ゆっくりいじめ小ネタ229 ぱちゅーどく

 飼っていたぱちゅりーが突然「むきゅー! むきゅー!」と喚き出した。
 いや、何か喋る度に毎回むきゅむきゅ喚くから珍しいことでもないのだが、今回は様子が違った。
「むきゅー! むきゅー!」
「何言ってんだかわかんねえよ」
「むきゅー! むきゅー!」
「日本語で喋れ」
「むきゅー! むきゅー!」
 身をよじって涙をぽろぽろと零しながら何かを訴えるぱちゅりー。
 ぼよんぼよん、と飛び跳ねて何かを表現している。
 かわいい。
 しかし、何を欲求しているのかいまいちわからない。わかろうと必死になるつもりもない。勝手に泣いてろ。
「むきゅー! むきゅー!」
 とはいえ、うるさくて他のことに注意を向けることもできず、知的興味が湧いてしまうのも抗いようのない事実である。
 だからぱちゅりーが喚く理由を考えてしまう。
 何かを求めているように思うが、何を欲しがっているのか?
 飯はちゃんと与えている。たまに生ゴミを与えることもあるが、特に嫌がる素振りもない。
 睡眠はちゃんと取れている。何らかの作業をやらせることもないし、虐待したこともないので特別疲労することもないはず。
 ぱちゅりーは独り身のゆっくりではあるが、性的欲求の解消を訴えられたことはない。
 しーしーだのうんうんだのを漏らすゆっくりとは身体構造が違うはずだし、成体ゆっくりが排泄を訴えるだけで喚くことはないはず。
 それなら勝手に一人でしーしーだのうんうんを垂れ流すはずだろう。
 そういえばこのぱちゅりーは意志疎通がなかなかとれない。「ゆっくりしていってね」とか「むきゅー」ぐらいしか喋らない。
 もしかしたら進化の前触れか何かか? 少しワクワクしてくる。
 ワクワクはするが、ぱちゅりーが喚いているのはまるで意味がわからない。
 何だろう。
 さっぱりわからない。わかるつもりもない。甘えるな。せいぜいもっといい声で鳴いてくれ。
「むきゅー! むきゅー! むきゅー! むきゅー! む……むぎゅ……!!」
「ああ?」
 突然びくびく痙攣を始めて、跳ねるのをやめた。
 今にも死にそうな状態になっているのは確かなようだ。
 そういえば今まで飼っていたゆっくりも同じように死んでいったことがあった……そのいずれもぱちゅりー種だった覚えがある。
「……もしかして」
 ふと思いついて、俺はぱちゅりーを飼っている部屋から出ていき、あるものを持ってきて部屋に戻った。
 そして、それをぱちゅりーの目の前に突きつけてやった。


「むぎゅ!! ぱちゅりーのごほん!!」


 なんと、ぱちゅりーが喋ったではないか!!
 そんなつまらないことで俺が驚いている間に、ぱちゅりーは素早く俺が突き出したもの――スーパー特売チラシに飛びついた。
「むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ!」
 尋常でない速度で咀嚼すると、あっという間にそれを飲み込んでしまった。
 なんで食うんだよ。読めよ。
「ゆ……ゆ……むぎゅ……むぎゅ……」
 また悶え始める。
 何故だろう。生ゴミ食わせても大丈夫なくらいだから、チラシを食った程度では何にもならないと思うんだが。
 考えている間にもぱちゅりーはぶるぶる震えて焦点の合わない目をこちらに向けている。
「むぎゅ、むぎゅぎゅ――むぎゅ――むぎゅぎゅ――」
「おい、どうしたんだ? 馬鹿になったのか? 死ぬのか?」
「――むぎゅ――むてんかむきえびにひゃくにじゅうぐらむ――ごひゃくきゅうじゅうはちえん――」
「あ?」
「てんねんむきえびにひゃくごじゅうぐらむ――ごひゃくきゅうじゅうはちえん――」
「…………」


 それからぱちゅりーはチラシに書いてあった内容を反復するだけの壊れた饅頭になった。
 どういう原理なのかはわからないが、極限までに「活字に対する飢え」を与えた上で活字を摂取させるとああなるようだ。
 ぱちゅりーを飼っていた部屋にはほとんど物らしい物が置いておらず、偶然にも一切の活字が存在しない環境に放り込まれていたのだ。
 普通に言葉を話せるぱちゅりーだったらすぐに「むきゅー、ぱちゅりーはごほんがよみたいの」などとほざいただろうが、あいつは違った。
 そんな環境で成体になるまでずーっと活字に飢えていたぱちゅりーの苦痛は如何ほどのものなのか?
 飢えた状態で活字を摂取した反動からか、あれからぱちゅりーは睡眠も食事も必要とせずに24時間むきゅーでチラシの内容を機械的に反復していた。
 本当に機械的に規則的に繰り返す。
 そう、俺が寝ている間にも、家の中で静かに食事をしている時も、ぶつぶつぶつぶつ、ねちねちねちねち、と繰り返すのだ。
 あんまり鬱陶しいからぶっ叩いて殺しちゃったよ。
「ぶぎゅえ!!」
 とか普通の饅頭らしい悲鳴を上げて死んだ。
 加工所にでも持ってけば金になっただろうなあとか今更ながらに思う。
 俺は、かけがえのないものをこの手で殺してしまったのだ――









 あとがき

 なんか似たような内容のSSありそうだけど記憶にないので書きました! えへへ!

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最終更新:2008年11月16日 12:19
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