王都の南広場からは紫と黒が入り混じった煙が上がっていた。その中で一人の魔女がふらついた足取りで彷徨っていた。
全身が黒く爛れており、かろうじて透き通るような髪は残っていたが、目は赤く発行し、自らの魔力を制御できてないのか
ときおり暴発した魔法が、家屋を襲い倒壊させていた
「ドコ………ドコニイルノ……」

こんなにおおきい街なら彼はきっといるとおもったのに

「ドウシテ……ドウシテイナイノ……」

「見つけたぞ!」
魔導兵が到着し魔女を取り囲む、すぐに術式展開がなされ、彼女に逃げ場が無いように見えた
「ーーーーーーー!!ジャマ」
彼女の小さな口が素早く詠唱し腕を一振りする。腕全体から黒い魔術が放出され、一撃で魔導兵を溶かしてしまった
「ジャマヲシナイデ…」
苛ついたような声が魔女の口から溢れる
「ひ、ひぃぃ…」
「ひ、怯むな!魔法封印を展開!」
残った魔導兵が急いで魔法陣を展開し、魔女の足元に出現させる。
が、魔女が一瞥し、軽く足で踏むだけで魔法陣は砕かれ、その余波で地面がどす黒く染まった。
「ニンゲンハジャマ…」
魔女の前に黒い魔法陣が張られ、形容のし難い剣の雨が真っ直ぐに魔導兵に襲いかかる




「ウォールゲート」
突如兵たちの前に渦巻くような壁が張られ剣の雨が全て吸い込まれてしまった
「こ、これは…?」
「大丈夫?」
兵の前に子供が姿を現す。あどけなさは見受けられるが、只者では無いことは何も知らない兵も感じていた。
「この魔女は君たちじゃ手に負えない、住人の避難でもするといいよ。ここは僕達が担当する」
「あ、あなたはまさか・・・大魔術師エスネ…?そんな・・・歴史上の人物じゃ・・・」
「今ここには歴史が4つ集まってるよ。信じるかは任せるけどね」
エスネが可愛らしくニコリと笑い、魔女の方へ視線を戻すと、既に3人の騎士が魔女を囲っていた。
「これは…なんという禍々しさに包まれた魔女だ…」
アルトリウスは魔女の姿に驚く
「ふん!どんな相手だろうとわしに敵うものか!」
ビヨールが双剣を携え魔女に斬りかかる、
「ジャマシナイデ…コロス」
魔女は剣劇を後ろへ滑るように移動して避け、黒い雷を打ち込む
「うおっ!」
ビヨールは寸で避けた。重鎧に関わらず、俊敏である
「ふむ、先ほどの魔導兵の最後といい、これはわしでも手こずるのう」
ビヨールは双剣による接近戦が主体な為、鎧で攻撃を受けながらの戦いが主なのだ。
その為あのような一撃必殺の魔法が相手では分が悪い。
「だがしかしな…」
それは1対1の話である。
「貴殿の相手は一人ではないぞ!」
アルトリウスが素早く接近し魔女に剣を振る。彼女に一瞬でも魔法発動の時間を与えないように、
更にビヨールが小刻みに斬り込みにかかる
「…ニンゲンノブンザイデ…」
たまらず魔女は大きく距離を取る。魔法使いは遠距離攻撃に優れる。とりわけ彼女の詠唱時間は極めて早く、大きく距離を取れば
4騎士を沈められるほどの大魔術の発動も容易だろう。

はやく、こんなやつら片付けてさがしにいかないと

そんな焦りは、背中に感じる違和感に掻き消された

「ゲート…!?」
エスネもまた魔法使いである。彼の張った転移魔法陣に魔女が引っかかったのだ。ビヨールとアルトリウスの双撃に気を取られていた
彼女は、足元に気を配る余裕が無かったのである。
彼女は魔法陣に飲み込まれ、もう一つの場所である空に投げ出される。
そしてその直下では、
「ようやく私の出番だな…闇に満ちた貴殿を仕留めるにはこの技しか無いからな」
スフェンエルは既に足を踏み込み長い剣を携え、今までずっと力を溜めていたのである
「…!!」
魔女はすぐに防御と攻撃の魔法陣を同時展開する。が、スフェンエルはその絶望的な光景に相対してもまだ
その状態を崩すことなく、全てをこの一撃で終わらせることを確信していた。
「全てを貫く退魔剣よ!」
剣に光が集い、彼の伝説を物語る最強の対人奥義が発動される

