ある日、ある教室。
「せんせー、山根さんが眠り込んでしまったので保健室へ運んでいいっすかー?」
「あっ、私も手伝います!」
「あらあら、いつもありがとうね」
高校生の夢美は、眠り込んでしまった同級生を教室から運び出すのを手伝う。
「俺は席隣だから当たり前だけどさ、夢美はなんでいっつも手伝ってくれるワケ?」
「は?私だってカイくんの隣なんだから当たり前じゃん」
「そっかー。俺のこと好き過ぎかと思ったわ」
「またそんなこと言ってさー」
「ごめんて」
「それにしても、山根さん大丈夫かな……ナル……なんだっけ、アレになってからこんな調子でさ」
「授業ついてこれてんのか心配よな」
「うん……」
「せんせー、山根さんが眠り込んでしまったので保健室へ運んでいいっすかー?」
「あっ、私も手伝います!」
「あらあら、いつもありがとうね」
高校生の夢美は、眠り込んでしまった同級生を教室から運び出すのを手伝う。
「俺は席隣だから当たり前だけどさ、夢美はなんでいっつも手伝ってくれるワケ?」
「は?私だってカイくんの隣なんだから当たり前じゃん」
「そっかー。俺のこと好き過ぎかと思ったわ」
「またそんなこと言ってさー」
「ごめんて」
「それにしても、山根さん大丈夫かな……ナル……なんだっけ、アレになってからこんな調子でさ」
「授業ついてこれてんのか心配よな」
「うん……」
保健室。
「二人ともご苦労。いやはや、大変だな彼女も」
彼はこの学校の保険医のフリッツ。ドイツ出身であり、女子生徒からの人気が高い。
「あの、先生。これってどういう病気なんですか?前に説明は受けたんですけど、改めて知りたくって」
「ああ、ナルコレプシーのことか。この症状はな、ヒポクレチンを作り出す神経細胞が働かなくなることで起こる」
「ヒポ…?」
「ヒポクレチンは視床下部の神経細胞で生産される神経ペプチドの一種だ。いくつかの働きがあるが、この症状に関わってくるのは覚醒、目覚めを制御するはたらきだ」
フリッツは高校生にはやや難しい語彙で、しかし誠実に説明する。
「働かなくなってしまう原因はよくわかっていない。遺伝子異常であるとか、免疫異常の結果であるとか、色々な仮説が立てられている。いずれにせよ、神経細胞が働かなくなることが症状の原因だ」
「それって治せるんですか?」
「ああ、根本治療の方法はまだ無い。だが人間の脳とは面白いものでね。欠けてしまったものを他の部分で補おうとする働きがあるのだ」
「ってーと、つまり、何?」
「薬による対症療法や生活習慣の改善の組み合わせで症状を軽くすることができる。"病気と付き合っていく"というやり方だな」
「病気と付き合う……」
「そうだ。君たちは病気は完治させて解決するものだと考えているかもしれないが、世の中の病気が全て根治できるというものではない。それは驕りというものだ」
フリッツは立ち上がり、ベッドで眠る少女を見やる。
「彼女もそのようにしてゆっくりと治療していかなければならない。焦っちゃダメだ。彼女だけでなく、君たちも、根気よく彼女の病気と付き合っていく必要がある」
「二人ともご苦労。いやはや、大変だな彼女も」
彼はこの学校の保険医のフリッツ。ドイツ出身であり、女子生徒からの人気が高い。
「あの、先生。これってどういう病気なんですか?前に説明は受けたんですけど、改めて知りたくって」
