美鈴は巣穴から離れ、先ほど捕らえた母子まりさ三匹の処分に取りかかる。
「っと、結構時間食っちゃったけど、あの二匹は逃げてないわよね」
それは杞憂であった。
ちゃんと温和しく、ありすとぱちゅりーは待っていた。
二匹の目の前に置いた失神しているまりさ母子を、これまでの恨みで攻撃したりもせず、
未だ気絶したまま転がっているれみりゃヘッドを食べるでもなく、温和しくしていた。
どのように温和しいかと言うと──
「ぱちゅりー……あのときは、なにもできずごめんね……うっ、ぐずっ……うぅっ」
「むきゅぅ~ん、ありす……いいのよ、もうすぎたことは……」
またも二匹だけの世界を構築し、ゆっくり語りあっているだけで、他には特に何もして
いない。
普通ならば、隙ありと見て逃げ出すか、または復讐心や食欲に身を任せるであろうから、
やはりこの二匹は普通のゆっくりと比べると、色々とおかしい。
「……変なゆっくりたちね」
変なゆっくりだと思ったからこそ、まだそれほど痛めつけたりもせず生かしているのだ
が。
「さて……あんたたち、お喋りもいいけど注目よ!」
二匹の目の前に立って、美鈴は言った。
「ゆっ?」
「むきゅ?」
言われた通り会話をやめて、美鈴に視線を向ける。
「これが終わったら、さっき言った通りお願い聞いてあげるから、しっかりと見届けるの
よ! わかったわね?」
まりさ母子の頭から帽子を取り、モデルになった白黒の魔法使いと同じように長くのび
た金色の髪の毛を使って、近くの立木の枝に多少の間隔を空けて吊り下げる。
母まりさと二匹の子まりさは三匹とも、まるで奇妙な果実のように吊された。
「こ……これから、なにするのよ?」
「むきゅ! まりさをつるして、どうするの?」
美鈴が何をしようとしているのか、ありすとゆっちゅりーには見当がつかない。
「いいから、見てなさいよ。あんたたち、こいつらに恨みがあるんでしょ? きっと楽し
い気分になれるわよ」
言いながら、失神したまま吊された三匹に気付けをして、目を覚まさせる。
「……ゆっ! ぎっぎぎっ……い、いたいぜ! どうなってるんだぜ?」
「……ぅゆっ! ゆゆゆゆゆゆっ!? なにこれ? かみのけひっぱられてる!」
「……っゆぐっ! ゆぅ~っ……あっ! まりさのぼうしがぁ~っ!」
目覚めた途端に騒々しい。
髪の毛で吊しているため、自然と髪は上に引っ張っり続けられるため、不自然に目のつ
り上がった顔がかなり滑稽である。
「ゆっくり休めたかしら?」
だいたい美鈴の胸の高さぐらいに吊り下げた三匹の顔を見て、にっこりと微笑んだ。
「ゆっ! お、おねえさんっ! どういうことなんだぜ? おろしてほしいんだぜ!」
「やすめないよっ! こんなんじゃ、ゆっくりできないよぉ~っ!」
「まりさのぼうしっ! かえして! かえしてよぅ、おねえさぁんっ!」
三人揃って一斉に違う事を喋るので、とても聞き取りづらい。
「本当に、あんたらはうるさいわね。黙んなさいよ」
黙れと言って、こいつらが黙るとも思えないが、一応言うだけ言ってみた。
「ゆっ! ひどいんだぜ、おねえさん! まりさたちをゆっくりおろしてほしいんだぜ!」
「やめてよ、おねえさん! ひどいことしないでよ! まりさたちなにもわるいことして
ないよ!」
「ゆっ! そうだよ! おねえさんは、そのありすとぱちゅりーにだまされてるんだよ!」
言うだけ無駄だった。
美鈴は一方的に喋って、とっとと処分に取りかかる事にする。
「あんたたちは、このありすとゆっちゅりーを虐待していたらしいから、罰を受けるのよ。
罰の内容は……凌遅三〇〇〇刀、滅九族!」
青竜刀を突きつけて、怒鳴るように言い放った。
「り、りょうちさんぜんとう? なんだかわからなんだぜ? ゆっくりせつめいしてほし
いんだぜ!」
「ゆっ! ぎゃくたい? よくわからないけど、そんなことしてないよぅ~!」
「ばつなんかうけたくないよっ! わるいのはありすとぱちゅりーだよ!」
ゆっくりたちが、もちろん凌遅刑がどういう刑罰なのか、知っているわけもなかった。
「むきゅ! りょうち! な、なんてことなの……」
「し、しってるの? ぱちゅりー」
見届ける事を命じられ、観客となった二匹が声を上げる。
「え? 知ってるんだ……ゆっくりのくせに」
ひょっとしたらゆっちゅりーは、紅魔館の近くに良く居るバカで有名な氷精よりも、頭