「退魔剣聖斬!!」

光により更に大きくなった剣を真っ直ぐに魔女に突く--

その光の牙突はあらゆる魔法陣、魔法を掻き消し、魔女の体を突き刺した
その衝撃音は彼女の断末魔すらも掻き消した
辺りがまばゆい光に覆われるが、徐々に視界がひらけていく…

「…ふぅ、一番出番のない役だったな」
スフェンエルは一息吐いて剣を戻そう、とはしなかった
「君の判断は正しいよ。長期戦は街にもっと被害をもたらすからね」
エスネもまだ緊張の糸を解いていない

中央にはまだ黒い影が蠢いていたのである
「スフェンエルのあの一突きで赤竜を倒した事は語り継がれるほど有名ですが…まさか生きているとは」
アルトリウスは驚きを隠せなかった。

「ウウ…ググッ…クッ…」
魔女は酷く負傷しているものの、致命傷には至らなかったらしく…
「ハァハァ…ゲホッ…」
それでも弱々しくなっていた。その姿はただの少女にしか見えない…

「タ………イ……ト……」

誰かの人名だろうか…掠れる声でつぶやくと、魔女は小さな魔法陣を展開し、ゆっくりとその中に消えていった…

「ぬ?逃げたか?」
ビヨールはようやく剣を下ろす
「多分そう…というより、彼女は恐らくこの世界のものではないかも…」
エスネは少し考えこむように
「彼女の魔法陣は僕の竜魔術に近いものだった、でも竜の属性を感じない…魔法式にも存在しないものだったからね。僕の勘では別の世界に逃げたんじゃないかな…?」




「タイト…といったか、誰のことなのでしょう」
「それは気になるところだが、アルトリウス、我々は急がねばならない」
「ぬはは!終わってみれば案外楽であったな!この調子で竜人も倒してしまうかの!」
「じゃあ…僕は次元の迷い子を元に返すべく少年少女のとこに行くよ。君たちは竜人と黄金竜の素質を持つ人のとこに
行って」
「エスネ、流石に3・1では戦力が偏りすぎていないか?」
スフェンエルの疑問も最もであるが、エスネは首を横に振り
「迷い子は倒す必要はない。あの子達は次元の歪に飲み込まれて、本来の時間軸から外れてしまったんだ…だから僕一人だけで十分だよ」
「む?エスネ、色々と知ってそうだな」
ビヨールが訝しげに目を向ける
「世界樹は…僕だけには決まった役割を与えたみたいだ…だから、果たすべき事は既に決まってるんだ」
「そうか…世界樹の意思であるならば、深い追求はすまい」

エスネは両腕を広げ、転移魔法陣を2つ作った。
「左が竜人と獣、そして意思の器がいる門、右が僕が行くべき少年少女の門だよ」

「エスネ、あなたは世界樹に唯一定まった役割を与えられた。貴殿が任を全うできることを祈る」
アルトリウスが右手を差し出す
「うん、…やっぱり君はすごいね、まだ若いのに騎士の風格がよく出てるよ」
エスネも右手を差し出し、握手をする

世界を守るべく、4人の騎士が静かに魔法陣の下に消えた・・・

一方、王室では

「……でありまして、あの伝説の者たちの援助もあって撃退に成功した模様です。その後魔法陣の下に消えましたが…」
「そうか…」
兵の報告を静かに聞いていた王は、天蓋を見上げ
「伝説は本物だったか…彼らなら必ず…」



ここは世界樹の苗の世界…

世界樹にもしものことがあった際に、この苗が新たな世界樹となり、成長し新たに出来た苗が、また別の世界に保管される。
苗を良く保つために、ここでは清らな水で満ちており、心地良い風が吹いていた…

もしかしたら、ここに二人の遺体が無ければ楽園と呼んでもよかったのかもしれない…

その光景を、ここに転移したエスネはじっと見つめていた

「ノア…シア…」

なんてことだろう、次元の歪みに迷い込み、その世界に適応させるために歪んだ記憶、性格改変が行われた、ある意味では憐れとも
いえる少年少女が、そしてかつての友が、こんな形で再会することになるとは…