「ああ、ナルコレプシーのことか。この症状はな、ヒポクレチンを作り出す神経細胞が働かなくなることで起こる」
「ヒポ…?」
「ヒポクレチンは視床下部の神経細胞で生産される神経ペプチドの一種だ。いくつかの働きがあるが、この症状に関わってくるのは覚醒、目覚めを制御するはたらきだ」
フリッツは高校生にはやや難しい語彙で、しかし誠実に説明する。
「働かなくなってしまう原因はよくわかっていない。遺伝子異常であるとか、免疫異常の結果であるとか、色々な仮説が立てられている。いずれにせよ、神経細胞が働かなくなることが症状の原因だ」
「それって治せるんですか?」
「ああ、根本治療の方法はまだ無い。だが人間の脳とは面白いものでね。欠けてしまったものを他の部分で補おうとする働きがあるのだ」
「ってーと、つまり、何?」
「薬による対症療法や生活習慣の改善の組み合わせで症状を軽くすることができる。"病気と付き合っていく"というやり方だな」
「病気と付き合う……」
「そうだ。君たちは病気は完治させて解決するものだと考えているかもしれないが、世の中の病気が全て根治できるというものではない。それは驕りというものだ」
フリッツは立ち上がり、ベッドで眠る少女を見やる。
「彼女もそのようにしてゆっくりと治療していかなければならない。焦っちゃダメだ。彼女だけでなく、君たちも、根気よく彼女の病気と付き合っていく必要がある」
昼休み。
「山根さん戻ってきたけどさ、やっぱり眠そうだよね……」
「アイツも頑張ってんだろーな」
「そうだね、私たちも頑張らなくちゃ。フリッツ先生もそう言ってたし」
ふと、夢美は自分の事が気になった。
眠りに関わる病気があるなら、夢に関わる病気もあったりするのだろうか?自分の夢は、何か病的なもの?
フリッツ先生に訊いてみたいけど、別に困ってる訳じゃないから、お邪魔するのも気が引ける……。
そんなことを考えていると、ある人物が目の前を通りがかる。
「あら、どうしたんですか?二人とも神妙な顔しちゃって……」
「あ、しおん先輩!あ、あとモルトケ先輩も!こんにちは!」
「ちっす!」
「もーカイくん軽すぎ!ごめんなさい失礼なことを…」
「構わないぞ。よそよそしくされる方が気が引ける」
「そうですよ?ひとつしか歳が違わないんですからね」
夢美はふと思った。フリッツ先生はドイツ人だけど、モルトケ先輩もドイツ人だから、こういうことも詳しかったりしないかな?
ちょっと安直な発想だと思いつつも、話題の1つだと思って振ってみることにした。
「モルトケ先輩って、医療知識とかってあります?」
「医療か?うーん、あまり専門的なことは話せないが、興味はあるから知識の1つとしてはあるな」
「えっと…それじゃあ、夢に関わる病気とかって知ってますか?」
「精神医学的な話か?それなら、ドイツの隣のオーストリア出身のジークムント・フロイトの研究が有名だ。フロイトの名前くらい聞いたことあるだろう」
「なんでも性欲と結びつけてるアレっすか?」
「そんな雑な覚え方はどうかと思うが……それで有名だから仕方ないか」
モルトケはかけている眼鏡を畳み、片手で摘むようにして振りながら話を続ける。
「古来、夢とは神秘的なものだった。神のお告げだとか、吉兆、凶兆……もう少し進むと、寝ている間の感覚の刺激が反映されているのだ、とも言われるようになった。外部的な要因によるものだと考えられていた訳だな」
