1.Hope/once more
5:50
「外、どうでした?」
「ん。別に何にもなかったよ」
アトリの問い掛けに見回りから帰ってきた
シノンはふっと笑ってそう返した。その顔には多少回復したとはいえ疲労の色が浮かんでいる。
欠伸をしながら彼女はアトリの隣に腰かけ、今一度短く息を吐いた。この部屋には椅子がない為、コンクリートの床に寝転がるような形になる。
壁にもたれ掛けた彼女は付け加えた。「何もなかった。怖いくらいに」
「……そうですか」
その答えにアトリはぽつりと言葉を返した。シノンには少し部屋の外を見に行ってもらっていた。誰か他の参加者が近くに来ていないかを確かめる為に。
PKが来ていたのならばまたすぐに移動しなくてはならないが、報告を聞くにどうやらまだここに居ても大丈夫のようだ。その事実にアトリは胸を撫で下ろす。
同時にその安堵が如何に儚く、そして危ういものであるかも意識してしまい、思わず身を固くする。。
このデスゲームが始まって6時間程度経つ。色々なことがあった。ウズキのこと、シノンのこと、そしてあのピエロと槍男のこと。
辛く厳しい時間だった。何度も死に掛けたし、何度も心が押し潰されそうになった。しかし自分はまだ生きている。死線を潜り抜け、共に生き残ったシノンと共にこうして静かな時間を過ごしている。
ここまでたどり着くことができたのはきっと誇ってもいいことだと思う。
しかし、それで終わりじゃない。
自分はまだゲームのほんの序盤戦を生き残ったに過ぎないのだ。
この休息と安堵が薄氷の上に立っているものでしかない。今はまだ静かなこの部屋にも、何時新たな脅威がやってくるとも分からない。
がらん、とした@ホームの中を見渡してアトリは呟いた。「ハセヲさん……」
「アイツがどうかしたブヒか?」
その言葉に反応して新たな声がした。
声の主はデス★ランディ――ギルド『カナード』の@ホームのマスコットのような存在である。
変らないその姿にアトリは微笑む。ハセヲをデフォルメして豚にしたようなそのコミカルな外見は、デスゲームの陰鬱な雰囲気を少しは和らげてくれた。
「ここ、『The World』のギルドルームなんだよね?
それもアトリの入ってたっていうギルドの」
不意にシノンが尋ねてきた。
「ええ、そうです。ハセヲさんがギルドマスターを務めてる『カナード』っていう初心者支援ギルドの@ホームです。
何でわざわざこんなものが再現されているのかは分からないんですけど……」
アトリは順を追って説明していく。『The World R:2』におけるギルドの仕様、各@ホームに配置されるグランティのこと、そして『カナード』のこと。
一先ずの休息の場所として選んだ部屋が、一体どんな場所なのかをアトリは語って見せた。
戦いを生き延びたアトリたちはそれからしばらくの間放心状態にあった。
本来ならばすぐさまその場を後にし、どこかで身を休めるべきだったのだろうが、しかし先の戦いはアトリたちに様々なものを残した。
単に疲れや達成感といったものではなく残された感情の重みがアトリたちを縛っていたのだ。
我に返るまで十数分は要した筈だ。隙だらけのところをPKに襲われなかったのは幸運としか言いようがない。、
急いで移動することになった彼女らだが、マク・アヌを知るアトリの提案で@ホームにやってきて今に至る。
「本当は専用のパスを提示しないとこの部屋には来れない仕様な訳ね……まぁそれが普通か。
でも、ここではそれが解除された上に選択できる@ホームは何故か『カナード』に限定されている」
シノンの言葉にアトリは首を振る。
とにかく落ち着ける場所を、ということで@ホームを目指した訳だが、この部屋の仕様もバトルロワイアルに併せて変更されていた。
恐らく部屋の『鍵』がなくなっていたのはゲーム進行の都合によるものなのだろう。
「『カナード』に限定されていた理由は何となく分かります。たぶん……榊さんの意向です」
「榊の……」
「はい。榊さんはハセヲさんのことを凄く意識してましたから……」
シノンには既に自分がGMである榊と知り合いであることは告げてある。
彼に自分が何をされ、そして自分が何をしたか、憑神のことまで包み隠さず伝えた。G.U.について外部に漏らすことに抵抗がないわけではなかったが、状況が状況故に八咫も許してくれるだろう。
話を聞き終えたシノンは何も言わなかった。それは彼女なりの配慮だったのだろう。榊について、自分は単なる敵意だけでない複雑な感情を未だ抱いている。そのことを察して、深く聞いてはこなかった。
「榊の私怨で『カナード』が選ばれた。そういうことね」
