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パチン・・・





黄色のコードは2つに切断され、静寂に包まれた。



爆弾は・・・爆発しない・・・。



それを確認すると、私は大きく息を吐いて尻餅を搗くように倒れた。
激しい緊張感から解放され、心地良い脱力感に包まれている。

私達は・・・負けなかった。爆弾事件の犯人にも・・・死神にも勝ったのだ。
約1時間半・・・想像を絶する恐怖の中・・・私達は爆弾解体という偉業を達成したのだ。
本当に命懸けで闘ってきたからこそ、この達成感は非常に大きな価値があった。
そんな私達の祝福するかのように・・・ムギ先輩から電話がかかってきた。


「もしもし、ムギ先輩!」ピーピー・・・
『どうかしら・・・残り2本のコードは切れた?』ピーピー・・・
「はい!唯先輩が残りのコードも切ってくれましたが、爆発しませんでした!」ピーピー・・・
『そう・・・良かったぁ!』ピーピー・・・
「ムギ先輩が指示を出してくれたおかげです!本当にありがとうございます」ピーピー・・・
『唯ちゃんは・・・大丈夫?』ピーピー・・・
「何か固まったままですね・・・最後にまた、緊張しちゃったんじゃないですかね・・・」ピーピー・・・


ブツ・・・


「あっ・・・もしもし?・・・私のケータイも電池切れちゃったみたいですね・・・」


ケータイの電池の残量も何とかギリギリ間に合った・・・。
私は胸を撫で下ろし、私の目の前で固まっている人の名を呼んだ。


「ゆーい先輩、大丈夫ですか?」
「・・・」
「唯先輩!」
「・・・」
「唯先輩・・・?」
「・・・あ・・・あずにゃん・・・」


ようやく振り絞るように出た唯先輩の声は・・・何故か震えていた。
そして・・・もう止まったはずの・・・聞こえてくるはずの無い音が、私の耳に入ってくる・・・。
緩んでいた私の表情も、一気に固まっていく・・・。


チッ チッ チッ チッ チッ・・・


「ゆ、唯先輩・・・あの・・・まさか・・・そんなわけ・・・無いですよね・・・」
「でも・・・止まらないよ・・・?爆発までの時間・・・」
「な、何で・・・」
「コードも2本残ってる・・・青いコードと赤いコード・・・」


恐る恐る爆弾を覗き込むと・・・確かにカウントダウンが止まっていなかった。
残り時間は13分を示している。
まだ13分・・・いや、もう13分しか残っていない。


―――――今日ガ、オ前の命日ニナルト言ッタハズダ―――――


「えっ!?」


アイツの声が聞こえた・・・。さっきまで居なかったはずなのに・・・観覧車の外から、こっちを覗き込んでいる。
地上120メートルの高さからこちらを覗き込む、大きな鎌を持った死神・・・。
夢で見た時と同じように、ボゥッと青白い光の下に、そいつは存在している。


「あっ・・・ああっ・・・そ、そんな・・・」
「どうしたの、あずにゃん・・・?」


この世に存在しない物を見るかのように驚き、怯えている私・・・。
その姿をはっきりと見たのは、夢以外では今が初めてだった。
視線を感じたり、声が聞こえたり・・・その存在はずっと私の中にはあった。
しかし、その姿をはっきりと視認し、対峙する・・・圧倒的な威圧感が私を押し潰そうとしていた。
私のあまりの怯えぶりに、さすがに不審に思った唯先輩は、目線を私から観覧車の外に向けようとしていた。


「だ・・・ダメです唯先輩!見ちゃダメです!!」


しかし、私が制止する前に唯先輩は観覧車の外を見てしまった。
顔を外に向けた瞬間・・・その視線は1点にロックされ、表情も固まっている。
遅かった―――――唯先輩には死神の存在に気付いてほしくなかったのに・・・。
死神の標的が私と言うなら、唯先輩だけは助けたかったのに・・・。

