「……俺は、どうすれば良い――?」
どこまでも吹き抜けるような、広々とした草原のど真ん中で。
昇ったばかりの太陽が輝く、朝焼けした空を見上げながら。立ち尽くした男はそう呟いた。
金髪の男の声には、殺し合いの只中で発せられた言葉の内容に似合わず、恐怖や不安の色は含まれていなかった。ただ純粋な疑問だけがそこにはあった。
彼はかつて、人間掃討軍極東方面部隊長という名を持っていた。
世に君臨する唯一絶対の君主である螺旋王ロージェノムの下、獣人達の国を乱す人間どもを駆逐する使命を背負った戦士として、多くの戦場を渡り歩き続けた。いつか死ぬその時まで、そんな日々はずっと続くと思っていた。
だがそんな彼の――
ヴィラルの現実は、音を立てるように急速に崩壊して行った。
全ての始まりは、ガンメンが奪取されたという一報だった。
部下の失態を聞き現地に向かったヴィラルは当初、ガンメンを奪った人間どもを圧倒した。そのまま一息に殲滅するはずだったが、奴らは何と二機のガンメンを“合体”させた。
そうして誕生したグレンラガンという鋼の巨人は、それまで不敗を誇ったヴィラルに易々と土を付けた――だけではなかった。敬愛する上官であるチミルフや、彼と同じく螺旋四天王と呼ばれる軍の最高指揮官に位置する獣人達を破竹の勢いで破り、遂には獣人達の本拠地である王都テッペリンさえ陥落させようと迫って来た。
それも、自分と対等に戦った唯一認める人間――カミナではなく。
チミルフとの戦いで落命したカミナの死を越えた少年、穴掘りシモンの操るグレンラガンが。
初めて対峙した時は、みっともなく逃げるばかりだった、あの情けない人間(ハダカザル)の小僧が。いつの間にか、獣人でも指折りの戦士であるヴィラルを圧倒するようになっていた。
それでも――ヴィラルは造物主たる螺旋王が、よもや人間のドリルに風穴を開けられるなどとは、さすがに想像していなかった。いや、ヴィラルがそれまで抱いていた世界観では、想像することは不可能であったと言う方が正しいか。
だが事実として、人間どもは――シモンは、勝った。絶対者として君臨し続けた、螺旋王に。
あの時崩れたテッペリンと共に、ヴィラルの認識する世界もまた、大きく崩れてしまった。
確かに、幾度となく己を苦しめた相手がカミナではなくシモンであったと言うことを悟った時点で、人間が本当にただの虫けらと同義なのかということに疑問を感じてはいた。それでも螺旋王の偉大さは揺るがぬとヴィラルは信じていたというのに、それが覆されたのだ。
ヴィラルはテッペリン防衛戦の直前、螺旋王より不死の肉体を授けられた。この肉体は戦いのためではなく、螺旋王の勝利を永久に残す語り部として生かすための措置だったらしいが、螺旋王の目論見はものの見事に外れてしまった。
ならばヴィラルは、螺旋王より与えられるはずだった生き方を得られずに、これから永遠の時を、果たしてどう過ごして行けば良いのか。
螺旋王の――他人の目的のためだけに生み出され、作り変えられたこの命は。
……それを探して行こうと、ヴィラルは思っていた。幸い、そのための時間だけはうんざりするほどあるのだから、と。
だが、その答えの片鱗すら捉えられないままに、ヴィラルは殺し合いに強制参加させられた。
不死の肉体と言いはしたが、要は自然治癒力が滅法高いというだけだ。始まりの場所で見た、
エルシアの放ったような攻撃を受けて、本当に生きていられるかはヴィラルにもわからない。そういう意味では不死身と称される生命力のヴィラルが参加していようと、なるほど殺し合いとして成立するかもしれない。
ではその殺し合いで、ヴィラルはどうするべきなのか。殺し合いと言うゲームの駒として、参加者の多数を占める人間をかつてのように狩れば良いのか。それともバグラモン達の掌の上で踊ることを是とせず、主催者の打倒を目指せば良いのか。あるいは……
堂々巡りの思考から抜け出そうと起動したBRデバイスで確認した名簿で、ヴィラルは自身のこんな状態を作り上げた、元凶たる男の名を見つけた。
