_6
――ブルースは耐えたのよ
ピンクはその時のことを思い出してしまう。
彼女を守るためにブルースはフォルテの攻撃を受け止めた。
そして、耐えたのだ。
シールド展開のタイミング。角度。気力。要求される全てを正確にこなし、ブルースは耐えた。
けれど、どうしようもない硬直を晒してしまった。
仕方ないだろう。あんな攻撃を受け止めれば、どうやっても隙ができてしまう。
そこをフォルテは狙い、そして――
「あの赤いナビ……オフィシャルも見つけ次第、デリートする」
フォルテが冷徹に言い放った。
そこに込められた深い憎悪にピンクはその身を震わせた。
――ブルースは死ななかった。
ある意味で彼は運がよかったのだろう。
フォルテの攻撃を受け、ブロック外まで弾き飛ばされたのだから。
“迷いの森”のイベント中であるため、一度ブロック外に出てしまうと追撃は難しい。
それがきっとブルースの命を救った。
けれどそのせいでピンクはフォルテと取り残されてしまった。
「早く来い」
不意に呼び止められ、ピンクは肩を、びく、と上げる。
そして言われるがままその後ろをついていく。剣を握ってはいるが、逆らう気力など沸こう筈もない。
恐ろしい。
ただただ恐ろしい。
圧倒的な力を持ったこの死神が。
だからこうしてピンクはフォルテにつき従っている。
終らない森に破壊をまき散らしながら、彼女はただ言われるがままに彼を追った。
「……何でよ」
そうして幾度かの戦いを経て、遂にピンクは口を開いた。
何度もためらい、その度に恐怖に震え、そうして意を決して出たのは悪を糾弾する言葉ではなく――
「何で、あたしを殺さないのよ」
――そんな弱弱しい問いかけだった。
顔は俯き、言葉尻は震え、剣を持てども振るう様子はない。
そんな中で必死に絞り出したのは、自分の置かれた状況についての問いかけだった。
ブルースが消えた時、フォルテはピンクを一撃で縊り殺せるはずだった。
あの時ピンクは視てしまった。彼女の超感覚がフォルテが自分を殺す瞬間を捉えたのだ。
しかし彼は何の戯れかこうしてわざわざ自分を同行させている。
「ふん」
フォルテは背中を向けながら、
「貴様に興味が沸いた訳だ。
見れば分かる。貴様は――“力”しか信じていないのだろう?」
「そんな、あたしは“正義”の」
ヒーローだ、と言おうとした。
しかし言い切る前にフォルテに遮られてしまう。
「あのオフィシャルと同じだとでもいうのか?
違うな。貴様は人間だからな。貴様にとって“力”が全てなのだ。
あのオフィシャルの犬だって、その大事に抱えているチップと同じなのだろう?
ただの“道具”だ。
貴様にとっては何の意味も持つまい。自分以外のものなど」
「違うあたしはそんな――」
「そうか? ならば何故貴様は俺に襲い掛かってこない。
貴様が仲間だの正義だの、そうしたお題目を並べる奴らならば、ナビがいなくとも俺に挑む筈だろう?
それかあのナビを必死に探しにいこうとするだろう。助けるためにな。
しかし貴様はそんなことはしない。ただ俺を恐れ、残った力にすがっている――」
そんな筈はない。
あたしはヒーローで、正義の為に戦っていて、ブルースは道具じゃなく仲間だ。
ピンクはそう言おうとした。言うべきだと思っていた。
しかしどういう訳か、声が出なかった。
間違っているはずのフォルテの言葉が無慈悲に心に突き刺さり、ピンクの心の奥にあるものをずたずたにしていった。
フォルテは断言する。
「貴様が信じているものは“正義”などではない。
――“力”だ」
と。
「だからこそ、俺は貴様の強さとやらが気になった。
俺は貴様たち人間の愚かさと狡猾さを知っている。だから何物にもよらぬ個を手に入れようとした。
だからお前の強さを、信じる“力”を正面から打ち砕いてやりたい。同類としてな」
フォルテはなおも背中を見せている。
先手は必ず取れる。
以前の使用から既に六時間以上経っている。
ジ・インフィニティをぶち込むことができれば勝てる可能性は十分にある。
「ほら、使ってみるがいい。お前の信じる“力”を。
勝機が薄くとも“正義”があるというのならば振るえる筈だ」
フォルテの嘲笑は続く。
向こうはピンクの超感覚や未来予知を知らない。
場合によっては本当に一矢報いることが――
「……無理よ」
――できなかった。
ピンクは駆けだすことなく膝をつき、うなだれる様に頭を押さえた。
それでも腕は剣を必死に握りしめている。自分に残された“力”。これだけは離す訳にはいかない。
だって“力”がなければ何もできないから。
“力”が届かないのに、戦うことを選択できる訳もない。
「やはりな。人間が語る“正義”など所詮その程度のものだ。
貴様こそ――愚かな人間の象徴だ」
フォルテの言葉にピンクは心が抉られていく。
その言葉に言い返すことなどできるはずもない。
正義だのなんだの言いつつ、いざとなれば何もできないような、こんな惨めな人間が何を言うのだ。
“幼稚で浅はかな考えとしか言いようがないな。
オフィシャルが勝つ為に正義を名乗っているとでも?”
