現れたのは炎と、そしてクラインの怒号だった。
そこは闇に覆われた空間。黒を基調としたパネルで構成された大地に、光源一つない空が掲げられる。
だが、揺光の目の前は暗さとは無縁だった。それとは対極に眩しさがあった。
炸裂する光。そしてそれは炎が迫っていることを意味していた。

「うわぁっと、何、これ!」
転移早々出くわした危険な場面に、揺光は驚きの声を上げ、身をかがめ炎を避けた。
元紅魔宮チャンピオンの名は伊達ではない。ブランクはあるが、アリーナでトッププレイヤーであった彼女だ。鍛え上げた反射神経が功を奏し、回避することに成功した。
そのまま走り、クラインに近づく。

「待ち伏せ、やっぱり居たね」
「ああ……、でも、ありゃあ待ち伏せってより」
クラインは目の前に迫る脅威へと目を向けた。
パネルに置かれた青く光る円状の紋様(このエリアのワープゲート?)を守るようにそいつは居た。
その容姿がまた異様だった。先ず揺光やクラインのように人間の姿をしていない。
メカニカルな意匠をしたボディを、バネのような四足でパネルを踏みしめ支えている。その身は赤く燃え盛る炎を身に纏っていた。
たてがみのように炎を揺らす頭部からは、時節「ヴォォォォ」と獣のような唸り声が上がり、そこに理性があるようには見えなかった。

「ボスだな。門を守る為に配置されたボスモンスター」
「全くだね。この調子で、本当にこのエリアに何か隠されてるといいんだけど――っと」
炎の敵は「ヴォォォォォォォォ」と更なる叫びを上げ、再度攻撃をしてきた。
炎を吹き出し、燃え盛る炎がパネルを這うように進む。二人は散開して、それを避ける。決して速い攻撃ではない。不意打ちの初撃と違い、余裕を持って回避することができた。
とはいえ、揺光にはそこから反撃に転じることはできなかった。双剣があれば別だろうが、今の自分の装備はあの大剣。重いのでまだオブジェクト化していない。
だが、クラインは違った。刀を振るい、敵へと真直ぐに突っ込んで行った。

炎の敵に接近し、刀を振り合げ、その身を斬った。
敵は未だ反応できていない。防御などできる筈もなかった。
が、揺光はそこに違和感を覚えた。

(今、奴の炎の色が――)

「ん? 何だ、この手応え――」
クラインの声が響き、そして彼の身体が吹き飛ばされた。
斬りつけられた筈の敵は、斬撃を全く意に介さずその手を伸ばすことで、己の身に張り付く剣士を振り払ったのだ。

「クライン!」
揺光は名を叫ぶ。幸い、それ程のダメージはなかったのか。すぐに身を起こし、クラインは再び刀を構える。
殴打を受けたと思しき腹部を抑えつつも、その眼光は衰えていない。

「大丈夫なのか!?」
「ああ、俺は大丈夫だがよ。さっき、たぶん無敵状態だったぜアリャ」
今しがたの攻撃の分析を彼は口にした。
無敵時間。ゲームにおいてダメージが全く通らなくなる状態だ。
だが、ゲームである以上、それが完璧なものである筈がない。何らかの制限、あるいは上限が設定されてある筈だ。

「多分、奴の纏ってる炎の色が関係してる、と思う」
「マジか。じゃあ……」
「さっきは緑だった。きっとあの色が変わると付加される効果も変わるってことじゃないか」
見れば、敵の両脇に立つ蝋燭のオブジェクトがある。
この近辺全体が敵により炎に包まれている為、埋もれてしまっているが、他の炎と違い、そこに立つ炎には奇妙な点があった。
ゆらゆらと立つ緑色の炎を敵越しに睨みながら揺光は口を開く。

「あの蝋燭の炎と、あの敵が纏っている炎の色が対応している。アタシはさっき見てたから分かる」
と、その時蝋燭の炎の色が変わった。
片方は緑のままだったが、もう一方の色が変わり、橙の火が灯った。
すると、その場に不気味な人魂が現れた。橙の色の火の玉に、目元の吊り上った人面が浮かんでいる。
その炎が場を徘徊しだしたのだ。それも二つ。一方が揺光とクラインの下に近づいてくる。