「私も、小さい頃はそういうものだと思ってましたね」
しおんが相槌を入れる。
「そんな中フロイトは、それだけではなく、精神状態と関わりがあるということを指摘した。夢の素材は内なるものであり、夢は現実で満たされない願望を満たすための働きをしているのだ、とね」
「内なる願望?」
「そうだ。小さい頃見た夢は単純なものが多かったと思わないか?どこかへ出かける夢とか、誰かと会う夢、楽しい夢、怖い夢……」
「わかる。よくわかんねーデカいショッピングモール行く夢とか見てたわ」
「だが、成長すると夢も単純ではなくなってくる。何故なら、人間の欲求も複雑になっていくからだ」
「なるほど~」
「えっ、でも、それじゃ私の夢って…………」
「夢美さんの夢?どんな夢なんですか?」
「えーっと……」
夢美は話せるだけ話す。戦争のさなか、自分が兵器として戦う夢。知り合いやそうでない人もたくさん出てくる。突飛でありながら、現実感の伴った、夢。
「そうだな、フロイトの理論でいけば、話は逆戻りしてしまうが、そういった夢は性欲の暗喩ということになってしまう。出てくる知り合い、大砲、血みどろの戦い……」
「ほらほらやっぱり」
「どーゆーイミよ!?」
「俺の話は終わってないぞ。夢の話をするならもう一人欠かせない人物がいる。カール・グスタフ・ユングだ。彼は当初、フロイトの熱烈な信奉者だった」
「なら、その、ユングって人も同じ意見じゃないんですか?」
「最初はそうだった。フロイトもユングを自身の後継者と目していた。だが、少しづつ理論の違いを出してくるようになり、袂を分かつことになるんだ」
「はえー」
「ユングの理論では、夢は意識と無意識の相互作用によって形成されるとある」
「また、難しいですね」
「ただ夢で見た内容から決めつけずに、見た人の意識の状態、覚醒状態で夢から連想されるものの聞き取り…そういったことが、夢から精神治療の手がかりを探るのに重要だとしたわけだな」
「私の夢から連想って言ってもなぁー……」
「ユングはこうも言っている。あまり急いで解釈するな、とにかく理解しようとしないように、と。夢は内から発生するものだ。自分の一部として時間をかけてゆっくりと受け入れる必要があるんだ」
夢美はハッとした。違う話題だけど、フリッツ先生と結論は同じ。急がないこと、受け入れること、付き合っていくこと……。
「山根さん戻ってきたけどさ、やっぱり眠そうだよね……」
「アイツも頑張ってんだろーな」
「そうだね、私たちも頑張らなくちゃ。フリッツ先生もそう言ってたし」
ふと、夢美は自分の事が気になった。
眠りに関わる病気があるなら、夢に関わる病気もあったりするのだろうか?自分の夢は、何か病的なもの?
フリッツ先生に訊いてみたいけど、別に困ってる訳じゃないから、お邪魔するのも気が引ける……。
そんなことを考えていると、ある人物が目の前を通りがかる。
「あら、どうしたんですか?二人とも神妙な顔しちゃって……」
「あ、しおん先輩!あ、あとモルトケ先輩も!こんにちは!」
「ちっす!」
「もーカイくん軽すぎ!ごめんなさい失礼なことを…」
「構わないぞ。よそよそしくされる方が気が引ける」
「そうですよ?ひとつしか歳が違わないんですからね」
夢美はふと思った。フリッツ先生はドイツ人だけど、モルトケ先輩もドイツ人だから、こういうことも詳しかったりしないかな?
