―1944年夏 太平洋のとある海域
「集合地点ココで本当に合ってる?」
「知ラナイ」
「アタシに訊くな」
米海軍潜水戦艦ベルーガ、英海軍ルルイエ級ヴォーパル、バンダースナッチの3隻は何やら洋上でゴチャゴチャと騒いでいた。
米国太平洋艦隊からの特別な指令のため、とある地点への集合がかかっていたのだ。
さて、ここで英海軍が居る理由だが……ベルーガはルルイエ級2隻の監視を委任されているのだ。
保護者、というわけでもないのだが、ともかく出自不明な2隻を近くで見守るのが彼女の任務のひとつだった。
「迷子になってんじゃねーのかよ、オイ?」
「まぁちょっと待ちましょうよ、合ってたら誰か来るはずよ」
「ノンキダわネ」
特に周りに目印のあるわけではない海のど真ん中。
島からの方角・速度が間違っていればアウトだが……?
「あ、ほら、来た来た……合ってたみたいね、ホッとしたわ~」
「来たのは良いが…なんかちっこいのとボロボロのなんだが」
遠くに見えた影はだんだんと近づいてきて、合流する。
「哨戒駆逐艦、ステーシー・テオドール・ガードナー、只今合流よ!おまたせ♪」
「軽空母、リターナー。です」
「どうもどうも、私は潜水戦艦ベルーガ」
「バンダースナッチだ」「ヴォーパルだヨ」
「ヘェ~これが噂のルルイエ級って連中なのね。初めて見たわ。確かに変わったカッコしてるじゃない」
「うっせーチビ」
「口も悪いと来た」
「ステーシー。やめて」
「はいはーいごめんねリターナー。なんでもないわ」
「他には来ないの?」
「ステーシーたちは船団護衛の途中で抜けてきたから、ステーシーたちだけよ」
「でも、あと1隻来る。そう、聞いた」
「もう1隻」
「お嬢さん方、ひょっとしてお待たせしちゃったかな」
「うわぁ!?」
いつの間にか近くに居た一隻のフネ。
「お初にお目にかかるね、新鋭の航空戦艦、セント・ローレンスだ。よろしくどうぞ?」
「またなんかヘンなフネが来たもんだな、あん?」
「おいおい、見たところ僕が一番マトモなフネだぞ?失礼しちゃうな」
「ステーシーが一番フツーのフネよ」
「しょうもないことで揉めなくていいから……で、誰がこの任務の内容を知ってるの?」
「あぁそれは僕から。皆様が集められたのは……そう、この海域に出没するという敵の新型戦艦の捜索だ」
「新型、戦艦……」
「そうさ。なんでも、オウミクラスに近い見た目をしているが、もっとずっとデカい図体をしているらしい。そう、ヤマトクラスを引き伸ばしたような……」
「オウミクラスですって?あれって20インチ砲戦艦じゃないの。このメンバーで太刀打ちできるのかしら……?」
「一番火力があるのは僕だろうが、通用するかはわからん。マ、あくまで作戦目標は捜索さ。撃破じゃない」
「探すだけでいいんだな?見つけたらさっさと解散してやる」
「いや、最低限写真を撮影しなければならない……僕か、リターナーの偵察機が撮影に成功すればそれでいいんだが」
「上は噂じゃなくて証拠を求めてるってワケね」
「なら、早速……」
リターナーはぎこちなくF6Fを発艦させる。
「よし、僕もだ。行って来いっ」
こちらはTBFアベンジャーを発艦させる。
「ワタシモ……」
ヴォーパルはボコボコと音を立ててミーティアのようなものを飛ばす。
「うげっ………うーん。ステーシーにはできることな~んにも無いわ」
「私を、守る。それで、いい」
「そうだったわ!リターナーの護衛はステーシーにおまかせ!」
その時だった。
『ぽ…ぽ……ぽ……』
「ん?何の音だい?」
ローレンスはキョロキョロと見回す。
「ステーシー、キミからしてるようだが……」
「えっと……あっ、そう、来る途中にソナーの音量大きくしてたのよ。潜水艦を警戒してね」
「えらいね」
「ふふんっ」
「そのソナーが喧しく鳴ってるんだが?」