ブルースのかつての言葉がフラッシュバックした。
ああそれは――この森でアドミラルに向けた言葉だ。
あれを聞いたとき、自分は思い出したと思った。
何故自分が正義のヒーローだなんて名乗っていたか。
どうして自分が戦っているのか。
ダークスピアを恐れて何もできなかった自分は、その言葉で再起できたと思ったのだ。
けれど本当は違った。
結局、自分は正義など見ていなかったのだ。
最初何もできなかったのもダークスピアの“力”を恐れてのことだし、
途中から調子に乗ったのもブルースの存在や何よりジ・インフィニティの“力”があったからだ。
そんなことだからフォルテという強大な“力”を前に何もできなくなる。
ああなるほど。
確かにフォルテの言う通りじゃないか。
全て“力”を中心に物事を考えてきた。
自分は――勝てるから正義を名乗っていたのだ。
そのことに気付くと、ピンクの想いは沈下していった。
取り繕っていた戦意は消え、ただただ惨めな無力感だけが胸を席巻する。
視界がまっくらになった気がした。心がこの現実を受け入れることを拒否していた。
このアバターは本物の身体ではない。
けれど、同じことだ。現実世界でのヒーロー“ピンク”という身体も、置換可能なアバターに過ぎなかった。
何もかもが上っ面。そんな人間だった。
きっとアーチャーはそれを見抜いていたのだ。だからあんなことを言った。
でもアーチャーの言葉も、ブルースの警告も、全て無視してしまった。
だからこんなことになってしまった。
――ジロー……
沈みゆく意識の中で思ったのはネットを通じて出会い、リアルでも共に戦うことになったフリーターの名前だった。
彼は、彼はどうったのだろう。
珍しいことにネットとリアルの乖離がゼロに等しかった。
ありのままの姿でこの社会を過ごしてきた。そんな彼はヒーローを騙る少女を見て何を思ったのだろう。
――アイツの方が……
よほどヒーローらしかった。
なりゆきでピンクとダークスピアの戦いに巻き込まれ、結果的に戦えないピンクを鼓舞し、共に戦うことになった。
対ダークスピアの戦術まで考えてくれた。何も関係ない筈の、ただのフリーターなのに
今なら分かる。
彼のほうがよほどヒーローらしかった、と。
自分にはヒーローとして必要なありとあらゆるものが欠けている。
名前や肩書ばっかりあって、その実“正義”がない。
そもそも“力”だってない。ピンクと“合体”したジローは、あの身体をよほどうまく扱ってみせた。
――何でここにいないのよ……
アイツさえいれば、ジローと合体できれば、そう思うのと同時に、結局それも“力”を求めているだけだと気付き、更なる無力感に打ちのめされた。
フォルテの言うように自分はジローだって“道具”として見ていたのだろうか。
「君を装備した」だなんて言われて「アイテム扱いするな」って返したけれど、思えば皮肉なやり取りだ。
アイテム扱いしてたはあたしの方じゃない。そうピンクは思い、同時になぜか笑いたい気分になった。
「ふん、もう折れたか」
――そうしているうちにフォルテがつまらなさそうにそう呟いていた。
ゆっくりと振り返り、彼は大鎌をピンクへと向ける。
その刃が首に迫った。恐怖が胸を駆け抜ける。が、それよりも今までのすべてが否定された絶望感が胸を蝕んだ。
ああ死ぬんだ。
何もかもが厭になる。
なんでこんなのが現実がなんだろう。
あの高校に助っ人として現れてから、ずっと、ヒーローになりたかったのは本当なのに。
こんな世の中が悪いんだ。ダークスピアが悪いんだ。そうやって現実を呪う言葉があふれてくる。
でも、知ってた。
本当に厭なのは、一番なくなってしまえと思うのは――こんな惨めな自分だって。
だからこれでいいのかもしれない。
ヒーローもどきは悪の手にかかって死ぬ。
エンディングにもならない打ち切りだけど、押し付けられるハッピーエンドよりはいい。
勘違いしたまま恋愛映画みたいな終わり方するよりは、まだしも救いが――
「――そこまでだ」
鋭い声が聞こえた。
同時に赤い閃光が駆け抜けた。
“ソード”がきらめき、颯爽と彼は現れる。
フォルテは舌打ちをし、鎌で“ソード”を受け止める。
刃と刃が押し合いつつも、駆け付けた赤い閃光はピンクへと語りかける。
「大丈夫か?」
