茶色い地面を黒く耕す。
今年から開墾した土地の土作りを粗方片付けた男は、疲れた体に鞭打って自宅への道を急いだ。
出来上がれば去年の倍の野菜が取れる、そうすれば趣味に使えるお金も増える。
固い土が付いている所為で、錆付いて見える鍬を小屋にしまい、親から譲り受けた屋敷の玄関をくぐる。
「
ゆっくりーーー!!!」
「ゆっゆ♪」
自分の家の中から聞こえてくる鳴き声。
ヤラレタ!!
その声が聞こえた事で、男は家の中にゆっくりが忍び込んだことを理解した。
同時に、きちんと本が取れるかどうか、心配になった。
「ゆ!! おじさんおかえりなさい!!!」
幸か不幸か、家に忍び込んでいたのはゆっくりアリスと。
「むっきゅ~!! ぱちゅりーはしずかなおうちでほんをよむの!!!」
ゆっくりパチュリーであった。
男の顔にわずかだが安堵の色が見える。
ゆっくりアリスはとかいはのゆっくりだと聞いている。
対するゆっくりパチュリーも、馬鹿に馬鹿をかけて無限倍したほど馬鹿なゆっくりの中で、比較的頭が良いと聞いている。
「今日は。悪いけどここはおじさんのお家なんだ。君達にご飯をあげることは出来ないから、ゆっくり帰ってくれないかな?」
努めて、努めて冷静に男はゆっくり達に問いかけた。
幸い、部屋はまだ荒らされていない。
この分ならコイツラを追い返すだけで良い。
あまり食べ物を殺す事は好きではないこの男は、加工場へは連れて行かずこのまま帰ってもらう選択をした。
しかし、この場合のゆっくり達の行動は、知性のあるモノでは理解できない事がある。
「むっきゅーーー!!! ここはぱちゅりーのおへやなの!!!! たくさんごほんがあるし!!! しずかだからどくしょするにはちょうどいいの!!!!」
「はぁ?」
「ぱちゅりーがそういうんだったらしょうがないね!! おじさん!! ぱちゅりーはからだがよわいの!! だから、ゆっくりどくしょさせてあげてね!!」
開いた口が塞がらない。
ここはこの男の家である。
それを勝手に荒らしているのはこの二匹だ。
幾ら温厚と言われているこの男でも、流石に限界のようだ。
「おいお前達、そんなに本が読みたいなら良いところがあるぞ!!」
「むきゅ? どこ? どこにあるの?」
「としょかんだよ」
「ゆ? おじさん!! としょかんってなに? とかいはのありすにもわかるようにせつめいしてね!!!」
「おかしいな、都会には沢山図書館があったと思ったんだけど、君知らないの?」
あくまでも聞き返すように男はゆっくりアリスに話しかける。
「ゆ!!! ……しってるよ!! ぱちゅりーーとしょかんはゆっくりほんがよめるんだよ!!」
「むきゅ? ほんとう?」
「ああ、アリスの言うとおりだよ!!」
「むっきゅ!! いきたい!! としょかんいきたい!!!」
頬を真っ赤にしながら興奮するパチュリー。
その様子は、このままほおっておけば直ぐに死ぬんじゃないかと思えるほどだ。
「わかったよ!! 明日案内してあげるよ」
「むっきゅーーー!!! はやくあんないしてね!! あさいちばんであんないしてね!!」
「しっかりありすたちをえすこーとしてね!!!」
じゃあ早く寝ろ。
男が一声かけると、急いでテーブルの下にもぐりこみ寝息を立て始めた。
それを見て、男は遅い夕飯をとる事が出来た。
翌日。
「むっきゅーーー!! はやくおきてね!!! はやくあんないしてね!!!」
日も明けきっていないうちにパチュリーの騒音で目を覚ました男は、チャッチャと朝食を済ませ約束どおり二匹を図書館まで案内する事にした。
とは言っても実際は紋が見える場所まで。
「良いかい? 合図したらあそこまでいって本を読ませて下さいっていうんだよ?」
「わたったよ!! あぽいんとをとるんっだね!!」
「むっきゅーー♪ ごほん♪ ごほん♪」
喚く饅頭は放っておき、再度門へと目を向ける。
暫く待つと、門の近くに一人の女性が姿を現した。
「ほら! いまだよ!! ゆっくりしてきてね!!」
合図が出た。
二匹は勢いよく門へと駆け出して行く。
「さて、朝食の餡子でも取って帰るか」