「たぶん……ただこの@ホーム……昔のものなんですよね。『カナード』はもう上級ギルドになっているのでこの初級ギルド用の@ホームは引き払ってしまってるんです」
にも関わらずこのマク・アヌにはかつての『カナード』の@ホームがある。これがG.U.の隠れ蓑である『レイヴン』ならまだ分かるのだが。
一応そのことについてデス★ランディに尋ねてみたのだが、彼も状況をよく分かっていないみたいで謎は解けなかった。
ギルドの成長指数とでもいうべき八百由旬ノ書も開くことはできず、この@ホームが一体何時のものなのかはよく分からなかった。
「……ンン」
ふとその時小さな寝息が部屋に漏れた。
はっとした二人は彼女の方を見た。そこではピエロの衣装を来た女性が眠り込んでいる。初級の@ホームは設備に乏しいため、仕方なく硬い床にそのまま寝かせてあった。
寝心地が良いとはいえないだろうが、とはいえ気絶したように眠る彼女にしてみればあまり関係ないのかもしれない。
「……彼女、まだ寝ていますね」
ランルーくん。アトリがこの六時間で出会い、殺し合った相手。
この不気味なピエロはこともあろうに自分に食欲を抱き襲い掛かってきた。
その姿があまりに恐ろしく、自分の知る現実と乖離していて、とてもではないが同じ人間であるとは思えなかった。
だが二度目の戦いの最中、彼女の関係の断片を垣間見たことでアトリにとって彼女は『人間』になった。
未だに恐れはあるし、ウズキのこともあり良い感情など抱きようのない相手ではある。
しかし彼女は今『人間』なのだ。意思疎通の取れない、恐るべき怪物ではなく。
だからなのだろう。
戦いの後、気絶するように倒れた彼女を迷った末にアトリたちは背負いここまで連れてきたのは。
「…………」
アトリは黙って立ち上がり、静かに彼女の下へ近付いて行った。
彼女――ランルーくんを見下ろすように立ち、その寝顔をそっと覗き見た。
柔らかな茶色の髪が呼吸に合わせてゆっくりと揺れている。
その向こう側では閉じられた瞳があり、添えられた形の良い睫が目を引く。
ピエロのメイクからは想像もできないほど端正な顔立ちであった。単に美しいだけでなくどこか母性を感じらせる丸みがあった。
「こうして見ると、綺麗な女性の顔です。本当に普通の……」
寝かせるに当たって涙で崩れたピエロのメイクは水で洗い落している。
髪も併せて軽く洗ったところ、不気味なピエロのメイクの中から一人の妙齢の女性の顔が現れた。
それはともすれば笑ってしまうほどの変化だったが、しかしアトリは不思議と驚かなかった。
ランサーのデータの中で見えた彼女の像からすれば、この姿は寧ろ自然であるとさえ、思えたのだ。
「……アトリ。その人どうするの」
背中越しにシノンから声が掛けられた。
アトリは彼女から目を放すことなく「分かりません」と答えた。
「この人が危険なPKなのは分かっているんです。私だけでなく、シノンさんやウズキさんを襲いました。
ランサー……あの槍の人が居なくなったとはいえ、それは変わりません。
だけど……あのまま置いていくことはできませんでした。
我儘かもしれないけど、私、この人と一度面と向かって話してみたいんです。この人の言葉を聞きたい。聞いて、話すんです。
今まではモンスターの言葉のように、理解できないものであった彼女の声も、今なら分かる気がするんです。彼女が……人間だと分かった今なら」
アトリはところどころ詰まりつつも、しかしきっぱりとそう言った。
「私が責任を持って彼女を見ますから、少しだけ待ってください。
危険だと思うなら、私が出て行きますか――」
「アトリ」
アトリの言葉を遮ってシノンが口を開いた。
「貴方が話したいと思うなら、きっとそれは正しい。
私にもその、居たんだ。許せないことをされた、でも、いや、だからこそ話さないといけないと思った相手が。
だからアトリの気持ちは分かる。話すべきなんだと思う。アトリは、その人と決着を付ける為にも」
紡がれたその言葉は優しかった。
アトリは礼を言い、頭を下げた。今ここで彼女と出会えて本当に良かったと思う。
「一先ず今は休もう、アトリ。疲れてるでしょう、私も、貴方も」
「……はい。そうですね」
そうして彼女らは束の間の安穏に身を置いた。
何時また崩れるとも分からない、しかし今はせめて心落ち着ける為にも。
「外には誰も居なかった……でも、あの男はたぶん生きてる。
あの……化け物みたいな黒服は」
シノンがそうぽつりと言った時、メニューウィンドウの時刻は6:00を指していた。
瞬間、無機質なアラームと共に、一通のメールが届いた。
2.Inscription/out of control
6:00
