前の騒動の際に拾ったゆっくり霊夢。
こいつは仲間の死を見たせいか、仲間を殺してしまったせいか、ずっと固まったまま動かない。
口に物を入れれば食うし、生きてもいるようだが心が死んでしまっている。
俺自身も痛みを与えたり、髪飾りを死んだゆっくりの物交換してみたりと色々な方法を試みたが、何一つ反応を見せない。

「こうなったら代案ならぬ代餡として、中身でも入れ替えてみるか……? でもなぁ……」

それではつまらない。このゆっくり霊夢だからこそ期待できるものがあるのだ。


悩んでいても大して良い案は浮かばずに数日が過ぎた。


今日も今日とて歩きながら考えていると、道脇の草むらで何かが動いた。

「ゆぅ……くりぃ……」

ゆっくり魔理沙だった。どうやら傷ついて餡子が減っているらしく、かなり皮のたるみが目立つ。
別にどうでもいいか、と無視しようとした時、ふと妙案が思い浮かび、足をゆっくり魔理沙の前で止める。

「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
「ゆっ……りぃ……」

うーむ、我ながらうそ臭い演技だ。しかし、ゆっくり魔理沙の方は本当に重体らしく、返事をする元気すらない。
おそらく何らかの理由餡子を吐き出してしまったため、生きていくぶんの餡子が足りていないのだろう。

「よいしょっ、と……!」

ゆっくり魔理沙を抱え上げて、家に走り帰る。早くしなければ死んでしまうかもしれないのだ。

「待ってろ……! すぐに助けてやるからな!」


家に帰り、ゆっくり霊夢用の餡子とオレンジジュースを与えると、ようやく危機は脱したように見えた。
さっきよりも少しふくらみ、顔ツヤも良くなっている気がする。

「ありがとぅ……おにいさん……」
「無理に喋るな。とりあえず、ここでゆっくりしていけよ」
「うん、ゆっくりしていくね……」

ゆっくりぱちゅりーぐらいのか細さである。これは休ませておいた方がいい、と判断し、その日は俺も就寝した。
寝る前にゆっくり魔理沙をあえて、ゆっくり霊夢の近くに置いておいた。


次の日、ゆっくり魔理沙の様子を確認すると、本調子ではなさそうだったが、昨日よりかは随分良くなっていた。

「どうだ? 身体はもう大丈夫か?」
「ゆっくりやすめたから、すこしだいじょうぶになったよ」

やはり、答える声にはゆっくり種特有の無駄な元気さはない。もう少し置いてやるべきかな。

「ゆっ、おにいさん、あのこどうしたの?」
「ん、ああ、ゆっくり霊夢か……」

ゆっくり魔理沙は置物のように鎮座したゆっくり霊夢を気にしていた。ゆっくり同士の連帯感故だろうか。
思惑通りに事が進んでいる。俺はいくらか考えたふりをして話してやった。

「あのゆっくり霊夢は家族がみんな死んでしまって、酷い目にあったんだ。それで動かなくなっちゃったんだ……」

簡潔すぎるほど簡潔だが、ゆっくりに小難しい話をしても分からないだろう、と判断して適当にまとめた。

「……ゆっ!」

傷が癒えきっていない身体で飛び跳ね、ゆっくり霊夢の隣に行くゆっくり魔理沙。そして、いつもの言葉。

「ゆっくりしていってね!」
「………………」

相変わらず、反応しないゆっくり霊夢。……よし、実験開始。

「なあ、ちょっといいか?」
「ゆ?」
「このゆっくり霊夢を見ててやってくれないか? 食べ物はちゃんと渡すし、見てるだけでもいいんだが」
「いいよ! ゆっくりみてる!」

心なしか元気が戻ってきているように見える。やけに聞き分けがいいところにが何かありそうだ、と感じさせる。
『ゆっくり同士の交流で心は戻るか』という目論見であるが、どちらに転んでもどうでもよかった。


