1◆
ラニ=Ⅷはウラインターネットを歩いている。
スケィスと呼ばれた巨人との戦いを乗り越えて、探索クエストのクリアも果たした。
そして、今後の方針について思案を巡らせていた。
スケィスが残した爪痕は深く、そして被害の規模はウラインターネットにまで届いている。
テスクチャは剥がれ落ち、無数のデータが剝き出しになっていた。スケィスと
ロックマンの力はネットスラムに留まらず、別エリアにまで及んでいたのだろう。
これを調べることはしなかった。無闇に触れてはアバターに何らかの影響を与えかねない。パラメータ及びアイテム欄が滅茶苦茶になり、今後の行動に支障を及ぼす危険があった。
そして、この事態はGM側も見逃さないはず。バグが生じては、それが殺し合いの瓦解に繋がってしまう。
現時点まで、このバトルロワイアルは公正かつ公平に進行していたはずだ。その為には、万能たる運営プログラムの存在が不可欠だ。
(……まさか、スケィス達の力はそれすらも凌駕しえるものなのですか?)
圧倒的スペックでネットスラムをデータの藻屑と変えたスケィスと、最期の意地でそれに対抗したロックマン。
二つの力によってデータは崩壊し、そしてモーフィアス達もまた消えた。
順当に考えて、モーフィアス達の生存率は低い。あれだけの力の奔流に巻き込まれては、無事でいられると考えるのは不合理だ。
万が一、二人が生存していたとしても捜索は不可能。遭遇しては100%の確率で戦闘に突入する……現状のステータスでは不要な戦いは避けるべきだ。
先程、一台のバイクが見えた。
距離は遠く、その速度も凄まじいせいで、接触することは不可能だった。しかし、ラニは追跡をしていない。
理由は二つ。
まず一つ目は、進行方向から考えて、あのプレイヤーがモーフィアス達と遭遇する可能性もある。その際に情報交換をされて、こちらのスタンスについて話されたら、敵がもう一人増えてしまう。
詳細不明の相手との戦闘は避けるべきだった。
そしてもう一つ。
乗り主の姿は余りにも禍々しく、一目見ただけで危険人物と思わせる風貌をしていた。例えるならば、あのスケィスに匹敵する『死の恐怖』を孕んでいるようだった。
そんな相手と接触しても、友好的な関係を築けるとは思えない。最悪、遭遇と同時にこちらが敵と認識されて、そのまま排除される危険があった。
また、バトルロワイアルに乗っていないとしても、同行は不可能だった。仮に協定を結べたとしても、何らかのきっかけでこちらのスタンスが知られたら、結末は同じ。
故に彼は放置しなければならない。単独行動のデメリットはあるが、この状態で賭けに出るべきではなかった。
ウラインターネットを調査する価値はあるが、いつまでも長居はできない。
もしもスケィスが生存していた場合、またウラインターネットに戻ってくるはずだ。奴は第三勢力の一員である重剣士を狙っていたが、その矛先がこちらに向かないとも限らない。
再び交戦する事になったとしても、勝てる見込みは見られなかった。先の戦いでは人数の利に加えて、チームの連携があったからこそ勝利を掴めた。
戦力と戦術。これらの条件が都合よく揃う機会など、そうそう訪れない。
…………だが、スケィスの撃破は避けられない事態だ。
他のプレイヤーがスケィスを撃破してくれるのは望ましいが、あれを攻略するには相当のスペックが必要だろう。
また、スケィスを撃破するプレイヤーがいたとしても、今度はそのプレイヤーの打倒が必要だ。
どちらが相手になるとしても、早急の解決が必要とされる問題だろう。
ステータスを見直す。
スケィスによってHPは既に半数を切っている。これを回復する手段は持ち合わせていない。
そして脱出の際に令呪を消費して、残り二画となってしまった。
魔力の消費も甚大だろう。この分ではバーサーカーの大技が一発、あるいは二発しか放つことが出来ない。こちらも早急な回復が必要だった。
所持品を確認する。弁当と基本支給品、そして図書室で借りた本とネットスラムで手に入れたエリアワード……更にはnoitnetni.cyl_1-2。
これら以外に揃っている5つの道具。それはいずれも役立つものの、HP及び魔力の回復には利用できなかった。
まずは遠坂凜に支給されていたアイテムから確認する。
万能ソーダ。これは味方一人にかけられたあらゆるバッドステータスを回復できるアイテムだ。毒や麻痺などの状態以上を解除できることは有難いが、今の自分には使い道がない。
次に機関 170式。これはバイクのエンジンパーツらしい。
相当な高性能のようだが、乗り物など持っていない自分には無用の長物だろう。遠目で目撃したプレイヤーなら必要としたかもしれないが、今更どうにもならない。
ここからはリーファが所持していたアイテムだ。
導きの羽。これは最後に立ち寄ったプラットホームに一瞬で戻れる……と、説明で書かれている。
プラットホームが何を示すかはわからないが、恐らく施設である可能性が高い。自分が立ち寄ったところと言えばネットスラムだから、ここで使用しても逆戻りするだけだ。
四つ目は吊り男のタロット。敵一体に麻痺のバッドステータスを付けられるらしい。
最後は剣士の封印。これは敵の物理攻撃力を一時的に低下させられるようだ。
タロットと封印はどちらも戦闘に役立つが、数は僅か3つだけ。故に使いどころは見極めなければならなかった。
