小悪魔×ゆっくり系1 素敵な史書さん2

 茶色い地面を黒く耕す。
 今年から開墾した土地の土作りを粗方片付けた男は、疲れた体に鞭打って自宅への道を急いだ。
 出来上がれば去年の倍の野菜が取れる、そうすれば趣味に使えるお金も増える。
 固い土が付いている所為で、錆付いて見える鍬を小屋にしまい、親から譲り受けた屋敷の玄関をくぐる。
ゆっくりーーー!!!」
「ゆっゆ♪」
 自分の家の中から聞こえてくる鳴き声。
 ヤラレタ!!
 その声が聞こえた事で、男は家の中にゆっくりが忍び込んだことを理解した。
 同時に、きちんと本が取れるかどうか、心配になった。
「ゆ!! おじさんおかえりなさい!!!」
 幸か不幸か、家に忍び込んでいたのはゆっくりアリスと。
「むっきゅ~!! ぱちゅりーはしずかなおうちでほんをよむの!!!」
 ゆっくりパチュリーであった。
 男の顔にわずかだが安堵の色が見える。
 ゆっくりアリスはとかいはのゆっくりだと聞いている。
 対するゆっくりパチュリーも、馬鹿に馬鹿をかけて無限倍したほど馬鹿なゆっくりの中で、比較的頭が良いと聞いている。
「今日は。悪いけどここはおじさんのお家なんだ。君達にご飯をあげることは出来ないから、ゆっくり帰ってくれないかな?」
 努めて、努めて冷静に男はゆっくり達に問いかけた。
 幸い、部屋はまだ荒らされていない。
 この分ならコイツラを追い返すだけで良い。
 あまり食べ物を殺す事は好きではないこの男は、加工場へは連れて行かずこのまま帰ってもらう選択をした。
 しかし、この場合のゆっくり達の行動は、知性のあるモノでは理解できない事がある。
「むっきゅーーー!!! ここはぱちゅりーのおへやなの!!!! たくさんごほんがあるし!!! しずかだからどくしょするにはちょうどいいの!!!!」
「はぁ?」
「ぱちゅりーがそういうんだったらしょうがないね!! おじさん!! ぱちゅりーはからだがよわいの!! だから、ゆっくりどくしょさせてあげてね!!」
 開いた口が塞がらない。
 ここはこの男の家である。
 それを勝手に荒らしているのはこの二匹だ。
 幾ら温厚と言われているこの男でも、流石に限界のようだ。
「おいお前達、そんなに本が読みたいなら良いところがあるぞ!!」
「むきゅ? どこ? どこにあるの?」
「としょかんだよ」
「ゆ? おじさん!! としょかんってなに? とかいはのありすにもわかるようにせつめいしてね!!!」
「おかしいな、都会には沢山図書館があったと思ったんだけど、君知らないの?」
 あくまでも聞き返すように男はゆっくりアリスに話しかける。
「ゆ!!! ……しってるよ!! ぱちゅりーーとしょかんはゆっくりほんがよめるんだよ!!」
「むきゅ? ほんとう?」
「ああ、アリスの言うとおりだよ!!」
「むっきゅ!! いきたい!! としょかんいきたい!!!」
 頬を真っ赤にしながら興奮するパチュリー。
 その様子は、このままほおっておけば直ぐに死ぬんじゃないかと思えるほどだ。
「わかったよ!! 明日案内してあげるよ」
「むっきゅーーー!!! はやくあんないしてね!! あさいちばんであんないしてね!!」
「しっかりありすたちをえすこーとしてね!!!」
 じゃあ早く寝ろ。
 男が一声かけると、急いでテーブルの下にもぐりこみ寝息を立て始めた。
 それを見て、男は遅い夕飯をとる事が出来た。
 翌日。
「むっきゅーーー!! はやくおきてね!!! はやくあんないしてね!!!」
 日も明けきっていないうちにパチュリーの騒音で目を覚ました男は、チャッチャと朝食を済ませ約束どおり二匹を図書館まで案内する事にした。
 とは言っても実際は紋が見える場所まで。
「良いかい? 合図したらあそこまでいって本を読ませて下さいっていうんだよ?」
「わたったよ!! あぽいんとをとるんっだね!!」
「むっきゅーー♪ ごほん♪ ごほん♪」
 喚く饅頭は放っておき、再度門へと目を向ける。
 暫く待つと、門の近くに一人の女性が姿を現した。
「ほら! いまだよ!! ゆっくりしてきてね!!」
 合図が出た。
 二匹は勢いよく門へと駆け出して行く。
「さて、朝食の餡子でも取って帰るか」