開かれた二つのウィンドウには共に同じ文面が表示されている。
ふむ、とそれを見た彼らは顎を撫でた。全く同じ動作、全く同じ声、全く同じタイミングで。
黒服たち――二人となったエージェント・スミスはそこで頷き合った。
「奴らからの情報か。無視はできんな」
「全てを鵜呑みにする訳にはいかないが」
「しかし重要ではある」
それはGM――この空間の統括者からのメールであった。
ウィンドウの時計が6:00を指した瞬間に送られてきた情報について、二人のスミスは言葉を交わす。
――実際のところ、同一プログラムである彼らの間に会話など必要ない為、そのプロセスはかつてエージェントだった頃の名残に過ぎないのだが。
「しかしメンテナンス、か」
「この現象からしてここが形態は違えどマトリックス内であることはもはや疑いようがないな」
そう語るスミスの目の前では、光の渦に巻き込まれるマク・アヌの街があった。
飛び散った石畳や崩れた煉瓦の建物が光のヴェールに包まれていく。と、次の瞬間破壊の跡が拭い去られ、当初の傷一つない姿が浮かび上がってくる。
破壊された施設の修復――この6:00時間で蓄積されたダメージを「リセット」した訳だ。
「それ故に分からんな。この空間内に溢れかえるデータ……いやこの空間そのものの存在が」
スミスの存在は既にマトリックス内のほぼ全てを埋め尽くしている。
エージェントが標準装備していた「強制上書き能力」……そのリミッターを外した彼はマトリックス内に存在するありとあらゆるプログラムを「上書き」した。
結果マトリックスにはスミスのコピーが溢れかえっている。管理はアーキテクトでなく自分の手の内にあるといってもいい。
マシンも人間も、全ては自分の手中にある。
しかしだからこそ解せない。この空間――マトリックスの一種であることは確かなのだ――には未知のプログラムが多すぎる。
それは一時間ほど前に「上書き」した老人のアバターもそうであるし、その前に遭遇した女が使ったプログラムも見覚えがなかった。勿論このマク・アヌとかいう街もそうだ。
老人のアバターに「上書き」し、そのプログラムを取り込めばこの現象にも説明が付くかと思ったのだが、
「ワイズマン……タクミという少年のデータだが、ふむ、やはり分からんなこれは」
一方のスミスは手の平を眺めつつ言った。
彼が今二つの肉体を持っているのは、ワイズマンという参加者のデータを「上書き」した結果に他ならない。
本来ワイズマンが存在する為のソースを押しのけ、スミスが代わりとなって現れる。
そうやって今までも幾多ものプログラムを喰らってきた訳だが、今回の「上書き」は少々感触が違うものだった。
上書きしてみて分かったことが、まずこの身体を構成するプログラムは通常のマトリックスに存在するそれとは全く異なる構成をしているというものだった。
人間のデータにせよ、マシン側が用意したプログラムにせよ、エージェントにせよ、同じマトリックスに存在する以上はある程度は似通ったデータを持つ。
しかしワイズマンは根本から違う言語で書かれたような、スミスが今までに見たことがないデータの造りをしていたのだった。
その違和の正体を確かめる為、ワイズマンの持っていたデータを精査していたのだが、依然としてデータの理解は進まず、そうこうしている内にGMからのメールが来た。
「取り込んだワイズマンのプログラムだが、読めないな」
「上書きは問題なくできたが」
「このプログラムを動かすことはできても、理解はできていない」
スミスは今まで単に自分の存在を「上書き」するだけではなく、元プログラムが司っていたデータまで取り込むことで更なる力を得てきた。
しかし今回取り込んだワイズマンのデータは取り込んだはいいが、それが果たして如何なる意味を持つものなのか彼には分からなかった。
全く知らない言葉を辞書なしで読もうとするようなものだ。「上書き」した自分の一部として機能させることはできるが、その力を自分のものとすることはできない。
「ふむ、しかしまぁそれは今後他のプログラムを取り込めば分かることだろう」
「ああ、だからこそ見るべき点は」
二人のスミスは同時に嗤った。
それは、それまでの無機質で機械的な表情からは打って変わって感情的な、獰猛な獣を思わせる笑みだった。
「君もここに居るのだろう?」
「彼女がここに居たのだから」
メールに記された一人の脱落者の名を見て、二人のスミスは同時に呼びかけた。
「アンダーソン君?」と。
3.Will/your mind
6:10
草原からマク・アヌへと続く橋の上で
カイトはふと足を止めた。
表情は暗い。彼は無言で立ち止まり、己の右腕をじっと見つめる。
