永遠のゆっくり12

※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。
※どくそ長いです。二十回はいかないと思う。
※うんうん、まむまむ描写あり。
※標的は全員ゲスです。
※虐待レベルはベリーハードを目指します。
※ここから虐待パートは小休止になります。あとで本気出す。


※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。


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『永遠のゆっくり』12



気がつくと、私はその男の頬を打っていた。

「恥を知りなさい!!」

ふつふつと沸き上がる怒りが体の中で渦を巻いていた。
怒りにかられながら、頭の中で繰り返す。「この男は人間じゃない」

「ゆっくりできないよ!ゆっくりできないよ!」

れいむが飛び跳ねながら叫んでいる。

長浜圭一は、頬を打たれても、
眉を少々ひそめただけで平然としてこちらを眺めていた。
その無感動な視線が私の怒りをさらに掻き立てる。

「恥を知りなさい」

私は繰り返した。

「こんな事をしてて恥ずかしいと思わないの!?」
「思いません」

長浜圭一は感情のこもらない声で答えた。

「コーヒーでも飲みますか?紅茶もありますが」
「いらないわ。すぐにお暇します」
「お子さんにはジュースがいいですか?オレンジジュースならいくらでもありますよ」
「コーラある?」

私の娘、春奈が男の質問に答えた。

「いりません!!」

私が叫ぶと、春奈は首をすくめて黙ってしまう。
十一歳になる、このごろなにを考えているかよくわからない娘だったが、
この男にだけは近づけるわけにはいかない。

「とにかく座ってくれませんか?」

長浜圭一が椅子を薦めてきたが、一蹴する。

「あなたたちと話すことなんかありません。帰ります!
春奈、れいむ、行くわよ!」

娘の手を引き、れいむを抱え上げて出ようとしたが、
応接室の戸口のところに男どもが回り込んで道を塞いだ。

「どきなさい!」
「奥さん、どうか落ち着いてください」
「なにが落ち着いてよ!
あなたたちはこんなことをしてなんで平気でいられるの?!」
「須藤君。どうか話を聞いてくれまいか」

声をかけてきた長浜吉隆先生に向きなおり、私は怒鳴った。

「長浜先生、見損ないましたわ。
こんなことが許されると思ってらっしゃるの!?」
「須藤君、君は一面的に物事を見過ぎている。
私を軽蔑してくれて構わない。だがこの計画は」
「軽蔑しますわ!」
「コーラの用意ができましたよ」

涼しい顔で、長浜圭一が口をはさんできた。

「春奈さん。こちらへ」

母親の私を完全に無視し、娘の方へ声をかけている。
怒りでかっとなった。
私の顔色を伺って、行きたそうにしている娘がますます腹立たしい。

「いらないと言ったでしょ!?」
「あなたに用はありませんよ。僕がお呼びしたのは娘さんのほうです。
気に入らなければ帰ってくださって構いません。送らせましょう」

話にならない。
無視して娘の手を引いて帰ろうとしたが、男どもは戸口からどこうとしない。

「もう君の一存でどうこうできる話ではないのだ」

長浜先生が言った。

「これはもはや国家単位のプロジェクトなのだ。
確かにわれわれの私怨から始まった計画だが、
もはや個人の人間性を問題にして難癖をつける段階はとうに過ぎている。
すでに多くの人間と金が動き過ぎた。
君がどう言おうと、もう覆らんよ」
「長浜先生!!」

私は詰め寄った。

「一体先生はどうされてしまったんですか!?
昔はあんなに、あんなに心からゆっくり達の幸福を考えていらしたのに……」
「……事情は知っているはずだ、須藤君」
「知っていますわ。私も娘のいる身ですから十分にお察ししますし、
先生が会を脱退されたときも、だからお止めしませんでした。
ですが……あまりにも、これはあまりにもひどすぎます!」
「選択肢はありませんよ」

長浜圭一が言い、腕を振った。
それを合図に、男どもが私の腕を取った。

「離しなさいっ、離してよ!!」

抵抗も空しく、強引に椅子に座らされた。
娘はそれを見届けてから、薦められるままにれいむを抱えて自主的にテーブルについた。

怒りもあったが、それ以上に悔しかった。
この異常者どもに囲まれて、私ひとりがだだをこねているのか。


かつて、大きなゆっくり愛護団体の会長を務めていた長浜吉隆先生が、
不幸な事故にあい、団体を脱退したときは胸が痛んだ。
団体の幹部を務めていた私も、その時はかける言葉がなかった。