先の戦いでも使用することは出来たが、スケィスにこのようなアイテムが通用するとも思えない。こちらの有利に繋がるとも限らない以上、無駄な行動は避けるべきだった。
当たりといえば当たりだろう。
だが、スケィスのような規格外の相手を撃破する決定的切り札にはなり得ない。一つ一つ、積み重ねていくことで届くことも有り得るが、ラニ一人では不可能だ。
その為にも戦力となり得るプレイヤーとの接触も、一刻も早く求められる。
そう考えている最中、遥か彼方より飛来する人影をラニは見た。
意識をそちらに向けると同時に、水色のショートカットの少女が姿を表す。半透明の翼に猫の耳と尻尾……そして、その手に持つ巨大な弓が童話の雰囲気を放っていて、あのリーファを彷彿とさせた。
しかしそんな外見とは裏腹に、決して弱者ではないことも窺える。まず、彼女はこちらからは数メートル程の距離を取っていて、瞳からも警戒が込められているようにも見えた。
恐らく、こちらを警戒してのことだろう。無暗に近づいては不意を突かれるだろうし、逆に離れ過ぎては接触ができない。
何よりもその手に弓を構えている理由が、襲撃者への対策だろう。自分だけではない。今ですら、自分達の預かり知らぬ所に潜んでいるプレイヤーから、襲撃されてしまう可能性がある。
現にあのスケィスが、何の前触れもなくネットスラムに現れたのだから。
「…………いきなりごめんなさい。驚いているかもしれないけど、状況が状況だから」
そして少女は、自分の心中を察したかのような発言をする。
表情は申し訳なさそうにも見えるが、それでも警戒は緩めていないはず。少しでも敵対行動を取れば、即座に狙撃されるだろう。
無論、この場で無駄な戦いを仕掛けるつもりなどない。
「いいえ、それは当然でしょう。この状況では、いつ如何なる時だろうと警戒を緩めるべきではありません。
そういう観点で言えば、貴女の行動は的確だと思います」
「……あなた、この戦いに乗っていないのね?」
「無駄な戦いを好みません。相手が能動的に仕掛けてくるならその限りではありませんが、貴女はそうではないようです。
私はラニ=Ⅷ。《蔵書の巨人》の最後の端末であり、聖杯を求める者」
「ラニ……ね。私は
シノンよ、よろしくね。
私もこんな戦いに乗る気はないわ」
互いに自己紹介をする。それにより、シノンの警戒が薄らか和らいでいくのを感じた。
彼女のスタンスはモーフィアス達や第三勢力と同じだろう。こちらのスタンスを知れば、敵対関係になるはずだ。
シノンの戦力がどれほどかはわからないが、今は出来る限り友好的に接さなければならない。
「シノンさん……貴女もウラインターネットの調査を行いに来たのでしょうか?」
「それもあるけど、人探しをしているの。
ねえ、ラニ。ハセヲ……いいえ、バイクに乗ったプレイヤーを見なかったかしら?」
「バイクに乗ったプレイヤー…………
それが貴女の探し人であるハセヲかどうかは存じませんが、先程目撃いたしました。
ただ、バイクの速度及び距離の関係上、接触する事はできませんでしたが」
「本当? どっちに向かったのかわかるかしら」
「東の方角に向かうのを目撃しましたが、具体的な目的地まではわかりかねます。
恐らく、ネットスラムの可能性がありますが……現時点で向かうのは危険かと思われます」
「それは一体どういうこと?」
「このウラインターネットに侵食している大規模なバグ……それはネットスラムを中心とするものです。
GM側からの動きにもよりますが、恐らく時間の経過と共にバグは拡大していくでしょう」
「……ねえ、詳しい話を聞かせて貰ってもいいかしら?」
「私は先程、同盟を結んだ数名のプレイヤーと共にスケィスと呼ばれた巨人と戦いました。
戦闘は有利に進められましたが、スケィスはエリア全体にハッキングを仕掛けて、撤退されてしまいました。このバグもスケィスによるものでしょう。
同盟を結んだ彼らは……スケィスの転移に巻き込まれて、散り散りになってしまいました」
先程の出来事を要約する。
少なくとも、嘘は何一つとして言っていない。スケィスとの戦いも、バグの原因も、共闘した彼らの行方も……何一つとして、間違ったことは口にしないつもりだ。
ラニ自身の方針も同じ。無駄な戦いは極力控えるつもりだ。
目的の為とあれば、殺害も辞さないが……それを口にする義理まではない。
案の定、シノンは驚愕で目を見開く。しかし次の瞬間、何か心当たりがあるかのように、口元に手を添えた。
「……ラニ。その巨人って白かった?」
「いいえ。色はほんの僅かながら金色を帯びておりましたが……何か心当たりでも?」
「ええ。私とハセヲはマク・アヌってエリアで殺し合いに乗ったプレイヤーと戦っていたの。
その中には白い巨人も含まれていて、私の仲間を……二人も殺したわ」
語る度にシノンは表情を顰めていく。まるで苦虫を潰したかのようだ。
共に戦った仲間を失う喪失感は計り知れない。ラニ自身も先程、似たようなものを味わった。
……尤も、彼らを仲間と呼ぶのは少し違うかもしれないが。
「……ごめんなさい。何か、嫌な空気にさせちゃって」
「いえ、貴女の無念はわかります。あの場ではスケィスの撃破をできなかったことを、お詫び致します」
「あなたのせいじゃないわ。
スケィスの件に関しては私にも責任があるし、何よりも奴がこれほどのバグを引き起こせる以上、ラニが生きているだけでも奇跡のようなものよ…………」
「そう言って頂ければ幸いです」