と。
――ああ、その姿は
鋭角的なフォルム。たなびく白い髪。そして何より駆けつけたタイミング。
赤い閃光――ブルースを見上げながらピンクは思った。
――本当、ヒーローみたい。
だなんて。
素直にそう思ってしまった。
「なんでアンタ来たのよ。
見捨てればよかったじゃない、あたしなんて」
……でも口から出たのはそんな憎まれ口だった。
心が砕かれた彼女は、そんなことしか言うことができない。
愚痴愚痴と卑屈なことを言うしかないのだ。だってヒーローじゃないから。
こんなことを言えばブルースも自分を見捨てるに違いない。そう思った。
しかし、
「――言った筈だろう。
オフィシャルの“正義”は“法”を守り“人”を守るものだと」
ブルースは毅然としてそう言い放った。
そして――駆ける。
“ソード”をきらめかせブルースはフォルテに肉薄する。
「懲りずにまた来たか。
だがお前では俺の“力”には及ばん」
「だとしても守るべき者はいるならば駆けるのみだ。
それがオフィシャルとして、伊集院炎山のネットナビとしての“正義”だ」
ふん、とフォルテは吐き捨てると依然と同じようにローブをはためかせ、距離を取った。
単純な速度ではブルースのほうが勝るが、手数では圧倒的にフォルテが勝っている。
その点でブルースはどうしても一歩譲ってしまうのだ。
そしてフォルテは腕をバスターへとコンバートし、先の戦闘の焼き直しが――
「バトルチップ【ダッシュコンドル】」
――それを阻むようにブルースはチップを使用した。
鷹のマシンがブルースの隣に出現する。彼は鷹に乗るようにして――急加速した。
フォルテの目が見開かれる。腕を鎌へと戻そうとするが、しかしもう遅い。
既にブルースはフォルテへと迫っている。
中距離戦へと移行しかけていたフォルテはその対応がまだできていない。
そこに間髪入れずに“ソード”が走る。
「一閃」
ブルースは止まらない。角度をつけフォルテを斬りつける。
「二閃」
そこに重ねる様にブルースは更なる斬撃を加えんと地を蹴った。
「三閃」
その斬撃の軌道は外から見ると特徴的な形をしているように見えた。
三角、いや少しずれている。Δの形に酷似しているように見えた。
――その技は本来デルタレイエッジと呼ばれるものだった
炎山が独自に編み出した連続斬撃。
要するに“ソード”の連続発動だが、相手に反撃の余地を与えることなく達成する為にはシビアな反応速度が求められる。
一流ネットバトラーの炎山だからこそ成し遂げることのできる技だ。
それをブルースは単独で再現しようとした。
一度距離を取られれば勝機はない。それゆえ【ダッシュコンドル】による不意打ちで距離を詰め、この技で完封する。
それが唯一の活路だと考えたブルースは迷うことなくそれを成さんとした。
むろん炎山なしでの【デルタレイエッジ】の再現は困難だ。
しかし躊躇う理由がどこにある。守るべき者と、戦うべき敵がここにいる。
そうしてブルースは戦いに臨み、そして成功を――
「危ない! ブルース」
その時ピンクは視た。
一歩先の未来、迫りくる危険性を。
ブルースが、はっ、とした時には既に遅かった。
斬撃を受けフォルテは、しかしその指先を動かすことには成功していた。
――release_mgi(b)
コードキャストによる反撃だった。
斬り刻まれながらも戦意を劣らせなかったフォルテは、半ば捨て身で発動に成功していた。
斬撃後の隙を突かれブルースはその攻撃をまともに喰らう。
――結果として共に彼らは倒れた。
攻撃を喰らい、弾き飛ばされる。
互いが互いに隙を晒す。
こうなれば先に立ち上がった方が圧倒的な優位に立つが。
――明暗を分けたのは攻撃に付加された効果だった
ブルースのデルタレイエッジは単純な攻撃力こそ高いが、いわば単なる“ソード”の連携攻撃であり、それ以上の効果はない。
一方で礼装【空気撃ち/二の太刀】に付加されていたコードキャストは威力こそ低いが“スタン”効果を持っており……
――先に立ち上がったのはフォルテだった。
彼は一瞬で立ち上がった。
ダメージは深いのだろう。その獣のような形相には痛みが走っていた。
しかしそれを上回る憎悪がある。憎悪を“力”に乗せ彼は解放した。
その手から閃光を――アースブレイカーを放つ。