この世界にはもう何の気配も無い…胸に大きな黒い痕跡がある。他殺だろう…不幸な行き違いだ…
再会に喜び、悲しみに泣くことも出来たが、エスネはまず任務を全うすることに務めた。それが彼らを救うことになるのだから
「僕の、いや世界樹の生命を分けてあげるね」
目を閉じ静かに詠唱する。
清流の流れる空間に優しい緑の魔法陣があらわれる。
その詠唱はまるで子守唄のようであった

「帰ろう…元の世界へ…」

二人の身体が青白く光り、徐々に血色も戻っていく。目を閉じた顔は心地よく眠っているかのようだ
そして、二人は光の粒子となって消えていった

「…」

エスネの体から魔力のオーラが消える。

「は、はは…やっぱりね…命を全部吹き込んじゃったからかな」
エスネは弱々しく笑う。世界樹に分け与えられた命を全て使い切った彼は、もう枯れるしかないのである

「でも…これでいいんだ…死人がいつまでも現世にいてはいけない」

元の歴史に戻った彼らなら…
エスネは回想する

ばいばい

生命に満ちた空間に、一枚の枯れた世界樹の葉が落ちていた



…ほう、あの二人の生命の鼓動が蘇ったか…

何もない黒の空間にぽつりと呟く

次元の歪が元に戻るのを感じる…二人の帰還がこの世界を正す、それはつまり竜人を反転させ、失われた現実がよみがえる…この世界の正しい竜人は
女の皮を被った狡猾な竜だ…その時に騎士がどう判断するかは分かりきっている。世界樹もこれを見越したか。
そして何も知らない獣と彼は…。

世界樹…歪みに歪みをもって対処するとは

だが、私には次元の変化など些細な事だ。

なぜなら夜はどの次元にも等しく訪れるからだ

どの次元でも、私は現象である故に同一の存在…

久々の戯れでただの人間の役を演じてみたが、なかなか演技が下手だったな

シアは薄々感づいていたな。世界樹の苗にどうこうするつもりはなかったが、例え誤解だろうが剣を向けられては
つい手が滑ってしまうものだ。

徐々に彼の人間の姿…はかせという名の人間が黒い闇に変わる

我が存在が生命に欠かせないものになってしまうとは…世界の法則に組み込まれる程長く生きてしまったな。
私の死は、全ての生命の死か…

だが、神話と謳われる時代から我が欲望は衰えてはいない。

世界に暗黒の夜を…ダークサインを憎き太陽に…

夜の帝王は、再び夜となった

チッ

イリヤ?どうしたんだ?」
小さな音がイリヤから聞こえたので、不思議そうにユージローが尋ねる
「な、なんでもないよ♪おにーちゃん♪」
あれから幾数日経っただろうか。正直記憶があやふやで思い出せないが、相当数の戦いをくぐり抜けた事は確かだ。
ユージローも相変わらず全裸であったが、目に見えて体術の技術が上がっており、もう朱音のサポートに依存する必要はなくなってきている。
「お、お兄ちゃん・・・?ぶ、ぶひいいいいいいい!!!萌えるでござるううううううう!!」
「はぁ…いい加減液体垂れ流すのやめろ、見てて不気味だ」
ガルが呆れながら言った
「ちょっと!あんまりユージローの事悪く言わないでよ!ほ、ほら、ハーブな匂いがするじゃない」
朱音が取り繕うように言うが、正直無理があった

そろそろ…いいか、 それよりもこの気配…

「それよりこの世界はハズレみたい。影の大国は別の方かも」
「そうか?確かに峡谷のくせして、青い空にのんびり飛ぶ鳥、こんなとこにあるとは思えないからなあ…」
ガルが空を見上げながら全くだと言わんばかりに
「特に敵らしい敵もいなかったしな。また別の世界に行くか」
「うん…」

この気配は間違いなく世界樹の騎士…
私の計画を邪魔する気ね…
その前に、はやくあいつらを黄金の門へ…

イリヤは転移魔法陣を作り、3人で転送する。その行き先は…

「ここは…?」
ユージローが辺りをキョロキョロ見回す。この空間は異次元を形容すべきだろうか、青と紫の入り混じった毒々しい空間は
やや寒気がする。ここに影の大国があり、フランツがいるのだろうか?
「なんだか、神秘的だけど怖いわ…」
朱音がユージローに寄り添う。
「ふ、ふひひwww」
「なあイリヤ、ここってなんだ?」
ガルが純粋な疑問をイリヤに投げかける
「ここは影の空間…夜の帝王の設けた世界の一つよ。かつて封印された影の大国はここに移されて、長い時間をかけて封印が
弱まるのを待ってたの…そして、今まさに影の王フランツが蘇ろうとしてる。」
イリヤが深刻な顔で語る。
「じゃあここが…しかし、なんで最初からここに飛ばなかったんだ?」
ユージローがイリヤに問う。最もなことだ。確かイリヤは「これから影の大国に着くまで戦いに明け暮れるかも」
と言ったはずだが…

