南城優子&キャスター

眩い光。
それは、黄金。それは、太陽。
深夜だというのに、見るものを真昼間かと錯覚させるようなそれが消え、世界は正しい闇と静寂を取り戻した。

否、元に戻ったわけではない。
消えた。
終電から帰路につくサラリーマン。公園のベンチ周辺で騒ぐ不良のチーム。犬の散歩に来ていた若い男。
全て、無かったかのように、消えた。
もがき苦しんで、消えた。

静寂が支配する公園。
そこに舞い踊るのは、季節にふさわしい雪ではなく。
それは大量の花弁。
大方は光と共に掻き消えたものの、まだひらひらと舞う薔薇の花弁の中で、彼は笑っていた。
暴力的なほど美しい、紅い、紅い雨の中で、心底楽しそうに、笑った。







理解ができない。理解したいとも思わない。
受け入れ難い出来事による胸のむかつきを堪えながら、南城優子は目の前に立つ彼女のサーヴァント――キャスターを睨みつけた。

キャスターは紅い唇を三日月に歪め、首を少し傾げながら優雅に歩いてくる。
嫌悪感を覚えながらも、優子は相手の顔から視線を離すことができない。背筋が凍るような、端正な顔立ち。
この感覚に似たものを知っている、優子のボーイフレンドを目にした時に近い。一種の人外境の存在へのおののき。
まあ、優子の彼氏は誠に人外では、あるが。
あぁでも、こいつもそうなのかな――なんて、場違いな考えがぼんやりとよぎる。

身に纏う女子制服――こちらに来た時に優子が着ていたものだ――それのスカートをひらりと揺らし、キャスターは優子の前に立つ。

「……どうしてあんなことしたの」
「どうして?聞くまでもないだろう、面白いからじゃあないか」

震える問いに、踊るような答え。
回答者の外見――見目麗しい年頃の少女だ――には相応しくない低音の声音に、思わず心地良さを感じぞくりとする。
それもそうだ。目前の美しい金髪の少女は、少女などではないのだから。

キャスターが自らの髪に指を絡め、引くと、金色はするりと滑り落ち。
代わりに明るい栗色の短髪が現れる。緩やかなパーマのかかった柔らかそうな髪の毛。

「楽しいことをしただけ、何も悪くないだろう」

ん?と目を細めてキャスターは――青年は、優子を見下ろした。
嘘をついているようには見えない。だからこそ、異常だった。

「楽しい……楽しいからって、アンタは……ッ」

痛みを感じる程に拳を握りしめ。
視界の隅に舞い踊る花弁を感じながら、脳裏に浮かぶのは先程の出来事。




――散歩がしたい、そう言ったのはキャスターだ。
夜中だというのに、と呆れながらもしぶしぶ優子はついて行った。彼が手を取り、招くから。
――良いものを見せてあげよう、上機嫌なキャスターは公園に着くなりそう言った。
頭のどこかで警鐘が鳴っているのを感じながらも、ニコニコと……彼に似た美しい笑みを浮かべるキャスターを、優子は信用したかったのかもしれない。
その来歴が、いかに異常なものだとわかっていても。彼はこの数日、さして異常な行動は起こさなかったからだ。女装はさておき。

ああ、しかし。
しかし優子はその選択を後悔することになる。

キャスターは、スカートを翻しながら公園の広場の中心へ踊り出て、ふ、と微笑み。
まるで乞うかのように両腕を天へと、月の支配する空へと差し出し――

「――――――――!」

――何かをその唇で紡ぎ、出した。
その言葉は少し離れた位置への優子へは届かなかったが、彼の享楽的な笑みを見、しまったと思った時には、もう遅かった。

黒い天を割り降り注ぐ黄金の輝きに、思わず目をかばった優子が再び視線を戻すと、目の前の光景は一変していた。

それは、夜闇をもかき消す太陽の光中にて。
頭上を仰げば、細密な刺繍の施された大きな天幕。
その真下には、驚愕する、先程公園で目にした幾人かの人々。
そして、むせ返るほどの薔薇の香り。

いつの間にか優子のすぐ側まで移動してきたキャスターが、歌うように、言う。

我が愛すべき客人たちへと、贈り物を贈呈しよう。
この上ない愉快な見世物を、我が親愛なるマスターへお見せしよう。
この最も美しい処刑を、美しく死す彼らの魂を、我が太陽神へと捧げよう。



「――唄え悦楽、我が真紅の瀑布の中に(ローゼス・オブ・デウス・ソール・インウィクトクス)」



落ちる。
張り詰めた頭上の天幕が裂ける。
落ちる。
舞い踊り出すは紅きひとひら。
落ちる。
天幕が落下し出すのに合わせて、紅色が降り注ぐ。
満ちる。
視界を占めるのは一色。
満ちる。
怒涛の勢いに圧倒される。
五感を薔薇色に犯される。