「うわっ!」
二人は火の玉を避けた。その瞬間、敵の火炎放射が場を走った。
二つの炎が揺光に迫る。彼女はそれを身を捩りかわそうとする。が、完全にはかわしきれず手元に熱が走る。

(熱……本当に炎だ)

The Worldではありえなかった感覚に戸惑いつつも、揺光は敵から距離を取る。
火の玉の方はぐるぐると同じ場を回っている。動き自体は単純なものだ。
敵の火炎放射にしたところで、軌道は一直線だし、発動もそう早いものではない。
が、それらの技が組み合わさることで攻撃パターンが複雑化し、無敵時間も相まって敵を難攻不落のものにしているのだ。

「やっぱり、あの蝋燭を何とかしないとダメなようだね」
揺光は大剣をメニューから取り出し、ぼそりと呟いた。
恐らくあの敵のパターン変化はあの蝋燭がカギを握っている。ならば、それをどうにかすれば敵は大幅に弱体化する。
先ずあの蝋燭を殴ってみればいい。ダメージによって破壊できるものの可能性がある。

「こりゃあ、マジでボス戦染みて来たぜ」
クラインが言葉を漏らす。確かに、こういったタイプの敵は、対人戦と言うより寧ろクエスト内に配置されるボスモンスターに近い。

「なぁ、揺光。お前、あの敵を回り込んで蝋燭を攻撃、できるか?」
どうやらクラインも揺光と同様の分析をしていたようで、そう尋ねてきた。
やはりあの蝋燭をどうにかしなくては話にならない。それは分かっている。

「……微妙」
が、揺光はその提案に頷くことができなかった。自らの獲物を握りしめる。重い。双剣士である彼女にとって、その重さは未知のものだ。
それに、今しがた感じた炎――確かな死。それが彼女の肩に、僅かながらに重しを乗せていた。
揺光とてゲームが現実に影響を及ぼすような事態を体験してこなかった訳ではない。
謎のPKにより未帰還者にされ、目覚めた。そして、それでも危険を承知で再びハセヲの下に駆け付けた。覚悟だってあった。
だがそれでも、明確な死に触れたことで、剣が鈍ってしまうこともあり得る。
そして、自分の失敗は自分だけでなく、パーティ全体を死へと追い込みかねない。故に安易に強がりを見せる訳にも行かないのだ。

「そうだな。現時点の俺らの装備じゃあ、ちょっと厳しそうだ」
クラインも揺光の言葉に含まれた思いを読み取ったのか、そう口にした。
デスゲームを経験してきたというだけあって、その言葉には重みがあった。

「ここは一旦退くか」
そう言って、クラインは後方を顎で示した。
退く。逃走。その選択肢はある。敵はどうもあの場から動きそうにもないし、わざわざ追ってくるようにも見えない。
ウラインターネットへの侵入という目的は既に果たしたし、あの敵は無視して先に進むのが賢明な判断かもしれない。

「1、2、3で後ろにダッシュだ」
「…………」
釈然としない表情を浮かべながらも、揺光は無言で肯定の意を示した。
合図を取り、そして二人は走った。

「ヴォォォォォォォ!」
後ろで唸り声が響いた。が、予想通り追ってくる気配はない。
二人は眩い線上から離れ、暗い迷宮へと足を進めていった。

そうして、戦場から十分に距離を取り、周りに敵が居ないことを確認したところで、二人は一度立ち止まり、息を整えた。

「あの炎のロボット、ずっとあの場に居座るみたいだったな」
「……ああ」
揺光の漏らした呟きに、クラインが相槌を打った。

「アメリカエリアからこっちにやってくる奴らが、これからも襲われるかもしれないんだよな」
揺光の大剣を握る手が強まった。
今さっき自分たちが逃げ出した敵が、これからも人を襲うかと思うと、脚が鉛のように重くなる。
これはただのゲームではない。このゲームは、この世界は、真の死と地続きなのだ。
実際に死に触れたことで、そのことがより一層現実味を伴って感じられる。
そんな場で、死を振りまく敵を前におめおめと逃げ出したことも。