事務的に、そして一悶着を起こさない為に返答する。
現時点ではこれがベターだ。こうする他に彼女との関係を築き上げる方法はない。
事実、あそこでスケィスを撃破出来なかったことが痛手であることに変わらなかった。いずれ、シノンの力を借りなければならない時が来る。
…………それを乗り越えたならば、今度はシノンとの戦いが訪れるだろうが。
「それとシノンさん。スケィスがいたと言われるマク・アヌ……こことは随分離れていたはずですが?」
「ええ。いくらなんでも移動が早すぎるわ。ハセヲが乗ったバイクでさえ、短時間でここまで辿り着くなんてできないはずよ」
「恐らく、スケィスの行ったハッキングが関係しているのでしょう。別エリアの移動だけではなく、長距離間の転移……これら二つが合わさったと考えるのが妥当です。
あれがあったからこそ、私達は誰もその存在に気付くことができなかった」
「…………じゃあ、月見原学園にいるユイちゃんや白野達も危ないじゃないの!」
シノンは叫ぶ。
その口から出てきた名前を聞いて、ラニは目を見開いた。それは彼女自身がよく知り、何よりも一番慕った人間の名前だ。
「白野……? それはまさか、
岸波白野のことでしょうか?」
「そうだけど……あなた、もしかして白野の仲間なの?」
「はい。私はかつて、ある世界で白野さんと共に戦っていたことがあります。
始まりの地で白野さんの姿を見たので、この世界のどこかにいると推測していました……シノンさん、貴女は会っていたのですね」
「そうよ。だとしたら、こんな所でジッとしている場合じゃないわ。
ラニは今すぐにでも月海原学園に行って! スケィスがワープなんて使えるのなら、あそこに集まっているみんなが危ないわ!
私はハセヲを追って、それから月海原学園に戻るから!
他にも話はあるけど……詳しいことは白野やレオって人達から聞いて」
「わかりました。
シノンさん。貴女に星の導きがあらんことを」
「ありがとう」
そう言いながらシノンは頭を下げると、この場から去っていく。
無防備な姿だが、ラニは背後から不意打ちなどしない。彼女ならば回避されてしまう恐れがあるし、何よりも戦力になり得る相手をわざわざ殺すのは効率的ではなかった。
それ以上に気がかりなのは、シノンが言っていた白野とレオだ。
まずはレオ。西欧財閥の次期当主であり、月の聖杯戦争にも参戦していたマスターであるレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイの可能性が高いだろう。
記憶が正しければ、彼は白野に敗れたはずだが…………既に敗れた遠坂凛やダン・ブラックモアがいる以上、彼が参戦した所で何の不思議もない。
シノンの言葉が正しければ、彼はこの殺し合いの打倒を目指しているだろう。完璧な王を自称し、完全なる世界に人類を導こうとする彼ならば、確かにその方針だろうとおかしくない。
彼が使役するガウェインは強敵だ。そのパラメーターは全サーヴァントの中でもトップクラスに入る。真っ向から立ち向かっても、現在のHPでは戦いになる訳がない。
万全の状態でも勝利は難しいだろう。仮に撃破するとしても、スケィスのような危険な相手と潰し合わせて消耗させきった後、不意打ちをする以外に方法は思い浮かばない。
そしてそれ以上に、白野が月海原学園にいると言う話がラニの心を動かしていた。
白野もまた、レオと同じようにバトルロワイアルの打倒を目指している。即ち、ラニにとっては敵となる運命だ。
月の聖杯戦争を勝ち抜いてきた彼が、今度は他者を守る為に戦おうとしている…………否、彼は元々無意味な死を快くは思わない人間だ。だから、その選択をするのもあり得ない話ではなかった。
聖杯を得るならば他のマスターを打ち破る。その道理は、月の聖杯戦争もこのバトルロワイアルも同じということだ。
岸波白野を打ち破る……一度は覆された運命が、この世界でまた齎されようとしているだけだ。しかし、何故かその運命に抵抗を抱く。
それがわかっているのに、ラニは足を進める。そして、胸の奥が疼いていく。それは喜びなのか、悲しみなのか……ラニ自身にもわからない。
行く先は月海原学園。来た道を逆に戻ることになるが構わない。
岸波白野がいる。その事実こそが彼女の感情(なかみ)を刺激して、そして動く為の原動力となっていた。
ラニは知らない。
この手で打ち破ったリーファがシノンの仲間であることを。そしてシノンもまた、ラニがリーファの仇であることを知らなかった。
そして月海原学園にいるのは白野だけではない。リーファとシノンの仲間であるユイもいて、ユイはリーファの仇がラニであることを知ってしまっている。
また白野も、ラニが月海原学園に向かおうとしていることを知らなかった。
今はまだ誰も知らない。しかし真実が明かされようとしている時、何が起こるのか…………
【A-9/ウラインターネット/1日目・午後】
【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、魔力消費(大)/令呪二画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、万能ソーダ@.hack//G.U.、機関 170式@.hack//G.U.、導きの羽@.hack//G.U.、吊り男のタロット×3@.hack//G.U.、剣士の封印×3@.hack//G.U.
