この身体になってからは、散々だった。
いや、この身体になる前もそれなりに散々な人生だったが、それでもやはり、半喰種という化物になった後の方が、より辛かった。
感じるのは虚無と空腹感。
腹の中に入るのは、人の肉だけ。
俺は、憎かった。
俺をこんな身体にした、アオギリが憎かった。
この俺の苦しみも知らずに、のうのうと暮らしてる奴らが憎かった。
『もしあの時あの人が居れば』と思うと、かつての上司さえ憎くなった。
けれども、俺は我慢した。
どれだけの苦痛を与えられようと、人喰いになろうと、共喰いになろうとも、俺は我慢し、復讐の機会を待った。
『あの日あいつが居なければ』と心底思っている奴を殺す機会を伺っていたのだ。
だってそいつ――タタラを殺しさえすれば、アオギリは多大なダメージを受けて無力化し、今まで奴らに脅かされていた社会に平和が訪れるのだから。
CCGを救う俺は、一躍英雄になれるのだから。
そして、今日、ついにその復讐のチャンスがやってきた。
『何かを追いかけている奴ほど追いやすい奴はいない』という言葉の示す通り、文字通り復讐に燃えるあいつの姿は隙だらけで、狙いやすかった。
「いよぉ★」
高まるテンションを抑えきれず、思わず陽気な声を発しながら、俺はタタラの身体に乗る。
法寺さんからすれば、自分の危機にベストタイミングで助けに入った俺の姿はさぞ格好良く――それこそ英雄のように見えただろう。
それでは、法寺さん。
こいつを倒す俺の勇姿を、タンマリとご覧あれ。
そして――さあ、タタラ。
熱い復讐(おかえし)の始まりだぜ。
▲▼▲▼▲
結果から言うと、俺はタタラに勝った。
完全なる圧勝だった。
CCGはアオギリに勝利を収めたのだ。
しかし、その立役者たる俺が英雄になることはなかった。
むしろ、その逆。
俺は捜査官たちから、『目の前にいるのは
滝澤政道ではなく、駆逐されるべき喰種』という対応を取られたのである。
「全員――SSレート"喰種"「オウル」へ攻撃準備……」
それも、法寺さん本人からこう言われたんだぜ。
どうしてだ?
誰よりも苦しい環境に身を置いて、誰よりも頑張ってきたこの俺がなんでそんな目にあわなくちゃならない?
怒りと悲しみと疑問で、俺の頭は一杯になる。
そして――……
▲▼▲▼▲
気がつくと、俺は道の真ん中で倒れていた。
頬に触れる雪の冷たさで、目を覚ます。
上半身を起こし、あたりを見回すが、そこに見覚えはない。
少なくとも、ここが流島じゃないことは確かだ。
「おい、兄ちゃん。そんな所に寝っ転がってどうしたんだい?」
「風邪引いちまうぞ?」
背後から呼びかけられ、俺は振り返る。
そこにはスーツを着た男二人が居た。
片方は丸メガネを掛けた気弱そうな男で、もう片方は無精髭を生やした男。
俺は立ち上がり、メガネの方の頭をもぎ取った。
「…………ひっ、うっ、わあああああああああああああああああああああ!」
しばらく遅れて無精髭の方がマヌケな悲鳴をあげ、逃げていく。
俺はそいつの後ろ姿を眺めながら、メガネの生首から溢れ出る血をペロリと舐めた。
美味い。
これは間違いなく現実の味だ。
つまり、これは夢じゃない。
食事をしたことで、寝起きでまだぼんやりとしていた頭が活性化し、それと同時に『情報』が流れ込んでくる。
聖杯。
聖杯戦争。
マスター。
サーヴァント。
令呪。
NPC。
場所は冬木、季節は冬。
あと数日で本番開始。
といった具合だ。
どうやら俺は願いを叶える聖杯とやらを巡る戦い――聖杯戦争のマスターに選ばれたらしい。
頭に流れ込んで来た『情報』は、聖杯ちゃんがわざわざ丁寧に俺に与えてくれたものだ。
右手の甲に付着した血を拭って見てみると、そこには血よりも赤黒く染まった紋様が刻まれていた。
これがサーヴァントに対する絶対命令権――令呪だそうだ。
と、そこまで考えて、俺は無精髭の男の声がピタリと止んだことに気づく。
そいつが走って行った方向を見ると、マヌケな背中は見えなくなっていた。
既に逃げきられたとは考えられない。
あいつが走ってからまだ五秒も経っていないのだ、人間の足でそんなことを出来るわけがない。
となると、俺の視点からは見えないだけで、実は道の途中に脇道があったのか?