『ぽ……ぽぽぽ……』
「なんかピンガーたくさん打たれてるわ……何なの……?」
「ぽぽぽぽぽぽ」
「ねぇ。ステーシーのすぐそばでピンガー鳴らしてるの誰よ」
「えっ」
その場に居た全員がステーシーの後ろを向く。
「ぽ」
「で……」
「出たァァァアアアアアアア!!!!」
「き、貴様ら!全員アタシに掴まりやがれ!!」
「さーいえっさー!!!」
掛け声とともに全員がバンダースナッチに抱きつく。
「ぶっ飛ばすぞ放すんじゃねえぞォォ!!!!」
刹那、バンダースナッチは90ノットまで急加速。
「いやああああああああああ!?!!?」
「口閉じてろ!!舌噛むぞ!!!!」
………
……
…
「はぁ…はぁ……ステーシーあんな速く動いたの初めて……」
「それはみんなそうだと思うぞ。キミ凄いね……」
「これでアタシは何隻も……この話はいいや」
「何、あれ」
「ヴォーパルちゃんは知ってる?」
「シラナイシラナイシラナイ」
「ヴォーパルちゃんが知らないって言うのは相当だわ」
「そういやぁ、あんなに近くに居て誰か写真は撮ったのかい」
「全員パニックだったのに撮れるワケ無いだろ!!!」
「それもそうだ……すまない」
ローレンスは双眼鏡を取り出し来た方向を覗き見る。
"ヤツ"はまだ、居た。
真っ白な鍔広帽に白いワンピースに長い黒髪。
それだけなら美女が想像されるかもしれないが、そうではない。
明らかに連合軍の保有するいずれの艦よりも巨大な背丈。
生気を感じさせない肌の色に、闇を宿した双眸。妙に細長い手足。
そして巨大な5基の三連装砲塔。あれが20インチ砲だというのか。
「相手の大きさがわからないせいで距離もイマイチわからないな……アパラチアよりデカかったよな?」
「ステーシーもそう思うわ」
「デカい。同意」
「私は会ったこと無いからわかんないなぁ……」
一瞬しか見ていないが、全員がその巨体を脳裏に焼き付けていた。
「なぁ、場所がわかってんなら偵察機で撮ってさっさと帰ろうぜ」
「名案」
「早速やろう」
「ムカワセル」
既に誰も戦う気など持ち合わせていないようだ。
再びローレンスは双眼鏡を覗き込む。
各々の偵察機が別方向から接近を試みる…が、ヤツの主砲塔が動き出す。
「あー、不味いな」
バラバラの方向へ向いた巨大な砲塔が恐ろしい発砲音を轟かせる。空中で花火のように焼夷弾が散らばり、偵察機は一網打尽にされてしまった。
「……どうやら接近するしか無いようだな。ちょっと応援を呼ぶよ、待ってくれ」
ローレンスは無線機を操作し始める。
「あのね、あんまり言いたくないんだけど……ヴォーパルちゃんが知らないってことは、きっと日本艦じゃないわ」
「はぁ?どーゆーことなのよ?」
「それどころか敵の艦でもないし、もちろん味方の艦でもない」
「わけがわからないわ!きちんとステーシーに説明しなさいよっ」
「うーん、ヴォーパルちゃんのことはあんまりあなたたちに話せることがないんだけど……」
「意味不明」
「ごめんね。でも……きっと敵意はあるのよね。偵察機を撃墜してきたし……」
遠くから再び轟音が聞こえてくる。
「ほら、また撃ってる……え?」
周りに立つ巨大な水柱。
「あ、あ、あ………」
顔面蒼白のステーシー。
「よし、応援は呼んだ。しかし驚いた、こちらはヤツの射程圏内のようだな……さっきのように逃げ回るのにも限度がある。単縦陣で回避行動を取るぞ、僕についてくるんだ!」
「こんなところでわけのわからない奴にやられるのはごめんこうむるわ!」
ベルーガが最後方。艦隊速度12ノット。
「みんな、ごめん、ごめん……鈍足で……」
「あーもう。アタシに掴まれよ……」
「ステーシーも……良いかしら……」
「貴様も鈍足なのかよ」
「頑張って24ノットなのよ……ステーシーを置いてかないで……」
目を潤ませるステーシー。