が良いのかも知れないと美鈴は思った。
「むきゅぅっ! そ、そんなのみなきゃいけないのぉ~っ! むきゅぅぅぅぅっ!」
本当に知っているのか、これから目の前で展開される惨劇を思い描き、ゆっちゅりーは
恐怖に打ち震えた。
「だ、だめよ! ぱちゅりー、きをしっかりもって! みなきゃいけないのよっ!」
失神しそうなゆっちゅりーを、ありすが懸命に励ます。
見届けなさい、と言われた以上、失神したらいけないと考えたのである。何故こんなに
ゆっちゅりーが怖がるのかは、わからないが。
気分を出すため、美鈴はポケットから爆竹を取り出し、三回それを弾けさせた。
「いくわよ!」
まず子まりさのうち一匹を血祭りに上げる。
こう言う用途には全く向いていない青竜刀を器用に使い、美鈴は子まりさの皮を餡子が
露出しない程度の深さまで切り入れて、1センチほど切り剥いだ。
「ゆ゛ぎぃぃぃぃっ! い゛だい゛ぃぃぃぃぃっ!」
ゆっくりの皮は、人間の皮膚の表皮にあたる薄皮と、それに密着している皮本体で構成
されている。
薄皮は柔らかいが多少は強靱に出来ており、熱や痛みへの耐性も人間の表皮とほぼ同じ
程度──要するに材質が違うだけで、人間の表皮と変わらない物であった。
それに対して薄皮に密着している皮本体は、人間で言うならば真皮であり皮下組織でも
ある筋肉と言うべき存在であった。
また、餡子は内臓であり骨であり筋肉でもあり脂肪でもあり、血液でもあると言う存在
である。
つまり、餡子が露出しない程度に皮を切り剥ぐと言う行為は、人体に喩えると「内臓や
骨に達しない程度に皮と肉を切り剥ぐ」と言う事である。
「まず一刀!」
斬って剥ぎ取った皮を足下に落とす。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ! お゛ね゛え゛ざん゛っっ! ま゛り゛ざの゛ごども゛に゛、
な゛に゛ずる゛ん゛だぜぇぇぇぇぇぇっ!」
絶叫する母まりさ。
単なる便利な性欲処理相手ぐらいにしか思っていない母れいむが痛めつけられた時と違
い、餡子をわけた自分の子への虐待には敏感に反応した。
「ま゛り゛ざぁぁぁぁ! お゛ね゛え゛ざん゛っっ! や゛べでぇぇぇぇぇぇっ!」
もう一匹の子まりさも悲痛な叫びを上げる。
母体は違うが姉妹である子れいむの生死や苦しみには無関心だが、同じ餡子が詰まった
姉妹が痛めつけられるのは悲しいようだ。
「三〇〇〇回やったらやめるわよ」
母まりさと姉妹まりさの必死の制止に対して、何ら心を動かされた様子も見せずに言い
放ち、二刀目を子まりさの身に刻む。
「ゆ゛っぎゃぁぁぁぁ! い゛ぎっ、い゛だい゛ぃぃぃぃぃっ!」
皮と肉を切り剥がされているのだから、その痛みがどれほどのものかは想像せずとも、
明らかであろう。
「はい、二刀。あ、そうそう……この子の次は、あんたらよ」
さらり、と言ってから美鈴は三刀目を入れる。
「なっ……なななななっ……あっ、あぁっ、あっ……」
「むきゅ、きゅ……きゅきゅきゅきゅぅっ……」
中身の素材は違っても、基本的な身体構造は一緒であるため、ありすとゆっちゅりーに
は、子まりさが与えられている痛みがどんな物か良くわかる。
「こっ、ここここ……こん、なの……みとどけないと、いけないの……」
憎み恨んでいる相手だとは言え、同じゆっくりが切り刻まれるのを見続けるのは、精神
的に強い負担がかかる。
「むっ、むきゅきゅ……そ、そうよ、ありす……こ、これがさんぜんかいつづくのよ……」
三千という数字がどれほどの数なのか、ありすには良くわからなかったが、ともかくす
ごく多い数だと言う事だけは何となくわかった。
一〇刀目を入れた時点で、子まりさは痛みと恐怖に耐えかねて気を失った。
「ほら、どうしたの? まだたったの一〇刀しか入れてないわよ?」
美鈴は呆れたように言うと、気付けを行い強制的に目覚めさせる。
「はい、一一刀!」
「ゆ゛っぎゅぎぃぎゃぁぁぁぁ! だずげでよ゛ぉぉぉぉ! お゛があ゛ざあ゛ぁぁん゛!」
あまり身体が大きくないため、もうこの時点で子まりさの表面は、切り剥がされた凸凹
が遠目にもわかるぐらい、はっきりと付いている。
このまま続けると、やがて凸凹が目立たなくなるであろう。
「ま゛り゛ざの゛ごども゛があ゛あ゛ぁぁぁぁ! び、びどい゛ん゛だぜぇぇぇぇぇぇ!
