【提言書】
はじめに
日本社会は戦後、「3R5D3S政策」によって再建され、平和と民主主義、経済成長を達成してきた。しかしこの構造は、現代において制度疲労と副作用を露呈し、政治的無関心、格差拡大、公共の空洞化を引き起こしている。
本提言では、3R5D3S政策の意義を評価しつつ、それを乗り越えるための新たな政策と市民的アプローチを提示する。
第1章:現状の構造的課題
- 政治的無関心と投票率の低下:3S政策の副作用により、政治が日常生活から切り離され、民主主義が形式化している。教育現場や家庭における政治談義の忌避、若者の「政治アレルギー」化が進行。
- 地方衰退と地域格差:中央集権的構造とDisindustrialization政策の長期影響により、地方経済は活力を失い、人口流出が続いている。税収・サービスの格差が都市と地方の分断を拡大。
- 若者の孤立とアイデンティティ喪失:競争社会・消費者教育が優先され、共感・連帯・社会参加意識が希薄化。社会的承認が「消費能力」や「SNSの評価」に偏り、自己肯定感の低下を招いている。
- 民主主義制度の形式化と他律性:GHQによる外部導入的改革が続き、制度の内発的発展や更新が停滞している。国民の間で「政治は他人事」という風土が根付き、政治文化の成熟が阻まれている。
第2章:新しい社会モデル「3C5L3P」
【新提言】3C(価値原理の転換)
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Critical Thinking:
- 情報の真偽を自ら見極め、権力や制度を主体的に評価する力を涵養。
- 小学校からの論理教育の導入、哲学対話や討論型授業の実施。
- メディアリテラシーに加え、AIリテラシー・データ主権教育の充実。
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Commons:
- 公共空間・自然資源・文化施設などを「市民が使い、守り、育てる」ものとして再定義。
- 自治会・協同組合・住民ファンドによる地域の資源管理。
- 知識やデジタル資源のオープンアクセス化(例:Creative Commons運動)。
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Connection:
- 個人主義と孤立が進む中で、相互扶助の再構築を促進。
- 「縁側的」な中間空間や世代間・文化間の交流イベントを制度的に支援。
- 分断の解消に向けた、ダイアローグ・ファシリテーション技術の普及。
【支柱政策】5L(重点領域の展開)
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Local Autonomy(地域主権):
- 自治体間の「水平連携」による問題解決(広域合意、地域間学習など)。
- 地方議会の若返りと専門化支援(パブリックリーダー育成制度)。
- 地方財源の使途決定に市民が直接参加できる「参加型予算制度」の導入。
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Lifelong Learning(学びの民主化):
- 市民が人生を通じて学び続けられる「社会の学習化」モデルへ移行。
- 「地域学」「生活知」など、知識の多元性を反映した教育内容の拡充。
- ナレッジコモンズを活用したオープンラーニングプラットフォームの整備。
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Labor Fairness(労働の公正):
- 雇用の安定化と同時に、働く意味・やりがいを再定義する社会的対話の促進。
- 非正規から正規への転換支援、就労と育児・介護の両立支援制度の拡充。
- 従業員による経営参加(ワーカーズ・コープ型経営)の制度的奨励。
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Low Impact Economy(循環型経済):
- ローカル経済圏の強化:農産物の直売所、地元エネルギー事業体の設立。
- 廃棄物を価値ある資源と見なす「アップサイクル文化」の育成。
- 環境税や炭素価格の導入、グリーンインフラへの重点投資。
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Legal Reformation(法制度の刷新):
- 憲法改正の是非を巡る熟議型国民討議の制度化。
- 法律文書の「やさしい日本語」版作成義務化による法的包摂性の拡大。