「うっ……ぐ……仕方ねえな……」
発砲音は続く。水柱の距離はそれほど近くない。
射撃精度は低いようだが、喰らえば一撃で落ちるだろう。
蛇行を続けていると、二番目を航行しているリターナーが水柱の中に消えた。
「リターナーっ!?」
水柱が消えると、リターナーはまだ立っていたが、左脚が吹き飛んでいる。
「リターナー、あ、あ、脚……」
「大丈夫。予備、ある」
慣れた手付きでどこからか予備を取り出し、スチャっと装着する。
「……そういえば義足だったわね。ステーシーホッとしたわ」
「いやいや慣れすぎでしょ………」
………
……
…
「ローレンスさんっ!聞こえますか!」
ローレンスの無線機から快活な声が流れる。
「おっ!着いたのか?待ちくたびれていたぞ!」
「不肖ルイジアナ、ただいま到着します!皆さんどこにおられますか?」
「いやーそれがね、絶賛回避行動中なんだ。なんとかこっちを探してくれ」
「ぽ」
「…おい、今何か言ったか」
「いえ?」
「無線機から目を離せ」
「はいぃ?」
「ぽ」
「い……ぎゃあああああああああ!?」
「R.I.P.ルイジアナ、キミのことは忘れない」
「勝手に殺さないでください!!!エンゲージ、エンゲージ!私は生き残りますよ!!」
無線機から砲撃音が流れ始めると通信が切れた。
「あー、みんな、応援に呼んだ艦が交戦を開始した。僕も加わってこようと思うから、リターナー、隊列の先頭を任せていいかい」
「御意」
「よし、じゃ、行ってくる」
…
……
………
「なんなんですかあのヒョロ長気味悪戦艦!?!?」
全力で逃げつつ後方へ16インチ四連装砲を可能な限り撃ち続けるルイジアナ。
彼女は今日ほど自分のヘンテコな艤装配置に感謝した日は無かった。
「使えそうな艦載機、使えそうな艦載機、何かあったかしらッ」
格納庫をゴソゴソするが、出てくるのは対潜装備の機体ばかり。
「いやーん持ってくるの間違えたーこんな時に限ってー!!」
「ぽぽぽ」
「いぎゃーっ!!!速い!速いって!!」
ルイジアナは全力航行だが既に追いつかれかかっている。
「ぽぽぽ」
バカでかい砲塔が全基ルイジアナを向いている。
「こっち見ないでーっ!!!」
ルイジアナはひとつの砲塔を狙い集中射撃を行う。近いせいか全弾命中し砲塔が弾け飛んだ。
「ぽ」
ルイジアナの眼前が真っ白になる。強い衝撃。つい目を閉じてしまう。
「うっ……ワァーッ!?」
目を開けると、砲弾が命中したのか、滅茶苦茶になっている飛行甲板が視界に飛び込んでくる。
「ヒィーッ!?」
やばい、死ぬ。もっとまずいコーヒーを飲んでおくんだった、というよくわからない後悔が脳裏をよぎる。
泣きそうになるルイジアナだったが、上空に航空機のエンジン音が聞こえてくる。
音の主はSBDドーントレス、既に急降下爆撃の姿勢に突入しており、巨大な砲塔へ向かって投弾した。
投下された1600ポンド徹甲爆弾はクリーンヒット、三基の砲塔を吹き飛ばすことに成功した。
「はっ!?ローレンスさんの機体!!助けに来てくれたんですか!?」
機体の去っていく方向を見ると、ローレンスの姿があった。
「いやいや、僕が助けてもらうために呼んだはずだったんだけどな……世の中うまく行かないね」
「うえええんありがとうございますううううう帰ったらコーヒーたくさんごちそうしますうううう」
「いや、遠慮しとくよ………おっと、そうだ。ハイ、チーズ」
余裕の表情でカメラのシャッターを切るローレンス。
「ぽ……ぽぽ…」
まだ残っている砲塔一基が旋回を始める。
「諦めの悪いこった。だが……砲塔くらいは潰せるのはわかってるんだ」
ローレンスの16インチ三連装砲が火を噴き、砲塔を粉砕する。
「ぽ……」
砲塔を全て喪った目標はサラサラと消えていく。
「え、え、なんですかこれ!?」
「さぁねぇ、僕にはさっぱりだ……」
.
