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 見上げた先にある黄昏色の空は何度見たかわからない。例えデスゲームの場だろうと、その美しさは現実/『The World』に勝るとも劣らなかった。
 そして、空の下にはハセヲがいる。トワイスの導きがあったのだから、再会はそう遠くない。
 当然ながら、転送されたと同時に出会うことは不可能だったが。



 ハセヲを見つける為に歩みを進めながら、オーヴァンは思案に耽っている。
 このデスゲームの根幹を担う存在とは、何か。
 GM達の隙を狙い、オーヴァンが求める"真実"を得る為には、まずそれを知らなければならない。

(やはり、このデスゲームには『死の恐怖』……スケィスが存在するか。碑文ではなく、モルガナ八相の第一相が)

 手がかりの一つは、エージェント・スミスやラニ=Ⅷが目撃した巨人。モルガナ八相の第一相・『死の恐怖』スケィスだ。
 モルガナ・モード・ゴンによって送り込まれた第一の刺客であり、女神アウラを3つのセグメントに分解した『八相』が、デスゲームに存在する。
 その役割は、オーヴァンのようにデスゲームの扇動を任されている……無論、PKとしては実に適格だろう。
 しかし、ラニの話から推測する限りでは、与えられている役割はプレイヤーの撃破の他にも存在する。それは女神アウラ復活の妨害だ。



 ラニはこのデスゲームにて【セグメント1】というアイテムを手に入れたが、スケィスに奪われたらしい。
 彼女こそは【セグメント1】の詳細を知らなかったが、スケィスが狙ったからには、女神アウラの欠片の可能性が高かった。
 そもそもこのデスゲームには、勇者カイトや女神Auraの騎士・蒼炎のカイトが巻き込まれている。『The World』を護る勇者達が危機に陥れば、女神Auraは何らかの動きを見せるはず。
 だが、何らかの方法で女神Auraは再び破壊されてしまい、介入は不可能となった。スケィスがセグメントを狙ったのも、デスゲーム瓦解の鍵を潰す為だろう。

(榊やトワイスの背後にいるのは、モルガナ・モード・ゴンか……)

 そして、スケィス達八相を束ねるのは、モルガナ事件の元凶にして『The World』における創造主……モルガナ・モード・ゴンだ。
 このデスゲームに『The World』のシステムを組み込む為に、根幹たるモルガナが必要なのだろう。
 モルガナは自らの力で女神アウラに手を下すことができない。だからこそ、本来ならばGM側が保管するべきセグメントがプレイヤーの手に渡っていた。
 3つのセグメントを集めさせない為にも、スケィスがデスゲームのプレイヤーに選ばれたのだろう。


 だが、このデスゲームはスミスやキリト達と戦ったPK・フォルテのような、規格外の力を持つAIも存在する。
 セグメントの存在を知らないであろう彼らが、スケィスを打破する事態になってしまえば、女神アウラの"再誕"が行われる事態になりかねない。
 この場では碑文使いや八相と言えど、絶対的優位に立てる保証はなかった。スミスがアトリ/イニスを打ち破ったように、何らかのシステム外の力によってスケィスが破壊される可能性もある。
 ミアが……第六相『誘惑の恋人』・マハが敗者となってしまったように。

(この世界をあえて脆く作ったのは、対セグメントの手段なのか?
 例え、スケィスやPK達が敗れ、女神Auraのセグメントが揃う手筈が整っても、世界そのものが壊れてしまえば…………全てが虚無になる)

 デスゲームが始まって、既に18時間が経過しようとしている。
 残されたプレイヤーは全体の半数を切り、GMの打倒を狙う集団はゲームの核心に迫りつつあるはずだ。
 あるいは既にセグメントを手に入れて、女神復活の為にスケィスと戦うプレイヤーが出てもおかしくない。



 しかし、榊の言葉が正しければ、タイムリミットもまた近づいている。
 オーヴァンはコルベニクと《Triedge》でキリトを追い詰め、アスナの命を奪った。その影響で、この世界の綻びはより大きくなったはずだ。



 ハセヲがシステム外の力で進化を遂げて、
 蒼炎のカイトが蒼炎の守護神となって《Glunwald》に立ち向かい、
 ロストウエポンを操るフォルテがキリトとアスナの二人と死闘を繰り広げ、
 スケィスがネットスラムから逃走した影響でウラインターネットに多大な被害を与えて、



 その果てに待ち構えているのは、モンスターエリアの解放だ。
 大量のモンスターもまた、セグメントの破壊の為に用意されたモルガナの戦力だろう。それに伴ってクビアもまた成長する……可能性としては、否定できない。