「……シモン」
万感の思いを込めてその名を呟いたヴィラルだったが、一旦思考の隅に留め、続く説明に目を通して行く。
そして自らに支給されていたある物を目にして、何も見えなかったヴィラルの行動方針に、一つだけ、朧ながら目的が見え始めた。
「……そうだったな」
そこでヴィラルは、鮫のような歯を剥いて、笑った。
「確かに俺には、何をどうすれば良いのかまるでわからん。だがシモン……俺とおまえは争う宿命だったな」
宿敵が同じ戦場にいるのなら、見て見ぬふりはできない。
ヴィラルにこの力が支給されているのなら、シモンにも同じく、自分達の戦いに相応しい力が与えられているはずだ。
ならば、その力をぶつけ合わないわけには行かない。
これまでに何度敗れていようと関係ない。まずは奴と戦う。それを決めたヴィラルは、遂に行動を開始した。
◆
そういえば首輪を外しておきたいと、ヴィラルはふと考えた。
殺し合いに乗るにせよ、乗らないにせよ。戦闘中何かの拍子で炸裂され、視界を潰されでもしたら堪ったものではない。威力はルナスとかいう女が死んだ時に見たが、今のヴィラルなら時間さえあれば再生できるだろう。
だが、その無防備な時間に、他の参加者に発見された場合に何をされるかわからない。特に獣人であるヴィラルなど、参加者のほとんどを占める人間どもからすれば憎むべき対象のはずだ。余計な手出しをされるのは望ましくなかった。
あるいは先程までのヴィラルなら気にしなかっただろうが……今のヴィラルには目標がある。それを達成するために障害は取り除くべきだと考え、ヴィラルは他の参加者から隠れ、安全に首輪を外せる場所を探そうとしていた。
これほどまでに広大な会場であろうと、参加者が傍にいないとは限らない。できれば爆発音も隠せるような場所が良い――故に現在位置である、見晴らしの良い草原などは論外だ。一刻も早く外すための場所を見つけようと焦がれていたヴィラルが見つけたのはしかし、その願いとは相反するものだった。
ふと目の前に、妙に刺々しい水晶の小山が見え始めたかと思うと、それが反転したのだ。
「――貴様ァアア! 参加者だなあぁぁあああっ!?」
――ブルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
喧しく叫ぶのは、バグラモンからジョーカーと紹介されていた参加者の一人。ガンメンにも匹敵する大きさの、鉱石できた体躯を持つ怪物だった。
こちらの五倍ほどの高さに生えた目玉から自身を見下ろす敵手に対し、ヴィラルは思わず舌を打った。
だがその直後、予想外の事態への苛立ちは、不意に転がり出て来た幸運に対する喜びで塗り直される。
ヴィラルが殺し合いに乗るにせよ、乗らないにせよ……主催者の息が掛かった参加者であるこの怪物と敵対することは不可避のことだ。ならばヴィラルがこれより成すべきことは明白。何をするべきかと悩む必要がなくなる。
そして何より――やはり闘争の中こそが、戦士であるヴィラルの居場所なのだろう。
あるべき場所に戻った心地良さを噛み締めながら、ヴィラルは口の端を歪ませた。
「戦闘になる前に、首輪は外しておきたかったのだがな……!」
歴戦の戦士たるヴィラルをして息が詰まるほど強烈な威圧感。最も敬愛した元上官、怒涛のチミルフが敵に向けるのにも似た荒々しい闘気を、目の前の怪物は放っていた。
だがそれに対して竦むことなく、ヴィラルは不敵な笑みを浮かべていた。
「その姿ァ、おまえはぁっ!」
驚いたように声を上げた怪物はそこで言葉を区切ると、数秒の後に困ったように頭を抱えた。
「……誰だっけ?」
「……ヴィラルだ。貴様らが招いたのだから覚えておけ」
急に大人しめに抑揚を変えた怪物の問いに対し、微かに怒りを覚えながらもヴィラルは距離を取るべく後退し、デバイスのリロードボタンを押していた。
それを合図に、デバイスから吐き出される淡い緑の光の帯。0と1で構築された無数の列は捩合わさり、巨大な人型を成して行く。