その日から、俺は朝食と昼食二匹分の食べ物を渡し、仕事をして、夜にまた食べ物を渡しながら一日の経過を聞くという生活になった。
ゆっくり霊夢は自分から食べようとはしないため、誰かが与えてやらなければならなかったが、それはゆっくり魔理沙がやってくれた。
ゆっくり魔理沙もゆっくり霊夢のことが気になるらしく、傍から見ていても姉のように甲斐甲斐しく世話をしている。
それが理由なのか、近頃ではゆっくり霊夢が微妙に反応を示し始めている。
小さくだが「ゅ……ゅ……」という声が聞こえるのだ。それを聞いて、ゆっくり魔理沙は嬉しそうに語りかけたりしている。
ゆっくり魔理沙は出来ないことも弁えているらしく、「れいむをあらって、すっきりさせてあげて」などと頼まれた。
ゆっくり霊夢は動かないので、ゴミや埃が積もって汚れてしまうのだ。
ついでにゆっくり魔理沙も洗ってやろうとすると、「まりさはいいよ」と拒否したので無理やり洗ってやった。
くすぐったそうにしながらも、暴れずに大人しくしているゆっくり魔理沙。
ゆっくり種としてはその聞き分けの良さ、おとなしさは奇妙というか異常であった。
俺は今までの経緯や行動から、ゆっくり魔理沙の事情をだいたい予測していた。確証を得るために語りかける。

「なあ、魔理沙。お前、仲間からいじめられたりしてたんだろ。だから、あんなに傷ついてたんじゃないか?」
「…………」

ゆっくり魔理沙はゆっくり霊夢が乗り移ったかのように黙り込む。やがて、ゆっくりと口を開いた。

「まりさはね、ぼうし、なくしちゃったんだ……」
「そうか……」

それだけ聞けば何があったのかは予想できる。そして、現在のゆっくり魔理沙は帽子をつけている。

「他のゆっくりから取ったのか?」

ゆっくり魔理沙は一瞬迷ってから、言った。

「しらないゆっくりの、しんじゃったゆっくりのぼうし、ひろったんだ」
「知らなくて、しかも死んでるなら別にいいんじゃないか? 誰も使わないわけだし」

俺はてっきり、生きているゆっくりから帽子を奪ったから、いじめやリンチにあったんだと思っていたのだが。
むしろ、帽子やらリボンやらがないと、元いた群れであっても仲間扱いされなくなるのは前回の実験で判明したことだ。

「しんじゃったゆっくりのぼうしだとね、みんなからきらわれちゃうんだ……」

嫌われる……? どういうことだ。帽子をかぶってるのにいじめられただと?
まさか、ゆっくりは分かるのか。そいつに合っていない髪飾りや、死んだゆっくりの髪飾りを使っているのが。
これは、非常に興味深い。俺はゆっくり魔理沙から当時の状況を詳しく聞くことにした。


ゆっくり魔理沙の言ったことをまとめてみると、
1、「帽子を失くす」といじめられた。群れから無視される立場となる。
2、「生きている他のゆっくりの帽子」を奪ったら、仲間として認められた。しかし、帽子を奪い返されると、以前の立場に逆戻り。
3、「死んでいるゆっくりの帽子」をかぶったら、群れの仲間どころか、行く先々のゆっくりに攻撃された。で、倒れて拾われる。
という経過らしい。
……成る程。ゆっくり種の髪飾りにはここまで意味があるとは。驚愕の思いを隠しきれない。
そして、ゆっくり魔理沙がゆっくり霊夢を世話するのも、群れから追い出されて寂しかったからだろう。
しかし、もしもゆっくり霊夢が目を覚ましたら、どんな行動を取るのだろう。
それはそれで楽しみである。