や゛め゛でぐれ゛だだだだぜぇぇぇぇぇぇっ!」
我が子の苦しみを、ただ嘆き叫んで傍観するだけだった母れいむと違い、母まりさは吊
られたままの身体で、美鈴に体当たりをしようとさっきから試みているが届かない。
いくら髪が長いとは言え、吊せる長さにも限度があり、強度的な問題もあるため、美鈴
は頭皮からせいぜい15センチほどの位置で吊り下げたのである。
届くはずもないのだが、それでも母まりさは懸命に何度も身体を揺らし、髪の毛を引っ
張られる痛みに耐えながら体当たりを試みる。
──その努力が、報われる可能性は皆無であった。
気絶する度に、気付けを行って目を覚まさせ、ひたすらに美鈴は子まりさの皮を切り剥
ぎ続けた。
「これで、一二〇刀!」
頭髪の生えている部分は切り削いでいないため、一二〇刀目にして、子まりさの露出し
ている表皮はほぼ全て切り剥がれた。
つるりと滑らかな薄皮を皮本体ごと失い、でこぼこざらざらした肌となり、薄く中の餡
子を透けて見させている。
「ゆ゛ぎゅっ……ぎゅぎゅぎゅぎゅ……!」
喉が涸れ、体力も相当に消耗しているため、子まりさの上げる悲鳴も、かなり小さなも
のとなって来ている。
「ふぅ、細かい作業は神経使うわね……」
感覚的にはジャガイモの皮むきと似た作業であるが、小さく少しずつ皮を切り剥がすと
言うところが大きく違う。
美鈴の腕前ならば、細かく切り剥がすような事はせず、大根のかつらむきのように切ら
ずに繋げて全部ぺろんと剥くのも朝飯前だが、それでは凌遅刑にはならない。
「んー、ちょっと三〇〇〇刀は多すぎたかしら」
細かい作業とは言っても、さくさく手際良く行っているため、そんなに長い時間を掛け
たわけではないが、さすがに三〇〇〇回も繰り返すのは面倒に思えてきた。
「剥き終わりで、キリもいいから少し休もう」
美鈴は、ここでちょっと一息入れる事にした。
「ゆ゛っ、ゆぐっ! ゆ゛ぐぐぐぐぐっ……ひ、ひどいんだぜ……まりさのかわいいこど
もが、こんなぶさいくに……ぐしゅっ……」
美鈴が五〇刀目を入れたあたりで、漸く体当たりが無理だとわかった母まりさは、力な
く吊り下げられたまま涙をこぼし嘆いている。
「ゆっ……ゆっゆっ……ぐずっ、ぐじゅっ……まりさたち、なにもわるいことしてないの
に……ひどいよ、おねえさんっ!」
まだ無事な方の子まりさも泣いていた。
「どこがかわいいのよ? 下ぶくれのへちゃむくれじゃない? むしろスリムになって良
かったって思いなさいよ」
馬鹿にしたように言うと、美鈴は足下に堆く積んだ子まりさの皮を爪先で蹴り散らした。
「さて、次はどっちからやろうかしらね……」
母まりさの、涙でぐしょ濡れになった顔を眺める。
「ゆ゛っ! まりさはおおきいからじかんがかかるんだぜ! やるならこどもからやって
いいぜ!」
自分の身への危険が目前に迫った途端、母まりさは母性を放棄した。
「ゆゆゆっ! お、お゛があ゛ざん゛っっ! な゛に゛い゛っでん゛の゛ぉぉぉぉぉっ!」
信頼していた母親に裏切られ、子まりさは悲しむより先に激高する。
「ごどぼを゛ま゛も゛る゛の゛がっお゛や゛でじょぉぉぉぉ! だずげでよ゛ぉぉぉぉ!」
必死の形相で子まりさは母に抗議した。
今までずっと結束してきたこの親子の関係は、こうして崩壊の時を迎えた。
「あらあら、親子喧嘩はだめよ。仲良くしないと、ゆっくりできなくてよ」
青竜刀の切っ先で、ちくちくと母まりさの頬を軽く突っつきながら、美鈴は嘲った。
「ゆっ! やめてだぜっ! おねえさんっ! こどもなんて、またつくればいいんだぜ!」
まだ成長していない子供よりも、すぐに子供が作れる成体が重要と言うのは、種の保存
のみを目的とするならば正論である。
「ゆぐっ! こんなひどいこというなんて……もう、おかあさんなんかだいっきらい!」
「ゆぎっ! じょうとうだぜ! おまえなんかまりさのこどもじゃないぜ! ゆっくりし
ねだぜ!」
先にやられるか後にやられるかだけで、待っている末路は変わらないのだが、いつの間
にかこの二匹の中では、どちらかが助かると言う前提になっていた。
「また子供作るって言っても、相手のあてはあるの?」
休憩がてら、しばらく喋ってみることにした。
「ゆっ! おねえさんはまりさのみりょくをあまくみてるんだぜ! まりさのまむまむは
さいこうなんだぜ!」
物凄く下品で下劣な自慢である。
「へー、そうなの……」
こんな返答が返ってくるとは思わなかった美鈴は、うんざりした目で母まりさを見た。
「そうなんだぜ! まむまむだけじゃないぜ! まりさのぺにぺにもさいこうなんだぜ!」
かなり聞くに堪えない。
「……そ、そう……」
こんなのと会話するんじゃなかったと美鈴は後悔した。
「ゆっ! あそこのぱちゅりーだって、さいしょはいやがってたのにさいごはいっしょに
すっきりしたんだぜ!」
あごをしゃくって、ゆっちゅりーを指した。
そう言えば、あの二匹はどうしてるんだろう──凌遅刑の執行に熱中していて忘れてい
た、ありすとゆっちゅーりの存在を思い出し、美鈴は視線をそちらに向けた。
「ちょっと、あんたたち!」