しかしその後、ハーバード大学に在籍していた娘が長浜氏から連絡を受け取った。
帰国した娘を伴い、保護者として案内された建物に入ったとき、
私は、今度は別の理由で言葉を失った。

あの事故の原因となった十三匹のゆっくり達が苦しめられていた。
その手法は想像を絶するもので、それはまさに地獄だった。
人間とはここまで残酷になれるものなのか。

「春奈さんとは、すでに数か月前から連絡を取っていました。
ゆっくり研究の第一人者である春奈さんのご意見を仰ぎたかったのです」

長浜圭一が喋っている。
長浜先生の孫娘と結婚した、長浜家の婿養子。
そしてこの計画の発案者だった。

「私の計画に、春奈さんは興味を持ってくださり、
そして、ここに来て計画に尽力してくださると申し出てくださいました。
すでに新薬の構想は出来ており、あとは材料と実験期間だけとのことです」
「春奈」

初めて聞く話に、私は耳を疑った。
娘に聞く。

「まさか、嘘よね?
本当に……こんな計画に協力するわけじゃないわよね!?」

春奈はそっぽを向いて、ストローでコーラをすすっていた。
私はその肩を掴んで引き寄せた。

「答えなさい!本当なの!?嘘でしょ!?」
「痛いっ、ママ、痛いよ!」

男どもに取り押さえられたが、私は叫び続けた。

「嘘でしょ!春奈!!嘘だって言ってよ!!」


春奈。

小学校の教師の仕事をしながら、苦労して育てたたったひとりの娘。
私は夫と離婚し、仕事に追われ、家に残した娘の寂しさを紛らわせるために、
愛するゆっくり達と一緒に育てた。

娘が天才だと知ったときは、初めは舞い上がった。
五歳の時には、すでに小学校高学年の算数の問題を解き、
八歳のときにはゆっくりの生態研究における新発見を論文にして学会に発表し、
あれよあれよと思っているうちに十歳で渡米し、ハーバード大学に在籍していた。

春奈は神童として、日本中、世界中から持ち上げられたが、
母親の私は、年を重ねるごとに娘が自分から離れていくようでさびしかった。

小さいころは、家にいるゆっくり達と一緒に楽しそうに遊んでいたが、
大きくなっていくにつれて、娘とゆっくりとの距離感を感じるようになった。
どこか距離を置いた接し方をしていたように見えた。

しかし、春奈がゆっくりを研究したいと言ってきたときは、
ゆっくりが嫌いになったわけではなかったのだと思って嬉しかった。
春奈はゆっくりの生態系を研究し、ゆっくりにとって効率のいい栄養になる食べ物を見つけ、
飼い野性を問わず、ゆっくり達の知られていなかった特性をいくつも発見して、
それらの発見はゆっくりを飼う人々の役に立った。

その功績と学力が評価され、春奈は渡米し、ハーバード大学に籍を置いた。
在学中にもゆっくり研究の分野で目覚ましい功績をあげ、博士号まで取ってしまった。
我が子ながら恐ろしくなるほどの才能だ。

その才能を、ゆっくり達のために使ってくれることがうれしかった。
ゆっくりが好きで仕方がない私。
その娘も、ゆっくりが好きで。
ゆっくり達の幸せを願っている、それが何よりうれしかった。

それなのに。


「周知のように、ゆっくりの餡子はゆっくりが苦しむことで糖度が上がり、甘味を増します。
そればかりか苦しみの種類によっても、甘味の種類が違ってきます。
その糖度は、本来ならば不可能であると思われていた密度をはるかに超えることが確認されています」

長浜圭一はボードに何か書きつけながら説明している。

「生きている饅頭であるゆっくりは、存在そのものがこの世界の物理法則を覆すものでした。
世界中の学者たちがゆっくりの構造を解明しようとしましたが、
須藤春奈さんの力で、その複雑かつ不可思議な構造がもうすぐ整理され解明されようとしています。
それに合わせ、私たちは提案をさせていただきました」
「複雑じゃないよ」

春奈が妙なところで口をはさんでいた。

「単純。すっごく単純。他の生き物とルールが違うだけ」
「なるほど、後で教えてもらうよ。
さて、ゆっくりの体内で極限まで圧縮された糖度が、なんらかの形で有効に活用できるのではないか。
素人の思いつきではありましたが、春奈さんと書簡を交わすうちに現実味が出てきたのです。
たかが糖とお思いかもしれませんが、水素爆弾などの例を見てもわかるとおり、
凝縮された物質をエネルギーに変換することで生まれる力は測り知れません。
糖分をエネルギーに変換する方法がまた難しいのですが、これも春奈さんが解決してくれそうです。
ゆっくりを使うことで……」
「春奈!!」

