凧
by”ゆ虐の友”従業員
里の職人に作成を頼んでおいた大凧がついに完成した。
俺はそれを受け取ると、早速
ゆっくりれいむの一家を乗せる。
糸を手に持って走り出すと、立派な凧は風をはらんで空へと舞い上がった。
「ゆゆ!おそらをとんでるよ!!」
「しゅごーくゆっきゅりしたのりものだにぇ!!」
「かぜさん、ゆっくりしていってね!」
「ほほーぉう、これはなかなか……」
俺は子供の頃を懐かしみながら、凧を引っ張って丘の斜面を駆け回る。凧は少しずつ高度を増していく。
凧がかなりの高度に達したところで俺は足を止めた。もう走る必要はない。近くの木に凧糸を結びつける。
空の上からは、吹きすさぶ風に混じってゆっくりの声が聞こえてくる。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅりしちぇいってにぇ!!」
「ゆっくりしていってね!」
少しすると、ゆっくり達は文句を言い始めた。
「ゆ!かぜさん、ちょっとつめたいよ!もっとゆっくりしようね!」
「たきゃいよぉぉぉ!?おきゃーしゃん、こわいよぉぉぉ!!ゆっきゅりできにゃいよぉぉぉ!!」
「おにーさん!もういいからゆっくりおろしてね!ちびちゃんがいやがってるよ!!」
俺は地上からゆっくりを見上げる。
「かぜざん!!もっとゆっぐりじで!!れいむをゆっぐりざぜでね!!!」
「きょわいよぉぉぉぉぉ!!!!」
「どぼじておろじてぐれないのぉぉぉぉぉ!!??」
頭上からゆっくり達の悲鳴が降り注ぐ。だが知ったことか。
「どうして?どうして止めないのかって?
……おのれらが俺の畑を荒らしたのをもう忘れたんかい!!
さあ、泣いて詫びろ!
地上のゆっくりどもに、”人間の畑を荒らすとこうなります”と教えてやれぇぇぇ!!!」
ゆっくり達に台詞を教え、謳わせる。
「にんげんざんごべんなざいぃぃぃぃ!!!
れいぶはにんげんざんのおやさいとったわるいゆっぐりでずぅぅぅぅ!!
はんぜいじてまずから、おろじでくだざいぃぃぃぃ!!!」
「ゆぴぃぃぃぃ!!!!!ごめんにゃしゃぃぃぃぃ!!!」
「ごべんなざいぃぃぃ!!!れいむがかわいぐてごめんなざいぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ぁあ?最後のやつなんつった?
こりゃあ、反省するまでずっと空の上だな……!」
「やめてね!!ゆっくりできないよ!」
「しょうだよ!れいみゅゆっきゅりしたいよ!!
いぢわるするにんげんは、れいみゅをおろちてゆっきゅりしんでにぇ!」
「おちびちゃん!!ほんとうのこといっちゃだめだよぉぉぉぉぉ!!!???」
「口は災いの元、か……」
* * * *
もともと下ろすつもりは無かったので、俺はそのまま家に帰った。
季節風の吹く今の時期、凧はしばらくは放って置いても空にありつづけるはずだ。
明日の朝にでも取りに行けばいい。
* * * *
それから、どれだけの時間が経ったのだろう。
「ゆ……おなかすいたよ……」
「ちゅかれたよ……」
「おうちでゆっくりしたいよ……」
ゆっくり達は寒さに震える。この上空では、地上とはまったく異なる冷たく乾燥した風が絶えず吹き付ける。
三匹とも表皮はひび割れ、底部や髪飾りもまったくゆっくりできない状態に陥っていた。
既に夕暮れが迫る丘の上空で、ゆっくり達は口々に泣き叫ぶ。
「かぜさん!!いじわるしないでぇぇぇぇ!!!???」
「どうじでゆっきゅりさせてくれないのぉぉぉぉぉ!!!!」
「もうおこったよ!ゆっぐりできないかぜさんはじねぇぇぇぇぇぇ!!!
……ゆ?」
風に対して威嚇しようと、凧の組み木から身を乗り出した親れいむの一匹が体勢を崩した。
「おちるよ!おちちゃうよ!おちたらゆっくりできないよ!」
「おきゃあしゃんんんんん!!!???」
「ゆゆゆ!!ゆゆゆゆゆ!!
……ゆぅ、ゆっくりあぶなかったよ……」
必死に底部で足場を掴み、どうにか組み木に戻る。危機を凌いだれいむだったが、状況は好転したわけではない。
長い苦難はまだ始まったばかりだった。
さらに時間が経過する。
「………」
「………」
「……ゆ?」
子れいむがまずそれに気づいた。
「かぜさん、ゆっきゅりしてるにぇ!!」
「ゆ!ほんとうだよ!
かわいいれいむとちびちゃんにいじわるするのをやめたんだね!
ゆっくりしていってね!!」
「ゆっきゅりしていってにぇぇぇぇぇ!!!」
「ゆっくりしていってね!!」
風が止み、揚力を失った凧は地上へと降下していく。
「のりものさんもおりていくよ!これでやっとじめんさんにおりられるよ!」
「これでゆっきゅりできるよぉぉぉぉ!!!!」
ゆっくり達ははやくも、地面に下りてゆっくりすることを想像しだす。
あったかいおうちでごはんをむーしゃむーしゃして、ゆっくりおやすみ。
そんな日常に帰れると思っている。
だが現実はゆっくり達の望むものではありえない。
「ゆゆ?ちょっとゆっくりしてないよ?」
「のりものさん!もっとゆっきゅりおろしてにぇ!」
「おかしいよ!こんなはやさじゃゆっくりできないよぉぉぉぉぉ?」
増してゆく凧の降下速度に三匹は喚きだす。
「どーじでいうごどぎがないのぉぉぉぉ!!??ばがなの!?じぬのぉぉぉ!!??」
「ごわいよぉぉぉぉ!!!じぇんじぇんゆっぐりじでないよぉぉぉぉ!!!」
「おねがい!おねがいじめんさん!!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
どんどん地面が近づいてき――
「「「ゆべぢ!!!!!!!」」」
三匹は潰れて飛び散った。
最終更新:2008年11月24日 17:40