ウラインターネットは静かだった。
ところどころに走るノイズ以外は、何もない。
ダンジョンというものにはおどろおどろしいBGMが流れるのが相場だが、それがないことが逆により一層空間の不気味さを助長していた。

「アタシさ、もう一回、あの炎の奴に挑んでみる」
「お前」
揺光は呟き、クラインに向き合った。
そして、大剣を見せつけ、真剣な顔をして彼を見上げた。

「あのボス倒さないと、どうも前に進んだ気がしないんだよね。今、ここで倒しておきたい」
「…………」
「だからさ、頼む。危険だし、あんまり賢明とも言えないだろうけどさ、もう一回あの敵に挑みたい」
これ以上、あの敵を放置しておけば、更なる被害が出る。
特にアメリカエリアからこちら側に転位する場合、無防備なところを不意打ちされる形になる。
二人は何とか回避したが、このままでは犠牲者が出るのは必至だろう。

「頼む、か」
クラインはそう呟き、そして顎を撫で、へっと笑った。

「そうだな。俺も《風林火山》を率いる身としてあんな奴を放置しておけねえ。
 再チャレンジ、すっか」
「だね! じゃあ……」
そう言って、元の場に駆け戻ろうとした揺光を、クラインの声が引きとめた。

「まぁ待てよ。装備を整えてからいこうぜ」
「装備? そうは言ったって、他に何も……」
きょとんとする揺光に向かって、クラインが何かを放り投げた。
板状のそれをキャッチして、揺光は怪訝な顔でそれを眺めた。

「やるぜ。アイテム欄に戻せば、使い道が分かる」
「これは……」
言われた通りにメニューに戻し、その結果アイテム欄に現れた名を見た時、揺光は驚きの声を上げた。

「切り札、だ。これで奴を倒す」
















「ヴォォォォォォォォ」
B-10/ウラインターネット。
炎の包まれるそのエリアの中心に鎮座する敵――フレイムマン。
今しがた逃げ出したその場に、二人のプレイヤーが戻ってきた。

「行くよ!」
「おう!」
互いに鼓舞し合うように声を掛け、共に剣を握りしめる。
そこに、先ほどの戦闘と違うところがあった。
装備自体は何ら変わりがない。だが、その組み合わせが変っているのだ。

赤髪の少女、揺光は長い刀を握りしめ、
バンダナを巻いた男、クラインは身の丈ほどもあろうかという大剣を構えていた。

「ヴォォォォォォ」
フレイムマンはそれを不審に思うようなことはしない。
元よりそれ程複雑な思考ができるようにはプログラムされていない。
ネットバトル特化のネットナビとしてカスタマイズされた彼だ。
ただ目の前のものを燃やすことにしか興味などない。

その敵に対し、揺光が一歩踏み出した。

(一度やってみたかったんだよね、コレ)

そして、言う。

「《ジョブ・エクステンド》!」

その声と共に、彼らは敵へと向かい駆けた。
二人の動きには無駄も迷いもない。態勢を立て直し、戦略を練った結果だ。
刀を使い、俊敏な動きを持って揺光が蝋燭を破壊し、大剣を持ったクラインが一撃で仕留める。
それを可能にしたのが、クラインの支給品であり切り札『ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)』である.

ジョブ・エクステンド。この場での装備制限を一時的とはいえ解除し、扱える武器を追加するアイテム。
マルチウェポンのそれのように1コマンドで武器を変更できるようにはならないが、それでも幅の広がった戦略と戦術は、強力な武器となる。
ただし使用可能なのは一度限り――正に切り札である。

(流石に見た目までは変わらないか。でも、これなら!)

