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主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第5回)

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 駅前のマクドナルドでハンバーガー――サラリーマンの昼食かと独り突っ込みとかしてみたが――とドリンクを頼み、注文したメニューの載ったトレイを受け取り、先に席を取っていた響子先輩のメニューを見て、一瞬我が目を疑ってしまった。
 飲料物はコーヒー。まあ分かる。ただ、ここから先が問題で、女性らしからぬ――僕の偏見なのだろうか――ものがトレイに載っている。箱にはこう書かれている。
『ビックマック』
 おいおい、四時という時間帯にこれを食うか!?、と心中で叫んだ。この時間では、男でもなかなか頼まないと思う。しかも間食代わりに『ビックマック』って……なんだか太りそう。でも、この人は気にしないんだろうな。ひょっとして痩せの大食いとか?
 ちょっとだけ訊いてみると、平均よりはかなり食べるらしい。シンガーを務めることもある響子先輩は、それなりの体力作りもしている関係で、お腹の空きが早いんだとか。「太りそう、なんて考えたら、余計に太っちゃうみたいなんだよね。だから、好きなものを食べるようにしてるの。いかなる状況、いかなる時間でも、ね」――と力説する先輩が、実は凄いチャレンジャーなんじゃないかと、僕はこっそり邪推した。
「で、なんだっけ? 楽譜が読めないとかなんとか」
「まあ、そういうことです。楽譜が読めなくて、バンドの曲が弾ける訳ないでしょ?」
「……君ね、それがどれだけ凄いことか、全っ然意識してないでしょ?」
 僕は理解できず、首を傾げ、肩を竦めた。響子先輩は即座に、的確に説明してくれた。
「いい? 楽譜を読めないのに曲が弾けるってことは、無意識の範疇で指が動いてるってことだよ。世の中には、オールアドリブで弾ける人だっているけどさ……そうなるまでどんだけかかると思ってんだか」
「そりゃあ、分かりますけど……でも、浅山先輩だって、楽譜読まないで弾いてるじゃないですか」
「勉強したことある? 音楽のこと。独学でもなんでもいいから」
「いいえ」と、僕は首を横に振った。嘘をついてもしょうがない。
「なに? ギターのコードとか、ピッキングとか、誰にも教わらずに、耳コピだけでやって来たってこと? まあ、友達から基礎は教わってるんだろうけどさ」
「はあ、まあ…………そういうことになります」
 僕はジンジャーエールをストロー越しに吸った。なんか、この人が複雑をしているところを見ると、こっちも複雑な思いになって来る。複雑なゆえ、言葉には表せないけれど、なんか複雑なのだ。
「ったく……なんか、嫉妬するくらいの才能だなー、それ。楽譜読めないだけならなんとでもなるけど、さすがにそういう領域になると、天才としか言いようがないな」
「あの、先輩。俺、別に天才でもなんでも――」
「でもね」
 僕はいいかけた声を無理矢理呑み込み、響子先輩は、遮った言葉のあとを続けた。
「どんな天才だって、人は人。磨かなきゃ錆びるだけ。拾われなければ、朽ちるだけだよ」

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