直立不動で外を見つめる唯先輩・・・。
死神を目の前にした唯先輩の反応を・・・考えるのが怖かった・・・。


「あずにゃん・・・」
「は、はい・・・」
「外に何か居るの?」
「へっ・・・!?あの・・・その・・・」


唯先輩はクルリと私の方に体を向けると、首をかしげながら私を見つめた。
その表情は、まるで外には何も居ないよと言わんばかりだ。
しかし私が再度外を見ると、やはりあの死神がこちらをジッと見ているのだ。
という事は、私にしか見えていない・・・?
唯先輩に変な恐怖心を与えずに済むのは良い・・・私の取り越し苦労だったと思ったが、唯先輩には全てお見通しのようだ。


「私には見えてないけど・・・あずにゃんには、外に居るように見えるんだね・・・死神が」
「ど、どうしてそれを!?」
「外を見て怯えてるあずにゃんの表情・・・今日、話している中で何度か出てきた『死神』って言葉を聞いた時と同じ表情してたもん」
「・・・」
「そういえば私が朝、あずにゃんに電話した時から様子が変だったよね・・・」
「・・・」
「電話して、すぐに私が生きているかどうか確認するなんて、普段のあずにゃんなら考えられない事だよ~」
「・・・」
「もしかして、あずにゃん・・・死神に遭遇するとか、私が死神に殺されちゃうとか・・・そんな怖い夢見たんじゃない?」
「!?」
「お化け屋敷に入った時も、どうしてこんなに夢と似てるんだろうって言ってたし・・・」
「・・・」
「怖い事は1人で抱え込まなくても良いんだよ、あずにゃん」
「・・・」
「苦しむあずにゃんを救う為なら、私はどんな犠牲も厭わないよ」
「・・・」
「だから・・・怯えている理由を話してごらん?」
「ゆ・・・唯せんぱぁい・・・」


鋭い勘の持ち主だと思っていたけれど・・・私の表情と言動で夢の内容まで当てられるとは思わなかった。
私の事をこんなにも理解してくれている・・・私の心の拠り所で居てくれる・・・その事が嬉しくて、私は思わず泣き出してしまった。

今日ずっと1人で抱え込んでいた、辛くて恐ろしい夢の内容。
それに伴い、デート中も悪夢を思い出しては葛藤していた事。
私の運命のせいで、唯先輩も事件に巻き込んでしまった事。

最初は、唯先輩に余計な心配をかけさせたくないと思い、全てを自分の胸に秘めておこうとさえ思った。
しかし、唯先輩はそんな事は許さず、私の全てを受け入れようとしてくれた。

私は何度も何度も嗚咽しながら、私に縛りついていた思いを全て吐露した。
時折、涙に声が詰まって上手く話せなくなると、私を抱き寄せては優しく撫でてくれる事もあった。
唯先輩は私が全てを話し終わるまで、ずっと黙って聞いていてくれた。


「一つ、聞いても良い?」


私が話し終わると、唯先輩は落ち着いた口調で尋ねてきた。


「夢で言ってた死神の言葉は本当?『死神の弱点、嫌いな物は赤い物』って・・・」
「はい・・・そう言ってました」
「死神自身について言ってた事って、本当にそれだけだったの?」
「はい・・・」


唯先輩は少し何かを考えた後、ニコッと笑った。


「わかった・・・あずにゃんを信じるよ♪」


唯先輩の言った、信じるという言葉・・・この時はまだ、その真意を考えなかった。
その真意を考えられる程、余裕が無かったと言った方が正しいのかもしれない。
唯先輩に全てを打ち明けられた事で、気持ちが少し楽になったものの、私達が置かれている状況が好転したわけではないからだ。
心の全てを曝け出している時、時間の事は頭から離れていたが、今確認すると・・・爆発までのタイムリミットは5分になっている。


「あと・・・5分しかないですね・・・」
「そうだね・・・」
「ど、どっちのコードを切れば・・・」
「大丈夫!・・・私、さっきのあずにゃんの話を聞いて、切るコードは決めたから」
「えっ・・・も、もしかして赤、ですか・・・?」