刀の扱いが、自然と頭に浮かぶ。次にどう動けばいいのか、手に取るように分かる。
軽い。刀身も、身体も、心も。どこまでも速くなれる気がした。
フレイムマンがファイア・ブレスを放つ。だが、それを掻い潜り、更なる攻勢へと転じる。
狙いはフレイムマンではない。その奥に坐する二つの蝋燭だ。

「てぇあああああ!」
――スキル・叢雲
日本刀カテゴリの上位スキルにして、強力な範囲攻撃を叩き込む居合技。
頭に浮かんだそれを発動し、蝋燭に刃が走る。
ダメージを受けた蝋燭から炎が消える。予想通り、ダメージを与えることでこの火は消すことができた。

「今だよ! クライン」
「ああ!」
そこにクラインが来た。
大剣を振りかぶり、事態に未だ反応できないフレイムマンに迫る。
やはり蝋燭の火と、フレイムマンの炎は呼応していた。
揺光の攻撃と時同じくして、その身体から吹き出ていた炎が消えている。頭部から僅かに漏れ出ているのみだ。

「おおおおおおお!」
叫び上げ、クラインもまたソードスキル《アバランシュ》を発動する。
両手用大剣の上段ダッシュ技。雄叫びを上げ、フレイムマンに突っ込んでいく。

「ヴォォォォォォォォ!」
フレイムマンが叫びを上げる。
その身に大剣を直接受けては、決して無事では居られない。獣のようなうめき声をあげ、その身を捩り苦しみを表す。

「くそっ! しぶてえな、コイツ」
だが、それでもまだ倒れる気配はない。
フレイムマンとてWWW幹部が手塩にかけてカスタマイズした強力なネットナビ。
直撃したとはいえ。剣の一撃で倒れるような柔な敵ではない。

「ならよ! これで」
クラインはそこで更なる技を使おうとする。
一撃で駄目なら、何度でも叩き込めばいいだけだ。そう考えたのだろう。怯むことなく攻撃しようとする。

しかし、それは少し安易だった。
揺光ならばそこで一度退いていたかもしれない。アリーナでの対人戦に慣れた彼女ならば。
対人戦の経験がない訳ではなかったが、モンスターとの戦闘を主としていたクラインは失念していた。
目の前の異形の敵が、決められた動きしかしないモンスターなどではなく、脆弱な思考力ながらも自分で考え自分で動く存在だということを。

「バトルチップ『ホールメテオ』」
フレイムマンもまた、状況を打破すべく、札を切った。
それがどのような性質を持ち、どう使えばいいのかは、フレイムマンとて分かっていた。
発動と同時に、杖が現れ、頭上の空間が歪み、その奥から炎を纏った岩石が噴出する。
それも一つや二つではない。無数の隕石があられのように降り注ぎ始めたのだ。

「何!? これ」
揺光は焦る。その振り続けるメテオを必死に避けようとするが、何しろ突然のことだ。
上手く対応できず、足をもつれさせる。クラインもまた焦りの表情を浮かべている。

「ヴォォォォォォォォォォォォ!」
そこにフレイムマンのブレスが無慈悲に放たれる。
メテオと同時にその炎を避けることは揺光にはできなかった。
目の前に迫る熱の壁を感じ、彼女は目を瞑り、死を覚悟する。

そこに青い影が走り抜けた。

「大丈夫?」
「え?」
間一髪、炎を身に受けようとしていた揺光を、その影が救い出していた。
その手に抱えられる形となった揺光は、その影の姿を見た。
顔を覗けば、フレイムマンと同じくロボのような外観であり、水色のスカーフが走る度に揺れる。
彼は揺光を抱えたまま、ある程度フレイムマンから距離を取った後、声を上げた。

「フレイムマン!」
「ヴォォォォォ(コゾウ……お前か)!」
その手から降りた揺光は、その外観とやり取りから、二人が同じゲームのアバターであり、また敵対関係にあるということを推しはかった。
何時の間にか隕石は止んでいた。だが、フレイムマンの後方に据えられた蝋燭に再び炎が灯っている。橙と赤。
再び人魂が場を徘徊し出す。フレイムマンは初見時と同じく赤い炎を纏っていた。具体的な効果は分からないが、何かしら付加効果を得ていると思って良い。