時々瞬きをするので失神しているわけでは無さそうだが、無言で口をぽかんと開けてい
る二匹に声を掛けた。
「……ゆひぃっ! み、みてますっ! ちゃんと、みてますからっ!」
「むっ、むきゅきゅっ! ぱちぇもみ、みて、みてるわよぅっ!」
言われた通り、しっかりと見届けていた事をアピールする二匹。
もっとも見るには見ていたが、途中から視覚から入ってくる情報をカットしていたと言
うか、見るに堪えない惨劇を認識しなくなっていたようだが。
「そう、ならいいわ……それじゃ、続けましょうか」
言うと美鈴は、まだ無傷の子まりさに近づいた。
「ゆっ! おねえさんっ! こっちこないで! まりさにひどいことしないでぇぇぇっ!」
これから自分がなにをされるのか、姉妹がどうなったのかを見ていただけに、子まりさ
は必死の形相で命乞いをする。
「ごっ、ごろ゛ざな゛い゛でぇぇぇぇっ! い゛だい゛の゛や゛だぁぁぁぁぁっっ!」
「大丈夫よ、すぐには殺さないから。痛いのはその代償よ」
すぐには殺さない──そう、中身の餡子を失わない限り、ゆっくりはそうそう簡単に死
なない生き物である。
基本的な生命力に関してのみなら無駄に強いと言うか、餡子さえ漏れないようにすれば、
いくら殴る蹴る斬る撃つ焼く、などの攻撃を加え、痛みと苦痛を与えても、なかなか死な
ない。
もっとも、焼くと高熱が中の餡子に影響を与えるためか、意外と早く死に至ってしまう
場合もあるが。
「い゛だい゛の゛ごわ゛い゛ぃぃぃぃっ! や゛だぁぁぁぁっっ! お゛があ゛ざぁぁぁ
ん゛っっ!」
ついさっき「だいっきらい!」と言ったばかりの母に助けを求める。
しかし、そんな我が子に対して母は、
「ゆっ! おかあさんのために、ゆっくりしんでねだぜ! まりさのかわりは、ちゃんと
つくってあげるんだぜ!」
これで自分は助かると思ったのか、余裕すら伺わせる表情で、楽しそうに言い放った。
いや、あんたを見逃すとは一言も言っていないわよ──心の中で美鈴は突っ込みを入れ
た。口に出して言うと、またうるさそうだから。
しばらくの間は、自分は助かったと思わせておいて、あとで存分に現実の非情さを餡子
の随までわからせれば良いのだから。
「心の準備は良いわね? まだでもするけど」
何かこだわりがあるのか、またも美鈴はポケットから爆竹を取り出し、三回それを弾け
させた。
必要無いと思える行為でも、行う事によって得られるものがあると、美鈴は常日頃から
考えているのである──誰も居ない自宅に帰って「ただいま」と挨拶し、「おかえりなさ
い」と自演するなどの虚しい行為も、そんな考えのもとに日課としているのである。
「や゛だっ! や゛だぁぁぁぁっっ! やべでぇぇぇぇぇっ! ぎぃや゛ぁぁぁぁぁっ!」
吊されて逃げ場が無いにも関わらず、身を捩り、なんとか逃れようと足掻くが、完全に
無駄な努力であった。
すぐに美鈴の左手に掴まれ、皮に青竜刀の刃をあてられる。
「一刀!」
「ゆ゛ぎぃっ! ゆ゛ぎぎぃぃぃっ! い゛だい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃっ! お゛があ゛ざ
ぁぁぁん゛っっ!」
餡子が露出しない程度の深さまで切り入れ、一センチほどの大きさに切り削いだ皮を足
下に落とす。
「二刀!」
「ぎびゅっ! ゆ゛ぎぎぎぃぃぃぃぃっ! ゆ゛ぎゃぁぁぁっ! や゛だぁぁぁぁっっ!」
絞め殺される鶏よりも、騒々しく聞き苦しい悲鳴が夜の森にこだまする。
「二〇刀! あら、頑張るわね。まだ気絶しないなんて……えらいわよ」
意識を失わず、きちんと苦痛を味わっている子まりさに、美鈴は賞賛の声を贈呈した。
「ぼべら゛べでぼう゛べじぐだびぃぃぃぃぃっ! ぼお゛っや゛べでぇぇぇぇぇぇっ!
い゛だい゛ぃぃよ゛ぉぉぉぉぉっ!」
せっかく褒められたのに、子まりさは失礼な反応を示した。
これで喜ぶ方がどうかしているが、重要なのは褒め言葉を素直に受け取らなかったと言
う事実である。
「褒められたら素直に喜ぶものよ。お仕置きね」
非情に理不尽である。
だが美鈴ルールは、今この場では絶対の価値を持っている。圧倒的な武力を背景として
いるのだから。
「ほーら、みんな大好き、からーい、辛い、とっても辛い醤よ」
傷口に塩どころではなく、傷口に激辛調味料である。
「ゆ゛じゅぼぁお゛ぎゅあ゛ぁぁぁぁぁっ! じ、じびる゛ぅぅぅぅぅっ! う゛ぎぃぃ
ぃぃぃっ! だう゛ぇどぅぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
甘い餡子で出来ていて、皮にも甘みを含む、全身甘い物のかたまりなゆっくりにとって、
辛い物は猛毒に等しい。
多少の撥水力のある表面の薄皮にならともかく、餡子が薄く透けて見えている箇所に垂
らされたのだから、たまらない。
「ゆ゛びゅっ! あ゛びゃっ! あ゛じゅっ! ぶべぇぼぉぉぉぉぉっ!」
白目を剥き、子まりさは口と底部から餡子汁を漏れ出させる。
「あら……失神しちゃった? しょうがないわね……ふんっ!」