「ゆっくりしていってね!」「ゆぅ!」

ある朝、二匹分の声で目が覚めた。まさか、と思い居間へ確認しに行くと、そこにはゆっくり魔理沙とゆっくり霊夢が仲良く並んでいた。

「おにいさん、ゆっくりおはよう!」「ゆっ!」
「……帽子、気がついてないのか?」

ゆっくり魔理沙の言うことが真実なら、ゆっくりには死んだゆっくりの帽子を判別する能力があるみたいなんだが。

「だいじょうぶだよ! ゆっくりしてるよ!」「ゆゅ!」

と、そこで気づく、家にいたゆっくり霊夢は大きさであれば、それなりに成長してる個体のはず。
しかし、先ほどからまるでほとんど喋ってしない。精々、「ゆ」の一文字文ぐらいだ。
思い浮かんだのは幼児退行という言葉。しかし、そんなのゆっくりにも起きるのか?
疑問を持ちながらも、さらなる観察を続けることにした。


「ゆっくりしていってね!」「ゆっ!」

最初に気づいたのは、このゆっくり霊夢は「ゆっくりしていってね!」と一切言わないことだった。
ゆっくり子霊夢ですら「ゆっくりちていってね!」と返事するのに、何度も呼びかけても何も返さない。キョトン、としたままだった。
ゆっくり種としての常識でもぶっ壊れてしまったのだろうか。
個の識別は出来ているようである。ゆっくり魔理沙は当然としても、俺ですら家族の一人のように反応する。
しかも、言葉の識別も出来ているらしく、「お~い」と呼ぶと普通に寄って来て、「ご飯だ」と言うとやたらと速く寄って来る。
何故だか身体能力もあがっているらしく、己の背丈を越えるほどの跳躍力を見せることもあった。
それに引っ張られるように、ゆっくり魔理沙の能力も上がってきている。単純に傷が癒えた、というだけでは説明がつかない。
傷の治りが妙に早かったり、語彙が増えたり、知能が上がっているような気配すらある。
ゆっくりとしての禁忌を破ったからなのだろうか。よく分からない。
こうなってくると、最早ゆっくりとは違う種とすべきか! と一人盛り上がってみたが、即断するにはまだ早い。



近頃では二匹が仕事を手伝ってくれるようになった。仕事といっても農作業だが。

「おんがえしだよっ!」「ゆ~!」

と言っては泥だらけになるのも構わず、文句も言わずにせっせと働いている。いや、楽だね。
今日もまたゆっくりたちが俺の手伝いをしていると、草むらから音がした。ぴょん、と飛び出る塊。

「ゆっくりしていってね!」

野生のゆっくり魔理沙であった。それだけなら別にどうということはないのだが、今はまずい。

「ゆ……!? ゆっくりしねぇ!」

「ゆぐぅ!?」

野生ゆっくりが、俺のところのゆっくり魔理沙を見た途端、人格が変わったように体当たりをしてくる。
相手が大きかったこともあり、吹っ飛ばされるゆっくり魔理沙。野生ゆっくりは攻撃の手を緩めない。

「ゆっくり! しね! しねっ! しねぇぇっ!!」

「ゆぶっ! ぎゅぶ!」

鬼のような形相で攻撃し続ける野生ゆっくりと、口から餡子が出始めているゆっくり魔理沙。
放置するのも面白いのだが、まだやってもらわねばならないことがあるので助けようとする。
と、そこへ駆けつけるゆっくり霊夢。ゆっくりとは思えない速度で野生ゆっくりにぶつかる。

「ゆーーーー!!!」

「ぐべぇ!?」

二倍近く体格差があったように見えるのだが、それを物ともせず、今度は野生ゆっくりが弾き飛ばされる。
どれほどの力が込められていたのか、野生ゆっくりは木にぶつかると、餡子を撒き散らして潰れた。
普通のゆっくりとは比べ物にならない力の強さである。普通のゆっくりだと、集団で攻撃してようやく一匹を潰せる程度の力だ。
ゆっくり霊夢は野生ゆっくりのことなど眼中になく、すぐさまゆっくり魔理沙のところに駆けつけた。