唯先輩は私の問いには答えずに、ただ黙って爆弾を見つめている。
その間にも、1秒・・・また1秒と、爆発までのカウントダウンが進んで行く。


「あと4分・・・遅かれ早かれ、あと4分で私達の運命って決まるんだね」
「唯先輩・・・」
「勿論、私達が勝つよ!私達は生還する!・・・そう信じてる・・・」
「はい・・・」
「でも・・・心のどこかに、死にたくない・・・切るコード間違ってたらどうしようって・・・恐怖心もあるんだよ・・・」
「・・・私のせいで・・・本当にゴメンなさい・・・」
「あずにゃんが謝る事なんてないんだよ!むしろ、謝るのは私の方・・・」
「な、何でですか・・・!唯先輩は何も悪くないですよ!!」
「だって・・・こんな恐怖心をずっと・・・」
「・・・」
「・・・ずっとあずにゃんに1人で背負わせてたんだもん!もっと早く気付いてあげられれば・・・もっと早く共有してあげられれば良かったのに・・・」


グシグシと泣く唯先輩に、私はかける言葉が見つからなかった。
私の予想していなかった事を言うから・・・。
貴女は一体、どこまで優しすぎる人なんですか・・・。


「唯先輩のバカ・・・」
「あずにゃん・・・」
「唯先輩のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!・・・どうしてこの期に及んでまで・・・そんな事が言えるんですか!」
「ぐすっ・・・だって、あずにゃんが好きなんだもん・・・」
「もうすぐ死ぬかもしれないんですよ!?こういう運命をもたらしてしまった私の事を責めたって良いんですよ!」
「だって、あずにゃんが悪いわけじゃないんだもん・・・」
「そうやって、いつも私の事を庇って、私の事を一番に考えて・・・いっつも、あずにゃんあずにゃんって・・・」
「・・・あずにゃん・・・?」


ここでは文句や不満のような形で言葉が噴出してしまったが・・・感謝の気持ちも含め、唯先輩に言いたい事は他にも山ほどあった。
その中で・・・今、一番何を言いたいのか・・・何を伝えたいのか・・・。
私達に残された、あと2分30秒という時間で・・・何を唯先輩に言えば良いのか・・・。
この短時間で伝えたい事を考えてみた。・・・しかし、新たに思い浮かぶ事は何も無い・・・。


「・・・私・・・死にたくないです・・・」
「・・・」
「まだ17歳ですよ・・・まだまだやりたい事だって沢山あります」
「そうだね・・・」
「軽音部の皆さんと、もっともっと沢山演奏したいです・・・」
「うん・・・」
「憂や純と・・・もっともっと遊んだり話したりしたいです・・・」
「うん・・・」
「それよりも何よりも・・・」


短時間で言いたい事を考えてみても・・・新たに思い浮かぶ事は何も無かった。
だけど、ずっとずっと言いたかった事はある・・・。
伝えたくても、簡単には伝えられない・・・掛け替えの無い大切な気持ちを・・・。


「ずっと・・・」










「大好きな・・・世界で一番大好きな唯先輩とずっと一緒に居たいんです!!」










自分自身の心の奥深くに秘めていた、世界で一番大切な気持ち・・・。
キュンとなったり、ドキッとなったり・・・こんな気持ちがあるから、毎日が楽しいんだ。。
そして、そんな幸せな気持ちにさせてくれる人のぬくもりを求めて・・・私は無意識に体が動いていた。


「あ・・・あずにゃ・・・」


唯先輩の事をギュッと強く抱きしめる私・・・。
今日やっと・・・今日初めて・・・唯先輩に対して素直な態度が取る事ができた。
せっかくのデート・・・こうやって、唯先輩に甘えたかったんだ。
さっきは言えなかったけれど・・・私も唯先輩からギュッとされると、温かな気持ちが体中を覆ってくれる。
とっても幸せな気持ちになれる・・・だからずっとこのまま・・・こうしていたかった。