激痛に耐えかねて意識を失った子まりさを、美鈴は気の力で無理矢理に目覚めさせる。
「ゆっくり寝ちゃだめよ。ゆっくり苦しまなきゃ」
そう言って、美鈴は二一刀目を入れた。
「一〇六刀! ……あら、もう剥き終わりね」
「あ゛じゅっ……う゛ゅぎゅっ……う゛ぁう゛ゅう゛ゅう゛ゅぅ……!」
休憩を少し挟んだものの、細かい作業を続けているわけだから、どうしても雑になる箇
所は発生する。
この場合、雑になるとは、面積を大きく切り削ぎ過ぎてしまう事だ。
だいたい1センチ×5ミリ程度を目安としているが、それより大きくなってしまう事も
良くある。
「やっぱり、人にするのとは感覚が違うわね」
これも集中力を高める修行だと思えばいいか──そんな事を考えながら、美鈴は母まり
さに目を向けた。
「ゆっ! おねえさん、おつかれさまだぜ! おわったんだね? さぁゆっくりしないで、
はやくまりさをかいほうしてほしいんだぜ!」
美鈴に視線を向けられて、これで開放して貰えると思いこんでいる母まりさは、嬉しそ
うに言った。
痛く苦しい思いをして頑張って産んだ愛する──愛していた我が子が、苦痛を与えられ、
悲惨な姿と成り果てて行くのを、この母はニタニタしながら眺めていたのである。
最初に子まりさが凌遅に処された際は"愛する我が子"の処刑だったので、とても悲しい
気持ちで見ていたのだが、今しがた行われたのは"自分が助かるための生贄"の処理と言う
認識なので、見ていて楽しかった。
子まりさに美鈴が一刀入れ皮を切り剥ぐごとに、少しずつ自分の開放が近付いていると
思っていたからだ。
「なによ、あんた。ずいぶん嬉しそうじゃないの?」
額に浮かんだ汗を服の袖で拭いながら、美鈴は言った。
「ゆっ! だって、みっともないひめいをあげて、どんどんぶっさいくになってくのをみ
るのは、とってもたのしいんだぜ!」
「あらあら、自分の子供なのに?」
ここまでの返答は予想していなかった。
こいつは化け物か、と言いたげな目で美鈴は母まりさを凝視する。
「ゆっへっへっ! おねえさんなにいってるんだぜ? またつくればいいんだぜ! こど
もなんかいくらでもでてくるんだぜ!」
ああ、そう言えば……そんな事を言った歴史上の人物がいたな──そう思いながら、美
鈴は口を開き、
「あんた……まるで、カテ」
「むきゅ! まりさはまるで、かてりーな・すふぉるつぁだわ! そんなこといってるか
ら、こんなめにあうのよ!」
途中まで言ったところで、ゆっちゅりーの言葉にかき消された。
「……うそっ! なんで知ってんの?」
言いかけた言葉を邪魔された不快感よりも、驚きの方が上回った。
「むきゅ? だってゆうめいじゃない? ぱちぇがしっててもふしぎじゃないでしょ?」
これが徳川家康だとか織田信長など、人里に住む人間の子供が普通に知ってそうな日本
人の人名だったならばともかく。
「有名って……どうかしらね」
「ゆへっ! またぱちゅりーのちしきじまんがはじまったぜ! そのものしりづら、へど
がでそうだぜ!」
小馬鹿にしたように鼻で笑い、まりさは茶々を入れた。
黙っていれば、もしかしたら存在を忘れられて助かったかも知れない。
そう、美鈴の興味の方向は、ゆっちゅりーの異常な知識量に、この時点までは向いてい
たのだから。
「あ、いけないいけない、あんたの事すっかり忘れてたわ」
自分がしようとしていた事を思い出し、すかさず美鈴はまりさの方へと向き直った。
「ゆっ! まりさをわすれるなんてひどいぜ! ゆっくりあやまってほしいぜ! でも、
あやまるまえに、はやくおろしてほしいぜ!」
どこをどうやったら、こんなに巨大な態度が取れるのか不思議である。
「そうね、忘れちゃってごめんなさいね……それじゃ、はじめましょうか」
妙なところで律儀な美鈴は、口先だけの詫びではなく、踵を揃えきっちとお辞儀をして
謝ってから、おもむろに左手でまりさの頬を掴む。
「ゆっ! なっ、なにするんだぜ? まりさをどうするきなんだぜ? はやくかみのけほ
どいてほしいんだぜ!」
思いがけない美鈴の行動に、まりさは慌てた。
「ちゃんとおろしてあげるわよ。終わったら、ね」
皮に青竜刀の刃をあてる。
「ゆっ!? お、おねえさんっ! や、やくそくがちがうんだぜっ! なにをするきなんだ
ぜ? やめてくれだぜ! おねがい……おねがいしますだぜっっっ!」
美鈴がこれから何をしようとしているのか、はっきりと悟ったまりさは懇願した。
「約束? 先にするか後にするかの話で、誰も助けるなんて言ってないわよ」
「ゆゆゆゆゆっ! そっ、そんな……ひ、ひどいんだぜ! なんで、まりさにひどいこと
するんだぜ? まりさはなにもわるいことしてないんだぜっ!」
力の限り身体を揺さぶって、美鈴の手からなんとか逃れようと、まりさはもがく。
仮に美鈴が手を離したとしても、吊されている以上逃げようもないのだが。
「今まで好き放題に生きて、充分にゆっくりしてきたんでしょ? これも運命だと思って、
ゆっくり受け入れなさいよ」
「い゛っ、い゛い゛や゛だぜぇぇぇぇぇっ! ぞん゛な゛の゛ま゛り゛ざばい゛や゛だぁ
ぁぁぁぁぁ!」