ちょっと安直な発想だと思いつつも、話題の1つだと思って振ってみることにした。
「モルトケ先輩って、医療知識とかってあります?」
「医療か?うーん、あまり専門的なことは話せないが、興味はあるから知識の1つとしてはあるな」
「えっと…それじゃあ、夢に関わる病気とかって知ってますか?」
「精神医学的な話か?それなら、ドイツの隣のオーストリア出身のジークムント・フロイトの研究が有名だ。フロイトの名前くらい聞いたことあるだろう」
「なんでも性欲と結びつけてるアレっすか?」
「そんな雑な覚え方はどうかと思うが……それで有名だから仕方ないか」
モルトケはかけている眼鏡を畳み、片手で摘むようにして振りながら話を続ける。
「古来、夢とは神秘的なものだった。神のお告げだとか、吉兆、凶兆……もう少し進むと、寝ている間の感覚の刺激が反映されているのだ、とも言われるようになった。外部的な要因によるものだと考えられていた訳だな」
「私も、小さい頃はそういうものだと思ってましたね」
しおんが相槌を入れる。
「そんな中フロイトは、それだけではなく、精神状態と関わりがあるということを指摘した。夢の素材は内なるものであり、夢は現実で満たされない願望を満たすための働きをしているのだ、とね」
「内なる願望?」
「そうだ。小さい頃見た夢は単純なものが多かったと思わないか?どこかへ出かける夢とか、誰かと会う夢、楽しい夢、怖い夢……」
「わかる。よくわかんねーデカいショッピングモール行く夢とか見てたわ」
「だが、成長すると夢も単純ではなくなってくる。何故なら、人間の欲求も複雑になっていくからだ」
「なるほど~」
「えっ、でも、それじゃ私の夢って…………」
「夢美さんの夢?どんな夢なんですか?」
「えーっと……」
夢美は話せるだけ話す。戦争のさなか、自分が兵器として戦う夢。知り合いやそうでない人もたくさん出てくる。突飛でありながら、現実感の伴った、夢。
「そうだな、フロイトの理論でいけば、話は逆戻りしてしまうが、そういった夢は性欲の暗喩ということになってしまう。出てくる知り合い、大砲、血みどろの戦い……」
「ほらほらやっぱり」
「どーゆーイミよ!?」
「俺の話は終わってないぞ。夢の話をするならもう一人欠かせない人物がいる。カール・グスタフ・ユングだ。彼は当初、フロイトの熱烈な信奉者だった」
「なら、その、ユングって人も同じ意見じゃないんですか?」
「最初はそうだった。フロイトもユングを自身の後継者と目していた。だが、少しづつ理論の違いを出してくるようになり、袂を分かつことになるんだ」
「はえー」
「ユングの理論では、夢は意識と無意識の相互作用によって形成されるとある」
「また、難しいですね」
「ただ夢で見た内容から決めつけずに、見た人の意識の状態、覚醒状態で夢から連想されるものの聞き取り…そういったことが、夢から精神治療の手がかりを探るのに重要だとしたわけだな」
「私の夢から連想って言ってもなぁー……」
「ユングはこうも言っている。あまり急いで解釈するな、とにかく理解しようとしないように、と。夢は内から発生するものだ。自分の一部として時間をかけてゆっくりと受け入れる必要があるんだ」
夢美はハッとした。違う話題だけど、フリッツ先生と結論は同じ。急がないこと、受け入れること、付き合っていくこと……。
―1943年、某海域。
「聞こえていますか、こちら礼文。これより、敵艦隊集結地点への夜襲を敢行します。今はバラけていますが、味方艦と合流次第、隊形を整えていってください」
「こちら夢見、了解」
今回は、敵が完全に占領した島嶼部付近に集結する敵艦隊への攻撃だ。
少しでも敵艦を減らして、奪還の可能性を上げなければならない。
夢見は増速しようとすると、魚雷の航走音を波の音の中から聞き出す。
「なっ……待ち伏せ?」