「俺はまだ、この戦場で何をするべきかもわかっていない。だが、喜べ化け物。貴様と雌雄を決することに迷いはない――全力で行かせて貰うっ!」
「化け物だとぉお!? 否あァッ! 俺様はバグラ軍三元士、ブラストモン様だぁあああっ!」
怪物が名乗る頃には、彼を見下ろす異形の白い巨人が誕生していた。
その巨人には頭がなかった。その代わり、上半身にはまるで顔のような意匠が施されている。膝を着いた四本腕の巨人の口の中へと、ヴィラルはその身を飛び込ませた。
その巨人こそ、ヴィラル本人に支給されていた、戦士の力の象徴。
名を、ヴィラル専用カスタムガンメン・エンキドゥドゥといった。
螺旋王を護る最後の砦として、そしてシモンに勝利するために。グレンラガンの宿す螺旋の力とやらに敗れはしたが、グレンラガンや真・螺旋王機ラゼンガンといった特例中の特例たるそれを除けば、ヴィラルの知る限りおよそ最強のガンメンであった。
ヴィラルがコックピットに飛び込み、操縦桿を握ることでエンキの両目に光が灯り、四本の腕が各々のエンキソードを抜き取る。
ヴィラルの宣誓と共に、エンキドゥドゥは立ち上がった。
いよいよ明らかとなったその全高は、ブラストモンのさらに二倍近い大きさとなる。しかしブラストモンはまるで焦る様子もなく、コックピットのある位置目掛けて指を突き付けていた。
「待ぁてヴィラルとやらぁ……貴様なら俺様の相手に相応しいと見て、一つ提案があるぅ……」
ぐっと力を込めて拳を握り込み、自身よりも遥かに大きなエンキドゥドゥを見上げながら、ブラストモンは真剣な表情で告げた。
「ここは、ジャンケンで勝負だぁあああああっ!!」
「――ふざけるなぁっ!」
先程から頭の痛くなる言動を繰り返すブラストモンに呆れと怒りの綯交ぜとなった心境で、ヴィラルはエンキの刃を振り下ろさせていた。
巨人の揮う刃はただの力任せではなく、豪快にして精緻な太刀筋を描く。凄絶な剣気を放つエンキソードがブラストモンの首筋に到達し、硬質な音を奏でさせた。
そして盛大な火花を散らせて……傷一つ付けられず、逆に刃零れしながら、エンキソードは四本揃って跳ね返された。
「な……っ!」
「ブルァアアアアアアアアアアアッ!! 貴様ぁあああああああああああああああああっ!!」
ブラストモンの憤怒の咆哮に、ヴィラルの驚愕の呻きは掻き消される。
「ジャンケンでぇ、腕を四本も使っちゃいけませぇんんっ!!」
豪、という音の聞こえて来そうな剣幕で放たれた言葉は、余りにふざけ切ったものだった。
「貴様ぁ……ジャンケンが如何に神聖な闘技か知らんと言うのかぁあ……っ!」
「し……知らんっ!」
勢いに呑まれまいと反射的に言い返したヴィラルに対し、ブラストモンは神妙に頷いた。
「そぉうかぁ……ならば教えてやろうぅ……ジャンケンとはぁっ! デジタルワールドの創造神、グーモン・チョキモン・パーモンの三柱が果てなき闘争の果てに繰り出した、それぞれの必殺拳を模した三手を使って行われる戦いなのだぁあああああああっ!!」
「………………………………はぁ?」
何言ってんだこいつ、というヴィラルの疑問を、しかしブラストモンは自身の説明に対する肯定と見なしたのか。満足げに頷き、何度目かになる咆哮を上げた。
「ブルァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! よぉし、行くぞヴィラルよ……そしてご照覧あれ、デジタルワールドを創り給いし神々よぉっ!!」
圧倒的な迫力に押されたヴィラルは、ガンメンに乗りながら、その半分ほどの大きさでしかないブラストモンに対し、いろんな意味で完全に呑まれていた。
「我ここにぃ……乾坤一擲の、パーを捧げ奉らああああああんっ!」
宣言と共にブラストモンが天へと掌を翳すと……何が起こったのか、突如として強烈な突風が生じ、エンキドゥドゥの巨体さえも揺らし始める。
(こ……これ、はっ……!)