「あの、あの。もうちょっとマシな写真無いんですかローレンスさん」
「ステーシーはステキな写真だと思うわ」
「ナイスショット」
「これより良いのはなかなか撮れないと思うぜ」
「イイカオシてル」
「申し訳ないけど私もみんなに同意かなぁ」
「そして何より、すまないが僕はこの一枚しか撮ってないんだ。これを提出する他無い」
「どーおーしーてーっ!?」
みんなの視線の先には、ボロボロくしゃくしゃの泣き顔のルイジアナと、目標のバッチリ写ったツーショット写真があった。
(おわり)
「知ラナイ」
「アタシに訊くな」
米海軍潜水戦艦ベルーガ、英海軍ルルイエ級ヴォーパル、バンダースナッチの3隻は何やら洋上でゴチャゴチャと騒いでいた。
米国太平洋艦隊からの特別な指令のため、とある地点への集合がかかっていたのだ。
さて、ここで英海軍が居る理由だが……ベルーガはルルイエ級2隻の監視を委任されているのだ。
保護者、というわけでもないのだが、ともかく出自不明な2隻を近くで見守るのが彼女の任務のひとつだった。
「迷子になってんじゃねーのかよ、オイ?」
「まぁちょっと待ちましょうよ、合ってたら誰か来るはずよ」
「ノンキダわネ」
特に周りに目印のあるわけではない海のど真ん中。
島からの方角・速度が間違っていればアウトだが……?
「あ、ほら、来た来た……合ってたみたいね、ホッとしたわ~」
「来たのは良いが…なんかちっこいのとボロボロのなんだが」
遠くに見えた影はだんだんと近づいてきて、合流する。
「哨戒駆逐艦、ステーシー・テオドール・ガードナー、只今合流よ!おまたせ♪」
「軽空母、リターナー。です」
「どうもどうも、私は潜水戦艦ベルーガ」
「バンダースナッチだ」「ヴォーパルだヨ」
「ヘェ~これが噂のルルイエ級って連中なのね。初めて見たわ。確かに変わったカッコしてるじゃない」
「うっせーチビ」
「口も悪いと来た」
「ステーシー。やめて」
「はいはーいごめんねリターナー。なんでもないわ」
「他には来ないの?」
「ステーシーたちは船団護衛の途中で抜けてきたから、ステーシーたちだけよ」
「でも、あと1隻来る。そう、聞いた」
「もう1隻」
「お嬢さん方、ひょっとしてお待たせしちゃったかな」
「うわぁ!?」
いつの間にか近くに居た一隻のフネ。
「お初にお目にかかるね、新鋭の航空戦艦、セント・ローレンスだ。よろしくどうぞ?」
「またなんかヘンなフネが来たもんだな、あん?」
「おいおい、見たところ僕が一番マトモなフネだぞ?失礼しちゃうな」
「ステーシーが一番フツーのフネよ」
「しょうもないことで揉めなくていいから……で、誰がこの任務の内容を知ってるの?」
「あぁそれは僕から。皆様が集められたのは……そう、この海域に出没するという敵の新型戦艦の捜索だ」
「新型、戦艦……」
「そうさ。なんでも、オウミクラスに近い見た目をしているが、もっとずっとデカい図体をしているらしい。そう、ヤマトクラスを引き伸ばしたような……」
「オウミクラスですって?あれって20インチ砲戦艦じゃないの。このメンバーで太刀打ちできるのかしら……?」
「一番火力があるのは僕だろうが、通用するかはわからん。マ、あくまで作戦目標は捜索さ。撃破じゃない」
「探すだけでいいんだな?見つけたらさっさと解散してやる」
「いや、最低限写真を撮影しなければならない……僕か、リターナーの偵察機が撮影に成功すればそれでいいんだが」
「上は噂じゃなくて証拠を求めてるってワケね」
「なら、早速……」
リターナーはぎこちなくF6Fを発艦させる。
「よし、僕もだ。行って来いっ」
こちらはTBFアベンジャーを発艦させる。
「ワタシモ……」
ヴォーパルはボコボコと音を立ててミーティアのようなものを飛ばす。
「うげっ………うーん。ステーシーにはできることな~んにも無いわ」
「私を、守る。それで、いい」
「そうだったわ!リターナーの護衛はステーシーにおまかせ!」
その時だった。
『ぽ…ぽ……ぽ……』
「ん?何の音だい?」
ローレンスはキョロキョロと見回す。
「ステーシー、キミからしてるようだが……」
「えっと……あっ、そう、来る途中にソナーの音量大きくしてたのよ。潜水艦を警戒してね」
