!」
そしてはかせもそれを追っていき。
「……………」
深淵には、ガル、イリヤ、
ユージロー、朱音の4人だけが残った。
「あー、えー…と」
3人が去って少し。
「イリヤ、お前もしかして弱くなった…?」
と、ガルが言う。
「失礼だなぁガルくん。ああやった方が、“それっぽい”でしょ?あれぐらいの分身、本当ならぱぱっと出せちゃうさ」
少年の姿のイリヤは、胸を張って誇らしげに言う。
しかし、少し元気を無くした声で、
「…まぁ、マナの力は弱くなったよ。昔よりね」
と、言った。
「あまり湿っぽくはしたくなかったけど、やっぱりあれから長い時間が経ったんだ。世界の仕組みだって大きく変わった。そりゃあ根幹に関わる事は変わってないけど……少し外に出れば、君は世界の変化に驚くと思う」
喋るうち、彼の表情は少しずつ真剣なものに変わっていく。
「分身を作るにしても、かつては「ボクの力」を込める必要は無かった。周囲のマナを自動的に吸収する事で、半永久的に活動させる事が出来たからね。でも、もう当時ほど、世界にマナは満ちていない」
「…………あぁ」
ガルは、棺を見つめる。
昔を懐かしむように。
「君は獣人だからか、無意識の内にマナの力を利用していたよね。でも、マナは減った。発達した科学が、結果的にマナを減らしてしまった。だから、かつてのようには動けないかもしれない」
ガルは頭をかくだけで。
「そんな気はしてたよ。でもまあ、なんとかなるんじゃないかな」
あっけらかんと言い放つ。
その姿を見て、イリヤは少し声を荒げる。
「そんな、適当な…!」
その顔には、怒りの色も浮かんでいた。
「でも、やるしかない。……そうだろ?イリヤ」
「あ………」
イリヤの頭の上にぽんと手を乗せ、くしゃくしゃと髪を撫でるガル。
「…う、うん」
これをやられると弱い。イリヤは、大人しくなってしまう。
「あん時の仲間はもういないけどよ…こうやって起きてきて、お前がいる。ならなんとかなるだろ」
「………えへへ」
イリヤはうつむいたまま、嬉しそうにはにかんだ。
こほん、と咳払いをしてから、
「…さて本題に入ろうか、ガルくん」
まだ少し頬を赤らめたイリヤが言う。
「ああ、いいぞ。前置きが長くなったな」
「ちょっと休憩するかい?」
今まで喋っていなかったユージローが急に反応する。
「きゅ、“休憩”って、やっぱり二人はそういう関係……」
「ちょっと黙ってなさい、ユージロー」
瞬間、朱音の裏拳が炸裂する。
「へぶっ!?」
口から若干の体液を散らしノックダウンするユージロー。
「い、痛い…痛いよぉ……」
とうめいているが、今はユージローよりも優先する事がある。
「…コントはそれぐらいにしてほしいな。まずボク達の現状について、説明しておく」
イリヤが、周囲に次々と真紅の魔法陣を展開させながら話し始める。
「ボク達の第一優先事項は、フランツ・ジークフリートと、闇の世界の仲間達を再封印する事だ。それはいいね?」
「ああ、いいぞ」
ガルが頷く。
「うん。もう、
ファジタニアの世界樹は殆ど機能していない。どこぞのマッドサイエンティストがモビルスーツの材料にしちゃったからね。だから、新しい“世界樹”で、再度封印を図る」
説明しながらも、魔法陣は着々と展開してゆく。
深淵に、真紅の魔法陣が広がっていく。
「そのための“苗なのね…?」
「そう。まあ、“苗”と言っても一般的に言う苗の形をしている訳じゃない。もっと根源に近いものさ。ファジタニアの世界樹を再復活させる為の肥料みたいなものだと思った方がいい。鍵と言うのはそういう意味だ。封印の鍵と言う意味も勿論あるけど。まあま、詳しい説明は省くよ」
再び封印だ、再び復活だ……イリヤの話を聞くうち、ガルにはこれが、かつての繰り返しのように思えた。
黄金の竜。フランツ・ジークフリート。こうなった時に備えての事だったが、いつまで経っても俺は「そういう存在」なのか…と、少し複雑な気持ちになる。
イリヤの魔法陣は増殖を続ける。
深淵は紅に満ちていく。
「黄金の竜もフランツ・ジークフリートも、根源は同じ≪害なるもの≫だ。考えてみるといい、あの時……黄金の竜が現れ世界樹が枯れ、そして結果的にフランツが生まれた。両者は、そういう意味で同一だ。だから世界樹を鍵として封印を施せば、全ての≪害なるもの≫は彼方へと消え失せる」