双剣士の基本装備である革製に手袋。その周り沿うように幾多もの線が連なり半透明の腕輪が浮かび上がる。
「僕たちは」
カイトは託された腕輪を一方の手で撫でながら言った。
「本当に正しいことをしているんだろうか」
と。
顔を俯かせ、弱々しい声音で。
それを聞いた女性――志乃もまた足を止め、カイトに向き直った。
「僕はあの時ブルースを止めた。それは間違ってなかった……そう思う。
でも、僕は彼を追わなかった。駄目だと思ってはいても、自信を持って止めに行くことができなかった」
「カイト君……」
カイトと志乃は森での一件の後、迷った末にそのままマク・アヌを目指すことにした。
ブルースの後を追うには速度に差があり過ぎたし、何より決心がつかなかった。
間違ったことはしていない。しかしブルースの行いを否定することもまた、できなかったのだ。
「それで……迷った結果が、あのメールなんだ」
カイトは悔しげに言った。メール――GMからプレイヤーへという形で送られてきたメッセージ。
その中にカイトが知る名があった。
「バルムンクも……ワイズマンも……どちらも僕と一緒に戦ってくれたプレイヤーだったんだ」
バルムンク。フィアナの末裔としてオルカと並び立つ有名プレイヤーであり、最初は腕輪のことで対立したけれど、最終的には和解し肩を並べて戦う仲間となってくれた。
ワイズマン。八相との戦いでは情報屋としてパーティのブレインを務めてくれた。リアルを知った時は驚いたけれど、頼もしいことに変りはなかった。
その二つの名が、あったのだ。
「でも、彼らはもう……」
カイトはぐっと右手を握りしめる。
かつて親友のオルカが
スケィスにデータドレインされた瞬間を思い出す。
自分は為す術もなくそれを見ているしかなかった。あの時の無力感がフラッシュバックする。
クビアや八相、モルガナとの戦いを経て、アウラが『再誕』することによりオルカを始めとする未帰還者は帰ってきた。
取り戻した筈だった。しかしまた自分は失ってしまった。
「もし、僕がブルースのようにPKKを許す道を選んでいたのなら、変ったのかな……」
ぽつりと、彼は漏らした。
弱音だ。ここにブラックローズが居たらまた怒鳴られてしまうだろう。そう思いはしたが、それでも言わずには居られなかった。
「カイト君」
志乃が穏やかな口調で呼びかける。
「もし貴方が違った選択をしていれば、勿論世界は変ったと思う。
それがどんな形であれ、変わらないなんてことはない。それが良い方向なのか、悪い方向なのかは分からないけれど」
「……うん」
「それでね、カイト君。貴方はどうしたいと思ってるの?」
志乃の問い掛けにカイトは言葉を詰まらせた。
視線の先には石畳の上に浮かぶ自らの影があった。その輪郭は本来持っている身体のものではない。
The Worldでの仮初の身体、双剣士カイトのものだ。だがしかし、それもまたやはり自分なのだ。
「本当に、これからPKをPKKしていっていこうと思うの? そうしたいって思ってる?」
「僕は……」
カイトはゆっくりと顔を上げた。
志乃の真摯な顔が視界に入る。桃色の髪越しに見えた瞳は真直ぐと自分を見つめている。
たった二人きりの世界の中で、カイトは彼女に対し決然と答えた。
「僕は……それでも信じたい。みんなが纏まることができるって、誰も切り捨てることなく、団結することができると」
と。
迷いはした。しかし、確かに自分はそうしたい。そう思ってると確信できたのだ。
だからそう答えた。途端に狭まっていた感覚がぐっと広がり、マク・アヌの周りの流水の涼やかな音が聴こえる。自分は今この世界に居るのだと、再び認識する。
「うん。カイト君がそうしたいと思うなら、それが正しいと思う。私も居るよ、ここに」
志乃はそう言って微笑みを浮かべた。
マク・アヌに降り注ぐ柔らかな光の下で、彼女は微笑んでいた。
優しく、彼女は微笑んでいた。
4.Distract/irrelevant thoughts
6:20
やってくる。やってくる。
禍々しき波が押し寄せてくる。
水の都マク・アヌに向かい猛然と疾駆する一つの波がある。
白い波。鈍く光るケルト十字を掲げ、それは進み続ける。
モルガナの先兵たるそれが目指すものはただ一つしかない。それを今彼は見つけた。
元よりそれに意思などない。しかし意識ががらんどうという訳でもない。
モルガナの妄念。歪んだ母の子への怨念を、その波もまた受け継いでいる。
同時刻、世界のどこか別の場所で、とある少女がとある詩の一節を読んでいた。
『行く手を疾駆するはスケィス
死の影をもちて、阻みしものを掃討す』