ああ、餌食となった者達は、花弁の海に足をとられ、のしかかられ、助けを求めて手を伸ばせども、それすらも飲み込まれ。

一際眩い光を合図に消滅した薔薇と共に、哀れ犠牲者達は姿を消した。

後に残るは、驚愕に色と言葉を失う優子と、満足気なキャスターのみであった。




思い返せば吐き気がする。
いとも容易く関係のない人達の命を奪ったことが信じられない。
似たようなやつが知り合いに――友人だと認める気は無い――いるが、違う。
あの殺人鬼は殺人鬼ではあるが、キャスターのように、見せつけるように、無差別に、人殺しはしない。はずだ。
少なくとも優子の前では。

優子はこのテの存在が大嫌いだ。
優子を、優子と彼――日暮静秋を脅かす存在が大嫌いだ。
だから優子は怒った。

既に爪がくい込む程握った、拳に更に力を込めて、

「――ッこの」

目の前で微笑むキャスターの、その涼し気な笑顔に、

「バカ野郎!!!!」

その顔面に、叩き込んだ。

鈍い音が響き、はっきりとした手応えもあった。
優子の拳はキャスターの左目の辺りに確かにヒットし、殴られた当人はその衝撃のまま首を仰け反らしている。

そして、その顔がゆっくりとこちらに向けられ、それを見た優子の喉から、ひ、と息が漏れた。

キャスターは、笑んでいた。
それも、恍惚の表情で、うっとりと。
紅い唇を三日月に歪ませて、キャスターは確かに――悦んでいた。

そのとろけるような笑みは、きっと数多くを魅了するだろう。性別を問わず。
だが、優子はその血筋故、呪いや術といった類が効かない体質である。
だからこそ、優子は動けなかった。
その異常さを、正常な意識で認識してしまうから。

優子の嫌悪感は、恐怖に変わった。

「……っ……」

キャスターの伸ばした指はゆっくりと優子の茶髪に分け入り、優子のうなじをそっとなで上げる。
そのまま指はシャツの襟を広げ前に滑り降り、優子の胸元の令呪へとたどり着く。

優子は相手から目が離せない。

いつの間にか顔を寄せてきていたキャスターが、指では令呪をなぞりながらそっと囁く。唇が触れ合いそうなほどの距離。

「……所詮つまらない女だと思っていた」

キャスターは笑みを深める、優子の震える唇からは息のみが漏れる。

「だが今のは好かったぞ、ああ、ヒエロクレスを思い出した……」

優子に殴られた目元を撫でるその顔はうっとりと、熱っぽい表情をしている。優子は視線を外せない。

「実のところはな、こんな退屈なマスターならさっさと見限って。他にもっと良い、それこそヒエロクレスのような男を見つけてしまおうかとすら考えていたが……ふふ、なかなかどうして、面白い」

このサーヴァントは自分を裏切ろうとしていた――それを簡単に話すキャスターに優子は改めて恐怖を感じる。こいつの言うそれはすなわち……優子の死、ではないか?

「喜べ、マスター。お前の暴力は余好みだ……まだお前のサーヴァントのままでいてやろうではないか。ただしな、条件がある」

キャスターはその両手で優子の肩を持つと、優子の目を覗き込んだ。

「殴れ。罵倒せよ。ああ、ふしだらな女と罵ってくれてもいいぞ!かの男のようにな!余を愉しませよ、女!」

舌なめずりをして、媚びるようにキャスターは言う。
倒錯している――そう実感しながらも、半ば思考がぼんやりと追いついていなくとも、優子はかろうじて笑みを浮かべた。

「い、いいわよ……この変態。それでアンタがついてくるというのなら、いくらでも殴ってやろうじゃないの……っ」
「そうだ……それでいい!気に入ったぞ、マスター!くくく、何なら夜の余の相手をすることを許すぞ?お前はそうだな……あのウェスタの巫女のような反応をしてくれそうだなぁ」
「ふっざけんじゃないわよこの変態!!アンタみたいなの、こっちから願い下げだっての!!」

また小気味よい音が鳴り、キャスターの嬉しそうな笑いが人のいない公園に響く。



拳を握りしめながら、南城優子は心を決めた。これは自分と彼――日暮静秋のためだ。
完全に信用のおけるサーヴァントではないのが未だ心配だが、まだ繋ぎ止めておける手段ができたのは幸いだった。
キャスターに触れられていた令呪が心なしか熱い。
警戒は怠ってはいけない――優子は、生き抜けなければいけない。
彼のもとに、帰らねばならない。