[思考]
0:月海原学園に向かい、白野やレオと出会う。
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP60%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。
【万能ソーダ@.hack//G.U.】
使用するとあらゆる状態異常を治す事が出来る。
【機関 170式@.hack//G.U.】
バイクのエンジンパーツ。
性能。最高速+4、加速度+2、特殊能力:猩々神楽
【導きの羽@.hack//G.U.】
使用すると最後に訪れたプラットホームに立ち寄ることができる。
※このバトルロワイアルの場合、最後に訪れた施設になります。
【吊り男のタロット@.hack//G.U.】
使用すると敵一人に麻痺のバッドステータスを付加できる。
【剣士の封印@.hack//G.U.】
使用すると敵の物理攻撃力を一時的に低下させられる。
※その時間は不明です。
2◆◆
「…………何だよ、これ。何がどうなっているんだよ」
舌打ちと共に零す。だが、彼の問いかけに答えるモノは何一つとして存在しない。忌々しい《獣》も同じだ。
三崎亮/ハセヲはウラインターネットに突入し、そうしてネットスラムに辿り着いた途端……絶句した。
そこは何もかもが塵と化していた。あるはずの建物や瓦礫は存在せず、何もかもがデータの残骸となって崩れ落ちている。
黄昏色の空以外、色は何もない。死の色である灰が全てを満たしていた。
そもそも、このウラインターネット自体が異質だった。
ウラ、と呼ばれるからにはまともな場所とは思っていなかった。例えるなら、常日頃のように誹謗中傷や名誉毀損が繰り広げられるインターネットのように。
だけど、ここはそういった類とはまた違う意味で狂っている。
演出なのか、あるいは本物なのか? とにかく、至る所にバグが見えたのだ。
触れて調査をしようとしたが、指先にほんの僅かな刺激が走る。そして反射のようにバグも消えてしまう。
レオからの調査と揺光の探索をする為に訪れたが、情報が足りない。
ウラインターネットの調査はともかく、まずは最低でも揺光だけは守らなければならなかったが……彼女の姿はどこにも見られない。
別のエリアにいるのか? あるいは、彼女も…………
「…………違う!」
脳裏に過ぎった可能性を否定するように声を荒げる。必死になって、その運命を否定しようとする。
だが、彼女が無事でいる保障など存在しない。既に何人もの仲間が失われた以上、彼女がいなくならないとどうして言えるのか。
他のみんなと同じように、揺光が■されてしまうコトだって……充分に、有リ得ル話なのに。
――ハセヲ。
志乃は■んでしまった。
『三瓜痕』によって未帰還者にされてしまったあの時のように、微笑みながら…………俺の元からいなくなってしまった。
しかも今度は『三瓜痕』さえ見つければ、彼女は目覚めるなんて希望すらない。志乃の全てが灰になってしまう、本当の■になるのだ。
そして……
『……なか、ない……で…………』
アトリもまた■んでしまった。
俺を守る為、スケィスに立ち向かおうとした少女は……あのスミスの手にかかり、その■を奪われた。
誰かに■を齎すことしかできない俺なんかが生きて、どうしてアトリが■ななければならないのか? アトリに■されなければならない理由でもあるのか?
エンデュランスもそうだ。あいつは変わった所はあるが、本質的には義理堅い奴だ。心を通わせるようになってからは、行き過ぎた所はあるものの…………俺達の力になってくれている。
そんなあいつが、どうして■されなければならなかったのか?
昨日まで、当たり前のように隣にいたみんなが…………簡単にいなくなってしまう。
誰のせいか? 榊か? 白いスケィスか? スミスか? PKか?
…………違う。俺こそが、全ての元凶だ。
確かにこんなクソゲームを仕組んだ奴らや、それに乗った奴らが直接の原因だったとしよう。だけど、いなくなってしまったみんなは…………俺と出会いさえしなければ、こうならなかったんじゃないか?
何故なら俺は…………『死の恐怖』……PKKのハセヲだから――――
だから、俺と関わったみんなは死んで……いや、殺されてしまう。俺がいる限り、その連鎖は止まることがない。
揺光だけじゃない。クーンや朔望やパイや八咫……オーヴァンだってそうだ。
いや、もしかしたらシラバスやガスパー、それにタビーや匂坂だって例外ではないはずだ。彼らが参加していないとも言い切れない。
その対象は、俺がこの世界で出会った奴ら……レオ達だって含まれているだろう。
そこまで考えて、ハセヲは思考を振り切る。
感傷に浸っている場合ではない。そうさせない為に、また『死の恐怖』としての道を歩むと決めたのだから。
ここで立ち止まって、そうしている間に仲間達が殺されたら何の意味もない。
このネットスラムにPKがいるなら排除して、そうでないプレイヤーがいたら月海原学園に向かうように言えばいいだけ。
危険な相手と戦うのは俺だけで充分だ。
ハセヲはバイクを収納して、ネットスラムを見て回る。
マク・アヌのように荒廃しており、奥に進めば進むほどデータの損傷が多く見られる。
まさか、スミスの一人がこちらでも暴れていたのか? あるいや奴や白いスケィスに匹敵する程のPKがまだ存在していると言うのか?
