「ああ、もうおまえとは二度と会えないのか」
父が嘆く。
その端正な顔立ちは悲哀に包まれており、肩は悲しみに垂れ下がる。
魔や冥界の馬、神すら打ち倒したその強靭な武勲を持つ彼でさえ、子の前では一人の父親らしい。
「行かないでくれ」
「君は私達の誇りだ」
「そして友だ」
仲間が懇願する。
二度と会えぬのは嫌だと、大の大人が涙する。
筋骨隆々の騎士たちがみっともなく涙を垂れ流す姿は、彼らには悪いが、少し笑えた。
「はは、何を言うのです、父よ。そして仲間達よ。
これが今生の別れでもあるまいし」
快活に笑い、仲間の背を叩き父に顔を向ける。
少し、妻の国へと向かうだけだ。
何も死ぬ訳じゃない。
何も消える訳じゃない。
生きていれば、いつかまた会えるさ、と。
「私は必ずやまた帰ってくる。この故郷エリンに。
その時にまた酒でも酌み交わそう」
金の蹄を持つ白馬に跨がる。
手綱を握り、後ろに乗る金の髪を持つ麗しい妻に落馬せぬよう己にしっかりと掴まるよう言い聞かせる。
白馬は嘶き前の蹄を高く掲げ―――その姿は勇ましく、伝説に残る数々の勇者たちに引けを取らない男らしいものだった。
仲間達はその姿に変わらぬ大英雄の血を見出だし、讃えた。
しかし。
父だけが、未だに悲しみに暮れた顔から解放されていない。
「何を悲しむことがあるのです、父よ」
「いや、悲しむさ。これがおまえとの最期の別れとなってしまうと、私の直感が囁いている。
ああ―――此ほど悲しいことがあろうか。
私の息子よ。誉れ高きエリンの騎士よ。どうか、幸せであってくれ」
父は願うように。
しかし、決して引き止めず。
息子の出発を、慈愛の瞳で見つめていた。
「はは、そんな大袈裟な。私はただとある国へと向かうだけ―――ただ、この馬と妻の国へと向かうだけ。
向こうの国へと到着した際には我が偉大な父の武勲を語り聞かせ、この地へ里帰りした時には向こうの国の思い出話を土産に持ってきましょう」
さあ、行くぞ、と。
手綱を引き、白馬を走らせる。
向かうは病も老いも死も知らず、酒と果実も絶えることなく、常に日差しが差し込み楽しい音楽が流れる『楽園』。
麗しき妻ニァヴを後ろに乗せ、エリンの地を駆け、果てには大海原をその蹄で踏破していく。
さらば、我が故郷よ。
さらば、我が父よ。
さらば、我が仲間達よ。
「いざ行かん―――『常若の国(チル・ナ・ノグ)』へ!」
そして。
これが、父との最期の別れとなった。
○ ○ ○
「はあ、はあ、はあ、は―――!」
息を切らし、白馬を駆る。
常若の国は、余りにも幸せだった。
妻との暮らしは何よりも幸せだった。
だからこそ、この幸せを父や仲間たちに語り聞かせたいと思った。
『ああ、残念です。わたし、悲しいです。それでも帰ると言うならば、この白馬からは決して降りないで。
そうしてしまったら、二度とわたしとは再開できないでしょう―――』
故郷へ帰ると妻に伝えた時は、涙と共にそう告げられた。
妻を悲しませることは何よりも辛かったが、しかし父と、かつての仲間と出会えるということの方が彼の心を弾ませた。
そして。
故郷エリンに着いた彼が見たのは、変わり果てた故郷の姿だった。
絢爛な城は蔦絡む廃墟へと姿を変え。
筋骨隆々な騎士たちは姿を消し、一回りも二回りも小さい僧ばかりが町を歩いていた。
「おい、そこの君!君だ、そこの僧だ!」
『はて、私ですかな?おお、なんて立派な馬だ。加えて貴方もかなりの大柄、引き締まった身体だ。
旅のお方ですかな?』
「そんなことはどうでもいい。一つ、訪ねたいことがあるんだ」
彼は、白馬の上から惚けた僧へと訪ねた。
偉大なる父の名を。
故郷エリンでは名を知らぬ者はいないであろう、その名を。
「君は―――『フィン・マックール』という者を知っているか?」
大英雄、フィン・マックール。
知恵の鮭の恩恵を得た、知恵の戦士。
その問いを受けた僧はうーんと頭を悩ませる。
僧がまた口を開くまで十秒となかったが、彼にとってはその十秒は一時間にも思えた。
『ああ、知っていますよ。そりゃ知っていますとも!』
「ほ、本当か!?今彼等が何処にい―――」
『―――かなり昔の人物ですが、沢山本になってますからな。私も子供の頃はフィンの伝説を聞き、フィンの絵本を読んで憧れたものですよ』