- AI・ロボティクス社会に対応した新しい法倫理枠組みの創出。
【市民参画】3P(行動戦略の実践)
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Prototype:
- 生活に根ざした実験的取り組み(例:ゼロウェイスト商店、子ども主体の学習空間)。
- 行政や大学と連携した「市民ラボ」設立による継続的な試行錯誤の場の整備。
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Participate:
- 政策立案プロセスへの市民参加(パブリックコメント、オンライン議論プラットフォーム)。
- 学生・育児世代・障がい者など、参加が困難な層への特別支援制度。
- AIやブロックチェーン技術を活用した「信頼できる電子投票システム」の整備。
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Promote:
- 劇場、音楽、アニメ、漫画など多様な表現手段による社会課題の可視化と共感醸成。
- 市民の表現活動への助成・補助制度の整備と評価体制の透明化。
- 学校教育と地域文化機関の連携による「表現の市民性」教育の実施。
第3章:実装フェーズとステークホルダー
本章では、「3C5L3P」のビジョンを現実社会でどのように展開・実現するか、具体的な担い手ごとに役割を明確にし、段階的な実装の道筋を示す。
1. 政府(中央行政)
- 教育制度改革:文部科学省は市民的リテラシー(政治・経済・環境)のカリキュラム義務化を推進。省庁間横断型での「未来教育戦略本部」を設置。
- 地域主権支援:自治体への権限移譲の法整備を行い、地域ごとの実証実験支援に予算配分。
- 所得再分配政策:BI(ベーシックインカム)の段階的導入、グリーン投資収益の再配分、累進課税制度の再構築。
2. 地方自治体
- 住民参加制度:電子予算投票、地区別公開ヒアリング、自治体主催の公募型ワークショップ。
- 公共サービス再設計:高齢者福祉・子育て支援において、当事者と協働する「共創型行政」モデルを導入。
- 地域内経済循環:地域通貨やエネルギー協同組合の創設・維持を助成。
3. NPO・市民団体
- 社会実験:空き家再生、食堂、コミュニティ農園など「生活に根差した自治の再生」モデル構築。
- オンライン/オフラインの民主空間:市民会議、政策ダイアログ、地域メディア放送局などの設立。
- 支援機関化:地域の孤立者・生活困窮者・学習困難層への継続的サポート拠点として機能。
4. 学校・大学
- 探究学習と社会参画の連動:実社会の問題を教材化し、政策提案・社会活動へ発展。
- 大学内政策研究ラボ:学生・市民・行政が共同で政策立案する「社会連携型カリキュラム」導入。
- 地域知の蓄積:地域史・環境データ・文化資源などを記録・公開する「地域知アーカイブ」の構築。
5. メディア・文化機関
- 公共メディア支援:独立性・中立性の高いメディアへの助成制度整備。
- 表現活動支援:創作資金のクラウドファンディング支援や、政策テーマに沿った公募型企画枠の導入。
- 文化政策の連携強化:アートと自治・アーカイブと教育を横断的に結びつける長期政策。
第4章:期待される社会像
本提言が想定する「共創型循環社会」の姿を、主要な社会領域ごとに詳述する。
1. 政治:熟議型・包摂型民主主義の社会
- 政策決定における国民の直接的関与が日常化し、利害調整のための討議文化が定着。
- 市民の間に「主権者としての意識」が育ち、政治が生活と結びつく。
- 政治的不信や無関心が低下し、社会的信頼が高まる。
2. 経済:人間中心の循環型経済
- 生存・尊厳・持続性を重視するエシカル経済へ移行。
- 消費社会から創造・再利用・共創の経済へと転換。
- 地方でも自律的に経済活動が成り立ち、「経済の民主化」が進展。
3. 社会:多様性と共生の包摂型社会
- 年齢・性別・国籍・能力を超えた社会的包摂が制度・文化の両面で実現。
- つながりを感じられる日常生活圏が育まれ、孤立感のない地域社会が拡大。
- 自助・共助・公助のバランスが再構築され、「支え合う社会」が実現。
4. 文化:創造性と表現の再政治化
- 芸術や言論が政治・制度と結びつき、社会課題を表現・共有する力を回復。
- 市民の語り・記録・創造が歴史や公共政策に反映される仕組みが整う。
- 学校・地域・メディアで「文化的民主主義」が広まり、文化が誰にとっても手の届くものとなる。
おわりに
「3R5D3S」は戦後日本の礎である。しかし今、次なる70年を築くには、私たち自身がビジョンを描き、制度を共創し、社会を育てていく必要がある。
本提言がその一助となることを願う。