ジグザグ運動を始め、魚雷の接近に備える、が。直下で爆発。
「きゃあっ!?……しくじったわ」
接近した魚雷の磁気信管が作動し、夢見の艤装がダメージを受ける。
動作チェックを行うが、機関が損傷し、速度の維持が精一杯であることに気付く。
「ちぃ……もう隠れるだけ無駄ね」
探照灯を灯し、31cm砲から照明弾を打ち上げる。周辺が明るくなり、海面が照らされる。
「やっぱり、か」
照らされた海面の上には数隻の魚雷艇の影が見える。
夢見は副砲を旋回させ、迎撃を始める。
「はぁ。ちっちゃい子撃つの、すっごい嫌……」
そう言いながらも、撃たなければ殺されるのはこちらだ。
ちょこまかと動き回るその影を、的確に撃ち抜いていく。
小さく聞こえる悲鳴、波間に沈む幼い手。浮かぶ油、残骸。
「これが私の内なるものだって言うのなら……私は何なのよ?」
昼間の話を思い出し、少し嫌な気分になるが、感傷に浸っている場合ではない。
魚雷艇を蹴散らしたのだから、この先に敵艦隊は確実にいる。
速度を落とさないよう機関に気を使いつつ、夢見は進む。
「こちら夢見、了解」
今回は、敵が完全に占領した島嶼部付近に集結する敵艦隊への攻撃だ。
少しでも敵艦を減らして、奪還の可能性を上げなければならない。
夢見は増速しようとすると、魚雷の航走音を波の音の中から聞き出す。
「なっ……待ち伏せ?」
ジグザグ運動を始め、魚雷の接近に備える、が。直下で爆発。
「きゃあっ!?……しくじったわ」
接近した魚雷の磁気信管が作動し、夢見の艤装がダメージを受ける。
動作チェックを行うが、機関が損傷し、速度の維持が精一杯であることに気付く。
「ちぃ……もう隠れるだけ無駄ね」
探照灯を灯し、31cm砲から照明弾を打ち上げる。周辺が明るくなり、海面が照らされる。
「やっぱり、か」
照らされた海面の上には数隻の魚雷艇の影が見える。
夢見は副砲を旋回させ、迎撃を始める。
「はぁ。ちっちゃい子撃つの、すっごい嫌……」
そう言いながらも、撃たなければ殺されるのはこちらだ。
ちょこまかと動き回るその影を、的確に撃ち抜いていく。
小さく聞こえる悲鳴、波間に沈む幼い手。浮かぶ油、残骸。
「これが私の内なるものだって言うのなら……私は何なのよ?」
昼間の話を思い出し、少し嫌な気分になるが、感傷に浸っている場合ではない。
魚雷艇を蹴散らしたのだから、この先に敵艦隊は確実にいる。
速度を落とさないよう機関に気を使いつつ、夢見は進む。
電探に複数の中型目標の影が映る。
再び31cm砲弾に照明弾を装填し、発射する。敵艦隊の影がはっきりと見える。
「軽空母!ここで仕留めないと」
魚雷の発射姿勢をとり、片舷20門を一斉発射する。
距離があるにも関わらず夢見がこのような戦法を取るのは、牽制もあったが何より、近くで艦船が沈むのを見たくないからだった。
この世界の軍艦は人の形をしている。自身もその一人となっている。沈む時は、人間と同じように死んでいく。
それなりにこの"夢"を見続けてきて、多少の慣れはあったが、やはり近くで見るのは堪えるものがあった。
見ずに済むのであれば、その方がいい。
「……命中1。今回は期待外れ」
命中した軽空母の片腕が吹き飛ぶ様子が見えた気がしたが、見なかったことにする。
いちいち気にしていたら、耐えられない。夢だとしても。
「早く、楽にしてあげないと」
夢見はもう片方の発射管ユニットをふわりと動かし、発射態勢をとる。
「さぁ、今度こそおやすみ……」
魚雷を放とうとしたその時だった。
「あははっ!みーつけた!」
頭にキンキンと響くような高い声。声の方に視線を向けると、金髪の少女が居た。
「あの空母たちは私<アリス>たちの護衛対象なの。そんな簡単に沈めてもらっちゃ困るわ?」
装備を見る限り夢見の目の前の艦は軽巡だ。いつの間にこんな懐に?追跡されていた?