まだ一刀も入れていないにも関わらず、まりさは大きく見開いた目から涙を垂れ流し、
口からは涎をこぼし、底部から餡子汁を失禁させている。
「もうお漏らし? こんなんじゃ途中で狂い死にそうね……」
呆れたように美鈴は言い、
「まぁ、狂っちゃったらその時考えよう……まず、一刀!」
ゆっくりと刑の執行を開始した。
「ぼぉぎゅあ゛ぁぁぁぁっ! い゛だい゛ぜぇぇぇぇぇっ! ゆ゛ぎぎぃぃぃっ! ゆ゛
ぎゃぁぁぁっ! じぬ゛う゛ぅぅぅぅぅぅっ!」
大きな口の奥から餡子を全て吐き出さんばかりに、物凄い大声で悲鳴を上げた。
「……そっか、子供よりも大きいから、もちろん声も大きいのよね」
耳の奥がキンキンする。
たった一刀入れただけでこの調子では、先が思いやられる。
「や゛べでぇぇぇぇぇぇっ! や゛べでぇぇぇぇぇぇっ! だずげでぐだざい゛だぜぇぇ
ぇぇぇぇっ!」
「……子供よりも、親の方が見苦しいなんて……なんなのよ、こいつ」
直径40センチクラスの大物であるにも関わらず、たった1センチ程度皮を切り削いだだ
けで、ここまで取り乱すとは予想外である。
今日は予想外な事態が多すぎで、正直もう美鈴はうんざりしていた。
「この程度もうちょっと我慢なさいよ。あんた大人なんでしょ?」
「だあ゛ぁぁぁでぇぇぇぇっ! い゛だい゛ん゛だぜぇぇぇぇぇっ! がばん゛な゛ん゛
がでぎな゛い゛ぜぇぇぇぇぇぇっ!」
とても情けない答えが返ってきた。
なるべく"ひどく殺そう"と思っていた美鈴であったが、ここまで情けなく見苦しいと、
"ひどく殺す"のが物凄い重労働に思えてきた。
「おねえさんっ! だまされないでっ! まりさはうそつきなのよっ! がんばって!」
「むきゅ! ありすのいうとおりよ、おねえさんっ! まりさのえんぎよ、それわ!」
ありすとゆっちゅりーが、くじけそうになった美鈴の心を察したのか、外野から声援を
送る。
「ゆ゛ぐっ! あ゛り゛ずぅぅぅぅ! ばぢゅじぃぃぃぃ! よ゛、よ゛げい゛な゛ごど
い゛う゛ん゛じゃな゛い゛ぜぇぇぇぇぇぇっ!」
今にも白目を剥きそうだったまりさが、地の底から響くような怒りの籠もった声で、二
匹に対して獅子吼する。
「ああ、演技だったのね……ふーん」
危うく騙されるところであった。
考えてみれば、痛みにあそこまで弱いんだったら、暴力でありすやぱちゅりーを支配で
きるわけがない。
攻撃手段が主に体当たりな以上、ケンカが強いゆっくりは痛みにも強いのだから。
「本当に見下げ果てたやつね……さくさく行くわよ!」
鳴らし忘れていた爆竹をポケットから取り出し、美鈴は自分の耳に詰めた。
外耳道と同じぐらいの太さの爆竹は、良い具合の耳栓代わりとなった。
「気を取り直して、二刀!」
「あ゛びゃぁぁぁぁぁっ! ゆ゛う゛ゅぅぅぅぅぅっ! じぬ゛ぅぅぅぅっ! ごろ゛ざ
れ゛る゛ぅぅぅぅぅぅぅ!」
耳栓のおかげで、あまりうるさくない。
「ああ、そうだわ……こいつにはこれも使おう」
「う゛ぎゃあ゛ぁっ! な゛、な゛じぃぃぃぃ? じびる゛ぜぇぇぇぇぇっ!」
演技ではない絶叫をまりさは発した。
「さっき見てたでしょ? あんたの子供にも使った醤よ。特別に、あんたには一刀ごとに
垂らしてあげるわ」
その代わり一回に切り剥がす皮は大きめにしよう──時間かかりすぎるし。
「な゛、な゛っ、な゛ん゛でだぜぇぇぇぇぇっ! ぞう゛な゛も゛う゛づがばな゛びで、
ぼじびぜぇぇぇぇぇぇっ! ゆ゛ぎぎぃぃぃっ!」
醤が何かは知らないが、それが垂らされると物凄く痛いと言う事は、たった今知ったの
で、もう演技ではなく本気でまりさは取り乱している。
「ごべぶな゛ざい゛ぃぃぃぃぃぃっ! ばり゛ざう゛ぉゆ゛る゛じでぐだざぃぃぃぃっ!」
美鈴に向かって、まりさは詫びた。
自分でも何で謝っているのかわからないが、とにかく詫びた。
「あんたが詫びるべきは、ありすとゆっちゅりーでしょ? 私はあの二匹に代わって、あ
んたに罰を下しているのよ。最初に言ったでしょ?」
無論、そんな事はちょうど良いから用いた口実に過ぎない。
確かに、ゆっちゅりーの話を聞いて多少の義憤を抱いてはいるが、所詮ゆっくり同士の
事である──美鈴は、まりさに苦痛を与えたいと自ら思って行っているのだから。
「ゆ゛う゛う゛う゛っ……あ゛じずぅぅぅぅっ! う゛あ゛ぢゅぢぃぃぃぃっ! ばり゛
ざが、ま゛り゛ざがばる゛がっだん゛だぜぇ……ゆ゛る゛じでぐだざぃぃぃっ!」
まりさはすかさず、ありすとゆっちゅりーに詫びた。
助かりたい一心で詫びた。
詫びれば助かると思ったから。
「なにいってのんよ? ばっかじゃないのっ! ゆるすわけないでしょっ!」
「むきゅ! きゅきゅきゅっ! あやまったぐらいで、ゆるされるとおもってるの?」
子まりさが酷刑を受けていた時は、見るに堪えない惨劇に喘いでいた二匹だが、恨み骨
髄と言うか、餡の随まで恨んでいるまりさに対しては、非情に冷淡であった。
「ゆ゛ぐっ! ぞ、ぞう゛な゛ぁ……び、う゛ぃどぉい゛ぜぇぇぇぇぇっ! あ゛じずぅ
ぅぅぅっ! う゛あ゛ぢゅぢぃぃぃぃっ!」
──なんでゆるしてくれないんだぜ?
