―1951年 幻海灘
私、八洲丸は今日もこの海域でお仕事中です。
最初は人員も居ないため、社長がモーターボートに載せたソナーで探索しつつの当てずっぽうな作業でした。
でも最近は米海軍の潜水調査の資料をもとに作業が進められているので、そこそこ効率的。
ただし、社長ではなく米海軍艦の監視がつくようになりました。……いえ、それは良いんですよ?私も安心できますから。
ただ、その米海軍艦というのが……。
最初は人員も居ないため、社長がモーターボートに載せたソナーで探索しつつの当てずっぽうな作業でした。
でも最近は米海軍の潜水調査の資料をもとに作業が進められているので、そこそこ効率的。
ただし、社長ではなく米海軍艦の監視がつくようになりました。……いえ、それは良いんですよ?私も安心できますから。
ただ、その米海軍艦というのが……。
「ララら~~~↓↓↑♪」
……掃海艇のハーピーさんというのですが。この方、所構わず歌いだします。
おまけに酷い音量・酷い音痴。その上普段のおしゃべりまでこんな調子なんです。
全く疲れるというか、どうしてこんな艦を私達のサポートに寄越したのでしょう。
「あのぉ!」
「はぁい~↑?」
「このあたりで作業開始したいと思うんですけど!」
「うんうん~↑↑」
「危険物とか!大丈夫ですか!」
「心配ありませんわ~~↑どうぞお続けになってぇ~↑↑↑」
……本土に帰るまで私の耳は無事で済むのでしょうか。
おまけに酷い音量・酷い音痴。その上普段のおしゃべりまでこんな調子なんです。
全く疲れるというか、どうしてこんな艦を私達のサポートに寄越したのでしょう。
「あのぉ!」
「はぁい~↑?」
「このあたりで作業開始したいと思うんですけど!」
「うんうん~↑↑」
「危険物とか!大丈夫ですか!」
「心配ありませんわ~~↑どうぞお続けになってぇ~↑↑↑」
……本土に帰るまで私の耳は無事で済むのでしょうか。
さて、作業を開始しましょう。
このあたりには日本海軍の駆逐艦が沈んでいるはずです。
記録をあたると、船団護衛中の空襲で行動不能となり、同伴していた輸送船により砲撃処分されたとか。
私は生まれてこの方、一発だって砲を撃つ機会は無かったのですが……。
輸送船でありながら、ついさっきまで護衛してくれていた同胞を撃って沈めなければならない苦しみは如何程のものだったのでしょう。
名も知らぬ輸送船の苦悩に思いを馳せながら、クレーンを降ろしていきます。
クレーンの先には海中作業を行う潜水士の妖精さん―妖精さんでいいのよね?勝手にそう呼んでるけど―がふたり一組ついている。
艤装と一緒にやってきた私の相棒たちを海の底へゆっくりと送り込む。
人間の潜水士より遥かに急激な環境の変化に耐えられるとはいえ、あまり乱暴な扱いはしたくないですもんね。
海底に到着すると、妖精さんたちが綱をクイクイと引っ張る。
合図が来たので。少しクレーンを持ち上げる。
作業が始まると、私は次の合図を待つのみ。
今日引き上げる駆逐艦はどんな子でしょうか。
時々、人型の原型を留めてないことがあります。あまり深く言及したくはないのですが。
人型の回収と、艤装の回収。大抵はこのふたつはセットで沈んでいるので、引き揚げたあとは人型は弔い、艤装はスクラップとして回収。
回収したスクラップを資源として売却することで収入を得るのが幻海サルベージのビジネスです。
ロープがクイクイと引っ張られます。固定作業が終わったようです。
合図を確認した私は落とさないよう慎重に引き揚げていきます。
このあたりには日本海軍の駆逐艦が沈んでいるはずです。
記録をあたると、船団護衛中の空襲で行動不能となり、同伴していた輸送船により砲撃処分されたとか。
私は生まれてこの方、一発だって砲を撃つ機会は無かったのですが……。
輸送船でありながら、ついさっきまで護衛してくれていた同胞を撃って沈めなければならない苦しみは如何程のものだったのでしょう。
名も知らぬ輸送船の苦悩に思いを馳せながら、クレーンを降ろしていきます。
クレーンの先には海中作業を行う潜水士の妖精さん―妖精さんでいいのよね?勝手にそう呼んでるけど―がふたり一組ついている。
艤装と一緒にやってきた私の相棒たちを海の底へゆっくりと送り込む。
人間の潜水士より遥かに急激な環境の変化に耐えられるとはいえ、あまり乱暴な扱いはしたくないですもんね。
海底に到着すると、妖精さんたちが綱をクイクイと引っ張る。
合図が来たので。少しクレーンを持ち上げる。
作業が始まると、私は次の合図を待つのみ。
今日引き上げる駆逐艦はどんな子でしょうか。
時々、人型の原型を留めてないことがあります。あまり深く言及したくはないのですが。
人型の回収と、艤装の回収。大抵はこのふたつはセットで沈んでいるので、引き揚げたあとは人型は弔い、艤装はスクラップとして回収。
