朝の登校時間。
山根さんからは、あれ以来特に夢についての話は聞けていない。
……正直、訊くのが怖かった。訊いたことで、関係が壊れてしまうことを避けたかった。
夢を紐解く手がかりになるのは間違いないのだけど……。
同じ夢を見ることって、あるのかな?フリッツ先生やモルトケ先輩は、そういった知識があるだろうか。
また機会があったら、訊いてみよう。
そんなことを考えながら校門に差し掛かると、花壇を手入れしている同級生の姿が。
「あっ、おはよーとーうちゃん」
とーうちゃん。この子も、夢の中では駆逐艦"凍雨"として出てくる。
カイくん同様に、姿かたちも性格も、それほど相違が無いままに。
「お、おはよう、ございます……!」
「今朝も早くから水やりかよー偉すぎか?」
「そ、そんなこと……ありません、よ?美化委員、ですから」
生き物を大切にしている、絵に描いたような優しい子。
一人で集中している事が多いから、あんまり積極的に声をかける機会は無かった。
「あ、あのっ!」
……なんて思ってるそばから、まさか声をかけられるとは思わなかったのでビックリしてしまった。
「ん?どうしたの、とーうちゃん」
「わ、私……ゆ、夢美さんにお話したいことがありますっ!!」
「えっ、私に?突然どうしたの?」
「おっ告白か?」
「なんでそーなるのよ!」
「あわ、えっと、そういうんじゃなくって……」
とーうちゃんの目が泳いでしまっている。カイくんのせいだぞっ。
「あの、その……夢見さんの見てる"夢"に関係するかもしれなくって……」
ずきん、と心臓に衝撃が走った。予想外の方向から来た。
「……そういうことなら、お昼休みに改めて、ゆっくり話そっか」
山根さんからは、あれ以来特に夢についての話は聞けていない。
……正直、訊くのが怖かった。訊いたことで、関係が壊れてしまうことを避けたかった。
夢を紐解く手がかりになるのは間違いないのだけど……。
同じ夢を見ることって、あるのかな?フリッツ先生やモルトケ先輩は、そういった知識があるだろうか。
また機会があったら、訊いてみよう。
そんなことを考えながら校門に差し掛かると、花壇を手入れしている同級生の姿が。
「あっ、おはよーとーうちゃん」
とーうちゃん。この子も、夢の中では駆逐艦"凍雨"として出てくる。
カイくん同様に、姿かたちも性格も、それほど相違が無いままに。
「お、おはよう、ございます……!」
「今朝も早くから水やりかよー偉すぎか?」
「そ、そんなこと……ありません、よ?美化委員、ですから」
生き物を大切にしている、絵に描いたような優しい子。
一人で集中している事が多いから、あんまり積極的に声をかける機会は無かった。
「あ、あのっ!」
……なんて思ってるそばから、まさか声をかけられるとは思わなかったのでビックリしてしまった。
「ん?どうしたの、とーうちゃん」
「わ、私……ゆ、夢美さんにお話したいことがありますっ!!」
「えっ、私に?突然どうしたの?」
「おっ告白か?」
「なんでそーなるのよ!」
「あわ、えっと、そういうんじゃなくって……」
とーうちゃんの目が泳いでしまっている。カイくんのせいだぞっ。
「あの、その……夢見さんの見てる"夢"に関係するかもしれなくって……」
ずきん、と心臓に衝撃が走った。予想外の方向から来た。
「……そういうことなら、お昼休みに改めて、ゆっくり話そっか」
昼休み。午前中の授業はさっぱり頭に入ってこなかった。
とーうちゃんがどういう話をするのか、ずっと頭の中をぐるぐるしていた。
「夢美さん、なんだかずっとそわそわしてましたよね……ごめんなさい。朝にする話じゃ、なかったかも」
うわ、バレてる。
「いやいやいーのいーの、とーうちゃんなんにも悪くないよ!……それで、夢、の話なんだっけ」