5.Destiny/pick a fight
6:30
ハセヲは草原を駆ける。言いようもない漠然とした不安をその胸に抱えながら。
白いスケィスとの遭遇が彼にもたらしたその不安は彼の足を自然と速いものにする。
倒した筈の榊。知らない筈の名前、楚良。ここに居ると言う揺光と志乃。そしてスケィス。
自分が中心に居ながら、自分の知らないところで事態が進行しているような、何かに置いて行かれそうな感覚を彼は抱いていた。
「クソッ……まだ着かないか」
マク・アヌの街自体は見えている。しかし辿り着くにはまだ少し時間が掛かりそうだ。
エリアの端から端まで横断するに等しいのだから、仕方ないのかもしれないが、それでもこの距離は焦れったかった。
(あの白いスケィスもあっちに向かっていた。もしかすれば……)
白いスケィスは明らかに何らかの目的に沿って動いていた。
それが何なのかは分からないが、しかしそれが自分に無関係である筈がないという確信はあった。
だからこそ彼は急いでいる。このままでは何か決定的なことに間に合わなくなる。どういう訳かそんな気がするのだ。
一秒でも早く街へ。そう思い駆ける彼に――
「あ、vんk;:lあvふぁおぴ」
「……何!」
一つの影が襲い掛かる。
彼女は突如としてまるで待ち構えていたかのように現れ、奇声を上げハセヲを背後より強襲する。
突然の剣戟をハセヲは咄嗟に双剣で受け止める。
「てめぇは……!」
「会えて嬉しいよ、ハセヲちゃぁん」
ハセヲは己を襲った敵の正体に気付き、刃を交錯させたまま小さく呟いた。
「ボルドー……」
「今度こそ、今度こヴぉlllaがPKしてあげるからさぁ」
彼女は再度叫びを上げ剣を振るった。ハセヲは地を蹴り後ろへ下がってそれを避ける。
そうして引いた場所からボルドーのPCを再度窺う。赤髪に褐色肌、そしてその半身を占めるAIDAの斑点。
間違いなくボルドーだった。それも碧聖宮アリーナ決勝で戦った時の、AIDA-PCと化した時のものだ。
何故ここに、と疑問に思うと同時に納得もしていた。
ボルドーはPKでありながら、『月の樹』時代の榊と通じていた節がある。ならば榊は知って居る筈だ。自分とボルドーの因縁を。
大方自分への当て付けと言う意味で榊がエントリーさせたのだろう。
ハセヲは思わず舌打ちする。急がねばならないというのに、決着を付けた筈の因縁が今更彼を追ってきた。
「これが私の『運命』なんだよlm@おp……ふふjlk;ms」
ぶつぶつと壊れたように恨み言を呟くそ姿は常軌を逸している。
それをハセヲは複雑な心境で受け止める。言うまでもなくボルドーに対して怒りはある。
AIDAに囚われたとはいえボルドーは揺光をPKした。その結果彼女はThe Worldより姿を消した。
揺光が消える瞬間に感じた喪失感。あれを忘れることは決してできないだろう。
だが、それを力で埋めようとしても、駄目だ。そのことを知るのに自分は随分と遠回りをした。
何より力に囚われ暴走するボルドーの姿が自分の過去に重なるのだ。
「俺はもう『死の恐怖』じゃない。今、てめぇなんかに構ってる暇はねえ」
「愛し合おうじゃないか、ハセヲちゃんさぁ、私の『運命』を味あわせてやる」
「来いよ、もう一度決着を付けてやる」
そうして二人の刃が再び交わった。
マク・アヌの見える平原で、ハセヲとボルドーの、もはや何度目かも分からない戦いの火蓋が切って落とされた。
[F-3/マク・アヌ カナードの@HOME/1日目・朝]
【シノン@ソードアートオンライン】
[ステータス]:HP35%、疲労(中)
[装備]:FN・ファイブセブン(弾数0/20)@ソードアートオンライン、5.7mm弾×80@現実
[アイテム]:基本支給品一式、プリズム@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
1:殺し合いを止める為に、仲間と装備を集める。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※このゲームには、ペイン・アブソーバが効いていない事を身を以て知りました。
※エージェントスミスと交戦しましたが、名前は知りません。
彼の事を、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※プリズムのバトルチップは、一定時間使用不可能です。
いつ使用可能になるかは、次の書き手さんにお任せします。
【アトリ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2(杖、銃以外) 、???@???