閃光、そして轟音。土が抉れ、ビームがブルースを穿つ。
まともに受けたブルースは、ごろごろと地面を転がる。
そしてその首筋をフォルテに掴まれた。
「――決着だ」
ブルースを持ち上げながらフォルテはそう言い放つ。
純粋な憎悪を言葉に乗せ、傲岸にも彼は言う。
「所詮貴様たちはこの程度ということだ。
人間なしでは戦えもしない、弱者だ。
俺はお前たちとは違う。俺には“力”がある」
そうそれで勝敗は決した。
ブルースが万全であれば、伊集院炎山のオペレーティングがあればこの結果は訪れなかったかもしれない。
しかしこの場に彼はおらず、ブルースは敗けた。それが現実だった。
「哀れだな」
フォルテの言葉にブルースが返したのはそんな言葉だった。
哀れ。
戦いに敗れながらも、ブルースはフォルテをそう評して見せた。
「お前はただ自分が持てていないだけだ。“力”がなければ、お前はお前でいられなくなる。
だから“力”にこだわり続ける。それしかないからだ」
「そうだ、所詮すべては“力”だろう?」
「それは自分がないのと同じだ。自分を律する芯が脆弱な、孤独で哀れな悪だ」
「お前にはあるというのか。愚かなナビよ」
「ある。炎山様との“正義”だ。
それが自分をネットナビ・ブルースたらしめている。
選ぶことができる。オフィシャルとして、炎山のネットナビとして――」
フォルテは激昂しその手に力を込めた。
ぐっ、と音がしてデータが砕かれる。ブルースはその身を散らし、フォルテは怒りのままにそれを喰らった。
ゲットアビリティプログラム。
そうしてブルースの力を吸い上げるフォルテは、飢えた獣のように見えた。
「――次は貴様だ」
そしてフォルテが振り向いた先に、ピンクはいた。
憎悪に塗れた眼光がこちらを向く。その迸る殺意から逃れることはもはやできまい。
「……やっぱりさ、ちょっと違うわよ」
けれどピンクはどこか落ち着いていた。
先ほどよりよほど絶望的なのに、しかし不思議と言葉はすらすらと出た。
彼女は今絶望していた。しかし自分がここで何を言うべきなのか分かっていた。
「あたしは――あなたほど孤独じゃない」
そう言った時、フォルテの動きが止まった。
同時に瞳に灯る憎悪の色が強まったのが分かった。
しかしそれでもピンクの言葉は止まらない。
「あたしは確かに“正義”なんて見ていなかった。ヒーローとしては失格だった。
でも――悲しいのも事実なのよ。
“正義”のブルースが戦いに敗れたことが。もう“正義”の味方と会えないことが。
“道具”だなんて思わない。ああなりたい。ああなりたかったって、憧れてる」
それに、と彼女は付け加える。
「あたしはハッピーエンドに耐えられない人間だった。
あまのじゃくで誰かを信じられなくて恋愛アレルギーで……相思相愛なんてものが現実にあると思えないような、そんな人間。
でもそんなあたしにだって“繋がり”はあった」
フォルテが迫ってくる。
その手には鎌がある。
ああ、あれであたしは終わるのだろう。そう思った。
「でなれけば――ジローにさよならって言えないことが、こんなにも……だなんて、おかしいわよ」
どうしてこんな結末を迎えたかはわかっている。
信じなかったからだ。
“正義”も“力”も“繋がり”も、もう少し信じればよかった。
それが結局“自分”になる。
同時にピンクは思う。
そう思えるんだから、やはりフォルテとあたしは違う、と。
端から諦めているこいつと、信じたくても信じられなかったあたしは違う。
いやそれとも――こいつも同じか。
本当はこいつも信じたくても、でも無理だから“力”にすがるしかなかっただけなのかもしれない。
だとすればやっぱりこいつは――
「黙れ」
鎌が一閃され、彼女はそこで命を落とした。
何もかもが中途半端だった少女の物語はここで終わる。
――そういえば、結局、恋愛映画は好きにはなれなかったな
【ブルース@ロックマンエグゼ3 Delete】
【ピンク@パワプロクンポケット12 Delete】
_7
「…………」
新たに二人のプレイヤーを喰らったが、フォルテの胸は晴れなかった。
ただただ苛立ちが募っていく。
“力”が全て。
それこそが自分の意志を形作っている。
その絶対の律がフォルテを支えてきた。
しかしそれを――哀れだと?