相手は格下の艦だが、どうにも寒気がする。悟られないように徹甲弾を装填し、砲門を指向する……が。
居ない。さっきまで居たはずの場所に。
「ね、戦うよりお茶しない?あなた、紅茶は好き?」
耳元で囁く声。思わずのけぞる夢見。
アリスと名乗る軽巡は、夢見の艤装に腰掛けていた。
「な、なんなの……あなた……」
「自己紹介遅れちゃってごめんね!私<アリス>はアリス級軽巡のアリスだよ。ユメミちゃん、よろしくね?」
そう言うとアリスは艤装から降りる。が。夢見から離れない。これでは撃てない。
「どうして私の名前を……」
「それって大事なこと?」
「なんなの!?」
「もう、怒っちゃ嫌だよ?そう、種明かしすると、あなたの艤装に書いてあっただけ。塗りつぶしてあったけどね」
妙にご機嫌そうに振る舞うアリス。
「ユメミ。ドリーマー。夢を見る人だなんて、ステキなお名前ね」
暗い夜の海の上、探照灯で照らされる彼女の姿はあまりにも異質だ。
「でも、この美しい世界は夢なんかじゃないの。痛みを伴う現実なんだよ」
挑発的な口調で話し続けるアリスに対し、夢見は返す言葉がない。
「ユメミちゃんにはためらいがあるの。どうしてかな?」
「ためらいなんか……」
「魚雷艇を撃つの、嫌がってたじゃない。どうしてかしら?」
アリスは目を細める。夢見はゾッとする。最初からつけられていたのだ。
「本当にあなたは戦闘艦艇なのかしら?すぐ近くに居る私<アリス>を撃とうともしないなんて?」
「うるさいっ!」
自分のすぐ近くに照準が向くのも気にせず、夢見は主砲を旋回させる。
「あはっ!ユメミちゃんやっとやる気になってくれた。それじゃ、私<アリス>たちも本気にならなきゃね」
アリスはサッと距離を取ると、艤装を構える。
「ねっ、ユメミちゃん。私<アリス>が可愛いからって、こっちばかり見てると危ないよ?」
刹那、接近する魚雷の航走音に気付く夢見。今度は回避が間に合い、発射元の方向へ探照灯を向ける。
照らされた先には別の軽巡の姿があった。私<アリス>たち、ってそういうことだったのか、と思ったが、夢見はすぐにそれどころではなくなった。
「やっ……山根さ…ん…!?」
「そうだね、ヤマネ<ドーマウス>ちゃんだよ。よく知ってるね?」
魚雷の主は既に2射目を放っていた。回避。何もしてこないアリスより、あちらを相手にしなければならない。
知っている人物が敵として出てきた。恐れていた事態。だが、やらなければやられる。
同航戦だ。主砲を指向し、発砲する。夾叉。諸元修正。発砲。
ドーマウスも撃ってくるが、軽巡程度の砲は夢見の装甲には通らなかった。
見た目は似ているが、別人。そう割り切って、目の前の敵を撃ち続ける。
ドーマウスはフラフラと不規則な動きで夢見の砲撃を回避する。
昼間の、フラフラと席に帰ってくる同級生の姿が想起されるが、振り払う。
ついに命中弾が出る。水柱に消えるドーマウスの姿。夢見は手を、足を止めてしまう。
目の前で、当たるのを見てしまった。パニックに陥る。敵艦なのに、駆け寄ってしまう。
「……どうして止めを刺さないんだい?きみはぼくを殺せるはずだろう?」
ほとんど同じ姿、同じ声。破損した艤装、流れ出る血。
「何をためらっているんだい。ぼくをここで始末しないと、沈まずに済むはずのきみの仲間が沈むかもしれないのに」
夢見は何も言い返せず、押し黙っていた。
「や~っと追いついた!やっぱり、ユメミちゃんは目の前で沈めるのはどうしても嫌なんだね」
ドーマウスに肩を貸すアリス。昼間の夢美たちと姿が重なる。
「別にいいのよ。私<アリス>たちが損する訳じゃないもの」
そう言うとアリスはドーマウスを連れて夢見のもとを離れる。
後を追おうとしたが、足が動かない。何かに掴まれている。
紫色の、ブヨブヨとした――――――――――――――。
…
