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NIRS・EEG同時計測による情動の評価

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NIRS・EEG同時計測による情動の評価

緒言

 マーケティングにおいて、消費者のニーズを解明することは重要である.
ニーズの調査法として一般的なものは, アンケートや街頭質問といったものがあるが, これらの方法は個人の気分や周りの環境などの影響を受けやすく, また人間の思考プロセスの95%は無意識下で行われていることから, アンケートなどの主観評価では, 正確な評価を得られていない可能性がある. そこで, 近年は人間の情動を脳活動から読み取り, マーケティングに応用するニューロマーケティングの研究が盛んに行われている.

ラッセルの円環モデル

 ニューロマーケティングに応用するための情動には,快不快度と覚醒度の2種類がある.
 ラッセルの円環モデルとは,その2種類を定義したものであり,人間の情動は,「快-不快」「覚醒-眠気」の二次元上に定義できるとしたモデルである.
快不快度と覚醒度の違いによって大きく4種類に分けられる.

〈高覚醒の快〉
  • 覚醒度が高く,快情動が高い
  • 幸福や興奮の状態
〈低覚醒の快〉
  • 覚醒度が低く,快情動が高い
  • 落ち着きやリラックスの状態
〈高覚醒の不快〉
  • 覚醒度が高く,快情動が低い
  • 恐怖や恐れの状態
〈低覚醒の不快〉
  • 覚醒度が低く,快情動が低い
  • 飽きや退屈の状態

 今回の実験デザインは,短時間(5秒間)の画像呈示時の脳活動を計測している.短時間で飽きさせることは難しいため,低覚醒の不快は除外した.今回は,高覚醒の快,低覚醒の快,高覚醒の不快の3種類を使用していく.

実験目的

 本研究では高覚醒の快画像, 不快画像, 低覚醒の快画像, 不快画像の4種類の画像を呈示した際の脳活動をウェアラブルに計測が可能なNIRSとEEGの同時計測を行い, NIRSによる快不快度, EEGによる覚醒度の2つ指標で評価が可能か検討を行う.

NIRSとEEGを使用する理由

 脳機能計測装置にはさまざまな種類があり,NIRSとEEG以外にも快不快度と覚醒度を評価できるものがある.MRIを使えば,たった一つの装置で快不快度と覚醒度の両方を計測できる.
 ではなぜMRIを使わないのかというと,MRIは,非常に大型で,拘束性は高いという特徴があるためである.
 情動の評価を行うためには,実験参加者の負担を軽減させる必要があるため,今回は拘束性が低く,ウェアラブルに計測が可能な脳機能計測装置(NIRSとEEG)を使用していく.

EEG(脳波)

〈EEGの原理〉
 脳の神経細胞において情報のやり取りが行われた際に,細胞間に電位が発生する.1つの細胞の電位変化は非常に小さいため計測が困難だが、多数の細胞の電位変化により計測が可能となる.脳波は、この多数の細胞による電位変化を頭皮上の電極により計測を行っていく.

〈脳波 特徴〉
一般的に,刺激が強いと周波数が高くなり,刺激が弱いと周波数が低くなるといった特徴がある.
その周波数によりα波やβ波,θ波といったいくつかの種類に分けられます.

α波・・・8Hz~14Hzで,リラックス状態や覚醒度の低下に伴い発生する
β波・・・14~38Hzで,緊張や興奮などストレスがかかった状態に表れる
θ波・・・4~8Hzで,瞑想状態やまどろみの状態など弛緩状態の際に表れる

 今回の実験では覚醒度に注目しており,α波のみでも十分に覚醒度を評価できるため,α波のみで評価を行った.

実験方法

〈実験参加者〉
  • インフォームドコンセントを得た9名(EEGでは計測不良のため2名除外)
〈使用した装置〉
  • NIRS:アステム社製Hb132 全5ch
  • EEG:デジタルメディック社製ミューズブレインシステム 後頭部1ch
〈視覚刺激〉
  • 高覚醒の快画像:実験参加者の好きな画像
  • 高覚醒の不快画像:グロテスクな画像
  • 低覚醒の快画像:風景画像
  • 低覚醒の不快画像:お墓などの画像
〈実験デザイン〉
 前レスト(安静時)7.5秒, タスク(課題時)15秒後, レスト(安静時)7.5秒を1試行とし, 1タスクにつき画像を3枚それぞれ5秒間ずつ呈示し, 4種類の画像でそれぞれ5試行, 計20試行行った. また, 4種類の画像の呈示順はランダムとした.
レスト時は画面に表示される十字記号を注視するように教示をおこない, 実験終了後に呈示した視覚刺激課題に関する主観評価として簡単な質問とアンケートを行った.

NIRS計測結果・考察

 このグラフは, 4種類の画像を呈示した際の前頭前野中央部(2ch)のoxy-Hbの値を実験参加者間で加算平均したものである.
今回, タスク開始時から脳活動の初動までに遅れが生じるため各タスクの後半10秒について注目した.

〈グラフより読み取れること〉
  • 快条件の画像呈示時にoxy-Hbの値が上昇した.
  • 不快条件の画像呈示時にoxy-Hbの値は減少した.

 t検定を行ったところ, 快条件と不快条件の間に優位差を確認することができたため, 快・不快を評価できる可能性があるといえる.

EEG計測結果

 4種類の画像を呈示した際の各タスク後半10秒のα波出現率について実験参加者間で加算平均したものを示す.
EEGの解析では視覚刺激を受けてから情動が喚起されるまでに時間がかかるため, NIRSと同様に各タスクの後半10秒について注目した. また, 実験デザインの都合上, 全て開眼で視覚刺激を与えた状態のα波出現率を比較しているため, 覚醒度としては大きく差が出ないことが前提として考えられる.


〈グラフから読み取れること〉
  • 高覚醒条件の画像呈示時にα波出現率は低くなる傾向が見られた.
  • 低覚醒条件の画像呈示時にα波出現率は高くなる傾向が見られた.
 この結果よりα波出現率は高覚醒条件で低くなり, 低覚醒条件で高くなる傾向が見られることが分かり, t検定を行ったところ, 高覚醒条件と低覚醒条件の間に優位さを確認することができたため, 覚醒度を評価できる可能性があるといえる.


考察

 NIRSによって快条件と不快条件の間に有意差を確認できたため快不快度の評価が可能であることが分かり, EEGによって高覚醒条件と低覚醒条件の間に優位差を確認できたため覚醒度の評価が可能であることが分かった.
よって, ウェアラブルに計測可能なNIRSとEEGの2つを組み合わせることで人間の情動を評価できる可能性があり, 人間の情動を簡便に評価できるようになれば実用的に商品パッケージなどのデザインの評価が行える可能性がある.

結言

 本研究では, ウェアラブルに計測可能なNIRSとEEGの同時計測を行い, ラッセルの円環モデルに基づいた視覚刺激に対する情動の評価を行えるか検討を行った.
その結果NIRSでは快条件と不快条件の間に有意差を確認することができたことで, NIRSで快・不快を計測することが可能であることがわかった.またEEGでは高覚醒条件と低覚醒条件の間に有意差を確認することができたことで, EEGで覚醒度を計測することが可能であることがわかった.

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