揺光はそいつに…………
「…………誰か。誰かいないのか!?」
ハセヲは叫ぶ。そうしないと、この心に亀裂が生じてしまいそうだった。
しかしその叫びは空しく木霊する。誰も、彼の言葉に答えてくれなかった。
退廃したネットスラムの空は黄昏色に染まっていてが、この大地には生気が感じられない。ハセヲには、それがまるで墓場のように見えてしまった。
この下には志乃やアトリを始めとしたたくさんのプレイヤーが眠っていて、榊達によって死後も辱めを受けている……
唐突にそんな妄想が過ぎり、ハセヲの怒りが更に燃え上がっていく。異形の体躯からは漆黒の稲妻が迸っていた。
喉から唸り声を漏らしながら、ハセヲは再び歩みを進める。
辺りを崩壊させたPKがもしかしたらまた残っているかもしれなかった。そいつが隠れて不意打ちを仕掛けてこないとも限らない。
そうやって、まるで現実の獣のように神経を研ぎ澄ませていたが。
「……あれは!?」
ハセヲの目に二人のプレイヤーが飛び込んでくる。一人は褐色肌の女。もう一人は漆黒の甲冑のようなアバターだが、性別の判断が出来ない。
彼女達は倒れている。故にハセヲは無意識の内に駆け寄った。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
漆黒のアバターを揺らすが返事はない。もう一人の女も同じだった。
死んでしまったのかと不安になったが、この世界でそうなったのならアバターが崩壊する。故に、二人は気を失っているだけだろう。
ハセヲは思わず、二人に回復魔法・オリプスをかける。だが、そのパラメーターの確認ができないので、効果があるかどうかはわからない。
こいつらがPKがそうでないかはわからない。もしもPKならば、この手でわざわざ回復をさせてしまったことになるが……その時は、纏めて蹴散らせばいいだけ。
それに、もしもそうでないプレイヤーならば……シノンやレオ達の力になってくれるように頼むつもりだ。
それにシノンだって素性のわからない自分を助けてくれた。そんな彼女を守ると言うなら、彼女の想いだって尊重すべきだ。
あの時はアトリを助ける為という名目だったが……そんなことはどうでもいい。
死なせたくない。もう死なせる訳にはいかなかった。例え見知らぬ誰かであろうと、失わせたりなどするものか。
二人は目覚めない。
まさか、また間に合わなかったのか? このまま二人がいなくなるのを見届けなければならないのか?
「――厳つい外見だけどよ、どうやら悪い奴じゃなさそうだな。安心したぜ」
「なっ!?」
その最中、何の前触れもなく近くから声が放たれたので、ハセヲは思わず身構える。
咄嗟に背後に飛びながら振り向く。すると、緑色のマントに身を包んだ男が見えた。髪は橙色に染まっていて、クーンのように陽気な印象を感じてしまう。
「一時はどうなるかと思ったけど、おたくは信用していいみたいだな」
「……何者だ、てめえは」
「アーチャー……とでも呼んでくれ。
驚かせて悪いな。俺はそちらの姫さん達とは違って、普通のプレイヤーじゃない」
「プレイヤーじゃない? じゃあ、NPCなのか」
「それもまた違うんだけどね。
ただ、詳しく話すと長くなるんだよな……まあ、俺もこちらにいる姫さん達もあんたの敵じゃない。これだけは確かだ」
アーチャー、と名乗った男はおちゃらけたように語る。
だが、その全身からは隙が感じられない。マントでよく見えないが、その腕にはボウガンと思われる物が装填されている。もしもこちらが敵対行動を取ろうとすれば、それで容赦なく撃ち抜こうとしていたはずだ。
何よりも、気配を悟られずに自分の隣に姿を現した時点で、只者ではないことが窺える。
「…………そうみたいだな」
続くように、くぐもった女の声が耳に響いた。
ハセヲが振り向くと、漆黒のアバターがゆっくりと起き上がっている。赤い瞳が輝く仮面によって表情を窺えないが、リアルの人間はきっと苦悶で顰めているはずだった。
「あんた、気がついたのか?」
「君が派手に揺さぶってくれたおかげでな。随分と荒っぽかったぞ……」
「わ、悪い……」
「いや、むしろそれが普通だろう。それに君は見た所、私達を心配してくれた。
この身体も軽くなっている。私達に使ってくれた先程のあれは、回復アビリティなのか?」
「まあ、そんな所だ……」
「そうか。私の名前は……ブラック・ロータスと呼んでくれ」
「ああ」
ハセヲは頷く。
ブラック・ロータスは男勝りな口調だが、やはり女だろう。その外見は刺々しく、両腕に備わった刃はとても鋭い。
ほんの少し触れただけで、この身体が切り裂かれてしまいそうだった。
「…………っ」
そしてまた、新たに呻き声が聞こえてくる。それは褐色肌の少女だった。
彼女は瞼を開けて、ゆっくりと身体を起こす。そうして自分と顔を合わせた途端、その顔が瞬時に固まった。
理由なんて考えるまでもない。目が覚めて、こんな怪しい外見の奴が立っていたら、驚くのが当然だ。
「あー……」
「……な、なんなのよアンタはっ!」
「落ち付け、ブラックローズ。彼は私達の敵ではない」
「へっ?」
ブラック・ロータスからブラックローズと呼ばれた少女はぽかんと口を開ける。
「それ、本当なの?」
「彼は私達を襲わなかったどころか、回復アビリティもかけてくれている。
見た目に驚いているかもしれないが、私達の世界ではもっと荒々しい見た目をした奴らが……いた」
ブラック・ロータスは俺の擁護をしてくれたが、その途端に俯いた。
その口ぶりから考えて、彼女が元いたゲームには今の自分に匹敵するほどの外見を誇るプレイヤーがいたのだろう。だが、そいつらは死んでしまった。いや……殺されてしまった。
ブラックローズもそれを察したのか、途端に暗い表情を浮かべてしまう。
「ご、ごめん……無神経なことを言って」
「仕方がないだろう。目覚めたばかりでは頭が働かないのは当たり前だ」
「……アンタの方もごめんね」
