「あっ、おはよーとーうちゃん」
「お、おはよう、ございます……!」
「今朝も早くから水やりかよー偉すぎか?」
「そ、そんなこと……ありません、よ?美化委員、ですから」
そう、これは美化委員としての日課。
そして……駆逐艦"凍雨"であった者としての、日課。
「お、おはよう、ございます……!」
「今朝も早くから水やりかよー偉すぎか?」
「そ、そんなこと……ありません、よ?美化委員、ですから」
そう、これは美化委員としての日課。
そして……駆逐艦"凍雨"であった者としての、日課。
小さい頃から、いわゆる"前世"のような記憶を持っていた。
その記憶がそういったものだと理解しないうちは、周りを困らせてしまっていたかもしれない。
ただ、理解してからも、私はこの記憶について、困ってしまっていた。
前世といえば、ふつうは、人間としての人生の記憶があるとか、そういうものだと思う。
それが私の持つ記憶といえば、軍艦の、駆逐艦としてのそう長くない生涯の記憶だったのだから。
その記憶がそういったものだと理解しないうちは、周りを困らせてしまっていたかもしれない。
ただ、理解してからも、私はこの記憶について、困ってしまっていた。
前世といえば、ふつうは、人間としての人生の記憶があるとか、そういうものだと思う。
それが私の持つ記憶といえば、軍艦の、駆逐艦としてのそう長くない生涯の記憶だったのだから。
大日本帝国海軍駆逐艦"凍雨"。
数多の同型艦を持つ、雨氷型駆逐艦の、9番艦。それが私だったと記憶は訴えてくる。
暑いところ、寒いところ、硝煙のにおい、油のにおい、血のにおい、死のにおい、つめたい海水。
小さい頃は、きっとこの記憶が、実際にどこかにある風景だと信じて疑わなかった。
だから、きっといつか、自分だったもののなれの果てを見に行くつもりだった。
でも、大きくなって、それが叶わないことを知った。
小学校で習った歴史が、記憶とぜんぜん違ったのだ。
わけがわからなかった。
確かにある駆逐艦としての記憶。
想像でもなんでもない、確固たるものだと思っていたのに。
全てが否定されてしまった。
ショックだった。
なら、私の頭の中にあるこれは、一体。何なの?
数多の同型艦を持つ、雨氷型駆逐艦の、9番艦。それが私だったと記憶は訴えてくる。
暑いところ、寒いところ、硝煙のにおい、油のにおい、血のにおい、死のにおい、つめたい海水。
小さい頃は、きっとこの記憶が、実際にどこかにある風景だと信じて疑わなかった。
だから、きっといつか、自分だったもののなれの果てを見に行くつもりだった。
でも、大きくなって、それが叶わないことを知った。
小学校で習った歴史が、記憶とぜんぜん違ったのだ。
わけがわからなかった。
確かにある駆逐艦としての記憶。
想像でもなんでもない、確固たるものだと思っていたのに。
全てが否定されてしまった。
ショックだった。
なら、私の頭の中にあるこれは、一体。何なの?
私はしばらく意気消沈していたのだけれど、今のこの学校に通うようになって、変わった。
この学校には、私の記憶の中にある、"みんな"が居る。
眼の前の人物を、この記憶が、かつての姉妹艦だ、僚艦だ、そして……敵艦だ、と訴えてくる。
もちろん、見たところ普通の人間だし、私自身がそうだ。
同じように記憶があるとは思ってないし、不審がられないように、そういった話題は避けていた。
この学校には、私の記憶の中にある、"みんな"が居る。
眼の前の人物を、この記憶が、かつての姉妹艦だ、僚艦だ、そして……敵艦だ、と訴えてくる。
もちろん、見たところ普通の人間だし、私自身がそうだ。
同じように記憶があるとは思ってないし、不審がられないように、そういった話題は避けていた。
やはり、この記憶は確かにあったことなのだろうと思う。
……この世界ではない、どこかで。そう、信じてみることにした。
私は駆逐艦"凍雨"だった。国家の、海軍の持つ、実力行使手段としての、兵器だった。そして、あの凄惨な最期を経験した。
今の私は、至って満ち足りた環境に生まれ、育てられ、何不自由なく、平和に過ごしている。
でも"この世界"は全てがそうではない。どれだけ自身が満たされていても、飢餓も、争いも絶えることはないのだ。
だからといって、ただの、一人の人間として生まれた今の私に、それらに対して出来ることはほとんどない。
あまりにも、無力。
だからせめて、手の届く範囲の命を大切にしたい。そう思って、私は美化委員になった。
……この世界ではない、どこかで。そう、信じてみることにした。