そう考えていると、生暖かい何かが落ちてきた感覚が、俺の頭皮に伝わった。
最初は雪かと思ったが、雪ならば生暖かいのはおかしい。
落ちてきたものの正体を知るべく、左手で頭を触ってみるとそこには真っ赤な血が付いていた。
俺は思わず首を曲げて、血が落ちてきた方向を仰ぐ。
そこには電線が張ってあり、その上には一人の女が居た。
どうやって電線の上に乗っているのか、と疑いたくなるぐらい、巨大な女だった。
ざっと見て、身長は二メートルを超えているだろう。
それに、彼女の身体は至る所が赤かった。
服は勿論、髪や俺を見下ろす瞳も血のように真っ赤だ。
極め付けに、口元には血糊がついている――行儀悪くオムライスを食べた後のガキみてーだ。
瞳の赤さから一瞬喰種かと考えたが、血に混じって漂ってくるそいつの臭いは、人間と喰種のどちらでもなかったため、俺はその考えを捨てる。
これらだけでもかなり印象的だが、更に特徴的な事に、女の頭には獣耳が、腰には尻尾が、口には牙が生えていた。
どう見ても人間じゃない。
まるで、狼男だ。
いや、女だから狼女か? まあ、どうでもいい。
狼女は首のない人間を抱えていた。
服装から考えて、おそらくそれは先ほどの無精髭の男だろう。
ならば、先ほど落ちてきた血はあいつの物か。
つまり、狼女は俺から逃げて行った無精髭野郎を捕まえて殺し、頭を食って、ここまでやって来たわけだ。
それも、五秒で。
「██████……」
狼女が獣の唸りのような声を上げる。
最初は何を言っているのか分からなかったが、視線が俺の右手――つまり令呪に向けられている事に気付き、俺は得心する。
「もしかして、お前が……俺のサーヴァントなのか?」
俺の言葉に狼女は返事をせず、その代わりに首無し死体を俺に向かって放り投げた。
身体を逸らすことで、俺は女が投げたプレゼントを避ける。
地面に衝突した首無し死体から内臓がぶち撒かれるかと思ったが、そんなことはなかった。
虚しく鈍い落下音が、響いただけだ。
見てみると、無精髭の男からは首に加えて内臓も消えていた。
「ジャムにモツ……美味しいところだけ食べましたってわけかよ」
「████」
「好き嫌いはいけないぜ?」
俺の冗談に狼女は答えず、そのままどこかに飛んで行った。
どうやら、召喚されたとはいえ、マスターである俺に付き従うつもりはないらしい。
俺の手にある令呪を見たのも、
「こいつは自分のマスターだから、間違って食べてはいけない」
と認識しただけなのだろう。
あくまであいつは自由に動いて、自由に殺し、自由に食らうつもりらしい。
「全く薄情すぎるぜ、狼おん……いや、違う」
彼女を「狼女」と言おうとした時、俺は聖杯から与えられた『情報』の中の一項目を思い出した。
それは、召喚されるサーヴァントのクラス一覧。
どう考えてもあいつはその内の一つにしか当てはまらないだろう。
「バーサーカー」
そう言って俺は歩き出した。
何をする為に?
決まってるだろう、戦い前の腹ごしらえだ。
これから起きるバトルを考えたら、いくら頭の良いメガネのでも、頭一つ分の栄養じゃあ、全然足りねー。
▲▼▲▼▲
結局俺は法寺さんに認められなかった。
英雄になれなかった。
アオギリを潰しただけじゃあ、足りなかったんだ。
ならば、それ以上の功績を挙げれば良い。
そう、例えば、聖杯を手に入れるとかな。
何せ、万能の願望器と言うぐらいだ、みんなを救って幸せにし、俺を一番にすることくらい余裕だろう。
だろう?
なあ?