「別にいいよ」
ブラックローズの謝罪にそっけなく返答する。ここで険悪な雰囲気になるのは御免だった。
アーチャーは無言でいる。空気を呼んでいるのか、あるいは余計なことを言わないようにと考えているのか。だが、どっちだろうと関係ない。
彼らからは聞きたいことがあるものの、あまり長話をしては同行する羽目になってしまう。
ここは自分の用件だけを話して、そして月海原学園に向かうように促すしかない。
「…………ハセヲっ!」
しかし口にする暇もなく、少女の叫びが割り込んできた。
それはハセヲも知っている。何故なら、つい数時間ほど前に聞いたばかりなのだから。
振り向くと、やはり……空の彼方からシノンが現れた。
「シ、シノン!?」
「ようやく見つけたわ……」
「……何でここにいるんだよ。月海原学園に行って、レオ達に協力してくれって言ったはずだよな!?」
「伝言なら私の仲間に頼んだわ。
それと、私がここに来たのは……あんたの無茶を止める為よ」
「俺を止める為……だと」
シノンの返答に、ハセヲは一瞬だけ呆気にとられる。
しかし、すぐに真顔になって…………ハッ、と笑った。
「…………そんなことをしたら、あんたが死ぬだけだ」
「はぁ?」
「俺は『死の恐怖』……PKKのハセヲだ。
あんたは知らないだろうけど、俺はかつて何人ものPKをこの手で仕留めてきた。今思うと、だから俺はこんなゲームに参加させられたのかもな」
「一体、何を言ってるの……?」
「だから志乃やアトリ……俺の仲間が何人も殺された。
シノン。俺と一緒にいたって、いつか……殺されるだけだ」
「…………あんた、本気でそれを言ってるの?
言ったはずよ。アトリの件については私にも責任があるって。それに大元を辿るなら……!」
「その大元は俺を付け狙っていた奴だ! だから、他のみんなが狙われたのは……」
「俺がいたから? だったら、どうしてあんたと関係ない私達までもデスゲームに参加させられたのかしらね。
確かにハセヲを苦しめる目論みもあるかもしれない。でもそれ以上に、私達が理不尽に苦しむ姿を眺めていたい…………
そんな反吐が出るようなことを考えているはずよ」
どれだけ突き離そうとしても、シノンはそれを瞬時に反論する。
彼女は腕づくで止めなければこれからずっと着いてくるはずだ。そしてハセヲに、このデスゲームを打ち破ろうとするシノンを傷付ける意志などない。
マク・アヌでも最後までハセヲを止めようとしたシノンだ。ここまで必死に説得されてもおかしい話ではない。
しかしハセヲは、それでもシノンには隣にいて欲しいと思えなかった。何故なら、もしも何かのきっかけでこの《獣》が暴走したら…………
「……ハセヲ君といったか?
君達の間に何があったのかは知らないし、それを深く詮索する気もない。だが、シノン君は君の仲間だろう……
仲間の言うことを聞くべきだと思うが」
…………そんな思案をせき止めるかのように、ブラック・ロータスが問いかけてくる。
「そうよ! その子はあなたの為に、わざわざこんな所にまで来てくれたんじゃないの?
だったら、彼女のことも考えてあげなさいよ!」
「まあ、おたくがどうしても一人でいたいって言うなら構わねえと思うけどよ…………一人で全部を背負うなんて、今時流行らないぜ?
そんなことをしたって、おたくは満足かもしれねえけど、残された方は悲しくなるだけだと思うぜ」
ブラックローズとアーチャーの言葉に、ハセヲは何も言えない。
二人の言うこともまた、正しかった。こんな道を歩むことを志乃やアトリが望む訳がないし、万が一ハセヲがPKされてしまったら……揺光は悲しむだろう。
だけど、それでも彼女らと共にいる訳にはいかなかった。
もしも彼女らと共に歩んだとしても、それからスミスや白いスケィスのような相手と戦闘になったら……確実に激情に支配される。
そうなったら《獣》は全てを食い尽くそうとするだろう。スミスや白いスケィスはおろか、シノン達だって例外ではない。
事実、ハセヲは憎悪の余りにシノンの命を奪いかけた。次に力を振ったら、今度こそ彼女をその手でPKしかねない。
それだけは、絶対に避けなければならなかった。
ハセヲは思わず、四人から目を逸らしてしまう。
その途端。耳障りな音が響き、ほんの一瞬だけ周囲の光景が歪んだ。
「……なんだ、今のは?」
アーチャーがそう零したのと同時に、ノイズが強くなる。
そして歪みは更に激しくなり、ネットスラムの風景がどんどん揺れていった。それに伴うように、周りの色もまた変質していく。
これはデータの『歪み』だ。『The World』に浸食したAIDAによって引き起こされた現象の一つ。
ジジジジジ、と耳障りなノイズは激しくなり、周囲の『歪み』は更に強くなった。
ここには何かがある。あるいは、この『歪み』の先に奴が……白いスケィスがいるはずだ。
@ホームの時だって、データの『歪み』に転送した先に奴がいたのだから。
それを予感したハセヲは、無意識の内に手を掲げ、ゲートハッキングを行った…………
3◆◆◆
転移した先に広がるのは、色のない世界だった。
ハセヲはそこを知っている。"世界の裏側"である認知外迷宮(アウターダンジョン)と呼ばれる空間だった。
無機質で、それでいて命の気配が感じられない。それでも、認知外変異体が蔓延っていた。
見慣れた世界。しかし、そこに白いスケィスの姿はなかった。
「…………アリーナに似てるけど、よく見ると色々と違うな。
しかしおたく、何でもできるんだな。回復だけじゃなくて、こんなへんちくりんな所にまで転移できるなんてね」
だが、次の瞬間……緑衣のアーチャーの声が聞こえる。
思わず振り向くと、やはり彼がいた。しかも彼だけではない。
シノンも、ブラック・ロータスも、ブラックローズも…………3人とも、驚いたように認知外迷宮を見渡していた。
「なっ……!? お前ら、何でついてきてるんだよ!?」
「何でって、おたくが何かしたからでしょ?