ヴィラルは自身の機体を圧すものが何であるかに思い当り、思わず表情を固くする。
「行くぞ、百本ジャンケン一本目ェエエ……ッ!! ジャァアン……ケエェェェエエン……!」
これは……ただの、気合だ。
「パァ――――――――ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ジャンケンの掛け声と共に、ブラストモンはその右腕を腰溜めに構えた。それを目の当たりにして、逃げなければとヴィラルが気付いた時には――もう、全てが遅かった。
ブラストモンが全身を引き絞った弓矢のようにして放った掌底は、防御の為に構えた四本の剣を触れた瞬間に爆砕。超絶の運動エネルギーの一部が変換された熱量が、その破片を一瞬で燃やし尽くす。
バカな、という呟きを漏らす暇すらなかった。
刃に触れてなお一筋の傷も負っていないブラストモンの掌は、踏み込みの勢いを殺し切れずエンキドゥドゥの上半身に着弾。ガンメンの装甲をあたかも寒天の如くブチ抜いて、その奥にあるコクピットごとヴィラルの肉体を圧潰する。
衝撃に耐え切れず、エンキドゥドゥの胴体から四本の腕、両足の膝辺りまでが粉砕される。小型の地震並の震動を足元に残し、かつてガンメンだった残骸は、ブラストモンの一連の動作により生じた衝撃波にそのまま連れ去られ、土煙を孕んだ銀の旋風として吹き飛んで行った。
その過ぎ去った大地に、無惨な爪痕だけを残して。
◆
「――ぬぁあああああ! 一撃で粉! 砕っ! されるとはこの、軟弱者ぉおおおおおおっ!」
ブルアアアアアアア! と憤りを吐き出しながら、天災の如き怪物は両拳を打ち合わせる。一度目のそれで充満していた土煙はあっさり吹き散らされ、さらに続くたびに数百メートルも離れたはずの梢が揺れ、中には落葉するものも現れ始める。
彼の名は三元士ブラストモン――デジタルワールドでも最高峰のパワーと強固な装甲を誇るとされる、バグラ軍最高幹部の一角である。その力の程は、ちょっと気合を入れてジャンケンするだけで、自身の倍も巨大な機動兵器を勢い余っただけの一撃で粉々にしてしまったことからも、容易に窺い知ることができるだろう。
その圧倒的なパワーの前には、如何なる装甲も紙切れ同然。その驚異的な頑健さには、大量破壊兵器すら何ら意味を成さない。まさしくただ単純に、隙がない強さを誇る怪物である。
ただそんな彼にも、致命的な弱点があった。
御覧の通り――馬鹿なのである。それも物凄く。
何しろ――以前人間界に侵攻した際に交戦した蒼沼キリハに、時間稼ぎの為に吹き込まれたジャンケンに関する嘘を、未だ微塵も疑わず信じているのだから!
とはいえ、仮にも三元士が一人。主君によってジョーカー参加者として戦場に送り込まれた以上、自らが参加者減らしの役割を遂行しなければならないことはさすがに理解していた。
だが一方で、その奥深さ(嘘だけど)に感服させられたジャンケンに対し、途中からただの乱闘と化してしまった前回は悔いの残る結果であるとブラストモンは思っていた。特にこの前は不発に終わったパーを、是非とも創造神達に披露したいと強く感じていたのだ。
そこでブラストモンは考えた。どうせ自身の天災級パワーを以ってすれば、ジャンケンだけでも生半可な参加者は粉砕されてしまうことだろう。ならばとりあえず、出会う相手に片っ端からジャンケンを挑んでみれば軟弱な参加者はそれだけで駆逐でき、そしていずれは、心行くまで覇を競い合うことができる、まだ見ぬ好敵手を見つけ出せる時が来るのではなかろうかと。
最初に遭遇した参加者――自身よりも巨大な機動兵器に乗ったヴィラルとなら、早速その夢が叶うのではと期待したのだが、残念ながら初手でエンキドゥドゥは大破してしまった。
「うぐぅうううう……か、勝ち逃げだとぉ……っ!」
だがそこでブラストモンは、がっくりと項垂れた。
単純に、超衝撃にエンキドゥドゥが砕け散った四本の剣の柄を取り零しただけなのだが……ブラストモンにはその時の指の形が、四本揃ってチョキを構えているように見えていたのだ。
これはブラストモンも想定していなかった。粉砕される程度の敵でありながら、ジャンケンでは自身を上回って来るなどとは。結果的に生き残ったのはブラストモンであろうと、確かにヴィラルはジャンケンという、より高次の土俵においてブラストモンに勝利していたのだ。
その借りを返す機会は、ヴィラルの死によって永遠に喪われてしまった――?
