※うんうんかどうかは知らない
※4301(or4302)の修正版








ここは加工所の一角。愛玩用のゆっくりを飼育するための施設。
そこには八畳一間の部屋がいくつも並んでおり、各部屋では数匹のゆっくりが生活を営んでいた。
もっとも、ココでの生活は部屋の中で完結しており、無機質な床と壁と天井と、半ば無理矢理作らされた子どもと、
見回りの職員と、彼が持ってくる美味しくない餌と、定められた幾つかの規則が世界の全てだった。

無数にある部屋のある一室でそのゆっくりれいむは5匹の赤れいむと一緒につらい日々を過ごしている。
彼女はこのような施設では極めて珍しい元飼いゆっくりで、いたずらが過ぎたために飼い主にココに預けられたのだ。
だから広い世界の楽しさを、美味しいお菓子の甘さを、暖かいお布団の気持ちよさを知っているのだ。
しかし、彼女の今の暮らしを「つらい」と形容したのにはもっと別の理由があった。

理由というのがこの一角全体に定められた規則であり、その問題の規則というのは以下の6つ。

  • この区画ではうんうん禁止
  • この規則を破ったものは即座に殺処分
  • 疑わしきも職員の独断で殺処分
  • 違反者が不明の場合全員殺処分
  • うんうんの証拠がなかった場合は不問とすることもある
  • 餌を次の見回りまでに食べきらないと適当に1匹を殺処分

彼女はこれによって既に2匹の子どもを奪われている。
ココには監視カメラもなく、殺処分された理由は床に黒いものが落ちていたから。
れいむは「あかちゃんがあんこをはいちゃったんだよ!」と主張したらしいが、人間に餡子とうんうんの区別がつかない以上何の意味もない。
必死に抗議するも、結局全員が殺されることを恐れてか1匹の赤れいむがうんうんをしたと認めたらしい。


僕がれいむ一家に餌を持って行ったとき、幸いにも床は全く汚れていなかった。
どうやらうんうんはしていない。それだけ確認すると加工所特製のぱさぱさしていて美味しくないが栄養価は高い餌を大量にばら撒く。
成体1匹と子ども5匹の適量のゆうに2倍を超える餌が無機質で冷たい床に落ち、砕ける。
それを見たれいむ達はせっかくの餌を目の前にしていながら浮かない顔をしていた。

「ゆえーん!れーみゅ、おいちいごはんがたべちゃいよー!」
「ゆっぐ・・・ゆえぇ・・・ぱしゃぱしゃは、もう・・・いやだよぉ・・・」
「ゆぅ・・・ぱしゃぱしゃじゃゆっくちできにゃいよ・・・!」
「ゆゆっ!あかちゃんたち、ゆっくりがまんしてね!」

毎日毎日、自身の体積以上の量の摂取を強要されている赤れいむ達は口々に不満をこぼし、母れいむは彼女達に自制を促す。
もっとも彼女がそんなことをしなくても子ども達はちゃんと餌を食べるし、人間に歯向かうような真似をすることもありえない。
ただ生まれて初めて食べた母れいむの頭の蔦よりもずっと無味乾燥な味の、酷く喉を渇かせるその餌に文句を言いたいだけなのだ。
一度、食べ切れなかったせいで家族を殺されているので抵抗することも出来ず、愚痴の一つもこぼさないとやってられない心境なのだろう。
しばらく様子を観察していると愚痴を止めてしぶしぶと言った様子で餌を食べ始める。

「・・・次の見回りまでに食べろよ」
「むーしゃむーしゃ・・・」
「むーちゃむーちゃ・・・ちあわちぇ~、ちたいよぉ・・・」
「ゆっぐ・・・む゛ーぢゃむーぢゃ・・・おいぢぐにゃいよぉ・・・」

床に散らばったものを口内に放り込む作業を繰り返すれいむとその子ども達に背を向けて、部屋を後にした。


2時間が経過し、次の見回りのになるとすぐにれいむ一家の元へと赴いた。
さっきの餌と同じだけの量の餌をバケツの中に入れたことを確認し、部屋の中に入っていく。
ドアを開けた僕の視界に飛び込んできたのは泣きながら床を丹念に舐めているれいむの姿だった。