「……は?」
返ってきたのは、予想外の答え。
常若の国。
病も、死も―――老いも知らない、楽園。
彼が暮らしていた常若の国と外界では、時間の流れが違ったのだ。
彼が幸せに暮らしている内に、外では数倍以上の時間が流れていた。
故郷エリンへと帰ってきた頃には―――父フィンも仲間も死に絶え、騎士の時代は終わっていたのだ。
「ああ、あ……!!」
これは、認められない。
父は。仲間は。私との別れを惜しんでくれていたのに。
これが最期の別れと嘆いていたのに。
私は、それを無視し大袈裟だと笑ったのだ。
なんと、惨いことをしたのか。
ああ、もう一度。
二度目の生があるのなら―――父フィンに、仲間たちに、この元気な姿を見せ語り合いたい。
そう慟哭した時。
白馬の勒が壊れ、彼の身体が地面へ落ちる。
『―――この白馬からは決して降りないで』
「あ…」
妻の言葉を思い出しながら、彼の身体は地面へ触れる。
その瞬間。
さらり、と。
身体の全てが、灰と化し―――彼の身体は、風に乗って、消えた。
○ ○ ○
とことことこ。
かぽかぽかぽ。
夜の町にはあまりにも不釣り合いな、着ぐるみを来た少女が、これまた町には不釣り合いな白馬の上に跨っていた。
市原仁奈。
九歳にしてアイドルの、動物大好き乙女である。
「そうか……Youは動物が好きなんだね?」
「そうですよっ。着ぐるみパワー全開でごぜーます。これ着ると、動物の気持ちになれるですよ」
「ふむふむ。ユニーク!&グレイト!その歳にして動物を敬う気持ちを持つとは……立派だね」
金髪の男性が駆る白馬に揺られ、兎の着ぐるみを被った仁奈は笑顔で答える。
誇らしげに両腕を拡げ、己の身体をより魅せるように。
「えーと……ライター?」
「ライダーだよレディ・ニナ。点が二つばかり足りない」
「ライダー!外人さんみたいな名前でごぜーますね」
うぬぬ、と変わった名前を告げられた仁奈は呻き、少し悩んだように頭を傾げる。
そして小さな掌でぺしぺしと白馬を叩き、問う。
「ライダーはどんな動物が好きです?やっぱりお馬に乗ってるからお馬でごぜーます?」
「はは、そうだね……私は小鹿さんが好きだ。内緒だが、私の母親は小鹿の妖精なのだよ」
「鹿!?」
「そしてMy nameも『小鹿』という意味で父から与えられたのだよ!!」
「小鹿!?」
はははと談笑しながらお馬は進む。
夜のためか殆ど人気はない。
……だからこそ、彼―――ライダーのサーヴァントである彼も、馬に乗せて移動している訳だが。
しかし。
段々と、仁奈の表情から笑顔が消えていく。
「……」
「…レディ・ニナ。どうしたんだい?お馬は嫌いかい?見てごらん!
もっとパッカパッカするぞ!そうだ!お歌を歌うかい!?」
少し楽しげに白馬が跳ねるが、それでも仁奈の笑顔は戻らない。
それどころか、瞳に涙が溜まっていく一方だ。
「―――済まない。楽しくなかったかい?」
「……ちげーです」
ライダーが問うと、仁奈はぶんぶんと頭を振る。
そして。
絞り出すような、か細い声で。
「パパに会いてーです…一人は寂しーです…」
ああ、と。
ライダーは、己の過ちを恥じた。
聖杯戦争の場に呼ばれ。
右も左もわからない状況に投げ出された幼子の前で、父と母の話をするなど不躾にも程があった。
これは、私の落ち度だ。
ポンポン、と仁奈の頭の上をライダーの大きな掌が撫でる。
「私と、同じだね」
「……?」
何を言っているのかわからないというような顔で、仁奈がライダーの顔を見上げる。
その顔は、何処か遠くを見ているようで―――何処か此処ではない何かを見ているようで。
少し、惹き込まれた。
「私もね、お父さんに会いたいんだ」
「ライダーのパパも遠いところに行ってやがりますか……?」
「うん。とても遠い所に行ってしまった。
本当に―――本当に、遠い所だ」
出来れば、もう一度会って話がしたい。
出来れば、この元気な姿をもう一度父や仲間に見せてあげたい。
言葉に出さない感情。
心の中に去来する最期のの父は、悲しみに暮れた顔をしていた。
そしてライダーは、ふっと笑うと仁奈を抱え上げ空へと持ち上げる。
「わわっ!?」
「ほらどうだ!高い高いだぞ!今ならお歌も歌ってあげよう!