「ありがとう、あずにゃん・・・」


唯先輩はゆっくりと私を引き離すと、涙でぐしゃぐしゃになっていた私にハンカチを差し出してくれた。
観覧車に乗ってから、何度流した涙なんだろう・・・。私はハンカチを受け取り、静かに涙を拭った。
そして滲んだ視線の先の時間を見ると、いよいよ爆発までの時間は1分を切ろうとしていた。
あと1分・・・その先にあるのは、生か死か―――――


―――――己ノ運命ヲ恨ムノダナ―――――


観覧車の外から見張っているであろう、死神の声が聞こえてくる。
その声を聞いた私は覚悟を決めて、目をゆっくりと閉じる。
思い浮かんでくるのは、唯先輩との楽しかった日々だ。


初めてネコミミを付けさせられた事も・・・。
初めて『あずにゃん』と呼ばれた事も・・・。
初めて夏合宿で2人きりでギターの練習をした事も・・・。
初めての学園祭で、唯先輩が遅れてきたけれど、結果的には大成功だった事も・・・。
初めて私が純の猫を預かった時、毛玉を吐く事を知らずに、ビックリして唯先輩に電話をしたら真っ先に駆けつけてくれた事も・・・。

トンちゃんと私と唯先輩の間に三角関係が生まれそうになった事も・・・。
ギー太と唯先輩と私の間に三角関係が部内で認められてしまった事も・・・。

唯先輩と『ゆいあず』のコンビを組んで、演芸大会に出た事も・・・。
夏休みに夏フェスに行った時、綺麗な星空の下で色々語り合った事も・・・。
夏祭りで唯先輩に手を引かれた時に、唯先輩の背中越しに見えた花火にキュンとなった事も・・・。
私の私物に色々と『なかのあずにゃん』と黒猫のシールを貼っては喜ばれていた事も・・・。

学園祭の前夜に積極的にアプローチされた事・・・そして夜遅くまで色々お話しした事も・・・。
3年生最後の学園祭で、張り切る貴女の横顔や後ろ姿をずっと見ていた事も・・・。


      • みんなみんな、昨日の事のように思えてくる。
楽しかった唯先輩との日々・・・。
これからも、ずっと未来に続いていくと思っていた私達の関係・・・。



もう・・・味わう事もできないのかな・・・。



閉じた目から、拭ったはずの涙が再び頬を辿って流れ落ちる。
幾度も流した涙・・・沢山泣いて、乾ききったと思ったのに・・・。

最後に、もう一度だけ唯先輩の顔が見たい・・・私はゆっくりと目を開け、唯先輩を見つめた。
そこに居た唯先輩は、私と目が合うと・・・穏やかに微笑んでくれた。
苦しいはずなのに・・・怖いはずなのに・・・最後まで私を落ち着かせようと、彼女らしい笑顔を見せてくれた。
あの時と・・・あの夢と同じ表情を・・・。


チッ チッ チッ チッ チッ・・・


「私もあずにゃんの事、世界で一番大好き・・・だからあずにゃんの気持ち、凄く嬉しかったよ!」
「はい・・・」
「残り1秒になったら、コードを切るね・・・。1秒でも長く、あずにゃんの事を見ていたいから・・・」
「・・・はい・・・」
「あずにゃん・・・本当にありがとう・・・あと15秒・・・最後に、あずにゃんに言っておくね・・・」


チッ・・・(14秒)


「・・・はい・・・」


チッ・・・(13秒)


「私達・・・」


チッ・・・(12秒)


「どんな事が・・・」


チッ・・・(11秒)


「あっても・・・」


チッ・・・(10秒)


「ずっと・・・」


チッ・・・


「一緒だよ・・・」


チッ・・・


「あずにゃん・・・」


チッ・・・


「・・・そこが・・・」


チッ・・・


「天国で・・・」


チッ・・・


「あっても・・・」


チッ・・・


「ずーっと・・・」


チッ・・・


「一緒だよ・・・」


チッ・・・


「あずにゃん・・・!」


チッ・・・










パチン・・・











―――

―――――

――――――――――










「う・・・う~ん・・・こ、ここは・・・」


私は・・・闇の中でうつ伏せの状態で倒れていた。一点の光も差し込まないような闇の中に・・・。
居るだけで息苦しくなってくる、この空間。先程までは観覧車に居たはずなのに・・・もしかしたら、ここは死後の世界なのだろうか。
何も無い・・・誰も居ない空間・・・だと思ったが、唯先輩が私に背を向けた状態で立っているのがわかった。
今どんな表情をしているのか・・・私の位置から見る事はできない。もしかすると、また死神が化けているのかもしれない・・・。
そんな不安が頭をよぎったが、すぐにこの人が本物の唯先輩だとわかった。