叫んではみたが、すぐには言葉が続かなかった。

ゆっくりを極限まで苦しめ、その糖度を利用する。
そんな計画の首謀者として、娘が関わっていることが信じられなかった。

「こんなことはすぐにやめなさい、あなたは騙されてるのよ!!」
「ママ、ちょっと落ち着いてよ」
「本気なの!?
あの子たちを苦しめるなんてことに、あなた本気で協力するつもりなの!?
春奈、あなたは自分が何をしてるかわかってないのよ!!」

また男どもに取り押さえられ、娘が複雑な視線を向けてきた。
一人前に気遣っているつもりなのか。
怒りと焦りが交錯する。
やはり、私がきちんと向き合っていなかったのがいけなかったのだ。


「どうかな?」

長浜圭一に差し出された餡子を、春奈が指ですくい取ってまじまじと見つめる。
それは、ここで苦しめられ続けているあのゆっくり達から採取した餡子だった。

指でなめ取り、春奈が答えた。

「うん。全然、ダメ」
「やはりそうか」
「素人さんにしてはすごく頑張ってると思うよ。ちょっと驚いちゃった。
でも、この程度じゃ計画は進まないね」
「ゆっくりを死なせずに苦しめるのは難しいな。
方法だけはいくらでも思いつくんだが、どれもこれも殺してしまいそうで実行に移せない」
「結局、そこがネックだよね。もろすぎるんだ。
だからあたしが呼ばれたんだと思うけど、いろいろ手はあるよ、硬化剤とかね」
「ふむ」
「というか、問題はそこじゃないんだな。
ゆっくりを苦しめるのに一番大事なことが、全然なってない」
「どういうこと?」

自分の頭を指で叩きながら、春奈が言う。

「精神面からのアプローチがほとんどできてないよね。ただ事務的にえんえんと痛めつけてるだけ」
「れいむ種に関しては、精神を痛めつけたつもりだったが」
「あたしの言ってる意味はそういうことじゃないの。あのれいむ達にやってることは、せいぜい嫌がらせ。
本当にゆっくりを苦しめるなら、プライドと希望、この二つを徹底的にやるのが一番よ」
「精神的な苦痛を受けるにも、それなりの知性が必要だろう。
ゆっくりは、単純に痛い苦しいを繰り返すだけかと思ってたが」
「違うんだなあ。プライドにかけては、ゆっくりは人間以上って言っていいぐらいなのよ。
侮辱や悪意に敏感に反応する。そこを利用しない手はないよ」
「俺としても、そのあたりを君にご教授願うつもりで、あえて深追いはしなかった」
「オッケー」

春奈はいきいきとホワイトボードに何事か書きつけ、講義を始めた。
部屋の隅で、私はそれを呆然と聞いていた。
これが本当に私の娘なのか。

れいむを別室で預かってもらってよかった。
こんな話をあの子に聞かせるわけにはいかない。

ひとしきり講義をぶった後、春奈はひとまず打ち切った。

「とりあえず、何はなくとも、罪を自覚させないとね」
「罪なんてないわ」

口をはさまずにはいられなかった。
長浜圭一がこちらを向く。

「あの子達に罪なんかないわ」
「ママ、あのね」
「罪があるのはあなたたちよ」

長浜圭一、そして長浜吉隆氏に向かって言い放つ。

「あの子達を怨んでいるの?
あの子があなたの子供を殺し、あなたの妻を全身不随に追い込んだ?
そう思ってるなら全然筋違いよ。
妻と子供を事故に追いやったのはあなたたちよ、長浜さん」

長浜圭一が答えた。

「これは国家レベルの計画だと、はじめに聞かれたはずですが。
今更、そのレベルの問答はしたくないですね」
「あなたたちがあの子たちを人殺しに追いやったのよ!」

怒りにまかせて叫ぶ。

「責任がないとでも思ってるの!?
甘やかされきった子供に、やっていいことと悪いことの区別がつくわけがないわ。
それは人間だってゆっくりだって同じことよ!」
「おっしゃる通り。全て僕のせいです」