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?」

ゆっくり霊夢が悲痛な叫び声を上げる。何事か、と見てみれば、ゆっくり魔理沙の皮が破れて餡子が飛び出していた。
どうやら、吹っ飛ばされた時に木の枝にひっかけてしまったらしい。

「ちっ……まずいな。大丈夫か?」
「ゆぅぅ……」

だらり、と返事も出来ずにへたりこんでいるゆっくり魔理沙。そこまで、餡子の流出が大きいのかとも思ったが、何か違う。
身体がぶるぶると震るわせ、悪夢にうなされているように「ゆっ、ゆっ、ゆっ」と呻いている。
とりあえず、症状を観察するのは後回しにしてゆっくり魔理沙を家の中に運び込むことにした。


一応の手当ては終了した。傷口にテープを貼り、オレンジシュースを飲ませておく程度のものであったが、応急処置にはなる。
状態が良くなったわけではないが、傷よりも精神的に弱っているようだった。

「みつかった……みつかっちゃたよぅ……」

涙を流すわけでもなく、生気の抜け落ちた顔でぶつぶつと呟き続けている。
ゆっくり種の禁忌を犯しているゆっくり魔理沙は、制裁を恐れているのだろう。

「大丈夫だって。襲ってきたやつは潰しただろ? もう来ないんじゃないか?」
「そうかな……?」

怯え切った顔つきだ。俺としてもゆっくり種にそこまでの探知能力はないと思う。第一発見者がいなければ犯罪は露呈しない。

「もう、ゆっくりできないできないよぅ……」

なおも呟き続けるゆっくり魔理沙。どうしたものかな、と思った時、

「ゆぅ、ゆっ、ゆ、ゆっくり、しない、でね!」

なんとゆっくり霊夢が喋り始めた。ぴょんぴょん、と跳ねながら、頑張って話そうとしている。

「ゆっくり、しなくても、だいじょうぶ、だよ? おかー、さんは、れいむが、まもるよ!」

たどたどしく、けれど、はっきりと宣言した。
母親と認識していたことにも驚きだが、「ゆっくりしなくていい」とはゆっくり種としての存在意義に関わるのではないだろうか。

「さっきのは、ちがう、ひと。れーむたち、とは、なんかちがうの」

どうやらゆっくり霊夢は明確な境目を他のゆっくりに感じているらしい。
これは……面白い。その背中を押してみるべきだろう。

「そうだ、違うぞ。。あいつらはお前たちみたいなのが嫌いなんだよ」
「? どーして?」
「お前たちの髪飾り、リボンや帽子は死んだゆっくりのものでな。普通のゆっくりはそういうのを許さないらしい」
「だから、おかーさんを、いじめたの?」
「そうだ」

簡潔に伝えてみると、ゆっくり霊夢は身体をぶるぶると震わせ始めた。
怒りの感情かもしれないが、そこには何かしらの決意みたいなものが感じられた。

「じゃ、れーむは、ゆっくりじゃなくていい! そんなこというひと、みんなおいはらうよ!」
「へぇ……」
そっちの方向へ行くのか、と俺は感心していた。種であることよりも親を守る。
もしかすると、自分が既にゆっくり種から受け入れられないと分かっているのかもしれない。

「お前はもうゆっくりしないのか?」
「しないよっ!」
「じゃあ、お前は今度から『ゆっくりまんじゅう』っていう名前にしてみたらどうだ? ゆっくりとは違うってことで」
「ゆっ!? ゆっくりまんじゅう! れーむはゆっくりまんじゅうだよ!」

思いのほかあっさり承諾した。むしろ、喜んでいる。俺としては、人づてに聞いた小噺から思いついたものなんだが。
これで、本当にゆっくりとは違うものになったんだろうか、明日はどうしてみようか。
そんなことをワクワク考えながら、俺たちは眠りについた。