ブルース。そしてピンクの言葉を思い起こし、フォルテは力任せにバスターを放った。
土が抉れ、木が倒れていく。轟音を立てて森が破壊されていく。
“力”の発露だ。これこそがフォルテがフォルテたる証明だ。
唯一無二の絶対の個。
それを孤独などと、馬鹿なことを。
フォルテはそう切り捨てるが、しかし気分は晴れなかった。
そして胸に渦巻く苛立ちは、あるいはネオに敗れた時以上に不快なのだ。
そうこれはあの
ロックマンと戦っていたときのような、相手の存在したことそのものが許せないという、そんな苛立ちなのだ。
もう敵は喰らったというのに、不快さは引かない。
「ふん」
だからフォルテは更なる破壊を求める。
それこそが己の存在証明と信じて。
〔E-5/森/1日目・日中〕
【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP25%、MP40/70
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1~2、アドミラルの不明支給品0~2(武器以外)、ロールの不明支給品0~1、基本支給品一式、ロープ@現実 不明支給品0~1個、
参加者名簿
[ポイント]:2120ポイント/4kill(+3)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アリーナへ向かう。
2:ショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
- 剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力(バルムンク)
- 『成長』または『進化の可能性』(レン)・デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)
- “ソード”“シールド”(ブルース)・超感覚及び未来予測(ピンク)
- 各種モンスターの経験値
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
_1
……メンテナンスを間際に控え、ピンクとブルースは森で会話を交わしていた。
まだ“痛みの森”のイベントは継続中であり、危険なPKがいないか彼は探し回っていたのである。
「“法”と“人”か」
その最中、ブルースが呟いた。
「え?」
「少し思うことがあってな。あのアーチャーの言葉だ。
守りたいものは“法”なのか“人”なのか――奴はそんなことを言っていたな」
ブルースは思い起こすように言う。
あれは数時間前、キリトやサチをめぐる戦いに巻き込まれた時のことだ。
錯綜の末にキリトたちと戦い、一応は収拾は付いたが、多くの痛みを齎してしまった。
「そんなの……だから言ったじゃない。“法”は“人”を守るためにあるんだから、一緒じゃない」
ピンクは鞘に入った剣を振り上げながら言った。
しかしブルースはあくまで冷静に、
「いや違う。“法”はそれだけではただの“力”だ。
それを裁定し、振るうのは結局“人”だ。プログラムが人を裁くことはない。
だから場合によっては、“力”の振るい方次第では犠牲になることもある」
ブルースの脳裏に浮かぶのは一体のナビだ。
かつて人間が創り出し、しかしその危険性故に恐れられ、排斥されたナビ。
事の顛末はブルースも知っている。彼が今や悪に堕ちたが、そこに彼を追い込んだのは“法”なのだ。
「だったら、アンタはどうするのよ。
アンタは何を守るっているのよ」
ブルースは答えた。
「“法”も“人”もどちらも守らねばならないだろう」
と。
「何よそれ答えになってないじゃない。そんな簡単に事が進まないから悩んでたんじゃないの」
「そうだ。今だって悩み、迷っている。
オフィシャルとして社会秩序を守ることと、その結果生まれる弱者を救うことは、時には相反するものの筈だ。
しかしどちらかを切り捨て、一方によることが“正義”だとは思わない」
かつてのブルースなら――ロックマンと出会う前であったら違っただろう。
悪は斬る。社会の悪を斬る為であれば、犠牲を厭わない。
そうしていた筈だ。
しかしもう自分たちは知っている。
伊集院炎山はオフィシャルとして“人”を守ろうとしている。
「どちらも切り捨てず、常にジレンマを抱えながらも、それでも“法”も“人”も守る。
それが“正義”だ。そうしたジレンマとの戦いこそが“正義”だと、ロックマン、そして光熱斗が教えてくれた」
もはやあのナビ――“法”によって悪に追い込まれたナビは許しがたい存在だ。
多くの罪を犯した以上、デリートすることに躊躇いはない。
それが自分たちの“正義”であるが、しかしそれは決して唯一無二のものではない。
カイトたちやロックマンは別の答えを導くかもしれない。それもまた間違いではないのだ。
みながみな、ジレンマを抱えている。
それでも考えることを止めてしまってはいけない。ジレンマと戦い続けることが“正義”となる。
「――炎山様はこれからも“法”と“人”の間で悩み続けるだろう。
それを支え、共に悩んでいくことがネットナビとしての役目だ」
それがブルースの答えだった。
最終更新:2016年02月16日 07:19