※ぬるいじめ注意
「
ゆっくりはなしてねー!」
広い平原の真ん中で、少年に鷲掴みにされた一匹のちぇんが叫んでいた。
ちぇんは悪いゆっくりではなかった。生まれてから二年経つが、それまで人里で畑を荒らすような事はしなかったし、時には森で迷子になった人間の子供を森の外まで案内した事もあった。
昼になって起きたちぇんは、外に出るとお日様がとてもぴかぴかしていたので日向でぬくぬくと昼寝をしていた。すると突然少年に掴まれ、拉致されてここまで連れてこられてしまったのだ。
「ちぇんはおうちにかえりたいんだよー! わかってねー!」
少年は、必死に懇願しているちぇんを伸ばした右手の掌の上に乗せて目を閉じる。
「わかってくれてありがとう! ゆっくりかえるねー!」
ちぇんは少年に笑いながらそう言って、そこから飛び降りようとする。
勿論、少年はちぇんを逃がそうと思っているわけではない。
クンッ
「にゃ?」
間の抜けた声を上げるちぇん。声を上げたのは勿論少年の掌の上での事だ。
「ゆっくりおりるよー!」
クンッ
戸惑ったような表情でもう一度そこから降りようとして、さらに困惑するちぇん。
「ゆ、ゆっくりおりるよー! いそいでおりるよー!」
半ば自分に言い聞かせるように言葉を放つちぇん。
クンッ
がっ……駄目。
そして、とうとう涙で瞳が潤み始めた。
「ちぇんのあんよさん! ゆっくりしてないではたらいてよー! わかってねー?!」
クンッ
「なんでうごいてくれないのぉぉぉ?!」
勿論、ちぇんが動けないのには理由がある。
少年――仮に虐牙としておこう――が行っている行為。中国拳法には古くから伝わる反射神経を養う稽古法から着想を得た虐待でゆっくりが跳躍する際のメカニズム――。
つまり一度重心を落としてから飛び上がるという習性を利用し、最初の重心移動を自らの肌に感じ取り掌を僅かに下げ、初動作を封じることにより跳躍させないというものである。
「もうやだ! おうちかえりたい! ゆっくりわかってねー!! ゆっくりわかってよー!」
しかし野生のゆっくりが相手の事である。集中力は反射神経がなくとも成功するのは容易いという事は言うまでも無い。
ちなみに虐牙が掌を下げるのはわずか一瞬の事なので、鈍感なゆっくりであるちぇんにはそれを感じ取る事はできない。
「どぼじでどべないのぉぉぉぉ?! ぜんぜんわがんないよぉぉぉぉぉ?!」
虐牙の掌の上で微動だにしないちぇんの叫びが響き渡る。
今日も幻想郷は平和である。
あとがき
この後虐次郎がやってきてこないだ虐牙が山で倒したドスまりさの死体を粉砕し、虐牙は泣きながらその残骸を食べます
ついでに涙で視界がぼやけているせいでちぇんも間違って食べられます
んで大地の神と称される軍ゆっくりと闘いに行きます
作者当てシリーズ
最終更新:2008年12月07日 14:07