夜中。声と気配で目を覚ます。ゆっくりまんじゅうたちのいる部屋からしているようだ。

「なんだ……まさか!?」

急いで、居間に繋がっている扉を開けようとする。が、何かにつっかえているらしく、僅かの隙間しかできない。
その隙間から声が聞こえてきた。

「おかーさん! おかーさん! やめぐっ!?」
「ゆ、ゆゆ……」

「ゆっくりしないでね!」「ゆっくりできないよ!」「すっきりさせてね!」

まんじゅうゆっくりたちとは別の無数の声。俺は事態を察して、扉からではなく、窓から外に出て、玄関へと向かった。

「うわっ……」

表から見ると、玄関は開け放たれており、何匹ものゆっくりが部屋に入ろうとしていた。
しかし、既に入っているやつが多すぎて入れていない。それでも、まだ部屋の中に入ろうとしている。

「邪魔だ! どけっ!」

玄関周辺のゆっくりを潰して道を作る。ようやく、部屋の中を見るとそこには床一面にゆっくりが蔓延っていた。

「ゆっくり!」「ゆっくりできないやつはしね!」「じゃまなひとはどっかいってね!」

どうやら、俺には全く感心を抱いていないようだ。ゆっくりまんじゅうたちを目で探してみると、

「ゆぅ! ゆっ!? ゆぅぅぅぅぅ!!」

多くのゆっくりに圧し掛かられているまんじゅう霊夢がいた。
力で押し返そうとしているが多勢に無勢。潰されてはいないが、完全に身動きを封じられていた

「おかーさん! おかぁ、さん!」

その声で今度はまんじゅう魔理沙を探すと、テーブルの上で何匹かゆっくりがまとまっていた。
まさか、とテーブルに手を伸ばすが、玄関からでは遠く、突っ込むにはゆっくり達で動けない。

「ゆ、ゆ……ゆ。ごめんね、ごめんね……」

テーブルでは魔理沙が頭から食べられていた。何度も謝罪の言葉を呟きながら。誰に向かって謝っているのだろう。

「ゆっ、ゆっ! あのひとたち、へんなゆっきゅだよ! しんじゃえばいいのに!」
「みたよ、おひるにここのおうちでゆっくりしてたよ! ゆっくりじゃないのになまいきだよ!」

他のゆっくりよりも嬉々として、ゆっくりまんじゅうたちに攻撃を加えている二匹のゆっくり魔理沙。
あれは、もしかして昼間の野生ゆっくりの家族だろうか。現場を見られていて、仲間に場所を伝えたというわけか。
第一発見者がいなくても、第二発見者がいれば犯罪は露呈するか。くそ、あの後、周辺を警戒しとくんだったな。

「れーむもおかーさんも、だれにもめーわくかけてない! やめて、やぶぎゅ!?」」

動き回ってゆっくりたちを引き剥がそうとするが、さらに多くのゆっくりに圧し掛かられて、餡子が出そうになる。

「ゆっ、くりぃぃぃぃ!!」

その光景を見た魔理沙は最後の力を振り絞って、もう半分以上、無くなっている身体で飛んだ。我が子を守るため。
霊夢の近くに落ちる魔理沙。その衝撃と気迫に驚いて、群がっていたゆっくりたちはわらわらと散っていく。

「おかー、さん? おかーさん!? おがーざぁん!?」
「ごめんね……ごめんね……」
「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