「何故ダ・・・」


聞こえてきたのは、あの死神の声だった。私は何とか起き上がり、立ち上がろうとした。
目の前に居る唯先輩が、死神と対峙しているのがチラッと見えたが、全身に力が入らず、思わずよろけそうになってしまった。
その様子を察知したのか、唯先輩は私に優しく声を掛けてくれた。


「大丈夫だよ、あずにゃん・・・そこに座ってて良いからね」
「す、すみません・・・」
「何故・・・オ前ハ・・・最後・・・青ノコードヲ切ッタンダ!?」
「えっ!?」


最後に残された爆弾のコードは青と赤の2種類だった。
唯先輩は私が話した『死神の弱点、嫌いな物は赤い物』という言葉を信じて、切るコードを決めたと言っていたのに・・・。
だから、唯先輩が切ったコードは赤だと思ってたのに、実際に切ったコードは青だった・・・!?


「あずにゃんから『死神の弱点、嫌いな物は赤い物』って聞いたから、青のコードを切ったんだよ」
「何故、赤ノコードヲ選バカナッタ・・・?」
「だって・・・人間の魂を奪おうとしている者が、自分の弱点を簡単に話すわけないでしょ?」
「あっ・・・」
「だから、死神はあえて嘘を言って、あずにゃんに赤いコードを切らせて・・・爆発させようとしたんじゃないかなって思ったんだ」


私の話を聞いて・・・短時間で、そんな事を考えていたなんて・・・私は唯先輩のとっさの分析力に驚いていた。
唯先輩に全てを話したからこそ、私達は助かったのだ。
もし、夢の事を唯先輩に言わずに1人で抱え込んでいたら・・・死神の言葉を鵜呑みにしていたら・・・そう思うとゾッとする。


「それに・・・私にはどうしても、赤いコードを切るっていう事ができなかったの・・・」
「ドウイウ事ダ」
「赤はあずにゃんのリボンの色・・・あずにゃんを傷つけるみたいで、どうしても切りたくなかった・・・」
「ゆ、唯先輩・・・」
「コノツインテールノ娘ノ魂ヲ奪オウトスルト、オ前ハ邪魔バカリスル。コノ娘ノ夢ノ中デモ・・・観覧車ノ中デモ・・・ソシテ今モ・・・」
「私の大切な人の命を・・・簡単に死神に差し出すなんて事はできない!!私は、あずにゃんをどんな怖い物からでも守るって決めたんだから!!」
「ナラバ・・・ヤハリ、オ前の魂モ一緒ニ奪ウマデダ!!」
「や、止めて!!」


死神は、その手に持った大きな鎌を振り上げた。そのまま振りかざされてしまえば、唯先輩の魂は・・・。
もう、あんなに辛くて怖い体験はしたくない・・・あの夢だけにしてほしい・・・。
私の目の前で、あの惨劇は繰り返してほしくない・・・。私はその一心で、唯先輩に向かって走り出そうとした。
しかし、まだ全身に力が入らなかった為、足がもつれて転んでしまった。
唯先輩は私を庇う為か、右腕を横にビシッと伸ばし、死神が私に近づく事を拒んでいる。
そして微動だにせずに、唯先輩は死神から視線を離していなかった。


「逃げて、唯先輩!!」


私は残っている僅かな力を振り絞って唯先輩に向けて叫んだ。
しかし、その言葉すら唯先輩に届かないのか・・・唯先輩はピクリとも動かない。
すると、死神は持っていた大きな鎌を・・・振りかざそうとした。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