 ――

 一方、小悪魔は驚いていた。
 朝、優雅に今日一日パチュリーに出す悪戯を考えていたら、ゆっくりが声をかけてきたからだ。
「こんにちは!! とかいはのありすをとしょかんにいれてね!!」
「むっきゅーー!! はやくほんをよませてね!!!」
 突然こんな事を言い出す二匹のゆっくり。
 しかも、何故か図書館の事を知っていた。
「いいですよ!! あんないしますね♪」
 色々と引っかかる事はあったが、今日の小悪魔は機嫌が良いのですんなりと中へ入れてやることにした。
「ねぇ小悪魔、れみりゃ様達を見なかった? 昨日から全然居ないのよ」
 途中で、目の下に隈を作った咲夜が小悪魔にれみりゃの事を尋ねてきた。
 大方徹夜で探して居たのだろう、昨日は珍しくレミリアが長時間図書室に居座っていたから。
「いえ? 存じ上げませんねー♪ またお散歩じゃないんですか?」
「今までは一匹くらい残っていたんだけどねぇ。……それ、どうするの?」
 床に居た二匹のゆっくりを指差して尋ねる、既に彼女の頭の中ではれみりゃは散歩中ということになっているらしい。
「ゆゆ!! おねーさんひとにゆびさしちゃいけないんだよ!! そんなのいなかもののすることなんだよ!!!」
「むっきゅーー!! きょーよーのないひとはゆっくりできないよ!!!」
「私今お料理にはまってるんですよ♪」
「そう。そういえば昨日作ってくれたギョーザも美味しかったわ。それも、後で食べさせてね」
 二匹に一瞥をくれた後、気品を漂わせながら奥へと消えて行った。
「は~い任せてください♪ それじゃあこっちにきてくださいね、今図書館へ案内しますよ!!」
「「はやくあんないしてね!!!」」
 ゆっくりは切り替えが早い、既に先ほど何故怒っていたかは綺麗サッパリ忘れてしまったようだ。
 長い長い廊下を歩いて行く間中、二匹はしきりに本、本と連呼していた。
 それこそ、れみりゃがプリンと喚くように。
「着きました。ここが図書館ですよ」
 大きな扉を開けた中には見渡す限りの本の壁。
 圧倒的な本を目の前にした二匹は、ゆっくりの癖に押し黙る。
「むきゅ~!!」
 最初に言葉をあげたのはゆっくりパチュリーだった。
 いまだアリスが黙っている中、勇んで本棚に近づこうとしている。
「♪ むっきゅ!! きゅきゅ!!」
 本まであと少し、という所で見えない壁にはじき前された。
 突然の事に、その場で呆然と本棚を眺めるゆっくりパチュリー。
 目を白黒させながら、口をパクパクさせている。
「あらあら。済みません、言うのを忘れてましたけど。この図書館の本は手続きを踏んだ人しか利用できないんですよ」
「!! わかったかんいんせいだね!! ありすたちはびっぷなかんいんだね!!!」
「むきゅ? だったらはやくてつづきしてね!! ぱちゅりーははやくごほんがよみたいの!!!」
 漸く我に返った二匹が、小悪魔に擦り寄る。
 しかし、小悪魔は本を見せる気はさらさら無い。
 大事な本に涎でもつけられたら大変だからだ。
「そうですね。すぐにおわりますよ。こちらにきてください」
 図書館を通り過ぎ、奥にある給湯室へ連れてゆく。
「取り合えず、こちらでシュークリームをお出ししますから、少し待っていてください」
 一礼して、奥にある材料を確認してゆく小悪魔。
「ゆゆ!! ありすもてつだうよ!!! とかいはのありすはしゅっくりーむだってかんたんにつくれるよ!!!」
 どうしても、自分を立てないと気がすまない性格なのだろう。
 煩わしいほどの大声でシュークリーム作りに参加させろと喚き散らすゆっくりアリス。
「ええ。無論、そのつもりでしたよそれじゃあこちらでお手伝いしていただけますか?」
「かんたんだよ!! おねーさんもびっくりしてきぜつしないでね!!」
 足元まで走ってゆき、角砂糖と唐辛子を持ち出して床にぶちまける。
「ゆゆ!! ざいりょうはありすがだしてあげたよ!! はやくきじをかきまぜてね!!!」
「はいはい。それじゃあ、待っている間はそちらにいらして下さい」
「ゆ♪」
 促されるまま、キッチンの高い台の上、その上にある木製の台の上に載せられる。
「それじゃあこれから作っていくので、そこでじっとしていてくださいね?」
「ゆ♪」
「それでは、えい♪」
「ゆ!! ゆゆゆ!!!!!」
 マニュアルどおりに、頭の上を切断する。