最後まで謝りながら息絶えていく魔理沙。泣きすがる霊夢。

「ようやくしんだの? ばかなの?」「あとひとつ、つぶせばゆっくりできるね!」「すっきりしようね!」

口々に汚く罵るゆっくりたち。流石に見ていて腹が立った。俺がやってみたかったのに。
先ほどの、場所を教えたゆっくり魔理沙がまんじゅうへと寄ってくる。

「ゆっくりたべるよ! どいてね!」

餡子を食う気だろう。完全に余裕の笑みを浮かべている。

「おいしそう~♪ あ~ぐぎゃ!?」

ゆっくり魔理沙は食べようとして突如、吹き飛ばされた。壁にぶち当たって、中身が飛び散る 

「ゆっくり!? ど、どうしたのぉ!?」「ゆっくりしんじゃったよ!」

「ゆっくり……」

ゆっくりたちが声した方を見る。ゆっくりたちの認識において、そこには潰され、食べられる予定の獲物しかいないはずだった。

「ゆ、ゆ!?」「ゆゆゆ!?」「ゆぅ!?」

「ゆっくり、するなぁぁぁぁっ!!!」

そこにいたのは狩人だった。否、狩人という言葉すら生ぬるい。それは戦士だった。
周囲のゆっくりを比較にならない力と素早さによる体当たりで叩き潰すまんじゅう。その凄まじい勢いにゆっくりたちは恐慌を来たす。

「い゛や゛ぁ゛ぁぁ!?」「おうぢがえる! おうぢにがえりだいよぉ!」「だじでぇぇっ!!!」

先を争って俺の方、すなわち玄関へとへ向かおうとするが、数が多いのが災いして思うように動けない。
その様子を見てから、俺はまんじゅうに声をかけた。

「おい、まんじゅう。一人で出来るか?」
「ひとりで……ひとりでできる! まかせて! みんな、ゆっくりできなくさせるよ!」
「だ、そうだ。お前ら、全員そこの『まんじゅう』にやられちまえよ」

指でまんじゅうを指し示してやってから、ゆっくりと玄関の扉を閉める。外にいたゆっくりもついでに放り込んでおく。
俺自身もイラついていたのだ。気分的には収穫しようとした果実を目の前で掻っ攫われた気分に似ている。
中の様子を窓から見てみる。
多数のゆっくりが外に出ようと扉に張り付いているが、結局開かず、後ろから来た他のゆっくりに潰されている。

「だぢでぇぇ!! ごごがらだじでぇ!」「 ゆ゛っぐり、じだいよおおおお!」「まんじゅういやぁぁ!!」

皆が逃げようとすればするほど、潰されていくゆっくりたち。しかし、後ろから今だ危機が迫っているのだ。

「ゆっ、くりぃ!」

まんじゅうは上空から勢いをつけて、一匹のゆっくりを叩き潰す。広がる餡子。見せつけるようにまんじゅうはそれを食べた。

「むしゃり! むしゃり! ぺっ!」

リボンを吐き出す。さらに震え上がるゆっくりたち。
髪飾りを盗った許せないゆっくりがいると知って群れで潰しに来たはずなのに。しかし、現実は過酷だった。

「どうじでぇ!? どうじでこうなるのぉ!?」「ゆっぐりざぜでね!?」「「まんじゅうはこないでぇぇぇぇ!」

「どうして? ゆっくりたちがれーむの、ゆっくりまんじゅうのおかーさんをころしたからだ!!」

今更、たわ言を抜かしていたゆっくり魔理沙を潰す。それは母に似ていても、決定的に母ではなかった。

「まんじゅう!?」「まんじゅうごわ゛い゛!」「ま゛んじゅう゛、やべでぇ!」

「ぼうしやリボンをなくしたゆっくりは、まんじゅうになってイジメられるんだ! おぼえとけ!」

「お゛ぼえ゛る゛! お゛ぼえ゛る゛がら゛だずげでぇぇ!」「ゆっぐいじだがっだよ゛う゛!」
「じにたくないよ゛おお゛お゛お゛お゛お゛!」「ぎゅっぐりぃ!!」「おがあざぁん!」

まんじゅうは飛び上がって、扉に群がっているゆっくりに思い切り体当たりをぶちかます。その勢いで扉が開け放たれた。
既に大半のゆっくりはやられていたが、それでも残ったゆっくりが我先にと逃げ出していく。当然、仲間に潰されたゆっくりもいた。

「まんじゅう゛ごわい! ま゛ん゛じゅうごわいよぉ!」「ま゛んじゅうなりだぐな゛いぃぃぃ!!」
「ずっぎりじだがっだだげなのにー!!」「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」