…
…
気がつけば、夢見は母港に帰っていた。あの後、何が起こったのか覚えていない。
話を聞く分には、それほど良い結果ではなかったようだ。
わけのわからないまま、夢見は寝床についた。
再び31cm砲弾に照明弾を装填し、発射する。敵艦隊の影がはっきりと見える。
「軽空母!ここで仕留めないと」
魚雷の発射姿勢をとり、片舷20門を一斉発射する。
距離があるにも関わらず夢見がこのような戦法を取るのは、牽制もあったが何より、近くで艦船が沈むのを見たくないからだった。
この世界の軍艦は人の形をしている。自身もその一人となっている。沈む時は、人間と同じように死んでいく。
それなりにこの"夢"を見続けてきて、多少の慣れはあったが、やはり近くで見るのは堪えるものがあった。
見ずに済むのであれば、その方がいい。
「……命中1。今回は期待外れ」
命中した軽空母の片腕が吹き飛ぶ様子が見えた気がしたが、見なかったことにする。
いちいち気にしていたら、耐えられない。夢だとしても。
「早く、楽にしてあげないと」
夢見はもう片方の発射管ユニットをふわりと動かし、発射態勢をとる。
「さぁ、今度こそおやすみ……」
魚雷を放とうとしたその時だった。
「あははっ!みーつけた!」
頭にキンキンと響くような高い声。声の方に視線を向けると、金髪の少女が居た。
「あの空母たちは私<アリス>たちの護衛対象なの。そんな簡単に沈めてもらっちゃ困るわ?」
装備を見る限り夢見の目の前の艦は軽巡だ。いつの間にこんな懐に?追跡されていた?
相手は格下の艦だが、どうにも寒気がする。悟られないように徹甲弾を装填し、砲門を指向する……が。
居ない。さっきまで居たはずの場所に。
「ね、戦うよりお茶しない?あなた、紅茶は好き?」
耳元で囁く声。思わずのけぞる夢見。
アリスと名乗る軽巡は、夢見の艤装に腰掛けていた。
「な、なんなの……あなた……」
「自己紹介遅れちゃってごめんね!私<アリス>はアリス級軽巡のアリスだよ。ユメミちゃん、よろしくね?」
そう言うとアリスは艤装から降りる。が。夢見から離れない。これでは撃てない。
「どうして私の名前を……」
「それって大事なこと?」
「なんなの!?」
「もう、怒っちゃ嫌だよ?そう、種明かしすると、あなたの艤装に書いてあっただけ。塗りつぶしてあったけどね」
妙にご機嫌そうに振る舞うアリス。
「ユメミ。ドリーマー。夢を見る人だなんて、ステキなお名前ね」
暗い夜の海の上、探照灯で照らされる彼女の姿はあまりにも異質だ。
「でも、この美しい世界は夢なんかじゃないの。痛みを伴う現実なんだよ」
挑発的な口調で話し続けるアリスに対し、夢見は返す言葉がない。
「ユメミちゃんにはためらいがあるの。どうしてかな?」
「ためらいなんか……」
「魚雷艇を撃つの、嫌がってたじゃない。どうしてかしら?」
アリスは目を細める。夢見はゾッとする。最初からつけられていたのだ。
「本当にあなたは戦闘艦艇なのかしら?すぐ近くに居る私<アリス>を撃とうともしないなんて?」
「うるさいっ!」
自分のすぐ近くに照準が向くのも気にせず、夢見は主砲を旋回させる。
「あはっ!ユメミちゃんやっとやる気になってくれた。それじゃ、私<アリス>たちも本気にならなきゃね」
アリスはサッと距離を取ると、艤装を構える。
「ねっ、ユメミちゃん。私<アリス>が可愛いからって、こっちばかり見てると危ないよ?」
刹那、接近する魚雷の航走音に気付く夢見。今度は回避が間に合い、発射元の方向へ探照灯を向ける。
照らされた先には別の軽巡の姿があった。私<アリス>たち、ってそういうことだったのか、と思ったが、夢見はすぐにそれどころではなくなった。
「やっ……山根さ…ん…!?」
「そうだね、ヤマネ<ドーマウス>ちゃんだよ。よく知ってるね?」
