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主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第4回)
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みんなが呆けていた。呆れてものも言えないのか、純粋に驚いただけなのか、僕には判断がつきかねた。まあ当然、どよめく訳だけど、僕はその流れを無視して、ディープ・パープルの『スペース・トラッキン』を弾いた。僕にとって一番難しい曲の一つであるが、飽きるほど繰り返し弾いていたので、演奏することは容易だった。ただし、これ以上の曲はなかなか難しい。いきなり披露されたその腕前にみんな驚愕していし、響子先輩でさえあんぐりとして聞き入っていた。
なぜ聴衆の様子を窺う暇があるかというと、頭脳の回転とやらをしていないのだ。指が全てを理解していて、弦を爪弾いた瞬間にフィニッシュまで自動演奏、というような感触で、最初にこの感触を味わった時、素直にビックリしたものだ。
まさか人前で楽奏し、人の意識をこちらに聞き入らせるのがこれほど快感だとは……正直、予想外の収穫であったような気がする。と同時に、余計に入部する気が失せた。楽譜すらまともに読むことのできない自分が、バンドという枠の中で生きる訳がない。淘汰され、排他されるだけだ。そんなのはこっちから願い下げだった。
その曲が終わると、周囲の期待の眼差しも冷ややかに受け流し、僕はとっとと部室を退室した。誰もそれを引き止めず、予想外の行動に呆気に取られていたが、響子先輩だけは正気だったらしい。階段の手前で肩を掴まれ、「どうしたの?」と訊ねられた。
正直、僕は話そうかどうか、迷った。なにを話せばいいのかは簡単だ。自分の性格、これまでの経緯、そしてエレキギターへの造詣の浅さ……これだけ話せば納得してもらえるはずだ。
他の誰かだったらがっかりさせても、怒り心頭になって殴らせたとしても、平然と胸の内を明かしているだろう
でも、この人の落胆する顔をなぜか見たくはなかった。それさえ回避できれば、嫌われ者に徹しようと構わない、そこまで思ってしまった。
だが、この人に忌み嫌われた視線で見据えられることに、なによりも戦慄を覚える自分もいる。
それは葛藤。理性と本性のせめぎ合い。
分かっていることではあった。本性の前に理性が敗退することは、なによりも自分が分かっていた。
僕は逡巡混じりに話した。とにかく、僕には自信がないことを理解してもらうために、とにかく後ろ向きな要素を思いつく限り並べ立てた。
響子先輩は、しばらく腕を組み、眉間にしわを寄せて黙考した。その時の先輩はとても知的で綺麗と思えた。不覚だが。
「よし。分かった」
といい、しばらく待つように頼み込まれ、二、三分ほど昇降口に立っていると、鞄を抱えた響子先輩が戻ってきて、開口一番、
「小生、これからわたし達はマックにいくのよ。そこでちょっと遅めのおやつを食べながら、よ~く話し合いましょう。ついでにお姉さんのおごりで。オーケイ?」
……あぁ、僕はなんという人に見込まれてしまったんだろうと、その時は運のなさに落胆しかけたりもした。
僕は、響子先輩の性格を完全に置き去りにしていた。
この人は、僕がこれまで出会った誰よりも強引で、豪胆で、剛毅で……お人好しということを。
なぜ聴衆の様子を窺う暇があるかというと、頭脳の回転とやらをしていないのだ。指が全てを理解していて、弦を爪弾いた瞬間にフィニッシュまで自動演奏、というような感触で、最初にこの感触を味わった時、素直にビックリしたものだ。
まさか人前で楽奏し、人の意識をこちらに聞き入らせるのがこれほど快感だとは……正直、予想外の収穫であったような気がする。と同時に、余計に入部する気が失せた。楽譜すらまともに読むことのできない自分が、バンドという枠の中で生きる訳がない。淘汰され、排他されるだけだ。そんなのはこっちから願い下げだった。
その曲が終わると、周囲の期待の眼差しも冷ややかに受け流し、僕はとっとと部室を退室した。誰もそれを引き止めず、予想外の行動に呆気に取られていたが、響子先輩だけは正気だったらしい。階段の手前で肩を掴まれ、「どうしたの?」と訊ねられた。
正直、僕は話そうかどうか、迷った。なにを話せばいいのかは簡単だ。自分の性格、これまでの経緯、そしてエレキギターへの造詣の浅さ……これだけ話せば納得してもらえるはずだ。
他の誰かだったらがっかりさせても、怒り心頭になって殴らせたとしても、平然と胸の内を明かしているだろう
でも、この人の落胆する顔をなぜか見たくはなかった。それさえ回避できれば、嫌われ者に徹しようと構わない、そこまで思ってしまった。
だが、この人に忌み嫌われた視線で見据えられることに、なによりも戦慄を覚える自分もいる。
それは葛藤。理性と本性のせめぎ合い。
分かっていることではあった。本性の前に理性が敗退することは、なによりも自分が分かっていた。
僕は逡巡混じりに話した。とにかく、僕には自信がないことを理解してもらうために、とにかく後ろ向きな要素を思いつく限り並べ立てた。
響子先輩は、しばらく腕を組み、眉間にしわを寄せて黙考した。その時の先輩はとても知的で綺麗と思えた。不覚だが。
「よし。分かった」
といい、しばらく待つように頼み込まれ、二、三分ほど昇降口に立っていると、鞄を抱えた響子先輩が戻ってきて、開口一番、
「小生、これからわたし達はマックにいくのよ。そこでちょっと遅めのおやつを食べながら、よ~く話し合いましょう。ついでにお姉さんのおごりで。オーケイ?」
……あぁ、僕はなんという人に見込まれてしまったんだろうと、その時は運のなさに落胆しかけたりもした。
僕は、響子先輩の性格を完全に置き去りにしていた。
この人は、僕がこれまで出会った誰よりも強引で、豪胆で、剛毅で……お人好しということを。