【クラス】
バーサーカー
【出典】
史実、十八世紀フランス
【性別】
女
【属性】
混沌・狂
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具D
【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
人喰いの化物であるバーサーカーと意思疎通を行うのは不可能――同じ人喰いでもない限り。
【保有スキル】
人喰いの獣:A
バーサーカーは人喰いの獣である。
というより、人しか喰らわない。
人肉を食らうことで魔力が回復し、傷の回復速度も早くなる。
また、百人以上食らっても正体が不明であった逸話から、このスキルは高ランクのステータス隠蔽効果を内包し、彼女のステータスはマスターであっても視認できない。
スケープゴート:A+
自分の身代わりや生贄を生み出すスキル。
己の代わりに巨大狼がジェヴォーダンの獣と間違えられ、仕留められたというエピソードによるもの。
自分以外の存在にターゲットを集中させる。
集団戦の場合は、ステータス総合値が最も自分に近い存在に同様の効果を与える。
また、このスキルによって、下記の宝具の短所が克服されている。
生屠る獣の叫び:A
狂化時に高まる、オオカミの雄叫びのような甲高い絶叫。
敵味方を問わず思考力を奪い、抵抗力のない者は恐慌をきたして呼吸不能となる。
名前以外はバーサーカー(フランケンシュタイン)の『虚ろなる生者の嘆き』とほぼ同じ。
【宝具】
【赤血の捕食者(ベッ・ドゥ・ジェヴォーダン)】
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
喉や脚を無視し、頭を砕くか食いちぎるという、バーサーカーの人喰いの手口が宝具に昇華されたもの。
これが発動すれば、『相手の頭を噛み砕いた』という結果だけが先に現れ、後にバーサーカーによる捕食が始まる。
襲撃→捕食→殺人の流れがまるっきり逆に起きるのだ。
魔術や呪いによる攻撃ではないため、対魔力で無効化することはできない。
しかし、幸運ランクがB以上の場合、判定次第では回避が可能となる。
バーサーカーのアンデンティティとも言える宝具であり、後の捕食が確約されているも同然で燃費も悪くないのだが、発動後に生じる隙が大きいため、複数人を相手にした際に使うのは難しい。
バーサーカーはこのリスクを本能的に察知しているため、相手が複数いた場合は闘争よりも逃走を優先する。
【人物背景】
十八世紀フランス。
ジェヴォーダン地方に突如出現した、狼に似た怪物。
ウシと同じくらいの大きさの、狼のような見た目をしており、広い胸部と小さくまっすぐな耳、ライオンのような尻尾が特徴。
全身を赤い毛で覆われているらしい。
しかし、その正体は改造人間。
六百万人から二千二百万人という爆発的な人口増加による飢饉を起こしていた十八世紀フランスで、『食物を食わずとも人が生きられるようにしよう』と考えたとある人物の研究――その過程で副産物的に生まれた改造人間なのだ。
だが、副産物はあくまで副産物であり、食物を食わずとも生きていけるという能力は持たず、逆に人しか食えないという害悪極まりない生物となった。
彼女を危険だと判断した制作主は、即座に彼女を殺そうとしたが、返り討ちにあい死亡。
その後彼女は村に出て、百人以上の人を食い殺す。
史実上ではジャン・シャストルに殺された、とされているが、それは間違いであり、騒ぎを聞きつけてやってきた魔術師たちによってひっそりと駆逐された。
【特徴】
赤い長髪。
赤い目。
返り血で汚れた、患者や被験体が着るような服。
牙や尻尾や獣耳と、身体の所々に改造の跡が見られる。
無理な人体改造により、生前は肉体の成長が普通の人よりも凄まじかった。
つまり、長身の巨乳。
【マスター】
滝澤政道(オウル)@東京喰種:re
【能力・技能】
喰種の肉体能力・回復能力。
赫者。
【人物背景】
元々はCCGの喰種捜査官。
だが、梟討伐戦の際に喰種集団『アオギリの樹』に捕まる。
その後、オークション戦の際に半喰種と化した姿で再登場し、数多くの捜査官を殺し、喰らう。
しかし実の所、彼はアオギリの樹幹部であるタタラを殺す機会を掴むべく、オウルとしてアオギリの樹に所属していたのだ。
その事を法寺特等に打ち明けるも、既に多くの人間に手を掛けた彼を法寺は受け入れず、逆上した滝澤は怒りと悲しみに任せてかつての上司を殺すのであった。
【マスターとしての願い】
英雄になる。
時系列順
投下順
最終更新:2017年05月04日 19:05