「それはね…ユージローを黄金に相応しいものにしたかったの」
「えっ?」
ふふふ・・・

イリヤは3人の瞳を見た




「ここが…なかなかに嫌な風ただよう空間だな」
転移魔法陣から3騎士が現れる。
エスネが言うには、ここに竜人とその使いがいるはずだ
「あれは何でしょうか」
アルトリウスが向こうを指す。
空間の中央には2つの大きめの金の輪がうねりながら回っている。何もない空間に金の輝きが一際目立っている。
竜の紋章は、大国の紋章なのだろうか。
「ふーむ、わしの感が、あれはぶっ壊してしまうのがいいと告げておるな」
ビヨールが髭をなでながら呟く
「世界樹の感じゃないのか」
「おっさんの感をなめるでない」
「いずれにせよ、そこに立つ竜人に聞けば分かることでしょう」

金の輪の近くに、その竜人はいた。

「ふん…やはり世界樹は全てお見通しか…」
イリヤから幼い印象が消え、声もどこかしら凄みが出る。目が虚ろな下僕三人はふらふらと武器を騎士に向ける
「貴様か、世界樹の言う、そして世界に破滅をもたらさんとする竜人は」
スフェンエルの問いにイリヤは薄く笑みを浮かべながら
「そうだ、私が黄金の竜を呼び覚ます、竜の中の竜王になる者だ。長らく適格者が獣の下僕しかおらず足踏みをしていたが、
バンノールで人間が弱小ながら黄金竜を呼び出した時、私は久しぶりに喜びの感情が芽生えたのだ。黄金竜に必要なもう一つの器が見つかり、
ついに、ついに竜の世界が訪れる事をな。破壊の象徴であった黄金竜は、竜王である私に従うのだ」
「僭王めが。お前はここで腐った屍竜になるのがお似合いだのう」
ビヨールが双剣を構える
「ほう…竜王に歯向かうか、見たところ4騎士のうち3人しかいないようだが…こちらは下僕を含め4人だ。止められるかな?」
朱音とイリヤが魔法の詠唱をはじめ、ガルとユージローが拳と剣を構え突撃する。
構成のいい陣に、エスネがいればとスフェンエルが唇を噛む
「(だが、エスネも役を全うした。だから今度は我々が果たす番だ!)」
「魔法使いを先に沈めます!」
アルトリウスが素早く横に周り、朱音に狙いを定める
しかし、すぐさまユージローが全裸でアルトリウスの下に滑りこみ、足払いを決める
「ぐっ・・・!」
「ファイアボール!」
体勢を崩され宙に浮いた彼女に朱音の火炎弾を防ぐ手立てはない。3つの火球が直に当たる
「アルトリウス!っ…思ったよりコンビネーションがあるな…」
「ほらほら、よそ見してる暇はあるのか?ドラゴラム!」
魔法陣から紫の竜の形をした雷撃がスフェンエルに襲いかかる
「ちっ・・・」
剣に魔力を込めて打ち払う。すぐさま剣を後方に払う
「!」
ガルがスフェンエルの後ろで後転しながら回避する。
「やはり竜人の攻撃は囮か…」
「スフェンエル!竜を倒した者がこんな奴らに苦労するとは情けないの!」
ビヨールが回避を終えたガルに追撃をかけ鍔迫り合いになっていた
「お前も脂汗出てるぞ…」
「ふん、暑いだけだ!」
この若造、獣が混じっているせいか素早い…あの人間の動きといい魔法使いと組み合わさってはちいと手こずるな…
ならば…こんな真面目な戦いでは使いたくなかったが
ビヨールは後ろに飛んでガルから距離を取り、すぐさま鎧靴を脱いだ
「!?ビヨール?何をしているのですか!!こんな時に靴を履き替えるつもりか!」
流石に歴戦の英雄アルトリウスも火炎弾3発ではまだ倒れてはいなかった。ユージローに対しイリヤと朱音の攻撃を何とか
避けながらスフェンエルと二人で応対する。が、ビヨールの突然の行動には驚かずにはいられない
「暑いだけだ!獣よ、ここで一騎打ちを決めようぞ!」
再びビヨールはガルに剣激を掛け、ガルもこれを迎撃する。激しい剣の争いが闇の空間に火花を散らす。