もうダメだ―――――
私の中で全てが崩れてしまいそうになった時・・・死神が思いもよらない言葉を発した。


「・・・止メダ」
「・・・」
「オ前ノ目ハ、全ク恐怖ヲ感ジテイナイ・・・同様ニ、心モ全ク怯エテイナイ」
「・・・」
「ソノツインテールノ娘ヲ守ル・・・ソノ一心ダケミタイダナ」
「・・・」
「カツテ、多クノ人間ヲ見テキタガ、死神ト遭遇スレバ、皆ガ恐怖ニ打チヒシガラレテイタ・・・ソノツインテールノ娘ノヨウニ」
「私だって女の子だもん・・・全然怖くないって言ったら嘘になるけど・・・」
「ゆ、唯先輩・・・」
「でもね・・・守りたい人が居るって思ったら、人間は強くなれるんだよ!私はあずにゃんを守る為なら、どんな困難にも・・・どんな恐怖にも打ち勝ってみせるよ!!」
「唯先輩・・・///」
「ツマラン・・・恐怖ニ怯エル人間ノ魂ヲ奪ッテコソ、死神ニトッテハ至福ナノダ・・・オ前ノヨウナ奴ハ初メテダ・・・」
「例え、何度私達の前に現れたって、必ず私があずにゃんを守るんだから!!」
「フッ・・・ソンナ姿ヲ見セラレタラ、逆ニ気ガ滅入ル。オ前達ノ魂ヲ奪ウ事モ止メダ。モウ、オ前達ノ前ニ現レル事ハ無イダロウ・・・」


死神はそう言い残すとスッと消えていってしまった。
周りは闇が晴れる事はなく真っ暗なままだったが、死神が消えた途端、唯先輩は力尽きるように倒れてしまった。


「唯先輩!?大丈夫ですか!!」
「だ、大丈夫だよ、あずにゃん・・・」
「唯先輩・・・凄い汗じゃないですか!?」
「あずにゃんも・・・汗びっしょりだよ・・・?色々と・・・怖かったもんね」
「唯先輩のおかげで・・・私、助けてもらいました・・・本当に・・・ありがとうございます・・・」
「私達・・・本当に勝ったんだよ・・・私達の絆・・・負けなかった・・・よ・・・」
「・・・唯先輩?」
「・・・」ムニャムニャ
「もう・・・唯先輩ったら・・・」


恐怖に打ち勝った安堵からか・・・唯先輩は眠りに就いていた。
安心しきったその寝顔を見ていると・・・何だか私もホッとして・・・。
全身の力が抜け切って・・・唯先輩に寄り添うように私も眠りに就くのだった・・・。










――――――――――

―――――

―――






「梓・・・」
「梓ちゃん・・・」
「起きて、梓ぁ・・・」


誰・・・?私の名前を呼んでるのは・・・誰・・・?


「唯・・・」
「唯ちゃん・・・」
「目を開けてよ、唯ぃ・・・」


唯先輩を呼ぶ声も聞こえる・・・。温かい声・・・聞きたかった、皆の声・・・。
皆が居る・・・ここは・・・あの闇の世界じゃないのかな・・・。


「・・・」


ゆっくり目を開けると、そこには真っ白な天井が映えている。
窓から差し込む日射しが眩しかった。


「ここは・・・?」
「あ・・・梓・・・目を覚ました!!」
「梓ちゃん!?・・・良かったぁ!!」


まだ意識が朦朧としている中だったが、憂と純が私に飛びかかるかの勢いで抱きついてきた。


「昨日、梓ちゃんがお姉ちゃんと遊園地の観覧車から救出された後、ずっと病院で眠ってたんだよ」
「お医者さんは2人は凄く汗をかいてたし、脱水症状を起してるから少し安静にしましょうって言ってたけど、もしこのまま梓の意識が
 戻らなかったらどうしようって・・・このまま、唯先輩の惚気話が聞けなくなったらどうしようって・・・私、心配で・・・」
「純・・・何の心配してるのよ・・・でも、ありがとう純・・・。憂も・・・心配かけてゴメンね・・・」
「ううん・・・梓ちゃんの意識が戻って本当に良かったよ!!それに・・・」