両手を上げ、長浜圭一は認めた。

「妻も娘も、僕が死なせました。ゆっくりにはなんの責任もありません。
以上です。それはそれとして、計画の話に戻っても?」

挑発的な言葉にかっとなる。

「わかってるならこんな事はいますぐやめなさい!!
逆恨みでここまでやるなんて、いい大人が恥ずかしくないの!?」
「この計画は、一見非人道的なものです。
生物を苦しませつづけることで利益を得るなど、仮にも生き物を相手にやっていいことじゃない。
世間の反発は大きいでしょう」

長浜圭一がとうとうとご高説を垂れた。

「だから、このゆっくりなんです。
これらが起こした事件は世界中を震撼させました。
人を殺して悪びれず、それどころか悪意からの喜びさえ感じているゆっくり共。
これらを使うのであれば、世間の反発もだいぶ緩和できるでしょう。
あなたのように割り切れない人もいるでしょうがね………要するに、それだけの話ですよ」
「悪いのはあの子たちじゃない、適切な教育を施されなかったからよ!!」
「では、適切な躾をしていれば?」
「人間とゆっくりは、本来共存できるはずよ。
同じ言葉を使う相手と、どうして仲良くできないわけがあるの?
まっとうに向き合ってさえいれば、あの子たちは……!」
「仮にそうだとしても、悪を演じてもらいます。
計画のためにはそのキャンペーンが必要ですから」
「悪はあなたよ!!」

叫ぶ私に対し、長浜圭一は涼しい顔で答えた。

「人類の発展のためです。
ノーベルが発明したダイナマイトも、アインシュタインの理論を下地にして開発された核爆弾も、
ともに多大な犠牲を出しながら、人類の発展に大きく貢献しました。
科学を発展させてきたのはいつも戦争だったと言っていいぐらいです。
それに比べれば、十数匹のゆっくりなど犠牲としては数にも入らないと思いますがね」

私は吐き捨てた。

「あなたは悪魔よ」
「人類を発展させてきたのは悪魔ですよ、須藤さん。
あなたが利用しているテレビも飛行機も、悪魔が発明したものです」


この異常者どもは、全く聞く耳を持たなかった。
ゆっくりという生物を食い物にし、苦しめて、まるで悪びれる様子もない。
鬼畜だった。

春奈は、そんな鬼畜生と同じだというのか。
そうは思いたくなかった。
どんなに天才でも、あの子はまだ子供なのだ。
まだやり直せるはずだ。
母親として、あの子を見捨てるわけにはいかなかった。


私は名目上は、春奈の保護者として付き添いにやってきた。
そして今、ここの連中は私を煙たがっているようだが、追い出すつもりはないようだ。
半ば監禁状態におきながら、妙に機嫌を取ってくる。割り当てられた部屋も豪華なものだ。
私が今の印象を抱いたまま外に出れば、ゆっくり愛護団体に訴えて計画の邪魔をしかねないと考え、
なんとか説得し懐柔し、神童の母親として宣伝に協力させようというつもりなのだろう。

いまいましいが、チャンスでもあった。
あの子たちの苦しむ姿を見たときから、私はすでに決心を固めていた。

あの子達を救うのだ。
そして娘も。


「ゆぅぅ……ゆっくりできないよ……」

私の可愛いれいむは、すっかり怯えてしまっていた。

十年間苦楽をともにしてきた、自慢のゆっくりれいむ。
そのリボンには年季の入ったゴールドバッジが輝いている。
両親も祖父母も私の家で育ち、代々ゴールドバッジを受け継いできた優秀な家系だ。

生まれたときから愛情を注ぎ、躾も栄養状態も行き届いている。
十年という、ゆっくりとしては驚異的な長さのゆん生を生きながら、
そのサイズは30cm大に抑えられ、肌のつやも年を感じさせない。
長年の経験に即した健康管理のたまものだ。

人とともに共存することを学び、人とゆっくりが一緒にゆっくりすることを心から望む、
心やさしいれいむ。
そのれいむも、ここで行われている所業を見て胸を痛めていた。

「おねえさん、あのれいむたちはそんなにわるいことをしたの…?
だからおしおきされてるの?」
「違うのよ、れいむ。悪いのは人間さんたちなの。
あの子たちは悪くないの。なにも知らないだけよ」
「あのれいむたちををたすけてあげてね……ゆっくりできないよ」
「もちろんよ。れいむも手伝ってくれるわよね?」
「ゆっくりてつだうよ!なんでもいってね、おねえさん!!」