「えらいね」
「ふふんっ」
「そのソナーが喧しく鳴ってるんだが?」
『ぽ……ぽぽぽ……』
「なんかピンガーたくさん打たれてるわ……何なの……?」
「ぽぽぽぽぽぽ」
「ねぇ。ステーシーのすぐそばでピンガー鳴らしてるの誰よ」
「えっ」
その場に居た全員がステーシーの後ろを向く。
「ぽ」
「で……」
「出たァァァアアアアアアア!!!!」
「き、貴様ら!全員アタシに掴まりやがれ!!」
「さーいえっさー!!!」
掛け声とともに全員がバンダースナッチに抱きつく。
「ぶっ飛ばすぞ放すんじゃねえぞォォ!!!!」
刹那、バンダースナッチは90ノットまで急加速。
「いやああああああああああ!?!!?」
「口閉じてろ!!舌噛むぞ!!!!」
………
……
…
「はぁ…はぁ……ステーシーあんな速く動いたの初めて……」
「それはみんなそうだと思うぞ。キミ凄いね……」
「これでアタシは何隻も……この話はいいや」
「何、あれ」
「ヴォーパルちゃんは知ってる?」
「シラナイシラナイシラナイ」
「ヴォーパルちゃんが知らないって言うのは相当だわ」
「そういやぁ、あんなに近くに居て誰か写真は撮ったのかい」
「全員パニックだったのに撮れるワケ無いだろ!!!」
「それもそうだ……すまない」
ローレンスは双眼鏡を取り出し来た方向を覗き見る。
"ヤツ"はまだ、居た。
真っ白な鍔広帽に白いワンピースに長い黒髪。
それだけなら美女が想像されるかもしれないが、そうではない。
明らかに連合軍の保有するいずれの艦よりも巨大な背丈。
生気を感じさせない肌の色に、闇を宿した双眸。妙に細長い手足。
そして巨大な5基の三連装砲塔。あれが20インチ砲だというのか。
「相手の大きさがわからないせいで距離もイマイチわからないな……アパラチアよりデカかったよな?」
「ステーシーもそう思うわ」
「デカい。同意」
「私は会ったこと無いからわかんないなぁ……」
一瞬しか見ていないが、全員がその巨体を脳裏に焼き付けていた。
「なぁ、場所がわかってんなら偵察機で撮ってさっさと帰ろうぜ」
「名案」
「早速やろう」
「ムカワセル」
既に誰も戦う気など持ち合わせていないようだ。
再びローレンスは双眼鏡を覗き込む。
各々の偵察機が別方向から接近を試みる…が、ヤツの主砲塔が動き出す。
「あー、不味いな」
バラバラの方向へ向いた巨大な砲塔が恐ろしい発砲音を轟かせる。空中で花火のように焼夷弾が散らばり、偵察機は一網打尽にされてしまった。
「……どうやら接近するしか無いようだな。ちょっと応援を呼ぶよ、待ってくれ」
ローレンスは無線機を操作し始める。
「あのね、あんまり言いたくないんだけど……ヴォーパルちゃんが知らないってことは、きっと日本艦じゃないわ」
「はぁ?どーゆーことなのよ?」
「それどころか敵の艦でもないし、もちろん味方の艦でもない」
「わけがわからないわ!きちんとステーシーに説明しなさいよっ」
「うーん、ヴォーパルちゃんのことはあんまりあなたたちに話せることがないんだけど……」
「意味不明」
「ごめんね。でも……きっと敵意はあるのよね。偵察機を撃墜してきたし……」
遠くから再び轟音が聞こえてくる。
「ほら、また撃ってる……え?」
周りに立つ巨大な水柱。
「あ、あ、あ………」
顔面蒼白のステーシー。
「よし、応援は呼んだ。しかし驚いた、こちらはヤツの射程圏内のようだな……さっきのように逃げ回るのにも限度がある。単縦陣で回避行動を取るぞ、僕についてくるんだ!」
「こんなところでわけのわからない奴にやられるのはごめんこうむるわ!」
ベルーガが最後方。艦隊速度12ノット。
「みんな、ごめん、ごめん……鈍足で……」
「あーもう。アタシに掴まれよ……」
「ステーシーも……良いかしら……」
「貴様も鈍足なのかよ」
「頑張って24ノットなのよ……ステーシーを置いてかないで……」
目を潤ませるステーシー。
「うっ……ぐ……仕方ねえな……」
発砲音は続く。水柱の距離はそれほど近くない。
射撃精度は低いようだが、喰らえば一撃で落ちるだろう。
蛇行を続けていると、二番目を航行しているリターナーが水柱の中に消えた。