回収したスクラップを資源として売却することで収入を得るのが幻海サルベージのビジネスです。
ロープがクイクイと引っ張られます。固定作業が終わったようです。
合図を確認した私は落とさないよう慎重に引き揚げていきます。
妖精さんたちが浮上してきたので収容し、引き揚げ対象も海面に顔を出しました。
見たところ、五体満足です。破壊されていますが、艤装もばっちりついています。
「ハーピーさあん!」
「はぁい~↑↑」
「引き揚げ対象、収容できたので、港への誘導お願いしまぁす!」
「了解しましたわ~↑……」
不意にハーピーさんのご機嫌な表情が真顔に変わりました。
「あ、あの?」
「ヤシマさん、今すぐ"それ"を放棄してくださいまし!」
「えっ?」
「早く!」
「はっはい!?」
何がなんだかわかりませんが、大慌てで指示通り回収した身体と艤装を投棄。
すると、ハーピーさんは自身の掃海具を振り回し始め、西部劇の投げ縄のように投げつけ、器用に身体を縛り上げた。
「あ、あの……どういうこと……でしょうか?」
「近づかないで!」
「あっはい」
「……ヤシマさんは初めてですわね?見ててくださいね」
捕縛された身体をじっと眺めていると、突然目が開いた。
「ひぇっ?!」
「……シテ」
「え……」
「ドウシテ……ドウシテ…ドウシテドウシテ」
うわ言のように声を発し続ける身体から、ドス黒いモヤのようなものが湧き出してくる。
モヤは身体を取り巻くと、固まり始める。
「ドウシテ……マダ…………」
艤装が壊れているにも関わらず"それ"は海面に立ち上がる。
「ヤシマさん!耳塞いで!」
「はい!!」
私は両手でギュッと耳を塞ぐ。
ハーピーさんはヘッジホッグランチャーに手をかけ、発射した。
"それ"に浴びせられる無数の迫撃砲弾、炸裂音。
"それ"は態勢を崩し、海面に倒れ込む。
そしてハーピーさんはすかさず"それ"に馬乗りになり、自らの艤装から備砲を外し……。
「もう少しだけ、おやすみなさってくださいまし!」
"それ"の頭のようなところへ砲身を突き立て、発砲。
「ひっ!?」
私は一瞬目を逸らしましたが、想像していたような事は起こりませんでした。
代わりに、身体を覆っていた"それ"が、ゆで卵の殻のようにパラパラと取れていって……。
「……ふぅ。終わりましたわよ」
「あ、あ、あの……これは一体……どういう……?」
見たところ、五体満足です。破壊されていますが、艤装もばっちりついています。
「ハーピーさあん!」
「はぁい~↑↑」
「引き揚げ対象、収容できたので、港への誘導お願いしまぁす!」
「了解しましたわ~↑……」
不意にハーピーさんのご機嫌な表情が真顔に変わりました。
「あ、あの?」
「ヤシマさん、今すぐ"それ"を放棄してくださいまし!」
「えっ?」
「早く!」
「はっはい!?」
何がなんだかわかりませんが、大慌てで指示通り回収した身体と艤装を投棄。
すると、ハーピーさんは自身の掃海具を振り回し始め、西部劇の投げ縄のように投げつけ、器用に身体を縛り上げた。
「あ、あの……どういうこと……でしょうか?」
「近づかないで!」
「あっはい」
「……ヤシマさんは初めてですわね?見ててくださいね」
捕縛された身体をじっと眺めていると、突然目が開いた。
「ひぇっ?!」
「……シテ」
「え……」
「ドウシテ……ドウシテ…ドウシテドウシテ」
うわ言のように声を発し続ける身体から、ドス黒いモヤのようなものが湧き出してくる。
モヤは身体を取り巻くと、固まり始める。
「ドウシテ……マダ…………」
艤装が壊れているにも関わらず"それ"は海面に立ち上がる。
「ヤシマさん!耳塞いで!」
「はい!!」
私は両手でギュッと耳を塞ぐ。
ハーピーさんはヘッジホッグランチャーに手をかけ、発射した。
"それ"に浴びせられる無数の迫撃砲弾、炸裂音。
"それ"は態勢を崩し、海面に倒れ込む。
そしてハーピーさんはすかさず"それ"に馬乗りになり、自らの艤装から備砲を外し……。
「もう少しだけ、おやすみなさってくださいまし!」
"それ"の頭のようなところへ砲身を突き立て、発砲。
「ひっ!?」
私は一瞬目を逸らしましたが、想像していたような事は起こりませんでした。
代わりに、身体を覆っていた"それ"が、ゆで卵の殻のようにパラパラと取れていって……。
「……ふぅ。終わりましたわよ」
「あ、あ、あの……これは一体……どういう……?」
「強い負の感情とともに沈んだ艦船を引き揚げると、時々こういうことが起こりますのよ」
ハーピーさんは掃海索でぐるぐる巻きになった身体を曳航しながら話します。
「そんなの初耳なんですけど!?」
「もっと詳しく言えば、艦船が強い負の感情を抱えたまま、艦船としての機能を喪失した場合に、こうなることがあると聞いてますわね」