──まりさが、このまりさがあやまってやっているんだぜ?
──どうしてなんだぜ?
「……残念だったわね。それじゃ、三刀!」
さもありなんと言った面持ちで、美鈴は淡々と刑を続行した──そして、またまりさの
口から絶叫が迸る。
「一五刀! ふぅ、大きいと削ぎ甲斐があるわね」
「う゛ぁぎう゛ゅぅぅぅぅぅっ! あ゛じずぅぅぅぅっ! う゛あ゛ぢゅぢぃぃぃぃっ!」
一旦手を休め、美鈴はまりさの状態をじっくり見てみた。
近くの箇所にばかり集中して皮を切り剥ぐと、その部分に圧力が強くかかって餡子が漏
れ出す危険性があるため、一刀ごとに美鈴は削ぎ剥ぐポイントを変えていた。
そのため、ところどこが凹み、醤によって変色していると言う、非情に醜い姿にまりさ
は変貌していた。
鏡を持って来れば良かったわね──道具の選定が甘かった事を、少しだけ悔やむ。
「あはははははっ! みて、ぱちゅりー! あのまりさが、あんなぶさいくになっちゃっ
たわよっ! あーっはっはっはっ、おっかしぃーっ!」
「むっきゅっきゅっきゅっ! まるでりゅうきんのしょけいね! あくらつなけんりょく
しゃは、こうしてむざんにくるしんでしぬのがおにあいだわっ!」
まりさがどんどん壊され変形させられて行くのを、二匹は心から楽しんで見ていた。
あのまりさが、絶対的な力で好き放題にしてきて、ありすとゆっちゅりーをあまりゆっ
くりさせてくれなかったまりさが、今ゆっくり死に向かっている。
そう、本当にゆっくりと、ゆっくりらしく、ゆっくりと。
「ひとつ削いでは黄帝様♪ ふたつ剥いでは神農様♪ やっと五〇刀♪」
「ゆ゛びゅぎゃう゛ぁぁぁぁぁっ! ゆ゛る゛じでぇぇぇぇぇっ! ごべぶな゛ざい゛ぃ
ぃぃぃぃぃっ! あ゛づぅぃずぶぅぅぅぅぅぅぅっ! ぼあ゛ぢゅぢびぃぃぃぃぃっ!」
二〇刀目あたりから、美鈴は歌いながら執行している。
イレギュラーが多く何度か面倒な気分に捕らわれたが、ここに来てやっとテンションが
かなり高まり、楽しくなってきたからだ。
「ふひゅひゅっ! もう、まりさったら、ぞっとするぐらいきもちわるいわねっ! あん
なにしろくてきれいだったのに、しみだらけできたならしいわよっ!」
「むきゅきゅきゅきゅ~! やっと、そのみにくいこころに、ふさわしいすがたになって
きたわね! ゆっくりしぬために、がんばってねっ!」
観客の二匹も、大変ノリノリである。
美鈴が一刀入れる度に喝采を送り、まりさが悲鳴を上げる度に嘲笑し、まりさが詫びを
入れる度に罵倒している。
「うん、公開処刑ってのは、こういうものよね……執行人と観客が一体化しないと」
遠い目で、そろそろ白みつつある空を眺め、美鈴は呟いた。
「ゆ゛る゛じでぇぇぇぇぇっ! ごべぶな゛ざい゛ぃぃぃぃぃぃっ! い゛だい゛ぃよ゛
ぉぉぉぉっ! じう゛ぃだぐな゛う゛ぃぃぃぃぃぃっ!」
美鈴が手を止めていても、まりさは叫び続け、その悲鳴は休まる事がない。
もう喉もカラカラで、声を出すのも辛いはずなのだが、喉よりも削がれ醤で灼かれた身
体が痛い。
叫ぶ事で少しでも気を紛らわせているのである。
「ぷっぷぷぷっ! しにたくないだって! いつもありすたちに、ゆっくりしね! って
いってたのに!」
「むきゅっきゅっきゅぅ~! これがいんがおうほうなのだわ、まりさ! いままでのあ
くぎょうざんまいを、ゆっくりはんせいするがいいわ!」
それを眺める二匹もまた、沈黙を忘れたかのように喋り続けている。
もう、今すぐ死んでも悔いは無いと、二匹は思っていた──こんなに楽しいものが見ら
れたのだから。
「洪武帝様の言う事にゃ♪ 肉を削ぐは国のため♪ 皮を剥ぐは天のため♪ 命を奪うは
朕のため♪ ほい、一〇〇刀♪」
「う゛ゅお゛ぎゅあ゛ぁぁぁぁぁぁっ! だずげでぇぇぇぇぇ! う゛ぁじぅぃずぅぅぅ
ぅっ! ゆ゛う゛じでぇぇぇぇぇぇっ! ごう゛ぇう゛な゛ざい゛ぃぃぃぃぃぃっ!」
無事な皮と言うか、まりさの皮は、もう切り剥がされていない部分の方が少なくなって
いる。
