夕方。初登校を終えた私は帰り路についていた。
『この世界の秘密をボクと一緒に解き明かしたくはないかい?』
……なんか知ってそうな気がしたのになー。まさか部活の勧誘だなんて。
しかも一応見学だけしてみるって答えたら今夜また学校に集合とか言われちゃって。
あの留萌って子がオカルト研究会?会長なのかな?
そもそも正式な部活動かどうかも怪しい。研究会って言ってるし……。
橋を渡っていると、昼間見かけた下級生が横を通り過ぎていく。
なんか楽しそうに話しちゃって、青春ってやつなのかな。
私にはそういう感覚は全然わからない。だって昨日まで戦場に居たはずだし。
学校だって海軍学校で促成栽培も同然だったし……。
そんな存在な私が、突然"青春"に放り込まれてしまったのだから、わけがわからない。
一方で、持っていたスマホの写真フォルダを漁れば、私もそういう"青春"をこれまでも過ごしてきていたことがわかる。
写真を見たら、思い出せる。存在しないはずの記憶。"兄妹と"なんて名前のフォルダもあったけど、怖くて開けられない。
全然知らない人と写ってたらどうしようって。私にとって兄妹は、コーンフィールド級のみんななのに……。
つい、開けられないフォルダを見つめながら歩いていると、人とぶつかってしまった。
「おいガキ、前くらいちゃんと見てろや」
「あ、すみません……」
「すみませんで済むなら警察は要らんのや。なぁちょっと来いや」
「えっ…急いでるんで」
「ふざけんな」
胸ぐらを掴まれる。よく見てなかったけど、ガタイの良い男だ。
振りほどこうとしたけど、全然力が入らない。そっか、今、人間なんだ。
フネだった頃なら人間とは比較にならない力を出せたのに。
私は、今、見た目通りの、人間の、女の子程度の力しか持っていない。
ヒトである。なら、最悪この男に襲われてしまうかもしれない。
ヒトの身体でもし襲われたら。ゾッとする。どうして…………。
「なぁおっさん、ボクの可愛い妹に何してくれとんの……」
私は声の主に気付き驚く。男も声の方向に振り向く。
「……やっ!このクソボケカス野郎が!」
右ストレートが男の顔面に打ち込まれ、男は倒れてしまった。
「はぁ……なぁそこの緑髪のパンクファッションのイカしたネーチャン、ちょっとええか?」
「あっアタシ?」
「そうそうそこのべっぴんさんや」
「お、おう……アタシバイト行くとこなんだけど」
「この路上で寝とるおっさん、婦女暴行の現行犯やねん。ボク見張っとくから警察呼んでくれへん?」
「は?マジ?今すぐ呼ぶわ……………もしもし警察ですか?……」
「ふー……ほんに、一人暮らし始めて早々にこれかいな、先が思いやられるわ」
男をぶっ倒したのは、コーンフィールド級2番艦、キャロットフィールド……に、見えるけど……。
私のこと妹って言ってたよね……?
「え、えっと……キャロットの兄貴……だよ……ね?」
「なんや今他におらんのにわざわざ区別するような呼び方して……気色悪い」
「他!他に居るの!?兄貴!?」
「何言っとんのや、お前兄妹の7番目やろがい?下にも二人妹がおるんやで?学校で頭でも打ったんか」
「あ……あ………」
色々な感情が込み上げてきて涙が溢れてくる。
「兄貴……会いたかったよぉ……」
つい抱きついてしまう。私らしくもない。
「おわっ?!ウソやろそんな数日でホームシックなるぅ?」
「うぅ~……」
「てかな、お前スマホ持ってるんやから寂しかったら電話でもなんでもしてくればええんやで?」
「えっ?えっと……」
涙を拭ってスマホを操作する。連絡先とかいうアイコンがある。あー、全然気にしてなかった。
開いてみると、"兄妹"の文字。触ると、ぶわっと8人分の連絡先が出てきた。
なんでか、名前は絵文字で登録してある。
「……ひょっとして使い方わからんのか?」
「ば、バカにしないでよ」
「ほーん」
「うー……」
「普段なら"もっと他に言う事あるんちゃう?"とか言うとこやったけど、なんか珍しいもん見れたから勘弁しといたるわ」
「……あ。助けてくれてありがと」
「お、おう……」
「兄貴のこと、私、大好きだよ……」
つい余計なことまで口走ってしまった。
「……病院連れてこか?」
「あ、いや、いい、大丈夫。きっと明日には元の私だから……ね?」
「ヘンなヤツやなぁ。あーせや、別にお前と行こうと思っとったわけやないんやけどな」
そう言うと兄貴は、何かのチケットを差し出してくる。野球の現地観戦チケットみたいだ。
「やるから、来いよな」
「あ……ありがと。絶対行く」
「なんや調子狂うな…まぁええけど。お、ポリ公来よったな。説明してやらんとな」
私たちは警察に事情を説明した。ついでに、通報してくれた女性とも連絡先を交換しておいた。
辺りが薄暗くなりかける頃になって解散し、ようやく私は自室に帰ることが出来た。
『この世界の秘密をボクと一緒に解き明かしたくはないかい?』
……なんか知ってそうな気がしたのになー。まさか部活の勧誘だなんて。
しかも一応見学だけしてみるって答えたら今夜また学校に集合とか言われちゃって。
あの留萌って子がオカルト研究会?会長なのかな?