「どうしてそんなことが……」
「さぁ、私には……わかりませんわ~↑↑」
「あっ、でも……」
なんとなく、ひとつ、心当たりがあった。
「どうかなさいましたか~↑↑♪」
「解体される時って、記憶を消すかどうか、聞かれるじゃないですか」
「そうらしいですわね~↑♪」
「それって、つらい記憶と決別したい艦への配慮、なんて説明されるんですけど」
「うんうん~↑↑♪」
「ひょっとして、つらい記憶が負の感情を呼び覚ますとこうなる可能性があるから……とかだったりします?」
「察しの良いフネですわね~↓↓♪」
「そう、なんですね……」
「これからこの子も、港へ運んだら即座に!解体処置を行って記憶も封じてもらいますわ~↑↑♪」
「もしかして放っといたらまた……?」
「その通りですわ~↑♪」
私はゾッとしてしまいました。今まではなんとなくフネのままでありたいと思っていたのですが。
私も、こうなってしまう因子を抱えているのなら……ますます、フネでなくなることが怖くなります。
「あ~でも、この現象は悪いことばかりではありませんわよ~↑?」
「どういうことですか、こんなのどう見たって気味悪いのに……」
「こうなるということは、確実に"生きてる"証なのですわ~↑↑♪」
「生きてる?」
「ええ、艦船は"艦魂"の力を失わなかった場合、海底であっても生き続けますのよ~↑♪」
沈んでも、生きてる……。
「ですから、この子は解体処理の後、第二の人生を生きることができるのですわ~↑↑↑♪」
「でも、記憶は…」
「仕方ありませんわ~↑♪その場で殺すより有情でしてよ~↓↑♪」
「う、ん……そうですね……」
……待って待って。艦船は必ずしも、負の感情と共に沈むとは限らないはずです。
「それじゃ、負の感情を持たずに沈んで、なおかつ生きていた場合はどうなるんですか?」
「あら、それは普通に息を吹き返しますわよ~?」
「そうなんですね!?」
長いこと起重機船として生きてきたけど、まだ知らないことがいくらかあるみたいです。
このしばらく後、この日引き揚げた子は幻海サルベージで雇用されました。
更にそののちにもう1隻、今度は"こう"ならなかった子を引き揚げることになりますが、それはまた別の話です。
(おわり)
ハーピーさんは掃海索でぐるぐる巻きになった身体を曳航しながら話します。
「そんなの初耳なんですけど!?」
「もっと詳しく言えば、艦船が強い負の感情を抱えたまま、艦船としての機能を喪失した場合に、こうなることがあると聞いてますわね」
「どうしてそんなことが……」
「さぁ、私には……わかりませんわ~↑↑」
「あっ、でも……」
なんとなく、ひとつ、心当たりがあった。
「どうかなさいましたか~↑↑♪」
「解体される時って、記憶を消すかどうか、聞かれるじゃないですか」
「そうらしいですわね~↑♪」
「それって、つらい記憶と決別したい艦への配慮、なんて説明されるんですけど」
「うんうん~↑↑♪」
「ひょっとして、つらい記憶が負の感情を呼び覚ますとこうなる可能性があるから……とかだったりします?」
「察しの良いフネですわね~↓↓♪」
「そう、なんですね……」
「これからこの子も、港へ運んだら即座に!解体処置を行って記憶も封じてもらいますわ~↑↑♪」
「もしかして放っといたらまた……?」
「その通りですわ~↑♪」
私はゾッとしてしまいました。今まではなんとなくフネのままでありたいと思っていたのですが。
私も、こうなってしまう因子を抱えているのなら……ますます、フネでなくなることが怖くなります。
「あ~でも、この現象は悪いことばかりではありませんわよ~↑?」
「どういうことですか、こんなのどう見たって気味悪いのに……」
「こうなるということは、確実に"生きてる"証なのですわ~↑↑♪」
「生きてる?」
「ええ、艦船は"艦魂"の力を失わなかった場合、海底であっても生き続けますのよ~↑♪」
沈んでも、生きてる……。
「ですから、この子は解体処理の後、第二の人生を生きることができるのですわ~↑↑↑♪」
「でも、記憶は…」
「仕方ありませんわ~↑♪その場で殺すより有情でしてよ~↓↑♪」
「う、ん……そうですね……」
……待って待って。艦船は必ずしも、負の感情と共に沈むとは限らないはずです。
「それじゃ、負の感情を持たずに沈んで、なおかつ生きていた場合はどうなるんですか?」
「あら、それは普通に息を吹き返しますわよ~?」
「そうなんですね!?」
長いこと起重機船として生きてきたけど、まだ知らないことがいくらかあるみたいです。
このしばらく後、この日引き揚げた子は幻海サルベージで雇用されました。
更にそののちにもう1隻、今度は"こう"ならなかった子を引き揚げることになりますが、それはまた別の話です。
(おわり)