 ここにまた、新たなる疑問が生じる。
 このデスゲームには2体の『八相』が紛れ込んでいる。ならば、残る六相もGM側に用意されているのではないか。
 その場合、かつての八咫であるワイズマンが『運命の預言者』・フィドヘルと接触して、何が起きる。AIDAとロストウエポンが授けられ、加えて第四相と巡り会ってしまえば…………どうなるか。
 フィドヘルだけではない。オーヴァンのアバターに宿らせる第八相・『再誕』コルベニクも、女神アウラ復活を阻止する為に現れるだろう。
 コルベニクは『絶対防御』とドレインハートで勇者カイトを追い詰めたモルガナの切り札。女神アウラの自己犠牲があって、ようやく打ち倒した八相だ。
 勇者カイトと女神アウラの力が期待できない以上、唯一の対抗策として期待できるのは…………『真なる再誕』のみ。



 『八相』だけではない。『The World』に蔓延っていたAIDA達もまた、GMが保持している可能性はある。
 《Triedge》や《Helen》は当然のこと、《Glunwald》及び魔剣マクスウェルの存在が確認された以上、残りのAIDAがいないとは言い切れない。
 そもそも、GMの一人である榊からしてAIDA=PCだ。オーヴァンほどでないにしろ、AIDAに関しては理解しているだろうから、デスゲームに導入できたとしてもおかしくない。



 この仮説通りに『八相』とAIDAが存在するのなら、役割はセグメントの破壊とクビアの成長か。
 邪魔者となるであろう女神アウラを消去し、自らが『The World』の神として君臨する…………それこそがモルガナの最終目的か?
 だが、不明瞭な点は未だに存在する。犠牲の役割を担うのは者の正体を、そしてまだ見ぬGMの存在も把握しなければならない。
 これだけの規模のデスゲームが繰り広げられている以上、運営するのが榊やトワイスだけではないだろう。あの預言者オラクルも、現状ではGMに回収されているはずだ。
 GMに付け入るというのなら、相手の実態を知る必要がある。オーヴァンが把握しているのは、ごく一部なのだから。



 と、そこまで考えた途端、どこからともなく話し声が聞こえてくる。
 顔を上げた先には、五人のプレイヤーが見えた。鎧を彷彿とさせる漆黒のアバターと、タビーのように猫耳を付けた少女と、軽薄な雰囲気を放つ緑衣の男。
 そして残りの二人が、オーヴァンにとって重要な意味合いを持つ存在だった。

「ハセヲに…………そして『.hackers』の一人である、ブラックローズか」

 異様なまでに刺々しい鎧を身に纏った錬装士・ハセヲ。もう一人は重剣士と思われる褐色肌のPC……モルガナ事件において、勇者カイトの相棒を務めたブラックローズと非常に酷似していた。
 だが、オーヴァンは別段驚かない。勇者カイトや蒼天のバルムンクがプレイヤーとなった以上、彼女が参戦させられていても何らおかしくない。
 むしろ、率先してプレイヤーに選ばれるのが道理だろう。



 気配を殺しながら、彼らの話に耳を傾ける。どうやら月海原学園にはスケィスが向かっているようだ。
 ハセヲは猫耳の少女の制止を振り切って、ウインドウから蒸気バイクを出現させる。シノン、と呼ばれた少女達を放置して、ハセヲは月海原学園に走り去った。
 無論、それを黙って見ている訳でもなく、四人もまたハセヲを追跡する。オーヴァンに気付いた様子は見られなかった。

「どうやら、またあの学園に向かうことになるようだな……」

 ハセヲ達はスケィスを倒す為に、月海原学園に向かおうとしている。ペナルティエリアに指定されている学園には、キリトを救った少年達がいるはずだ。
 だが、スケィスからすればペナルティなど関係ない。恐らく、学園を護る蒼炎のカイトを仕留める為に向かったのだろう。
 これもまた"運命の出会い"なのか。『The World』では勇者カイトは幾度となく『死の恐怖』と戦った。
 預言者はこの『運命』すらも、導き出していたのか? 彼らが巡り会って、その後に如何なる未来が生まれるのか――――終焉か再誕か、あるいは全く違う未来か。
 それを見届けるにはリスクを伴うが、躊躇しては"真実"を知ることなどできない。
 世界の真実を見極める為に、オーヴァンは再びゆっくりと歩み出した。




【?-?/日本エリアのどこか/1日目・夕方】


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{死ヲ刻ム影、静カナル緑ノ園、銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ、noitnetni.cyl_3、不明支給品1~10、基本支給品一式
[ポイント]:300ポイント/1kill(+3)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:ハセヲの様子を確かめる。その為に月海原学園に向かう。
2:利用できるものは全て利用する。
3:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
4:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
5:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。


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最終更新:2016年09月06日 02:44