憂が視線を私から隣のベッドに向けると、そこには律先輩とムギ先輩に私と同じように抱きつかれている唯先輩が居た。
唯先輩も・・・たった今、意識を取り戻したようだ。


「唯ぃ!!・・・本当に無事で良かったぁ!!」
「り、りっちゃん・・・苦しいよぉ・・・」
「こら、律!!唯は安静にしなきゃいけないんだから、そんなに激しく唯を揺さぶるな!!」
「痛っ!!・・・澪がぶったぁ!!」
「まぁまぁまぁまぁまぁまあ・・・ここ、病院内だし、静かに・・・ね?」
「そ、そうだな・・・」


私と唯先輩は、暗くて気付かなかったが、観覧車の中でかなりの汗をかいていたらしい。
1時間30分もの間、爆弾の解体に携わっていたわけで・・・相当のストレスとプレッシャーを感じていたからだろうとの事だった。
そして最後の青いコードを切った瞬間、2人とも緊張の糸が切れて、意識を失って倒れてしまったようだ。
救急隊が私達を見つけた時、爆弾の近くで寄り添うように倒れていた事による、推測ではあるけれど・・・。
とりあえず、私達が入院していたのは脱水症状で意識が無かった事が理由で、他には怪我等はしていなかった。

爆弾を置いた犯人も、昨晩のうちにムギちゃんの通報によって無事に捕まったようだ。
こういう運命になったのは死神のせいだ・・・なんて言っても、きっと誰も信じないだろうな。
だからこの事件の真相は、私と唯先輩の2人だけの秘密という事にしておこう。


「それにしても・・・あの爆弾の設計図に書かれていないコードがあったなんて・・・唯ちゃんは何で最後、青いコードを切ったの?」


さっきの・・・夢の中では、赤は私のリボンの色と同じだから・・・なんて言ってくれた唯先輩。
実際の所もそうなのかな・・・?私は、その唯先輩の答えを期待していた。


「これ、だよぉ♪」


そう言うと、唯先輩は小指を立ててみせた。
      • しかし、それが何を意味するのか・・・ここに居る皆にはわからなかった。


「小指・・・?」
「どういう意味があるんだぁ、唯?」
「えへへ・・・私とあずにゃんだけの秘密♪」


唯先輩は、不思議そうに聞いてきた澪先輩と律先輩に笑顔で答えてみせた。
私と唯先輩だけの秘密・・・って言われても、私もわからないんだけどな・・・。


「りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん・・・ヒントは、あずにゃんは私の嫁!だよ♪」
「それ・・・昨日の朝の主張じゃないか・・・」
「ヒント・・・なのか、それ?」
「何だかよくわからないけど、異論は無いわ!!」










ちなみに、その答えがわかるのは3年後の事だった―――――










「ふふっ、ここに来ると思い出しますね」
「そうだねぇ・・・もう3年経つんだね、あの日から」


今日も、この遊園地には沢山の子ども達や家族連れ、カップルが訪れている。
あの日と同じように・・・訪れている人達は、皆楽しそうな表情を見せている。
3年前と何も変わらない光景がここにはある。

唯先輩が酔ったジェットコースターも・・・。
私達が初めてお弁当を食べさせあった広場も・・・。
2人で絶叫したお化け屋敷も・・・。
      • 勿論、命を懸けて闘ったステージ・・・大観覧車も健在だ。


「今日は思い出の日・・・そしてここが思い出の場所・・・」


私達はあの事件以来、毎年同じ日にこの遊園地へデートに来ている。
祝日では無いので、平日の場合は、大学はサボ・・・コホン、憂や純に後ほどノートを取らせてもらう事になっているけれど。
最初、あの事件を思い出すとトラウマになるのではないか、と周りからは心配された。
しかし、私達は爆弾事件の事は決して忘れる事は無いが、それもまた一つの思い出という認識で、恐怖心を引きずる事もなかった。
あの日以来、死神も夢には出てこなくなり、私達は何事も無かったかのように平穏な暮らしを送っている。