れいむは力強く頷き、ぴょんととび跳ねた。


春奈はいつも、男どもと何事か相談していた。
そのため手間取ったが、夜にはようやく二人きりになれた。

仮眠室に踏み込み、寝ようとしていた春奈の頬を叩く。

「ママ」

頬を抑えながら声を震わせ、潤んだ瞳で春奈は見上げてきた。
とてもあの男どもを相手に一歩も引かず講義をしていた少女とは思えない。
やはりまだまだ子供なのだと私は確信し、少し安心した。

「くどくどお説教はしないわ、考えなくたってわかることですものね。
春奈。
あなたは大人たちにもてはやされるのがうれしかったのよね」

春奈は答えない。

「だから、周りの大人たちに言われるままに結果を出してきた。
ゆっくりを苦しめろと言われれば苦しめた。
でも、そんなのは間違っているわ。頭を冷やして目を覚ましなさい」
「ママ……でも……」

娘の頭に手を置き、私は優しく言葉をかけた。

「いいのよ、春奈。ママは怒ってない。
春奈は優しい子だもの。それはママがよく知ってるわ。
とっても単純なこと。生き物をいじめるなんてよくない、そうよね?」

しばらくためらっていたが、やがて春奈は小さくうなずいた。

「いい子ね」

私は娘を抱きしめた。

「全部やり直しましょう、春奈。あの子たちを助けるのよ」
「うん」

春奈は小さな声で答えた。

春奈はやっぱり春奈だった。
あの、やさしい私の春奈だった。
私は安堵していた。


春奈に案内された先に、あの子たちはいた。

暗い部屋の壁にしつらえられたケージの中に、一匹ずつ押し込まれている。
ちょうどペットショップの店先のようだ。

この子たちは器具に縛られて苦しめられていたはずだったが、
春奈の提言で、苦痛は中断されてここに安置されていたのだった。
あの単調な苦痛を繰り返してももうあまり意味がないから、
オレンジジュースや薬品を節約するためにも一旦中断したほうがいいと判断した、と春奈は言った。

私たちが部屋に入ると、ゆっくり達が視線を向けてくる。
どれもひどい有様だった。

まりさ達はすべての歯を抜かれ、涙を流してふがふがと食料を懇願していた。

「ゆっ、まり……まりふぁに…ごはんんひゃべひゃひぇてくだびゃいぃ……」
「おなかひゅいひゃんひゃへ……」

れいむ達は憎悪に染まった視線を向けながら罵倒してくる。

「かわいいれいむをさっさとここからだせぇぇ!!」
「にんげんさんはゆっくりするなぁぁ!!ゆがああああ!!」

ありす達はぐったりと横になって動かなかった。
子ありす達はあまりに何度もすっきりと出産を繰り返したせいで、
全身の皮が胎生で引き伸ばされ、まむまむがだらしなく広がっている。
親ありすは、処置を施されて変わり果てたぺにぺにを垂れさがらせていた。

「ひどい」

私は呻いた。

「ゆっくりしていってね!!」

連れてきたれいむをみんなの前に座らせ、挨拶をさせると、
弱々しい挨拶が返ってきた。

「ゆっくりしていってね……」
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくり、して、いってねえ……」

警戒する者、体力のない者もいたが、
なかには同族の姿を見て喜ぶ者もいるようだった。

「ゆゆぅ、みんなゆっくりしてないよ……」
「今、元気の出るごはんをあげるわ」

持ってきたゆっくりフードを取り出すと、それぞれのケージの中に取り分ける。

「ゆっ!!ゆっゆっゆっゆっ!!!」

まりさ達はわき目も振らずにがっついた。
柔らかいペースト状のゆっくりフードなので、歯がなくてもなんとか食べられるはずだ。

「むーひゃ、むーひゃ!!ゆふぅぅぅひあわひぇええええええ!!」

あまりのおいしさに涙を流している。

れいむ達はしばらく警戒していたが、やがて舌を伸ばした。
咀嚼しながらも「しあわせ~」とは言わず、憎しみの視線をこちらに向けている。

ありす達はぐったり横たわっていたが、舌だけは伸ばしてなんとか口に運んでいた。

「外に放すの?」

一旦仮眠室に戻ったところで、春奈が聞いてきた。
あのゆっくりフードは特別なもので、
効率よく栄養を摂取できるうえ、極力野草の味に近づけてある。
ゆっくりの舌が肥えて野生で生きていけなくなるようなことがないように、
ゆっくりの頭数調整の一環として、愛護団体やゆっくりショップで愛用されているものだ。
かつて舌の肥えきったこの子たちが食べてくれるか不安だったが、
ずっとまともな食事ができなかったために喜んで食べてくれたようだ。