一人で行くつもりだったかもしれないけど、俺たちも巻き込まれちゃった……それだけの話だ」
「じゃあ、今すぐにでも……」
「それも無理みたいなんだよね。入り口がなくなっているのよ」
「何!?」
アーチャーに言われるがまま、ハセヲは振り向く。
見ると、そこにあるはずの『歪み』がなかった。ハセヲはゲートハッキングを行ったが、何の反応もない。
これでは『歪み』を介して元の世界に戻ることができなかった。
「まあ、これで俺達はみんなで仲良くよくわからん所に放り込まれちまったって訳だ。
つーわけでハセヲ君、案内頼むぜ?」
「何で俺が!? それに言ったはずだ、俺はあんたらとは行けないと!」
「どうしても一人がいいなら、誰も止めないと思うぜ? けどよ、俺達は誰もあんたみたいなハッキング能力を持っていない。
これじゃあ、俺達は閉じ込められたままだ。あんたのせいでこうなったんだから、俺達を帰す義務があるんじゃないの?」
アーチャーは得意げに語る。
その態度は何となくムカついたが、言い分は尤もだった。ゲートハッキングをして『歪み』を弄くらなければ、四人が巻き込まれることはなかったのだから。
衝動的に動かないで、四人を引き離してから手を出すべきだったかもしれないが、後悔しても遅い。
「…………わかったよ」
「まあ、よろしく頼むぜ。袖振り合うも多少の縁……って言葉も聞いた事があるしよ」
ハセヲは溜息を漏らす。
しかしその途端、一つの疑問が生まれた。何故、白いスケィスがいないのに『歪み』が現れたのか。また、どうして『歪み』がすぐに消えてしまうのか。
ボルドーのようなAIDA=PCがネットスラムでも暴れていたのか? あるいは始めからこのような仕様として、ゲームに組み込まれていたのか?
「ハセヲ君。君の使ったその力……まさか、スケィスと何か関係があるのかい?」
ハセヲが思案する最中、ブラック・ロータスが問いかけてきた。
スケィス。彼女が口にした単語を聞いて、ハセヲは目を見開いた。
「スケィスだと……あんた、あいつを知っているのか!?」
「ああ。私達は先程、突如としてネットスラムに現れたスケィスと交戦していた。
尤も、後一歩というところで逃げられてしまったよ。君が使ったような、ハッキングを行ってな」
「奴がどこにいったのかわかるか!?」
「知らないよ。だが、何の前触れもなく私達の前に現れた奴のことだ。私達の手の届かない所に転移したとしても、おかしくはない。
それどころか、私達に協力してくれていたプレイヤーだって行方不明となった…………彼らも無事でいてくれるといいのだがな」
「そうか……すまない」
「まさか、君は奴を追っていたとでも言うのか? だとしたら、尚更君を放っておく訳にはいかないな。
あれは危険だ。君にも何か考えがあるのかもしれないが、それが通じると思わないことだ。
そしてもう一つ。今度は私の方から質問するが、君はその身体に纏う《鎧》が何なのかを知っているのか?」
ブラック・ロータスの声色が鋭くなっていく。彼女の視線はこの体躯を包む《鎧》に向けられているようだった。
心なしか、その瞳の赤色も徐々に濃くなっていくようにも見えた。例えるならば、憤怒と呼ぶに相応しい感情かもしれない。
「《災禍の鎧》……かつて加速世界に大変な恐怖をばら撒いて、多くのバーストリンカー達を絶望させたそれのことを、知らないのか?」
「あんた……こいつのことを知っているのか?」
「やはり知っているのか! ハセヲ君、君は今すぐにでもそいつから離れるべきだ!」
「ブラック・ロータス…………悪いが、それはできねえ。こんな奴だが、今の俺には必要なんだ。
こうでもしなきゃ、勝てねえ相手もいるからな」
「馬鹿な……それは君が思っているような強化外装ではない!