「ねぇ、あずにゃん。あの日、あずにゃんに伝えたかった事・・・もう1度言っても良い?」


徐々に高度が上がっていく観覧車の中で、唯先輩は私の顔を見つめながら言った。
そういえば、3年前は色々な感情が入った状態で、どうしても唯先輩に伝えておきたい・・・そんな想いで私の気持ちを伝えた。
唯先輩は受け入れてくれたけれど、とても告白ムードという状況ではなく、自分の意思をごり押しするような言い方にしかできなかった。
その後もここでデートをしても、その時の事件について振り返ってみたり、他愛の無い話をしてばかりで、お互いの気持ちを確かめる事もなかった。
私達の絆は固い・・・だから、今更確認する事も無いだろう・・・そう思っていたのかもしれない。

でも・・・今、もし貴女達の関係はどういう関係ですかと問われたら・・・自信を持って言えるのだろうか。


私達、恋人同士ですって―――――


何だか、曖昧な関係になっていると思うとスッキリしない。相手の事を大切に思っているなら、尚更・・・。
だから、もう一度貴女の気持ちを聞きたくて・・・私達の関係を確かめたくて・・・返事をしたんだ。


「はいっ・・・」


私達は向き合う形で見つめ合っている。
相手の気持ちをわかっているとは言え、改めて相手に伝えるとなると、どうも緊張してしまう。
ドックンドックンと鳴り響く私の鼓動・・・。私の鼓動は貴女に聞こえてますか?
5年前、貴女と出会った高校1年生の時から・・・貴女の事を考えるだけで、こうやって私はドキドキしてきた。
貴女の事が好きでいられるからドキドキしている・・・そんな感情を持てる事が嬉しかった。
正直になれなかった3年前の冬・・・。なかなか態度に出す事も、口にする事もできなかった、貴女への想い・・・。
今ではしっかり、態度に出しているつもりだけど・・・ちゃんと届いてますか?
言葉にすると、何だか照れくさいけれど・・・また聞かせてほしいな、唯先輩の本音を・・・。


「あずにゃん・・・私ね・・・あずにゃんの事が世界で一番大好きです・・・だから、これからもずっと・・・私の傍に居てください」


唯先輩が言葉にしてくれたら・・・きっと私も、しっかり言葉で返せると思うから・・・。


「私も、唯先輩の事が世界で一番大好きです。・・・ずっと私の目の届く範囲に居てください」


暫く続く沈黙の時・・・しかし、2人の笑い声がその静かな空気を打ち破った。
真剣な想いを伝えた場だったけれど、今更何言ってるんだろうと言わんばかりに2人で笑い合っている。
だけど、3年越しの告白・・・私達の気持ちにわずかにかかっていた霧も、これでスッキリ晴れた事だろう。


「そういえば、あずにゃん・・・あの爆弾事件の時、何で私が青いコードを切ったか知ってる?」
「えっ・・・?死神の言葉の裏を読んだ事と、私の制服のリボンの色が赤だったからなんじゃないですか?」
「それも・・・そうなんだけどさっ・・・」


すると、唯先輩は笑顔で私に小指を立ててみせた。
この仕草・・・どこかで見たような気がすると思ったら、あの病院でのやりとりと同じだ。
あの時は澪先輩、律先輩、ムギ先輩・・・私もどういう事なのかわからなかった。
どういう意味なのか・・・それを説明しようとする唯先輩の頬がだんだん赤くなっていく。

そして、ゆっくりと口を開く唯先輩。

唯先輩は・・・いくつになっても変わらない・・・恋する純粋な女の子だった。
満面の笑みでその真意を聞いた時・・・私はまた唯先輩の事を好きになった。
きっと、唯先輩以上に顔が赤くなっているんじゃないかなと思う。
でも赤い色は、2人を幸せにしてくれる色・・・そういう事ですよね、唯先輩―――――





「赤いコードはどうしても切れなかったんだよね・・・私とあずにゃんを結んでいる・・・運命の赤い糸と同じ色だから♪」



END

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最終更新:2011年07月21日 20:12