ところどころ削がれて変色させられ、ではなく、ところどころ手付かずな皮が残ってい
る、と言うべき惨状であった。
「ゆっほほほっ! もうなんかいありすにあやまったのかしらね、まりさは? でもきっ
と、ありすがまりさにあやまったかいすうよりはすくないわよねっ!」
「むっきゅきゅきゅぅ~! ぱちぇにはあやまらないなんて、まりさはほんとしつれいだ
わ! さっきからあわせて、ありすには97かいあやまったのにぱちぇには89かいよっ!」
まりさが目も当てられない姿となっても、まだまだこの二匹の抱いた強い憎しみと恨み
は消えていない。
一応まりさが100回謝ったら、ゆっちゅりーはありすと相談して、美鈴に「もう楽に」
してあげても良いと言うつもりであったが、回数がまだ足りていない。
ゆっちゅりーとありすに言われたからと言って、美鈴がまりさを楽にしてやるかどうか
は、定かではないが。
「だいぶ良い姿になったわね。数もキりがいいから、そろそろ終わらせてあげるわよ」
神経を使って細かい作業を続けた成果を、満足げに眺めながら美鈴は、まりさに優しく
語りかけた。
「ゆ゛ぎっ! お゛っお゛ね゛え゛ざん゛っっっっ! ぞ、ぞぞべ、ぼん゛ど?」
思いの外元気な声をまりさは出した。
中の餡子には、垂らされて染み込んだ醤のダメージしか与えられていないので、体力が
まだ残っていたのである。
餡子へのダメージが大きくは無いと言っても、散々に与えられた苦痛で確実に体力を奪
われているため、仮にこのまま地面に下ろし開放したとしても、余命はせいぜい保って丸
一日か二日程度だが。
もちろん、それは外敵に全く襲われ無ければ、の話である。
「ええ、本当よ。だって、もう皮がほとんど残ってないし」
ぶっちゃけた話、僅かばかり残った皮を剥ぐのが面倒なのである。目も疲れたので。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛じじじじじじじががががががどどどどう゛だぜぇぇぇぇぇぇっ!」
痛みを忘れ、歓喜の叫びをまりさは上げた。
生き延びられる、助かる、許された──耐え難い苦痛と絶望の中、言われた通り、あり
すとゆっちゅりーに謝り続けた甲斐があったと、心の底からまりさは喜んだ。
働いてくれるありすを、気晴らしで虐めるのはやめよう。
色々役に立つ事を教えてくれるゆっちゅりーを、ちゃんと尊敬して大事にしよう。
そして、また新しく子供をいっぱい作って、みんなで仲良くゆっくりしよう!
──まりさは、これからは罰を受けないように、真面目に生きて行こうと思った。
「えぇぇぇぇっ! おねえさんっ! まりさをゆるしてあげちゃうの?」
「むきゅっ! おねえさん、まりさにはもっとはんせいがひつようだと、ぱちぇはおもう
わ!」
まりさが心を入れ替える気になった事を知らない二匹は、不満で頬を膨らませた。
「あら、まだあの二人は許してないみたいね……どうする?」
やっぱり、と心の中で思いながら、美鈴はまりさに質問した。
「あぁぁぁりぃぃぃぃずぅぅぅぅ! おあぁぁぁじゅゅゅじぃぃぃぃぃ! びどい゛ん゛
だぜぇぇぇぇっ! ゆ゛る゛じでぐだざい゛ぃぃぃぃぃぃっ! な゛ん゛でう゛ぉじま゛
ずがら゛ぁぁぁぁぁっ! お゛ね゛がい゛ぃぃぃぃぃぃっ!」
顔を見せた希望が、再び遠のき消えるのを必死で引き留めるように、まりさは口から餡
子汁を吐き散らして吠えた。
「だって、まりさうそつきだもんっ! ほんきであやまってるの?」
「むきゅききゅっ! まりさはおおかみしょうねんなのよ! かんたんにはしんようでき
ないわっ!」
今までのまりさの所行を良く知っていて、実際に被害を受け続けてきた、ありすとゆっ
ちゅりーは冷たく言い放った。
「ぞっ! ぞう゛な゛ごどな゛い゛ぜぇぇぇぇっ! ぼん゛どびっ! ぼう゛どじ、も゛
ぼごれ゛がら゛ば、あ゛じずに゛や゛ざじぐじま゛ずぅっ! う゛ぁぢゅう゛ぃぼだい゛
じに゛じま゛ずぅぅぅぅっ! お゛ね゛がい゛ぃぃぃぃぃぃっ!」
──因果は応報した。
最終更新:2008年09月14日 11:18