「……否、断じて否ぁっ! 本来ジャンケンは三柱の創造神に敬意を払い、百本先取した方が正式なる勝者! つまりまだ、勝負は決しておらずぅううううっ!」
天に向けて叫んだ後、ブラストモンは地に刻まれた傷跡――好敵手へと続く道を睨みつけた。
エンキドゥドゥが木端微塵になったとはいえ、ヴィラルまで死んだとはまだ確定していない。というより、今のままで終わってしまえば負け越しであるため、死んでいて欲しくないという、およそジョーカーに相応しくない願いというのが正しいが。
だがそれが事実なら、まさにブラストモンが今口にした通り……勝負は未だ、着いていない。
「――生きていろよヴィラルぅう! 次なる一本こそは俺様が取るぞぉおおおおおおおおっ!」
負けっ放しで終われんと決意した天災は、やはり地を揺るがしながら移動を開始した。
【一日目/日中/隔離空間都市C-3 草原】
【ブラストモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[参戦時期]第三巻終了寸前後(※備考欄参照)
[状態]健康
[装備]BRデバイス@オリジナル
[道具]基本支給品一式、不明支給品×3(確認済み)
[思考]基本行動方針:ジョーカーとして、参加者を減らす。
0:ヴィラルにジャンケンの借りを返す。
1:ジョーカー(タクティモン、ブラストモン、ロン)以外の参加者を見つけたらジャンケンを挑む。
2:自分と満足にジャンケンできる参加者を見つければ、その相手と共にジャンケンの真髄を味わいたい。
3:ジャンケンを堪能したら普通にジョーカーとしての役目に専念する。
[備考]
※デジタルワールドへ帰還後、ダークナイトモンと遭遇せずにバグラ軍と合流しています。
※ジョーカー参加者です。他の参加者についての情報は、大まかにしか与えられていません。
※首輪を外しても自分なら問題ないことを知っていますが、まだ外していません。
◆
濛々と白煙を上げる森の片隅へ向けて、俊敏な動きで向かう者がいた。
「もう、始まってしまいおったか」
悲痛な声を漏らしながら一際太い木の枝の上に足を掛け、先程森全体を揺るがすほどの衝撃を齎した何らかの着弾地点へと目を配ろうとする彼の顔は、人間ではなく――黄色い毛並みをした、猫の物であった。
顔だけでなく、全体としては直立二足歩行の人型をしながらもその四肢もまた人間にしてはか細い猫科のそれであり、黒い縞の入った尻尾まで生えていた。
獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法――獣拳。
彼こそはその使い手として拳聖とまで称された達人、マスターシャーフーその人であった。
かつて悪の道に堕ちた朋友達を止めるべく、禁術・獣獣全身変を用いた結果人の姿を失った彼であったが、その心は正しく人のままであった。ならば当然、
シャーフーにはこんな非道なゲームを容認することはできなかった。
故に今こそ不闘の誓いを破り、一つでも多くの命を救おうと駆け回っていたのだが――早速戦闘が開始されてしまったらしいことに、さすがのシャーフーも焦りを覚えていた。
「……あれか」
さらに高くへ跳び、やがて見つけたのは森の木々が尽く薙ぎ払われた、その終点。元が何の形をしていたのかもわからぬほどに砕け散った、白い鉄塊が無数に転がっていた。
「ロボか……?」
その残骸が成す姿に、シャーフーには連想される景色があった。
レジェンド大戦にて、地球を護る全スーパー戦隊の巨大ロボ戦力が壊滅した、絶望の光景。そこで目にした鋼の勇者達の成れの果てと、今目にした景色はどこか似通っていた。
「だとすれば……っ!」
あるいは搭乗者がまだいるかもしれない。そう思って駆け付けたシャーフーだったが、目にした光景に肩を落とす。
飴細工のように破裂し、散乱した金属塊。自らの巻き上げた土砂を被ったそのいずれもが、超音速飛行による摩擦で赤熱し、体温を頼りに搭乗者の有無を確認することを阻んでいた。
いや、これではそもそも……そう思ったシャーフーだったが、熱せられたのとは違う真紅の色を発見し、慌てて駆け寄った。
金属の板と板の隙間から流れ出ているのがやはり、赤い血液だと見取ったシャーフーは即座にその隙間に手を滑り込ませる。
「――アッチャッ!」