それぞれがまんじゅうに対して恐怖を口にしながら、どこかへ行った。

「いいのか、そこそこの数を逃がしたけど」

まんじゅうの狙いは分かっていたが、あえて聞いてみる。

「いいよ。あれで、まんじゅうがこわいっておもってくれれば、いいんだよ」

やはり計算してやっていたか、と少し感心していると、まんじゅうが俺の方を向いて小さくお辞儀をした。

「なんだ、どうした?」
「おとーさん、いままでそだててくれて、ありがとう。ここにいると、ゆっくりがいっぱいきて、めーわくがかかるからどこかにいくね」
「何……?」

俺ってお父さん扱いだったのか、と思いながら、なんとなくある推論が思い浮かんだ。
このゆっくり霊夢、もといゆっくりまんじゅう霊夢は、本当にゆっくり種とは違うものに変質しまったのではないだろうか。
きっかけは先日の惨劇であり、髪飾りを変えたことかもしれない。
しかし、俺や元ゆっくり魔理沙と暮らすことでゆっくりとしての常識を失っていったのかもしれない。
あの身体能力はそんな中でも生き残るために発揮されている、所謂「火事場の馬鹿力」だろうか。
そうだとすると、その寿命は長くは保てないだろう。
これはこれで興味深い事例であった。

俺はまんじゅうに、餞別として潰れたばかりの餡子を包んでくれてやった。
面白いものを見せてくれた礼でもある。

「元気で、とは言えないが、まあなるべく死ぬなよ?」
「うん。おとーさん、おかーさんのぶんまでしなないよ。ばいばい」

どこか穏やかな顔つきでまんじゅうは、消えていった。


その後、やけに強いゆっくりとして、まんじゅうの存在はたまに人々の噂にされることもあったが、死んだかどうかは分からない。
普通に考えて、いくらまんじゅうでも敵の数が多いと生き残れないのではないか、と思う。
それでも、時折だが山からある叫び声が聞こえるそうだ。そう、

「ま゛ん゛じゅ゛う゛ごわ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ!!??」

と。






ここらで一つ、後書きっぽいものをどうぞ。

ゆっくりに「まんじゅうこわい」と言わせたかった結果がこの長文だよ!
「髪飾りの失くしたゆっくり」だと長いので適当に名前をつけてみたら、「まんじゅう」になった。反省している。
「ゆっくりまんじゅう」を正式名称にしたのは、流石に「ゆっくり」って言葉がついていないとマズイだろ、という判断から。
地の文で書く時、または他のゆっくりが呼ぶ時には「まんじゅう」になります。「饅頭」に非ず。


「まんじゅう」の脳内設定も一応書いておきます。使っても使わなくても、どっちでも構いません。
名称だけ使うとかも大丈夫です。設定改変もご自由に。
……そもそも、こんな設定を使ってくれる人がいないだろうけど。


「ゆっくりまんじゅう」
髪飾りを失くしたゆっくりのこと。
髪飾りが無くなったゆっくりは種として迫害される運命にある。特に仲間の死体から髪飾りを盗んだ者は絶対に許されない。
「ゆっくりまんじゅう」は、それでも生き残るために変化した突然変異型ゆっくり。
髪飾りを失くしただけでは変異しないが、他のゆっくりったいによって迫害されることで変異することがある。
身体能力や知能は通常のゆっくりを遥かに凌駕するが、それは体内餡子の糖分を使っているため。
故に、通常のゆっくりよりも寿命は短く、中の餡子も甘みがなくて不味い。
「ゆっくりするな!」などの「ゆっくり」という言葉に対して否定的な言葉をぶつける。
自分から他のゆっくりを襲うことはしないが、襲われたら相手がれみりゃであろうと、群れであろうと死ぬまで戦う。
子ゆっくりであろうと容赦せず、相手の餡子を食らうことも平気でする。

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最終更新:2022年05月03日 16:56