……レディ・ニナ。君のお父さんは、まだこの世界にいるのだろう?」
「……でも、遠い外国に」
「はは、気にすることはないさ。
私が君とお父さんを会わせてあげよう―――そして、それまで君を襲う全ての者から君を守ろう。
約束しよう。このお馬さんは海の上も歩けるからね!」
にこやかに笑うライダー。
それにつられたのか、それとも言葉の真意を理解したのか―――仁奈は、ライダーに小指を差し出す。
「じゃあ、ゆびきりけーんまんでごぜーます」
「ああ、約束だ」
大男の指と、仁奈の指が交差する。
残念ながらライダーの指が大きいため指切りにはならなかったが、それでも心は通じあった。
斯くして、『小鹿』の名を持つサーヴァント―――ライダーは、親を求める幼子の元へ召喚された。
己と同じように、親を求める子の元へ。
ライダーは、何があっても彼女を守り抜くだろう。
故郷エリン。ケルト神話の大英雄、フィン・マックールの息子。
悲劇の英雄―――『オシーン』は、深く、誓った。
【クラス】ライダー
【真名】オシーン
【出典】ケルト神話
【性別】男
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具B
【クラススキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
Bランクでは魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなせる。
【保有スキル】
小鹿の加護:B
妖精の魔術により小鹿に変えられた母を持つ、
オシーンのスキル。
逃亡において有利な判定を得る。
神性:D
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
妖精女王への救済:A
妖精の女王を救ったことによる、祝福。
精神汚染の類いをある程度まで阻止する。
巨人の首:A
妖精の女王を救うため、巨人と一騎討ちを行い勝利した逸話から得たスキル。
状況を一対一の戦いに持ち込みやすくする。
【宝具】
『疾く渡れ、金の白馬(チル・ナ・ホース)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
オシーンが駆る、金の蹄を持った白馬。
緑が咲き誇り常に日差しが差し込み、金銀財宝に溢れ、苦しみも病も苦悩も知らず常に若い姿で生きられる、理想の国である「常若の国(チル・ナ・ノグ)」へとオシーンと妻「ニァヴ」を導いた白馬。
そして「常若の国」から、オシーンを故郷へと導いた白馬。
この馬はあらゆる地形を踏破し、海原を沈むことなく超え、足元に地があるかなど関係なく空間を駆ける。
「常若の国、そしてとうの昔に変わり果てた故郷へと導いた白馬」という逸話により、この金の白馬はあらゆる場面において「騎乗者を導く」という能力が備わっている。
言うならば、この馬は戦場日常問わず常に「状況に合わせた最適解を選ぶ」能力を持つ。
派手ではないが、粘り強さと堅実な強さを持った宝具。
……しかし、その半面「この馬から下りたら二度と私の元へは帰れないでしょう」と常若の国を去る前にニァヴに告げられ、故郷へと帰り地面に下りた瞬間、灰になって消えてしまった(老人になったなど諸説ある)という逸話を持つオシーンにとってこの宝具は一つのデメリットが存在する。
彼はこの馬から下りると身体に関するステータス(筋力・耐久・俊敏)が一段階下がってしまう。
『永久に甦れ、愛しき国よ(チル・ナ・エーレ)』
ランク:B 種別:対陣宝具 レンジ:60 最大捕捉:500人
彼が辿り着いた楽園「常若の国」を魔力によって限定的な再現を行う。
痛みも病も老いも知らず、オシーンが望めば百の剣も百の兵も呼び寄せることができる、『オシーンの絶対空間』。
この空間の中では不死や望んだ装備(神造兵器の類いは不可能)を得ることが可能な半面、魔力消費が大きく、一人前の魔術師であっても長時間の展開は不可能。
【weapon】
金の剣
【人物背景】
ケルトの大英雄、フィン・マックールと小鹿の妖精サヴァの間の息子。
勇敢で気高く、聡明で高い力を持つ青年。
……しかしFateにおけるフィンの息子である故か、少しナルシスト気質を持つ。
金髪の美女「ニァヴ」と出会い、楽園「常若の国」へと旅立った。
もう二度と会えぬと嘆く父や仲間に「また会える」と言い残して旅立ち、その道中で様々な不思議な体験や巨人を打ち倒し、楽園に到達した。
だが長年暮らす内故郷へと帰ることを決めたオシーンに与えられたのは、妻ニァヴの悲しみと「絶対にこの白馬から降りてはならない。降りてしまえば私とは二度と会えないでしょう」という予言だった。
その予言を胸に故郷エリンへと帰るオシーンだったが、彼を待ち受けていたのは己が旅立って300年の時間が経ち変わり果てた故郷だった。
老いを知らぬ「常若の国」と外の世界は時間の流れが違ったのだ。
そしてあるアクシデントにより落馬したオシーンは、その時間のツケを貰う―――灰になってしまったのである(老人になったなど諸説ある)。
浦島太郎と似た話の流れを持つ、ケルトの英雄である。
聖杯に託す望みは「もう一度父や仲間と再開すること」。
置いてきてしまった、二度と会えないと嘆いた父や仲間に元気な姿を見せたい―――息子としての、彼の願いである。
尚、マスターの仁奈に向けては常に明るく、英雄のように、スーパースターらしく明るく楽しませようと接する。
【特徴】
金髪を持つイケメン。イケメンだが、ナルシスト故かどこか間の抜けた印象を与える。
常若の国の経験からか、歌や果実も大好き。大柄。
【マスター】
市原仁奈@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル。
【人物背景】
9歳のアイドル。
きぐるみ大好ききぐるみ少女。
父と母の愛を求める、幼い少女。
【マスターとしての願い】
パパと会いてーです
時系列順
投下順
最終更新:2016年11月27日 21:50