私は駆逐艦"凍雨"だった。国家の、海軍の持つ、実力行使手段としての、兵器だった。そして、あの凄惨な最期を経験した。
今の私は、至って満ち足りた環境に生まれ、育てられ、何不自由なく、平和に過ごしている。
でも"この世界"は全てがそうではない。どれだけ自身が満たされていても、飢餓も、争いも絶えることはないのだ。
だからといって、ただの、一人の人間として生まれた今の私に、それらに対して出来ることはほとんどない。
あまりにも、無力。
だからせめて、手の届く範囲の命を大切にしたい。そう思って、私は美化委員になった。
駆逐艦"凍雨"は、短く、何かを残せたかというと、むしろ奪った命のほうが多かったかもしれない生涯だった。
私がお世話をするのは、四季折々に咲く花々、子孫を残すため実を残す植物。
ひとつひとつの命は短いかもしれないけれど、結ばれる実は確かに次へ繋がれていく、命。
落ち込んでいる誰かの目に入れば、心の支えになってくれるかもしれない花。
ほんとうにほんとうに小さな事かもしれないけれど、これが今の私にできること。
私がお世話をするのは、四季折々に咲く花々、子孫を残すため実を残す植物。
ひとつひとつの命は短いかもしれないけれど、結ばれる実は確かに次へ繋がれていく、命。
落ち込んでいる誰かの目に入れば、心の支えになってくれるかもしれない花。
ほんとうにほんとうに小さな事かもしれないけれど、これが今の私にできること。
このごろ、気になっていることがある。
それは同じクラスの、夢美さん―記憶によると、彼女は超甲巡の"夢見"―の、最近ずっと見ているという夢の話だ。
夢美さんは隣の席のカイ君―彼もまた、雨氷型駆逐艦"氷塊"だと、私の記憶は言っている―と仲が良いのか、時々その話をしているのが聞こえてくる。
決して聞き耳を立てているつもりはないのだけど、ある時耳にしてしまってから、気にせずにはいられない。
"自分が軍艦として戦っていて、知ってる人も軍艦として出てくる"夢。
全部聞いたわけじゃないから、私の記憶と何か関係があるのか、それとも全然関係のないことなのかはわからない。
それでも、とても気になってしまう。
夢美さんは、その夢のことで思い悩むこともあるというような話もしていた気がする。
もし、私の記憶が夢美さんの手助けになるのなら……それとも、全然違って私が恥ずかしくなるだけなのか。
とても迷う。どうしよう。でも、夢美さん自身がそういう経験をしているなら、そしてカイ君がそういう話を馬鹿にせず聞いているのなら。
伝えてみる価値はあるのではないか。
的はずれなお話だったとしても、あまり挨拶以上のお話したことのない二人との会話のきっかけになれば。
お友達になるきっかけになったら、別に損は無いはず。
私の、決心。決断。
さっき挨拶をしてくれたのは、声をかけてくれたのはあの二人だ。
私は二人が遠ざかる前に、覚悟を決めて口を開く。
「あ、あのっ!」
「ん?どうしたの、とーうちゃん」
「わ、私……ゆ、夢美さんにお話したいことがありますっ!!」
(おわり)
それは同じクラスの、夢美さん―記憶によると、彼女は超甲巡の"夢見"―の、最近ずっと見ているという夢の話だ。
夢美さんは隣の席のカイ君―彼もまた、雨氷型駆逐艦"氷塊"だと、私の記憶は言っている―と仲が良いのか、時々その話をしているのが聞こえてくる。
決して聞き耳を立てているつもりはないのだけど、ある時耳にしてしまってから、気にせずにはいられない。
"自分が軍艦として戦っていて、知ってる人も軍艦として出てくる"夢。
全部聞いたわけじゃないから、私の記憶と何か関係があるのか、それとも全然関係のないことなのかはわからない。
それでも、とても気になってしまう。
夢美さんは、その夢のことで思い悩むこともあるというような話もしていた気がする。
もし、私の記憶が夢美さんの手助けになるのなら……それとも、全然違って私が恥ずかしくなるだけなのか。
とても迷う。どうしよう。でも、夢美さん自身がそういう経験をしているなら、そしてカイ君がそういう話を馬鹿にせず聞いているのなら。
伝えてみる価値はあるのではないか。
的はずれなお話だったとしても、あまり挨拶以上のお話したことのない二人との会話のきっかけになれば。
お友達になるきっかけになったら、別に損は無いはず。
私の、決心。決断。
さっき挨拶をしてくれたのは、声をかけてくれたのはあの二人だ。
私は二人が遠ざかる前に、覚悟を決めて口を開く。
「あ、あのっ!」
「ん?どうしたの、とーうちゃん」
「わ、私……ゆ、夢美さんにお話したいことがありますっ!!」
(おわり)