「……はい。夢美さん、ここのところ、自分が軍艦として戦う夢を見てる、みたいなことを、お話してますよね」
「そうそう。実はとーうちゃんも出てくるのよ」
「…………雨氷型駆逐艦"凍雨"ですか」
こうも具体的に単語が出てくるとドキドキしてしまう。
「……そう。雨氷型駆逐艦。たぶん、この世界には実在しないんだよね?」
「そう、です。この世界には、そんなものは、存在しません……」
「とーうちゃんは、どうして知ってるの?同じ夢を見てたり?」
「いいえ、私はそうじゃなくて…………」
とーうちゃんは語り始める。
小さな頃から、物言わぬ駆逐艦凍雨としての記憶があったこと。
でも、この世界には存在しないと知ったこと。
そして……この学校には、私を含めて、艦船として知っている人がたくさん居ること。
私の見ている夢と近しいようで……決定的に違うところがある。
「私の見ている夢じゃ、みんなヒトの形してるのよね」
「私の記憶では、私たちの知る、人が乗ることで戦える軍艦なんですけど……」
そして彼女は続けて語る。
駆逐艦"凍雨"の搭乗員のこと、艦長のこと、そして……最期のこと。
……とーうちゃんの記憶は、あくまで記憶なのだ。
一方で私は、夢として現在進行系の事象。夢の中では自分の意志で動いている。
流石に夢の中の凍雨ちゃんが何を経験したのかまでは把握していない。
とーうちゃんの記憶の方も、正確な年月日まではわからないようだ。
「……余計に謎、深まっちゃったなぁ」
「そう、みたいですね…………お力になれず、すみません……」
「ううん、お話してくれてありがとう!もしかしたら、これから役に立つかもしれないし」
「そう言ってもらえると私も……嬉しいです」
「ふふ、もうそんなよそよそしくしなくていいんだよ?」
「えっ?」
「だって、もう秘密を共有する仲じゃない。友達だよ友達」
「友、達……」
少し照れくさそうにするとーうちゃん。
「そう、ですね。お友達です!」
「うんうん。別にさ、秘密のお話以外にもさ、一緒にいろんなことしてみたいし」
「そういうの、不慣れですけど……よろしくお願いします!」
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「あ、もう席に戻らないと……夢の中の私も、よろしくお願いしますね」
「うん、もちろん!」
……結果的には、良かったのかな?
とーうちゃんがどういう話をするのか、ずっと頭の中をぐるぐるしていた。
「夢美さん、なんだかずっとそわそわしてましたよね……ごめんなさい。朝にする話じゃ、なかったかも」
うわ、バレてる。
「いやいやいーのいーの、とーうちゃんなんにも悪くないよ!……それで、夢、の話なんだっけ」
「……はい。夢美さん、ここのところ、自分が軍艦として戦う夢を見てる、みたいなことを、お話してますよね」
「そうそう。実はとーうちゃんも出てくるのよ」
「…………雨氷型駆逐艦"凍雨"ですか」
こうも具体的に単語が出てくるとドキドキしてしまう。
「……そう。雨氷型駆逐艦。たぶん、この世界には実在しないんだよね?」
「そう、です。この世界には、そんなものは、存在しません……」
「とーうちゃんは、どうして知ってるの?同じ夢を見てたり?」
「いいえ、私はそうじゃなくて…………」
とーうちゃんは語り始める。
小さな頃から、物言わぬ駆逐艦凍雨としての記憶があったこと。
でも、この世界には存在しないと知ったこと。
そして……この学校には、私を含めて、艦船として知っている人がたくさん居ること。
私の見ている夢と近しいようで……決定的に違うところがある。
「私の見ている夢じゃ、みんなヒトの形してるのよね」