「そうよ。
これだけ人間を憎んでしまったゆっくりが、
人間社会の中で生きることはもう絶望的だわ。
私たちにできることは、せめて責任をもって治療してから、森に帰すことぐらいだと思う。
春奈、あなたなら治せるわよね?」
「簡単に治療できるよ。れいむ達は外傷はないし、
まりさ達には飴で作った差し歯を入れて、ありす達はぺにぺにをちょっと手術というか取り換えて、
栄養のあるものを食べさせるだけで済むと思う。
素人でもできるよ」
「お願い。あの人たちにはなんとか治療の必要があると思わせて、治療しておいてね。
それかられいむ、手伝ってもらえるかしら?」
「ゆっくりなんでもいってね!!れいむがんばるよ!!」
「準備ができるまでは、あの子たちの話し相手になってあげてね。
あの子たちが口をすべらせたら大変だから、逃がすという計画は秘密にしておいて。
でも、また元気を出してもらえるようなお話をしてあげて」

私はそこで、改めて春奈に協力を約束させた。

「あなたの言うことなら、みんな耳を傾けると思うわ。
なるべくごまかして、逃げ出しやすいようにお膳立てを整えてちょうだい。
みんなが回復したらすぐに決行するわよ」


その日から、あの子達の治療が始まった。

次のステップに進むうえで、健康状態にあったほうが都合がいい。
春奈がそう言っただけで連中は簡単に納得し、手早く治療が進められた。
まりさ達の体の傷跡は治療され、口には飴細工の差し歯が差し込まれ、
ありす達のぺにぺに兼まむまむは、小麦粉とカスタードで作られた精巧なものと取り換えられた。
栄養剤の混ざった食餌療法で、皮にも張りが戻ってきたようだ。


「ゆっくりしていってね!!」

毎晩、監視の目を盗んでゆっくり達の部屋に入り込み、
れいむがみんなの話し相手を務めた。

「ゆっくりしていってね!!」

ゆっくり達の返答も、日を追うごとに明るくなっていった。
どれも表面上の傷跡はすっかりなくなり、健康体そのものだ。

「そのにんげんさんはれいむのどれいなの?!」
「ゆゆっ!!おねえさんはどれいじゃないよ!!れいむのかいぬしさんだよ!!」
「にんげんにかわれているなんてれいむはむのうなんだね!!ゆっくりできないよ!!」
「れいむはむのうじゃないよ!!にんげんさんはゆっくりできるんだよ!!」
「ゆっくりできないよ!!にんげんはぜんぶごみくずなんだよ!!
くそじじいがれいむのあかちゃんをころしたんだよおぉ!!!」

すぐに仲良く、というわけにはいかなかったようで、
人間とゆっくりの接し方に関する思想の違いで、しばしば口喧嘩が起こった。

生まれたときから由緒正しい飼いゆっくりで、
心から人間を信頼している私のれいむは、
人間を奴隷呼ばわりし、憎しみを向けるこのゆっくり達に戸惑いを見せていた。

「ゆぅぅ……みんなゆっくりしてよぉ……」

無理もないことだった。
あれほどひどい目に逢わされたこのゆっくり達に、人間を信頼しろというほうがむちゃだ。
私はれいむをなだめ、その件についてはそっとしておくように言った。

「この子たちは森に帰るのよ。もう私たち人間とは関わらないわ。
そのことについてはそっとしておいてあげて?」
「ゆっくりわかったよ……ゆぅぅ、にんげんさんはゆっくりできるのに……」

不満げだったが、れいむは納得したようだ。

その後は森の話をした。
ゆっくりできる群れ、温かい巣、すてきな家族、頼もしいドス。
飼いゆっくりとはいえしばしば森に遊びに行くれいむが、思いつくかぎりの森の魅力を伝えた。
かつては森にいたらしいゆっくり達はすぐに目を輝かせ、森での生活に思いをはせた。

「ゆゆぅぅ……あかちゃんといっしょに、もりでゆっくりしたいよ……」
「やくたたずでひきょうなにんげんなんかもういらないのぜ!」
「とかいはなもり……せれぶせいかつねぇ……」

会話の得意なれいむの巧みな誘導で、すっかり森に憧れを抱いたようだ。
これなら移送はスムーズだろう。


一週間ほど期間を見た後、私はついに計画を実行に移した。

人間は今、償いようもない罪を犯そうとしている。
どんな犠牲を払っても、なんとしても止めなければならなかった。


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最終更新:2011年07月28日 19:51
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