「待ってて……静秋。……私は負けない」




【クラス】 キャスター
【真名】マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス(ヘリオガバルス)
【出典】史実(3世紀ローマ)
【マスター】南城優子
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A

【クラス別スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
「神殿」の形成が可能。

【保有スキル】
紅顔の美少年:A
この少年皇帝は美貌に恵まれていた。
人を惹き付ける美少年としての性質。
男女を問わず魅了の魔術的効果として働くが、抵抗の意思があれば軽減出来る。
皇帝特権:D
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
悪名高い、退廃しきった統治を行っていたためランクは低め。
太陽神の加護:B
本人がシリアの太陽神エル・ガバルを奉じる神官であった為、獲得したスキル。
彼の統治時における宗教改革でこれを「デウス・ソール・インウィクトクス」と尊称させ、ローマの最高神へとおいた。
両性具有の神による、彼の印象における両性性の確立。

【宝具】
『唄え悦楽、我が真紅の瀑布の中に(ローゼス・オブ・デウス・ソール・インウィクトクス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:30人
ローレンス・アルマ=タデマの絵画「ヘリオガバルスの薔薇」のモチーフともされた、
『ローマ皇帝群像』のなかにある「客人に薔薇の山を落として窒息死させるのを楽しんだ」とする逸話による宝具。
対象の上空から大量の薔薇の花弁が降り注ぐ。
相手の敏捷さを妨げるのが主な効果だが、一般人なら致死させることも可能。その場合、対象は太陽神への生贄として捧げられる(消える)。

『捧げよ快楽、常勝の太陽神殿(ヘリオガバリウム)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人
生前建設させた神殿の具現化、再現。
太陽神エル・ガバルを象徴化した黒石を核に据え展開される。
ヘリオガバリウムの最高神官であるキャスターの全ステータスランクが2上昇する。
また、 「トロイのパラディウム像」や「マルスの盾」、「ウェスタの聖火」 などといった帝国中の神具や神器が集められており、
大神官権限としてそれらを使用することもできる。(ただし、本来の使い手ではないため、各道具のランクは下がる)

【weapon】
短剣

【人物背景】
ローマ史上最悪の君主とも呼ばれる、14歳で即位し18歳で暗殺された美貌の少年皇帝。
彼の統治における悪行は
「神々に身を捧げる」 ために処女を貫く掟のあるウェスタの巫女を辱め妻に迎え入れるという、ローマにおける宗教的慣例を踏みにじる暴挙、
自らが司祭を務めるシリアの太陽神エル・ガバルを 「デウス・ソール・インウィクトクス」と尊称させ、天空神ユピテルすら従える古代ローマの最高神へとする宗教改革、
などが挙げられるが、何よりも倒錯的かつ退廃した性生活の逸話が有名である。
正式な結婚生活すら4回の離婚と5回の「結婚」を繰り返しているのに加え、 あやしげな女たちをベッドルームに連れ込んで彼女たちの痴態を観察したりだとか、女装し、男を誘うような真似をしたりだとか、神殿内で飼育している猛獣に切り落とした男性器をエサとして与えたというものまで伝わっている。
男娼の真似事を行う一方で、皇帝は金髪の奴隷ヒエロクレスに対しては「妻」として従っていたという。
「ふしだらな女」と噂されるのを好み、それを知ったヒエロクレスに殴られ、なじられ、罵倒されて、喜んだという。
また、性転換手術を行える医師を高報酬で募集していたともいわれており、彼の性癖は同性愛や両性愛というより、トランスジェンダーの一種と考えられることもある。

【特徴】
外見年齢十代後半の美青年。女装した場合の違和感はない(ただし身長は少しばかり高めだが)
現代風の衣服を着ることに興味を持っており、現在はマスターの南城優子の制服を借りている。
現界時の衣装は地面に届きそうな紫色の司祭服に豪奢な装身具、頭には宝石を散りばめた帝冠(そして女装)。
女装時は金髪セミロングの鬘を着用。

【サーヴァントとしての願い】
女性になる。また世界の悦楽快楽をその意のままにすること。



【マスター】
南城優子@陰を往く人

【能力・技能】
術や呪いを無効化する体質。
家が代々邪教を祀る巫女の家系だったことによるらしい。

【人物背景】
高校二年、茶髪のソバージュにモデルのように整った顔立ちと体型。
ナンパ男をグーで殴り飛ばし鼻をへしおるステキな女の子。
彼氏は現代の吸血鬼。彼氏の親友は殺人鬼。
(本編における、藤村奈美との遭遇前での参戦)

【マスターとしての願い】
自分と彼(日暮静秋)の、平和な生活。殺人鬼と縁を切りたい。

時系列順


投下順


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南城優子 :WINter soldiers
キャスター(マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス)

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最終更新:2016年11月27日 22:06