「ぺ~ろぺ~ろ・・・」
「おきゃーしゃん・・・きちゃにゃいよぉ・・・」
「やめちぇね!しょんにゃおかーしゃんとはゆっくちできないよ!?」
「ゆえーん・・・おきゃーしゃんゆっくちちてよー」

その傍らには泣きじゃくる5匹の子ども達。
汚い、ゆっくりできない・・・この2つの言葉から推察するとうんうんをしたのかもしれない。
ここは規則に則って殺処分にしても良いのだが、僕はこの施設の中では甘いほうである。
だから、彼女に声をかけてみることにした。

「やあ、れいむ。ゆっくりしていってね!」
「ゆゆっ!?おにーさん、ゆっくりしていってね!」
「「「「「ゆっくちちていっちぇね!」」」」」

適当に挨拶を済ませると、色々話しかけてくるれいむ達を無視して床をじっくり観察する。
食べ残しも排泄物も見当たらない。勿論、れいむ達を移動させて確認してみたが、やっぱり見当たらない。
どうやら今回も無事に食べ切ることが出来、うんうんをすることもなかったらしい。

「ちゃんと食べきったんだね、おめでとう!」
「ゆっくりがんばったんだよ、ゆっへん!」
「「「「「ゆっちぇん!」」」」」

のん気なもので、散々酷い目に遭わせている僕に向かって笑みを浮かべて誇らしげに胸を張っている。
そんな微笑ましい光景を安らかな気持ちで見守りながら、僕は真面目に業務をこなした。

「そんな君たちにご褒美だ。はい、餌」
「ゆうううううううううううううううう!!?」
「「「「「ゆぴぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」」」」」

再びばら撒かれた餌を見て、思い思いの悲鳴を上げるれいむ一家に背を向ける。
「みょーおこっちゃよ!ぷきゅうううううう!」とか「ゆっくちしゃせてくれにゃいおにーしゃはきりゃいだよ!ぴゅんぴゅん!」などという声が聞こえてくる。
が、饅獣の与太話に構っていても時間の浪費にしかならないので、気に留めることなく部屋を後にした。


この部屋ではペットとして飼育しやすい個体を作り上げるための実験が日々行われている。
無味乾燥な、とても美味しいとはいえない餌を与えるのは“味にこだわりを持たない”ゆっくりを作るため。
ぱさぱさしていて水分が欲しくなる餌を与えつつ極力水分を与えないのは“水分摂取量の少ない”ゆっくりを作るため。
それと同時に“生存のためだけに全ての水分を消費し、しーしーをしない”ゆっくりを作る意図もあるそうだ。
そして、ココの肝となるのがあにゃるを退化させて“食事をうんうんとして排出しない”ゆっくりを作ること。

人間に懐かなくなるのではないかと言う疑問を持つかもしれないが、不思議なことに寧ろ逆である。
ココで人間の恐ろしさを植え付けられたゆっくりは人間に対して従順になり、飼い主の言うことをちゃんと聞くゆっくりが出来上がる。
勿論、散々酷い目に遭わされても人間に歯向かうものもいるがそういう奴は間引いてしまえばいいだけの話だ。

これらの要素全てを1匹の個体に付加させることで“下の世話が一切要らない上に食事も適当で良い”という理想的なペットが完成するらしい。
要不要だけで極めて短期間にラマルクの進化論的な変化を示すことに若干の恐怖を覚えるが、そこを今追及する必要は無い。
とにかく、この施設ではうんうんに対する恐怖感を植えつけることで「ゆっくりするためにうんうんを排除」させる試みがなされている。
ちなみに・・・食事の量に関しても「いっぱい食べるとゆっくり出来ない」という意識を植え付けているので徐々に小食な個体が生まれやすくなる。
更に、小食のおかげで小型化が進み、最近生まれた個体は成体でも体高15cm止まりだったりする。
大食になる方向に進化すればゆっくりできるようになるかもしれないのに、ゆっくり出来ないものを忌避する方向に進化するというのは実に馬鹿げた話ではある。
もっとも、食事の量は最初に餌をやったときの食べ残しや手元にある様々なデータから割り出しているので大食になろうが少食になろうとあまり意味は無いのだが。