そして、その下に横たわる剣士の姿があった。

「クライン!」
至近距離で炎を受けたのだろう。顔を苦痛に歪ませながら、胸を押さえている。
フレイムマンがその口を開ける。そのモーションは何度も見た。ブレスの前兆だ。クラインに留めを刺そうとするのだろう。
クラインの下に急ぐべくと、揺光が近づこうとするが、人魂に遮られる。間に合わないのか。
そう思った時、隣を青い人が駆けていく。無駄のない走りでクラインを救うべく地を蹴る。その姿は忍者を思わせる。

間に合うか、そう思った時ブレスが放たれた。
だが、その射線上に居たのはクライン――ではなかった。
青い人だ。敵は最初からクラインではなく、そっちを狙っていたのだ。

「くっ」
青い人が焦りの声を漏らす。クラインを救うことを念頭に置いたが故、上手く回避ができず、その足が一瞬止まる。
フレイムマンからすれば別にフェイントでも何でもなかった。彼としては青い人――ロックマンが現れた時点で、彼しか狙おうとしていなかった。
その時、

「ヴォ!?」
ブレスを吐いていたフレイムマンが、突如唸り声を上げた。
その身に剣が突き刺さっていた。
無視した存在。先ほどまで横たわっていた筈の男が起き上がり、その大剣を突き立てたのだ。

「おおおおおおおお!」
「クライン!」

炎の中で、剣が振るわれる――















クラインこと壺井遼太郎は己の間近に迫る死を感じていた。
直撃こそ免れたものの、炎をその身に受け、更にメテオを追い打ちを食らった。
既にHPバーは赤に突入している。あと一歩でゲームオーバー――死だ。

「おおおおおおお!」
だが、クラインは怯まず、恐れず、戦うことを選んだ。
剣を突き立て、炎の敵を討ち果たさんとする。

「ヴォォォォォ!」
敵、フレイムマンもまたうめき声を上げ、炎を振りまく。
その火がクラインのHPを更に削っていく。それを横目にして尚剣を叩き込んだ。
自らを鼓舞すべく叫びを上げある。熱さも痛みも、もはや気にならなかった。

「クライン!」
揺光の声がした。
揺光。この場で会い、パーティを組むことになった赤髪の少女。
先ほどの接敵から、またこの場に舞い戻るような真似をしなければ、こんな状況には陥らなかっただろう。
だが、自分はこの道を選んだ。そのことに後悔はなかった。
噛み合わないことがあろうとも、何処かで確かに繋がっている。そう彼女は口にした。

(そんな奴が頼むって言ってきたんだぜ。俺によ)
ならば、自分がそれを無下にできる訳がない。
自分とてこの敵を打ち倒す必要性は感じていた。その為に、自分の切り札も揺光にやった。

会ったばかりのプレイヤー。この状況下で、自分のアイテムをそう易々と他人に見せる訳には行かない。
そう思い、互いの装備を確認し合った時も、ジョブエクステンドの存在は伏せた。そのことに後ろめたいものを感じなくもなかったが、仕方がないことだと割り切った。
が、結果的に渡してしまった。頼まれた以上、最善を尽くさない訳には行かないだろう。そう考えて。
結局、そういう性分なのだと思う。

(だからよぉ、キリト)

剣を振るいつつ、思うのは一人のプレイヤーの存在だ。
SAOにログインして以来の縁が続いている一人の剣士。彼はだが、自分に頼ることを良しとしなかった。
クリスマスのイベントでさえ、決して自分からは助けを求めようとはしなかった。
それを立派だと思うものか。腹立たしいとすら思う。何故、ああも一人で行こうとするのか。

人が一人で生きていくことが不可能だという簡単な事実を、何故分かろうとしないのか。

(繋がってんだよ。何処かで)