「私の記憶では、私たちの知る、人が乗ることで戦える軍艦なんですけど……」
そして彼女は続けて語る。
駆逐艦"凍雨"の搭乗員のこと、艦長のこと、そして……最期のこと。
……とーうちゃんの記憶は、あくまで記憶なのだ。
一方で私は、夢として現在進行系の事象。夢の中では自分の意志で動いている。
流石に夢の中の凍雨ちゃんが何を経験したのかまでは把握していない。
とーうちゃんの記憶の方も、正確な年月日まではわからないようだ。
「……余計に謎、深まっちゃったなぁ」
「そう、みたいですね…………お力になれず、すみません……」
「ううん、お話してくれてありがとう!もしかしたら、これから役に立つかもしれないし」
「そう言ってもらえると私も……嬉しいです」
「ふふ、もうそんなよそよそしくしなくていいんだよ?」
「えっ?」
「だって、もう秘密を共有する仲じゃない。友達だよ友達」
「友、達……」
少し照れくさそうにするとーうちゃん。
「そう、ですね。お友達です!」
「うんうん。別にさ、秘密のお話以外にもさ、一緒にいろんなことしてみたいし」
「そういうの、不慣れですけど……よろしくお願いします!」
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「あ、もう席に戻らないと……夢の中の私も、よろしくお願いしますね」
「うん、もちろん!」
……結果的には、良かったのかな?
下校時間。
私とカイくんは、とーうちゃんの美化委員のお仕事が終わるまで校門前で待っていた。
帰っていく生徒を眺める。
私の夢の中で艦船として知っている子は言うほど多くないのだけど、とーうちゃんは、もっともっと心当たりがあるのだろうか。
「やっほーゆめみん、カイくんともども何してんの」
「あ、樹雨ちゃんに氷雨ちゃん。私らとーうちゃん待ち」
樹雨ちゃん。誰にでもこんな調子で渾名をつけて呼ぶフレンドリーな子。
「あぁ、彼女ならさっき道具を片付けていた。じきに来ると思うよ」
氷雨ちゃん。どこかクールな子。よく樹雨ちゃんと居るのを見かける。
「そういうことならお先に失礼~じゃあねー♪」
「気を付けてねー」
温度差がある二人だけど、だからこそああやって仲が良いのか……どうなんだろう。
「あらあら、いつも仲睦まじくお帰りのお二人がどうしてここに?待ち合わせかしら?」
氷輪ちゃん。この子は夢の中でも知っている。あまり雰囲気は違わない。
「ええ、とーうちゃんを待ってるんです」
「へぇ、あの子を。そう……楽しい帰り路になるといいわね」
……本当に同級生なんだろうか、この子は。
校門の反対側を見ると、ろーせつちゃんが妹さん?と合流して帰ろうとしている。
こちらに気づいたのか、手を振ってくれたので振り返す。
別のクラスなので話す機会は無いけど、よく見かけるので挨拶くらいはしている。
何度かしてたら、気づいてくれたのか返してくれるようになったんだよね。
「やぁ。待ち人かい」
「留萌パイセンちーっす」
「ええ、同じクラスの子を待ってるんです」
留萌先輩。夢の中では同期の軽巡洋艦……なのだけど、全然雰囲気が違う。夢の中では凄く気弱な感じ。
現実ではなんというか、"圧"がある。別人みたいだ。いや、別人なんだろうけど。
「そうかい。しかし、しばらく眺めていたけど、随分と色んな子に声をかけられているじゃないか」
「見てたんですか?まぁ…みんな良い子ですから」
「ボクは君の資質によるものだと思うけどね」
「どういうことですか?」
「ふふ。いつかわかる日が来るよ」
「パイセンの意味深発言始まったわー」
「なんでもいいけど、暗くなる前に帰りなよ。じゃ」
……なんなのだろう、この先輩。
「みーつけた!」
背筋に悪寒が走る。甲高く響くこの声の主は……。