それに大食に限らず、好ましくない進化・変化をした個体はこっちの都合で勝手に処分される。
その結果、この施設では“ゆっくりするためにゆっくり出来ないものから目を背ける”方向に進んだ個体だけが生き残る。
それゆえ大食以外にもうんうんや吐瀉物を美味しいと感じる個体なんかも処分の対象となるので、この施設には殆どいない。
人間の手が加えられているとは言え、何でこんな自滅街道まっしぐらな進化をするのかは大いなる疑問。
しかし、それで何か不利益をこうむるものでもないのでありがたく利用させてもらっている。


さっきの食事から2時間が経過し、再び食事の時間になったので再び餌を抱えて部屋に向かう。
すると、今度はれいむだけでなく子ども達まで一緒になって床を舐めている光景が目に飛び込んできた。
パッと見た感じでは・・・・・・残念ながら、僅かに餡子が落ちている。

「床に何かが落ちているね」

そう言いながら、傍にいた赤れいむが舐め取ろうとするのを制止すると、指でそれをつまんでれいむ一家全員に見えるように掲げてやった。
僕の仕草につられて彼女達は素直に餡子を凝視する。その表情には明らかに恐怖が滲んでいた。
やがて、恐怖に耐えかねた赤れいむ5匹が泣き始めてしまう。

「ゆぴぇええええええええん!」
「きょわいよおおおおおお!?」
「みょーやだ!おうちかえりゅ!」
「しょろ゛ーりしょろ゛ーり・・・」
「ゆっきゅちちたいよー!」

ある赤れいむはその場から一歩も動くことなく泣きじゃくって足元に水溜りを作っていた。
またある赤れいむはぼろぼろと涙を流しながら、餌でぶくっと膨れた体を引きずり、転がり、必死に跳ね回る。
またある赤れいむは一目散に部屋の出入り口の扉に向かっていき、壁に激突すると床に臥せった格好で泣きじゃくった。
またある赤れいむは何の意味があるのか知らないが、擬音を発しながら這いずって隠れる場所すらない部屋の中をさまよう。
またある赤れいむは我慢しきれなくなったのか無に等しいといっても過言ではないような儚い力で僕に攻撃を仕掛けていた。

「さあ、れいむ・・・これは何かな?」
「ぢがうよ゛!ぞれはう゛んう゛んぢゃないんだよ!?」
「ふーん・・・で?」

しかし、僕は赤れいむ達を相手にせず、餡子を掲げて親であるれいむに詰め寄る。
じっ~とれいむの目を見つめ、一歩ずつ距離を詰めていく。
れいむはその動作に怯えて少しずつ後退してゆくが、狭い部屋ではすぐに壁にぶつかってしまう。
壁にぶつかったところで方向転換し、また僕から必死に逃げる。

「や゛べでね!ごっぢこない゛でね!」
「ねえ、この餡子は何なのかなぁ?」
「ぢがうよ!ぞれはあがぢゃんがはいぢゃっだだげだよ!?」
「そうかそうか。でもどの赤ちゃんか分からないなぁ・・・誰のうんうんだろ?」

全くれいむの言い分を聞かない僕の追求と物理的な接近から必死になって逃げ回るれいむ。
その瞳は涙で潤み、零れる雫が足跡の代わりとなってこの部屋の無愛想な床をぬらす。
落ち着きを取り戻した子ども達はその光景を見ながら「やめちぇね!おかーしゃんをいぢめにゃいでね!」などと泣き叫ぶ。
が、応じるつもりは微塵もない。

「さぁて・・・誰のうんうんか言わないなら皆潰しちゃうしかないよねぇ?」
「ゆぅ・・・ゆひぃ・・・ゆはぁ・・・や、やべで・・・やべでね゛・・・!」
「何をやめるて欲しいんだい?」
「でい、ぶの・・・あがぢゃ、いぢべないでぇ・・・」

必死に逃げ回って、もはや疲労困憊のれいむはそんな有様になってもなお可愛い我が子を気遣っている。
そして、彼女の優しさを目の当たりにした子ども達もまた感極まって涙をこぼしていた。
口々に「おきゃーしゃーん!」と自分たちを守ってくれるものの名を呼び、彼女の傍へ行って頬ずりをする。