この場にキリトが居ることは知っている。
繋がりは切れてはいない。自分がこうして戦っていることも、自分の知らない形でキリトに繋がっているかもしれない。

「倒れやがれぇぇぇぇ!」
叫びながら、大剣を振るい、ソードスキルを叩き込む。
フレイムマンもまた必死に抵抗をする。烈火を纏い、熱の波を繰り出し、渦巻く炎を吐く。
その身体に、剣を突き立てる。

その剣もまた、繋がりであった。
クラインの握る大剣。それは近い未来、キリトがSAOをクリアした後、ALOでの武器となったものだ。
無論、彼はそのことを知る由もない。だが、そこには確かに繋がりがあった。

そして、その時は訪れた。

「ヴォォォォ……ヴォ!」
「――へっ」
フレイムマンの動きが止まった。
クラインが薄く笑みを浮かべる。フレイムマンは目を見開き、信じられないとでも言わんばかりに己の身体に注視している。
その身からは炎が消え、内部から崩壊していく。ボディがところどころ爆発し始める。

「――クライン!」
揺光の声を聞いた。
次の瞬間、フレイムマンがクラインを巻き込み爆散した。















閃光が晴れた時、そこにはもう誰も残っては居なかった。
フレイムマンの炎は全て消え、エリアには再び薄暗い闇が戻ってきた。
赤いバンダナの剣士の姿は、消え去っていた。
彼の振るっていた大剣が、まるで墓標のように地に突き刺さっている。

「僕が……もう少し早く来ていれば」
ロックマンは悔やむようにそう口にする。
実際、彼は二人よりもこの場に近い位置に居た。
が、ウラインターネットの複雑な構造を潜り抜けなければならなかったロックマンに対し、真直ぐと一本道を歩いてきた彼ら。その差は大きかった。
結果として、ロックマンは一足遅れてこの場に駆け付けることになる。
フレイムマンと戦う二人の人間を見て、急いで間に入ったのだが、それでも犠牲を出してしまった。

「…………」
生き残った少女は黙って、クラインが居た筈の場を見ていた。
その瞳に映るのは、何もない虚空。自分と同じく無念を感じているのだろう。

「アイツさ……戦ってたんだよな」
ぽつりと少女が声を漏らした。
ロックマンは何も言わなかった。彼女は慰めの言葉など必要としていない。それくらいのことは分かっていた。

「アタシと一緒に、戦っていたんだ」
その独白は、火の消えた戦場に響き、そして消えていった。


【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・黎明】
※クラインとフレイムマンの支給品が門付近に落ちています。
※アメリカエリアへ繋がるワープゲートの形状はエグゼのバナー(パネルに張り付いた円)と同じです。

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP90%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:少女(揺光)の話を聞く。
2:落ち着いたらネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0~2(武器ではない)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:…………
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません


【ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)】
The World R:1の両手剣の装備制限が一時的に解除されるアイテム。効果は10分で使い捨て。
指定のモーションで武器を振れるようになる他、スキルも使用可能になる。

【キリトの大剣(ALO)@ソードアート・オンライン】
ALOにてキリトが使用していた身の丈ほどもある大剣。
重い。

【あの日の思い出@.hack//】
Lv51の両手剣。刀に分類される。
使用スキルは
雷烙
叢雲
メライドーン

【ホールメテオ@ロックマンエグゼ3】
目前に杖を置き、炎属性の隕石を降らせるバトルチップ。
ホールメテオは敵エリア全体に隕石を降らせる
杖を破壊されると攻撃を中断する。





【クライン@ソードアート・オンライン Delete】
【フレイムマン@ロックマンエグゼ3 Delete】

024:逃げるげるげる! 投下順に読む 026:ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで――
024:逃げるげるげる! 時系列順に読む 026:ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで――
014:赤いの黒いの合わせて二組 揺光 041:破軍の序曲
014:赤いの黒いの合わせて二組 クライン Delete
021:三者三様 ロックマン 041:破軍の序曲
006:それいけレンちゃんカガクの子 フレイムマン Delete

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最終更新:2014年11月17日 04:36