猫じゃから熱いのには敏感なんじゃ、などと嘯きながら、見事な全身の発条と合気を見せたシャーフーは、コックピットハッチを軽々と吹き飛ばした。
そして顕となった眺めに、幾星霜を重ねて来た彼でさえも、思わず絶句してしまった。
シャーフーの目に映ったのは、赤一色に染まったコックピット内。目を覆いたくなるほどの赤の正体は、生体が破裂して飛び散った血と肉片だった。
よくよく見れば、まだ辛うじて人型を保っている……と認識できなくもない肉塊が、操縦席の中央に横たわっている。骨格から辛うじて男性だったのかと推察できる程度でしかない、元は生命だった物が、そこにはあったのだ。
「……ッ!」
このロボの残骸は、今いる場所とは別のエリアから強大な力を受けて吹き飛ばされて来た物だろう。その暴力の程を示す惨劇の痕に、シャーフーといえど呑まれてしまっていた。
だがそれも一瞬、次なる驚きにシャーフーは襲われた。
「――何事じゃっ!?」
挽き肉と化していたはずの男の身体から、白い湯気が上り始め。緩慢な巻き戻し映像のようにあるべき箇所に骨が、脂肪が、神経が。内臓が新しく形作られ、筋肉が再生し、それらの上へと皮が伸びて、先端同士が出会い融合することで包み込んでいく。
やがて金髪をした男の顔の輪郭が識別できるほど修復された辺りで、ただ呆けたようにそれを見続けていたシャーフーは背筋に凍える物を感じ、思わず後ろを振り仰いだ。
ほぼ同時、遠くから大地を震わす揺れが伝わって来る。
――ここに向かって来ている。何かが……おそらくはこの惨状を生んだ張本人が。
そう直観したシャーフーは、原型を取り戻しつつある男の身体を担ぎ上げた。
再生された唇から苦鳴が漏れたが、意識が戻っているかまではわからない。その確認よりも今は一刻も早くここから離れるべきだと判断したシャーフーはコクピットを飛び出し、両足を撓めた。
「お主が何者かまではわからんが……少なくとも、今の儂はお主の味方じゃ。安心するが良い」
そう囁くと、男を連れたシャーフーは人間離れした跳躍を見せ、木々の群れへと姿を消した。
こうして……道を探そうとしていた獣の刃は、偶然出会った天災によって叩き潰された。
しかしそれによって彼は、若者に道を説き、変化を促す術に長けた者と邂逅する機会を得た。
その巡り合いが、果たして彼にどんな可能性を齎すのかは――
――今は腹を抱えて笑っている、預言者と呼ばれし堕天使のみが知っていた。
【一日目/日中/隔離空間都市C-1 森】
【シャーフー@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[参戦時期]最終回後、おそらく『海賊戦隊ゴーカイジャー』第七話以降からの参戦
[状態]健康
[装備]BRデバイス@オリジナル
[道具]基本支給品一式、不明支給品×3(確認済み)
[思考]基本行動方針:一人でも多くの参加者を助け、殺し合いを打破する。
1:男(ヴィラル)を連れて迫る気配(ブラストモン)から逃げる。
2:安全な場所に逃げれば男(ヴィラル)と情報交換を行いたい。
[備考]
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[参戦時期]第十五話終了後
[状態]瀕死、再生中
[装備]BRデバイス@オリジナル
[道具]基本支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
[思考]基本行動方針:これから考える。
0:……(気絶中)
1:俺は何をすれば良い?
2:シモンとまたガンメンで戦いたい。
[備考]
※ロージェノムによる改造で、眠らなくても細胞が壊死することはありません。また爆発的な自然治癒力を得ています。
※支給品の一つだったエンキドゥドゥは大破しました。
【全体事項】
※隔離空間都市ゾーンのC-1からC-3間のエリアの一部を通る荒地ができました。
※エンキドゥドゥの残骸が隔離空間都市のC-1に放置されています。
【支給品解説】
ヴィラルに本人支給された、グレンラガンの序盤のライバル機だった専用カスタムガンメン最終形態。四本の腕に一本ずつのエンキソードを用いた四刀流が強力……のはずだが、二回の戦闘ともに登場後すぐ撃破された不遇の機体である。
最終更新:2012年10月04日 13:32