「黄金の竜」と「フランツ」の両者が同一とそう聞いて、ガルは先刻の謎の声が言っていた事を思い出す
「なぁ、イリヤ。眠っている間にたまに聞こえる声が…あー…【記憶】って言ってたから
【記憶】さんでいいか。【記憶】さんも同じような事を言ってたんだが、アイツは一体誰なんだ?」
その言葉を聞いて、イリヤは目を大きく見開いてガルを見る。
「お?おおお?」
イリヤは魔法陣を展開する手を止め、ガルの顔を下から覗き込むように見つめる。
「おおおお?」
「な、何よ?」
「その言い方だと、退屈しなかったみたいだね。ふふふ、よかったよかった。」
なんだかとっても嬉しそうだ。
「ふふふ、って…何か知ってるのか?」
「ふ ふふふ」
笑うだけで、イリヤは何も答えない。
その姿を見ていて、
「ま、まさか、お前…!」
ガルは何かに気付いた。気付いてしまった。
「そう、ご名答!あれはボクだよ。ガルくんが退屈しないよう、たまに棺に干渉してちょっかい出してたって訳。面白かったでしょ?」
「おま……まじで?」
ガルは信じられないと言った顔で、
「信じられない」
と、そのまんまな事を言った。
「彼が言ってた事は半分嘘だし、半分本当だよ。だって彼の話は、『いつだって要領を得なかった』…だろう?いやー、気付くの遅すぎるよ!ガルくん!途中からもう諦めて、ひたすら混乱させる事だけを目的としてみました。てへぺろ」
「……………いいの?そんな事言って、怒られない?」
何に怯えているのだろう。
「いや、全部が全部嘘って訳じゃないんだよ?でもあのままだと、ボク強すぎるでしょ?こんな所でちまちま魔法陣なんて展開しないよ。過去に干渉して、こんな状況消し去れる」
そう言うと、またイリヤは魔法陣の展開へと戻っていった。
鈍いんだもんなー、ガルくんは。
色々となー。
とかなんとか言いながら。
「……さて、準備は整ったよ」
深淵が一面、深紅の魔法陣に埋め尽くされる。
吐き気を催す彩り。それは地獄を連想させた。
「これから、ゲートが開いてしまった所へ向かう。そこで、世界樹の苗が届くまで戦い続ける事になるだろう。覚悟はいいかな?」
イリヤの問いかけに、
「ああ」
「痛い…痛いよぉお…痛いよぉ……」
「うるさいわよ」
「へぶっ!」
と、次々決意の声があがる。
「ふざけてる場合じゃないよ?特に、ユージロー。気付いていないかもしれないが、君は≪黄金の竜≫とは次元を越えた結び付きがあるんだ」
「へ…?」
そういえば、戦ったからというだけではこの体の過剰反応っぷりは説明出来ないかもしれない。
「だから、その体のまま彼らの根源に近付けば、おそらく今の君の自我は崩壊するだろう。なに心配は要らない。これを着るといい」
そう言うとイリヤは、懐からブーメランパンツを取り出す。
「 」
ユージロー は こんらんしている!
「まず、服を脱ぎます。」
「
「次にこれを着ます。」
「 」
されるがままのユージローは、
「完成です」
完成した。
「よし、行くぞ!みんな!」
「世界を救おうね、ガルくん」
「ふふ…楽しそうね」
「 」
そうして、ブーメランパンツ一丁の男が混ざった精鋭たちは戦地へと赴いた。
「 」
- なーがい 六話を消し去ったのは私の責任だ。だが私は謝らない。 -- 兎角 (2012-07-10 16:16:15)
- とかくゎ書ぃた……濡れ場が待ってる……でも…ろくゎが…複雑で……でも…むだにながくって…でも…がるととかくゎ…ズッ友だょ…! -- 兎角 (2012-07-10 16:29:34)
- 次書くようお願いされたので書きます。何とかします(;´Д`) -- さいたま (2012-07-10 18:25:35)
- 呪文を間違えるなんて、兄さんはまだそんなレベルを這い回っているんですね。そんなことの証明にすら、僕は興味がないけれど -- 朱音さん (2012-07-10 18:30:11)
- 短めでいこう -- 兎角 (2012-07-10 19:45:13)
- オイィ、空間移動系は青の魔法なんだが? -- 荒廃者 (2012-07-11 01:18:41)
最終更新:2012年07月11日 01:18