「ゆっぐ・・・しゅ~りしゅ~り・・・」
「きゃーしゃん、だいしゅきだよ・・・しゅ~りしゅ~り・・・」
「ゆ、ゆっきゅりちてね!・・・ゆっきゅりちてね!しゅ~りしゅ~り・・・」
「あ、あがぢゃんだち・・・み゛んな、ゆっぐぢぢでいっでね!」
「「「「「ゆっきゅりちていっちぇね!」」」」」

なんとも涙ぐましい光景だ。しかし、この程度で情にほだされていては加工所職員は務まらない。
れいむ達の目の前に餡子を放り投げて再びさっきの質問を繰り返す。

「誰のうんうんだい? 答えないと全員潰すよ?」

1分後。その部屋の床には大量のぱさぱさした餌と放射線状に飛び散った餡子と皮が散乱していた。
そして、1匹の成体れいむと4匹の赤れいむは2時間後の餌の時間までにそれを食べつくさなければならない。


それが終ってもまた2時間後には食事の時間。最初の食事が朝の8時で最後の食事が夜の8時。
うんうんをしてしまうと家族の負担が増大するし、殺された個体がいるときも負担は大きくなる。
いくら満腹でもうんうんはおろか嘔吐さえも許されず、日長一日体積以上の餌を摂取し続ける毎日。

「おきゃーしゃん・・・れーみゅゆっきゅちできにゃいよ・・・」
「ゆっくりがまんしてね!・・・むーしゃむーしゃ・・・」
「れーみゅゆっきゅちちたいよー・・・」

子ども達がいくらゆっくりしたいと懇願してもれいむにはどうすることも出来ない。
出来ることといったら少しでもたくさん食べてあげて、子ども達が出してしまったものを隠してあげることくらい。
そうして何とか生き延びさせてあげて、最後の食事を食べ終えた後の消灯後の真っ暗な部屋で涙にぬれた頬をすり合わせることくらい。

「おきゃーしゃん、れーみゅぽんぽんいちゃいよぉ・・・」
「ゆゆっ!ゆ、ゆっくりがまんしてね!」
「ゆえーん、やめちぇね!うんうんはやめちぇね!?」
「うんうんきょわいよー!やめちぇね、こっちこにゃいでね!?」

暗くてよく見えないものの、腹痛を訴える赤れいむは顔面蒼白で息も絶え絶え。
下手に我慢しようものなら命に関わるかもしれない・・・人間の目にはそう映るほどの酷い顔色だった。
しかし、真っ暗な部屋の中では誰もそのことに気づかず、皆必死になって「がまんしてね」と繰り返す。
その言葉をかけられた赤れいむは我慢せざる得ない状況に陥る。

「ゆ、ゆっぎゅり゛・・・が、がばん゛・・・ぢゅ、ぢゅ・・・」

が、やがて我慢できないところまで来てしまった赤れいむはぷるぷると痙攣し始める。
全身から脂汗が噴き出し、目は白目を向いていて、意識も混濁し、半ばあちらの世界に引きずり込まれている。
そんな状態になってなおも我慢し続けること数分後。

「も゛・・・も゛っぢょ・・・ったょ・・・」

蚊の鳴くような断末魔を発し、赤れいむは息絶えた。
ぼたぼたと何かが溢れ出して床に滴る音と甘いにおいと、家族の悲痛な叫びが室内に充満した。

「ぺ~ろぺ~ろ・・・」
「「「ぺ~りょぺ~りょ・・・」」」

やがて、嘆くことをやめたれいむ達は誰からともなく床に散乱した何かを舐め始めた。
それがうんうんなのか吐瀉物なのか、それとも破裂でもしたのか・・・それは誰にも分からない。
ただ、一つだけ確かなことは“これを片付け終えるまでれいむ達はゆっくりできない”ということである。
一寸先もろくに見えない闇の中、においと味覚だけを頼りにゆっくりのとっては広すぎる床を朝まで丹念に舐め続けた。
結局、その日の夜はゆっくりすることが出来なかった。

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最終更新:2022年04月17日 01:07