何人ものバーストリンカーが人格を汚染された! 今でさえ、君の精神に浸食しているはずだ!」
彼女の叫びが迷宮の中に響いた。
それに疑念を抱いたのか、シノンがブラック・ロータスに尋ねる。
「ねえ、あなたは何の話をしているの? ハセヲが纏っているその鎧って一体何なの?」
「簡単に言ってしまえば、呪われた代物だ。
確かに凄まじい戦闘能力は得られるだろう……だが、あの《鎧》には己の意思があり、装着者した者に乗り移ることができるんだ。
そして、過去に何人ものバーストリンカーが犠牲になった……」
「なっ…………!?」
当然ながら、シノンは驚愕する。ブラックローズも同じだった。アーチャーは他の二人程ではないにせよ、驚いているように見える。
しかし、三人の事などお構いなしに、ブラック・ロータスは詰め寄った。
「君が一人で行こうと言うなら、私達はそれを咎めたりしない。だが、君が《災禍の鎧》を持っているとなれば話は別だ。
それを封じなければ、君は絶対に不幸になる。いや、君だけではない…………《鎧》が生き残るようなことがあれば、数多の平行世界で甚大な被害が出るはずだ。
私はそれを止めなければならない」
「……そうとわかったら、私も協力するわ。
さっき、ハセヲに襲われた理由がわからなかったけど、これではっきりしたわ……今はいいかもしれないけど、放っておいたらその鎧が好き放題に暴れ出しかねないようね」
「なら、私も頑張らないとね。その鎧は怖いけど……ハセヲは命の恩人だからさ」
彼女達はハセヲと同行するつもりでいるようだ。
本当なら彼女達と共に行く訳にもいかないのだが、アーチャーが言うように彼女達はエリアハッキングのスキルを持たない。
故に、まずは他にあるであろうデータの『歪み』を見つけなければならなかった。
「そういう訳だ。その鎧は薄気味悪いけど……まあ、おたくにだけは無理をさせねえよ。
姫さん達がそのつもりなら、俺もできる限り協力してやるからさ」
「……ああ」
切り捨てようとしても、捨てられない。
目を背けようとしても、背けられない。
離れようとしても……彼女達は俺の元に来てくれる。
それは確かに嬉しくあるが、同時に心苦しかった。もしも、彼女達と触れ合うことで心に隙が生まれて、そこを《獣》に付け込まれたら……彼女達に『死の恐怖』を齎してしまう。
そうなったら《獣》は全てを飲み込み、そしてこのデスゲームに存在する全てのプレイヤーを食い尽くそうとするだろう。PKだろうとそうでなかろうと、関係ない。
だからこそ、今は一人でいたかった。しかし運命はそれを否定するかのように、誰かと巡り会わせてしまう。
ハセヲ達は歩いた。
この迷宮の出口を捜す為に。
このまま歩いても出口が見つかる保証はない。もしかしたら、永久に閉じ込められてしまう危険もあった。
だけど、足を止めることはできない。
不意に上を見上げる。先程まであったはずの空は見えず、地平線の彼方まで無色だった。
ハセヲにはそれが、まるでこのデスゲームを現しているように見えてしまう。希望で輝く未来が見えず、世界にあるのは灰色の恐怖だけ。
それが自分自身を表していているようで、より深い虚無感を抱いてしまった。
【?-?/認知外迷宮/1日目・午後】
【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP90%、SP95%、(PP100%)、強い自責の念/B-stフォーム
[装備]:ザ・ディザスター@アクセル・ワールド、{大鎌・首削、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、イーヒーヒー@.hack//
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:バトルロワイアル自体に乗る気はないが………。
0:……俺は、『死の恐怖』……PKKのハセヲだ―――。
1:今はみんなと共に認知外迷宮の出口を捜す。
2:スミスを探し出し、アトリの碑文を奪い返す。
3:白いスケィスを見つけた時は………。
4:仲間が襲われない内に、PKをキルする。
5:レオ達のところへは戻らない。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、現在プロテクトされており選択することができません。
※“碑文”と歪な融合を果たし、B-stフォームへとジョブエクステンドしました。
その影響により、心意による『事象の上書き』を受け付けなくなりました(ダメージ計算自体は通常通り行われます)。
※《災禍の鎧》と融合したことにより、攻撃力、防御力、機動力が大幅に上昇し、攻撃予測も可能となっています。
その他歴代クロム・ディザスターの能力を使用できるかは、後の書き手にお任せします(使用可能な能力は五代目までです)。
※《災禍の鎧》の力は“碑文”と拮抗していますが、ハセヲの精神と同調した場合、“碑文”と共鳴してその力を増大させます。
※ハセヲが《獣》から受ける精神支配の影響度は、ハセヲの精神状態で変動します。
【シノン@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP80%、強い無力感/ALOアバター
[装備]:{フレイム・コーラー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、雷鼠の紋飾り@.hack//、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[アイテム]:基本支給品一式、光式・忍冬@.hack//G.U.、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、プリズム@ロックマンエグゼ3、5.7mm弾×20@現実、薄明の書@.hack//、???@???
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
0:アトリ……私……。
1:ハセヲ達と共に出口を捜す。
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備(弾薬と狙撃銃)を集める。
3:ハセヲの事が心配。 《災禍の鎧》には気を付ける。
4:【薄明の書】の使用には気を付ける。仮に使用するとしても最終手段。
5:ユイちゃん達とはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
- ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
- GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※このゲームにはペイン・アブソーバが効いていない事を、身を以て知りました。
※エージェント・スミスを、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※【薄明の書】の効果を知り、データドレインのメリットとデメリットを把握しました。
【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画、移動速度25%UP
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3 エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ハセヲ君やシノン君達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》を封印する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。
【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%、移動速度25%UP
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ハセヲやシノン達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》には気を付ける。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。
[全体の備考]
※ロックマンとスケィスゼロの力による影響で、ネットスラム及びウラインターネット全域にはバグ及びデータの『歪み』が出現しています。
最終更新:2016年02月04日 22:16