「リターナーっ!?」
水柱が消えると、リターナーはまだ立っていたが、左脚が吹き飛んでいる。
「リターナー、あ、あ、脚……」
「大丈夫。予備、ある」
慣れた手付きでどこからか予備を取り出し、スチャっと装着する。
「……そういえば義足だったわね。ステーシーホッとしたわ」
「いやいや慣れすぎでしょ………」
………
……
…
「ローレンスさんっ!聞こえますか!」
ローレンスの無線機から快活な声が流れる。
「おっ!着いたのか?待ちくたびれていたぞ!」
「不肖ルイジアナ、ただいま到着します!皆さんどこにおられますか?」
「いやーそれがね、絶賛回避行動中なんだ。なんとかこっちを探してくれ」
「ぽ」
「…おい、今何か言ったか」
「いえ?」
「無線機から目を離せ」
「はいぃ?」
「ぽ」
「い……ぎゃあああああああああ!?」
「R.I.P.ルイジアナ、キミのことは忘れない」
「勝手に殺さないでください!!!エンゲージ、エンゲージ!私は生き残りますよ!!」
無線機から砲撃音が流れ始めると通信が切れた。
「あー、みんな、応援に呼んだ艦が交戦を開始した。僕も加わってこようと思うから、リターナー、隊列の先頭を任せていいかい」
「御意」
「よし、じゃ、行ってくる」
…
……
………
「なんなんですかあのヒョロ長気味悪戦艦!?!?」
全力で逃げつつ後方へ16インチ四連装砲を可能な限り撃ち続けるルイジアナ。
彼女は今日ほど自分のヘンテコな艤装配置に感謝した日は無かった。
「使えそうな艦載機、使えそうな艦載機、何かあったかしらッ」
格納庫をゴソゴソするが、出てくるのは対潜装備の機体ばかり。
「いやーん持ってくるの間違えたーこんな時に限ってー!!」
「ぽぽぽ」
「いぎゃーっ!!!速い!速いって!!」
ルイジアナは全力航行だが既に追いつかれかかっている。
「ぽぽぽ」
バカでかい砲塔が全基ルイジアナを向いている。
「こっち見ないでーっ!!!」
ルイジアナはひとつの砲塔を狙い集中射撃を行う。近いせいか全弾命中し砲塔が弾け飛んだ。
「ぽ」
ルイジアナの眼前が真っ白になる。強い衝撃。つい目を閉じてしまう。
「うっ……ワァーッ!?」
目を開けると、砲弾が命中したのか、滅茶苦茶になっている飛行甲板が視界に飛び込んでくる。
「ヒィーッ!?」
やばい、死ぬ。もっとまずいコーヒーを飲んでおくんだった、というよくわからない後悔が脳裏をよぎる。
泣きそうになるルイジアナだったが、上空に航空機のエンジン音が聞こえてくる。
音の主はSBDドーントレス、既に急降下爆撃の姿勢に突入しており、巨大な砲塔へ向かって投弾した。
投下された1600ポンド徹甲爆弾はクリーンヒット、三基の砲塔を吹き飛ばすことに成功した。
「はっ!?ローレンスさんの機体!!助けに来てくれたんですか!?」
機体の去っていく方向を見ると、ローレンスの姿があった。
「いやいや、僕が助けてもらうために呼んだはずだったんだけどな……世の中うまく行かないね」
「うえええんありがとうございますううううう帰ったらコーヒーたくさんごちそうしますうううう」
「いや、遠慮しとくよ………おっと、そうだ。ハイ、チーズ」
余裕の表情でカメラのシャッターを切るローレンス。
「ぽ……ぽぽ…」
まだ残っている砲塔一基が旋回を始める。
「諦めの悪いこった。だが……砲塔くらいは潰せるのはわかってるんだ」
ローレンスの16インチ三連装砲が火を噴き、砲塔を粉砕する。
「ぽ……」
砲塔を全て喪った目標はサラサラと消えていく。
「え、え、なんですかこれ!?」
「さぁねぇ、僕にはさっぱりだ……」
.
「あの、あの。もうちょっとマシな写真無いんですかローレンスさん」
「ステーシーはステキな写真だと思うわ」
「ナイスショット」
「これより良いのはなかなか撮れないと思うぜ」
「イイカオシてル」
「申し訳ないけど私もみんなに同意かなぁ」
「そして何より、すまないが僕はこの一枚しか撮ってないんだ。これを提出する他無い」
「どーおーしーてーっ!?」
みんなの視線の先には、ボロボロくしゃくしゃの泣き顔のルイジアナと、目標のバッチリ写ったツーショット写真があった。
(おわり)