「ねーぇ、演劇部も体験入部してみない~?」
「ま、また今度で……」
アリス……夢の中で見た子、この学校にも居たんだ。
追いすがられている金髪ポニーテールの子に部活の勧誘をしているだけで、私に声をかけた訳じゃないみたいだ。
心臓に悪い。ふたりとも高等部三年の記章がついている。どちらも先輩らしい。
アリス先輩が振り向き、目が合う。彼女はニコッとすると、校内へ戻っていった。やっぱり怖い。
「お待たせしました~!」
とーうちゃんだ。
「おつかれー」
「用具の整理にちょっと時間かかって遅くなっちゃいました」
「気にしないよ~。それじゃ、帰ろっか」
「……はい!」
こうして、私たち三人は帰路につくのでした。
(おわり)
私とカイくんは、とーうちゃんの美化委員のお仕事が終わるまで校門前で待っていた。
帰っていく生徒を眺める。
私の夢の中で艦船として知っている子は言うほど多くないのだけど、とーうちゃんは、もっともっと心当たりがあるのだろうか。
「やっほーゆめみん、カイくんともども何してんの」
「あ、樹雨ちゃんに氷雨ちゃん。私らとーうちゃん待ち」
樹雨ちゃん。誰にでもこんな調子で渾名をつけて呼ぶフレンドリーな子。
「あぁ、彼女ならさっき道具を片付けていた。じきに来ると思うよ」
氷雨ちゃん。どこかクールな子。よく樹雨ちゃんと居るのを見かける。
「そういうことならお先に失礼~じゃあねー♪」
「気を付けてねー」
温度差がある二人だけど、だからこそああやって仲が良いのか……どうなんだろう。
「あらあら、いつも仲睦まじくお帰りのお二人がどうしてここに?待ち合わせかしら?」
氷輪ちゃん。この子は夢の中でも知っている。あまり雰囲気は違わない。
「ええ、とーうちゃんを待ってるんです」
「へぇ、あの子を。そう……楽しい帰り路になるといいわね」
……本当に同級生なんだろうか、この子は。
校門の反対側を見ると、ろーせつちゃんが妹さん?と合流して帰ろうとしている。
こちらに気づいたのか、手を振ってくれたので振り返す。
別のクラスなので話す機会は無いけど、よく見かけるので挨拶くらいはしている。
何度かしてたら、気づいてくれたのか返してくれるようになったんだよね。
「やぁ。待ち人かい」
「留萌パイセンちーっす」
「ええ、同じクラスの子を待ってるんです」
留萌先輩。夢の中では同期の軽巡洋艦……なのだけど、全然雰囲気が違う。夢の中では凄く気弱な感じ。
現実ではなんというか、"圧"がある。別人みたいだ。いや、別人なんだろうけど。
「そうかい。しかし、しばらく眺めていたけど、随分と色んな子に声をかけられているじゃないか」
「見てたんですか?まぁ…みんな良い子ですから」
「ボクは君の資質によるものだと思うけどね」
「どういうことですか?」
「ふふ。いつかわかる日が来るよ」
「パイセンの意味深発言始まったわー」
「なんでもいいけど、暗くなる前に帰りなよ。じゃ」
……なんなのだろう、この先輩。
「みーつけた!」
背筋に悪寒が走る。甲高く響くこの声の主は……。
「ねーぇ、演劇部も体験入部してみない~?」
「ま、また今度で……」
アリス……夢の中で見た子、この学校にも居たんだ。
追いすがられている金髪ポニーテールの子に部活の勧誘をしているだけで、私に声をかけた訳じゃないみたいだ。
心臓に悪い。ふたりとも高等部三年の記章がついている。どちらも先輩らしい。
アリス先輩が振り向き、目が合う。彼女はニコッとすると、校内へ戻っていった。やっぱり怖い。
「お待たせしました~!」
とーうちゃんだ。
「おつかれー」
「用具の整理にちょっと時間かかって遅くなっちゃいました」
「気にしないよ~。それじゃ、帰ろっか」
「……はい!」
こうして、私たち三人は帰路につくのでした。
(おわり)