ガキン!と再び鍔迫り合いが起こる、が今回ビヨールは左手の剣のみでガルの剣を受け止め、してやったりという顔だ
ビヨールが右手の剣を落とし鎧の隙間から靴下を取り出し
「英雄の足をくらうがよいわ!」
ガルの口に突っ込んだ。
「!?!!!?!!」
酷い声をあげてガルが苦しむ。
「ぐははは!獣は鼻が利きすぎていかんのう!次はわしの奥義を味わうといいわ!」
右手に再び剣を持ち、気力を体全身に巡らせる。
双剣のビヨールは影の国に支配されたボーレタリアにて一人で幾千の敵を切り伏せたとされる身体能力、それが鬼神化である
「鬼神乱舞!」
一瞬にして消えたビヨール、次の瞬間、凄まじい斬撃がガルを襲う
「一丁上がりだの」
先ほど脱ぎ捨てた鎧の靴を再び履き得意気に言った。無数の切傷がついたガルは既に動いていない

「キャアアアアアッ!!!!!!」
同時にアルトリウスの剣が朱音を切り伏せる。朱音が大型火魔法を使う詠唱の隙を、それを守らんとするユージローの攻撃をスフェンエルが
妨げ、ギリギリで仕留める事が出来た。
ユージローは虚ろな目でありながら、呆然としてそれを見ていた
「残り二人!」
「ぐぐ…小癪な騎士共めが…ユージロー!死者に構っている暇があるなら、今ここで敵討ちを果たせ!」
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ユージローの体全身からどす黒い液体が流れ始める、ユージローの目は赤く発光し、更に素早くなった動きで赤い線が移動しているように見える
「くっ…さっきまで全裸だった癖に化物かこいつは…」
拳の一発一発が重くなり、受け止めるので精一杯だ
「スフェンエル!伏せて!」
後ろからアルトリウスの声が聞こえ、すぐさま姿勢を低くする、鈍い音がユージローから響くのを感じる、
アルトリウスが聖剣の鞘を投げつけたのだ。
「ボオオオオオオオオオオオ」
ユージローが全身の黒い液体を発散させる
「風王鉄槌!」
アルトリウスが剣から竜巻を起こし、全ての黒い液体を吹き飛ばす、その風の強さにユージローの動きが更に鈍る
「(この隙!)」
スフェンエルはユージローの背後で魔法陣を展開させているイリヤの懐へ、ユージローの足元から飛び出し急襲をかける
その背後ではビヨールがユージローの上半身を、アルトリウスがその下半身を斬りつけた。まさに十文字切りである
「今のはいい攻撃だな。これにも技名つけるか!」
「結構です」
断末魔の声を上げながらユージローは無様に散っていった

…………





あれ…俺は…なんで倒れているんだ…?
確かイリヤに見つめられてから…記憶が無いな…
痛っ…全身がいてぇ…

ピクリと、倒れていたガルの指先が動き、全身の激痛を耐えながら体を起こした。
顔についた血を拭い、目を開けると

「あ…あ…」
「……」
スフェンエルの長剣が、イリヤを貫いていた
「こしゃ…く…な…我らが…竜…に…人…間が…」

ガルには二人の会話は聞こえていなかった。
「イ・・・リ・・・ヤ・・・?」
走馬灯のようにこれまでの事が脳裏をよぎる
影の大国を見つけるまで戦い続きだったが、彼女の笑顔はとても可愛らしく、ユージローとイリヤの初初さぶりにやや
呆れつつも、辛いことだけではなかった…
なぜ…なぜ…
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
黒々とした心が全身を包み込む

「黄金竜の…召喚陣…首輪を作っておきながら…私は…死…ぬわけ…には…」
「竜人、世界の破滅は人間も、太陽も夜も、そして竜ですら望まない。誰だって自分の住む所が破壊されるのは嫌だからな。頭のいい竜は、王に従うのは気分が悪い。」
スフェンエルはイリヤから剣を抜き、横に払う
イリヤの首が、ゆっくりとガルの方へ飛んでいく

