あるところにゆっくりれいむとゆっくりまりさがおりました。二匹はとても仲良しでした。
ある日れいむとまりさはいつものように野原で追いかけっこをして遊んでいました。
「ゆっくりにげるよ!」
「ゆっくりおいかけるよ!」
まりさは追いかけ、れいむは逃げます。二匹はそうして小さな丘を登って行きました。
その丘は、ごくごくなだらかなものでしたが、それでもゆっくりにとってはたいへん高く感じられます。
れいむはだんだん疲れてしまい、てっぺんまで登ったところで、とうとうまりさに捕まってしまいました。
「ゆっくりつかまえたよ!」
まりさはれいむにむかって、ぽよんと飛び跳ねます。
「ゆっくりつかま……ゆー!?」
ちょうど丘のてっぺんにいたれいむは、まりさに押されて、ころころ坂道を転がってしまいました。
「ゆゆゆゆゆ!」
「れいむー!?れいむー!!」
まりさはあわてて転がるれいむの後を追いかけて行きます。しかしゆっくりのスピードではとても追いつけません。
れいむは坂を転がります。その先には大きな湖がありました。
「ゆゆゆゆゆ……ゆっくりー!?」
れいむはドボンと湖に落ちてしまいました。
大分時間が経ってから、ようやく息を切らしたまりさが辿り着きました。しかし泳げないまりさにはどうする事も出来ません。
「れいむが死んじゃったよ……」
まりさはゆぐゆぐと泣いています。
するとどうでしょう。湖面が波立ち、中から女神様が現れました。その右手にはれいむが、左手には何かの袋が掲げられています。
まりさはびっくりしましたが、れいむの無事な姿を見て嬉しそうに声を上げます。
「ゆっくりしていってね!」
女神様の手の上でれいむも声を上げます。
「ゆっくりしていってね!」
女神様は言いました。
「お前が落としたのはこの土饅頭ケロ?それともこの最高級和菓子ケロ?」
「れいむだよ!」
即答です。
「お前はとても正直者だケロ。ご褒美にこの最高級和菓子を上げるケロ。」
「ありがとうね!」
親友が助かった上にお菓子まで貰えるとあって、まりさは大喜びです。
「じゃあこれからも正直に生きるんだケロ。さようならだケロ。」
女神様はゆっくりと湖に沈んでゆきます。
まりさは満足げな顔をしていましたが、そのうち大事な事に気付きました。
「ゆー?早くれいむを下ろして欲しいよ!いっしょにお菓子を食べるよ!」
「二つは欲張りだケロ。一つで我慢するんだケロ。」
「どおいうことおおおおお!?」
女神様はどんどん沈んで行きます。
「れいむを返してね!れいむを返してね!」
「最高級和菓子のほうがいいケロ。お得だケロ。」
「おねえさん!れいむは帰りたいよ!」
女神様はどんどん沈んで行きます。
「ちょっとおおおおお!最高級和菓子ってこれ人形焼きでしょおおおおお!?」
「れいむは人形焼き以下なのおおおおお!?」
「それに袋が開いてるううううう!」
「れいむは開封済みの人形焼き以下なのおおおおお!?」
「馬鹿二人が少し食べたケロ。でも大丈夫だケロ。私は食べてないケロ。」
「そういう問題じゃないでしょおおおおお!?」
女神様はどんどん沈んで行きます。れいむはもう半分近く沈んでいます。
「ぷぁ…おうぢがえるううううう!ぅぶぁ!……!……!」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!れいむー!れいむー!」
女神様もれいむも、とうとう沈んでしまいました。
まりさは長い事泣き叫んでいましたが、そのうち叫び疲れてきました。
「れいむが人形焼きになっちゃったよ……」
あれほど仲の良かったれいむはもう戻ってきません。
まりさは力なく人形焼きを見つめました。
なんと賞味期限が六ヶ月も過ぎているではありませんか。
まりさは涙が止まりませんでした。
最終更新:2022年04月15日 22:57