「なにずるの!!!! ありずのしっぐであれがんどなかみがざりがーーーー!!!!!!」
 そこからスプーンで中身を掻き出す。
「ゆゆ!! やめてよ!! とかいはのありすにこんなことするなんておねーさんはいなかものだね!!!」
「そんなことないですよ? ……地下ってモノが走れましたっけ?」
「ゆゆゆ!!! ばっかだねおねーさんは!! じめんのなかをはしれるわけないじゃん!!」
「いいえ。都会では走ってますよ」
 同時に、掻き出す勢いを強くする。
「ゆ!! いだい!! ぞんな!!! ありずはいながものなのーー??? いだい!!! やめでーーー!!!」
「はいはい。田舎モノですから大人しく食べられてくださいねー♪」
「いやだーーー!!! まだまりさどのあいのごをつぐってないもんーーーーー!!!!」
「そんなにゆっくり魔理沙さんとの子供が欲しいですか?」
「!! うん、まりさもれいむも、ありすのこといっぱいあいしてるんだよ!!!」
「この前嫌いだって言ってましたよ」
「!!! ゆっぐりーーーーーー!!!!!!!」
 ボールが満杯になったところで、丁度アリスの中身もなくなったようだ。
 辺りには、カスタードの良い匂いが立ち込めている。
「むっきゅ!! むっきゅ!!!」
 女性なら、至宝の空間のはずだが、一匹だけ取り残されたパチュリーにとっては地獄でしかない。
「むきゅーーー!!! ぱちゅりーはかえるよ!!! さっさとげんかんをあけておくりだしてね!!!」
 長年アリスと一緒に生活していたからであろうか。
 元々、毒の有るその口調により一層磨きが掛かっている。
「そんな事言わずに、これから鶯パンを作るんですよ。良かったらご一緒に作りませんか?」
 既にまな板の上に上げておいて疑問形で聞くのは甚だおかしいことではあるが、今のパチュリーにそんな事を気にしている余裕はない。
「むっきゅーーー!! げほっ!! げほっ!! かえる!! おうじがえるーーーー!!!!」
「だめですよ~。おそとはサンサンと太陽が輝いてますから、直ぐに熱射病にかかって死んでしまいますよ」
「むっきゅーーー!!! しぬのはいやーーー!!! ゆっぐりしだいーーーー!!!」
「じゃあ、ここで一緒に鶯パンを作りましょう♪」
「むっきゅーーー!!! つぐるーー!! ゆっぐりつぐるーーー!!!!」
 先ほど、ここで親友がどうなったのか既に忘れてしまったらしい、やはりゆっくりはゆっくりだ。
 それともずっと隠れて過ごしていたからか、こういう場合に対する知識が欠如しているのかもしれない。
「はい。それではいきますよ!」
「むっきゅーー!! はやくつくって、かよわいぱちゅりーにたべさせてね!!!」
 今度はマニュアルどおりに切ったりはしない。
「ゆぐ!!! めがーーー!!! ぱちゅりーのおめめがーーーー!!!!!!」
 片目を潰し、そこから穿り出す。
「むぎゅーーー!! めがーーー!! めがーーー!!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
 残っている片方の目からは、自分に突きつけられているスプーンがよく見えていることだろう。
「あんまり動かないでくださいね。ここからだとなかなか掻き出し辛いんですよ」
「あっぎゃーーー!!! むきゅむきゅむっぎゅーーーん!!!!!」
 どうやら最深部まで到達したようで、今までとは比べ物にならない絶叫をあげ、体を痙攣させて泣き喚くゆっくりパチュリー。
「あぎゃ!! むぎゅ!! ゆっぐりざぜでーー!!! あああああ!!!!! …………」
 体が弱いせいか、体の餡が完全になくなる前に絶命したようだ。
「あ~あ。もう終わりですか。やっぱりれみりゃさまの方が面白いですね……」
「……貴方は私に何か恨みでもあるのかしら?」
「!!!」
 小悪魔の後ろでは、正真正銘のパチュリーが、なにやら呪文を唱えながらにこやかに微笑んでいた。 

 尚、完成したシュークリームと鶯パンは咲夜に渡し。
 紅魔館には新たなれみりゃが住み着いたという。


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最終更新:2011年07月27日 23:37
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