「この戦いで随分魔力を消費したな…そろそろ我々も現世に留まれる期限が近い。アルトリウス。」
「ほほう、アルトリウスに世界を救わせるのか」
「彼女の剣の力は、僕のと違って全てを吹き飛ばすのに向いているからな。さっきの竜人の言うことから察するに、
あれは黄金竜の召喚陣と従える為の首輪だ。恐らく…獣と人間の意思の力を魔法陣に埋め込み召喚するつもりだったのだろう。
ならば全部吹き飛ばした方がいいんじゃないかと思ってな。」
「なるほど、ついでにわしらも空間の消滅に巻き込まれれば死に世界樹に戻る…か。お前らしい効率さだのう」
「エスネはどうするのですか?」
「彼はきっと任を果たしてるさ。信じよう」
とスフェンエルは言うものの、内心では彼が既に消えている事は薄々感じ取っていた。
「(エスネ…お前は役を果たせたんだな…)」
「では、剣の力の開放を行います。…多分私の残り魔力から考えて、一発撃てば私も消滅するでしょう」
アルトリウスは剣に魔力をこめ始める。剣に纏う風は消え、強大な魔力が宿り始める


ニクイニクイニクイニクイ

「!アルトリウス!一旦止めろ!」
「スフェンエル!?」
アルトリウスは突然の指示に驚きつつもすぐさま発動を中止する
「危ない!ビヨール!」
「なに…」
遅かった。黒い獣がビヨールの心臓を八つ裂きにした
「ぐ…あ…」
「ビヨール!」
「生きていたか…」

ナゼコロシタ!!!
オレハ・・・!オマエラガニクイ!!!
コロシテヤル…コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル
コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル

「無…念…」
ビヨールの体が朽ち、枯れた世界樹の葉に変わってしまった

「こいつ…人間性を失ってるな…」
「スフェンエル、これでは黄金竜の陣を破壊できません。」
「竜を守る番犬…か」

獣の声が空間に響き渡る
二人の騎士は剣を構え応戦した






  • 俺はたぶん……たぶん、ヒメアのことが……好きだよ -- 大兎 (2012-07-16 04:57:27)
  • 《だ、黙れ!》 -- ヒメア (2012-07-16 04:58:20)
  • ……本当だ。俺はヒメアが…… -- 大兎 (2012-07-16 04:59:06)
  • 《黙れぇえええええええええええ》 -- ヒメア (2012-07-16 04:59:38)
  • ……だからヒメア、戻ってきてくれ。不安になって、引っ込むことないよ。君は俺が守るから、だから……だから元のヒメアに…… -- 大兎 (2012-07-16 05:00:50)
  • 《黙……》 -- ヒメア (2012-07-16 05:01:32)
  • 好きだよ、ヒメア -- 大兎 (2012-07-16 05:01:50)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:02:23)
  • 君が好きだ -- 大兎 (2012-07-16 05:03:02)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:03:18)
  • だからもう、そんな不安がるなよ -- 大兎 (2012-07-16 05:03:39)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:04:05)
  • これからはずっと、ずっと君の側にいるからさ -- 大兎 (2012-07-16 05:04:45)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:05:07)
  • もう絶対に、君を独りにしないからさ -- 大兎 (2012-07-16 05:05:47)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:06:10)
  • だから -- 大兎 (2012-07-16 05:06:34)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:06:53)
  • だからもう一度だけ、笑って見せてくれ -- 大兎 (2012-07-16 05:07:20)
  • 《…………》 -- ヒメア (2012-07-16 05:07:40)
  • ヒメアの笑う顔が、俺は一番好きなんだ -- 大兎 (2012-07-16 05:08:08)
  • ……馬鹿 -- ヒメア (2012-07-16 05:08:29)
  • と、ヒメアが言った。 -- 貴也 (2012-07-16 05:09:15)
  • じゃあ俺が11話書くよ -- 貴也 (2012-07-16 10:28:04)
  • うわぁ…これはひどい。ヒメアはもうどこにもいないんだぜ -- さいたま (2012-07-16 11:12:09)
  • じゃあ俺が11話書くよ -- 兎角 (2012-07-16 11:17:08)
  • 俺、死亡ーーーーーーーーーーー!! -- 朱音さん (2012-07-16 15:00:09)
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最終更新:2012年07月16日 15:00