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
1:今は休んでいたい
2:ハセヲに会いたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも「月の樹」のクーデター後
【ランルーくん@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消費(大)、ダメージ(大)
[サーヴァント]消滅
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品2~5、銃剣・月虹@.hack//G.U.
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:???
1:zzzzzzzz
[F-2/マク・アヌ/1日目・朝]
【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:ダメージ(中)、二つの身体。
[装備]:無し
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~6、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、スパークブレイド@.hack//
[ポイント]:600ポイント/2kill
[思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:シノンは出来れば、ネオに次いで優先して始末したい。
3:他のプログラムも取り込んでいく。
[備考]
※参戦時期はレボリューションズの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。
※ワイズマンのPCを上書きしましたが、そのデータを完全には理解できて来ません。
[E-3/マク・アヌ/1日目・朝]
【カイト@.hack//】
[ステータス]:HP90%、SP消費(小)
[装備]:ダガー(ALO)-式のナイフ@Fate/EXTRA
雷鼠の紋飾り@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:自分の身に起こったことを知りたい(記憶操作?)
2:PKはしない。
[備考]
※参戦時期は本編終了後、アウラから再び腕輪を貰った後
【志乃@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100% 、SP消費(小)
[装備]:イーヒーヒー@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:ハセヲと合流(オーヴァンの存在に気付いているかは不明)
2:カイトと共にマク・アヌを調査。
[備考]
※参戦時期はG.U.本編終了後、意識を取り戻した後
[D-2/ファンタジーエリア・マク・アヌ付近/1日目・朝]
【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除
※プロテクトブレイクは回復しました。
※マク・アヌに向かっています。
[D-2/ファンタジーエリア・草原/1日目・朝]
【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康/3rdフォーム
[装備]:光式・忍冬@.hack//G.U.
[アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない
1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す
2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント
3:マク・アヌに向かう。
4:あの白いスケィスは……
5:さっさとボルドーと決着を付ける。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、
現在プロテクトされており選択することができません。
【ボルドー@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP45%、疲労(中)
AIDA感染
[装備]:邪眼剣@.hack//
[アイテム]:不明支給品0~1、逃煙球×3@.hack//G.U.、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:他参加者を襲う
1:ハセヲに復讐
[備考]
時期は
vol.2にて揺光をPKした後
6.Spiral/stairs to the emperor
そして悠久の都は朝を迎える。
希望、暴走、選択、妄念、因縁、人の想いが螺旋となって都を包み込む。
果たして誰がその螺旋を抜け出すのか、あるいは全て等しく振り落とされるのか。
最も強き者が螺旋を抜け出すとは限らない。
最も飢えた者が螺旋を抜け出すとは限らない。
最も気高き者が螺旋を抜け出すとは限らない。
多くの人は、自分が今螺旋に囚われていることにさえ気づかないのだから。
しかし、気づかずとも螺旋の中を突き進み、如何な困難を前にしても歩みを止めないのであれば、
果てに彼を待つものは、ありとあらゆる想いを見下ろす螺旋の玉座に他ならない。
その玉座こそ、人が生きるに値するものの筈だ。
最終更新:2014年01月29日 10:46