魚雷の主は既に2射目を放っていた。回避。何もしてこないアリスより、あちらを相手にしなければならない。
知っている人物が敵として出てきた。恐れていた事態。だが、やらなければやられる。
同航戦だ。主砲を指向し、発砲する。夾叉。諸元修正。発砲。
ドーマウスも撃ってくるが、軽巡程度の砲は夢見の装甲には通らなかった。
見た目は似ているが、別人。そう割り切って、目の前の敵を撃ち続ける。
ドーマウスはフラフラと不規則な動きで夢見の砲撃を回避する。
昼間の、フラフラと席に帰ってくる同級生の姿が想起されるが、振り払う。
ついに命中弾が出る。水柱に消えるドーマウスの姿。夢見は手を、足を止めてしまう。
目の前で、当たるのを見てしまった。パニックに陥る。敵艦なのに、駆け寄ってしまう。
「……どうして止めを刺さないんだい?きみはぼくを殺せるはずだろう?」
ほとんど同じ姿、同じ声。破損した艤装、流れ出る血。
「何をためらっているんだい。ぼくをここで始末しないと、沈まずに済むはずのきみの仲間が沈むかもしれないのに」
夢見は何も言い返せず、押し黙っていた。
「や~っと追いついた!やっぱり、ユメミちゃんは目の前で沈めるのはどうしても嫌なんだね」
ドーマウスに肩を貸すアリス。昼間の夢美たちと姿が重なる。
「別にいいのよ。私<アリス>たちが損する訳じゃないもの」
そう言うとアリスはドーマウスを連れて夢見のもとを離れる。
後を追おうとしたが、足が動かない。何かに掴まれている。
紫色の、ブヨブヨとした――――――――――――――。
…
…
…
気がつけば、夢見は母港に帰っていた。あの後、何が起こったのか覚えていない。
話を聞く分には、それほど良い結果ではなかったようだ。
わけのわからないまま、夢見は寝床についた。
気がつけば、夢見は母港に帰っていた。あの後、何が起こったのか覚えていない。
話を聞く分には、それほど良い結果ではなかったようだ。
わけのわからないまま、夢見は寝床についた。
話を聞く分には、それほど良い結果ではなかったようだ。
わけのわからないまま、夢見は寝床についた。
「……嫌な夢、だったけど」
あれだけ嫌な光景を見てしまったにも関わらず、夢美は起床してもそれほど嫌な気分ではなかった。
むしろ、いつもの目覚めよりスッキリとしている気さえする。
「いってきまーす」
「おはろー」
「カイくんおはよー!」
「おっ、なんか気分良さげじゃん?」
「何があったってワケじゃないんだけどね、なんとなく」
「ふーん」
校門に差し掛かると、山根さんとちょうど鉢合わせた。
「よっす山根っちおはおはー」
「あっ……おはよう、山根さん」
「ん………夢美さん。おはよう」
夢美は少し妙な気分になるが、忘れようと努める。しかし、続く彼女の言葉がそれを許さなかった。
「ゆうべは見逃してくれてありがとう」
「……えっ?」
「ほら、遅れちゃいますよ。行こうよ」
夢美の混乱をよそに、彼女は教室へ急ぎ足で向かっていった。
(おわり)
あれだけ嫌な光景を見てしまったにも関わらず、夢美は起床してもそれほど嫌な気分ではなかった。
むしろ、いつもの目覚めよりスッキリとしている気さえする。
「いってきまーす」
「おはろー」
「カイくんおはよー!」
「おっ、なんか気分良さげじゃん?」
「何があったってワケじゃないんだけどね、なんとなく」
「ふーん」
校門に差し掛かると、山根さんとちょうど鉢合わせた。
「よっす山根っちおはおはー」
「あっ……おはよう、山根さん」
「ん………夢美さん。おはよう」
夢美は少し妙な気分になるが、忘れようと努める。しかし、続く彼女の言葉がそれを許さなかった。
「ゆうべは見逃してくれてありがとう」
「……えっ?」
「ほら、遅れちゃいますよ。行こうよ」
夢美の混乱をよそに、彼女は教室へ急ぎ足で向かっていった。
(おわり)