そもそも正式な部活動かどうかも怪しい。研究会って言ってるし……。
橋を渡っていると、昼間見かけた下級生が横を通り過ぎていく。
なんか楽しそうに話しちゃって、青春ってやつなのかな。
私にはそういう感覚は全然わからない。だって昨日まで戦場に居たはずだし。
学校だって海軍学校で促成栽培も同然だったし……。
そんな存在な私が、突然"青春"に放り込まれてしまったのだから、わけがわからない。
一方で、持っていたスマホの写真フォルダを漁れば、私もそういう"青春"をこれまでも過ごしてきていたことがわかる。
写真を見たら、思い出せる。存在しないはずの記憶。"兄妹と"なんて名前のフォルダもあったけど、怖くて開けられない。
全然知らない人と写ってたらどうしようって。私にとって兄妹は、コーンフィールド級のみんななのに……。
つい、開けられないフォルダを見つめながら歩いていると、人とぶつかってしまった。
「おいガキ、前くらいちゃんと見てろや」
「あ、すみません……」
「すみませんで済むなら警察は要らんのや。なぁちょっと来いや」
「えっ…急いでるんで」
「ふざけんな」
胸ぐらを掴まれる。よく見てなかったけど、ガタイの良い男だ。
振りほどこうとしたけど、全然力が入らない。そっか、今、人間なんだ。
フネだった頃なら人間とは比較にならない力を出せたのに。
私は、今、見た目通りの、人間の、女の子程度の力しか持っていない。
ヒトである。なら、最悪この男に襲われてしまうかもしれない。
ヒトの身体でもし襲われたら。ゾッとする。どうして…………。
「なぁおっさん、ボクの可愛い妹に何してくれとんの……」
私は声の主に気付き驚く。男も声の方向に振り向く。
「……やっ!このクソボケカス野郎が!」
右ストレートが男の顔面に打ち込まれ、男は倒れてしまった。
「はぁ……なぁそこの緑髪のパンクファッションのイカしたネーチャン、ちょっとええか?」
「あっアタシ?」
「そうそうそこのべっぴんさんや」
「お、おう……アタシバイト行くとこなんだけど」
「この路上で寝とるおっさん、婦女暴行の現行犯やねん。ボク見張っとくから警察呼んでくれへん?」
「は?マジ?今すぐ呼ぶわ……………もしもし警察ですか?……」
「ふー……ほんに、一人暮らし始めて早々にこれかいな、先が思いやられるわ」
男をぶっ倒したのは、コーンフィールド級2番艦、キャロットフィールド……に、見えるけど……。
私のこと妹って言ってたよね……?
「え、えっと……キャロットの兄貴……だよ……ね?」
「なんや今他におらんのにわざわざ区別するような呼び方して……気色悪い」
「他!他に居るの!?兄貴!?」
「何言っとんのや、お前兄妹の7番目やろがい?下にも二人妹がおるんやで?学校で頭でも打ったんか」
「あ……あ………」
色々な感情が込み上げてきて涙が溢れてくる。
「兄貴……会いたかったよぉ……」
つい抱きついてしまう。私らしくもない。
「おわっ?!ウソやろそんな数日でホームシックなるぅ?」
「うぅ~……」
「てかな、お前スマホ持ってるんやから寂しかったら電話でもなんでもしてくればええんやで?」
「えっ?えっと……」
涙を拭ってスマホを操作する。連絡先とかいうアイコンがある。あー、全然気にしてなかった。
開いてみると、"兄妹"の文字。触ると、ぶわっと8人分の連絡先が出てきた。
なんでか、名前は絵文字で登録してある。
「……ひょっとして使い方わからんのか?」
「ば、バカにしないでよ」
「ほーん」
「うー……」
「普段なら"もっと他に言う事あるんちゃう?"とか言うとこやったけど、なんか珍しいもん見れたから勘弁しといたるわ」
「……あ。助けてくれてありがと」
「お、おう……」
「兄貴のこと、私、大好きだよ……」
つい余計なことまで口走ってしまった。
「……病院連れてこか?」
「あ、いや、いい、大丈夫。きっと明日には元の私だから……ね?」
「ヘンなヤツやなぁ。あーせや、別にお前と行こうと思っとったわけやないんやけどな」
そう言うと兄貴は、何かのチケットを差し出してくる。野球の現地観戦チケットみたいだ。
「やるから、来いよな」
「あ……ありがと。絶対行く」
「なんや調子狂うな…まぁええけど。お、ポリ公来よったな。説明してやらんとな」
私たちは警察に事情を説明した。ついでに、通報してくれた女性とも連絡先を交換しておいた。
辺りが薄暗くなりかける頃になって解散し、ようやく私は自室に帰ることが出来た。
「連絡先……うーん……」
キャロットの兄貴はそう大きく変わりなかったけど、他の兄妹はどうかわからない。
関係性も、想像と違う可能性がある。やっぱりまだちょっと怖いな。
それでも、一応知ってる顔がちゃんと私の兄妹みたいなので、写真の例のフォルダを開いてみる。
ああ、知ってる顔だ。安心する。写ってるシチュエーションはよくわからないけど……やっぱり、思い出そうとすれば、思い出せる。
ちょっとびっくりしたのは……私の知らない範囲のみんなの"昔"の写真もあることだった。
古い写真はちょっと画質が悪い。古い端末やカメラから持ち越してきたのだろうか。
ちっちゃい頃の"私"もある。私は、建造方法の関係で、こんな時期はあっという間に過ぎてしまったはずなんだけど。
そういえば兄貴たちの中には元人間も居るんだっけ……なんだかゾワゾワしてきた。ここではみんなヒトで、同じ時間を過ごしてきたんだ……。
それにしても、わざわざ古い写真を持ち越してるなんて。自分だけのじゃなくて、みんなの。
"私"、兄妹好き過ぎかよ。私も好きだけどさ。そう思うと、私と"私"もそんなに違わないのかもしれない。
そういえば、コットンフィールド級やネモフィラフィールドはどこに……と思って連絡先を探してみた。
結論として"親戚"に登録されていた。なるほど。確かに……。
……あっ、そろそろ出なきゃ。一応、約束だし。
そうして、私は再び学校へ向かった。
(おわり)
キャロットの兄貴はそう大きく変わりなかったけど、他の兄妹はどうかわからない。
関係性も、想像と違う可能性がある。やっぱりまだちょっと怖いな。
それでも、一応知ってる顔がちゃんと私の兄妹みたいなので、写真の例のフォルダを開いてみる。
ああ、知ってる顔だ。安心する。写ってるシチュエーションはよくわからないけど……やっぱり、思い出そうとすれば、思い出せる。
ちょっとびっくりしたのは……私の知らない範囲のみんなの"昔"の写真もあることだった。
古い写真はちょっと画質が悪い。古い端末やカメラから持ち越してきたのだろうか。
ちっちゃい頃の"私"もある。私は、建造方法の関係で、こんな時期はあっという間に過ぎてしまったはずなんだけど。
そういえば兄貴たちの中には元人間も居るんだっけ……なんだかゾワゾワしてきた。ここではみんなヒトで、同じ時間を過ごしてきたんだ……。
それにしても、わざわざ古い写真を持ち越してるなんて。自分だけのじゃなくて、みんなの。
"私"、兄妹好き過ぎかよ。私も好きだけどさ。そう思うと、私と"私"もそんなに違わないのかもしれない。
そういえば、コットンフィールド級やネモフィラフィールドはどこに……と思って連絡先を探してみた。
結論として"親戚"に登録されていた。なるほど。確かに……。
……あっ、そろそろ出なきゃ。一応、約束だし。
そうして、私は再び学校へ向かった。
(おわり)